(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6503303
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】真菌感染の処置のための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/17 20060101AFI20190408BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20190408BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20190408BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20190408BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20190408BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20190408BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
A61K31/17
A61K47/10
A61K47/12
A61P31/10
A61P17/00 101
A61K47/02
A61K9/08
【請求項の数】24
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-562293(P2015-562293)
(86)(22)【出願日】2014年2月28日
(65)【公表番号】特表2016-514121(P2016-514121A)
(43)【公表日】2016年5月19日
(86)【国際出願番号】GB2014050604
(87)【国際公開番号】WO2014140524
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年2月24日
(31)【優先権主張番号】PCT/GB2013/050654
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】513204300
【氏名又は名称】モーベリ・ファルマ・エイビイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カールソン,エワ
(72)【発明者】
【氏名】アシュカール,サハール・フェイゾラーヒ
(72)【発明者】
【氏名】カウフマン,ペータル
【審査官】
参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05525635(US,A)
【文献】
特開2003−095914(JP,A)
【文献】
特開2007−063136(JP,A)
【文献】
米国特許第05696164(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/17
A61K 9/08
A61K 47/02
A61K 47/10
A61K 47/12
A61P 17/00
A61P 31/10
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
爪への局所適用に適した医薬組成物であって:
(a)前記組成物の総重量に基づき約1〜約35重量%の尿素系成分;
(b)前記組成物の総重量に基づき約40〜約80重量%のジオール成分;
(c)前記組成物の総重量に基づき約1〜約20重量%の有機酸成分;
(d)前記組成物の総重量に基づき約4.5〜約12重量%のトリオール成分;及び
(e)約2〜約6の範囲の前記組成物の最終pHを提供するのに十分な量の水性塩基
を含む、爪への局所適用に適した医薬組成物。
【請求項2】
約8〜約25重量%の前記尿素系成分を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記尿素系成分は、尿素及び/又は過酸化尿素を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
約50〜約70重量%の前記ジオール成分を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ジオール成分はプロピレングリコールを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
約5〜約12重量%の前記有機酸成分を含み、
