特許第6503531号(P6503531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6503531
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】カバーとその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A45D 44/08 20060101AFI20190408BHJP
   A45D 19/02 20060101ALI20190408BHJP
   A41D 3/08 20060101ALI20190408BHJP
   A42B 1/04 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
   A45D44/08 Z
   A45D44/08 A
   A45D19/02 Z
   A41D3/08 B
   A42B1/04 A
【請求項の数】5
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2018-183632(P2018-183632)
(22)【出願日】2018年9月28日
【審査請求日】2018年10月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516202165
【氏名又は名称】李 美和
(72)【発明者】
【氏名】相根 志郎
(72)【発明者】
【氏名】李 美和
【審査官】 石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】 スイス国特許出願公開第00204512(CH,A3)
【文献】 特開2016−028667(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3177791(JP,U)
【文献】 実開平04−135206(JP,U)
【文献】 特開2003−070525(JP,A)
【文献】 特開2001−314224(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3131581(JP,U)
【文献】 実開昭50−154185(JP,U)
【文献】 特開昭51−120856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 19/18
A41D 3/08
A42B 1/04
A45D 19/02
A45D 44/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被装着者の背中に配置され、被装着者の両肩と背中を被う大きさの、上部が開口した逆円錐形の袋部と、該袋部の前記背中に接する部分から被装着者の両肩を超えて被装着者の腹部へ垂れ下がって被装着者の胸元から腹部を被う左右の前垂れ部分とを有する非吸水性の柔軟な材質で形成されたカバーの使用方法であって、
被装着者の頭髪に薬剤を施すときは、前記袋部の開口部を上に向けた状態で背中に垂らし、前記左右の前垂れ部分を前記開口部と連なる面を上に向けて被装着者の両肩から腹部へ垂らして、被装着者の上半身を被うケープとして使用し、
前記薬剤を頭髪に施した後は、前記左右の前垂れ部分の互いに対向する左右の衿部を、被装着者のうなじから揉み上げ、こめかみ、額へと沿わせて肌に密着させた状態で重ね合わせて留め、続いて被装着者の頭部から背中へ垂れ下がる前記左右の前垂れ部分とそれに続く前記袋部とで包囲される頭髪に向けてスチームやミストを噴射することを特徴とするカバーの使用方法。
【請求項2】
被装着者の背中に配置され、被装着者の両肩と背中を被う大きさの、上部が開口した逆円錐形の袋部と、該袋部の前記背中に接する部分から被装着者の両肩を超えて被装着者の腹部へ垂れ下がって被装着者の胸元から腹部を被う左右の前垂れ部分とを有する非吸水性の柔軟な材質で形成されたカバーの使用方法であって、
被装着者の頭髪に薬剤を施すときは、前記袋部の開口部を上に向けた状態で背中に垂らし、前記左右の前垂れ部分を前記開口部と連なる面を上に向けて被装着者の両肩から腹部へ垂らして、被装着者の上半身を被うケープとして使用し、
前記薬剤を頭髪に施した後は、前記左右の前垂れ部分の互いに対向する左右の衿部を、被装着者のうなじから揉み上げ、こめかみ、額へと沿わせて肌に密着させた状態で重ね合わせて留め、続いて被装着者の頭部から背中へ垂れ下がる前記左右の前垂れ部分とそれに続く前記袋部とを頭髪に被せて包み込むことを特徴とするカバーの使用方法。
【請求項3】
被装着者の背中に配置され、被装着者の両肩と背中を被う大きさの、上部が開口した逆円錐形の袋部と、該袋部の前記背中に接する部分から被装着者の両肩を超えて被装着者の腹部へ垂れ下がって被装着者の胸元から腹部を被う左右の前垂れ部分とを有する非吸水性の柔軟な材質で形成されたカバーの使用方法であって、
被装着者の頭髪に薬剤を施すときは、前記袋部の開口部を上に向けた状態で背中に垂らし、前記左右の前垂れ部分を前記開口部と連なる面を上に向けて被装着者の両肩から腹部へ垂らして、被装着者の上半身を被うケープとして使用し、
前記薬剤を頭髪に施した後は、前記左右の前垂れ部分の互いに対向する左右の衿部を、被装着者のうなじから揉み上げ、こめかみ、額へと沿わせて肌に密着させた状態で重ね合わせて留め、続いて被装着者の頭部から背中へ垂れ下がる前記左右の前垂れ部分とそれに続く前記袋部とを持ち上げて頭部に被せてから頭髪全体を包み込むことを特徴とするカバーの使用方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の使用方法に続いて、頭髪を包み込んだ前記袋部と前記左右の前垂れ部分とを開放するに際し、まず前記袋部を被装着者の背中に垂らし、続いて前記左右の前垂れ部分を、薬剤が付着した面を上にして被装着者の両肩から腹部へそれぞれ垂らし、次に前記前垂れ部分の前記衿部を中折りにして、薬剤の付着した面を内側に、付着していない面を外側に向け、続いて前記袋部を背中に垂らしたまま、前記中折りによって露出した薬剤の付着していない面の縁部を被装着者のうなじから揉み上げ、こめかみ、額へと沿わせて肌に密着させた状態で重ね合わせて留め、次に頭部から垂れ下がる前記左右の前垂れ部分とそれに続く前記袋部とを頭髪に被せて包み込む、あるいは、頭部から垂れ下がる前記左右の前垂れ部分とそれに続く前記袋部とを持ち上げて頭部に被せてから頭髪全体を包み込むことを特徴とするカバーの使用方法。
【請求項5】
請求項3に記載のカバーの使用方法に続いて、前記袋部に設けたスチームやミストの供給口から該袋部で被われた頭部に向けてスチームやミストを供給することを特徴とするカバーの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭髪に薬剤を施すときは、上半身を被うケープとなり、薬剤を施した後は、頭髪全体を保温・保湿して、薬剤の効果を促進することができる新たなカバーとその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
美容室や理容室において、パーマやヘアトリートメント、ヘアカラー等の薬剤を頭髪に施すときは、薬剤が施された頭髪にヘアキャップを被せたり、食品包装用のラップフイルムを巻いたりする。これは、薬剤の乾燥を防ぎ、頭髪を保温・保湿することによって、薬剤の浸透効果を促進させるためである。
【0003】
そのため、ギャザーにゴム紐の入ったヘアキャップを使用する場合は、ギャザーの口を大きく広げて薬剤の付着した頭髪に被せるが、その際、ギャザーの口にヘアカラー剤が付着したことに気付かずにそのまま被せてしまうと、ヘアカラー剤がうなじから顔周りの肌に付着し、それによって肌が染まることがある。そのため、ヘアキャップを被せるときは、ギャザーの口が頭髪に触れないように、ゴム紐を両手で目一杯広げて被せるが、それを一人で行うことは難しく、しばしば他者の助けが必要になる。
【0004】
また、被せたヘアキャップを取り除くときに、ゴム紐が弾いて、ヘアキャップに付着した薬剤が飛散し、お客様の顔周りや衣服等に付着することがある。さらに、ギャザーの隙間からの液漏れを防ぐために、強く調整されたゴム紐が肌に食い込んでお客様に不快な思いをさせたり、うなじから顔周りの肌にゴム紐の痕が残ったりする。そうした事情から、ヘアキャップが敬遠され、最近では、それに代わるものとして、食品包装用のラップフイルムが使用されている。しかし、この場合にも、次のような問題が指摘されている。
【0005】
