特許第6503363号(P6503363)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許6503363-有機発光素子 図000020
  • 特許6503363-有機発光素子 図000021
  • 特許6503363-有機発光素子 図000022
  • 特許6503363-有機発光素子 図000023
  • 特許6503363-有機発光素子 図000024
  • 特許6503363-有機発光素子 図000025
  • 特許6503363-有機発光素子 図000026
  • 特許6503363-有機発光素子 図000027
  • 特許6503363-有機発光素子 図000028
  • 特許6503363-有機発光素子 図000029
  • 特許6503363-有機発光素子 図000030
  • 特許6503363-有機発光素子 図000031
  • 特許6503363-有機発光素子 図000032
  • 特許6503363-有機発光素子 図000033
  • 特許6503363-有機発光素子 図000034
  • 特許6503363-有機発光素子 図000035
  • 特許6503363-有機発光素子 図000036
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6503363
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】有機発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20190408BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20190408BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20190408BHJP
   C07D 487/14 20060101ALN20190408BHJP
   C07D 493/04 20060101ALN20190408BHJP
   C07D 209/86 20060101ALN20190408BHJP
   C07D 213/16 20060101ALN20190408BHJP
   C07D 235/18 20060101ALN20190408BHJP
【FI】
   H05B33/22 B
   H05B33/12 C
   H05B33/02
   H05B33/22 A
   !C07D487/14
   !C07D493/04 106C
   !C07D209/86
   !C07D213/16
   !C07D235/18
【請求項の数】19
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-542653(P2016-542653)
(86)(22)【出願日】2014年9月17日
(65)【公表番号】特表2016-536805(P2016-536805A)
(43)【公表日】2016年11月24日
(86)【国際出願番号】KR2014008655
(87)【国際公開番号】WO2015041461
(87)【国際公開日】20150326
【審査請求日】2016年3月18日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0112124
(32)【優先日】2013年9月17日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】501426046
【氏名又は名称】エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ジナ・ユ
(72)【発明者】
【氏名】ミン・チュン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジェミン・ムーン
(72)【発明者】
【氏名】ムン・キュ・ジョ
【審査官】 中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/132842(WO,A1)
【文献】 特開2011−096406(JP,A)
【文献】 特開2011−228278(JP,A)
【文献】 特表2012−527089(JP,A)
【文献】 特開2011−211184(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/046839(WO,A1)
【文献】 特表2007−533073(JP,A)
【文献】 特開2008−124316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50−51/56
H01L 27/32
H05B 33/00−33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード、前記アノードに対向して備えられたカソード、および前記アノードと前記カソードとの間に備えられた発光層を含む有機発光素子であって、
前記有機発光素子は、前記カソードと前記発光層との間に、前記カソードから前記発光層方向に順に備えられた第1層、第2層および第3層をさらに含み、
前記第1層はn型有機物または金属酸化物を含み、
前記第2層は、前記第3層からドープされたドーパントが拡散することを物理的に止めるバリアー物質であり、有機−金属錯体、およびp型有機物のうち1種以上を含み、前記有機−金属錯体は重金属および有機配位子の錯体を含み、前記有機配位子は、立体的構造が、ある1つの軸の長さが長い、細長い形態であり、
前記第3層はn型ドーパントを含み、
前記第1層は、フッ素−置換された3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ−置換されたPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素−置換されたNTCDA、シアノ−置換されたNTCDAまたは下記化学式1の化合物、Al、CuI、または5,6,11,12−テトラフェニルナフタセン(5,6,11,12−tetraphenylnaphthacene、rubrene)を含むことを特徴とする、有機発光素子:
[化学式1]
【化1】

前記化学式1において、
