(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、生体組織へ照射される近赤外線を赤外線遮蔽剤(A成分)および熱可塑性樹脂(B成分)を含有する層を有するフィルターにより遮り、近赤外線による生体組織の損傷を防止する方法である。以下、本発明について説明する。
<赤外線遮蔽剤(A成分)>
赤外線遮蔽剤(A成分)は、下記式(i)で表される複合酸化タングステン粒子(A−1成分)および/または下記式(ii)で表される六ホウ化物粒子(A−2成分)である。
MxWyOz (i)
(但し、Mはアルカリ金属、x、y、zは、0.01≦x≦1、 0.001≦x/y≦1、 2.2≦z/y≦3.0を満たす数である。)
LaB
6 (ii)
【0011】
(A−1成分)
A−1成分は、下記式(i)で表される複合酸化タングステン粒子である。
MxWyOz (i)
式中Mは、アルカリ金属である。アルカリ金属として、Li、Na、K、Rb、Cs、Frが挙げられる。なかでもCsが好ましい。
xは、0.01≦x≦1、好ましくは0.01≦x≦0.7、より好ましくは0.02≦x≦0.5を満たす。x/yは、0.001≦x/y≦1、好ましくは0.01≦x/y≦0.8、より好ましくは0.02≦x/y≦0.5を満たす。z/yは、2.2≦z/y≦3.0、好ましくは2.5≦z/y≦3.0、より好ましくは2.7≦z/y≦3.0を満たす。
【0012】
複合酸化タングステン粒子(A−1成分)は、出発原料であるタングステン化合物を、不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。当該熱処理を経て得られた複合タングステン酸化物微粒子は、十分な近赤外線遮蔽力を有し、赤外線遮蔽微粒子として好ましい性質を有している。
【0013】
一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子の出発原料は、元素Mを、元素単体または化合物のかたちで含有するタングステン化合物である。具体的には元素Mを、元素単体または化合物のかたちで含有する、3酸化タングステン粉末、2酸化タングステン粉末、タングステン酸化物の水和物、6塩化タングステン粉末、タングステン酸アンモニウム粉末、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、および金属タングステン粉末からなる群より選ばれた一種類以上であることが好ましい。なお、出発原料が溶液であると、各元素は容易に均一混合可能となる観点より、タングステン酸アンモニウム水溶液や、6塩化タングステン溶液を用いることがさらに好ましい。これら原料を用い、これを不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して、上述した複合タングステン酸化物微粒子を得ることができる。
ここで、各成分が分子レベルで均一混合した出発原料であるタングステン化合物を製造するためには、各原料を溶液で混合することが好ましく、元素Mを含むタングステン化合物が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0014】
上述した複合タングステン酸化物微粒子を製造するための原料に関し、以下で、再度詳細に説明する。
一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子を得るための出発原料には、3酸化タングステン粉末、2酸化タングステン粉末、タングステン酸化物の水和物、6塩化タングステン粉末、タングステン酸アンモニウム粉末、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、および金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上の粉末と、前記M元素を含有する単体または化合物の粉末とを、混合した粉末を用いることが出来る。
さらに、当該複合タングステン酸化物微粒子を得るための出発原料であるタングステン化合物が、溶液または分散液であると、各元素は容易に均一混合可能となる。
当該観点より、複合タングステン酸化物の微粒子の出発原料が、6塩化タングステンのアルコール溶液またはタングステン酸アンモニウム水溶液と、前記M元素を含有する化合物の溶液とを、混合した後乾燥した粉末であることがさらに好ましい。
【0015】
同様に、複合タングステン酸化物の微粒子の出発原料が、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後、水を添加して沈殿を生成させた分散液と、前記M元素を含有する単体または化合物の粉末、または、前記M元素を含有する化合物の溶液とを、混合した後乾燥した粉末であることも好ましい。
前記M元素を含有する化合物としては、M元素のタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであればよい。さらに、当該複合タングステン酸化物微粒子を工業的に製造する場合に、タングステン酸化物の水和物粉末や三酸化タングステンと、M元素の炭酸塩や水酸化物とを用いると、熱処理等の段階で有害なガス等が発生することが無く、好ましい製造法である。