頭髪に巻き付けられたラップフイルムは、頭髪を包んで薬剤の乾燥を防ぐが、フイルムを巻き付けるときに、薬剤の付着した頭髪に張り付くために、冷暖房機器からの冷風や温風に晒されると、密着した部分が部分的に冷やされたり暖められたりして、薬剤の効きがムラになることがある。そのため、ラップフイルムの上から遠赤外線を照射したり、その上に遠赤外線キャップを被せたりしなければならない煩わしさがある。
【0006】
また、フイルムロールから引き出されたラップフイルムは、自己粘着力によって互いに付着するため、ラップフイルムを張った状態で頭部に巻き付けなければならないが、そのときは、両手が塞がれているため、生え際から垂れた髪を掻き上げることができず、しばしば他者の助けが必要になる。さらにラップフイルムを頭部に巻き付けるときは、ヘアキャップと同様、髪の生え際に強く巻き付けて、薬剤が漏れ出なように注意するが、それでもラップフイルムの僅かな隙間に、薬剤やその化学反応で生じた水が侵入すると、フイルムの自己粘着力が失われて緩み、それに起因して、付着した薬剤の重みでラップフイルムが頭部からずれ落ちることがある。また、お客様が頭を動かすだけでも、緩んでうなじ付近に隙間が生じてしまうことがある。さらに、重なったフイルム端部が見つからず、それを外すのに手間取ることがある。
【0007】
また、美容室では、薬剤の浸透効果を確認するために、頭髪に巻かれたラップフイルムを部分的に開いて頭髪を露出させることがある。そのときも、フイルムの自己粘着力が失われて、頭部からずれ落ちることがある。それが予期せぬときに起きると、お客様や周囲に薬剤が飛散し、思わぬ事故を招くことがある。また、シャンプー台でラップフイルムを取り除く時も、同様な注意が必要になる。
【0008】
一方、個人が自宅で髪を染める時やトリートメントを行う時は、ヘアキャップやラップフイルムは、殆ど使用されない。そのため、ヘアカラー剤は、プロ用と違って、頭髪を被わなくても薬剤効果が発揮されるように調整されているが、薬剤が乾燥すると、効き目が損なわれるために、染ムラ、染残しが生じることがある。また、薬剤塗布後の放置時間中に、ヘアカラー剤で周囲を汚す危険性がある。さらにヘアカラー剤の独特な刺激臭によって不快感を覚えることもある。
【0009】
また、ヘアカラー剤を使用するときは、衣服への付着を避けるために、ケープを着用するが、その場合でも、薬剤の付着した頭髪が露出しているため、薬剤によって衣服や周囲を汚す危険性もある。それを嫌う場合は、風呂場で染めを行うが、ヘアカラー剤が身体に付着すると、肌が数日間染まることがあり、さらに浴槽や壁に付着すれば、その汚れが落ちない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−314224号公報
【特許文献2】特開2002−320516号公報
【特許文献3】特開2003−093136号公報
【特許文献4】特開2003−070525号公報
【特許文献5】特開2003−189924号公報
【特許文献6】特開2005−194678号公報
【特許文献7】特開2006−255266号公報
【特許文献8】特開2009−007692号公報
【特許文献9】特開2013−162897号公報
【特許文献10】特開2016−028667号公報
【特許文献11】実開昭49−66636号のマイクロフイルム
【特許文献12】実開平1−149718号のマイクロフイルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
こうした背景から、上記先行技術文献に開示されるような種々のヘアキャップが開発され、本出願人も、特願2018−095914として、これまでのヘアキャップやラップフイルムに代わる新たなヘアカバーを出願した。しかし、このヘアカバーは、シートの中央に設けた小さな貫通孔に頭部を通して上半身を被った後、そのシートの腹部側を持ち上げて、貫通孔から顔を露出させるものであるため、美容室や理容室で使用するには、特に化粧をした女性客から敬遠される問題があった。
【0012】
本発明は、この敬遠される問題に鑑み、先願(特願2018−095914)の特徴を活かしながら、特に美容室や理容室で使用することができる、改良版のヘアカバーと、その使用方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
<カバーの構成>
本発明に係るカバーは、手で引っ張れば伸びる薄さの非吸水性の柔軟なカバー1であって、図1図4に示すように、被装着者の背中に配置される上部が開口した逆円錐形の袋部2(図1参照)と、前記袋部2の背中に接する部分から被装着者の両肩を超えて腹部へ垂れ下がる左右の前垂れ部分3(図2参照)とを備えている。袋部2は、被装着者の両肩と背中を被う大きさであり、左右の前垂れ部分3は、被装着者の前側で部分的に重なった状態で被装着者の胸元から腹部を被う大きさである。この袋部2を背中に垂らした状態で左右の前垂れ部分3の互いに対向する左右の衿部4(図2の和服の衿に相当する部分)を、被装着者のうなじから揉み上げ、こめかみ、額へと沿わせて額の上部で重ね合わせて綴じると、袋部2と左右の前垂れ部分3とが、図4のように、頭髪を包囲する形状となる。
【0014】
このカバー1は、これまでのヘアキャップのように、上から被せるのではなく、袋部2を背中に垂らした状態で、左右の衿部4を、うなじから揉み上げ、こめかみ、額へと沿わせて引っ張りながら巻いて、額の上部で重ね合わせて留める。留めるには、例えばピンや粘着テープを使用する。ピンを使用する場合は、前髪と共に重ね合わせた衿部4を留める。そうすれば、図3に示すように、引っ張った衿部4が伸びて髪の生え際に沿って肌に密着するとともに、図4に示すように、巻かれた衿部4と左右の前垂れ部分3とが、頭髪の周りを取り囲むから、頭髪に例えば複数のパーマロットやアルミホイル、ストレートパーマ用の撥水紙等が装着されていても、また頭髪が様々な形状にセットされていても、それらを含めて、左右の前垂れ部分3と、それに繋がる袋部2とで、頭髪全体をふんわりと包み込むことができる。
【0015】
このように、衿部4を引っ張りながら巻き付けて留めれば、粘りがあって伸展性のある素材の特定によって、衿部4がうなじから顔周りの肌に密着する。そのため、薬剤の化学反応によって生じた水分が衿部4から漏れ出ることはない。また、髪の生え際に巻き付けられた衿部4を起点とし、そこから立ち上がって頭髪を囲む左右の前垂れ部分3と袋部2とで、頭髪をふんわりと包み込むことができるから、薬剤の付着した頭髪とカバー1との間には、十分な空気層が形成され、その断熱層により、カバー1にエアコン等の冷気が直接当っても、頭皮温度で頭髪全体を保温・保湿することができる。さらにカバー1内では、空気の対流が起きるため、温度の低い毛先から温度の高い地肌までの毛髪温度が均一化される。
【0016】
こうした作用により、薬剤の浸透にバラツキが無くなり、これまでしばしば問題になっていたパーマの当たりムラや、ヘアカラーの染ムラ等の失敗を解消することができる。それに加え、薬剤の浸透効果が促進されるから、施術時間が短縮されて、お客様にも喜ばれる施術となる。
【0017】
また、左右の衿部4をうなじから揉み上げ、こめかみ、額に沿って強く巻き付けて留めるだけで、伸びて薄くなった衿部4が収縮するときの力でうなじから顔周りの肌に張り付いて密着するから、その伸びた衿部4の上からクリップやピン等でもって左右の前垂れ部分3を留めるだけで、例え頭を動かしても外れることはない。また、伸ばされた衿部4が収縮するときに、衿部4に適度なテンションを付与して肌に密着するが、その場合のテンションは、従来のギャザーのゴム紐と違って、お客様に不快感を与えるような強いものではない。それに加え、頭の上から被せるのではなく、衿部4を下から持ち上げて顔周りの肌に密着させるから、衿部4に頭髪の薬剤が付着することはないし、それによってお客様の肌が薬剤で染まるようなこともない。さらに、自己粘着力のあるラップフイルムと違って、カバー1自体が互いに付着するようなことはないから、他者の手を借りなくても、お客様の髪を掻き上げながら衿部4を巻き付けることができるから、美容師や理容師にとっては、一人で作業ができる使い勝手も良いカバー1となる。
【0018】
また、図3図4に示すように、衿部4を襟足から顔周りに沿って巻いた状態に保持できるから、この状態からカバー1を頭髪に被せたり、被せたカバー1を開けて、薬剤の浸透効果を確認したり、さらにパーマロットがずれていれば、それを直したりすることが簡単にできるから、経験の浅い美容師や理容師であっても、このカバー1を使えば、失敗の無い施術が可能となる。
【0019】