〜Rは各々水素、ハロゲン原子、ニトリル(−CN)、ニトロ(−NO)、スルホニル(−SOR)、スルホキシド(−SOR)、スルホンアミド(−SONR)、スルホネート(−SOR)、トリフルオロメチル(−CF)、エステル(−COOR)、アミド(−CONHRまたは−CONRR’)、置換もしくは非置換の直鎖もしくは分枝鎖C−C12のアルコキシ、置換もしくは非置換の直鎖もしくは分枝鎖C−C12のアルキル、置換もしくは非置換の直鎖もしくは分枝鎖C−C12のアルケニル、置換もしくは非置換の芳香族もしくは非芳香族の複素環、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のモノ−またはジ−アリールアミン、または置換もしくは非置換のアラルキルアミンであり、前記RおよびR’は各々置換もしくは非置換のC−C60のアルキル、置換もしくは非置換のアリールまたは置換もしくは非置換の5−7員複素環であり、
前記R〜Rのうち、いずれかには少なくともエステル(−COOR)、アミド(−CONHRまたは−CONRR’)、置換もしくは非置換の直鎖もしくは分枝鎖C11−C12のアルコキシ、置換もしくは非置換の直鎖もしくは分枝鎖C11−C12のアルキル、置換もしくは非置換の直鎖もしくは分枝鎖C−C12のアルケニル、置換もしくは非置換の芳香族もしくは非芳香族の複素環、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のモノ−またはジ−アリールアミン、または置換もしくは非置換のアラルキルアミンであり、前記RおよびR’は各々置換もしくは非置換のC−C60のアルキル、置換もしくは非置換のアリールまたは置換もしくは非置換の5−7員複素環が選択される。
【請求項2】
前記第1層は非ドープの層であることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記第3層のn型ドーパントのドープ濃度は30重量%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記第3層のn型ドーパントのドープ濃度は10重量%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記第3層と前記発光層との間に追加の電子輸送層をさらに含むことを特徴とする、請求項1から4のうちいずれか一項に記載の有機発光素子。
【請求項6】
アノード、前記アノードに対向して備えられたカソード、および前記アノードと前記カソードとの間に備えられ、発光層を含む2個以上の発光ユニットを含む積層型有機発光素子であって、
前記発光ユニットの間に、前記カソードから前記アノード方向に順に備えられた第1層、第2層および第3層をさらに含み、
前記第1層はn型有機物または金属酸化物を含み、
前記第2層は、前記第3層からドープされたドーパントが拡散することを物理的に止めるバリアー物質であり、有機−金属錯体、およびp型有機物のうち1種以上を含み、前記有機−金属錯体は重金属および有機配位子の錯体を含み、前記有機配位子は、立体的構造が、ある1つの軸の長さが長い、細長い形態であり、
前記第3層はn型ドーパントを含み、
前記第1層は、フッ素−置換された3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ−置換されたPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素−置換されたNTCDA、シアノ−置換されたNTCDAまたは下記化学式1の化合物、Al、CuI、または5,6,11,12−テトラフェニルナフタセン(5,6,11,12−tetraphenylnaphthacene、rubrene)を含むことを特徴とする、有機発光素子:
[化学式1]
【化1】

前記化学式1において、
〜Rは各々水素、ハロゲン原子、ニトリル(−CN)、ニトロ(−NO)、スルホニル(−SOR)、スルホキシド(−SOR)、スルホンアミド(−SONR)、スルホネート(−SOR)、トリフルオロメチル(−CF)、エステル(−COOR)、アミド(−CONHRまたは−CONRR’)、置換もしくは非置換の直鎖もしくは分枝鎖C−C12のアルコキシ、置換もしくは非置換の直鎖もしくは分枝鎖C−C12のアルキル、置換もしくは非置換の直鎖もしくは分枝鎖C−C12のアルケニル、置換もしくは非置換の芳香族もしくは非芳香族の複素環、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のモノ−またはジ−アリールアミン、または置換もしくは非置換のアラルキルアミンであり、前記RおよびR’は各々置換もしくは非置換のC−C60のアルキル、置換もしくは非置換のアリールまたは置換もしくは非置換の5−7員複素環であり、
前記R〜Rのうち、いずれかには少なくともエステル(−COOR)、アミド(−CONHRまたは−CONRR’)、置換もしくは非置換の直鎖もしくは分枝鎖C11−C12のアルコキシ、置換もしくは非置換の直鎖もしくは分枝鎖C11−C12のアルキル、置換もしくは非置換の直鎖もしくは分枝鎖C−C12のアルケニル、置換もしくは非置換の芳香族もしくは非芳香族の複素環、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のモノ−またはジ−アリールアミン、または置換もしくは非置換のアラルキルアミンであり、前記RおよびR’は各々置換もしくは非置換のC−C60のアルキル、置換もしくは非置換のアリールまたは置換もしくは非置換の5−7員複素環が選択される。
【請求項7】
前記第1層は非ドープの層であることを特徴とする、請求項6に記載の積層型有機発光素子。
【請求項8】
前記第3層のn型ドーパントのドープ濃度は30重量%以下であることを特徴とする、請求項6または7に記載の積層型有機発光素子。
【請求項9】
前記第3層のn型ドーパントのドープ濃度は10重量%以下であることを特徴とする、請求項6または7に記載の積層型有機発光素子。
【請求項10】
前記第3層と、前記第3層と接する発光ユニットの発光層との間に追加の電子輸送層をさらに含むことを特徴とする、請求項6から9のうちいずれか一項に記載の積層型有機発光素子。
【請求項11】
前記アノードに接する発光ユニットを除いた残りの発光ユニットのうち少なくとも1つは、前記第1層に接するp型有機物層をさらに含むことを特徴とする、請求項6から10のうちいずれか一項に記載の積層型有機発光素子。
【請求項12】
前記第1層のLUMOエネルギー準位と前記p型有機物層のHOMOエネルギー準位の差は2eV以下であることを特徴とする、請求項6から11のうちいずれか一項に記載の積層型有機発光素子。
【請求項13】
前記アノードに接する発光ユニットは、前記アノードに接する有機物層として前記第1層と同一な材料の層をさらに含むことを特徴とする、請求項6から12のうちいずれか一項に記載の積層型有機発光素子。
【請求項14】
前記カソードに接する発光ユニットは、前記カソードと前記発光層との間に、前記カソードから前記発光層方向に順に備えられた第1層、第2層および第3層を含むことを特徴とする、請求項6から13のうちいずれか一項に記載の積層型有機発光素子。
【請求項15】
