(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トリクロロシラン・水素混合ガス消費設備の該混合ガス使用信号を発する稼働台数とトリクロロシラン・水素混合ガス送気総量とを比例連動させるために、前記稼働台数に対応する温度に液体トリクロロシラン温度を設定させることを特徴とする連続蒸留式トリクロロシランガス気化供給方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の連続蒸留式トリクロロシラン気化供給装置はエネルギーロスが大きかった。さらに詳しくは、連続蒸留式トリクロロシラン気化供給装置を構成する凝縮器部分で凝縮・液化したトリクロロシラン液が低温のまま直下に位置する蒸発器に落滴するため、蒸発器内のトリクロロシラン液の温度を瞬間低下せしめた。
【0009】
蒸発器内のトリクロロシラン液の温度が著しく低下すると、トリクロロシランが必要とする蒸発量に達しないこともあり、これがトリクロロシラン・水素混合ガスの濃度低下を引き起こし、シリコンエピタキシャル層の成長速度低下や比抵抗低下等を引き起こすことが憂慮された。
【0010】
これを回避するため、蒸発器のトリクロロシラン液の温度を必要以上に上げたり、蒸発器の容量を増やし、もって熱容量を増やすことで温度低下を最小限にし、トリクロロシランの蒸発量を確保しなければならなかった。
【0011】
しかしながら、蒸発器のトリクロロシラン温度を上げることは、総じて蒸発量が増え、これにより蒸発量の未達は防げるが、凝縮器の能力、伝熱面積も同時に大きくする必要があった。またこれは、蒸発器の容量を増やすことと共に装置規模を大きくすることとなり、コストを増大させるばかりか、規模によっては法律(消防法〜危険物、労働安全衛生法〜圧力容器)により、より厳しい規制を受けることなり、さらにはこれが周辺設備等にさらなるコスト増を要求した。
【0012】
本件発明は、前述した従来の方式の装置に対し、同一能力のものをより小型化することで
1)設備コストやランニングコストを低減し、
2)法律の規制受けないか、軽微となる装置
にすることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の連続蒸留式トリクロロシラン気化供給装置は、キャリアガスとなる水素ガスの導入口を具備し、液体トリクロロシランを蒸発させるための加熱手段を有する蒸発器と、蒸発したトリクロロシランガスの持つ蒸気圧より低い飽和蒸気圧に対応する温度で、凝縮させるための冷却手段を有する凝縮器と、を具備する連続蒸留式トリクロロシラン気化供給装置において、蒸発器の中心線と凝縮器の中心線が同一線上になく、且つ凝縮器の下端が、蒸発器の下端と配管でもって連通する構造であることを特徴とする。
【0014】
上記連続蒸留式トリクロロシラン気化供給装置は、さらに、
蒸発器の精密温度
調整機構と、
蒸発器の精密圧力調整機構とを具備することができる。
【0015】
上記凝縮器は、複数の装置に対し、
トリクロロシランガス及び水素ガスの混合ガスを供給する手段を有することができる。
【0016】
上記凝縮器の上端には、該凝縮器を通過した
トリクロロシランガス及び水素ガスの混合ガスを、複数の装置に分配するための分配部が設けられることができる。
【0017】
上記凝縮器は、複数のガス導通管を有し、上記分配部は、複数のガス導通管の出口を複数の装置の数に区画するための分割板を有することができる。
【0018】
上記区画された複数のガス導通管の出口の各々には、複数の装置に
トリクロロシランガス及び水素ガスの混合ガスを送るための調整混合ガス送気管が接続されることができる。
【0019】
本発明の連続蒸留式トリクロロシランガス気化供給方法は、トリクロロシラン・水素混合ガス消費設備の該混合ガス使用信号を発する稼働台数と
トリクロロシラン・水素混合ガス送気総量とを比例連動させるために、前記稼働台数に対応する温度に液体トリクロロシラン温度を設定させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
凝縮器で凝縮した冷温のトリクロロシラン液が直接蒸発器に落滴せず、配管を経由し蒸発器下部に環流するため、蒸発器内のトリクロロシラン液面温度を極端に降下させることがない。
【0021】