前記有機酸成分は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリイック酸(capryic acid)、カプリン酸、ソルビン酸、シュウ酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシプロピオン酸、乳酸、グリコール酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、マロン酸、フマル酸、コハク酸、グルタル酸、アピジン酸(apidic acid)、ピメリン酸、オキサルロ酢酸、フタル酸、タルトロン酸、ピルビン酸及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記有機酸成分は乳酸を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
約5〜約10重量%の間の前記トリオール成分を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記トリオール成分はグリセロールを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記水性塩基の量は、約3.5〜約4.5の範囲の前記組成物の最終pHを提供するのに十分である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物の総重量に基づき約2〜約5重量%の前記水性塩基を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記塩基は水酸化ナトリウムである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記塩基は10M水酸化ナトリウムである、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
液体又は溶液の形態である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
爪疾患の処置方法において使用するための、請求項1〜14のいずれか1項において定義される組成物。
【請求項16】
爪疾患処置方法のための薬剤の製造のための、請求項1〜14のいずれか1項において定義される組成物の使用。
【請求項17】
前記爪疾患は爪の真菌感染である、請求項15に記載の組成物
【請求項18】
前記爪疾患は爪の真菌感染である、請求項16に記載の組成物の使用。
【請求項19】
前記爪疾患は爪真菌症である、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
前記爪疾患は爪真菌症である、請求項18に記載の組成物の使用。
【請求項21】
前記処置は、液体又は溶液の形態の前記組成物を罹患爪に適用することを含む、請求項15、17または19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
前記処置は、液体又は溶液の形態の前記組成物を罹患爪に適用することを含む、請求項16、18または20のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項23】
(a)尿素系成分;
(b)ジオール成分;
(c)有機酸成分;及び
(d)任意に水性塩基
を含む、爪への局所適用に適した医薬組成物の尿素系成分の化学的安定性を改善する方法であって、
保存の前に前記組成物に、前記組成物の総重量に基づいて約5〜約12重量%の間のトリオール成分を添加することを含む、爪への局所適用に適した医薬組成物の尿素系成分の化学的安定性を改善する方法。
【請求項24】
前記組成物は、請求項1〜14のいずれか1項において定義されるものである、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌爪感染、特に爪真菌症の処置のための局所適用において有用な医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
爪の真菌感染は、一般に認識されているよりもかなり広く蔓延している。これはごく一部の者しか罹患しないニッチな問題であると理解されることが多い。実際には、これは最も多い爪の疾患であり、欧州及び北米で約1億人の罹患者がいる。有病率は一般集団中で約10%であり、50代以降では25%を超える。
【0003】
爪真菌症は、最も頻度の高い爪の真菌疾患であり、成人人口の約6〜8%が罹患している。爪真菌症は、足指爪及び手指爪の両方で生じ得、爪の肥厚化及び変色が主として現れる。この結果、真菌の侵入により引き起こされる、白濁し、厚く及び/又は脆い爪病変が形成される。爪は乾燥するようになり、割れ、又は剥がれ、帯黄色を呈することが多い。
【0004】
爪が硬化し肥厚化すると、爪のケアがより困難になる。感染した足指爪は、靴を履くのが不快になるほど厚くなり得る。極端な例では爪の破壊が起こり得る。更に、感染爪において醜悪さが感じられることから、手及び/又は足が必然的に露出される状況において、自信及び/又は自尊心の問題につながり得る。
【0005】
爪真菌症に加えて、乾癬を有する全患者の約40%において爪の変色が起こっている。乾燥及び/又は表面の損傷によっても爪が醜悪になり、変色し得る。
【0006】