前記カソードまたは前記アノードの有機物層が備えられた面の反対面に備えられた基板がさらに備えられ、前記カソードまたは前記アノードと前記基板との間に備えられた光抽出層をさらに含むことを特徴とする、請求項1から14のうちいずれか一項に記載の有機発光素子。
【請求項16】
前記カソードまたは前記アノードの有機物層が備えられた面の反対面に備えられた基板がさらに備えられ、前記基板のアノードまたはカソードが備えられた面の反対面に備えられた光抽出層をさらに含むことを特徴とする、請求項1から14のうちのいずれか項に記載の有機発光素子。
【請求項17】
前記有機発光素子はフレキシブル有機発光素子であることを特徴とする、請求項1から14のうちのいずれか項に記載の有機発光素子。
【請求項18】
請求項1から14のうちのいずれか項に記載の有機発光素子を含むディスプレイ。
【請求項19】
請求項1から14のうちのいずれか項に記載の有機発光素子を含む照明。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2013年9月17日に韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10−2013−0112124号の出願日の利益を主張し、その内容の全ては本明細書に含まれる。
【0002】
本出願は有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0003】
有機発光素子は2つの電極から有機物層に電子および正孔を注入して電流を可視光に変換させる。有機発光素子は2層以上の有機物層を含む多層構造を有することができる。例えば、有機発光素子は、発光層の他に、必要に応じて、電子または正孔注入層、電子または正孔遮断層、または電子または正孔輸送層をさらに含むことができる。
【0004】
最近、有機発光素子の用途が多様化することにより、有機発光素子の性能を改善できる材料に対する研究が活発に行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、有機発光素子の駆動安定性を改善できる方法を繰り返し研究し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願の第1実施状態は、
アノード、前記アノードに対向して備えられたカソード、および前記アノードと前記カソードとの間に備えられた発光層を含む有機発光素子であって、
前記有機発光素子は、前記カソードと前記発光層との間に、前記カソードから前記発光層方向に順に備えられた第1層、第2層および第3層をさらに含み、
前記第1層はn型有機物または金属酸化物を含み、
前記第2層はバリアー物質を含み、
前記第3層はn型ドーパントを含むことを特徴とする有機発光素子を提供する。
【0007】
本出願の第2実施状態は、
アノード、前記アノードに対向して備えられたカソード、および前記アノードと前記カソードとの間に備えられ、発光層を含む2個以上の発光ユニットを含む積層型有機発光素子であって、
前記発光ユニットの間に、前記カソードから前記アノード方向に順に備えられた第1層、第2層および第3層をさらに含み、
前記第1層はn型有機物または金属酸化物を含み、
前記第2層はバリアー物質を含み、
前記第3層はn型ドーパントを含むことを特徴とする積層型有機発光素子を提供する。
【0008】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第1または第2実施状態において、前記第2層のバリアー物質が有機−金属錯体、n型有機物およびp型有機物のうち1種以上を含む。
【0009】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第1または第2実施状態において、前記第1層は1種のn型有機物または金属酸化物からなる。
【0010】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第1または第2実施状態において、前記第1層は非ドープの層である。
【0011】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第1実施状態において、前記第3層と前記発光層との間に追加の電子輸送層をさらに含む。
【0012】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第2実施状態において、前記第3層と、前記第3層と接する発光ユニットの発光層との間に追加の電子輸送層をさらに含む。
【0013】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第2実施状態において、前記アノードに接する発光ユニットを除いた残りの発光ユニットのうち少なくとも1つは前記第1層に接するp型有機物層をさらに含む。
【0014】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第2実施状態において、前記アノードに接する発光ユニットは前記アノードに接する有機物層としてp型有機物層をさらに含む。
【0015】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第2実施状態において、前記アノードに接する発光ユニットは前記アノードに接する有機物層として前記第1層と同一な材料の層をさらに含む。
【0016】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第2実施状態において、前記カソードに接する発光ユニットは、前記カソードと前記発光層との間に、前記カソードから前記発光層方向に順に備えられた第1層、第2層および第3層をさらに含む。
【発明の効果】
【0017】
本出願に記載された実施状態による有機発光素子または積層型有機発光素子においては、電極の間に備えられた層の接合面から生じる化学的反応またはドーパントの内部分散(dopant interdiffusion)による駆動電圧の上昇または素子安定性を効率的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本出願の第1実施状態による有機発光素子の積層構造を例示したものである。
図2】本出願の第1実施状態による有機発光素子の積層構造を例示したものである。
図3】本出願の第1実施状態による有機発光素子の積層構造を例示したものである。
図4】本出願の第1実施状態による有機発光素子の積層構造を例示したものである。
図5】本出願の第1実施状態による有機発光素子の積層構造を例示したものである。
図6】本出願の第1実施状態による有機発光素子の積層構造を例示したものである。
図7】本出願の第2実施状態による積層型有機発光素子の積層構造を例示したものである。
