特許第6503321号(P6503321)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6503321
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】車両用ペダル装置の後退防止装置
(51)【国際特許分類】
   G05G 1/323 20080401AFI20190408BHJP
   B60T 7/06 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
   G05G1/323
   B60T7/06 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-110774(P2016-110774)
(22)【出願日】2016年6月2日
(65)【公開番号】特開2017-215899(P2017-215899A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2018年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241496
【氏名又は名称】豊田鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】特許業務法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】安部 純也
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−519053(JP,A)
【文献】 特開2015−152982(JP,A)
【文献】 特開平10−264785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05G 1/323
B60T 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前側のダッシュパネルに固定されたペダルブラケットと、
前記ペダルブラケットに配設された第1支持軸によって回動可能に支持され、車両前側への踏込み操作に用いられる踏部を有する操作ペダルと、
前記ペダルブラケットに対して、前記第1支持軸に平行に配設された第2支持軸まわりに回動可能に支持されると共に、前記第2支持軸を軸とした出力方向への回動によって、所定の出力部材を車両前側へ変位させる中間レバーと、
前記操作ペダルと前記中間レバーを連結し、前記操作ペダルに対する踏込み操作に連動して、前記中間レバーを前記出力方向へ回動させる連結リンクと、を有する車両用ペダル装置に関し、前記ダッシュパネルが車両後側へ変位した場合に、前記操作ペダルの踏部の車両後側への変位を抑制する後退防止装置であって、
前記出力部材は、
前記中間レバーに対して車幅方向両側に位置する一対の取付板を有するクレビスを、当該出力部材の先端部に備え、
前記クレビスにおける一対の取付板及び前記中間レバーを貫通するクレビスピンを介して、前記中間レバーに連結されており、
車両後方側に位置する車体部材に対する相対位置が固定され、前記ダッシュパネルが車両後側へ変位した場合に、前記クレビスピンの両端をせん断するせん断部材を有し、
前記せん断部材は、
前記ダッシュパネルが車両後側へ変位した場合に、前記クレビスピンよりも車両後方側から、前記クレビスピンの両端部に当接する一対の当接部を有する
ことを特徴とする車両用ペダル装置の後退防止装置。
【請求項2】
前記せん断部材の当接部は、
前記ダッシュパネルが車両後側へ変位した場合に、車幅方向に関して、前記中間レバーと、前記クレビスにおける取付板の間に位置する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用ペダル装置の後退防止装置。
【請求項3】
前記せん断部材の当接部は、車両前方側ほど、車幅方向の厚みが小さくなっている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用ペダル装置の後退防止装置。
【請求項4】
前記せん断部材の当接部における先端部分が、上下方向に関して円弧を描いている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の車両用ペダル装置の後退防止装置。
【請求項5】
前記クレビスは、車両後方側ほど車幅方向外側に位置するように伸びたガイド部を、各取付板の先端に有する