よって、蒸発器内のトリクロロシランの液温制御が容易となり、結果、蒸発器の容量を小さくすることができる。
【0022】
それ故に、凝縮器の能力も小さいもので足ることになり、結果、エネルギーコストの低減、装置設置面積の低減、装置コスト低減に繋がる。
【0023】
さらに、規模によっては蒸発器が対象となる圧力容器の規制や危険物の規制を軽微にする。これは圧力容器の容積が小さくなるにつれ規制が緩くなることに起因(容積の大きいものから順に、第1種圧力容器→小型圧力容器→簡易容器→指定外)する。また危険物に係る指定数量の倍数も低下し、消防法上の規制も緩和が期待される(指定数量以上→指定数量の1/5以上→指定数量の1/5以下)。
【0024】
また、蒸発器を解放検査する場合、凝縮器等の重量物が直上にないため迅速で安全、且つ高品位な検査を行うことができる。
【0025】
また、濃度調整されたトリクロロシラン・水素混合ガス総送気流量と蒸発器内の液体トリクロロシラン温度とを比例連動させることで、装置能力の比較的低い流量範囲で、より高精度な濃度調整が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態に従う連続蒸留式トリクロロシラン気化供給装置ついて、図面を参照しながら詳細に説明を行う。
【0028】
図1は、本発明の連続蒸留式トリクロロシラン気化供給装置の一例を示す模式図である。
【0029】
図1に示すように、本発明の連続蒸留式トリクロロシラン気化供給装置100は、蒸発器1および凝縮器2を備える。
【0030】
蒸発器1は、キャリアガスとなる水素ガスの導入口3を具備し、液体トリクロロシランを蒸発させるための加熱手段16を有する。
【0031】
凝縮器2は、蒸発したトリクロロシランガスの持つ蒸気圧より低い飽和蒸気圧に対応する温度で、凝縮させるための冷却手段20を有する。
【0032】
そして、本発明の連続蒸留式トリクロロシラン気化供給装置100は、蒸発器1の中心線と凝縮器2の中心線が同一線上になく、且つ凝縮器1の下端が、蒸発器2の下端と配管でもって連通する構造であることを特徴とする。
【0033】
また、本発明の連続蒸留式トリクロロシラン気化供給装置100は、精密な温度
調整機構および圧力調整機構を備えることにより、高度に濃度制御されたトリクロロシラン水素混合ガス(以下TCS/H
2)を発生させることができる。
【0034】
本発明の装置100は先行技術文献にある装置と同じく、液と気体の2相からなる系では温度が一定ならばその液体の蒸気圧は一定であり、且つキャリアガスである水素を含めた全圧を一定とすることで一定の濃度の混合ガスを得ることができるという原理に従うものとすることができる。
【0035】
蒸発器1は、内容する液体トリクロロシラン17を少なくとも凝縮温度より高い温度に保ち、キャリアガスとなる水素18のバブリングを行うための容器とすることができる。ここでは最終的に調整して排出するトリクロロシラン・水素混合ガス濃度より高い濃度になるようにトリクロロシランを気化する(19)ことができる。そのため、蒸発器1は加熱手段16とキャリア水素ガス供給管3を具備する。
【0036】
液体トリクロロシランは、図示しない液面計測器による液面データをフィードバックし、適正な液面範囲となるように蒸発器1の圧力より高い圧力でトリクロロシラン補給弁15を経由し蒸発器1内に圧送補給されることができる。このため蒸発器下端バルブ10は常時開けておくのが好ましい。
【0037】
また、シリコンエピタキシャル成長装置等のトリクロロシラン消費設備でトリクロロシラン・水素混合ガスが消費されるとトリクロロシラン気化供給装置内の全圧が下がるため、全圧を一定に保持するため、精密な圧力調整機構として、水素ガスが応答の速い圧力調整器5を経由し、キャリア水素ガス供給管を通じて蒸発器内に吹き込む。
【0038】
より速い制御のできる電子式の圧力調整器の場合は、圧力計・圧力センサー7のプロセス値を使ってフィードバック制御を行うことができる。キャリア水素ガス仕切り弁4は、通常は開けておくのが好ましい。蒸発器1は内圧の異常上昇に対応するため安全弁6を具備することができる。蒸発器1は上部に蒸発混合ガス送気バルブ8を具備することができる。該バルブは通常は開けておき、蒸発器で蒸発した高濃度トリクロロシラン・水素混合ガスはガス連通管9を経由し凝縮器2に進入することができる。