図8】本出願の第2実施状態による積層型有機発光素子の積層構造を例示したものである。
図9】本出願の第2実施状態による積層型有機発光素子の積層構造を例示したものである。
図10】本出願の第2実施状態による積層型有機発光素子の積層構造を例示したものである。
図11】本出願の第2実施状態による積層型有機発光素子の発光ユニットの積層構造を例示したものである。
図12】本出願の第2実施状態による積層型有機発光素子の発光ユニットの積層構造を例示したものである。
図13】本出願の第2実施状態による積層型有機発光素子の発光ユニットの積層構造を例示したものである。
図14】本出願の一実施状態による実施例1および2と比較例1の効果を比較したグラフである。
図15】本出願の一実施状態による実施例6と比較例1〜2の効果を比較したグラフである。
図16】本出願の一実施状態による実施例3〜5の素子の効率を示すグラフである。
図17】本出願の一実施状態による実施例3〜5の素子の反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本出願において、電荷とは電子または正孔を意味する。
【0021】
本出願において、n型とはn型半導体特性を意味する。言い換えれば、n型有機物層はLUMOエネルギー準位において電子の注入を受けるか輸送する特性を有する有機物層であり、これは電子の移動度が正孔の移動度より大きい物質の特性を有する有機物層である。その逆に、p型とはp型半導体特性を意味する。言い換えれば、p型有機物層はHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位において正孔の注入を受けるか輸送する特性を有する有機物層であり、これは正孔の移動度が電子の移動度より大きい物質の特性を有する有機物層である。
【0022】
本出願において、n型ドーパントは電子ドナー性物質を意味する。
【0023】
本出願において、エネルギー準位はエネルギーの大きさを意味する。よって、真空準位からマイナス(−)方向にエネルギー準位が表示される場合にも、エネルギー準位は該エネルギー値の絶対値を意味するものとして解釈される。例えば、HOMOエネルギー準位とは、真空準位から最高被占分子軌道(highest occupied molecular orbital)までの距離を意味する。また、LUMOエネルギー準位とは、真空準位から最低空分子軌道(lowest unoccupied molecular orbital)までの距離を意味する。
【0024】
本出願において、「非ドープの」とは、層を構成する化合物が他の性質を有する化合物によってドープされていないことを意味する。例えば、「非ドープの」層がp型化合物からなっていれば、n型物質がドープされていないことを意味することができる。また、「非ドープの」層が有機物層であれば、無機物によってドープされていないことを意味することができる。その逆に、「非ドープの」層が金属酸化物のような無機物層であれば、有機物によってドープされていないことを意味することができる。しかし、同じ性質を有する、例えば、p型特性を有する有機物はその性質が類似するため、2種類以上を混合して用いることもできる。非ドープの有機物層は、その性質が同種の特性を有する物質のみからなった場合を意味する。
【0025】
本出願において、発光ユニットとは、電圧の印加によって発光できる有機物層の単位を意味する。前記発光ユニットは発光層のみからなってもよいが、電荷の注入または輸送のために1層以上の有機物層をさらに含んでもよい。例えば、前記発光ユニットは、発光層の他に、正孔注入層、正孔輸送層、電子遮断層、正孔遮断層、および電子輸送層のうち少なくとも1つをさらに含むことができる。
【0026】
本出願の第1実施状態による有機発光素子は、アノード、前記アノードに対向して備えられたカソード、および前記アノードと前記カソードとの間に備えられた発光層を含む有機発光素子であって、前記有機発光素子は、前記カソードと前記発光層との間に、前記カソードから前記発光層方向に順に備えられた第1層、第2層および第3層をさらに含み、前記第1層はn型有機物または金属酸化物を含み、前記第2層はバリアー物質を含み、前記第3層はn型ドーパントを含むことを特徴とする。
【0027】
前記第1層は、LUMOエネルギー準位を通じてカソードから第2層に電荷を移動できる材料であれば、特に限定されない。
【0028】
本出願の一実施状態によれば、前記第1層は約4〜7eVのLUMOエネルギー準位を有することが好ましく、約10−8cm/Vs〜1cm/Vs、好ましくは、約10−6cm/Vs〜10−2cm/Vsの電子移動度を有することが好ましい。
【0029】
前記n型有機物層は、真空蒸着できる物質または溶解法(solution process)によって薄膜成形できる物質で形成されることもできる。
【0030】
一例として、前記第1層の材料としては2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、フッ素−置換された3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ−置換されたPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素−置換されたNTCDA、シアノ−置換されたNTCDAまたは下記化学式1の化合物が用いられることができる。
【0031】
[化学式1]
【0032】
【化1】
【0033】
前記化学式1において、
〜Rは各々独立して水素、ハロゲン原子、ニトリル(−CN)、ニトロ(−NO)、スルホニル(−SOR)、スルホキシド(−SOR)、スルホンアミド(−SONR)、スルホネート(−SOR)、トリフルオロメチル(−CF)、エステル(−COOR)、アミド(−CONHRまたは−CONRR’)、置換もしくは非置換の直鎖もしくは分枝鎖C−C12のアルコキシ、置換もしくは非置換の直鎖もしくは分枝鎖C−C12のアルキル、置換もしくは非置換の直鎖もしくは分枝鎖C−C12のアルケニル、置換もしくは非置換の芳香族もしくは非芳香族の複素環、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のモノ−またはジ−アリールアミン、または置換もしくは非置換のアラルキルアミンであり、前記RおよびR’は各々置換もしくは非置換のC−C60のアルキル、置換もしくは非置換のアリールまたは置換もしくは非置換の5−7員複素環であってもよい。
【0034】