爪真菌症は、処置が非常に困難な状態でもある。処置時間は長くなることが多く;感染爪が消失し、健康な新しい爪が伸びるまでに1年以上かかり得る。このような長期にわたる処置は、コンプライアンス低下を引き起こすことが公知であり、つまり大多数の患者が十分に処置されないか又は実質的に未処置となる。
【0007】
爪等のケラチン構造の真菌感染の代替的な及び/又はより優れた処置についての研究に対して多大な取り組みが行われてきた。
【0008】
一般に認められる抗真菌化合物、例えばイミダゾール、トリアゾール、チアゾール、エキノキャンディン、アリルアミン(これ以降「抗真菌薬化合物」と呼ぶ)等を爪構造に投与することを目標とする製剤処方に対して多くの研究努力が行われてきた。しかしながら、十分な濃度のこのような抗真菌薬化合物の分布を爪全体に亘って及び爪床に至るまで得るという課題は、解決が困難であることが証明されている。これまでのところ、医師たちは完全に満足のいく溶液を手に入れていない。抗真菌薬化合物を含む新規処方に関する実験室での有望な結果が、臨床では不本意な結果に終わることが多かった。
【0009】
それ自体は抗真菌薬化合物を含まない有効な製剤処方(上記又は以下で列挙されるもののいずれかを含む)が、下記の特許文献1、特許文献2、特許文献3で開示されている。ここでは、その主要な活性成分としてプロピレングリコール及び尿素を含む、特に皮膚及び爪の真菌症の処置のための組成物が開示されているが、上記組成物は乳酸も含んでよい。
【0010】
この処方の有効性及び安全性は複数の臨床試験で立証されている(例えば非特許文献1、非特許文献2を参照のこと)。更に、この処方に基づく製品がEmtrix(登録商標)又はNalox(登録商標)の商標下で販売されている。これは、真菌爪感染又は乾癬により引き起こされる爪変色及び損傷の処置において最初に指示される。
【0011】
Emtrix(登録商標)の成分は全てGRAS(FDAによる食品添加物安全基準合格証(General Regarded as Safe))に列挙される化合物であり、完全に生体分解性である。この製品は保存剤及び香料を含んでいない。これは、障害のある爪に直接溶液として適用される。
【0012】
この製品の有効性にもかかわらず、本発明者らは、この溶液の化学的安定性がより高い保存温度で改善され得ることを見出した。特に、このような処方中の尿素は化学的に分解する。この不安定性は予想外に、液体処方にグリセロール等のトリオールを添加することによって解決される。
【0013】
グリセロールは、化粧品及び製剤処方中の構成成分として一般的に使用される。例えば下記特許文献4、特許文献5を参照のこと。
【0014】
白色化剤としての尿素・過酸化水素(又は過酸化カルバミド)の使用は、下記特許文献6、下記特許文献7から公知である。下記特許文献8において、尿素を含む皮膚(局所)適用用の組成物は、短鎖脂肪酸及びグリセロール由来のエステルと組み合わせてヌクレオチドを添加することによって安定化される。
【0015】
下記特許文献9は、例えば対象の爪への組成物の適用及び有機溶媒の蒸発の前に尿素が固相状態にされる溶媒を含む医薬組成物を記載している。グリセロールは、有機溶媒が蒸発した後に組成物の「洗浄性」を向上させるために含まれていてよい物質として挙げられている。
【0016】
出願人の知る限りでは、液体又は溶液ベースの医薬組成物中で尿素が溶解されるか又は与えられる場合、尿素を化学的に安定させるためのグリセロール等のトリオールの使用の開示は先行技術において存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第87/04617号
【特許文献2】米国特許第5525635号
【特許文献3】欧州特許第EP292495B1号
【特許文献4】国際公開第03/090736号
【特許文献5】米国特許第8158138号
【特許文献6】米国特許第6573301号
【特許文献7】米国特許出願第2007/0098654号
【特許文献8】日本国特許出願第2001−019610号
【特許文献9】国際公開第2012/110430号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Emtestam,Kaaman and Rensfeldt(2012),Mycoses,55,532(2012)
【非特許文献2】Faergemann,Gullstrand and Rensfeldt,Journal of Cosmetics,Dermatological Sciences and applications,1(2011)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1の態様によると、皮膚及び/又は好ましくは爪への局所適用に適した医薬組成物が提供され、本組成物は、
(a)本組成物の総重量に基づき例えば約1〜約35重量%の尿素系成分;
(b)本組成物の総重量に基づき例えば約40〜約80重量%のジオール成分;
(c)本組成物の総重量に基づき例えば約1〜約20重量%の有機酸成分;
(d)本組成物の総重量に基づき例えば約4.5〜約12重量%のトリオール成分;及び