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用ペダル装置の後退防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前方衝突に伴ってダッシュパネルが車両後側へ変位した場合に、操作ペダルが後退することを抑制する車両用ペダル装置の後退防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の前方衝突時に操作ペダルが車体後方の乗員側に移動することを抑制する車両用ペダル装置の後退防止装置として、種々の発明がなされている。車両の前方衝突に伴ってダッシュパネルが車両後側へ変位した場合においては、車両用ペダル装置のペダル操作で変位させられる出力部材は、車両衝突時の各部の変形や、ブレーキブースタ等の装置内における媒体圧力等の影響によっては、車両前側へ変位させることができない場合も生じ得る。
【0003】
この点に考慮してなされた発明として、例えば、特許文献1に記載された発明が知られている。特許文献1に記載されたブレーキペダル装置は、ペダルブラケットと、ブレーキペダルと、中間レバーに相当する第2ブレーキアームと、連結リンクに相当するアームリンクと、回転リンクアームとを有しており、ダッシュパネルが運転席側へ後退変位させられた際に前記ブレーキペダルの踏部がその運転席側へ後退することを抑制するように構成されている。
【0004】
具体的に説明すると、特許文献1に記載されたブレーキペダル装置において、ペダルブラケットは、ダッシュパネルの車室内側に固定され、ブレーキペダルがペダルブラケットに揺動自在に支持されている。中間レバーに相当する第2ブレーキアームは、クレビスによって、一端がブレーキ装置に連結されたプッシュロッドと連結されている。
【0005】
ダッシュパネルが運転席側へ後退変位し、ペダルブラケットが車両後方へ移動すると、回転リンクアームを構成する第2アームは、プッシュロッドを折り曲げるようにプッシュロッドの軸方向と交差する方向の押圧力を付与する。クレビスとプッシュロッドとの連結部は押圧力により変形可能に構成され、その変形によりクレビスとプッシュロッドとの連結が解除される。これにより、ブレーキペダルが回動自在な状態となる為。特許文献1に記載のブレーキペダル装置は、ダッシュパネルが運転席側へ後退変位させられた際に、ブレーキペダルの踏部の運転席側への後退を抑制し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−186369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献1に記載されたブレーキペダル装置においては、ダッシュパネルが運転席側へ後退変位した場合に、ブレーキペダルの後退を抑制する為には、回転リンクアームが重要な機能を果たしている。当該回転リンクアームは、第1アームと、第2アームとを有して構成されており、ダッシュパネルを運転席側へ後退変位させる方向の荷重を上下方向に変換して、プッシュロッドを折り曲げるようにプッシュロッドの軸方向と交差する方向の押圧力を付与する。この為、特許文献1における回転リンクアームの構成部材や連結部は、荷重等に耐え得る十分な強度や剛性を有している必要があり、ブレーキペダル装置全体としての重量等が増大してしまう傾向にある。
【0008】
又、特許文献1における回転リンクアームは、第1アームと、第2アームとを有して構成されており、連結部を含めて多くの構成部品が必要となる為、多くの構成部品の製造コストに起因して、装置全体としての製造コストが増大することが想定される。
【0009】
本発明は、車両の前方衝突に伴ってダッシュパネルが車両後側へ変位した場合に、操作ペダルが後退することを抑制する車両用ペダル装置の後退防止装置に関し、出力部材を変位させることなく、簡易な構成で操作ペダルの後退防止機能を発揮させ得る車両用ペダル装置の後退防止装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面に係る車両用ペダル装置の後退防止装置は、車両前側のダッシュパネルに固定されたペダルブラケットと、前記ペダルブラケットに配設された第1支持軸によって回動可能に支持され、車両前側への踏込み操作に用いられる踏部を有する操作ペダルと、前記ペダルブラケットに対して、前記第1支持軸に平行に配設された第2支持軸まわりに回動可能に支持されると共に、前記第2支持軸を軸とした出力方向への回動によって、所定の出力部材を車両前側へ変位させる中間レバーと、前記操作ペダルと前記中間レバーを連結し、前記操作ペダルに対する踏込み操作に連動して、前記中間レバーを前記出力方向へ回動させる連結リンクと、を有する車両用ペダル装置に関し、前記ダッシュパネルが車両後側へ変位した場合に、前記操作ペダルの踏部の車両後側への変位を抑制する後退防止装置であって、前記出力部材は、前記中間レバーに対して車幅方向両側に位置する一対の取付板を有するクレビスを、当該出力部材の先端部に備え、前記クレビスにおける一対の取付板及び前記中間レバーを貫通するクレビスピンを介して、前記中間レバーに連結されており、車両後方側に位置する車体部材に対する相対位置が固定され、前記ダッシュパネルが車両後側へ変位した場合に、前記クレビスピンの両端をせん断するせん断部材を有し、前記せん断部材は、前記ダッシュパネルが車両後側へ変位した場合に、前記クレビスピンよりも車両後方側から、前記クレビスピンの両端部に当接する一対の当接部を有する