【0039】
凝縮器2は冷却手段20により常に一定温度に冷却され、これにより過飽和となったトリクロロシランが凝縮・液化し、冷却温度での飽和蒸気となったトリクロロシラン・水素混合ガスは調整混合ガス送気管21を経由してシリコンエピタキシャル成長装置に送られるものとすることができる。調整混合ガス送気管21の途中に配置される流量計測器、濃度計測器22は運転状況の確認用である。
【0040】
一方、凝縮器2内で凝縮したトリクロロシランは、トリクロロシラン凝縮冷液捕集管13、トリクロロシラン液連通管14、蒸発器下端バルブ10を経由して蒸発器1の底部に環流することができる。
【0041】
次に、本発明の主要構成部品である蒸発器1と凝縮器2について説明を加える。
【0042】
本発明で使用される蒸発器1の加熱方法はヒーターであっても熱媒体であっても構わない。
図2に本発明で使用される蒸発器1の一例として熱媒体加熱方式でジャケット式のものを示す。蒸発器ジャケット24と蒸発器内管の間の蒸発器ジャケット螺旋流路形成パーツ23により熱媒体は蒸発器内管に沿ってらせん状に循環することができる。
【0043】
蒸発器1の上部は蒸発器上部フェルール26から蒸発混合ガス送気バルブ8、ガス連通管9を経由し凝縮器2に連通する。蒸発器1の下部は蒸発器下部ポート25、蒸発器下端バルブ10を経由しトリクロロシラン液連通管14に連通する。熱媒体は不活性な物質、例えばフロリナート(登録商標)やガルデン(登録商標)等のフッ素系のものが適切である。
【0044】
図2の蒸発器1は筒状であることが特徴的である。これは蒸発器1を縦長にすることで、気泡18の滞留時間を長くし、より多くのトリクロロシラン蒸気を気泡中に取り込むためである。
【0045】
図2には別の一例も示した。蒸発器1内に気泡螺旋上昇ガイド27、気泡微細化パーツ28、ホルダー29を挿入したものである。これらは気泡の上昇速度を遅くし、上昇行程距離を増やすため、或いは気泡の表面積を増やすこと等を目的としている。
【0046】
図3は本発明で使用される凝縮器2の一例の多管式熱交換器の構造を示す。蒸発器1から送られてくる高濃度のトリクロロシラン・水素混合ガスは下部から侵入し、複数あるチューブ32内部を通過する。30は凝縮器フェルール、31は固定管板、33は邪魔板である。凝縮器2のシェル部には凝縮器冷媒入出管34により冷媒が循環する。
【0047】
本発明の第2の発明は、濃度調整されたトリクロロシラン・水素混合ガス総送気流量と蒸発器内の液体トリクロロシラン温度とを比例連動させたことにある。トリクロロシラン気化供給装置に複数台のシリコンエピタキシャル成長装置を接続し、シリコンエピタキシャル成長装置を個々のタイミング且つ個々の成長レシピで稼働させる場合、シリコンエピタキシャル成長装置の稼働台数は時間と共に例えば10台のシリコンエピタキシャル成長装置では
図4のようにランダムな変化をする。
【0048】
当然、稼働台数、さらに正確には現にトリクロロシラン・水素混合ガスを使用している台数に比例して消費されるトリクロロシラン・水素混合ガスまたはトリクロロシラン気化供給装置から送出されるトリクロロシラン・水素混合ガスは増減する。
【0049】
ここで送気混合ガスの濃度を維持するために考えられる最大のトリクロロシラン・水素混合ガス送気総量に合わせて蒸発器でトリクロロシランを蒸発させることはトリクロロシランの温度を常に高い温度に保つことを意味し、エネルギー効率的なロスを招く。
【0050】
そこで本発明の精密な温度調整機構では、蒸発器から蒸発するトリクロロシランが過剰とならないように、トリクロロシラン・水素混合ガスを使用しているシリコンエピタキシャル成長装置から信号を受け、その台数に対応する温度に蒸発器内のトリクロロシランの温度を制御することができる。厳密にはシリコンエピタキシャル装置の種別、エピタキシャル成長条件等で色々なケースが想定されるが、
図2に示す形式の容量3リットルの蒸発器では
図5に示す関係が好適であることを実験により確認した。
図6に本発明による温度制御ブロック図を示す。
【0051】
シリコンエピタキシャル成長装置はトリクロロシラン・水素混合ガスを使用すると同時にON信号を発することができる。これを本発明のトリクロロシラン気化供給装置の蒸発器温度