(e)任意に水性塩基
を含む。このような組成物をこれ以降「本発明の組成物」と呼ぶ。
【0020】
本発明の組成物中には、有機酸成分が存在するため、水性塩基が含まれていてよい。これに関して、少量の水性塩基(水酸化ナトリウム水溶液等、例えば10M NaOH(aq.))の添加によって、最終処方のpHを、例えば規制条件に適合するよう引き上げる必要があり得る。処方物の最終pHは好ましくは、約2〜約6(例えば約3.5〜約5、例えば〜約4.5)の範囲である。いずれにせよ、約30%以下の水が本発明の組成物中に含まれていてよい。
【0021】
本明細書において、量(例えば、組成物中又は組成物の成分中の個々の構成要素の相対量、例えば%量等、並びに活性成分及び/又は賦形剤の絶対用量(比を含む))、温度、圧力、時間、pH値、pKa値、濃度等の文脈で「約」という語を使用する場合は必ず、このような変量が近似であり、従って本明細書中で指定されている数から±10%、例えば±5%、好ましくは±2%(例えば±1%)変動し得ることが理解されるだろう。
【0022】
尿素系成分は、尿素それ自体を含んでもよく、及び/又は過酸化尿素を含んでよい。過酸化尿素は、尿素・過酸化水素(UHP)、ペルカルバミド(percarbamide)又は過酸化カルバミドとしても公知であり、過酸化水素及び尿素の付加物であり、化粧品及び医薬品中で消毒剤又は漂白剤として主に使用される。本発明者らは、このような本発明の組成物を使用する際、過酸化尿素の添加によって、爪の外観がより迅速に改善されることを見出した。これは同様にコンプライアンスの向上につながり;外観の改善は患者にとって、処置を継続する動機となる。
【0023】
ジオール成分は少なくとも1つのジオールを含む。ジオール成分の非限定的な例は、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール(例えば1,5−ペンタンジオール)、ヘキサンジオール及びこれらの混合物である。必要に応じて、ジオール成分は、プロピレングリコール及び別のジオール、例えば1,5−ペンタンジオール等の混合物等のジオールの混合物であってよい。好ましいジオールは、プロピレングリコールである。
【0024】
使用してよい有機酸の成分は、(本発明の組成物の適用部位において)約2.0(例えば約3.5)〜約6.5の間のpHをもたらすことを可能にする。この発明の目的のために、この用語は、弱酸等、哺乳動物における使用のために安全である物質を含む。弱酸の典型的なpKaは、約〜1.5(例えば約〜1.74、例えば約1.00、例えば2.00〜)約16(例えば約15.74)の間の範囲である(例えばVollhardt,Organic Chemistry(1987)を参照のこと)。好ましい範囲は約1〜約10の間である。
【0025】
従って有機酸成分は、C
1ー10カルボン酸を含んでいてよく、これは純粋な/そのままの及び/又は(例えば水性の)溶液の状態で提供されてよい。C
1ー10カルボン酸の例としては、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の炭素原子を有する飽和及び/又は不飽和の、直鎖状及び/又は分岐状脂肪族モノ−、ジ−及びポリカルボン酸、1、2、3、4、5、6、7又は8個の炭素原子を有する、アルキルアリール又は芳香族ジカルボン酸、オキシ及びヒドロキシルカルボン酸(例えばα−ヒドロキシ酸)が挙げられる。適切な有機酸成分の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリイック酸(capryic acid)、カプリン酸、ソルビン酸、シュウ酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシプロピオン酸(例えば2−ヒドロキシプロピオン酸、これ以降、乳酸と呼ぶ)、グリコール酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、マロン酸、フマル酸、コハク酸、グルタル酸、アピジン酸(apidic acid)、ピメリン酸、オキサロ酢酸、フタル酸、タルトロン酸、ピルビン酸のうちの1つ又は複数が挙げられる。好ましい有機酸としては、ヒドロキシ酸、例えばヒドロキシ酪酸、ヒドロキシプロピオン酸(例えば乳酸)、グリコール酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸が挙げられる。より好ましい有機酸としては乳酸が挙げられる。乳酸は例えば90%水溶液で提供されてよい。
【0026】
尿素系成分、ジオール成分及び/又は有機酸成分は薬理学的有効量で使用してよく、上記薬理学的有効量は、単独で投与される又は別の成分と組み合わせて投与されるかにかかわらず、処置を受ける患者に対して、所望の治療効果を共に付与することができるこのような成分の量を指す。このような効果は、客観的(即ちある試験又はマーカにより測定可能なもの)であってよく、又は主観的(即ち対象が陽性効果の兆候を与えるもの)であってよい。
【0027】