【0016】
ここで、複合タングステン酸化物微粒子の不活性雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な近赤外線遮蔽力を有し赤外線遮蔽微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N
2等の不活性ガスを用いることが良い。また、還元性雰囲気中の熱処理条件としては、まず出発原料を還元性ガス雰囲気中にて100℃以上850℃以下で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中で650℃以上1200℃以下の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないがH
2が好ましい。また還元性ガスとしてH2を用いる場合は、還元雰囲気の組成として、H
2が体積比で0.1%以上が好ましく、さらに好ましくは2%以上が良い。H
2が体積比で0.1%以上あれば効率よく還元を進めることができる。
上述の工程にて得られた赤外線遮蔽材料微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上の金属を含有する酸化物で被覆されていることは、耐候性の向上の観点から好ましい。被覆方法は特に限定されないが、当該赤外線遮蔽材料微粒子を分散した溶液中へ、上記金属のアルコキシドを添加することで、赤外線遮蔽材料微粒子の表面を被覆することが可能である。
【0017】
また、複合タングステン酸化微粒子は、分散剤で被覆されていることが好ましい。分散剤としてはポリカーボネート、ポリサルホン、ポリアクリロニトリル、ポリアリレート、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、シリコーン系樹脂やこれらの誘導体等が挙げられ、これらで被覆されることにより樹脂へ添加したときの分散性が向上し、更に機械物性の低下を防ぐ効果がある。なお、分散剤による被覆方法としては複合タングステン酸化微粒子と分散剤をトルエン等の溶媒に溶解、攪拌し分散液を調製した後、真空乾燥等の処理で溶媒を除去することにより複合タングステン酸化微粒子を被覆する方法等が挙げられる。
【0018】
A−1成分の粒子径は1nm〜800nmであることが好ましく、1nm〜600nmがより好ましく、1nm〜300nmがさらに好ましい。粒子径が1nmより小さいと凝集効果が大きくなるため分散性不良が生じやすくなり、800nmより大きいと透明樹脂成形品の曇り度が高くなる等不良が生じることがある。
また、A−1成分をB成分に添加する方法としては、A−1成分をB成分に直接添加する方法や、1〜100倍のA成分で希釈した後に添加する方法が挙げられる。
A−1成分の含有量は、B成分100重量部に対し、好ましくは0.0001〜5重量部であり、0.001〜4重量部が好ましく、0.002〜3重量部がより好ましい。A成分の含有量が0.0001重量部より少ないと赤外線の遮蔽能力が十分に発揮できず、更に複合酸化タングステン酸化物微粒子特有の、色味により熱可塑性樹脂(B成分)の変色を視覚的に低減する効果が薄れてしまい、1重量部より多いと可視光透過率が非常に小さくなってしまう。
【0019】
(A−2成分)
A−2成分は、式(ii)で表される六ホウ化物粒子である。
LaB
6 (ii)
六ホウ化物粒子(A−2成分)の粒径は、2nm〜100nmが好ましく、5〜90nmが特に好ましい。また、A−2成分は、その表面に被覆層を有する被覆六ホウ化物微粒子であることが好ましい。六ホウ化物粒子の原料となる金属ホウ化物は、例えば住友金属鉱山(株)製KHDS−06等が市販され容易に入手可能である。
被覆層は、金属酸化物からなることが好ましい。被覆層は、Si(ケイ素)、Ti(チタン)、Al(アルミニウム)およびZr(ジルコニウム)からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物を含有することが好ましい。被覆層の六ホウ化物に対する比率は、被覆層に含まれる金属換算で、六ホウ化物微粒子1重量部に対して、好ましくは0.01〜100重量部、より好ましくは0.1〜10重量部である。
被覆層は、Si(ケイ素)の酸化物を含有することがより好ましい。ケイ素の酸化物の六ホウ化物に対する比率は、ケイ酸化合物に含まれるケイ素換算で六ホウ化物微粒子1重量部に対して一般的には0.01〜100重量部の範囲、より好ましくは0.1〜10重量部の範囲である。このケイ酸化合物の比率が0.01重量部未満では二次被覆膜の形成が難しく、逆に100重量部を超えると粒子間の凝集が起こるからである。被覆膜の厚さは、好ましくは1〜100nm、より好ましくは5〜90nm、さらに好ましくは10〜80nmである。