調整部で加減算し稼働台数とする。この稼働台数に応じた蒸発器の設定温度を
図5中の数式により演算し、演算結果を蒸発器の温度
調整器の温度設定値とすることで所謂送気流量・液体トリクロロシラン温度比例連動制御が可能となる。
【0052】
シリコンエピタキシャル成長のレシピの一例を
図7に示す。エピタキシャル成長はトリクロロシラン・水素混合ガスを一定量当該装置の反応容器に通じることで成す。通常(Conventional Method)、エピタキシャル成長の前に同量の当該混合ガスを反応容器を経由させずに系外に捨て(Vent2)、エピタキシャル成長開始と同時に具備するバルブ操作により反応容器に導く。エピタキシャル成長の後は、具備するバルブ操作により反応容器に導入していた同量の当該ガスを系外に再び捨てる(Post Purge 2)。
【0053】
上述レシピではトリクロロシラン・水素混合ガスの流量が開始時と終了時に急激に変化し、トリクロロシラン・水素混合ガスの供給系、即ちトリクロロシラン気化供給装置に圧力変動をもたらす。トリクロロシラン気化供給装置1台がシリコンエピタキシャル成長装置1台に対し供給を賄っている場合は、上記バルブの動作により問題となることはない。さらに、トリクロロシラン気化供給装置1台が極めて多数のシリコンエピタキシャル成長装置に対し供給を賄っている場合もまたトリクロロシラン・水素混合ガス総流量に対する装置1台の占める混合ガス流量の割合が小さいため問題とならない。
【0054】
一方、トリクロロシラン気化供給装置1台に2台乃至数台のシリコンエピタキシャル成長装置を接続し、シリコンエピタキシャル成長装置を個々のタイミング且つ個々の成長レシピで稼働させる場合には、シリコンエピタキシャル成長装置1台がもたらす混合ガス流量の変化率が無視できるものではない。この結果、系に圧力変動が生じさらにトリクロロシラン・水素混合ガスの濃度が大きく変動することになる。
【0055】
上記の不具合を解消するために、非常に応答のよい圧力調整器を用いることとともに、接続するシリコンエピタキシャル成長装置に対しVent2とPost Purge 2の流量変化率を低減したNew Methodなるレシピを強いることもある。
【0056】
(実験例1)
本発明の装置の主要機器である蒸発器は容積約3リットル、凝縮器は伝熱面積約0.9m
2のものを用いた。圧力調整器は機械式の所謂減圧弁とし、シリコンエピタキシャル成長装置1台を接続しテストに供した。テスト用シリコンエピタキシャル成長装置は一枚ずつ処理をする所謂枚葉式の装置を使用した。エピタキシャル基盤はP
+で裏面に酸化膜をコートしたものを用いた。およその狙いのエピ膜は成長速度3μm/min、厚さは4.5μm、成長時間を90秒とし、本発明装置からシリコンエピタキシャル成長装置に送られるトリクロロシラン・水素混合ガスの流量は、テストの間12リットル/minであった。一方本発明装置の条件は全圧0.149±0.0015MPa(ゲージ圧)、凝縮温度15.0±0.1℃、蒸発器内トリクロロシラン液温度35±0.5℃であり発生させたトリクロロシラン・水素混合ガスの濃度はおよそ21%であった。テストは25枚連続成長させた際のバッチ間変動量で評価した。その結果25枚のウェーハの中心部のエピ膜の厚さは4.53±0.04μmであった。機械式の圧力調整器の特性で成長中に極若干の圧力降下が生じ、それにより混合ガス濃度が若干高くなったものと思われる。
【0057】
(実験例2)
精密圧力調整器を使った効果を検討した。本発明の装置の主要機器である蒸発器は容積約3リットル、凝縮器は伝熱面積約0.9m
2のものを用いた。圧力調整器は非常に応答の速い電子式の圧力コントロール弁とし、シリコンエピタキシャル成長装置1台を接続しテストに供した。テスト用シリコンエピタキシャル成長装置は一枚ずつ処理をする所謂枚葉式の装置を使用した。エピタキシャル基盤はP
+で裏面に酸化膜をコートしたものを用いた。およその狙いのエピ膜は成長速度3μm/min、厚さは4.5μm、成長時間を90秒とし、本発明装置からシリコンエピタキシャル成長装置に送られるトリクロロシラン・水素混合ガスの流量は、テストの間12リットル/minであった。一方本発明装置の条件は全圧0.150±0.0005MPa(ゲージ圧)、凝縮温度15.0±0.1℃、蒸発器内トリクロロシラン液温度35±0.5℃であり発生させたトリクロロシラン・水素混合ガスの濃度はおよそ20%であった。テストは25枚連続成長させた際のバッチ間変動量で評価した。その結果25枚のウェーハの中心部のエピ膜の厚さは4.51±0.02μmであった。圧力調整器を電子式の圧力コントロール弁としたことで、テストの全期間圧力がほぼ一定となった。これに応じエピ膜の厚さも顕著な変動が無くなった。