ことを特徴とする。
【0011】
当該車両用ペダル装置の後退防止装置は、ペダルブラケットと、操作ペダルと、中間レバーと、連結リンクと、を有しており、踏込み操作に伴う操作ペダルの回動に連動して、連結リンクを介して中間レバーを回動させることができ、もって、出力部材を車両前側へ変位させ得る。そして、当該車両用ペダル装置の後退防止装置においては、出力部材の先端部には、クレビスが配設されており、当該出力部材は、クレビス及びクレビスピンを介して、中間レバーに連結されている。又、当該車両用ペダル装置の後退防止装置は、せん断部材を有している。当該せん断部材は、車両後方側に位置する車体部材に対する相対位置が固定されており、一対の当接部を有している。従って、当該車両用ペダル装置の後退防止装置によれば、前記ダッシュパネルが車両後側へ変位した場合に、前記せん断部材における一対の当接部を、前記クレビスピンよりも車両後方側から、前記クレビスピンの両端部に夫々当接させて、クレビスピンをせん断することができる。これにより、当該車両用ペダル装置の後退防止装置によれば、中間レバーに対する出力部材の連結が解除される為、中間レバー及び操作ペダルを夫々回動自在な状態とすることができ、もって、操作ペダルの踏部が車両後側へ変位することを抑制できる。又、当該車両用ペダル装置の後退防止装置によれば、一対の当接部を有するせん断部材を配設するという構成である為、装置全体の重量や製造コストを抑えることができる。
【0012】
又、本発明の他の側面に係る車両用ペダル装置の後退防止装置は、請求項1に記載の車両用ペダル装置の後退防止装置であって、前記せん断部材の当接部は、前記ダッシュパネルが車両後側へ変位した場合に、車幅方向に関して、前記中間レバーと、前記クレビスにおける取付板の間に位置することを特徴とする。
【0013】
当該車両用ペダル装置の後退防止装置において、前記せん断部材の当接部は、前記ダッシュパネルが車両後側へ変位した場合に、車幅方向に関して、前記中間レバーと、前記クレビスにおける取付板の間に位置する。従って、当該車両用ペダル装置の後退防止装置によれば、ダッシュパネルが車両後側へ変位した場合に、前記中間レバーと前記クレビスにおける取付板の間において、クレビスピンの両端をせん断することができる。この結果、クレビスピンの両端は、クレビスの外側に外れて抜け落ちることになる。即ち、当該車両用ペダル装置の後退防止装置によれば、中間レバーと出力部材の連結を確実に解除することができ、操作ペダルの踏部が車両後側へ変位することを確実に抑制できる。
【0014】
本発明の他の側面に係る車両用ペダル装置の後退防止装置は、請求項1又は請求項2に記載の車両用ペダル装置の後退防止装置であって、前記せん断部材の当接部は、車両前方側ほど、車幅方向の厚みが小さくなっていることを特徴とする。
【0015】
当該車両用ペダル装置の後退防止装置によれば、前記せん断部材の当接部は、車両前方側ほど、車幅方向の厚みが小さくなっている為、クレビスピンに対する各当接部の接触面積を小さくすることができる。即ち、当該車両用ペダル装置の後退防止装置によれば、前記ダッシュパネルが車両後側へ変位する際の荷重を、各当接部を介して、クレビスピンに集中して作用させることができ、クレビスピンの両端を確実にせん断することができる。即ち、当該車両用ペダル装置の後退防止装置によれば、中間レバーと出力部材の連結を確実に解除することができ、操作ペダルの踏部が車両後側へ変位することを確実に抑制できる。
【0016】
又、本発明の他の側面に係る車両用ペダル装置の後退防止装置は、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の車両用ペダル装置の後退防止装置であって、前記せん断部材の当接部における先端部分が、上下方向に関して円弧を描いていることを特徴とする。
【0017】
当該車両用ペダル装置の後退防止装置によれば、前記せん断部材の当接部における先端部分は、上下方向に関して円弧を描いている為、前記ダッシュパネルが車両後側へ変位する過程で、各当接部に対するクレビスピンの位置を、各当接部の円弧に従って所定の位置(例えば、円弧における最も車両後方側の位置)に案内することができる。これにより、当該車両用ペダル装置の後退防止装置によれば、前記ダッシュパネルが車両後側へ変位する際の荷重を、各当接部を介して、クレビスピンに効率良く作用させることができ、クレビスピンの両端を確実にせん断することができる。即ち、当該車両用ペダル装置の後退防止装置によれば、中間レバーと出力部材の連結を確実に解除することができ、操作ペダルの踏部が車両後側へ変位することを確実に抑制できる。