前記説明中、「置換もしくは非置換の」とはハロゲン原子、ニトリル(−CN)、ニトロ(−NO)、スルホニル(−SOR)、スルホキシド(−SOR)、スルホンアミド(−SONR)、スルホネート(−SOR)、トリフルオロメチル(−CF)、エステル(−COOR)、アミド(−CONHRまたは−CONRR’)、直鎖もしくは分枝鎖C−C12のアルコキシ、直鎖もしくは分枝鎖C−C12のアルキル、直鎖もしくは分枝鎖C−C12のアルケニル、芳香族もしくは非芳香族の複素環、アリール、モノ−またはジ−アリールアミン、またはアラルキルアミンによって置換もしくは非置換されることを意味し、ここで、前記RおよびR’は各々C−C60のアルキル、アリールまたは5−7員複素環である。
【0035】
前記化学式1の化合物は下記化学式1−1〜1−6の化合物で例示されることができる。
【0036】
[化学式1−1]
【0037】
【化2】
【0038】
[化学式1−2]
【0039】
【化3】
【0040】
[化学式1−3]
【0041】
【化4】
【0042】
[化学式1−4]
【0043】
【化5】
【0044】
[化学式1−5]
【0045】
【化6】
【0046】
[化学式1−6]
【0047】
【化7】
【0048】
前記化学式1の他例や、合成方法および様々な特徴は米国特許出願第2002−0158242号、米国特許第6,436,559号および米国特許第4,780,536号に記載されており、これらの文献の内容は全て本明細書に含まれる。
【0049】
また1つの例として、前記第1層の材料としては金属酸化物が用いられることができる。前記金属酸化物の例としては三酸化モリブデン(Molybdenum Trioxide、MoO)、Re、Al、CuI、WO、Vが挙げられる。
【0050】
また1つの例として、前記第1層の材料としては、5,6,11,12−テトラフェニルナフタセン(5,6,11,12−tetraphenylnaphthacene、rubrene)が用いられることもできる。
【0051】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第1実施状態において、前記第1層は1種のn型有機物または金属酸化物からなる。
【0052】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第1または第2実施状態において、前記第1層は非ドープの層である。
【0053】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第1または第2実施状態において、前記第1層はn型有機物とp型有機物のドープ層であってもよい。
【0054】
前記第3層はn型ドーパントを含む。
【0055】
前記第3層は、n型ドーパントによって有機物層の電荷キャリアの密度が上昇して素子内で電荷輸送効率を向上させることができる。それにより、有機発光素子において、発光領域で電荷のバランシング(balancing)を達成することができる。ここで、バランシングとは、発光領域で再び組み合わせして発光に参加する正孔と電子の密度が最大化されて同じくなるように作ることを意味する。本明細書の実施状態による有機発光素子は、遥かに優れた低電圧、高輝度および高効率の特性を示すことができる。
【0056】
ここで、n型ドーパントは、電子ドナー性物質であれば特に限定されない。n型ドーパントは有機物または無機物であってもよい。n型ドーパントが無機物である場合、アルカリ金属、例えばLi、Na、K、Rb、CsまたはFr、アルカリ土類金属、例えばBe、Mg、Ca、Sr、BaまたはRa、希土類金属、例えばLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Th、Dy、Ho、Er、Em、Gd、Yb、Lu、YまたはMn、または前記金属のうち1以上の金属を含む金属化合物を含むことができる。または、n型ドーパントは、シクロペンタジエン、シクロヘプタトリエン、6員複素環またはこれらの環が含まれた縮合環を含む有機物、具体的には、キサンテン系、アクリジン系、ジフェニルアミン系、アジン系、オキサジン系、チアジン系またはチオキサンテン系などの有機物が用いられることができる。また、ドープ有機物として2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)などが用いられることもできる。この時、前記n型ドーパントのドープ濃度は30重量%以下であってもよく、10重量%以下であってもよく、0.01〜30重量%であってもよく、0.01〜10重量%であってもよく、0.01〜5重量%であってもよい。
【0057】
前記第3層において、前記n型ドーパントによってドープされるホスト物質は電子輸送性物質が用いられることができる。当技術分野で電子輸送性物質として用いられる物質であれば、特に制限されることなく用いられることができる。例えば、第3層のホスト物質の例としてイミダゾール基、オキサゾール基、チアゾール基、キノリンおよびフェナントロリン基から選択された官能基を有する化合物を用いることができる。
【0058】
前記第3層の有機物層の厚さは500Å未満が好ましい。この厚さ範囲内で、n型ドーパントによる可視光吸収によって発光効率の低下を最小化することができる。一例として、前記第3層の厚さは100Å未満である。一例として、前記第3層の厚さは10Å以上である。
【0059】
前記第2層はバリアー物質を含む。
【0060】
前記バリアー物質とは、電気的にエネルギー関係によるバリアーでない、物理的なバリアーを意味する。物理的なバリアーとは、前記第3層からドープされたn型ドーパントが拡散(diffusion)することを物理的に止める層をいう。よって、前記第2層の材料としてn型ドーパントの拡散を物理的に止めるのに有利な物質を用いれば、特に制限されることなく用いられることができる。また、第2層は電子およびキャリアをトンネリングによって移動するため、第2層と隣接した層のエネルギー準位と相関関係なしに幅広い物質を用いることができる。
【0061】
前記第2層が前記第1層および第3層の間に配置されることによって、前記第1層と第3層との間の化学的反応またはドーパントの内部拡散を防止することができ、それによって駆動電圧の上昇を防止し、素子安定性を向上させることができる。
【0062】
前記第2層のバリアー物質の一例は有機−金属錯体を含む。有機−金属錯体の一例としては、重金属および有機配位子の錯体が用いられることができる。前記重金属としてはZn、Pt、Irなどが含まれる。前記有機配位子は、立体的構造が、ある1つの軸の長さが長い、細長い形態であることが好ましい。このような構造の有機配位子構造を有する場合、層の形成時にパッキングがよく円滑に行われる。
【0063】
前記第2層のバリアー物質の他例は、有機−金属錯体、n型有機物およびp型有機物のうち1種以上を含む。
【0064】
前記n型有機物は前述した電子輸送性物質が用いられることができる。また、前記p型有機物は後述するp型有機物が用いられることができる。
【0065】
