(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
顔料A、ポリマー粒子B、下記一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤C、及び水を含有し、該非イオン性界面活性剤Cの含有量が0.1質量%以上3.0質量%以下である、水系インク。
R1O−(PO)a−H (1)
(式(1)中、R1は炭素数6以上14以下の炭化水素基を示し、POはプロピレンオキシ基を示し、aはPOの平均付加モル数を示し、2以上4以下の数である。)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録方法は、水系インク(以下、単に「水系インク」又は「インク」ともいう)を用いて記録媒体の表面に吐出して記録するインクジェット記録方法であって、該記録媒体の100m秒の吸水量が0g/m
2以上10g/m
2以下であり、該水系インクが、顔料A、ポリマー粒子B、下記一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤C(以下、単に「非イオン性界面活性剤C」ともいう)、及び水を含有する。
なお、「水系」とは、インクに含有される媒体中で、水が最大割合を占めていることを意味するものである。
R
1O−(PO)a−H (1)
(式(1)中、R
1は炭素数6以上14以下の炭化水素基を示し、POはプロピレンオキシ基を示し、aはPOの平均付加モル数を示し、2以上4以下の数である。)
【0011】
本発明のインクジェット記録方法は、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性に優れ、かつ、インクの吐出安定性にも優れる効果を奏する。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明に用いる前記式(1)で表される非イオン界面活性剤は、非イオン界面活性剤の中でも比較的疎水性が高いためポリマー粒子表面に吸着し易く、ポリマー粒子を水系インク中で分散し安定化する。インクジェット印刷後のインクジェット記録ヘッド内に残留した水系インクは、時間の経過により水分の蒸発により濃縮され、ポリマー粒子同士が相互作用し、プリントヘッドメニスカス部分に会合体を形成する。しかし、会合体が形成されても、水存在下での前記非イオン界面活性剤の分散作用により、次の印刷の際の吐出の力で容易に会合体が破壊されるため、インクの吐出が安定して行われると考えられる。
一方、低吸水性の記録媒体上に印字した後印字物が乾燥する際には、比較的疎水性が高い前記非イオン界面活性剤を含有することで、ポリマー粒子の被膜中に水が残留することがなく乾燥が進み、ポリマー粒子同士の相互作用が強固となり強靭な被膜が形成され、耐擦過性が向上すると考えられる。
【0012】
<水系インク>
本発明の水系インクは、顔料A、ポリマー粒子B、下記一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤C、及び水を含有する。本発明の水系インクは、低吸水性の記録媒体に印字した際の耐擦過性に優れるため、フレキソ印刷用、グラビア印刷用、又はインクジェット記録用の水系インクとして用いてもよく、インクの吐出安定性にも優れる観点から、インクジェット記録用の水系インクとして用いることが好ましい。
R
1O−(PO)a−H (1)
(式(1)中、R
1は炭素数6以上14以下の炭化水素基を示し、POはプロピレンオキシ基を示し、aはPOの平均付加モル数を示し、2以上4以下の数である。)
【0013】
[顔料A]
顔料Aは、染料に比べて印字物の耐水性及び耐候性の点で有利である。顔料Aは、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、特に黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料の具体例としては、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンから選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
【0014】
顔料Aは、水系インク中に、自己分散型顔料、分散剤で分散された顔料、又は顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子P(以下、単に「顔料含有ポリマー粒子P」ともいう)の形態として含有されることが好ましく、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点から、顔料Aを含有する水不溶性ポリマー粒子Pとして含有されることがより好ましい。顔料Aは、ポリマー粒子Bに顔料を含有させて顔料含有ポリマー粒子Pとすることもできる。
【0015】
〔顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子P(顔料含有ポリマー粒子P)〕
(水不溶性ポリマーa)
顔料含有ポリマー粒子Pを構成する水不溶性ポリマーaは、顔料分散作用を発現する顔料分散剤としての機能と、記録媒体への定着剤としての機能を有する。
ここで、「水不溶性」とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であることを意味し、その溶解量は好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。水不溶性ポリマーaがアニオン性ポリマーの場合、その溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。水不溶性ポリマーaがカチオン性ポリマーの場合、その溶解量は、ポリマーのカチオン性基を塩酸で100%中和した時の溶解量である。
水不溶性ポリマーaのインク中での存在形態は、顔料に吸着している状態、顔料を含有している顔料内包(カプセル)状態、及び顔料を吸着していない形態がある。本発明においては、顔料の分散安定性の観点から、顔料を含有している顔料内包状態が好ましい。
水不溶性ポリマーaとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられるが、インクの吐出安定性を向上させる観点から、ビニルモノマー(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