【0058】
(実験例3)
トリクロロシラン・水素混合ガス流量増加の影響を検討した。本発明の装置の主要機器である蒸発器は容積約3リットル、凝縮器は伝熱面積約0.9m
2のものを用い、圧力調整器を非常に応答の速い電子式の圧力コントロール弁とし、シリコンエピタキシャル成長装置1台を接続しテストに供した。テスト用シリコンエピタキシャル成長装置は一枚ずつ処理をする所謂枚葉式の装置を使用した。エピタキシャル基盤はP
+で裏面に酸化膜をコートしたものを用いた。およその狙いのエピ膜は成長速度3.45μm/min、厚さは4.5μm、成長時間を78秒とし、本発明装置からシリコンエピタキシャル成長装置に送られるトリクロロシラン・水素混合ガスの流量は、テストの間18リットル/minであった。一方本発明装置の条件は全圧0.150±0.0005MPa(ゲージ圧)、凝縮温度15.1±0.2℃、蒸発器内トリクロロシラン液温度35±1.5℃であり発生させたトリクロロシラン・水素混合ガスの濃度はおよそ21%であった。テストは25枚連続成長させた際のバッチ間変動量で評価した。その結果25枚のウェーハの中心部のエピ膜の厚さは4.53±0.03μmであった。実施例2に対し送気流量を増やしたテストであった。送気流量の増大に伴い凝縮器の伝熱面積流量比が低下した結果、凝縮器で若干の冷却不足が生じ、それにより混合ガス濃度が若干高くなったものと思われる。
【0059】
(実験例4)
トリクロロシランの蒸発量を少なくし、従って凝縮量も少なくした効果を検討した。本発明の装置の主要機器である蒸発器は容積約3リットル、凝縮器は伝熱面積約0.9m
2のものを用い、圧力調整器を非常に応答の速い電子式の圧力コントロール弁とし、シリコンエピタキシャル成長装置1台を接続しテストに供した。テスト用シリコンエピタキシャル成長装置は一枚ずつ処理をする所謂枚葉式の装置を使用した。エピタキシャル基盤はP
+で裏面に酸化膜をコートしたものを用いた。およその狙いのエピ膜は成長速度3μm/min、厚さは4.5μm、成長時間を90秒とし、本発明装置からシリコンエピタキシャル成長装置に送られるトリクロロシラン・水素混合ガスの流量は、テストの間12リットル/minであった。一方本発明装置の条件は全圧0.150±0.0005MPa(ゲージ圧)、凝縮温度15.0±0.1℃、蒸発器内トリクロロシラン液温度32±0.5℃であり発生させたトリクロロシラン・水素混合ガスの濃度はおよそ20%であった。テストは25枚連続成長させた際のバッチ間変動量で評価した。その結果25枚のウェーハの中心部のエピ膜の厚さは4.51±0.01μmであった。蒸発器での蒸発量を制限し、凝縮器で凝縮しなければならない量を減じた、即ち凝縮器の伝熱面積流量比が増大した結果、本例が全ての実施テストの中で最良の結果となった。
【0060】
(実験例5)
蒸発器はそのままで、蒸発温度を上げることで蒸発量を増すことを検討した。本発明の装置の主要機器である蒸発器は容積約3リットル、凝縮器は伝熱面積約1.4m
2のものを用い、圧力調整器を非常に応答の速い電子式の圧力コントロール弁とし、シリコンエピタキシャル成長装置3台を接続し、うち1台をテストに供した。エピタキシャル成長装置は任意のタイミングで稼働させた。テスト用シリコンエピタキシャル成長装置は一枚ずつ処理をする所謂枚葉式の装置を使用した。エピタキシャル成長レシピを説明した
図7の「New method」の条件でトリクロロシラン・水素混合ガスをエピタキシャル成長装置に導入した。即ち3台のエピタキシャル成長装置がトリクロロシラン・水素混合ガスを使用する際に、他の装置に急な圧力効果等の影響を及ぼさないように、「VENT2」の工程で当該ガスを0から12リットル/minまで徐々に増やしていった。エピタキシャル基盤はP