また、このカバー1は、図1図2に示すように、被装着者の両腕を除く上半身を被う大きさに形成され、特に袋部2は、被装着者の両肩と背中を被う大きさであるから、頭髪に薬剤を施すときは、汚れ防止用のケープになって、例えば背中に垂れた袋部2内に頭髪を入れて薬剤を塗布したり、流し掛けたりすることができる。これにより、薬剤が周囲に飛散したり、床等に垂れたりする事故を防ぐことができる。また頭髪から垂れる薬剤は、逆円錐形の袋部2内に集めた後、下端部に小さな孔を開けて回収することもできるから、作業性を改善することができる。なお、開けた孔は、テープやクリップ等で止めると元の袋部2として使用することができる。
【0020】
また、髪の生え際に沿う衿部4の上から生え際の毛髪を軽く押さえれば、それが例え薬剤が弾かれ易い白髪であっても、その周りに薬剤が満遍なく付着するから、問題視され易い髪の生え際の白浮きや染残し等を防止することができる。
【0021】
また、このカバー1は、袋部2と左右の前垂れ部分3とが一体的に成形され、図6に示すように、左右の前垂れ部分3のおもて面(腹部と接しない面)を互いに向い合せに重ねて袋部2の開口を閉じると、袋部2と左右の前垂れ部分3とが扁平な略長方形となる。そして、閉じた長辺を開けて広げると、図7の平面図のように、平面視が三角形の袋部2とその袋部2と繋がった前垂れ部分3とが現れる。そして、前垂れ部分3は、袋部2の底辺中央から下方に左右に分割され、分割された左右の前垂れ部分3の互いに対向する部分が衿部4となる。
【0022】
この衿部4は、図7に示すように、うなじに沿う部分4aが円弧状に切り抜かれ、続いて揉み上げからこめかみ、額に沿う曲線に切り抜かれている。これにより、衿部4をうなじから顔周りに沿ってターバンのように巻き付けると、円弧状の部分4aがうなじの生え際に沿い、続く衿部4の一部が耳に被さり、段差部4bが揉み上げに被さるようになっている。ただし、髪の生え際の輪郭は、人によって千差万別であり、ときには、段差部4aが、目じりを被って目障りになることがある。そうした場合は、目障りになる部分を折ったり、切除したりしても良い。したがって、図7に示す衿部4の形状は、一例であって、これには限定されず、段差部4bのない直線的な形状であっても良い。
【0023】
カバー1は、図6に示すように、折り畳んだ状態では、扁平な略長方形になるから、形抜きによる量産が可能である。しかも、薄くて伸びる合成樹脂シート、例えば、透明なポリ袋等の素材でも作ることができるから、安価に製造することができる。したがって、使い捨てができ、今までのヘアキャップのように、洗浄する必要がないから、美容室・理容室にとっては、作業性の改善となり、お客様にとっては、衛生的で気持ちのよいカバーとなる。
【0024】
また、袋部2を被装着者の頭部に被せたときの被装着者の額と接する縁部には、図6図7に示すように、左右方向に部分的に分離可能な紐5が形成されており、その紐5は、頭部に被せた袋部2を頭部に保持しておくことのできる長さに形成されている。
【0025】
ここで、部分的に分離可能とは、紐5の付け根が袋部2と一体となり、それ以外の部分は、袋部2から分離可能なものをいう。具体的には、例えば、図6図7に示すように、予め袋部2の前縁に沿ってミシン目6aで切り込みを入れておき、そのミシン目6aで切り離して紐5を形成した後、その紐5の中央部分のミシン目6bを左右に分離すれば、袋部2の前縁両サイドから左右方向に紐5が取り出せるようにしたものである(図13図14参照)。
【0026】
この紐5で頭髪に被せた袋部2を固定するときは、例えば、図14に示すように、うなじ付近で紐5を結んだり、図26に示すように、顎下で結んだりする。そうすれば、頭髪に被せた袋部2を固定することができる。また、図21に示すように、背中に垂らした袋部2を持ち上げるときに、左右の紐5を持って引き上げれば、高齢者であっても、一人で袋部2を頭髪に被せることができる。
【0027】
このカバー1は、前述のように、薄いシートで折り畳み可能であるから、これを箱に収納する時は、図8に示すように、折り畳んで積層した状態や、図9に示すように、帯状に連なった複数のカバー1をロール状に巻いた状態で箱に収納して取り出せるようにしておく。そうすれば、図8では、ティッシュのように、一枚ずつ箱Baの開口部から取り出して使用することができ、図9では、ラップフイルムのように、箱Bbに収納されたロールからカバー1を一枚分引き出しては、後続カバー1との境目に形成されたミシン目7で切り離して使用することができる。
【0028】
<カバーの使用方法>
次に、このカバー1の使用方法の発明について、図1図4と、図面代用写真(以下、図と略称する。)である図10図39に基づいて説明する。
【0029】
<薬剤を施す前の使用方法>
このカバー1を使用するときは、頭髪に薬剤を施す前に、図1図2のように、袋部2の開口を上に向けて被装着者の背中に垂らし、左右の前垂れ部分3を袋部2の前記開口と連なる面を上に向けて被装着者の両肩から腹部へ垂らして、被装着者の両腕を除く上半身を被うことを特徴とする(図10、11参照)。
【0030】
<薬剤を施すときの使用方法>
このカバー1は、両腕を除く上半身を被う大きさを有しているから、このカバー1で上半身を被うと、汚れ防止用のケープとなる。その状態から、パーマやヘアカラー、トリートメント等の施術を行う。その際、背中に垂らした袋部2内で薬剤を施すと、薬剤が頭髪から垂れたり零れたりしても、それを袋部2内に集めて、周囲を汚さずに施術することができる。特に、ロングヘアの場合には、図10に示すように、毛先まで袋部2内に納めることができるから、髪に付着した薬剤が周囲に接触して付着することを防いでくれる。また、袋部2内で頭髪に薬剤を掛け流して回収することもできる。
【0031】
また、上半身を被ったカバー1の両肩は、裃の肩衣のように広く開放されているから、素人が自宅で髪を染めるときは、両腕を上げて作業することができ、その場合でもカバー1はずれない。また、図12のように、背中に垂れる袋部2を自分自身で持ち上げて頭部に被せることもできるから、周囲を汚さずに、一人で髪を染めることができる。
【0032】
<頭髪を包む第1の使用方法>
頭髪に薬剤を施した後は、図15図17に示すように、袋部2を背中に垂らした状態で、左右の前垂れ部分3の各衿部4を被装着者のうなじから揉み上げ、こめかみ、額へと沿わせて額の上部で重ね合わせて留める。次に図18図20に示すように、側頭部から垂れ下がる左右の前垂れ部分3とそれに続く袋部2とを頭髪に被せて閉じることにより、被装着者の頭髪全体を包むことを特徴とする。なお、これらの図の生え際に沿う黒線は、衿部4の端と肌とが判別し易いように、衿部4の縁を黒く着色している。
【0033】
この場合も、衿部4を巻き付けるときは、うなじ付近を支点として衿部4を引っ張りながら、襟足から額へと、衿部4を生え際に沿わせて巻き付ける。すると、衿部4がうなじから顔周りの肌に密着する。また、額の上部で重ね合わせた衿部4は、ピンやクリップ等を使って毛髪と共に留める。このとき、粘着テープで衿部4同志を留めても良い。この使用方法は、図19図20に示すように、背中に垂れ下がった薬剤の付着したロングヘアやセミロングヘアをそのまま包むときに有効である。その際、閉じた左右の前垂れ部分3と袋部2とを粘着テープやピン等で留める。或いは、図38に示すように、左右の前垂れ部分3の合わせ目を捻じって留めても良い。これにより、これまでは、包むことが難しかったロングヘアや、パーマロット、アルミホイル等が装着された頭髪でも、また、様々な形態の施術であっても、その状態を維持したまま頭髪全体を包むことができる。したがって、これまでは、頭髪全体を包むことが難しかった長い髪や凝った形状でも、それらを完全に包み込んで保温・保湿するから、薬剤の効果を促進させ、毛髪温度の均一化を図ることができる。
【0034】
<頭髪を包み込む第2の使用方法>
別な使用方法としては、前述と同様に、被装着者の頭髪に薬剤を施し、次に袋部2を背中に垂らした状態で、図15図17に示すように、左右の前垂れ部分3の衿部4を被装着者のうなじから揉み上げ、こめかみ、額へと沿わせて額の上部で重ね合わせて留める。続いて図21図23に示すように、背中に垂れ下がる袋部2を持ち上げて、頭部に被せた左右の前垂れ部分3の上に被せて被装着者の頭髪全体を包むことを特徴とする。
【0035】
この場合も、衿部4を巻き付けるときは、衿部4を引っ張りながら、うなじ付近を支点として髪の生え際の顔周りに沿わせて、衿部4を肌に密着させる。また、背中の袋部2内の縁に薬剤が付着し、それを頭部に被せるときは、薬剤の付着した縁を内側に折り込むかそれを拭き取っておく。また、頭部に被せた袋部2の前縁を、図27に示すように、額に沿わせた衿部4を留めたピンで一緒に留める。また、袋部2の先端部に孔を開けている場合は、袋部2を頭部に被せる前に、先端部を折ってクリップや粘着テープで閉じておく。