【0016】
水不溶性ポリマーaは、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性の向上、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、イオン性モノマー(a−1)由来の構成単位、芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)由来の構成単位、及び後述する一般式(2)で表される親水性ノニオン性モノマー(a−3)由来の構成単位から選ばれる1種以上を有することが好ましく、これらの構成単位のうち、2種以上を有することがより好ましく、前記3種の構成単位を有することが更に好ましい。例えば、イオン性モノマー(a−1)及び芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)の組み合わせ、イオン性モノマー(a−1)、芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)、及び後述する一般式(2)で表される親水性ノニオン性モノマー(a−3)の組み合わせが挙げられる。
水不溶性ポリマーaは、例えば、イオン性モノマー(a−1)、芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)、及び後述する一般式(2)で表される親水性ノニオン性モノマー(a−3)を含むモノマー混合物(X1)(以下、単位「モノマー混合物(X1)」ともいう)を公知の方法により付加重合して得ることができる。
【0017】
〔イオン性モノマー(a−1)〕
イオン性モノマー(a−1)(以下、「モノマー(a−1)」ともいう)は、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーaのモノマー成分として用いることが好ましい。
イオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等のアニオン性モノマー;N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド等のカチオン性モノマーが挙げられる。なお、イオン性モノマーには、酸やアミンなどの中性ではイオンではないモノマーであっても、酸性やアルカリ性の条件でイオンとなるモノマーを含む。
イオン性モノマーは、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、好ましくはアニオン性モノマーであり、より好ましくはカルボン酸モノマーである。カルボン酸モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。前記カルボン酸モノマーの中では、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、好ましくは(メタ)アクリル酸であり、より好ましくはメタクリル酸である。
「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種又は2種を意味する。以下における「(メタ)」も同義である
イオン性モノマー(a−1)は、前記のモノマーを2種以上使用してもよい。
【0018】
〔芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)〕
芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)(以下、「モノマー(a−2)」ともいう)は、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーaのモノマー成分として用いることが好ましい。
芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)としては、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレート、及びスチレン系マクロモノマー等が挙げられる。
スチレン系モノマーとしては、前記と同様の観点から、好ましくはスチレン、2−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンから選ばれる1種以上であり、より好ましくはスチレン及び2−メチルスチレンから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはスチレンである。
芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、前記と同様の観点から、好ましくはベンジル(メタ)アクリレート及びフェノキシエチル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上であり、より好ましくはベンジル(メタ)アクリレートである。
【0019】
スチレン系マクロモノマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500以上100,000以下の化合物である。スチレン系マクロマーの数平均分子量は、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、更に好ましくは3,000以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは10,000以下、より好ましくは9,000以下、更に好ましくは8,000以下である。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲル浸透クロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される値である。
片末端に存在する重合性官能基は、好ましくはアクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基であり、より好ましくはメタクリロイルオキシ基である。
商業的に入手しうるスチレン系マクロモノマーとしては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(以上、東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
【0020】