被覆層は、六ホウ化粒子を溶媒に分散させ、その溶媒に金属酸化物を含有する表面処理剤を添加混合し、化学的に反応させることで被覆させるかまたは物理的に被覆させることにより形成することができる。
【0020】
表面処理剤として、シラザン系処理剤、クロロシラン系処理剤、アルコキシ基を分子構造中に有する無機系処理剤、撥水性の改善が期待できるアミノ基含有アルコキシシランを分子末端若しくは側鎖に有する有機系処理剤およびアルコキシ基を分子末端若しくは側鎖に有する有機系処理剤などが挙げられる。使用される溶媒としては、水、アルコール等の有機溶媒、あるいは水と有機溶媒の混合物等が挙げられる。
被覆層は、六ホウ化物粒子の表面に形成された表面修飾剤による予備被覆膜、およびその上に形成されたSiの酸化物を主成分とする被覆膜とからなることが好ましい。即ち、六ホウ化物粒子の表面に、予めシランカップリング剤などの表面修飾剤で予備被覆膜を形成し、次にSiの酸化物を主成分とする被覆膜を形成することが好ましい。
【0021】
本発明において、被覆六ホウ化物粒子(A−2成分)の平均粒径は、好ましくは2〜100nmであり、より好ましくは5〜90nmであり、さらに好ましくは10〜80nmである。平均粒径が100nmよりも大きくなると、可視光域に近い近赤外線の吸収特性が劣るようになる。即ち、透過率が波長400〜700nmに極大値をもち、かつ、波長700〜1,800nmに極小値をもち、かつ、極大値と極小値との差が百分率で15ポイント以上であるようなプロファイルが得られず、単調に透過率の減少した灰色っぽい膜になる。かかる平均粒径は、電子顕微鏡観察により得られた画像を画像解析することにより、個々の1次粒子の面積を算出し、該面積を有する円の直径を求め、該直径を重量平均することにより算出されるものである。かかる算出は500個以上の粒子に対してその換算直径を求めることにより算出される。
また個々の被覆六ホウ化物粒子(A−2成分)の換算直径は、好ましくは380nm以下、より好ましくは150nm以下である。更に個々の被覆六ホウ化物粒子の換算直径は、好ましくは平均直径を中心として前後平均粒径の50%の範囲内、更に好ましくは前後平均粒径の30%の範囲内に存在するのが好ましい。
六ホウ化物粒子(A−2成分)の含有量は、熱可塑性樹脂(B成分)100重量部に対して、0.0001〜3重量部が好ましく、より好ましくは0.001〜2重量部、さらに好ましくは0.001〜1重量部である。
【0022】
<熱可塑性樹脂(B成分)>
熱可塑性樹脂としては例えばアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、水添ポリスチレン樹脂、AS樹脂、塩化ビニル樹脂、MS樹脂、ポリカーボネート樹脂、透明ポリプロピレン樹脂、透明ABS樹脂、非晶性ポリアリレート樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリ−4−メチルペンテン−1、透明フッ素樹脂、透明フェノキシ樹脂、非晶性ポリオレフィン樹脂、透明ナイロン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、非晶性ポリエステルなどを挙げることができ、なかでもポリカーボネート樹脂、透明ABS樹脂、および非晶性ポリエステルが特に好ましい。
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応方法の一例として界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
【0023】
ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも耐衝撃性の点からビスフェノールAが特に好ましい。
【0024】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、炭酸ジエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法によってポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤などを使用してもよい。また本発明のポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環族を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにかかる二官能性カルボン酸および二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂を含む。また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンなどが使用できる。
【0025】
分岐ポリカーボネートを生ずる多官能性化合物を含む場合、かかる量は、芳香族ポリカーボネート全量中、0.001〜1モル%が好ましく、より好ましくは0.005〜0.9モル%、特に好ましくは0.01〜0.8モル%である。また特に溶融エステル交換法の場合、副反応として分岐構造が生ずる場合があるが、かかる分岐構造量についても、芳香族ポリカーボネート全量中、0.001〜1モル%、好ましくは0.005〜0.9モル%、特に好ましくは0.01〜0.8モル%であるものが好ましい。尚、かかる割合については1H−NMR測定により算出することが可能である。
脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸などの直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸が好ましく挙げられる。二官能性アルコールとしては脂環族ジオールがより好適であり、例えばシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、およびトリシクロデカンジメタノールなどが例示される。
更にポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
【0026】
界面重合法による反応は、通常二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤および有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、ピリジンなどが用いられる。
有機溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素が用いられる。
また、反応促進のために例えば第三級アミンや第四級アンモニウム塩などの触媒を用いることができ、分子量調節剤として例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールなどの単官能フェノール類を用いるのが好ましい。更に単官能フェノール類としては、デシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノールおよびトリアコンチルフェノールなどを挙げることができる。これらの比較的長鎖のアルキル基を有する単官能フェノール類は、流動性や耐加水分解性の向上が求められる場合に有効である。
反応温度は通常0〜40℃、反応時間は数分〜5時間、反応中のpHは通常10以上に保つのが好ましい。
【0027】
溶融法による反応は、通常二価フェノールと炭酸ジエステルとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールと炭酸ジエステルを混合し、減圧下通常120〜350℃で反応させる。減圧度は段階的に変化させ、最終的には133Pa以下にして生成したフェノール類を系外に除去させる。反応時間は通常1〜4時間程度である。
炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびジブチルカーボネートなどが挙げられ、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0028】
重合速度を速めるために重合触媒を使用することができ、重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、ホウ素やアルミニウムの水酸化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、第4級アンモニウム塩、アルカリ金属やアルカリ土類金属のアルコキシド、アルカリ金属やアルカリ土類金属の有機酸塩、亜鉛化合物、ホウ素化合物、ケイ素化合物、ゲルマニウム化合物、有機錫化合物、鉛化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物などの通常エステル化反応やエステル交換反応に使用される触媒があげられる。触媒は単独で使用しても良いし、二種類以上を併用して使用しても良い。これらの重合触媒の使用量は、原料の二価フェノール1モルに対し、好ましくは1×10
−9〜1×10
−5当量、より好ましくは1×10
−8〜5×10
−6当量の範囲で選ばれる。
また、重合反応において、フェノール性の末端基を減少するために、重縮反応の後期あるいは終了後に、例えば2−クロロフェニルフェニルカーボネート、2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートおよび2−エトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートなどの化合物を加えることができる。
【0029】
さらに溶融エステル交換法では触媒の活性を中和する失活剤を用いることが好ましい。かかる失活剤の量としては、残存する触媒1モルに対して0.5〜50モルの割合で用いるのが好ましい。また重合後の芳香族ポリカーボネートに対し、好ましくは0.01〜500ppmの割合、より好ましくは0.01〜300ppm、特に好ましくは0.01〜100ppmの割合で使用する。失活剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩などのホスホニウム塩、テトラエチルアンモニウムドデシルベンジルサルフェートなどのアンモニウム塩などが好ましく挙げられる。上記以外の反応形式の詳細についても、成書および特許公報などで良く知られている。