これにより、頭部で重ねられた左右の前垂れ部分3が、薬剤の付着した頭髪の大部分を被い、その上から袋部2を被せて、頭髪を二重三重に被うから、薬剤が付着していない前垂れ部分3の上面と、その上に被せた袋部2との間に空気層が形成されて、カバー1内が断熱され、頭皮温度により温められて、保温・保湿力を高めることができる。しかも、空気層のある袋部2内には、空気の対流が起きるから、毛先から地肌までの毛髪温度が均一化されて、薬剤効果のバラツキを抑えることができる。
【0036】
この使用方法は、ショートヘアや背中に毛髪を垂らさない状態で薬剤を浸透させる施術に有効である。また、新たに生えてきた新生毛を染める場合は、髪の生え際に被さる左右の前垂れ部分3や袋部2の上から新生毛を押さえると、新生毛の間に薬剤が浸透し、その状態が保持されるから、薬剤は、毛髪にはじかれることなく、効果を発揮することができる。これにより、クレーム率の高い生え際の白浮きや染残しを防止することができる。
【0037】
さらに、この使用方法によれば、薬剤が付着していない左右の前垂れ部分3の上面から袋部2を被せて留めているので、袋部2の着脱が容易であり、それに伴って、頭髪を再び露出させて、薬剤の効果を確認することができる。その結果、薬剤効果が不十分であれば、再びカバー1を閉じて保温・保湿を延長させ、薬剤効果のムラがあれば、それを修正することができる。また、パーマロットの位置ずれがあれば、それを修正することができる。このように、髪の生え際だけでなく、頭髪全体の染ムラ、染残しや、パーマの当たりムラ等の失敗を無くすことができる。
【0038】
以上の方法では、衿部4を巻き付けた状態で頭髪をふんわりと包み込んだり、再び露出させたりしたが、髪の生え際の浸透状態を念入りに確認したい場合とか、ヘアカラーでリタッチ(既に染められた頭髪の新たに生えてきた地毛の部分をカラー剤で染めることを)してから、時間差法でもって頭髪に再度ヘアカラー剤を施したり、パーマの施術を段階的に施す場合もある。そうした場合は、次の使用方法が良い。
【0039】
<頭髪全体を再び露出させる方法>
この場合は、前述の第1の使用方法又は第2の使用方法によって頭髪を包んだ後、頭髪を被う袋部2と左右の前垂れ部分3とを開放する。その際、袋部2を背中に垂らし、左右の前垂れ部分3を、薬剤が付着した面を上にして被装着者の両肩から腹部へと垂らす(図10図11参照)。これにより、頭髪全体を露出させることができる。次に、図28に示すように、薬剤の付着した左右の衿部4を中折りにして、薬剤の付着した面を内側に、付着していない面を外側に向け、その状態で、露出させた髪の生え際部分を確認する。その結果、必要があれば、薬剤を施して修正を加えたり、次の段階の施術に移行したりする。続いて再び頭髪全体を被うときは、図29に示すように、袋部2を背中に垂らしたまま、中折によって露出した薬剤の付着していない面の縁部を、被装着者のうなじから揉み上げ、こめかみ、額へと沿わせて額の上部で重ね合わせて留める(図15図16図17参照)。次に頭部から垂れ下がる左右の前垂れ部分3と、それに続く袋部2とを頭髪に被せて閉じる(図19図20参照)。あるいは、頭部から垂れ下がる袋部2を持ち上げて頭部に被さる左右の前垂れ部分3の上に被せて閉じる(図22図23参照)。こうして被装着者の頭髪全体を包むのである。
【0040】
このように、中折した薬剤の付着していない面を新たな衿部として巻き付けるから、カバー1を解放しても、左右の前垂れ部分3に付着した薬剤がお客様の肌に付着することはない。したがって、カバー1を取り換える必要がなく、従来のように、ヘアキャップやラップフイルムを併用する必要もないから、一つのカバー1で薬剤の付着した頭髪を繰り返し被うことができる。これにより、施術時間が短縮され、お客様に不快な思いをさせない効果がある。この場合、中折にされて新たな衿部となった部分は、厚みが増しても、手で引っ張れば伸びる薄さであり、特に上下に重なった下層部分が、前述のように、伸びた状態で肌に密着するから、中折にしても、衿部のような利便性や機能性が損なわれることは無い。
【0041】
<湿熱促進器を使用する第1の使用方法>
図10図11に示すように、カバー1で被装着者の上半身を被った後、被装着者の頭髪に薬剤を施す。次に袋部2を背中に垂らした状態で、左右の衿部4を被装着者のうなじから揉み上げ、こめかみ、額へと沿わせて額の上部で重ね合わせて留める。続いて図24に示すように、左右の前垂れ部分3と袋部2とで囲まれる頭髪に向けてスチームやミスト等を噴射することを特徴とする。
【0042】
この場合も、衿部4を髪の生え際に沿わせて額の上部で留める。続いて頭頂部で重ね合わせた左右の前垂れ部分3を粘着テープやクリップ等で連結して、その連結した状態が保持されるようにしておく。この状態では、後頭部は、露出したままで、お客様の髪がロングヘアの場合は、毛先まで全ての毛髪を袋部2内に収納しておく。図24は、その状態を背後から写したものである。この状態で、施術者が手に持って使用するガンタイプやハンディータイプの噴射力の強い湿熱促進器でもってスチームやミスト等を頭髪に向けて噴射すると、左右の前垂れ部分3と袋部2とが、頭髪全体を囲い込むようにバルーン状に膨らみ、そこに供給されたスチームやミスト等がバルーン内で循環する。この場合、湿熱促進器を手に持つ必要はなく、それをスタンドや適宜な箇所に固定しておくと良い。そうすれば、施術者の手が開放される。
これに対し、こうしたカバー1を使用しないで、ガンタイプやハンディータイプの湿熱促進器を使用する従来のやり方では、ドライヤーで頭髪を乾かすときのように、これらの湿熱促進器を手に持って、お客様の頭髪にスチームやミストを噴射し続けなければならないから、施術者の手が取られ、時間も掛かり、湿熱促進器が気軽に使用できない問題がある。しかし、前述の方法によれば、そうした問題が生じないから、湿熱促進器を気軽に使用することができるメリットがある。
【0043】
<湿熱促進器を使用する第2の使用方法>
次に湿熱促進器でスチームやミスト等をカバー1内に供給する場合は、前述と同様に、カバー1で被装着者の上半身を被った後、頭髪に薬剤を施し、続いて腹部へ垂れ下がった左右の前垂れ部分3の衿部4を、被装着者のうなじから揉み上げ、こめかみ、額へと沿わせて額の上部で重ね合わせて留める。続いて背中に垂らした袋部2にスチームやミストの供給口を設けてから、該袋部2を頭部に被せて、前記供給口から袋部2内にスチームやミスト等を供給することを特徴とする。
【0044】
具体的には、図32に示すように、被せる前の袋部2の任意の場所に供給口Aを開け、その供給口Aに図33に示す湿熱促進器のアタッチメントBを取り付ける。次に袋部2を頭部に被せて閉じた後、そのアタッチメントBに供給ホースCを取り付ける。或いは、先にアタッチメントBに供給ホースCを取り付けてから袋部2を頭部に被せて密閉する。続いて、図31に示すように、供給ホースCから袋部2内にスチームやミストを供給する。すると、図31に示すカバー1が膨らみ、上昇するスチームやミストによって、カバー1は、円錐形状に膨らむ。これにより、毛先から地肌までが保温・保湿されるから、薬剤の浸透効果が一層促進される。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、左右の衿部4を、うなじから、揉み上げ、こめかみ、額へと沿わせて額の上部で留め、上半身を被う大きさの左右の前垂れ部分3と袋部2とで頭髪の周りを包囲するから、それらを頭髪に被せるだけで、頭髪全体を包むことができる。したがって、頭髪がどの様な形状や長さであっても、また頭髪にパーマロットやストレートパーマ用の撥水紙等が装着されていても、それらを含めて頭髪全体を包むことができる。また、頭髪に被せたカバー内には、十分な空気層が形成され、それによって外気が遮断されるから、毛髪温度の均一化を図ることができる。これにより、薬剤効果を均一化させて、染ムラ、パーマの当りムラを無くすことができる。また、このカバーを一つ用意するだけで、あらゆる形態や形状の頭髪に対して、また、パーマロットや撥水紙等が装着された頭髪に対しても、それらを含めて保温・保湿することができるから、薬剤の浸透作用を促進させて、施術時間の短縮を図ることができる。したがって、理容師や美容師のこれまでの作業を一層効率化させることができる。
【0046】
