(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の電極層は複数の第2の電極層を含み、前記複数の第2の電極層のうちの2つ以上を前記第1の電極層へスイッチング可能に接続するスイッチング素子をさらに備える、請求項1に記載の放射制御デバイス。
第1の電極層と、前記第1の電極層を覆う誘電体層と、前記誘電体層を介して前記第1の電極層に対向する少なくとも1つの第2の電極層を有し、前記第1の電極層へスイッチング可能に接続された対向電極構造と、を含む放射制御デバイスと、
前記放射制御デバイスへ熱放射を行う熱放射源と、
を備える、熱放射デバイス。
第1の電極層と、前記第1の電極層を覆う誘電体層と、前記誘電体層を介して前記第1の電極層に対向し前記第1の電極層から電気的に絶縁された少なくとも1つの第2の電極層と、を含む熱放射デバイスによって、波長選択性を有する熱放射を行う工程と、
第1の電極層と前記第2の電極層との間を電気的に短絡することによって前記波長選択性を抑制する工程と、
を備える、熱放射における波長選択性の制御方法。
第1の電極層と、前記第1の電極層を覆う誘電体層と、前記誘電体層を介して前記第1の電極層に対向し前記第1の電極層から電気的に絶縁された複数の第2の電極層と、前記第2の電極層から離れて前記誘電体層上に設けられ前記第2の電極層の間を通る電極間配線と、を含む熱放射デバイスによって、波長選択性を有する熱放射を行う工程と、
第1の電極層と前記電極間配線との間を電気的に短絡することによって前記波長選択性を変化させる工程と、
を備える、熱放射における波長選択性の制御方法。
【背景技術】
【0002】
熱放射デバイスの重要な特性として、その熱放射のスペクトル分布がある。スペクトル分布において、エネルギー損失を抑えつつ特定波長での強度を特に高める技術のひとつとして、マイクロキャビティを用いる技術が検討されている。
【0003】
たとえば、下記特許文献1によれば、熱放射デバイスとして、ピーク波長5〜6μmを有する赤外線ヒータの技術が開示されている。この赤外線ヒータは、熱放射源としての発熱体を有している。発熱体の表面には、波長5〜6μmの赤外線を増幅することでエネルギー効率を向上させるためのマイクロキャビティが設けられている。
【0004】
また、たとえば下記特許文献2によれば、特定の光吸収帯を持つ輻射性ガス分子を効率よく加熱するために用いられる波長選択性熱放射材料が開示されている。波長選択性熱放射材料は、多数のマイクロキャビティと、熱放射面と、を有している。マイクロキャビティは、平面上に周期的に繰り返される微細凹凸パターンを形成するように、実質的に二次元配列されている。熱放射面は、マイクロキャビティを覆う被覆層を有し、輻射性ガス分子の特定の光吸収帯の波長領域に対応する熱輻射電磁波を選択的に放射する。マイクロキャビティを輻射性ガス分子の特定の光吸収帯波長と実質的に同じ周期にすると、その周期構造と熱放射光の電磁場とで表面プラズモン共鳴を生じるので、対象ガスの光吸収帯波長域で放射率が増加する(共鳴効果)。また、マイクロキャビティを輻射性ガス分子の特定の光吸収帯波長よりも1μm短い周期にすると、マイクロキャビティ内に閉じ込められた電磁波のなかで最も強い強度を持つモードの波長とガス分子の特定の光吸収帯波長とを一致させることができる。その結果、対象ガスの光吸収帯波長域で放射率が増加する(キャビティ効果)。マイクロキャビティのアスペクト比は0.8〜3.0の範囲が好ましく、アスペクト比が過度に小さいと選択放射強度が低下する。
【0005】
上述したように、マイクロキャビティは、マイクロメートルオーダーのパターンを高アスペクトで形成する必要がある。特に赤外域のように比較的長い波長が制御対象となる場合、深いマイクロキャビティを形成する必要がある。このため、マイクロキャビティの技術が産業上利用される場合、その製造の難易度の高さが問題となり得る。これに対して、マイクロキャビティを用いることなく、熱放射のスペクトル分布を制御する技術も検討されてきている。
【0006】