芳香族環を有する疎水性モノマー(a−2)は、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレート、及びスチレン系マクロモノマーから選ばれる2種以上を併用することが好ましく、スチレン系モノマーとスチレン系マクロモノマーとを併用することがより好ましく、スチレンとスチレン系マクロモノマーとを併用することが更に好ましい。
【0021】
〔一般式(2)で表される親水性ノニオン性モノマー(a−3)〕
下記一般式(2)で表される親水性ノニオン性モノマー(a−3)(以下、「モノマー(a−3)」ともいう)は、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性、及び水系インクの保存安定性を向上させる観点、低吸水性の記録媒体に印字した際の耐擦過性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーaのモノマー成分として用いることが好ましい。
【0022】
【化1】
(式(2)中、R
21は水素原子又はメチル基を示し、R
22は水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、又は水素原子が炭素数1以上9以下のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示し、mは平均付加モル数を示し、2以上100以下の数である。)
【0023】
前記式(2)において、R
21は、水素原子又はメチル基であるが、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性、及び水系インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくはメチル基である。
R
22は、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1以上10以下のアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1以上3以下のアルキル基であり、より更に好ましくはメチル基である。
前記式(2)において、mは、溶媒揮発時のインクの粘度増加を抑制し、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましく50以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは10以下である。
【0024】
前記式(2)で表されるモノマー(a−3)としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が挙げられるが、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートがより好ましい。
商業的に入手しうる一般式(2)で表されるモノマーの具体例としては、NKエステルM−20G、同23G、同40G、同60G、同90G、同230G、同450G、同900G(以上、新中村化学工業株式会社製)、ブレンマーPE−90、同200、同350(以上、日油株式会社製)、ライトエステルMTG(共栄社化学株式会社製)、ライトエステル041MA(共栄社化学株式会社製)等が挙げられる。
前記モノマー(a−1)〜(a−3)は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
本発明に用いられる水不溶性ポリマーaは、本発明の目的を損なわない範囲において、前記のモノマー(a−1)、(a−2)及び(a−3)以外のモノマー由来の構成単位を有してもよい。
他のモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素数1以上22以下のアルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;及び片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等のシリコーン系マクロモノマー等が挙げられる。
【0026】
(モノマー混合物(X1)中の各モノマーの含有量及び水不溶性ポリマーa中における各モノマー由来の構成単位の含有量)
水不溶性ポリマーaの製造時における、前記モノマー(a−1)〜(a−3)のモノマー混合物(X1)中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又は水不溶性ポリマーa中におけるモノマー(a−1)〜(a−3)に由来する構成単位の含有量は、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、次のとおりである。
モノマー(a−1)を含有する場合、モノマー(a−1)の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下である。
モノマー(a−2)を含有する場合、モノマー(a−2)の含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、より更に好ましくは55質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下、より更に好ましくは60質量%以下である。
また、モノマー(a−2)としてスチレン系マクロモノマーを含む場合、スチレン系マクロモノマーは、スチレン系モノマー又は芳香族基含有(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上のモノマー(a−2)の他のモノマーと併用することが好ましい。スチレン系マクロモノマーの含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
モノマー(a−3)を含有する場合、モノマー(a−3)の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、より更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0027】
モノマー(a−1)及び(a−2)を含有する場合、[モノマー(a−1)/モノマー(a−2)]の質量比は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.15以上、更に好ましくは0.25以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは0.80以下、更に好ましくは0.50以下である。