また、カバー1は、手で引っ張れば伸びる非吸水性の薄くて柔軟な素材で構成されているので、左右の衿部4を引っ張りながら、うなじから揉み上げ、こめかみ、額へと沿わせて、額の上部で交差させて留めるだけで、左右の衿部4をうなじから顔周りの肌に密着させることができる。しかも、肌に密着した衿部4は、頭髪に被せた左右の前垂れ部分3や袋部2を繰り返し開閉しても、簡単には外れないから、安心して施術を行うことができる。
一方、ラップフイルムは、巻いた当初は、肌に張り付いているが、伸縮力が乏しく、テンションをかけ続けるためには、自己粘着力が弱いために、頭を動かすだけで、重ね合わせ部分が緩み、肌に張り付いた部分にも、皺が生じて張り付きがなくなり、うなじ付近にも隙間が生じたりする。また、ピン等で留めても、伸びないために、ずれ落ちることがある。これに対し、本発明に係るカバー1は、自己粘着力はないが、粘りのある伸縮する素材の特性によって、肌に対しては、収縮するときの力でもって肌に張り付いて保持されるから、頭を動かしたり、頭髪に被せたカバー1を繰り返し開閉したりしても、簡単には外れないのである。
【0047】
また、カバー1をケープとして使用するときは、カバー1が、背中に垂れた袋部2から肩を跨いで左右の前垂れ部分3へと前後に分かれて垂れるので、お客様からカバー1が落ちることはない。また、左右の衿部4を引っ張りながら襟足から額へと巻き付けて留めれば、簡単に装着できるから、これまでの施術のように、他者の手を借りなくても、一人で装着できるメリットがある。
【0048】
さらに、左右の衿部4を頭髪の生え際に沿って固定した状態で、頭髪全体を包んだり、露出させたりすることができるから、薬剤を浸透させる待ち時間中に、再び頭髪を露出させて、薬剤の浸透効果を確認したり、施術の修正を行ったり、さらにはパーマロットのずれ等を直すことも簡単にできるから、経験の浅い美容師であっても、失敗のない施術を行うことができる。
【0049】
また、背中に垂らした逆円錐形の袋部2は、その中で頭髪に薬剤を施すことができるから、例え薬剤が飛び散ったり、毛先から垂れたりしても、袋部内に止めて周囲への飛散を防止することができる。さらに、頭髪から垂れる薬剤は、逆円錐形の袋部2内で集めた後、下端部に小さな孔を開けて回収することもできるから、頭髪に薬剤を流し掛ける施術も可能になる。また、孔を開けた袋部は、その部分を折ってテープやクリップ等で止めると、元の袋部2として機能させることができる。
【0050】
また、髪の生え際に沿わせた衿部4の上から薬剤の付着した毛髪を押さえれば、染め残しや白浮きが生じやすい生え際の毛髪や白髪に対しても、薬剤を満遍なく付着させることができるから、素人が自分でカラーリングをするときでも、施術の失敗を無くすことができる。
【0051】
また、このカバー1は、薄くて伸びやすいシートで形成され、折り畳んだ状態では、扁平な略長方形になるから、安価に製造することができる。したがって、使い捨てができ、今までのヘアキャップのように、洗浄する必要がないから、美容室・理容室にとっては、作業性の改善となり、お客様にとっても衛生的で気持ちのよいカバーとなる。
【0052】
また、このカバー1は、これまでのヘアキャップのように、ゴム紐で強く締め付ける必要がなく、ラップフイルムのように、開閉に手間取ったり、水分を含んで頭部から外れたりすることもないから、お客様に不快感を与えずに施術できる効果がある。そして、施術者にとっても、利便性のあるカバーとなる。さらに、頭髪にスチームやミスト等を噴射する場合でも、専用キャップを使用せずにカバー1内に直接スチームやミスト等を送り込むことができるから、今までと違い、容易に湿熱促進器を活用して、薬剤による頭髪のダメージを軽減したり、薬剤効果を向上させたりすることができる。これにより、施術時間をさらに短縮させて、お客様の負担を軽減することができる。
【0053】
また、カバーを開放して、薬剤の効果を確認したり、必要に応じて保温・保湿時間を延長したり、施術を修正したりすることができるから、失敗のない施術ができるとともに、時間差法を用いてヘアカラー剤を施す等、お客様のニーズにも応えることができる。
【0054】
また、時間差法でもってヘアカラー剤を施すときや、パーマにおいて、異なる薬剤を時分割で施すときは、薬剤が付着した前垂れ部分3や袋部2で頭髪を繰り返し被うことになるが、薬剤の付着した前垂れ部分3は、中折りにされ、薬剤の付着していない面で再び巻き付けることができるから、カバー1を取り替えなくても、薬剤が肌へ付着するのを抑えることができる。
【0055】
また、シャンプー台でカバー1を取り外すときに、これまでは、ヘアキャップのゴムが弾いたり、ラップフイルムがずれ落ちたりして、思わぬ事故を招くことがあったが、このカバー1を使用すれば、カバー1を装着したままシャンプーボウルのネックホールに首を載せてから、施術者の都合の良いタイミングで取り外したり、部分的に取り外したりできるので、これまでのような汚染事故や、うなじ付近の髪の逆折れ等も防止することができる。したがって、洗浄作業が容易になり、シャンプー時間も短くなって、お客様や施術者の負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】本発明に係るカバーで被装着者の上半身を被った状態の背面図。
図2】本発明に係るカバーで被装着者の上半身を被った状態の正面図。
図3】本発明に係るカバーの前垂れ部分を持ち上げて頭頂部で重ね合わせた正面図。
図4】本発明に係るカバーの前垂れ部分を持ち上げて頭頂部で重ね合わせた背面図。
図5】本発明に係るカバーの袋部を持ち上げて頭部に被せた状態の背面図。
図6】本発明に係るカバーを扁平に折り畳んだ状態の平面図。
図7図6の折り畳まれたカバーを広げた状態の平面図。
図8図6のカバーをジグザグに折り畳んで積層した後、箱に納めた状態の説明図。
図9】ロール状に巻かれたカバーの先端部が箱から引き出された状態の説明図。
図10図1に対応する図面代用写真。
図11図2に対応する図面代用写真。
図12】背中に垂らされた袋部を頭部に被る状態の図面代用写真。
図13】頭部に被せた袋部から紐を取り出した状態の図面代用写真。
図14】頭部に被せた袋部のうなじ付近で紐を結んだ状態の図面代用写真。
図15】一方の前垂れ部分を持ち上げて揉み上げに沿わせた状態の図面代用写真。
図16】一方の前垂れ部分を持ち上げて額に沿わせた状態の図面代用写真。
図17】他方の前垂れ部分を持ち上げて額に沿わせた状態の図面代用写真。
図18】左右の前垂れ部分を頭頂部で重ね合わせた状態の背面の図面代用写真。
図19図18の一方の前垂れ部分を頭髪に被せた状態の図面代用写真。
図20図19の他方の前垂れ部分で頭髪全体を包み込んだ状態の図面代用写真。
図21図18の状態の左右の前垂れ部分を頭に被せる直前の図面代用写真。
図22】背中に垂らした袋部を頭に被る様子を示した図面代用写真。
図23図22を正面から写した状態の図面代用写真。
図24図18の状態の頭髪に向けてスチーム等を噴射する場合の図面代用写真。
図25】各前垂れ部分を腹部へ垂らした状態で袋部を被った状態の図面代用写真。
図26図25の状態において、紐を顎下で結んだ状態の図面代用写真。
図27】頭頂部で重ねた各前垂れ部分の上に袋部を被せた状態の図面代用写真。
図28】腹部へ垂らした前垂れ部分のおもて面を中折りにした状態の図面代用写真。
図29図28の一方の前垂れ部分を再び持ち上げた状態の図面代用写真。
図30】頭頂部で重ねた左右の前垂れ部分の上に袋部を被せた状態の図面代用写真。
図31図30の袋部にスチーム供給ホースを取り付けた状態の図面代用写真。
図32】頭部に被せる前の袋部に孔を開ける様子を示す図面代用写真。
図33図32の孔にアタッチメントを取り付ける様子を示す図面代用写真。
図34図31の袋部の頂点に気圧調整用の孔を開ける様子の図面代用写真。
図35】頭部に被せた袋部の左右端部を捻って袋部を密閉する様子の図面代用写真。
図36】同じく袋部の左右端部を捻って袋部を密閉する様子の図面代用写真。
図37】パーマロットを巻いた状態の図18に相当する図面代用写真。
図38図37の左右の前垂れ部分の重ね合わせ部分を捻った状態の図面代用写真。
図39】紐を顎下で結んで、頭部に被せた袋部を固定した様子の図面代用写真。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本発明の一実施形態を図1図7図10図39の図面代用写真に基づいて説明する。
図1図10は、このカバー1の袋部2を被装着者の背中に垂らした状態を示し、図2図11は、このカバー1の前垂れ部分3を腹部へ垂らした状態を示す。これらの図において、カバー1は、図1図10に示すように、上部が開口した逆円錐形状の袋部2と、図2図11の左右の前垂れ部分3とを備えた薄くて伸びる、透明又は半透明の合成樹脂シートで形成されている。