+で裏面に酸化膜をコートしたものを用いた。およその狙いのエピ膜は成長速度3μm/min、厚さは4.5μmとし、成長時間を90秒とした。一方本発明装置の条件は全圧0.150±0.0005MPa(ゲージ圧)、凝縮温度15.0±0.2℃、蒸発器内トリクロロシラン液温度39.5±2.5℃であり発生させたトリクロロシラン・水素混合ガスの濃度はおよそ20%乃至21%であった。本発明装置からシリコンエピタキシャル成長装置に送られるトリクロロシラン・水素混合ガスの流量は、テストの間12リットル/minから36リットル/minの範囲で変動した。テストは25枚連続成長させた際のバッチ間変動量で評価した。その結果25枚のウェーハの中心部のエピ膜の厚さは4.52±0.03μmであった。蒸発器の温度設定を上げれば必要な蒸発量が確保できた。
【0061】
(実験例6)
本発明の装置の主要機器である蒸発器は容積約3リットル、凝縮器は伝熱面積約1.4m
2のものを用い、圧力調整器を非常に応答の速い電子式の圧力コントロール弁とし、シリコンエピタキシャル成長装置3台を接続し、うち1台をテストに供した。エピタキシャル成長装置は任意のタイミングで稼働させた。テスト用シリコンエピタキシャル成長装置は一枚ずつ処理をする所謂枚葉式の装置を使用した。エピタキシャル成長レシピを説明した
図7の「New method」の条件でトリクロロシラン・水素混合ガスをエピタキシャル成長装置に導入した。即ち3台のエピタキシャル成長装置がトリクロロシラン・水素混合ガスを使用する際に、他の装置に急な圧力効果等の影響を及ぼさないように、「VENT2」の工程で当該ガスを0から18リットル/minまで徐々に増やしていった。エピタキシャル基盤はP
+で裏面に酸化膜をコートしたものを用いた。およその狙いのエピ膜は成長速度3.45μm/min、厚さは4.5μmとし、成長時間を78秒とした。一方本発明装置の条件は全圧0.150±0.0005MPa(ゲージ圧)、凝縮温度15.0±0.3℃、蒸発器内トリクロロシラン液温度39.5±3.5℃であり発生させたトリクロロシラン・水素混合ガスの濃度はおよそ20%乃至22%であった。本発明装置からシリコンエピタキシャル成長装置に送られるトリクロロシラン・水素混合ガスの流量は、テストの間18リットル/minから54リットル/minの範囲で変動した。テストは25枚連続成長させた際のバッチ間変動量で評価した。その結果25枚のウェーハの中心部のエピ膜の厚さは4.42±0.21μmであった。実施例5に対し、さらに混合ガス流量を増やそうと試みたが、エピタキシャル成長装置が連続で稼働を始めるタイミング、稼働が終えるタイミングで蒸発器内のトリクロロシランの温度変動が大きく、必要な蒸発量が得られなかったり、逆に蒸発量が過剰となり凝縮器の能力を上回ったりする場面があり、結果トリクロロシラン・水素混合ガスの濃度が大きく変動した。
【0062】
(実験例7)
本発明の装置の主要機器である蒸発器は容積約3リットル、凝縮器は伝熱面積約1.4m
2のものを用い、圧力調整器を非常に応答の速い電子式の圧力コントロール弁とし、また、蒸発器内の液体トリクロロシラン温度制御を本発明の所謂送気流量・液体トリクロロシラン温度比例連動制御にした後、シリコンエピタキシャル成長装置4台を接続し、うち1台をテストに供した。エピタキシャル成長装置は任意のタイミングで稼働させた。テスト用シリコンエピタキシャル成長装置は一枚ずつ処理をする所謂枚葉式の装置を使用した。エピタキシャル成長レシピを説明した
図7の「New method」の条件でトリクロロシラン・水素混合ガスをエピタキシャル成長装置に導入した。即ち4台のエピタキシャル成長装置がトリクロロシラン・水素混合ガスを使用する際に、他の装置に急な圧力効果等の影響を及ぼさないように、「VENT2」の工程で当該ガスを0から18リットル/minまで徐々に増やしていった。エピタキシャル基盤はP