前記第2層の厚さは1nm〜3nmであってもよいが、これのみに限定されるものではない。
【0066】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第1実施状態において、前記第3層と前記発光層との間に追加の電子輸送層をさらに含む。追加の電子輸送層材料としては電子輸送性物質が用いられることができる。当技術分野で電子輸送性物質として用いられる物質であれば、特に制限されることなく用いられることができる。
【0067】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第3層のホスト材料と前記追加の電子輸送層の材料は同一であってもよい。
【0068】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記発光層とアノードとの間に1層以上の有機物層をさらに含むことができる。例えば、正孔注入層、正孔輸送層または正孔注入と輸送を同時にする層がさらに含まれることができる。
【0069】
図1図6に第1実施状態による有機発光素子の積層構造を例示した。図1によれば、アノード、発光層(EML)、第3層、第2層、第1層およびカソードが順次積層される。図2によれば、発光層(EML)とアノードとの間に正孔輸送層(HTL)が備えられる。図3によれば、発光層(EML)とアノードとの間に正孔輸送層(HTL)および正孔注入層(HIL)が備えられる。図4図6によれば、第3層と発光層(EML)との間に追加の電子輸送層(ETL)が備えられる。但し、これらの積層順に限定されるものではなく、必要に応じて追加の有機物層がさらに備えられることができる。
【0070】
本出願の第2実施状態による積層型有機発光素子は、アノード、前記アノードに対向して備えられたカソード、および前記アノードと前記カソードとの間に備えられ、発光層を含む2個以上の発光ユニットを含む積層型有機発光素子であって、前記発光ユニットの間に、前記カソードから前記アノード方向に順に備えられた第1層、第2層および第3層をさらに含み、前記第1層はn型有機物または金属酸化物を含み、前記第2層はバリアー物質を含み、前記第3層はn型ドーパントを含むことを特徴とする。
【0071】
前記発光ユニットは2以上含まれることができる。具体的な例として、前記発光ユニットは2個、3個、4個または5個であってもよい。
【0072】
図7および図8に各々発光ユニットを2個および3個含む積層型有機発光素子を例示した。しかし、これらのみに限定されるものではなく、4層以上の発光ユニットを含むことができる。
【0073】
前記第2実施状態の第1層、第2層および第3層には、前述した第1実施状態の第1層、第2層および第3層に関する説明が適用されることができる。
【0074】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第2実施状態において、前記第3層と、前記第3層と接する発光ユニットの発光層との間に追加の電子輸送層をさらに含む。この追加の電子輸送層にも前述した第1実施状態の追加の電子輸送層に関する説明が適用されることができる。
【0075】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第2実施状態において、前記アノードに接する発光ユニットを除いた残りの発光ユニットのうち少なくとも1つは前記第1層に接するp型有機物層をさらに含む。
【0076】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記p型有機物層のHOMOエネルギー準位と前記第1層のLUMOエネルギー準位との差は2eV以下である。本出願の1つの実施形態によれば、前記p型有機物層のHOMOエネルギー準位と前記第1層のLUMOエネルギー準位との差は0eV超過2eV以下であってもよく、あるいは0eV超過0.5eV以下であってもよい。本出願のまた他の実施形態によれば、前記p型有機物層と前記第1層の材料は、前記p型有機物層のHOMOエネルギー準位と前記第1層のLUMOエネルギー準位との差が0.01eV以上2eV以下になるように選択されることができる。
【0077】
前記p型有機物層のHOMOエネルギー準位と前記第1層のLUMOエネルギー準位とのエネルギー差が2eV以下である場合、前記p型有機物層と前記第1層が接する時、これらの間にNP接合が容易に発生する。NP接合が形成された場合、p型有機物層のHOMOエネルギー準位と第1層のLUMOエネルギー準位間の差が減少する。よって、電圧が印加される場合、NP接合から正孔および電子が容易に形成される。この場合、電子注入のための駆動電圧を下げることができる。
【0078】
前記p型有機物層材料としては、p型半導体特性を有する有機物を用いることができる。例えば、アリールアミン系化合物(aryl amine compound)を用いることができる。アリールアミン系化合物の一例としては下記化学式2の化合物が挙げられる。
【0079】
[化学式2]
【0080】
【化8】
【0081】
前記化学式2において、
Ar、ArおよびArは各々独立して水素または炭化水素基である。この時、Ar、ArおよびArのうち少なくとも1つは芳香族ハイドロカーボン(aromatic hydrocarbon)置換体を含んでもよく、各置換体は同一であってもよく、それぞれ異なる置換体で構成されてもよい。Ar、ArおよびArのうち芳香族ハイドロカーボンでないものは水素;直鎖、分枝鎖または環状の脂肪族炭化水素;N、O、SまたはSeを含む複素環基であってもよい。
【0082】
前記化学式2の具体的な例として下記化学式が挙げられるが、本明細書に記載された実施形態の範囲が必ずしもこれらのみに限定されるものではない。
【0083】
【化9】
【0084】
【化10】
【0085】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記p型有機物層は非ドープとなる。
【0086】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第2実施状態において、前記アノードに接する発光ユニットは、前記アノードに接する有機物層としてp型有機物層をさらに含む。
【0087】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第2実施状態において、前記アノードに接する発光ユニットは、前記アノードに接する有機物層として前記第1層と同一な材料の層をさらに含む。この時、第1層と同一な材料の層のLUMOエネルギー準位とアノード材料の仕事関数の差は4eV以下の範囲内に調節されることができる。このエネルギー差は0eV超過であることが好ましい。物質選択の観点では約0.01〜4eVから選択されることができる。前記エネルギー差が4eV以下であることが、正孔注入のエネルギー障壁に対する表面双極子(surface dipole)またはギャップ状態(gap state)の効果を示すのに有利である。
