【実施例】
【0033】
(実施例1)
次に、本発明の実施例について説明する。まず、以下のようにして複合材料及びその成形体を製造した。具体的には、まず、パルプを機械的に解繊することにより、リグニンの含有量が22質量%、ヘミセルロースの含有量が25質量%、セルロースの含有量が53質量%であり、平均繊維長が30μm、平均繊維幅が50nmの植物繊維解繊物を得た。次いで、植物繊維解繊物を水に分散させて、植物繊維解繊物の含有量が0.2質量%の水スラリーを作製した。次に、保留粒子径サイズが4A(JIS P3801規格)である紙フィルターを配置したブフナーロート(直径150mm)を用いて水スラリー1Lをろ過することにより、植物繊維解繊物からなるシート状の多孔体を作製した。その後、多孔体を温度80℃で24時間真空乾燥させた。
【0034】
次に、数平均分子量3000のレゾール型のフェノール樹脂のメタノール溶液に、多孔体を浸漬させた。メタノール溶液中のフェノール樹脂の濃度は10質量%である。次いで、多孔体を浸漬したフェノール樹脂のメタノール溶液を減圧下において24時間静置させることにより、シート状の多孔体中へのフェノール樹脂の含浸を進行させた。減圧は、アスピレータを用いた連続吸引によって行った。次いで、フェノール樹脂が含浸されたシート状の多孔体をフェノール樹脂の硬化温度未満の温度で乾燥させた。これにより、複合材料として、フェノール樹脂が含浸されたシート状の多孔体を得た。質量の増加分より求められるフェノール樹脂の含浸量は51質量%であり、シート状の多孔体中のセルロースの含有量は26重量%であった。
【0035】
次いで、シート状の複合材料を直径50mmの円形シート状に分断し、金型内に5枚の複合材料(円形シート)を積層し、圧力100MPa、温度160℃の条件で30分間圧縮成形を行った。圧縮方向は積層方向である。これにより、フェノール樹脂が硬化し、植物繊維解繊物とフェノール樹脂との硬化物からなる成形体を得た。成形体の厚みは0.5mmであった。
【0036】
次に、成形体を幅8mmの短冊状に分断し、温度180℃で1時間エージング処理を行った。その後、温度23℃、相対湿度50%の条件で、三点支持中央集中荷重方式による測定法に基づいて曲げ弾性率を測定した(JIS K6911(1995年))。その結果を後述の表1に示す。また、成形体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。倍率30倍のSEM写真を
図1に示す。
【0037】
(実施例2)
本例においては、シート状の多孔体中のセルロースの含有量を18質量%に変更した点を除いては、実施例1と同様に複合材料及び成形体を作製した。本例の成形体についても、実施例1と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果を表1に示す。
【0038】
(実施例3)
本例においては、シート状の多孔体中のセルロースの含有量を15質量%に変更した点を除いては、実施例1と同様に複合材料を作製した。また、圧縮成形時に、圧力100MPa、温度90℃の条件で30分間圧縮を行った後、圧力100MPa、温度160℃の条件で30分間さらに圧縮を行った点を除いては、実施例1と同様にして成形体を作製した。本例の成形体についても、実施例1と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果を表1に示す。
【0039】
(実施例4)
本例においては、シート状の多孔体中のセルロースの含有量を15質量%に変更した点を除いては、実施例1と同様にシート状の複合材料を作製した。次いで、シート状の複合材料を10mm×10mmのサイズに粉砕し、この粉砕物を用いた点を除いては、実施例1と同様にして行った。本例の成形体についても、実施例1と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果を表1に示す。
【0040】
(実施例5)
本例においては、シート状の多孔体中のセルロースの含有量を15質量%に変更した点を除いては、実施例1と同様に複合材料を作製した。また、圧縮成形時に、圧力36MPa、温度90℃の条件で30分間圧縮を行った後、圧力36MPa、温度160℃の条件で30分間さらに圧縮を行った点を除いては、実施例1と同様にして成形体を作製した。本例の成形体についても、実施例1と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果を表1に示す。
【0041】
(実施例6)
本例においては、リグニンの含有量が5質量%、ヘミセルロースの含有量が31質量%、セルロースの含有量が64質量%の植物繊維解繊物を用いた点を除いては、実施例1と同様にして複合材料及び成形体を作製した。本例の成形体についても、実施例1と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果を表1に示す。
【0042】
(比較例1)
本例においては、植物繊維解繊物を用いずに、フェノール樹脂を用いて実施例1と同様に圧縮成形を行うことにより、フェノール樹脂からなる成形体を作製した。本例の成形体についても、実施例1と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果を表1に示す。
【0043】
(比較例2)
本例においては、リグニンとヘミセルロースを含まないセルロース100質量%のシート状の多孔体を用い、多孔体中のセルロースの含有量を70質量%に変更した点を除いては、実施例1と同様にして複合材料及び成形体を作製した。本例の成形体についても、実施例1と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果を表1に示す。また、実施例1と同様に、本例の成形体の断面をSEMにより観察し、倍率30倍のSEM写真を