+で裏面に酸化膜をコートしたものを用いた。およその狙いのエピ膜は成長速度3.45μm/min、厚さは4.5μmとし、成長時間を78秒とした。一方本発明装置の条件は全圧0.150±0.0005MPa(ゲージ圧)、凝縮温度15.0±0.2℃、蒸発器内トリクロロシラン液温はエピタキシャル成長に入っているエピタキシャル成長装置の台数に対応し、28℃乃至38℃の範囲で変化し、発生させたトリクロロシラン・水素混合ガスの濃度はおよそ20%であった。本発明装置からシリコンエピタキシャル成長装置に送られるトリクロロシラン・水素混合ガスの流量は、テストの間18リットル/minから54リットル/minの範囲で変動した。テストは25枚連続成長させた際のバッチ間変動量で評価した。その結果25枚のウェーハの中心部のエピ膜の厚さは4.51±0.03μmであった。本発明の装置は接続されているエピタキシャル成長装置からトリクロロシラン・水素混合ガスの使用信号を受け、その台数に応じた蒸発器内トリクロロシラン液温を設定すること、「VENT2」の工程の当該混合ガスの使用量変化か緩やかなことにより実施例6で見られた蒸発器内トリクロロシラン液温のオーバーシュートを防ぎ、結果トリクロロシラン・水素混合ガスの濃度をほぼ一定に保つことができた。蒸発器の加熱のための運転電力は14%減じることができた。
【0063】
図8は、上記実験例1〜7の条件および結果をまとめた表である。
図8に示すように、1台の反応室に対してガスを供給した実験例1〜4において、実験例2は、実験例1と比較し、電子式圧力調整弁を用いることで、圧力制御のレスポンスを向上させることができ、これにより全圧の制御精度が向上し、その結果、エピ膜厚さのバッチ間誤差が低減した。
実験例3は、実験例2と比較してガス流量を1.5倍にしたものである。全圧の制御精度は変わらないが、蒸発器の温度制御精度が低下し、凝縮器の負荷も若干増した。その結果、混合ガス濃度が若干濃くなり、エピ膜厚さのバッチ間誤差もやや悪化した。
実験例4は、実験例2と比較して蒸発器の温度を下げることで蒸発量を少なくし、凝縮器の負担を減じた結果、混合ガス濃度が若干薄くなりエピ膜厚さのバッチ間誤差が低減した。
【0064】
また、複数台の反応室に対してガスを供給した実験例5〜7において、実験例5は、実験例2または実験例4と比較し、蒸発温度を上げることで蒸発量を増しエピ装置複数台に対応させることを試みたところ、全圧の制御精度は変わらないが、蒸発器の温度制御精度が低下し、凝縮器の負荷も若干増した。その結果、混合ガス濃度が変動し、エピ膜厚さのバッチ間誤差もやや悪化した。
実験例6は、実験例5と比較し、さらに混合ガス流量を増やそうと試みたところ、全圧の制御精度は変わらないが、蒸発器の温度制御精度がさらに低下し、凝縮器の負荷もさらに増した。必要な蒸発量が得られなかったり、逆に蒸発量が過剰となり凝縮器の能力を上回ったりする場面があり、結果トリクロロシラン・水素混合ガスの濃度が大きく変動した。その結果、エピ膜厚さのバッチ間誤差も大きく悪化した。
実験例7は、実験例6と比較して、全圧の制御精度は変わらないが、蒸発器の温度はエピ装置の稼働台数で上下する。これにより蒸発量はガス流量に比例した適正量となる。従って凝縮器の負荷は減じられた。その結果、ガス濃度が安定し、エピ膜厚さのバッチ間誤差も大きく改善し許容範囲に収まった。
【0065】
本発明のトリクロロシランガス供給装置100に1台のエピタキシャル成長装置を接続して稼働させ、本発明のトリクロロシランガス供給装置100内のトリクロロシラン水素混合ガスの濃度変化を3つのCase1〜3で説明したものを
図9に示す。蒸発器1で発生するトリクロロシラン水素混合ガスは、凝縮器2を通過し調整混合ガス送気管21に達する間に冷却されることでトリクロロシランが凝縮液化し、濃度調整される。
【0066】
Case1は、本発明のトリクロロシランガス供給装置100で起こる基本的な混合ガス濃度変化を説明したものである。蒸発器1で濃度aに達したトリクロロシラン水素混合ガスは、凝縮器2内では曲線eに沿って濃度が変化し、調整混合ガス送気管21までには濃度cに相当するトリクロロシランが凝縮する。bは凝縮器2の温度に相当したトリクロロシラン水素混合ガスの飽和濃度であるが、濃度dだけ凝縮するに至らずガスとして残留する。これは、凝縮器2が有限の熱交換面積であり、且つ熱交換時間も有限である現実の装置上必然的に上乗せされた濃度となる。
【0067】
Case2は、蒸発器1の温度制御がラフな場合、或いは意図的に温度を変更し蒸発器1で発生するトリクロロシラン水素混合ガス濃度が変化した場合を説明したものである。Case2は、Case1に比べ温度が高い分、蒸発器1内のトリクロロシラン水素混合ガス濃度f(=a+g)も高くなり、トリクロロシラン水素混合ガスは凝縮器2内では曲線hに沿って濃度が変化する。調整混合ガス送気管21に達する地点では,蒸発器1でのトリクロロシラン水素混合ガス濃度がgだけ高かった分、Case1でのb+dにさらにi上乗せされた濃度となる。