【0018】
そして、本発明の他の側面に係る車両用ペダル装置の後退防止装置は、請求項2に記載の車両用ペダル装置の後退防止装置であって、前記クレビスは、車両後方側ほど車幅方向外側に位置するように伸びたガイド部を、各取付板の先端に有することを特徴とする。
【0019】
当該車両用ペダル装置の後退防止装置によれば、前記クレビスにおける各取付板の先端に、車両後方側ほど車幅方向外側に位置するように伸びたガイド部を有している為、ダッシュパネルが車両後側へ変位する過程で、せん断部材における各当接部を、車幅方向に関して、前記中間レバーと、前記クレビスにおける取付板の間に案内することができる。これにより、当該車両用ペダル装置の後退防止装置によれば、前記中間レバーと前記クレビスにおける取付板の間において、クレビスピンの両端をせん断することができ、操作ペダルの踏部が車両後側へ変位することを確実に抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
この発明は、ペダルブラケットと、操作ペダルと、中間レバーと、連結リンクと、せん断部材とを有している。出力部材の先端部には、クレビスが配設されており、当該出力部材は、クレビス及びクレビスピンを介して、中間レバーに連結されている。又、せん断部材は、車両後方側に位置する車体部材に対する相対位置が固定されており、一対の当接部を有している。従って、前記ダッシュパネルが車両後側へ変位した場合に、前記せん断部材における一対の当接部を、前記クレビスピンよりも車両後方側から、前記クレビスピンの両端部に夫々当接させて、クレビスピンをせん断することができ、もって、中間レバー及び操作ペダルを夫々回動自在な状態とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係るブレーキペダル装置の概略構成を示す側面図である。
図2】本実施形態におけるクレビス及びせん断部材近傍の拡大平面図である。
図3】本実施形態に係るブレーキペダル装置の前方衝突時における動作を示す説明図である。
図4】前方衝突時におけるクレビス及びせん断部材近傍の拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る車両用ペダル装置の後退防止装置を、常用ブレーキ用のブレーキペダル装置1に適用した実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0023】
(ブレーキペダル装置の概略構成)
先ず、本実施形態に係るブレーキペダル装置1の概略構成について、図1図2を参照しつつ詳細に説明する。尚、図1は、ブレーキペダル装置1の概略構成を示す側面図であり、ペダルブラケット10を仮想線(破線)で示すことで、その内側の構造が分かるように示している。
【0024】
本実施形態に係るブレーキペダル装置1は、エンジンルームと車室内とを区切るダッシュパネルPと、ダッシュパネルPよりも車両後側(運転席側)に配設された車体部材(例えば、インパネリインフォースメントI等)に対して固設されており、ペダルブラケット10と、操作ペダル20と、中間レバー25と、連結リンク30と、せん断部材50とを有している。そして、当該ブレーキペダル装置1は、操作ペダル20の踏込み操作によって当該操作ペダル20が回動した場合に、ブレーキブースタBのオペレーティングロッドRを車両前方側へ変位させることで、車両に対する制動力を発生させるように構成されている。
【0025】
ブレーキブースタBは、ダッシュパネルPの車両前側(即ち、エンジンルーム側)に一体的に固設されており、出力部材としてのオペレーティングロッドRを有している。当該ブレーキブースタBは、オペレーティングロッドRが車両前側へ変位した場合に、操作ペダル20を介して伝達された制動力を倍化して、倍化した制動力を車両に伝達する。そして、オペレーティングロッドRは、ダッシュパネルPから車両後側の車室内へ突き出すように配設されており、車両前後方向へ変位可能に構成されている。オペレーティングロッドRの後端には、クレビス40が配設されている。クレビス40は、車幅方向に一定の間隔を隔てて延びる一対の取付板41を有しており、車両後方側が開放されている。クレビス40の構成については後に詳細に説明する。
【0026】
図1に示すように、インパネリインフォースメントIは、ダッシュパネルPよりも車両後側(運転席側)に配設されており、本発明における車体部材を構成する。当該インパネリインフォースメントIは、一般に、衝突時等の車両前方からの大荷重入力時に車両後側へ変位する可能性や変形量がダッシュパネルPよりも少ないものである。
【0027】