たとえば、下記非特許文献1によれば、金属−誘電体−金属の構造を有するメタマテリアルを用いた技術が検討されている。メタマテリアルには、典型的には、下部金属層と、中間部誘電体層と、マイクロメートルまたはナノメートルオーダーの周期的パターンを有する上部金属層とを有する構造が設けられる。時間変化する磁界がこの構造中に導入されると、振動する反平行電流が誘起されることで磁気共鳴が生じる。すなわち磁気ポラリトンが生じる。この文献によれば、様々な周期的パターンの下での磁気共鳴条件を予測することが、等価LC回路モデルによって可能とされている。たとえば、中間部誘電体層が屈折率1.51と厚さ140nmとを有するアルミナから作られ、上部金属層が、100nmの厚みと、1.7μm四方の正方形状が3.2μmピッチで配列された周期的パターンとを有する場合が想定されている。この場合、ピーク波長6.74μmが得られる旨のシミュレーションがなされている。このシミュレーション技術によれば、所望の波長の熱放射を増幅することができるメタマテリアルを、より容易に設計することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記非特許文献1に記載の技術によれば、熱放射のスペクトル分布における特定波長での強度がメタマテリアルによって増幅される。この増幅は、上述したように、下部金属層と中間部誘電体層と上部金属層との設計に応じて生じるものであり、熱放射を行うメタマテリアルにおいて常時生じるものである。本発明者らは、スペクトル分布を任意のタイミングで制御することができれば極めて有用であろうことに着目した。たとえば、トルエンを蒸発させるための加熱工程として、トルエンが吸収しやすいエネルギーのひとつに対応するピーク波長6.7μmを有する熱放射がメタマテリアルを用いてなされているとする。この工程に何らかの問題が生じるなどして、過度の温度上昇の発生が懸念される事態が生じたとする。その場合、メタマテリアルによるピーク波長6.7μmでの強度の増幅を速やかに抑制することができれば、トルエンの加熱効率が急減するので、過度の温度上昇を防止することができる。しかしながら、メタマテリアルからの熱放射の波長選択性を任意のタイミングで制御する技術は、これまで十分に検討されていなかった。
【0010】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、その一の目的は、熱放射の波長選択性を速やかに変化させることができる放射制御デバイスを提供することである。また他の目的は、熱放射の波長選択性を速やかに変化させることができる放射デバイスを提供することである。またさらに他の目的は、任意のタイミングで波長選択性を抑制することができる、波長選択性熱放射の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の放射制御デバイスは、波長選択性熱放射を行うものである。放射制御デバイスは、第1の電極層と、第1の電極層を覆う誘電体層と、誘電体層を介して第1の電極層に対向する少なくとも1つの第2の電極層を有する対向電極構造と、を含む。対向電極構造は第1の電極層へスイッチング可能に接続されている。
【0012】
本発明の熱放射デバイスは、放射制御デバイスおよび熱放射源を有している。放射制御デバイスは、第1の電極層と、第1の電極層を覆う誘電体層と、誘電体層を介して第1の電極層に対向する少なくとも1つの第2の電極層を有する対向電極構造とを含む。対向電極構造は第1の電極層へスイッチング可能に接続されている。熱放射源は放射制御デバイスへ熱放射を行う。
【0013】
本発明の一の局面に従う、熱放射における波長選択性の制御方法は、次の工程を有している。第1の電極層と、第1の電極層を覆う誘電体層と、誘電体層を介して第1の電極層に対向し第1の電極層から電気的に絶縁された少なくとも1つの第2の電極層と、を含む熱放射デバイスによって、波長選択性を有する熱放射が行われる。第1の電極層と第2の電極層との間を電気的に短絡することによって波長選択性が抑制される。
【0014】
本発明の他の局面に従う、熱放射における波長選択性の制御方法は、次の工程を有している。第1の電極層と、第1の電極層を覆う誘電体層と、誘電体層を介して第1の電極層に対向し第1の電極層から電気的に絶縁された複数の第2の電極層と、第2の電極層から離れて誘電体層上に設けられ第2の電極層の間を通る電極間配線と、を含む熱放射デバイスによって、波長選択性を有する熱放射が行われる。第1の電極層と電極間配線との間を電気的に短絡することによって波長選択性が変化させられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の放射制御デバイスによれば、第1の電極層と対向電極構造との間の接続のスイッチングにより、放射制御デバイスからの熱放射の波長選択性を速やかに変化させることができる。
【0016】
本発明の熱放射デバイスによれば、第1の電極層と対向電極構造との間の接続のスイッチングにより、放射制御デバイスからの熱放射の波長選択性を速やかに変化させることができる。
【0017】