また、モノマー(a−3)を含有する場合、[モノマー(a−1)/〔モノマー(a−2)+モノマー(a−3)〕]の質量比は、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.1以上であり、そして、好ましくは0.50以下、より好ましくは0.40以下、更に好ましくは0.30以下である。
【0028】
(水不溶性ポリマーaの製造)
水不溶性ポリマーaは、モノマー混合物(X1)を塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性有機溶媒が好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンが挙げられ、メチルエチルケトンが好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができるが、重合開始剤としては、アゾ化合物が好ましく、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)がより好ましい。重合連鎖移動剤としては、メルカプタン類が好ましく、2−メルカプトエタノールがより好ましい。
【0029】
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は好ましくは50℃以上90℃以下、重合時間は好ましくは1時間以上20時間以下である。また、重合雰囲気は、好ましくは窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気である。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
【0030】
水不溶性ポリマーaは、後述する顔料含有ポリマー粒子の水分散体の生産性を向上させる観点から、重合反応に用いた溶剤を除去せずに、含有する有機溶媒を後述する工程Iに用いる有機溶媒として用いるために、そのまま水不溶性ポリマーa溶液として用いることが好ましい。
水不溶性ポリマーa溶液の固形分濃度は、顔料含有ポリマー粒子の水分散体の生産性を向上させる観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
本発明で用いられる水不溶性ポリマーaの重量平均分子量は、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点、及び低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、更に好ましくは20,000以上であり、そして、好ましくは500,000以下、より好ましくは400,000以下、更に好ましくは300,000以下、より更に好ましくは200,000以下、より更に好ましくは100,000以下である。
なお、重量平均分子量の測定は実施例に記載の方法により行うことができる。
【0031】
(顔料含有ポリマー粒子Pの製造)
本発明の水系インクは、好ましくは顔料Aを含有する水不溶性ポリマー粒子P(顔料含有ポリマー粒子P)を含有し、顔料含有ポリマー粒子Pは、水分散体として下記の工程I及び工程IIを有する方法により、効率的に製造することができる。
工程I:水不溶性ポリマーa、有機溶媒、顔料A、及び水を含有する混合物(以下、「顔料混合物」ともいう)を分散処理して、分散処理物を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散処理物から前記有機溶媒を除去して、顔料含有ポリマー粒子Pの水分散体(以下、「顔料水分散体」ともいう)を得る工程
【0032】
(工程I)
工程Iでは、まず、水不溶性ポリマーaを有機溶媒に溶解させ、次に顔料A、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散処理物を得る方法が好ましい。水不溶性ポリマーaの有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、水、中和剤、顔料Aの順に加えることが好ましい。
水不溶性ポリマーaを溶解させる有機溶媒に制限はないが、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、顔料Aへの濡れ性、水不溶性ポリマーaの溶解性、及び水不溶性ポリマーaの顔料Aへの吸着性を向上させる観点から、炭素数4以上8以下のケトンがより好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが更に好ましく、メチルエチルケトンがより更に好ましい。
水不溶性ポリマーaを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
【0033】
(中和)
水不溶性ポリマーaがアニオン性ポリマーの場合、中和剤を用いて水不溶性ポリマーa中のアニオン性基を中和してもよい。中和剤を用いる場合、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。
中和剤としては、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、有機アミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムが挙げられるが、水酸化ナトリウムが好ましい。有機アミンとしては、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
中和剤は、インクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくはアルカリ金属の水酸化物及びアンモニアから選ばれる1種以上である、より好ましくは水酸化ナトリウムとアンモニアとの併用である。また、水不溶性ポリマーaを予め中和しておいてもよい。
中和剤は、十分かつ均一に中和を促進させる観点から、中和剤水溶液として用いることが好ましい。中和剤水溶液の濃度は、上記の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
水不溶性ポリマーaのアニオン性基の中和度は、顔料含有ポリマー粒子の顔料水分散体及びインク中における分散安定性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは50モル%以上、より更に好ましくは80モル%以上であり、そして、好ましくは300モル%以下、より好ましくは200モル%以下、更に好ましくは150モル%以下、より更に好ましくは120モル%以下である。