【0068】
Case3は、Case1に対しトリクロロシラン水素混合ガスの使用量を増やした場合を説明したものである。トリクロロシラン水素混合ガスが凝縮器を通過する速度がCase1に対し速いため曲線eより緩やかな曲線jに沿って濃度が変化しCase1に比べさらに濃度kだけ凝縮するに至らずガスとして残留する。これは凝縮器の能力不足を説明したものである。
【0069】
1つの凝縮器をエピタキシャル成長装置(複数台、例えば)3台で使用する場合の問題点について、以下で述べる。
【0070】
この場合、Case3における濃度kが問題となる(濃度d+kはガス流速に起因する濃度上乗せ分といえる。)。凝縮器が著しく大きい場合、コストとスペースの問題はあるものの、濃度d+kは小さくなり精度上問題とはならない。(ガス流速に起因する)濃度差異=(d+k)/bが、凝縮器が現実の範囲の大きさの場合d+kが無視できないほどに大きく、エピタキシャル成長装置が1台稼働時に混合ガス使用量を若干変えた場合ならともかく、2台、3台稼働した場合で誤差が大きく生じるおそれがある。
【0071】
一方、エピタキシャル成長装置は、同じ形式の装置、ましてや1台の装置に反応容器を3つ具備するようなエピタキシャル成長装置はガスの使用量もほぼ同じである。とすると、エピタキシャル成長装置1台に1基ずつ凝縮器を準備してやれば上式でk=0、dも各装置同じ値をとり、結果濃度差異も同じとなり、繰り返し再現性と装置間でのばらつきはなくなることになる。
【0072】
上記事情に鑑みて検討された、本発明の実施形態に従う連続蒸留式トリクロロシラン気化供給装置の他の例について、図面を参照しながら詳細に説明を行う。
【0073】
図10は、本発明の連続蒸留式トリクロロシラン気化供給装置が、複数の装置に対し、トリクロロシランを供給する場合の構成を模式的に示した図である。
【0074】
これら装置は、エピタキシャル成長装置が備える反応室とすることができる。すなわち、エピタキシャル成長装置が1つの反応室を備える場合、および、エピタキシャル成長装置が複数の反応室を備える場合のいずれにおいても、本発明の連続蒸留式トリクロロシラン気化供給装置は、複数の反応室に対し、トリクロロシランを供給することができる。特に、本発明の連続蒸留式トリクロロシラン気化供給装置は、2〜3の反応室に対し、安定してトリクロロシランを供給することができる。
【0075】
図10に示すように、本発明の連続蒸留式トリクロロシラン気化供給装置100が備える凝縮器2は、複数の装置に対し、トリクロロシランを供給することができる。
【0076】
図10は、1つの凝縮器を内部で3分割した例である。これをa域、b域、c域とすると、各域ほぼ同じ伝熱面積を持った3本の凝縮器とみることができる。本構成によれば、従来3本の凝縮器が必要な場合であっても、1つの凝縮器で対応することが可能となり、コストとスペースを削減することができる。
【0077】
また、
図11に示すように、凝縮器2の上端に、凝縮器2を通過したトリクロロシランを、複数の装置に分配するための分配部35を設けることにより、上記効果を実現することもできる。
【0078】
上記凝縮器2は、複数のガス導通管(チューブ)32を有し、分配部35は、複数のガス導通管の出口を複数の装置の数に区画するための隔壁36a,36bを有することができる。例えば、装置の数が3台である場合、2枚の隔壁36a、36bにより、複数のガス導通管32の出口を3つの区分37a,37b,37cに区画することができる。なお、この区分数は、装置の数に応じて適宜変更することができる。
【0079】
区画された複数のガス導通管32の出口の各々には、複数の装置にトリクロロシランを送るための調整混合ガス送気管21が接続されることができる。
【0080】
また、凝縮器2の形状の例としては、
図11に示した円柱型の他、
図12に示すような四角柱型を採用することができる。
図12(a)は四角柱型の凝縮器の外観を、
図12(b)は四角柱型の凝縮器の内部構造を模式的に示したものであり、複数のガス導通管の出口が3つに区画された例が示されている。このような四角柱型の凝縮器は、円筒型の凝縮器と比較して、配置するスペースをより省スペースとすることができる。