本発明の一の局面に従う、熱放射における波長選択性の制御方法によれば、波長選択性熱放射を行った後、波長選択性が望まれなくなった時点で、第1の電極層と第2の電極層との間を電気的に短絡することによって任意のタイミングで波長選択性を抑制することができる。
【0018】
本発明の他の局面に従う、熱放射における波長選択性の制御方法によれば、第1の電極層と電極間配線層との間を電気的に短絡することによって任意のタイミングで波長選択性を変化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0021】
<実施の形態1>
(構成)
図1を参照して、本実施の形態の加熱装置(熱放射デバイス)は、放射板81(放射制御デバイス)およびヒータ71(熱放射源)を有している。ヒータ71は、放射板81へ熱放射SAを行うものである。放射板81は、加熱装置による加熱対象(
図1において図示せず)へ熱放射SBを行うものである。ヒータ71による熱放射SAは、特段の波長選択性を有する必要はない。このためヒータ71としては、通常の抵抗加熱式ヒータが用いられてもよく、たとえばセラミックヒータが用いられてもよい。ヒータ71は放射板81上に直接または何らかの接合部材を介して固定されていてもよい。
【0022】
図2を参照して、放射板81は、基板10と、下部電極層11(第1の電極層)と、誘電体層15と、絶縁層19と、対向電極構造31と、スイッチング素子40と、ゲート配線43(スイッチング信号線)と、接続配線46とを有している。基板10は主面(
図2における上面)を有している。下部電極層11は基板10の主面上に設けられている。基板10の主面は、第1の領域(
図2における左の領域)と、第1の領域の外側の第2の領域(
図2における右の領域)とを有している。誘電体層15は、基板10の主面の第1の領域上において下部電極層11を覆っている。絶縁層19は、基板10の主面の第2の領域上において下部電極層11を覆っている。上部電極層20は、誘電体層15を介して、基板10の主面の上記第1の領域に支持されている。スイッチング素子40は、絶縁層19を介して、基板10の主面の上記第2の領域によって支持されている。
【0023】
対向電極構造31は、複数の上部電極層20(第2の電極層)と、電極配線21とを有している。好ましくは、下部電極層11と上部電極層20との間の距離に比して、下部電極層11と電極配線21との距離の方が大きい。
【0024】
上部電極層20は誘電体層15を介して下部電極層11に対向している。上部電極層20は、誘電体層15上に周期的に配置されており、
図2においてはx方向およびy方向の各々において周期的に配置されている。この構造により、いわゆるメタマテリアルが構成されている。たとえば、赤外域のピーク波長6.7μmを有する波長選択性を得ることを意図したメタマテリアルが構成されている。この目的で、たとえば、複数の上部電極層20が、アルミナからなる誘電体層15上にx方向およびy方向の各々において3.2μmピッチ程度で配置される。この上部電極層20の各々は、たとえば、1.7μm四方程度の正方形状と、厚み100nm程度とを有するAu層によって形成され得る。
【0025】
上部電極層20は、上述した周期的配置により、各々がx方向に沿う複数の列と、各々がy方向に沿う複数の列とを有している。電極配線21は、x方向に沿う各列において、上部電極層20を互いに接続する部分を有している。また電極配線21は、y方向に沿う少なくとも1つの列(図中、最も右側の列)において、上部電極層20を互いに接続する部分を有している。この構造により、
図2に示された部分においては、上部電極層20のすべてが電極配線21によって互いに電気的に接続されている。
【0026】
ゲート配線43は絶縁層19上をy方向に沿って延びている。ゲート配線43上の少なくとも1つの箇所にはスイッチング素子40が設けられている。スイッチング素子40は、ゲート配線43に印加されたゲート電位に応じてスイッチングを行う半導体スイッチング素子であり、典型的にはMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。なおゲート配線43に電圧を印加するための信号源(図示せず)のアース電位は、下部電極層11の電位と同じであってよい。
【0027】
接続配線46は、対向電極構造31の電極配線21と、下部電極層11とを、スイッチング素子40を介して互いに接続している。これによりスイッチング素子40は対向電極構造31を下部電極層11へスイッチング可能に接続している。より具体的には、スイッチング素子40は、上部電極層20を下部電極層11へスイッチング可能に接続している。