そして、インパネリインフォースメントIには、固定ブラケット60が一体的に固設されている。当該固定ブラケット60は、インパネリインフォースメントIから下方に向かって伸びるように形成されており、インパネリインフォースメントIと共に、本発明における車体部材を構成する。当該固定ブラケット60には、ペダルブラケット10の車両後端部に形成された後側固定部13及びせん断部材50が固定されている。
【0028】
ペダルブラケット10は、車両前側部分において、ダッシュパネルPの車室側に対してボルト等を用いて固定されており、車幅方向に間隔をおいて対向する一対の側板を有して構成されている。当該ペダルブラケット10は、第1支持軸11と、第2支持軸12と、後側固定部13と、を有している。
【0029】
第1支持軸11は、ペダルブラケット10における一対の側板の間に亘って、略水平で且つ車幅方向と略平行に伸びるように配設されている。そして、本実施形態に係る第2支持軸12は、操作ペダル20よりも車両前側に位置しており、第1支持軸11と平行に伸びるように配設されている。
【0030】
後側固定部13は、ペダルブラケット10における一対の側板の車両後方側を、折り曲げ加工して形成されている。当該後側固定部13は、図2等に示すように、後側固定部13は、車体部材である固定ブラケット60に対して固定されており、ブレーキペダル装置1をダッシュパネルPとインパネリインフォースメントIの間に固定している。
【0031】
操作ペダル20は、ペダルブラケット10の第1支持軸11によって、その上部を回動可能に支持されており、下端部に踏部21を有している。従って、操作ペダル20は、踏部21を利用して踏込み操作が行われた場合、第1支持軸11を中心に回動する。この場合、踏部21は、車両前側に向かって移動する。
【0032】
そして、中間レバー25は、ペダルブラケット10に配設された第2支持軸12によって、その下部を回動可能に支持されており、上方に向かって伸びている。中間レバー25の上部には、オペレーティングロッドRが、クレビス40及びクレビスピン45を介して連結されている。従って、中間レバー25が第2支持軸12を中心として回動すると、オペレーティングロッドRは、車両前後方向へ変位し得る。つまり、当該ブレーキペダル装置1によれば、中間レバー25によって、オペレーティングロッドRを車両前側へ押圧することで、ブレーキブースタBを介して制動力を発生させ得る。
【0033】
連結リンク30は、操作ペダル20の上方前側部分と、中間レバー25の下方後側部分を連結しており、操作ペダル20及び中間レバー25に対して回動可能に取り付けられている。連結リンク30の一端側は、操作ペダル20の上方前側部分に対して、連結ピン31を介して連結されている為、連結リンク30は、連結ピン31を中心として、操作ペダル20に対して回動し得る。又、連結リンク30の他端側は、中間レバー25の下方後側部分に対して、連結ピン32を介して連結されている為、連結リンク30は、連結ピン32を中心として、中間レバー25に対して回動し得る。従って、当該ブレーキペダル装置1においては、第1支持軸11を中心とした操作ペダル20の回動を、連結リンク30を介して、中間レバー25に伝達することができ、中間レバー25を、第2支持軸12を中心として回動させることができる。
【0034】
上述したように、クレビス40は、オペレーティングロッドRの先端に対して固設されており、一対の取付板41を有している。図2に示すように、一対の取付板41は、車幅方向に所定の間隔を隔てて車両後方側へ伸びるように形成されており、一対の取付板41の間には、中間レバー25の上部が配置される。
【0035】
図2に示すように、各取付板41の後端部には、ガイド部42がそれぞれ形成されている。ガイド部42は、各取付板41の後端部において、車両後方側ほど車幅方向外側に位置するように伸びている。即ち、当該クレビス40における一対の取付板41の間隔は、ガイド部42によって、車両後方側ほど大きくなっている。
【0036】
そして、クレビスピン45は、前記クレビス40における一対の取付板41及び中間レバー25の上部を貫通した状態で取り付けられており、オペレーティングロッドRの先端に固設されたクレビス40に対して、中間レバー25を回動可能に連結している。クレビスピン45は、一対の取付板41及び中間レバー25の上部を貫通した状態で、クレビスピン45の端部に抜け止めクリップを取り付けることによって、中間レバー25及びクレビス40に対して固定されている。
【0037】
そして、せん断部材50は、金属鋼板を折り曲げ加工をして形成された部材であり、固定ブラケット60の車両前面側に対して、ペダルブラケット10の後側固定部13を介して固定されている。即ち、本実施形態においては、インパネリインフォースメントIに対するせん断部材50の相対位置が固定されている。
【0038】