本発明の組成物中で組み合わせて使用してよい尿素系成分、ジオール成分、有機酸成分の個々の量は、個々の患者に最も適切であろうものに関して、熟練者が決定してよい。これは、処置されることになる状態のタイプ及び重症度並びに処置対象の特定の患者の反応によって変動し得るものの、本発明の組成物中で使用され得る典型的な総量は、本組成物の総重量に基づき:
(i)尿素系成分は、約1〜約35重量%、例えば約3(例えば約5)〜約30重量%、例えば約8(例えば約10)〜約25重量%の範囲であり;
(ii)ジオール成分は、約40〜約80重量%、例えば約45〜約75重量%、例えば約50〜約70重量%の範囲であり;
(iii)有機酸成分は、約1(例えば約2)〜約20重量%、好ましくは約3(例えば約4)〜約15重量%、より好ましくは約5(例えば約8)〜約12重量%の範囲である。
【0028】
有機酸成分とジオール成分との適切な濃度比率は、本組成物の総重量に基づき、約1:20〜約1:1、好ましくは約1:15〜約1:2、より好ましくは約1:12〜約1:4の重量比である。
【0029】
処方物中のジオール成分と有機酸成分とを合わせた総濃度は好ましくは、約50〜約90%、例えば約55〜約85%、例えば約60〜約80%の範囲である。
【0030】
本発明の組成物は、グリセロール及びこれらの誘導体を含むトリオール成分を更に含む。本明細書中で言及するように、本発明者らは、国際特許第87/04617号、米国特許第5525635号、欧州特許第EP292495B1号で開示されるもの等、同様の組成物を比較した場合、驚くべきことにグリセロールが本発明の組成物の化学的安定性を向上させることを見出した。
【0031】
本発明の組成物は、例えばより高い温度でより化学的に安定であり、従ってより温暖な気候でより容易に保存できる。
【0032】
「化学的安定性」とは、本発明者らにとって、本発明の組成物が僅かな化学分解度又は変質度で通常の保存条件下で保存されてよいことを含む。「通常の保存条件」の例としては、長期(即ち6カ月以上)にわたる、−80〜+50℃の間(好ましくは0〜40℃、より好ましくは周囲温度、例えば15〜30℃の間等)の温度、0.1〜2barの間の圧力(好ましくは大気圧)、5〜95%(好ましくは10〜60%)の間の相対湿度及び/又は460luxのUV/可視光への曝露が挙げられる。このような条件下で、本発明の組成物は、約15%未満、より好ましくは約10%未満、特に約5%未満だけ適宜化学的に分解される/変質するか又は固相変換されることが分かるだろう。上述の温度及び圧力の上限及び下限が通常の保存条件の極値を示し、これらの極値の特定の組み合わせ(例えば50℃の温度及び0.1barの圧力)は通常の保存中には見られないことは、熟練者には理解されるだろう。
【0033】
特に、トリオール成分の存在により尿素系成分の化学的安定性が改善される。
【0034】
本発明の更なる態様によると、
(a)上記尿素系成分;並びに
(b)ジオール成分;
(c)有機酸成分;及び
(d)任意に水性塩基
を含む、爪及び/又は特に皮膚への局所適用に適した医薬組成物の保存安定性(並びに特にこのような組成物中の尿素系成分の化学的安定性)を改善する方法が提供され、この方法は、上記保存の前にこの組成物に、組成物の総重量に基づいて約4.5(例えば約5)〜約12重量%の間のトリオール成分を添加することを含む。
【0035】
本発明の組成物中で使用してよいグリセロール及び/又は誘導体等のトリオールの典型的な総量は、本組成物の総重量に基づき、約4.5〜約25重量%、例えば約4.75〜約15重量%等、例えば約5(例えば約6)〜約12重量%(例えば約10重量%)の範囲であってよい。
【0036】
本発明の組成物は任意に、揮発性有機溶媒を含む。例えば国際公開第2011/019317号を参照のこと。使用される場合、揮発性有機溶媒は、室温での適用後、それが約5分以内、より好ましくは約3分以内に蒸発するように選択してよい。20℃で少なくとも2kPaの蒸気圧である揮発性有機溶媒を使用してもよく、例えば、蒸気圧が高い(20℃で約2kPa超)、エステル、アルコール、ケトン、飽和炭化水素等の極性溶媒である。適切な揮発性有機溶媒の例としては、酢酸メチル、イソプロパノール(イソプロピルアルコール)、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、特に酢酸エチル及び/又は酢酸ブチルが挙げられる。
【0037】
本発明の組成物は任意に、以上で述べたタイプのうちの1つ等の、抗真菌薬化合物を含む。従ってこのような化合物の例としては:ミコナゾール、ケトコナゾール、エコナゾール、ビホナゾール、ブトコナゾール、フェンチコナゾール、イソコナゾール、オキシコナゾール、セルタコナゾール、スルコナゾール、チオコナゾール等のイミダゾール;フルコナゾール、イトラコナゾール、イサブコナゾール、ラブコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、テルコナゾール等のトリアゾール;アバファンギン(abafungin)等のチアゾール;アニデュラファンギン、カスポファンギン、ミカファンギン等のエキノキャンディン;より好ましくは、アモロルフィン、ブテナフィン、特にナフチフィン、とりわけテルビナフィン等のアリルアミン;並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0038】