ここで中和度とは、中和剤のモル当量を水不溶性ポリマーaのアニオン性基のモル量で除したものである。
【0034】
(工程Iにおける顔料混合物中の各成分の含有量)
顔料Aの顔料混合物中の含有量は、顔料含有ポリマー粒子の顔料水分散体及びインク中における分散安定性を向上させる観点、並びに顔料水分散体の生産性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上、更に好ましくは14質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
水不溶性ポリマーaの顔料混合物中の含有量は、顔料水分散体の分散安定性、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは4.0質量%以上、更に好ましくは5.0質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
有機溶媒の顔料混合物中の含有量は、顔料Aへの濡れ性及び水不溶性ポリマーaの顔料への吸着性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
水の顔料混合物中の含有量は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点及び生産性を向上させる観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0035】
水不溶性ポリマーaと顔料Aの顔料混合物中の質量比〔A/a〕は、顔料水分散体の分散安定性、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは40/60以上、より好ましくは50/50以上であり、更に好ましくは60/40以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは90/10以下、より好ましくは80/20以下、更に好ましくは75/25以下である。
【0036】
(顔料混合物の分散処理)
工程Iにおいては、前記顔料混合物を分散処理して、分散処理物を得る。分散処理物を得る分散方法に特に制限はない。本分散だけで顔料粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは顔料混合物を予備分散させた後、更に剪断応力を加えて本分散を行い、顔料粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。
工程Iの予備分散における温度は、好ましくは0℃以上であり、そして、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは20℃以下である。分散時間は好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、そして、好ましくは30時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは5時間以下である。
顔料混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができるが、これらの中でも高速撹拌混合装置が好ましい。
【0037】
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidic社製)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製)、ピコミル(淺田鉄工株式会社製)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて本分散を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料を所望の粒径になるように制御することができる。
処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、好ましくは60MPa以上、より好ましくは100MPa以上、更に好ましくは130MPa以上であり、そして、好ましくは200MPa以下、より好ましくは180MPa以下である。
また、パス回数は、好ましくは3以上、より好ましくは5以上であり、そして、好ましくは30以下、より好ましくは20以下である。
【0038】
(工程II)
工程IIでは、工程Iで得られた分散処理物から、公知の方法で有機溶媒を除去することで、顔料含有ポリマー粒子Pの水分散体(顔料水分散体)を得ることができる。得られた顔料水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散処理物を加熱撹拌処理することもできる。
得られた顔料水分散体は、顔料Aを含有する固体の水不溶性ポリマーaの粒子P(顔料含有ポリマー粒子P)が水を主媒体とする媒体中に分散しているものである。ここで、顔料含有ポリマー粒子Pの形態は特に制限はなく、少なくとも顔料Aと水不溶性ポリマーaにより粒子が形成されていればよい。例えば、水不溶性ポリマーaに顔料Aが内包された粒子形態、水不溶性ポリマーa中に顔料Aが均一に分散された粒子形態、水不溶性ポリマーaの粒子表面に顔料Aが露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
【0039】
得られた顔料水分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点及び水系インクの調製を容易にする観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
顔料水分散体中の顔料含有ポリマー粒子Pの平均粒径は、粗大粒子を低減し、インクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは40nm以上、より好ましくは60nm以上、更に好ましくは80nm以上であり、そして、好ましくは150nm以下、より好ましくは120nm以下、更に好ましくは110nm以下である。
なお、顔料含有ポリマー粒子Pの平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
また、水系インク中の顔料含有ポリマー粒子Pの平均粒径は、顔料水分散体中の平均粒径と同じであり、好ましい平均粒径の態様は、顔料水分散体中の平均粒径の好ましい態様と同じである。