せん断部材50の車幅方向両側は、折り曲げ加工によって、車両前方側に向かって伸び出しており、その先端部分に当接部51を有している。各当接部51は、熱処理が施されており、少なくとも衝突荷重によってクレビスピン45をせん断可能な相応の硬度を有している。各当接部51は、車両の上下方向に沿って伸びており、車幅方向に沿って伸びるクレビスピン45と直交している。図2に示すように、各当接部51は、車幅方向に関して、クレビス40の取付板41と中間レバー25の間に対して、車両後方側に位置している。
【0039】
図1に示すように、せん断部材50における各当接部51の先端は、上下方向に関して、車両後方側へ突出する円弧を描くように形成されている。又、せん断部材50における各当接部51は、車両前方側ほど、車幅方向の厚みが小さくなっており、鋭く尖っている(図2参照)。
【0040】
(操作ペダルの踏込み操作に伴う各部の動作)
次に、上述したブレーキペダル装置1において、操作ペダル20の踏込み操作が行われた場合の各部の動きについて説明する。
【0041】
操作ペダル20に対して踏込み操作が行われた場合、踏部21が車両前側へ踏み込まれることになる為、操作ペダル20は、第1支持軸11を中心として回動する。この時、操作ペダル20の上部は、第1支持軸11を中心として所定方向(図1における時計回り)へ回動する為、操作ペダル20の回動は、連結リンク30を介して、中間レバー25に対して伝達される。
【0042】
上述したように、連結リンク30は、中間レバー25の下方後側部分に対して、連結ピン32を介して連結されている為、中間レバー25は、操作ペダル20の回動に伴って、第2支持軸12を中心として回動し、中間レバー25の上部を車両前側に向かって移動させる。中間レバー25の上部には、ブレーキブースタBのオペレーティングロッドRが、クレビス40及びクレビスピン45を介して連結されている為、当該ブレーキペダル装置1は、操作ペダル20の踏込み操作に連動して、オペレーティングロッドRを出力方向(車両前側)へ押圧することができ、車両に対する制動力を発生させ得る。
【0043】
(前方衝突時におけるブレーキペダル装置の動作)
次に、車両の前方衝突時におけるブレーキペダル装置1の動作について、図3図4を参照しつつ詳細に説明する。尚、図3においては、車両の前方衝突前の操作ペダル20、中間レバー25を破線で示しており、車両の前方衝突後の操作ペダル20、中間レバー25を実線で示している。
【0044】
車両の前方衝突等によって車両前側から大荷重が入力された場合、ダッシュパネルPは、入力された大荷重によって車両後側へ変位する。一方、インパネリインフォースメントIは、車両前側から大荷重が入力された場合であっても、車両後側への変位量はダッシュパネルPと比べて少ない。そして、当該ブレーキペダル装置1における車両後方部分の後側固定部13は、インパネリインフォースメントIに固設された固定ブラケット60に固定されている。従って、車両前側から大荷重が入力され、ダッシュパネルPが車両後側へ変位すると、ブレーキペダル装置1は、全体として相対的に車両後側へ移動する(図1図3参照)。
【0045】
インパネリインフォースメントIには、固定ブラケット60及び後側固定部13を介して、せん断部材50が固定されている。図2に示すように、せん断部材50の各当接部51は、車幅方向に関して、クレビス40の取付板41と中間レバー25の間に対して、車両後方側に位置している。従って、ダッシュパネルPの車両後側への変位に伴って、ブレーキペダル装置1全体が相対的に車両後側へ移動すると、せん断部材50の各当接部51は、クレビス40の取付板41と中間レバー25との間に向かって、近づいていく。
【0046】
図2図4に示すように、各取付板41の後端部には、ガイド部42がそれぞれ形成されており、当該ガイド部42は、各取付板41の後端部において、車両後方側ほど車幅方向外側に位置するように伸びている。従って、クレビス40の取付板41と中間レバー25との間に対して、せん断部材50の各当接部51が車幅方向にずれている場合であっても、ダッシュパネルPの車両後側への変位に伴って相対移動する際に、せん断部材50の当接部51がガイド部42表面に当接することで、当該当接部51を、クレビス40の取付板41と中間レバー25との間に案内することができる。
【0047】
ダッシュパネルPの車両後側への変位に伴って所定量だけ相対移動すると、せん断部材50の各当接部51は、車幅方向に関して、前記中間レバー25と各取付板41との間において、車両後方側からクレビスピン45に当接する。従って、クレビスピン45には、ダッシュパネルPの車両後側への変位に係る荷重(即ち、衝突荷重)が、せん断部材50の各当接部51を介して作用する。
【0048】