【0030】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、好ましくは14,000〜100,000であり、20,000〜30,000がより好ましく、22,000〜28,000が更に好ましく、23,000〜26,000が最も好ましい。上記範囲を超えて分子量が低すぎる場合には、衝撃値等機械物性が不十分となり、割れが生じやすくなる。また、上記範囲を超えて分子量が高い場合には、射出成形が困難になり、残留応力等から割れ不良が生じやすくなる。更により好ましい範囲においては耐衝撃性と成形加工性との両立に優れる。尚、上記ポリカーボネート樹脂は、その粘度平均分子量が上記範囲外のものを混合して得られたものであってもよい。
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液から20℃で求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
η
sp/c=[η]+0.45×[η]
2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10
−4M
0.83
c=0.7
【0031】
ポリカーボネート樹脂の態様として以下のものを挙げることができる。すなわち、粘度平均分子量70,000〜300,000の芳香族ポリカーボネート(PC−i)、および粘度平均分子量10,000〜30,000の芳香族ポリカーボネート(PC−ii)からなり、その粘度平均分子量が15,000〜40,000、好適には20,000〜30,000である芳香族ポリカーボネート(以下、“高分子量成分含有芳香族ポリカーボネート”と称することがある)も使用できる。
かかる高分子量成分含有芳香族ポリカーボネートは、PC−iの存在によりポリマーのエントロピー弾性を大きくし本発明において好適な射出プレス成形時においてより有利となる。例えばヘジテーションマークなどの外観不良はより低減でき、その分射出プレス成形の条件幅を広げることが可能である。一方PC−ii成分の低い分子量成分は全体の溶融粘度を低下し、樹脂の緩和を促進して、より低歪の成形を可能とする。尚、同様の効果は分岐成分を含有するポリカーボネート樹脂においても認められる。
【0032】
<紫外線吸収剤:C成分>
B成分には、紫外線吸収剤(C成分)を含有させてもよい。C成分としては、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、オキサジン系紫外線吸収剤が好ましい。特にベンゾトリアゾール系が好ましく、細胞へのダメージを抑制する効果に優れる。
C成分の含有量はB成分100重量部に対し、0.01〜1重量部が好ましく、0.07〜0.7重量部がより好ましく、0.1〜0.5重量部が特に好ましい。C成分の含有量が0.01重量部より少ないと樹脂組成物の耐候性能が低くなり、1重量部より多いと成形安定性の低下や機械物性の低下に繋がるだけでなく、可視光透過率の低下が見られる。
【0033】
<熱安定剤(D成分)>
B成分には、熱安定剤(D成分)を含有させてもよい。熱安定剤(D成分)としては、リン系安定剤(D−1成分)、ヒンダードフェノール系安定剤(D−2成分)、イオウ系安定剤(D−3成分)が挙げられる。
【0034】
(D−1成分:リン系安定剤)
リン系安定剤は、芳香族ポリカーボネートの熱安定剤として既に広く知られている。リン系安定剤は、樹脂組成物が極めて過酷な熱負荷に耐え得る程度まで、その熱安定性を高める。リン系安定剤としては主にホスファイト化合物とホスホナイトが上げられる。
ここで、ホスファイト化合物としては例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが例示される。
【0035】
更に他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトなどが例示される。
【0036】
ホスホナイト化合物としては、例えばテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイトなどが挙げられ、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物はアルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。リン系安定剤の含有量は、B成分100重量部あたり0.0001〜1重量部が好ましく、0.001〜0.5重量部がより好ましく、0.007〜0.1重量部が更に好ましく、0.01〜0.07重量部が特に好ましい。
【0037】
(D−2成分:ヒンダードフェノール系安定剤)
ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、α-トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス2[3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが例示される。これらはいずれも入手容易である。
ヒンダードフェノール系安定剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。ヒンダードフェノール系安定剤の含有量は、AB成分100重量部あたり0.0002〜0.8重量部が好ましく、0.0005〜0.45重量部がより好ましく、0.002〜0.25重量部が更に好ましく、0.005〜0.15重量部が特に好ましい。
【0038】
(D−3成分:イオウ系安定剤)
イオウ系安定剤として、ジラウリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−オクタデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ステアリルチオプロピオネート)などが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上混合して使用しても良い。
イオウ系安定剤の含有量は、B成分100重量部あたり0.0001〜1重量部が好ましく、0.001〜0.5重量部がより好ましく、0.007〜0.1重量部が更に好ましく、0.01〜0.07重量部が特に好ましい。
【0039】
<樹脂組成物の製造>
本発明に用いる樹脂組成物の製造に当たっては、その製造方法は特に限定されるものではない。しかしながら本発明の樹脂組成物は、各成分を溶融混練することにより製造されることが好ましい。
上記溶融混練の具体的方法としては、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機などを挙げることができ、中でも混練効率の点から押出機が好ましく、更に二軸押出機などの多軸押出機が好ましい。かかる二軸押出機においてより好ましい態様は次の通りである。スクリュー形状は1条、2条、および3条のネジスクリューを使用することができ、特に溶融樹脂の搬送能力やせん断混練能力の両方の適用範囲が広い2条ネジスクリューが好ましく使用できる。二軸押出機におけるスクリューの長さ(L)と直径(D)との比(L/D)は、20〜45が好ましく、更に28〜42が好ましい。L/Dが大きい方が均質な分散が達成されやすい一方、大きすぎる場合には熱劣化により樹脂の分解が起こりやすい。スクリューには混練性を上げるためのニーディングディスクセグメント(またはそれに相当する混練セグメント)から構成された混練ゾーンを1個所以上有することが必要であり、1〜3箇所有することが好ましい。
更に押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)などを挙げることができる。
【0040】
更にB成分やC成分およびその他添加剤(以下の例示において単に“添加剤”と称する)の押出機への供給方法は特に限定されないが、以下の方法が代表的に例示される。(i)添加剤をポリカーボネート樹脂とは独立して押出機中に供給する方法。(ii)添加剤とポリカーボネート樹脂粉末とをスーパーミキサーなどの混合機を用いて予備混合した後、押出機に供給する方法。(iii)添加剤とポリカーボネート樹脂とを予め溶融混練してマスターペレット化する方法。
上記方法(ii)の1つは、必要な原材料を全て予備混合して押出機に供給する方法である。また他の方法は、添加剤が高濃度に配合されたマスター剤を作成し、該マスター剤を独立にまたは残りのポリカーボネート樹脂等と更に予備混合した後、押出機に供給する方法である。尚、該マスター剤は、粉末形態および該粉末を圧縮造粒などした形態のいずれも選択できる。また他の予備混合の手段は、例えばナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、および押出混合機などがあるが、スーパーミキサーのような高速撹拌型の混合機が好ましい。更に他の予備混合の方法は、例えばポリカーボネート樹脂と添加剤を溶媒中に均一分散させた溶液とした後、該溶媒を除去する方法である。
二軸押出機より押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。更に外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。
【0041】
<フィルター>
フィルターは、上記の如く製造されたペレットを射出成形や押出成形して製造することができる。かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。
フィルターは、赤外線遮蔽剤(A成分)および熱可塑性樹脂(B成分)を含有する層を含み、下記式(1)〜(2)を満足する。
3.0×10
−4≦c×d≦2.0×10
−3 (1)
ここで、cはフィルター中のA成分の濃度(g/cm
3)、dはA成分を含有する層の厚さ(mm)である。