【0040】
[ポリマー粒子B]
本発明の水系インクは、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の乾燥性を早め、成膜性を向上し、耐擦過性を向上させる観点から、ポリマー粒子Bを含有する。
ポリマー粒子Bは、顔料Aを含有させて顔料含有ポリマー粒子Pとすることもできるが、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の乾燥性を早め、成膜性を向上させ、耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、ポリマーbで構成された顔料を含有しないポリマー粒子Qであることが好ましい。顔料を含有しないポリマー粒子Qは、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性をさらに向上させる観点から、顔料含有ポリマー粒子Pと併用することが好ましく、顔料含有ポリマー粒子Pを構成するポリマーaと、顔料を含有しないポリマー粒子Qを構成するポリマーbは、同一であっても異なっていてもよい。
【0041】
ポリマー粒子Bの形態としては、インクの生産性を向上させる観点から、ポリマー粒子Bを、連続相としての水中に分散した水分散体が好ましく、必要に応じて界面活性剤のような分散剤を含有していてもよい。ポリマー粒子Bは、合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
市販のポリマー粒子Bの分散体としては、例えば、「Neocryl A1127」(DSM NeoResins社製、アニオン性自己架橋水系アクリル樹脂)、「ジョンクリル390」(BASFジャパン株式会社製)等のアクリル系樹脂、「WBR−2018」「WBR−2000U」(以上、大成ファインケミカル株式会社製)等のウレタン樹脂、「SR−100」、「SR102」(以上、日本エイアンドエル株式会社製)等のスチレン−ブタジエン系樹脂、「ジョンクリル7100」、「ジョンクリル734」、「ジョンクリル538」(以上、BASFジャパン株式会社製)等のスチレン−アクリル系樹脂及び「ビニブラン701」(日信化学工業株式会社製)等の塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。
【0042】
本発明に用いるポリマー粒子Bは、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の乾燥性を早め、成膜性を向上し、耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは乳化重合法によって得られる水不溶性ポリマー粒子であり、より好ましくはエチレン性不飽和モノマーを乳化重合して得られる樹脂からなる粒子である。
エチレン性不飽和モノマーを乳化重合して得られる樹脂としては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン−(メタ)アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の乾燥性を早め、耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくはアクリル系樹脂及びスチレン−アクリル系樹脂から選ばれる1種以上であり、より好ましくはアクリル系樹脂である。また、これらのエチレン性不飽和モノマーを乳化重合して得られる樹脂は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0043】
ポリマー粒子Bは、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点から、好ましくはアクリル系樹脂からなる粒子(以下、「アクリル系樹脂粒子」ともいう)であり、より好ましくは(メタ)アクリル酸(b−1)由来の構成単位と(メタ)アクリレート(b−2)由来の構成単位とを有するアクリル系樹脂からなる粒子である。
(メタ)アクリル酸(b−1)は、好ましくはアクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上であり、より好ましくはメタクリル酸である。
アルキル(メタ)アクリレート(b−2)は、好ましくは炭素数1以上22以下のアルキル基を有する(メタ)アクリレートである。炭素数1以上22以下のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレーと、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。
これらの中でも、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点から、好ましくは炭素数1以上3以下のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと炭素数6以上18以下のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとの併用であり、より好ましくはメチル(メタ)アクリレート及びエチル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上と2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートとの併用であり、更に好ましくはメチル(メタ)アクリレートと2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートとの併用である。
【0044】
ポリマー粒子Bは、(メタ)アクリル酸(b−1)及び(メタ)アクリレート(b−2)以外のその他のモノマー由来の構成単位をさらに有してもよい。その他のモノマーとしては、前記イオン性モノマー及び前記芳香族環を有する疎水性モノマー等が挙げられる。
また、ポリマー粒子Bには、必要に応じてさらに、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の親水性ノニオン性モノマー由来の構成単位を有してもよい。
【0045】
(ポリマー粒子Bの製造)
ポリマー粒子Bは、(メタ)アクリル酸(b−1)と(メタ)アクリレート(b−2)の合計量が90質量%以上であるモノマー混合物(X2)を、乳化重合することによりアクリル系樹脂粒子を含む水分散体として得ることが好ましい。