図1図3に示すように、せん断部材50における各当接部51の先端は、上下方向に関して、車両後方側へ突出する円弧を描くように形成されている。従って、車両後方側へ突出する円弧状の先端の内、最も車両後方側に位置する部分と、クレビスピン45との位置関係が上下方向にずれている場合であっても、クレビスピン45を、ダッシュパネルPの車両後側への変位に伴って、円弧状を為す各当接部51の先端に沿って移動させることができ、上下方向に係るずれを解消することができる。これにより、当該ブレーキペダル装置1によれば、上下方向に係るずれを解消することで、ダッシュパネルPの車両後側への変位に係る荷重(即ち、衝突荷重)を、クレビスピン45に対して効率良く作用させることができる。
【0049】
せん断部材50の各当接部51は、車両前方側ほど、車幅方向の厚みが小さくなっており、鋭く尖っている(図2図4参照)。この為、当該ブレーキペダル装置1によれば、クレビスピン45に対するせん断部材50における各当接部51の接触面積を小さくすることができ、前記ダッシュパネルPが車両後側へ変位する際の荷重を、各当接部51を介して、クレビスピン45に集中して作用させることができる。
【0050】
前記ダッシュパネルPが車両後側へ変位する際の荷重を、各当接部51を介して、クレビスピン45に作用させることで、前記中間レバー25と各取付板41との間において、クレビスピン45の両端をせん断することができる。クレビスピン45をこの位置でせん断することにより、クレビスピン45は、中間レバー25と取付板41とを貫通した状態で残存することはなく、クレビス40の外側へ抜けて脱落する。即ち、当該ブレーキペダル装置1によれば、クレビスピン45による中間レバー25とオペレーティングロッドRの連結を、確実に解除することができる。
【0051】
クレビスピン45をせん断部材50によってせん断することで、オペレーティングロッドRに対する中間レバー25の連結を解除すると、中間レバー25は、第2支持軸12まわりに回動自在な状態となる。そして、中間レバー25は、連結リンク30を介して、操作ペダル20に連結されている。即ち、ブレーキペダル装置1によれば、オペレーティングロッドRに対する中間レバー25の連結を解除することで、操作ペダル20を、第1支持軸11まわりに回動可能な状態にすることができ、もって、操作ペダル20の踏部21が運転席側への後退することを抑制できる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係るブレーキペダル装置1は、ペダルブラケット10と、操作ペダル20と、中間レバー25と、連結リンク30と、を有しており、踏込み操作に伴う操作ペダル20の回動に連動して、連結リンク30を介して中間レバー25を回動させることができ、もって、ブレーキブースタBのオペレーティングロッドRを車両前側へ変位させ得る。
【0053】
当該ブレーキペダル装置1において、オペレーティングロッドRの先端部には、クレビス40が配設されており、当該オペレーティングロッドRは、クレビス40及びクレビスピン45を介して、中間レバー25に連結されている。又、せん断部材50は、車両後方側に位置するインパネリインフォースメントIに対する相対位置が固定されており、一対の当接部51を有している。
【0054】
従って、当該ブレーキペダル装置1によれば、前記ダッシュパネルPが車両後側へ変位した場合に、前記せん断部材50における一対の当接部51を、前記クレビスピン45よりも車両後方側から、前記クレビスピン45の両端部に夫々当接させて、クレビスピン45をせん断することができる(図3図4参照)。これにより、当該ブレーキペダル装置1によれば、中間レバー25に対するオペレーティングロッドRの連結が解除される為、中間レバー25及び操作ペダル20を夫々回動自在な状態にすることができ、もって、操作ペダル20の踏部21が車両後側へ変位することを抑制できる。又、当該ブレーキペダル装置1によれば、一対の当接部51を有するせん断部材50を配設するという構成である為、装置全体の重量や製造コストを抑えることができる。
【0055】
図2図4に示すように、前記せん断部材50の各当接部51は、前記ダッシュパネルPが車両後側へ変位した場合に、車幅方向に関して、前記中間レバー25と、前記クレビス40の各取付板41の間に位置する。従って、当該ブレーキペダル装置1によれば、ダッシュパネルPが車両後側へ変位した場合に、前記中間レバー25と前記クレビス40の各取付板41の間において、クレビスピン45の両端をせん断することができる。この結果、クレビスピン45の両端は、クレビス40の外側に外れて抜け落ちることになる。即ち、当該ブレーキペダル装置1によれば、クレビスピン45が中間レバー25とクレビス40を貫通したまま残存することはなく、中間レバー25とオペレーティングロッドRの連結を確実に解除することができ、操作ペダル20の踏部21が車両後側へ変位することを確実に抑制できる。
【0056】