図2においては、スイッチング素子40は上部電極層20のうちの2つ以上を下部電極層11へスイッチング可能に接続している。
【0028】
(使用方法)
次に、加熱装置(
図1)の使用方法、言い換えれば熱放射における波長選択性の制御方法、について、以下に説明する。
【0029】
ヒータ71により放射板81へ熱放射SA(
図1)が行われる。放射板81は、スイッチング素子40(
図2)がオン状態にあるかオフ状態にあるかによって、異なるスペクトル分布での熱放射SB(
図1)を行う。
【0030】
スイッチング素子40がオフ状態にある場合、上部電極層20は下部電極層11から電気的に切断されている。すなわち、加熱装置の放射板81において、上部電極層20は下部電極層11から電気的に絶縁されている。この状態においては、加熱装置は、下部電極層11と誘電体層15と上部電極層20とによって構成されるメタマテリアルの特性により、少なくとも一の波長においてピーク強度を有する波長選択性熱放射を行う。
【0031】
次に、波長選択性が望まれなくなった時点で、スイッチング素子40がオン状態とされる。これにより上部電極層20が下部電極層11へ電気的に接続される。すなわち下部電極層11と上部電極層20との間が電気的に短絡される。これにより、上述した波長選択性が、ほぼ瞬時に抑制される。すなわち熱放射のスペクトル分布におけるピーク強度が、ほぼ瞬時に抑制される。なおこのとき、熱放射源としてのヒータ71(
図1)からの熱放射が停止されれば、放射板81の温度低下にともなって、スペクトル分布全体にわたって熱放射の強度を漸減させることができる。
【0032】
(シミュレーション結果)
図3を参照して、シミュレーションによれば、スイッチング素子40(
図2)がオフ状態である場合に、下部電極層11と誘電体層15と上部電極層20とによって構成されるメタマテリアルの特性により、波長6.7μmにおいてピーク強度を有する波長選択性熱放射(図中、矢印PK参照)を行い得ることがわかった。なおシミュレーション条件として、基板10としてのSi基板と、下部電極層11としてのAu層と、誘電体層15としてのAl
2O
3層と、上部電極層20としてのAu層とによって、厚み1mmで120mm四方の構造が設けられるものとした。またこの構造の裏面側(基板10の側)には、厚み1mmで125mm四方のステンレス鋼からなるケーシングが配置されるものとした。またこの構造は熱放射源から72Wの熱放射を受けることで404℃に保持されているものとされた。
【0033】
またシミュレーションによれば、熱放射源からの熱放射が停止されかつスイッチング素子40がオフ状態からオン状態へスイッチングされてから1秒後には、
図3の破線で示されるように、上記強度ピーク(図中、矢印PK参照)がほぼ消失していた。一方で、スイッチング素子40がオフ状態で維持されつつ単に熱放射源からの熱放射が停止された場合は、5秒が経過しても上記強度ピークはほとんど変化せずに維持された。つまり、スイッチング素子40を利用することによって波長6.7μmの熱放射の強度を1秒以内に抑制することができる一方、熱放射源からの熱放射を停止するだけでは5秒を経ても強度ピークをほとんど抑制することができなかった。
【0034】
(効果)
本実施の形態の放射板81(
図2)によれば、下部電極層11と対向電極構造31との間の電気的接続のスイッチングにより、放射板81からの熱放射の波長選択性を速やかに変化させることができる。具体的には、下部電極層11と、対向電極構造31の上部電極層20との間の電気的接続のスイッチングにより、波長選択性を速やかに変化させることができる。より具体的には、下部電極層11と上部電極層20との間を電気的に短絡することによって、波長選択性を速やかに抑制することができる。すなわち、熱放射のスペクトル分布におけるピーク強度を速やかに抑制することができる。
【0035】
基板10(
図2)の主面は、上部電極層20を支持する第1の領域(
図2における左の領域)と、第1の領域の外側でスイッチング素子を支持する第2の領域(
図2における右の領域)とを有していることが好ましい。これにより、第1の領域の温度に比して第2の領域の温度を高くすることで、スイッチング素子40が過度に加熱されることを避けつつ、放射板81から強い熱放射を行うことができる。
【0036】
スイッチング素子40(
図2)は、上部電極層20のうちの2つ以上を下部電極層11へスイッチング可能に接続していてもよい。この場合、上部電極層20の数と同じ数のスイッチング素子40を設ける必要がない。よってスイッチングのための構成が簡素化される。
【0037】
本実施の形態の加熱装置(