【0058】
このシート素材は、非吸水性の薄くて伸びる素材、例えばポリ袋等の素材として使用されるポリエチレンやビニール、ナイロン等のシート素材で形成されている。厚みは、好ましくは0.015mm〜0.04mm程度あれば良く、この厚みの衿部4を引っ張った状態で髪の生え際に沿って巻けば、伸びて薄くなった衿部4が収縮するときに、肌に密着して適度なテンションを付与する。そして、左右の衿部4を粘着テープで留めたり、クリップやピン等で前髪と共に留めたりすると、そのテンションが保持されるから、頭を振り回した程度では、外れることはない。したがって、ヘアキャップのようにゴム紐で強く締め付ける必要がなく、お客様に不快感を与えないカバー1となる。またラップフイルムは、最初は肌に張り付くが、伸び率が低く、収縮も僅かであるため、頭の動きによる頭髪の生え際の肌の動きに対応できずに、肌に密着したようでも次第に緩んでくる。また、水分が付着すると、忽ち緩んで、付着した水分の重みでずれ落ちてしまう難点がある。これに対し、非吸水性の薄くて伸びるシートをこのように伸ばして使用すれば、こうした難点を解決することができるのである。
【0059】
このカバー1は、扁平に折り畳んだ状態では、図6に示すように、略長方形状となり、開口した長辺Lを広げると、図7に示すように、袋部2が、三角形となり、前垂れ部分3は、袋部2の底辺中央部分から下方へ向けて左右に分割された形状となる。この分割された各前垂れ部分3を袋部2の内側と連なる面を表に向けて、図2図11のように、被装着者の両肩から腹部へと垂らすと、各前垂れ部分3の首回りに沿う縁部が衿部4となる。
【0060】
この衿部4は、図7では、瓢箪形に切り抜いているが、これは一例であって、この形状には限定されない。例えば上端のヘアピンカーブ4aから直線的に下端部に至る一般的な衿の形状、すなわち、図7の衿部4の段差部分4bを直線状にした形状でも良い。瓢箪形の衿部4は、左右の前垂れ部分3を、図15図17のように持ち上げて、袋部2の内側と連なる面を肌に当てたときに、衿部4が被装着者のうなじから耳の上、揉み上げ、こめかみへと沿うようにするための形状である。ただし、人によって顔の輪郭や生え際ラインが異なるため、瓢箪形の中央の飛び出し部分4bが邪魔になるようであれば、その部分を折って使うこともできる。また、施術内容によっては、生え際全てを被う必要のない場合もあり、人によってその形状は異なるから、美容師や理容師によっては、衿部4の周縁がシンプルな形状の方が使い易い場合もある。そのため、製品化するときは、種々の形状の衿部4を揃え、それを使い分けるようにすると良い。さらには、図6のように折り畳んだときに、カバー1の形状が長方形になって、ヘアピンカーブのないストレートな衿部4を有する形状であっても良い。こうすれば、さらに安価になる。
【0061】
このカバー1は、扁平に折り畳むことができ、その状態では、図6に示すように、例えば短寸の横幅が約30〜45cm、長寸の縦幅が約70cm〜100cmの矩形の二つ折りシートとなる。また、衿部4は、それを上下方向のどの位置に設けるかによって、袋部2と前垂れ部分3の割合が異なってくる。また、横幅のサイズに応じて、頭髪を被う面積や空気層の容量も異なってくる。
【0062】
一般的に、個人が自宅でヘアカラー剤を施すときは、鏡を見ながら前屈みになって薬剤を施すため、薬剤が前側へ垂れて周囲を汚すことがある。そこで、袋部2は、頭部全体を被うことのできる適度な大きさとし、前垂れ部分3をこれより長くする。そうすると、被装着者の胸元や腹部を広く被うことができるので、汚れ防止用ケープとしての機能を高めることができる。
【0063】
一方、美容師や理容師が使用する場合は、お客様にクロスや汚れ防止用のケープを装着した上からカバー1を装着するので、前垂れ部分3をケープとして使用する必要性は少ない。また、施術内容によっては、頭髪にパーマロットやストレートパーマ用の撥水紙等を装着したり、ウィービングのホイル等を装着したりする。ときには、頭髪を自然に垂らしたままにする。また、薬剤を施した後は、時間差法や施術の修正、湿熱促進器や乾熱促進器を使用する等、多種多様な施術を施す関係から、袋部2を大きくし、それを頭部に被せたときに、頭髪に装着された種々の器具(パーマロット等)を包み込むことができる大きさである方が好ましい。そこで、プロ用としては、袋部2の長さを長くし、前垂れ部分3を短くする方が良い。したがって、カバー1を商品化するときは、個人用とプロ用に分け、さらに施術内容に応じて、衿部4の位置やカバー1のサイズが異なるものを複数用意しておくのが良い。
【0064】
カバー1の商品化に際しては、それを図8のように扁平に折り畳んだシートをジグザグに折ってティッシュのように積層したものを箱Baに収納して使用する。こうすれば、箱Baの開口部から飛び出たカバー1を取るたびに、後続のカバー1が続いて引き出せるから、片手で取り出すことができる形態となる。
【0065】
また、こうしたティッシュ型の箱Baに代えて、図9に示すように、扁平に折り畳まれたカバー1を長手方向に沿って連続させたものをロール状に巻き、そのロールからカバー1を一枚引き出して、ミシン目7で一枚ずつ切り離すようにしても良い。図9では、複数のカバー1をロール状に巻いたものを直方体の箱Bbに収納して箱Bbの上蓋との間からカバー1を一枚ずつ繰り出して、ミシン目7で切り離すようにした一例を示している。これにより、ラップフイルムのように、箱Bbに収納されたロールから一枚ずつカバー1を引き出しては、ミシン目7で切り離して使用することができるから、使い勝手の良い形態となる。
【0066】
次に、このカバー1の使用方法を、図1図7と、図面代用写真である図10図39に基づいて説明する。
【0067】
<薬剤を施す前の使用方法>
まず、カバー1を装着するときは、薬剤を施す前に、図10図11に示すように、袋部2を背中に垂らし、その袋部2の内側が表に向くように、左右の前垂れ部分3を被装着者の両肩から胸元、腹部へと垂らす。このとき、衿部4のヘアピンカーブ4a(図7参照)の部分をうなじに沿わせてから、背中に垂れた頭髪を袋部2内に垂らす。続いて腹部へ垂らした左右の前垂れ部分3を、図11に示すように、胸元で重ね合わせて閉じる。これにより、袋部2は、上部が開口した逆円錐形のポケットになり、そこにロングヘア等の後ろ髪が収納される。また、左右の前垂れ部分3の衿部4は、被装着者の首周りに沿って着物の衿合わせのように重なっている。
【0068】
この状態では、カバー1は、裃の肩衣のようなケープとなるため、被装着者の腕の上げ下げが自由になる。また、上半身を被ったカバー1も前後方向にずれることはないから、家庭で使用する場合は、使い勝手の良い簡易な汚れ防止用ケープとなる。
【0069】
また、図11に示すように、前側で重ね合わせた左右の前垂れ部分3は、簡単に剥がせる粘着テープやクリップ、ピン等で互いに連結して止めておく。これにより、被装着者が動いてもカバー1は、外れないし、背中に垂らした袋部2は、背中に垂れる頭髪を毛先まで収納するとともに、その中で、頭髪に薬剤を施すための囲い込み袋となる。このように装着した状態で、パーマやヘアカラー、トリートメント等の施術を行う。
【0070】
<薬剤を施すときの使用方法>
背中側に垂らした逆円錐形の袋部2は、肩幅よりも大きな開口部を供えているので、袋部2内で頭髪に薬剤を施すこともできる。これにより、施術中に薬剤が垂れたり飛散したりしても、袋部2が薬剤を受け止めて、周囲に付着する事故を防ぐことができる。また、袋部2は、柔軟に変形するので、施術者の立ち位置や、施術内容に応じて、袋部2を種々の形状に変えて作業性を向上させることができる。
【0071】
これまでの汚れ防止用ケープは、お客様への薬剤付着は防げても、薬剤がケープや施術者自身に付着すると、それによる二次汚染を防ぐことができなかった。例えば施術者は、お客様の回りを動きながら薬剤を施していくので、施術中に薬剤の付着したケープや頭髪に接触して、自身に付着した薬剤に気づかずに、施術を続けることがある。こうした場合、施術者自身に付着した薬剤が、お客様や周囲に付着して思わぬ事故を招くことがあった。
しかし、このカバー1は、背中に垂らした袋部2が逆円錐形の袋になり、その中にロングヘアであっても毛先まで収めて薬剤を施すことができるから、薬剤の飛散や二次汚染を防止することができる。また、施術後に袋部2を頭部に被せる場合は、袋部2内に付着した薬剤をティッシュやペーパータオル等で拭き取れば良いし、縁に付着していれば、その部分を内側に折って被せれば、お客様の顔に垂れるような事故を防ぐことができる。
【0072】