そして、前記せん断部材50の各当接部51は、車両前方側ほど、車幅方向の厚みが小さく尖っている為、クレビスピン45に対する各当接部51の接触面積を小さくすることができる(図2図4参照)。即ち、ブレーキペダル装置1によれば、前記ダッシュパネルPが車両後側へ変位する際の荷重を、各当接部51を介して、クレビスピン45に集中して作用させることができ、クレビスピン45の両端を確実にせん断することができる。即ち、当該ブレーキペダル装置1によれば、中間レバー25とオペレーティングロッドRの連結を確実に解除することができ、操作ペダル20の踏部21が車両後側へ変位することを確実に抑制できる。
【0057】
図1図3に示すように、せん断部材50の各当接部51における先端部分は、上下方向に関して円弧を描いている為、前記ダッシュパネルPが車両後側へ変位する過程で、各当接部51に対するクレビスピン45の位置を、各当接部51の円弧に従って所定の位置(例えば、円弧における最も車両後方側の位置)に案内することができる。これにより、当該ブレーキペダル装置1によれば、前記ダッシュパネルPが車両後側へ変位する際の荷重を、各当接部51を介して、クレビスピン45に効率良く作用させることができ、クレビスピン45の両端を確実にせん断することができる。即ち、当該ブレーキペダル装置1によれば、中間レバー25とオペレーティングロッドRの連結を確実に解除することができ、操作ペダル20の踏部21が車両後側へ変位することを確実に抑制できる。
【0058】
前記クレビス40における各取付板41の先端には、車両後方側ほど車幅方向外側に位置するように伸びたガイド部42(図2図4参照)が形成されている為、ダッシュパネルPが車両後側へ変位する過程で、せん断部材50における各当接部51を、車幅方向に関して、前記中間レバー25と、前記クレビス40の各取付板41の間に案内することができる。これにより、当該ブレーキペダル装置1によれば、前記中間レバー25と前記クレビス40の各取付板41の間において、クレビスピン45の両端をせん断することができ、操作ペダル20の踏部21が車両後側へ変位することを確実に抑制できる。
【0059】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。例えば、上述した実施形態においては、操作ペダルがペダルブラケットの車両後側で軸支され、中間レバーがペダルブラケットの車両前側で軸支された構成であったが、この態様に限定されるものではない。本発明は、操作ペダルがペダルブラケットの車両前側で軸支され、中間レバーがペダルブラケットの車両後側で軸支された構成に対しても適用することができる。
【0060】
又、上述した実施形態においては、せん断部材50の各当接部51は、熱処理を施すことによって相応の硬度を有するものとしていたが、この態様に限定されるものではない。各当接部51を、衝突荷重によってクレビスピン45をせん断可能な硬度にすることができればよく、当接部51に相当する部分に、せん断部材50自体よりも高い硬度を有する材料を一体化させてもよいし、せん断部材50全体を高い硬度を有する材料で構成してもよい。
【0061】
そして、上述した実施形態においては、せん断部材50を、インパネリインフォースメントIに固設された固定ブラケット60に対して、ペダルブラケット10の後側固定部13を介して取り付けていたが(図2図4参照)、この態様に限定されるものではない。せん断部材50を、固定ブラケット60に直接固設してもよいし、インパネリインフォースメントIに対して固定してもよい。
【0062】
又、上述した実施形態においては、クレビスピン45の先端に対して抜け止めクリップを取り付けることで、中間レバー25とクレビス40とを連結していたが、この態様に限定されるものではない。中間レバー25及びクレビス40に対するクレビスピン45の固定方法としては、例えば、クレビスピン45の端部に、軸方向に圧力を加えて変形させるカシメ加工を施すことで固定してもよいし、クレビスピン45をボルト及びナットによって構成してもよい。
【0063】
更に、本発明に係る車両用ペダル装置の後退防止装置における各動作を実現することができれば、構成部材の形状を適宜変更することができる。例えば、本発明に係る車両用ペダル装置の後退防止装置における各動作を実現する際に、各構成部材間の干渉を避ける為に、構成部材夫々の形状を変更してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 ブレーキペダル装置
10 ペダルブラケット
11 第1支持軸
12 第2支持軸
20 操作ペダル
21 踏部
25 中間レバー
30 連結リンク
40 クレビス
41 取付板
42 ガイド部
50 せん断部材
51 当接部
60 固定ブラケット
I インパネリインフォースメント
P ダッシュパネル
R オペレーティングロッド
図1
図2
図3
図4