図1)によれば、上記スイッチングにより、放射板81からの熱放射の波長選択性を速やかに変化させることができる。また、ヒータ71が用いられることにより、放射板81自体が熱を生成する必要がない。
【0038】
本実施の形態の波長選択性熱放射の制御方法によれば、スイッチング素子40がオフ状態とされることで波長選択性熱放射を行った後、波長選択性が望まれなくなった時点で、下部電極層11と上部電極層20との間が電気的に短絡される。これによって任意のタイミングで波長選択性を抑制することができる。
【0039】
(変形例)
図2においては複数の上部電極層20が設けられているが、これらに代わり、単一の上部電極層が設けられてもよい。この単一の上部電極層は、周期的に繰り返される複数のパターン部分と、これらパターン部分のうち互いに隣り合うもの同士を連結する連結部分とを有してもよい。各パターン部分は、たとえば、U字形状を有する。
【0040】
図2においては、電極配線21のうち上部電極層20間をつなぐ部分は空中に延びているが、誘電体層15上に配置されていてもよく、あるいは誘電体層15中に埋設されていてもよい。
【0041】
また
図2においては、1つのスイッチング素子40のみが示されているが、スイッチング素子40の数は、1つであっても、あるいは複数であってもよい。より多くのスイッチング素子40が用いられることにより、スイッチング素子40と上部電極層20との間の電気的経路の最大距離を抑制することができる。これにより、スイッチング素子40がオン状態とされた場合に、上部電極層20と下部電極層11との間をより理想的に短絡することができる。複数のスイッチング素子40が設けられる場合、そのそれぞれが上部電極層20の複数の組をスイッチングし得る。これにより電極配線21は、各組において上部電極層20を互いに接続していればよく、上部電極層20のすべてを互いに接続する必要はない。よって、電極配線21がメタマテリアルの特性に及ぼす影響を抑えることができる。特に、上部電極層20のそれぞれにスイッチング素子40が設けられる場合は、電極配線21は上部電極層20を互いに接続する必要がない。
【0042】
また
図1においては、加熱装置が熱放射源としてのヒータ71を有しているが、熱放射源が放射板81に内蔵されてもよい。たとえば、フィラメント形状を有する上部電極層に電流を流すことによって、上部電極層がメタマテリアルを構成するだけでなく熱放射源をも構成してもよい。このようなフィラメント形状としては、たとえば、U字形状が互いに連結された形状を用い得る。
【0043】
また
図2においては接続配線46が下部電極層11に接続されているが、接続配線46が下部電極層11から分離され、代わりに電圧源に接続されてもよい。これにより、電圧源の電圧を変化させることで、放射板81の波長選択性を変化させることができる。
【0044】
またスイッチング素子40として半導体スイッチング素子が用いられる場合について説明したが、他のスイッチング素子が用いられてもよく、たとえば機械的なスイッチング素子が用いられもよい。
【0045】
<実施の形態2>
(構成)
図4を参照して、本実施の形態の乾燥炉90(熱放射デバイス)は、ヒータ71および放射板81を有する加熱装置(
図1)を含んでいる。また乾燥炉90はさらに、ケーシング70と、搬送部91と、塗布部92と、異常検知部93と、制御部94とを有している。
【0046】
搬送部91は、樹脂フィルム100(被乾燥部材)を搬送するためのものであり、巻出ローラ91aおよび巻取ローラ91bを有している。巻出ローラ91aおよび巻取ローラ91bが協調して回転することにより(
図4における矢印RAおよびRB参照)、巻出ローラ91aから巻き出された樹脂フィルム100が、塗布部92と、ケーシング70とを順に経由して、巻取ローラ91bに巻き取られる。塗布部92は樹脂フィルム100上に、有機溶媒を用いたスラリを塗布する。スラリの有機溶媒は、ケーシング70内において蒸発させられる。なおケーシング70内の過度の温度上昇を抑えるために、空冷のためのガスの導入(
図4:矢印WA)および排出(
図4:矢印WB)が行われてもよい。
【0047】
検知部93は、搬送部91に何らかの問題が生じることにより生じた搬送異常を検知するものである。たとえば、巻取ローラ91bの回転速度が異常に低下したり、回転が意図せず停止したりする回転異常を検知するものである。異常が検知された場合、検知部93は制御部94へ異常信号を出力する。
【0048】
制御部94は、スイッチング素子40(
図2)のゲート配線43へ印加されるゲート電圧を生成する。通常は、制御部94は、スイッチング素子40をオフ状態とするようなゲート電圧を生成する。制御部94へ検知部93からの異常信号が入力されると、制御部94は、スイッチング素子40をオン状態とするようなゲート電圧を生成する。