存在する場合、抗真菌薬化合物は医薬的有効量で与えられることになり、この量は、選択される特定の1つ又は複数の抗真菌成分に応じて変動してよいが、本組成物の総重量に基づき、約0.01〜約15重量%(例えば約10重量%)、より好ましくは約0.2〜約5重量%、より好ましくは約0.75〜約2.5重量%、より好ましくは約0.8〜約1.2重量%の範囲であってよい。
【0039】
本発明の組成物中に抗真菌薬化合物が与えられる場合、これに対応して、尿素系成分及びジオール成分(又は有機酸成分)等の他の活性成分の上述の好ましい濃度範囲を減少させる必要があり得ることは、熟練者には理解されるだろう。
【0040】
尿素系化合物は部分的に、角質溶解剤として作用してよい。本発明の組成物は任意に、システイン、メチオニン、N−アセチルシステイン、ホモシステイン、メチルシステイン、エチルシステイン、N−カルボミルシステイン(N−carbomyl cysteine)、グルタチオン、システアミン及びこれらの誘導体等を含む更なる角質剥離剤を含む。
【0041】
更に、本発明の組成物は、投与中及び処置中の爪においてテクスチャを改善する化合物を含んでよい。これにより、投与時に粘性が上昇し、投薬が容易になる。これによってまた、爪の表面に製品が留まり、その効果を発揮できるようになる。本発明のある実施形態によると好ましくは、本組成物は、適切な粘性増大特性を有するポリマー(以下「増粘剤」と呼ぶ)を含む。このような化合物の非限定的な例としては、エチルセルロース、酢酸酪酸セルロース等のセルロース誘導体、オイドラギット(Eudragit)等のポリメタクリラートが挙げられる。このような増粘剤の適切な濃度は、当業者によって決定されてよい。
【0042】
必要に応じて、本組成物は封鎖剤を更に含んでよい。このような封鎖剤の非限定的な例としては、アミノ酢酸、ホスホナート、ホスホン酸及びこれらの混合物のうちの1つ又は複数が挙げられる。封鎖剤は金属錯化剤であり得、従ってアルカリ金属又はアルカリ土類金属等の金属と錯体を形成し得る。好ましいアミノ酢酸はエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)である。組成物中に含まれる場合、封鎖剤の適切な量の例としては、約0.01〜約5重量%、好ましくは約0.03〜約0.5重量%が挙げられる。
【0043】
本発明の組成物は界面活性剤を更に含んでよい。適切な界面活性剤の非限定的な例としてはTween 80が挙げられる。界面活性剤の適切な濃度は、約0.1%〜約5%、より好ましくは約0.5〜約3%、更により好ましくは約0.7〜約1.5%の範囲である。
【0044】
必要に応じて、安定化剤、浸透促進剤、着色剤等の他の医薬的に許容可能な担体及び賦形剤も本発明の組成物に添加してよい。
【0045】
本発明の好ましい実施形態は、約50〜約70%のプロピレングリコール等のジオール成分、約5(例えば約7)〜約15%(例えば約12%)の乳酸等の有機酸成分、約8(例えば約15)〜約25%の尿素及び/又は過酸化カルバミド等の尿素系成分、約5〜約10%(例えば約7.5%)のグリセロール等のトリオール成分並びに任意に約2〜約5%の10M水酸化ナトリウム等の水性塩基を含む。
【0046】
本発明の組成物は、標準的技術によって、及び熟練者にとって公知の標準的な装置を使用して、調製してよい。標準的な混合又は他の製剤原則によって、他の成分を組み込んでよい。
【0047】
従って、局所投与用を対象とした様々な種類の医薬製剤に関して当技術分野で使用される従来の医薬品添加物及び/又は賦形剤と本発明の組成物とを組み合わせることによって、本発明の組成物を、標準的技術(例えばLachmanら,「The Theory and Practice of Industrial Pharmacy」,Lea & Febiger,3
rd edition(1986)及び「Remington:The Science and Practice of Pharmacy」,Gennaro(ed.),Philadelphia College of Pharmacy & Sciences,19
th edition(1995)を参照のこと)を用いて上記製剤に組み込んでよい。
【0048】
本発明の組成物は好ましくは、皮膚及び/又は爪に直接投与される。例えば本組成物は、爪真菌症等の真菌疾患に罹患したヒトの足指爪又は手指爪上及びその周囲に投与される。これは、1日あたり約2回又は3回〜1週間に約1回まで、液体/溶液組成物の層により、この液体/溶液組成物で各罹患爪を被覆することによって行ってよい。本組成物はまた、爪の端部にも適用してよい。このような組成物の投与は、ドロップ・チップ(drop tip)、小型ブラシ又はスパチュラ等、適切なデバイスによって達成してよい。