また、図1図10に示すように、背中に垂らした袋部2内で液状の薬剤を頭髪に流し掛ける施術の場合、頭髪から垂れる薬剤は、逆円錐形の袋部2の下端部に集まるから、その先端部分をカットし、その先にボウルを受けることによって回収することができる。また、薬剤を施した後は、カットした先端部分を折り曲げて、テープやクリップ等で密閉することにより、元の袋部2として使用することができる。
【0073】
これまでは、U字状のボウルで頭髪から垂れるパーマ剤を受けていた。このボウルは、左右の耳下からうなじにかけて密着するようなU字状の容器に形成され、それをお客様の両肩に載せてパーマ液を受け、その後、ヘアキャップやラップフイルムで頭髪を被ったりしていたが、このカバー1を使用すれば、施術中にU字状ボウルを使う必要がなく、施術時間を短縮させて、お客様だけでなく、施術者の負担も軽減される。
【0074】
また、美容室や理容室では、汚れ防止用として、後開きのマントのようなクロスでお客様を被うが、お客様が動いたり、前屈みになったりすると、背中で重ね合わせたクロスが開き、それによって、薬剤が衣服等に付着することがあったが、このカバー1を使用すれば、そうした事故を防ぐことができる。
【0075】
<頭髪をふんわりと包み込む第1の方法>
パーマ液やヘカラー剤を施した後に、図15図17に示すように、腹部へ垂れ下がった左右の前垂れ部分3のおもて面が側頭部に当たるように、左右の衿部4を、うなじから揉み上げ、こめかみ、額へと沿わせて強く巻き付けた後、額の上部で左右の衿部4を重ね合わせて留める。具体的には、図15に示すように、施術者が、前髪をかき上げたり持ち上げたりしながら、腹部へ垂れ下がった一方の前垂れ部分3を持ち上げて、衿部4を引っ張りながら襟足から揉み上げ、額へと回し、他方の前垂れ部分3も同様に持ち上げて、衿部4を引っ張りながら襟足から揉み上げ、額へと回し、最後に額の上部で左右の衿部4交差させて締めて、クリップ、ピン等で留める。これにより、伸びた左右の衿部4が収縮するときにうなじから顔周りの肌に密着して保持される。交差させた衿部4は、ピン等で毛髪と共に留めておく。そうすれば、カバー1は、頭部から外れることはない。
【0076】
白髪は、黒髪に比べてヘアカラー剤をはじき易いために、従来では、白浮き(白髪が染まっていない状態)が起きないように、薬剤を施した後に、髪の生え際に生えてきた白髪に紙を添えて薬剤を保持することもあったが、このカバー1を使用すれば、生え際に被さる前垂れ部分3の上から薬剤の付着した白髪を押さえるだけで、薬剤は、白髪の周りに付着して保持されるから、新たに生えてきた白髪であっても、お客様からのクレーム率の高い、生え際の白浮きを防止することができる。
【0077】
さらに、髪の分け目の気になる白髪に対しても、その上に被さった前垂れ部分3を押えれば、分け目の髪の間に薬剤が保持されるから、顔周りの生え際だけでなく、気になる部分の白浮き、染残しも防止することができる。
【0078】
図18、そうして持ち上げた前垂れ部分3を頭頂部で重ねた状態の背面を写したものである。この状態では、背中に垂れる頭髪は、露出しているが、衿部4は、うなじから額に沿って肌に密着している。一方、袋部2は、頭頂部から垂れる左右の前垂れ部分3と繋がって、背中に垂れる頭髪を袋部2内に受け止めているから、頭頂部の左右の前垂れ部分3を、図18に示すように、後頭部に沿わせた後、頭頂部から垂れ下がった一方の前垂れ部分3を、図19に示すように、垂れ下がった後ろ髪の上に重ねる。続いて他方の前垂れ部分3も図20に示すように、一方の前垂れ部分3の上に重ねて、左右の前垂れ部分3を粘着テープやクリップ、ピン等で閉じる。或いは、図38に示すように、重ね合わせた左右の前垂れ部分3の重ね合わせた縁を捻って、カバー1内を密閉する。これにより、ロングヘアやパーマロットが巻かれた頭髪であっても、或いは、ウィービングやスライシングの技法用いた施術であっても、さらには、ウエット状やドライ状の様々な状態の頭髪であっても、その状態を維持したまま、空気層を含ませた状態で頭髪全体を包むことができる。これにより、カバー1内を保温・保湿し、さらにカバー1内の空気の対流を促して、頭髪温度を均一化させることができる。
【0079】
以上の包み方は、ロングヘアやセミロングヘア、さらには、背中に頭髪を垂らした状態を保持する施術の場合に有効である。このように、頭髪を包んだ後、頭髪に施した薬剤の浸透効果を確認したり、それに基づいて頭髪に修正を加えたり、時分割で施術を施したりするときは、閉じた左右の前垂れ部分3を開放して、必要な施術を施す。また、カバー1が透明又は半透明であれば、カバー1を透して、カバー1内の状態を直接確認することができる。
【0080】
さらに、カバー1を被せて所定時間放置するときは、カバー1を皺のない状態に整えておくことが重要である。それは、見た目を良くするだけのものではなく、お客様が動くことによって、施術を施した頭髪に変化が生じた場合、それを素早く察知して対処することができるからである。例えば、お客様が動くことにより、パーマロットや撥水紙がずれたり、整えた頭髪が変形したりすることがある。そうした場合、それがカバー1の皺となって表れるから、それに気付いた施術者は、カバー1を開放して修正を加えることにより、施術の失敗を無くすことができるのである。
【0081】
<頭髪をふんわりと包み込む第2の方法>
以上の使用方法は、ロングヘアやセミロングヘア等の場合に有効であるが、ショートヘアや、頭髪を背中に垂らして保持する必要のない施術の場合は、頭頂部で重ね合わせた前垂れ部分3の上から、さらに袋部2を被せて、頭髪全体を保温・保湿する方法もある。具体的には、図18に示すように、頭頂部で重ね合わせた前垂れ部分3を重ね合わせて後頭部に沿わせた後、図21に示すように、背中に垂らした袋部2を持ち上げて、それを、重ね合わせた前垂れ部分3の上から被せる(図22図23参照)。
【0082】
このとき、頭部に被せた袋部2が落ちてしまわないように、袋部2の縁部を、頭に被せた左右の前垂れ部分3の適宜な場所で留める。例えば粘着テープやシール等を使用する場合は、左右の前垂れ部分3と、その上から被せた袋部2の縁部を粘着テープやシール等で連結する。また、袋部2の縁部の内側と左右の前垂れ部分3とを粘着テープやシール等で留めても良い。ピンやクリップ等で止めるときは、前垂れ部分3の上に被せた袋部2の縁部を、衿部4を留めているピンやクリップ等で一緒に留めると良い(図27参照)。また、図23に示すように、粘着テープやピン等で留めなくても良い。なお、図23に示す額のピンは、衿部4を留めたピンである。その後は、被せた袋部2の縁部を、額から生え際に沿わせるように、または、衿部4に沿わせるようにして、袋部2の縁部を生え際に沿わせながら、袋部2の左右から飛び出た先端部(図23図27参照)を、図35図36に示すように、捻じって袋部2内を密閉しながら、捻じった左右の端をうなじ付近で、ピンやクリップ等で止める。或いは、捻じった左右の端をうなじ付近で結ぶ。こうして、頭髪全体を前垂れ部分3と、その上に被せた袋部2とで空気層を形成しながらカバー1を密閉する。このとき、前垂れ部分3と、その上に被せる袋部2との間に空気を含ませると、含ませた空気が断熱材となって、カバー1内の保温・保湿効果を高めることができる。
【0083】
また、捻じった両端部をうなじ付近ではなく、顎下で結んでも良いが、袋部2の前縁に形成されたミシン目6(図6図7参照)を裂いて紐5(図13参照)を形成し、それを図14に示すように、うなじ付近で結んで頭髪全体を包み込むようにしても良い。また、紐5をうなじ付近で結ばずに、図39に示すように、顎下で結んでも良い。この紐5は、カバー1を家庭で使用するときには、背中に垂れ下がった袋部2を頭部に被せるときに、背中の袋部2を持ち上げるための紐5として使用することができる。したがって、この紐5が、袋部2を被るときの手助けになり、高齢者でも使用することができるカバー1となる。また、この紐5を使用すれば、生え際に沿わせた袋部2の縁部をより簡単に生え際に圧着させることができるので、更に生え際の密閉度を高めることができる。これは、前述の紐5を使用せずに袋部2の左右の両端を留める方法でも、同様である。さらにカバー1は、頭部に保持されてズレないので、薬剤浸透に必要な時間中でも、薬剤による汚れや刺激臭を気にせずに、自由に動き回ることができる。しかも、前開きでないトップスを着用していても、首回りに余裕のある衣服のときは、容易に脱着することができる。
【0084】
また、この紐5に代えて、テープの先端部に粘着剤を施したものを用意し、それをカバー1の適宜な位置に接着させて、紐として使用しても良い。あるいは、貼ったり剥がしたりできる粘着テープやシールなどを、袋部2の左右の先端部に貼り付けて、薬剤が施された頭髪全体をふんわりと包み込むようにしても良い。