(メタ)アクリル酸(b−1)と(メタ)アクリレート(b−2)とのモノマー混合物(X2)中の合計含有量は、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、90質量%以上であり、好ましくは94質量%以上、より好ましくは98質量%以上、更に好ましくは実質的に100質量%であり、より更に好ましくは100質量%である。
(メタ)アクリル酸(b−1)のモノマー混合物(X2)中の含有量は、前記と同様の観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上、より更に好ましくは2.0質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
(メタ)アクリル酸エステル(b−2)のモノマー混合物(X2)中の含有量は、前記と同様の観点から、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、そして、好ましくは98質量%以下である。
【0046】
(乳化重合)
本発明において乳化重合とは、モノマー混合物(X2)を、水を主成分とする分散媒体中で、界面活性剤の存在下で、乳化又は分散させ、水溶性重合開始剤を用いて重合する方法を意味する。界面活性剤は、界面活性剤のみならず反応性界面活性剤も包含する。
乳化重合に用いる水溶性重合開始剤としては、公知のものを使用することができる。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の無機過酸化物、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド等のアゾ系開始剤、さらには過酸化化合物に亜硫酸ナトリウム等の還元剤を組み合わせたレドックス開始剤等が挙げられる。
【0047】
界面活性剤は、モノマーの乳化、懸濁、ミセル形成による重合場の提供、ポリマー粒子の分散安定化等の役割を担っている。乳化重合に用いる界面活性剤は特に限定されないが、アニオン系界面活性剤が好適である。アニオン系界面活性剤は、例えば、サルフェート、スルホネート系としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルキル硫酸塩、スルホコハク酸系、タウレート系、イセチオネート系、α−オレフィンスルホン酸系等の界面活性剤が挙げられる。カルボキシレート系としては、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸石鹸、エーテルカルボン酸系、アシル化アミノ酸系の界面活性剤等が挙げられ、リン酸エステル系としては、アルキルリン酸塩等が挙げられる。
界面活性剤の市販品としては、例えば、花王株式会社製、エマール20CM、エマールD−3−D、エマールD−4−D、エマール20C、エマールE−27C、エマール270J、ラテムルE―118B、ラテムルE−150等が挙げられる。
【0048】
反応性界面活性剤とは、分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を1個以上有する界面活性剤である。反応性界面活性剤は優れたモノマー乳化性を有しており、安定性に優れた樹脂粒子の水分散体を製造することができる。
反応性界面活性剤としては、炭素数8以上30以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基等の疎水性基を少なくとも1個と、イオン性基、オキシアルカンジイル基等の親水性基を少なくとも1個有し、アニオン性又はノニオン性であるものが好ましい。イオン性基としては、アニオン性基が好ましく、カルボキシ基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基等又はその塩基中和物が更に好ましい。オキシアルカンジイル基は、炭素数1以上4以下のものが好ましく、繰り返し単位の平均重合度は好ましくは1以上100以下である。中でもエチレンオキシ基及びプロパンオキシ−1、2−ジイル基から選ばれる1種以上が好ましい。
反応性界面活性剤の具体例としては、例えばスルホコハク酸エステル系(例えば、花王株式会社製、ラテムルS−120P、S−180A等、三洋化成株式会社製、エレミノールJS−2等)、及びアルキルエーテル系(例えば、第一工業製薬株式会社製、アクアロンKH−05、KH−10、KH−20等)が挙げられる。
【0049】
乳化重合では連鎖移動剤を用いることもできる。例えば、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン等のメルカプタン類、ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソブチルキサントゲンジスルフィド等のキサントゲン類、ジペンテン、インデン、1、4−シクロヘキサジエン、ジヒドロフラン、キサンテン等が挙げられる。
乳化重合の分散媒としては、水の他に任意の有機溶媒を加えることもできる。
用いることのできる有機溶媒としては、炭素数1以上6以下のアルコール類、ケトン類の他、エーテル類、アミド類、芳香族炭化水素類、炭素数5以上10以下の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。
水と、これらの有機溶媒の比率にも特に制限はないが、分散媒全体における水の割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは75質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上である。
【0050】
乳化重合条件には特に制限はない。モノマー混合物(X2)の量は、全系に対して好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
モノマーの添加方法としては、モノマー滴下法、モノマー一括仕込み法、プレエマルション法等の公知の方法で行うことができるが、重合安定性の観点から、プレエマルション法が好ましい。
プレエマルションの調製は、粗大粒子の生成を抑制する観点から、回転式攪拌装置を用いて、例えば、1Lスケールで直径10cmの2枚羽根を用いる場合、回転速度は、好ましくは200rpm以上、より好ましくは300rpm以上であり、そして、好ましくは5000rpm以下、より好ましくは2000rpm以下、更に好ましくは1000rpm以下である。攪拌時間は、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以下である。