【0049】
本発明の組成物は、例えば爪の高浸透性を示す。これは、爪浸透に対するインビトロ法によって評価できる。例えば、以下の実施例で記載されるように、ウシ蹄からの膜を通じた浸透を試験するために、フランツ細胞を使用できる。
【0050】
従って本発明の組成物は、爪の真菌感染、例えば爪真菌症等の爪疾患の処置において使用してよい。
【0051】
本発明の更なる態様によると、本発明の組成物を患者の爪に投与することを含む、爪疾患を処置するための方法が提供される。
【0052】
本発明によると、処置にあたって本発明の組成物を、レーザ治療、テルビナフィン等の経口抗真菌製剤及び/又はシクロピロクスオラミン、アモロルフィン等を含む製剤等の局所抗真菌処置を含む1つ又は複数の他の抗真菌爪処置と組み合わせてよい。
【0053】
爪及び/又は皮膚疾患の「処置」は、本発明者らにとって、治療及び/又は美容処置並びに疾患の症候的、予防的、緩和的処置を含む。従って処置は、真菌疾患の症状の緩和並びに爪及び/又は皮膚の外観の改善を含む。
【0054】
本発明の組成物は、製造が容易であり、廉価であり、容易に局所適用でき、本明細書中で前に記載のもの等の症状の迅速な軽減を可能にし得る。
【0055】
本発明の組成物はまた、これらが確立された製薬加工方法を用いて調製され、食品、医薬品若しくは化粧品における使用について承認されている及び/又は同等の規制状況を有する材料を使用してよいという利点も有し得る。
【0056】
本発明の組成物はまた、皮膚又は爪疾患等の処置における使用に対するものであるか否かにかかわらず、先行技術において公知の医薬組成物よりも有効性が高く、毒性が低く、作用時間が長く、強力であり、副作用が少なく、容易に吸収され、患者の許容性が高く、医薬プロファイルが優れており、及び/又は他の有用な薬理学的、物理的若しくは化学的特性を有することができるという利点も有してよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】
図1は、先行技術の市販組成物に対する、本発明の組成物の化学的安定性の比較を示す。
【実施例】
【0058】
図1を参照しながら、以下実施例を用いて本発明を例示する。
【0059】
比較例1
市販処方物
プロピレングリコール中に尿素を溶解させた後、乳酸と、それに続いて10M NaOH水溶液とを添加することによって、以下の割合で成分を有する組成物を3つのバッチサイズ(450kg、150kg、20kg)で調製した。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例2
グリセロールを含む組成物I
プロピレングリコール及びグリセロール中に尿素を溶解させた後、乳酸と、それに続いて10M NaOH水溶液とを添加することによって、以下の割合で成分を有する組成物を0.5kgのバッチサイズで調製した。
【0062】
【表2】
【0063】
実施例3
グリセロールを含む組成物II
乳酸及びグリセロール中に尿素・過酸化水素を溶解させた後、プロピレングリコールと、それに続いて尿素を添加することによって、以下の割合で成分を有する組成物を50gのバッチサイズで調製した。尿素が完全に溶解したら、試料調製の終了時に10M NaOHを添加した。
【0064】
【表3】
【0065】
実施例4
グリセロールを含む組成物III
プロピレングリコール及びグリセロール中に尿素を溶解させた後、乳酸と、それに続いて10M NaOH水溶液を添加することによって、以下の割合で成分を有する組成物を3kgのバッチサイズで調製した。
【0066】
【表4】
【0067】
実施例5
グリセロールを含む組成物IV
乳酸及びグリセロール中で尿素・過酸化水素を溶解させた後、プロピレングリコール及び尿素を添加することによって、以下の割合で成分を有する組成物を5kgのバッチサイズで調製した。尿素が完全に溶解したら、試料調製の終了時に10M NaOHを添加した。
【0068】
【表5】
【0069】
実施例6
グリセロールを含む組成物V
実施例2に記載の手順に従い、以下の割合で成分を有する組成物を0.2kgのバッチサイズで調製した。
【0070】
【表6】
【0071】
実施例7
比較試験
3種類の異なる安定性試験において(比較例1に記載したように)3種類の異なる製品バッチ中での尿素の化学的変質を調べ、実施例2、6のものと比較した。尿素含量の決定のために、分析方法(RP−HPLC−UV)を用いた。
【0072】
結果を以下の表1及び
図1に示す。実施例1の3つの全てのバッチは、6カ月の時点で仕様外(out of specification:OOS;10%超の分解)となる。あるものは3カ月の時点でOOSとなる。しかしながら実施例2に対する尿素含量は、6カ月の試験全体にわたり仕様内であり、実施例6は3カ月後の時点で仕様内である。
【0073】
従ってグリセロールは、加速条件(40℃)で保存される製品処方物中の尿素の安定性を向上させる。
【0074】
【表7】