【0049】
(使用方法および効果)
搬送部91によって搬送された樹脂フィルム100上に、塗布部92によってスラリが塗布される。本実施の形態においては、樹脂フィルム100としてのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に、有機溶媒としてトルエンを用いたシリコーンのスラリが塗布される。ケーシング70内において、図中矢印で示すように熱放射が行われることで、トルエンが蒸発する。これにより樹脂フィルム100上にシリコーンシートが形成される。このときスイッチング素子40(
図2)がオフ状態とされていることによって、上記熱放射には、トルエンが吸収しやすいエネルギーに対応するピーク波長6.7μmを有する波長選択性が付与されている。この波長選択性によりトルエンが高効率で蒸発する。よって乾燥炉90は高いエネルギー効率を有している。
【0050】
上記工程において、何らかの原因によって、樹脂フィルム100の搬送に異常が生じることがあり得る。このときに、仮にトルエンの加熱が高効率で継続されたとすると、過度の温度上昇が生じ得る。本実施の形態においては、このような搬送異常が検知部93によって検知される。そして制御部94へ異常信号が出力される。これを受けて制御部94はスイッチング素子40をオフ状態からオン状態へと切り替える。これにより放射板81からの熱放射の波長選択性が抑制される。その結果、トルエンの加熱効率が急減する。よって、搬送異常に起因した過度の温度上昇の発生を防止することができる。
【0051】
<実施の形態3>
(構成)
図5を参照して、本実施の形態の放射板82(放射制御デバイス)においては、対向電極構造32は、電極配線21(
図2)に代わり、電極間配線22を有している。電極間配線22は、上部電極層20から離れて誘電体層15上に設けられており、上部電極層20の間を通っている。
【0052】
本実施の形態においては、接続配線46は、対向電極構造31の電極間配線22と、下部電極層11とを、スイッチング素子40を介して互いに接続している。これによりスイッチング素子40は電極間配線22を下部電極層11へスイッチング可能に接続している。
【0053】
なお、上記以外の構成については、放射板81(
図2)の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0054】
(使用方法および効果)
放射板81(
図2)の代わりに放射版82(
図5)を有する加熱装置(
図1)の使用方法、言い換えれば、本実施の形態における波長選択性の制御方法、について、以下に説明する。
【0055】
ヒータ71により放射板82へ熱放射SA(
図1)が行われる。放射板82は、スイッチング素子40(
図5)がオン状態にあるかオフ状態にあるかによって、異なるスペクトル分布での熱放射SB(
図1)を行う。
【0056】
スイッチング素子40がオフ状態にある場合、電極間配線22は下部電極層11から電気的に切断されている。すなわち、加熱装置の放射板82において、電極間配線22は下部電極層11から電気的に絶縁されている。この状態においては、加熱装置は、下部電極層11と、誘電体層15と、上部電極層20と、フローティング状態にある電極間配線22と、によって構成されるメタマテリアルの特性により、少なくとも一の波長においてピーク強度を有する波長選択性熱放射を行う。
【0057】
次に、波長選択性を変化させるために、電極間配線22と下部電極層11との間の電気的接続のスイッチングが行われる。すなわちスイッチング素子40がオン状態とされる。これにより電極間配線22が下部電極層11へ電気的に接続される。すなわち下部電極層11と電極間配線22との間が電気的に短絡される。これにより、電極間配線22を介して互いに隣り合う上部電極層20の間のキャパシタンスが変化する。これにより、放射板82の波長選択性への上部電極層20による寄与が変化する。その結果、メタマテリアルの特性が、ほぼ瞬時に変化する。よって放射板82からの熱放射の波長選択性を、ほぼ瞬時に変化させることができる。
【0058】
なお
図5においては接続配線46が下部電極層11に接続されているが、接続配線46が下部電極層11からは分離され、代わりに電圧源に接続されてもよい。これにより電極間配線22へバイアス電圧を印加することができる。よって、バイアス電圧を制御することで、波長選択性を変化させることができる。バイアス電圧は、直流電圧であってもよく、あるいは交流電圧、特に高周波電圧、であってもよい。