【0085】
こうして頭髪全体を包み込むと、頭頂部で重ね合わせた前垂れ部分3と、その上に被せた袋部2との間に形成される二重、三重の空気層でもって、特に放熱しやすい頭頂部の頭髪が覆われるから、そこからの放熱を防ぐとともに、カバー1内には、空気の対流が起きて、頭髪全体を保温・保湿し、頭髪温度を均一化させることができる。これにより、温度の低い毛先と温度の高い地肌部分との温度差による薬剤効果のバラツキを無くすことができるから、染ムラや、パーマ当りのムラ等を無くすことができる。
【0086】
<頭髪全体を再び露出させる方法>
以上のようにして、薬剤が施された頭髪を包み込んだ後に、薬剤の浸透効果を確認するために頭髪全体を露出させたいときは、被せた袋部2と左右の前垂れ部分3を順次開放して、袋部2は背中に、左右の前垂れ部分3は、腹部へ垂らして、薬剤の浸透効果を確認する。その確認により、施術の手直しが必要であれば、改めて薬剤を施す。これにより、施術の失敗を防ぐことができる。
【0087】
また、ヘアカラーでリタッチ(既に染められた頭髪の新たに生えてきた地毛の部分をカラー剤で染めることを)してから、時間差法でもって頭髪全体に再度ヘアカラー剤を施すときも、同様に、被せた袋部2と左右の前垂れ部分3を順次開放して、袋部2は背中に、左右の前垂れ部分3は、腹部へ垂らす。そのとき、薬剤の付着した面を上に向けて腹部へ垂らし、その付着面を中折りにすれば、薬剤の付着していない面を表に出すことができる(図28参照)。
【0088】
その状態から、図29に示すように、左右の前垂れ部分3の片方を引っ張りながら持ち上げて、中折によって薬剤が付着していない面を、生え際に沿わせる。続いて、他方の前垂れ部分3も同様に、引っ張りながら、中折りによって薬剤が付着していない面の縁を、生え際に沿わせる。そして、最後に、左右の前垂れ部分3を額の上部で交差させて引き絞り、続いてピンやクリップ等で交差させた部位を留める。続いて、左右の前垂れ部分3と袋部2で頭髪全体を包み込むと、図20のようになり、左右の前垂れ部分3の上から袋部2を被せると、図30に示すように当初と同様に頭髪全体を包み込むことができる。
【0089】
<湿熱促進器(加圧過熱スチーム)を使用する第1の方法>
以上は、カバー1でロングヘアやセミロングヘアを包み込む方法であったが、これに代えて、ガンタイプやハンディータイプの湿熱促進器を使って、頭髪にスチームやミスト等を直接当てる方法もある。
【0090】
図24は、その方法により、カバー1がバルーン状に膨らんだ状態の後頭部を示したものである。この方法では、頭頂部の左右の前垂れ部分3の重ね合わせシロを、額に沿う衿部4側よりも後頭部側の方をより広く重ねて、開放側の周縁を絞るようにする。続いて重ね合わせた部分を粘着テープやクリップ等で互いに連結して止める。その状態で噴射力の強いガンタイプやハンディータイプ等の湿熱促進器でもって、後頭部へ向けてスチームやミスト等を噴射する。すると、左右の前垂れ部分3と袋部2とで形成された開口部が、バルーン状に膨らみ、その中で、スチームやミスト等が循環する。そのため、噴射口を動かさなくても毛髪全体にスチームやミストが行き渡って、薬剤による頭髪のダメージを抑えながら、薬剤の浸透効果をさらに促進させることができる。これは、頭髪がダメージを受けないトリートメント剤を施す場合でも、同様の方法を採ることにより、トリートメント剤の浸透効果を促進させることができる。
こうしたガンタイプやハンディータイプの噴射器を使用する場合は、それをスタンド等の適宜な箇所に固定しておけば、施術者の手を開放することができるから、作業性が改善され、同時にお客様の満足度を高めることができる。
【0091】
<湿熱促進器を使用する第2の方法>
このようにして、左右の前垂れ部分3と袋部2とで頭髪全体を囲い込むだけでも、スチームやミストを毛髪全体に行き渡らせることはできるが、湿熱促進器を使って、薬剤の浸透効果をさらに促進させることもできる。
【0092】
その場合は、図32に示すように、被せる前の袋部2の適宜な場所、例えば、スチーム等を集中的に当てたい場所があるときは、その場所の近辺に、ない場合は、例えばうなじ付近に供給口Aを開け、その供給口Aに図33に示す湿熱促進器のアタッチメントBを取り付けてから、袋部2を頭部に被せて密封する。次に、そのアタッチメントBに湿熱促進器の供給ホースCを連結する。続いて、図31に示すように、供給ホースCから袋部2内に加熱されたスチームやミスト等を供給する。すると、図31に示す袋部2が大きく膨らむとともに、上昇するスチームやミスト等によってカバー1は、円錐形のような形状に膨らむ。これにより、毛先から地肌までが保温・保湿されて、薬剤の浸透効果が一層促進される。そして、袋部2内のスチームやミスト等の圧力が高くなり過ぎると、図34に示すように、円錐形の頂点に鋏で小さな孔を開け、気圧を調整する。この孔は、適宜に閉じることができる。
なお、図34は、スチームを供給していない状態を写しているので、袋部2は、大きく膨らんでない。
【0093】
<袋部2だけで頭髪を被う使用方法>
ヘアカラーの部分的な施術、例えばリタッチ(既に染められた頭髪の、新たに生えてきた地毛の部分をヘアカラー剤で染めること)やウィービング、スライシング等、部分的にヘアカラー剤を施す場合や、パーマの部分的な施術、例えば毛先や頭髪の一部だけにパーマ剤を施したり、パーマ剤を施す前に、髪の傷み予防にタンパク質を補給する前処理剤を施したりする場合において、生え際に薬剤を念入りに浸透させる必要がないときは、前述の図10図11に示す状態で薬剤を施す。続いて、図25図26に示すように、左右の前垂れ部分3を腹部に垂らしたまま、背中に垂らした袋部2を薬剤の付着した頭部に被せる。そして、袋部2の前縁に形成したミシン目6を裂いて紐5とし、裂かれたミシン目6の袋部2の周縁を生え際に沿わせながら、紐5でもって図26に示すように、顎下で結ぶ。紐5が無い場合は、袋部2の左右端部を顎下でピンやクリップ等で固定する。
【0094】
この施術だけで終えるときは、これで終了するが、終了しない場合は、袋部2で頭部を被って必要時間放置した後、袋部2を外して、施術に応じた薬剤を必要部位に施す。続いて、前述した図15図17図21図23に示す手順でもって頭髪全体を被い、それによって薬剤の乾燥を防ぐ。また、薬剤による付着事故の心配がないときは、図21図23のように、頭頂部で重ね合わせた左右の前垂れ部分3の上から袋部2を被せて、頭髪全体を被っても良い。これにより、頭髪全体が保湿・保温されて頭髪温度の均一化が促進されるから、薬剤が均一に浸透し、頭髪に対する染ムラ、色ムラ等を防ぐことができる。また、放置時間中の薬剤による汚れや刺激臭(眼が痛くなったり気分が悪くなる等)も防ぐことができる。
【0095】
<カバー1を取り外す場合>
施術を終え、カバー1を取り外すときは、カバー1を装着したままシャンプー台へ案内して、シャンプーできる体勢になって頂く。続いて、固定されたシールやピン等を取り除いてから、装着された袋部2と前垂れ部分3を漸次解放して、シャンプーボウル内でカバー1を取り除く。これにより、シャンプー台へ移動する時や、取り外し時の薬剤付着事故を防ぐことができる。また、お客様のうなじを支えるシャンプーボウルのネックホールに薬剤を付着させないから、従来のような、うなじ付近への薬剤の再付着による髪の逆折れを無くすことができる。
【符号の説明】
【0096】
1 カバー
2 袋部
3 前垂れ部分
4 衿部
5 紐
6 ミシン目
【要約】
【課題】ヘアキャップやラップフイルムで薬剤が施された頭髪を被っていたときの問題点を一挙に解決することができるカバーと、その使用方法を提供することを課題とする。
【解決手段】被装着者の背中に配置される、上部が開口した逆円錐形の袋部と、該袋部の前記背中に接する部分から被装着者の両肩を超えて腹部へ垂れ下がる左右の前垂れ部分とを備えるカバーであって、記袋部を背中に垂らした状態で、左右の前垂れ部分の前記腹部と接していないおもて面を被装着者の側頭部に当てながら持ち上げて頭頂部で重ね合わせると、左右の前垂れ部分の衿部が、被装着者の顔を露出させた状態でうなじから額に至る髪の生え際に沿うとともに、袋部と左右の前垂れ部分とが、後頭部を露出させた状態で頭髪の回りを包囲するから、その状態の前記袋部と前記左右の前垂れ部分とを閉じれば、頭髪全体をふんわりと包み込むことができる。
【選択図】 図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
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図39