【0088】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第2実施状態において、前記カソードに接する発光ユニットは、前記カソードと前記発光層との間に、前記カソードから前記発光層方向に順に備えられた第1層、第2層および第3層をさらに含む。
【0089】
本出願のまた1つの実施状態によれば、前記第2実施状態において、アノードまたは前記第1層と前記発光層との間に1層以上の有機物層をさらに含むことができる。例えば、正孔注入層、正孔輸送層または正孔注入と輸送を同時にする層がさらに含まれることができる。
【0090】
図11図13に発光ユニットの積層構造を例示した。図9は発光層とp型有機物層を含む発光ユニット、図10は発光層、正孔輸送層およびp型有機物層を含む発光ユニット、図11は電子輸送層、発光層、正孔輸送層およびp型有機物層を含む発光ユニットが例示されている。但し、これらの図面の構造に限定されるものではなく、発光ユニットは発光層以外の層を除いて構成されてもよく、追加の層をさらに含んでもよい。
【0091】
有機発光素子のその他の構成は当技術分野で周知の技術を採用することができる。以下では電極に対する例示を記載するが、これらは例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0092】
アノードは金属、金属酸化物または導電性ポリマーを含む。前記導電性ポリマーは電気伝導性ポリマーを含むことができる。例えば、前記アノードは約3.5〜5.5eVの仕事関数値を有することができる。例示的な導電性物質の例としては、炭素、アルミニウム、バナジウム、クロム、銅、亜鉛、銀、金、その他の金属およびこれらの合金;亜鉛酸化物、インジウム酸化物、スズ酸化物、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物およびその他これと類似する金属酸化物;ZnO:AlおよびSnO:Sbのような酸化物と金属の混合物などが挙げられる。アノード材料としては透明物質が用いられてもよく、不透明物質が用いられてもよい。アノード方向に発光する構造の場合、アノードは透明に形成される。ここで、透明とは、有機物層で発光された光が透過できればよく、光の透過度は特に限定されない。
【0093】
例えば、本明細書による有機発光素子が前面発光型であり、アノードが有機物層およびカソードの形成前に基板上に形成される場合は、アノード材料として透明物質だけでなく光反射率に優れた不透明物質も用いられることができる。例えば、本出願による有機発光素子が背面発光型であり、アノードが有機物層およびカソードの形成前に基板上に形成される場合は、アノード材料として透明物質が用いられるか、不透明物質が透明になるほど薄膜に形成されなければならない。
【0094】
前記アノードのフェルミエネルギー準位を調節するために、アノード表面を窒素プラズマまたは酸素プラズマで処理することができる。
【0095】
プラズマ処理によるアノードのフェルミ準位は酸素プラズマ処理時に大きくなり、窒素プラズマ処理では低くなる。
【0096】
また、窒素プラズマの場合、アノードの導電性を高めることができ、表面酸素濃度を低下させて、表面に窒化物を生成させ、素子の寿命を増加させることができる。
【0097】
カソード物質としては、通常、電子注入が容易になるように仕事関数の小さい物質が好ましい。しかし、カソードに第1層を隣接するように形成する場合、カソード物質を様々な仕事関数を有する材料から選択することができる。例えば、カソード材料として仕事関数2eV〜5eVの物質が用いられることができる。前記カソードはこれらに限定されるものではないが、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、チタニウム、インジウム、イットリウム、リチウム、ガドリニウム、アルミニウム、銀、スズおよび鉛のような金属またはこれらの合金;LiF/AlまたはLiO/Alのような多層構造の物質などを含む。
【0098】
カソード材料としてAlを用いる場合、単独でまたはLiFやLiqと共に用いることによって効率的に動作が可能な素子を提供することができる。特に、カソード材料としてAgを用いる場合、従来技術による素子においては、Ag単独でまたはLiFやLiqと共に使用する時によく動作しないため、カソードに隣接した有機物層としてアルカリ金属またはアルカリ土類金属などの金属からなる層や金属をドープした有機物層を用いなければならない。しかし、本出願に記載された実施形態においては、上記のように金属層や金属をドープした有機物層がなくても、カソード材料としてAgのような仕事関数の大きい材料を用いることができる。また、本出願に記載された実施状態においては、カソード材料としてIZO(仕事関数4.8〜5.2eV)のように仕事関数の高い透明導電酸化物を用いることもできる。
【0099】
従来の有機発光素子においては、AlまたはAgのような仕事関数の大きい材料のカソードを用いる場合には、有機物層とカソードとの間にLiF層のような無機物層や有機物層に金属をドープすることが必要であった。従来には、前記のような無機物層や金属ドープされた有機物層を用いずに、カソードと有機物層が接するようにする場合、カソード材料としては仕事関数2eV以上3.5eV未満の材料しか使えなかった。しかし、本出願による有機発光素子においては、カソードが有機物層と接する場合にも、前記第1のp型有機物層と第1のn型有機物層によって仕事関数3.5eV以上の材料を用いてカソードを構成することができる。
【0100】
本出願の一実施状態によれば、カソードは有機物層と物理的に接するように備えられ、カソードは仕事関数3.5eV以上の材料で構成される。
【0101】
本出願の一実施状態によれば、カソードは有機物層と物理的に接するように備えられ、カソードは仕事関数4eV以上の材料で構成される。
【0102】
本出願の一実施状態によれば、カソードは有機物層と物理的に接するように備えられ、カソードは仕事関数4.5eV以上の材料で構成される。
【0103】
前記カソードを構成する材料の仕事関数の上限は特に制限されないが、材料選択の観点で5.5eV以下の材料を用いることができる。
【0104】
前記カソードは前記アノードと同一な物質で形成されることができる。この場合、前記カソードとしては上記でアノードの材料として例示した材料で形成されることができる。または、カソードまたはアノードは透明物質を含むことができる。
【0105】
本出願の一実施状態による有機発光素子は光抽出構造を含む素子であってもよい。
【0106】