図2に示す。
【0044】
(比較例3)
本例においては、リグニンとヘミセルロースを含まないセルロース100質量%のシート状の多孔体を用い、多孔体中のセルロースの含有量を50質量%に変更した点を除いては、実施例1と同様にして複合材料及び成形体を作製した。本例の成形体についても、実施例1と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1より知られるように、実施例1〜実施例6のように、セルロース成分とリグニン成分とを含有する植物繊維解繊物と、フェノール樹脂との複合樹脂は、例えば15質量%〜30質量%程度の少ないセルロース成分の含有量であっても、曲げ弾性率の高い成形体の製造を可能にする。これらの実施例の成形体は、フェノール樹脂からなる比較例1の成形体に比べて3倍を超える高い曲げ弾性率を示した。一方、リグニンを含有していない植物繊維解繊物を用いた比較例2及び3においては、複合材料中のセルロース成分を増大させることにより、比較例1に比べると成形体の曲げ弾性率の向上は可能であるが、リグニンを含有する植物繊維解繊物を用いた実施例程の大きな向上効果は認められない。
【0047】
リグニンを含有する植物繊維解繊物を用いて作製された複合材料の成形体の代表例として、実施例1の成形体の断面が
図1に示されている。また、リグニンを含有していない植物繊維解繊物を用いて作製された複合材料の成形体の代表例として、比較例2の成形体の断面が
図2に示されている。
図1より知られるように、実施例1の成形体1においては、植物繊維解繊物からなるシート状の多孔体間の界面が明確ではなく、多孔体間に明確なフェノール樹脂の単独層は観察されなかった。即ち、リグニンを含有する植物繊維解繊物とフェノール樹脂とが均一に混合されていた。この均一な混合状態は、成形体1の全体が均一なうすい灰色で表されていることからわかる。一方、
図2に示すごとく、比較例2の成形体9においては、植物繊維解繊物からなるシート状の多孔体91間の界面が明確であり、多孔体91間にフェノール樹脂の単独層92が明確に観察された。即ち、多孔体91を表す薄い灰色の層同士の間に、フェノール樹脂の単独層92を表す 濃い灰色の層が存在している。また、比較例2の成形体9においては、リグニンを含有していない植物繊維解繊物とフェノール樹脂との親和性が悪いため、気泡が存在していた。気泡は、
図2において、白い部分として表わされている。なお、
図1及び
図2においては、成形体1、9を挟む治具99が表されているが、この治具99は成形体1、9を固定するためのものに過ぎない。
【0048】
実施例1〜実施例6
における複合材
料は、植物繊維解繊物中のセルロース成分の表面に存在するリグニン成分がフェノール樹脂と類似構造を有するため、植物繊維解繊物とフェノール樹脂との相溶性が高い。また、リグニンはフェノール樹脂と共重合を形成することができるため、複合材料の成形体においては植物繊維解繊物とフェノール樹脂との界面の接着強度の向上が可能になる。その結果、植物繊維解繊物による補強効果を十分に得ることができ、上述のように成形体の弾性率を向上できると考えられる。
【0049】
また、実施例1〜実施例6のように、植物繊維解繊物中のリグニン成分の含有量は、5〜30質量%であることが好ましく、5質量%〜25質量%であることがより好ましい。この場合には、複合材料中のセルロース成分が少なくても、より弾性率の高い複合材料を得ることできる。また、リグニン量を上記範囲に調整することにより、植物繊維解繊物からなる多孔体中へのフェノール樹脂の含浸が容易になる。
【0050】
また、実施例1〜実施例6のように、フェノール樹脂は、レゾールタイプであることが好ましい。この場合には、フェノール樹脂と植物繊維解繊物との親和性がより向上し、複合材料の弾性率がより向上する。
【0051】
成形体の曲げ弾性率
が12GPa〜24GPaであ
る成形体は、特に高い弾性率が要求される自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、
又は構造材の用途に特に好適
である。
【0052】
実施例
における複合材料は、フェノール樹脂を溶媒に溶解してなる樹脂溶液を植物繊維解繊物からなる多孔体に含浸させる含浸工程と、フェノール樹脂の硬化温度未満の温度で多孔体中の溶媒を蒸発させる乾燥工程とを行うことにより製造される。この製造方法において、含浸工程及び/又は上記乾燥工程は、減圧下において行うことが好ましい。含浸工程を減圧条件下で行うと、多孔体中にフェノール樹脂が含浸し易くなる。また、乾燥工程を減圧下において行うと、溶媒の除去が容易になる。
【0053】
また、実施例の成形体は、複合材料をフェノール樹脂の硬化温度以上の温度で成形する成形工程を行うことにより製造される。成形工程においては、実施例1〜実施例3、実施例5、及び実施例6のように、シート状の複合材料の積層体を成形することができる。この場合には、厚みを大きくすることができるため、成形体の弾性率をより向上させることができる。
また、成形工程においては、実施例4のように、シート状の複合材料の粉砕物を成形することができる。この場合には、粉砕物をトランスファー成形又は射出成形に供することができるため、成形体の生産性の向上が可能になる。
【0054】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。