c×dは、好ましくは3.0×10
−4≦c×d≦1.7×10
−3、より好ましくは3.5×10
−4≦c×d≦1.5×10
−3を満足する。
T
380〜780nm≧45% (2)
ここで、T
380〜780nmは、380〜780nmの波長における光線透過率である。T
380〜780nmは、好ましくはT
380〜780nm≧50%、より好ましくはT
380〜780nm≧60%を満足する。
【0042】
フィルターには、各種の表面処理を行うことが可能である。ここでいう表面処理とは、塗装、コーティング、印刷などの樹脂成形品の表層上に新たな層を形成させるものであり、通常のポリカーボネート樹脂に用いられる方法が適用できる。表面処理としては、具体的には、ハードコート、撥水・撥油コート、紫外線吸収コート、並びに赤外線吸収コート、などの各種の表面処理が例示される。ハードコートは特に好ましくかつ必要とされる表面処理である。該表面処理を行うことにより該成形品の性能に意匠性、耐候性等の性能を更に付与することが可能となる。
フィルターのHAZEはISO14782−1に準拠する測定方法を用いた際に、10%未満が好ましく、5%未満がより好ましく、1%未満がさらに好ましい。
【0043】
<生体組織>
本発明において生体組織とは、生物の皮膚、眼球、毛のように生体の表面にある組織に限定されることなく、皮下組織や脂肪組織、筋肉などの深部組織も含め生物を構成している組織のすべてのことを言う。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明はこれら実施例などにより何ら制限されるものではない。また、以下“部”は特に断りのない限り“重量部”を、%は“重量%”を示す。
【0045】
(実施例1〜11および比較例1〜5)
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。
(1)樹脂組成物の作成
(1−1)使用原料
(A成分)
A−1:Cs
0.33WO
3約23重量%および有機分散樹脂からなる赤外線遮蔽剤(住友金属鉱山(株)製YMDS−874)
A−2:LaB
6微粒子約21.5重量%および樹脂バインダーからなる赤外線遮蔽剤(住友金属鉱山(株)製KHDS−06)
A−3:酸化チタン微粒子約92重量%含有(石原産業(株)製PC−3)
【0046】
(B成分)
B−1:下記製法により得られた分子量24,200のポリカーボネート樹脂パウダー
バッフル付反応容器に、三段六枚羽根の攪拌機および還流冷却管を取り付けた。この反応容器に、ビスフェノールA45.6部、p−tert−ブチルフェノールをビスフェノールAに対して2.78モル%、ジクロロメタン265部および水200部を入れ、反応容器内の酸素を除去する為に窒素パージを行った。尚、かかる段階で反応容器中の内容物は、容器容量の8割弱であった。次に、上記懸濁液にナトリウムハイドロサルファイト0.09部および水酸化ナトリウム21.8部を供給するための水溶液約80部を供給し、15℃でビスフェノールAを溶解した。撹拌下、この混合物にホスゲン23.35部を30分間で供給した。その後、トリエチルアミン0.016部(ビスフェノールAに対して0.08モル%)を添加して60分間攪拌し、反応を終結させた。その後、反応混合物を静置し、有機相を分液した。得られたポリカーボネート樹脂のジクロロメタン溶液に塩化メチレンを加えて14重量%の濃度の溶液とし、更に多孔板付遠心抽出機(川崎エンジニアリング(株)製KCC遠心抽出機)を用いて0.5%水酸化ナトリウム水溶液を流量1,000ml/min、有機相を流量1,000ml/minの速度で供給し、3,500rpmの条件で処理した後、有機相を塩酸酸性とし、その後水洗を繰り返し、水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになったところで塩化メチレンを蒸発してポリカーボネート樹脂パウダーを得た。
B−2:非晶性ポリエステル樹脂(SKケミカル社製:J−2003)
【0047】
(C成分)
C−1: ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製:Tinuvin234)
C−2:トリアジン系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製:Tinuvin1577)
C−3: トリアジン系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製:CGX―006)
C−4:ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(ケミプロ化成(株)社製ケミソーブ79)
C−5:2−(5クロロ−2Hベンゾトリアゾール−2−イル)6−(1,1−ジメチルエチル)4−メチル−フェノール3896−11−5(チバ・スペシャリティケミカルズ社製:Tinuvin326)
【0048】
(D成分)
D−1:リン系安定剤(クラリアントジャパン(株)製P−EPQ)