本出願の一実施状態において、前記有機発光素子は前記アノードまたはカソードの有機物層が備えられる面と対向する面に基板をさらに含み、前記基板とアノードまたはカソードとの間に、または前記基板のアノードまたはカソードが備えられる面と対向する面に光抽出層をさらに含む。
【0107】
言い換えれば、前記アノードまたはカソードの有機物層が備えられる面と対向する面に備えられた基板とアノードまたはカソードとの間に内部光抽出層をさらに含むことができる。また1つの実施状態において、前記基板においてアノードまたはカソードが備えられた面の反対面に外部光抽出層がさらに備えられることができる。
【0108】
本出願において、前記内部光抽出層または外部光抽出層は、光散乱を誘導して、素子の光抽出効率を向上できる構造であれば特に制限されない。1つの実施状態において、前記光抽出層は、バインダー内に散乱粒子が分散した構造を有するか凹凸を有するフィルムを用いて形成されることができる。
【0109】
また、前記光抽出層は、基板上にスピンコーティング、バーコーティング、スリットコーティングなどの方法によって直接形成されるか、フィルム形態に製作して付着する方式によって形成されることができる。
【0110】
前記内部光抽出層または外部光抽出層は平坦層をさらに含むことができる。
【0111】
本出願の一実施状態において、前記有機発光素子はフレキシブル(flexible)有機発光素子である。この場合、前記基板がフレキシブル材料を含む。例えば、曲がり易い薄膜形態のガラス、プラスチックまたはフィルム形態の基板を用いることができる。
【0112】
前記プラスチック基板の材料は特に限定されないが、一般的にPET、PEN、PEEKおよびPIなどのフィルムを単層または複層の形態で用いることができる。
【0113】
本出願の一実施状態において、前記有機発光素子を含むディスプレイ装置を提供する。ディスプレイ装置において、前記有機発光素子は画素またはバックライト役割を果たす。その他のディスプレイ装置の構成は当技術分野で周知のものが適用されることができる。
【0114】
本出願の一実施状態において、前記有機発光素子を含む照明装置を提供する。照明装置において、前記有機発光素子は発光部の役割を果たす。その他の照明装置に必要な構成は当技術分野で周知のものが適用されることができる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例によって前述した実施状態の効果を例示する。但し、これらによって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0116】
<実施例1>
基板上にITOをスパッタリング方法によって1,000Å厚さの透明陽極を形成し、その上にHATを熱真空蒸着して厚さ500Åのn型有機物を形成し、その上に下記化学式のNPBを真空蒸着して厚さ400Åの正孔輸送層を形成してNP接合を形成した。そして、下記化学式のCBPに下記化学式のIr(ppy)を10重量%でドープし、ドープされた有機層で厚さ300Åの発光層を構成した。そして、その上に下記化学式の正孔遮断層材料であるBAlqを50Å厚さで形成した。その上に下記化学式の電子輸送材料を150Å厚さで形成し、その上に下記化学式の電子輸送材料にCaを10重量%ドープし、ドープされた電子輸送層である第3層を厚さ50Åで形成した。次に、第2層としてCuPc材料を用いて厚さ30Åの層を形成した。次に、第2層上に前述した方法によってHAT(第1層)/NPB/CBP+Ir(ppy)/BAlq/ETL/Ca+ETL単位素子構造をさらに形成した。前記ドープされたCa電子輸送層上にカソードとしてアルミニウムを1,000Å厚さで形成し、積層型有機発光素子を製作した。
【0117】
前記過程で有機物の蒸着速度は0.5〜1.0Å/secに維持し、蒸着時における真空度は2×10−8〜2×10−7torr程度に維持した。
【0118】
[HAT]
【0119】
【化11】
【0120】
[NPB]
【0121】
【化12】
【0122】
[CBP]
【0123】
【化13】
【0124】
[Ir(ppy)
【0125】
【化14】
【0126】
[電子輸送材料]
【0127】
【化15】
【0128】
<実施例2>
第2層の厚さを15Åにしたことを除いては、実施例1と同様に実施して積層型有機発光素子を製作した。
【0129】
<実施例3>
第3層のCaのドープ濃度を7重量%にしたことを除いては、実施例1と同様に実施して積層型有機発光素子を製作した。
【0130】
<実施例4>
第3層のCaのドープ濃度を5重量%にしたことを除いては、実施例1と同様に実施して積層型有機発光素子を製作した。
【0131】
<実施例5>
第3層のCaのドープ濃度を3重量%にしたことを除いては、実施例1と同様に実施して積層型有機発光素子を製作した。
【0132】
<実施例6>
第3層のCaのドープ濃度を2重量%にしたことを除いては、実施例1と同様に実施して積層型有機発光素子を製作した。
【0133】
<比較例1>
第2層を形成しないことを除いては、実施例1と同様に実施して積層型有機発光素子を製作した。
【0134】
<比較例2>
第2層を形成しないことを除いては、実施例3と同様に実施して積層型有機発光素子を製作した。
【0135】
<実験例>
前記で製作された有機発光素子の信頼性を確認するために、駆動条件60℃、20mA/cmにおいて、0hrの初期電圧と200hr後の電圧差を測定して下記の表1および図14に示す。
【0136】
【表1】
【0137】
前記結果のように、比較例1に比べて実施例1および2の方が前記条件の実験で電圧上昇の問題が改善された。また、実施例1は実施例2に比べて第2層の厚さが厚く、この場合により大きな改善を示す。
【0138】
また、前記で製作された有機発光素子の信頼性を確認するために、駆動条件60℃、20mA/cmにおいて、実施例6、および比較例1〜2に対する0hrの初期電圧と200hr後の電圧差を測定して図15に示す。
【0139】
また、実施例3〜5と関連し、前記第3層のn型ドーパントのドープ濃度に応じた素子の効率を測定して図16に示し、素子の反射率を測定して図17に示す。
【0140】
前記結果のように、前記第3層のn型ドーパントのドープ濃度が増加するほど吸収が増加するため、素子の効率が減少する。しかし、本出願によれば、バリアー物質を含む第2層を含むことによって、前記第3層のn型ドーパントのドープ濃度を30重量%以下、10重量%以下または5重量%に調節すると同時に、電極の間に備えられた層の接合面から生じる化学的反応またはドーパントの内部分散(dopant interdiffusion)による駆動電圧の上昇または素子安定性を効率的に防止することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17