D−2:ヒンダードフェノール系安定剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製:Irganox1076)
(その他)
VP:脂肪酸フルエステル(コグニスジャパン(株)製:VPG861)
SA:脂肪酸部分エステル(理研ビタミン(株)製:リケマールS−100A)
【0049】
(2)試験試料作成
(2−1)樹脂組成物の製造
表1に記載の各成分を表1記載の割合で計量して混合しブレンダーにて混合した後、ベント式二軸押出機を用いて溶融混練し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。なお、A成分の含有量は、上記使用原料で挙げたA−1、A−2、A−3中に含まれる無機系赤外線遮蔽材料の量であり、表1のA成分において括弧内に示した。PCに添加する添加剤はそれぞれ配合量の10〜100倍の濃度を目安に予めPCとの予備混合物として作成した後、ブレンダーによる全体の混合を行った。ベント式二軸押出機は(株)日本製鋼所製:TEX30α(完全かみ合い、同方向回転、2条ネジスクリュー)を使用した。混練ゾーンはベント口手前に1箇所のタイプとした。押出条件は吐出量20kg/h、スクリュー回転数150rpm、ベントの真空度3kPaであり、また押出温度は第1供給口からダイス部分まで280℃とした。尚、上記の樹脂組成物の製造はHEPAフィルターを通した清浄な空気が循環する雰囲気において実施し、また作業時に異物の混入がないよう十分に注意して行った。
【0050】
(2−2)フィルターの作成方法
得られたペレットを110〜120℃で6時間熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成形機[住友重機械工業(株)製SG260M−HP]により、シリンダー温度300℃、金型温度80℃の条件で表1に記載の厚み(2mm、5mm、20mm)のフィルターを成形した。
表1に記載の厚み0.1mmのフィルターについては、得られたペレットをメチレンクロライドに溶解させ、固形分濃度19重量%のドープを作製し、このドープ溶液から厚み0.1mmとなるようにガラス板上に流涎し、剥離後、乾燥して、キャストフィルムを作製した。
【0051】
(3)評価項目
(3−1)T
380〜780nm測定(可視光透過率測定)
上記(2−2)で作成したフィルターから50mm角の試験片を切り出した。その分光光線を(株)日立ハイテクノロジーズ製分光光線測定器U−4100を用いJIS R 3106に準拠して算出した。結果を表1に示す。
(3−2)HAZE測定
上記(2−2)で作成したフィルターから50mm角の試験片を切り出した。その全光線透過率を(株)村上色彩技術研究所製ヘーズメーターHR−100を用いISO13468−1に準拠して測定した。
【0052】
(3−3)細胞の生存率測定
対象細胞として、ヒト正常皮膚線維芽細胞を用いた。この細胞を、培養皿のウェル内の市販の培地中で、5%CO
2を含む加湿された37℃の培養装置内で、5×10
3個/1ウェルに、培養した。光源として、形成外科・皮膚科で若返り治療に使用されているタイタン(キュテラ社製;商品名、波長域1000〜1800nm)を用いた。照射条件は、20J/cm
2の出力強度となるように設定し、シングルパルスを1ショットとし、10回繰返す複数回ショットの照射をした。なお、この治療装置による20J/cm
2の強度は、健常人が皮膚に照射されても弱い熱感を感じる程度の出力であり、たとえ、複数回照射されても、健常人が皮膚に熱感を感じる程度の出力で、発赤、熱傷を生じたり副事象を生じることはない。さらに過度の温度上昇を防ぎ、その過度の温度に基づく蓄積熱による細胞損傷の可能性を排除するため、1ショット毎に、各ウェルの培地の底の温度を測定し、培地温度が37℃に戻るまで待って、次のショットを施行した。
各ウェルの培地温度の具体的測定方法は、各群についてそれらの培地水底の温度を、熱電対を備えたデジタル温度計MC3000−000(株式会社チノーの製品)で、各ショットの照射直後に、測定するというものである。
【0053】
細胞の生存率の測定時は、以下の通りである。
近赤外線照射群は、20J/cm
2の強度で10ショットの照射のあと24時間培養した後に、測定したものである。
細胞の生存率測定の具体的方法は、細胞内のミトコンドリアにある脱水素酵素により、テトラゾリウム塩であるMTT(3−(4,5−di−methylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazoliumbromide,yellowtetrazole)が生細胞において還元されて生成されるホルマザン(Formazan)について、マイクロプレートリーダーを用いて吸光度を測定するというものである。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
上記から明らかなように、本発明によれば所定の無機赤外線遮蔽材を用いた場合、細胞生存率が著しく向上し、細胞損傷を防ぐことができるといえる。