プレエマルション法において、プレエマルションの滴下時間は、エマルションの粒子径の均一性の観点から、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、そして、反応性の観点から、好ましくは8時間以下、より好ましくは6時間以下である。熟成時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、そして、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下である。
重合温度は、重合開始剤の分解温度により適宜調整されるが、反応性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上であり、そして、得られる重合体の分子量分布の観点から、好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下である。
水溶性重合開始剤として過硫酸塩を用いる場合は、反応性の観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上であり、そして、得られる重合体の分子量分布の観点から、好ましくは85℃以下、より好ましくは83℃以下である。
重合雰囲気は、反応性の観点から、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0051】
水溶性重合開始剤の使用量は、モノマー混合物(X2)100質量部に対して、得られる重合体の収率、分子量制御の観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、更に好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは3質量部以下、より好ましくは1質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下である。
界面活性剤の使用量は、乳化重合を安定に行う観点、及び界面活性剤の残存量を低減する観点から、モノマー混合物(X2)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上であり、そして、好ましくは40質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下である。
【0052】
ポリマー粒子Bの重量平均分子量は、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点から、好ましくは100,000以上であり、より好ましくは200,000以上、更に好ましくは300,000以上、より更に好ましくは500,000以上であり、そして、インクの粘度増加を抑制する観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは2000,000以下、より好ましくは1,500,000以下、更に好ましくは1,000,000以下、より更に好ましくは800,000以下である。
なお、ポリマー粒子Bの重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0053】
ポリマー粒子Bを含有する水分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、ポリマー粒子Bの分散安定性、インク配合時の利便性の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
ポリマー粒子Bを含有する水分散体中のポリマー粒子Bの平均粒径は、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及び吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上であり、そして、好ましくは300nm以下、より好ましくは250nm以下、更に好ましくは200nm以下である。
なお、ポリマー粒子Bの平均粒径は、実施例に記載の方法に測定される。
また、水系インク中のポリマー粒子Bの平均粒径は、ポリマー粒子Bを含有する水分散体中の平均粒径と同じであり、好ましい平均粒径の態様は、ポリマー粒子Bを含有する水分散体中の平均粒径の好ましい態様と同じである。
【0054】
[非イオン性界面活性剤C]
本発明の水系インクは、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、下記一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤Cを含有する。
R
1O−(PO)a−H (1)
(式(1)中、R
1は炭素数6以上14以下の炭化水素基を示し、POはプロピレンオキシ基を示し、aはPOの平均付加モル数を示し、2以上4以下の数である。)
【0055】
前記式(1)において、炭化水素基であるR
1は、好ましくはアルキル基又はアルケニル基であり、より好ましくはアルキル基である。また、炭化水素基であるR
1は、好ましくは直鎖又は分岐鎖であり、より好ましくは直鎖である。炭化水素基であるR
1の炭素数は、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、6以上であり、好ましくは8以上、より好ましくは10以上であり、そして、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点から、14以下であり、好ましくは12以下である。
前記式(1)において、炭化水素基であるR
1は、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは直鎖のアルキル基であり、より好ましくは、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、又はテトラデシル基であり、更に好ましくはオクチル基、デシル基又はドデシル基、より更に好ましくはデシル基又はドデシル基である。
前記式(1)において、POの平均付加モル数であるaは、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、2以上であり、好ましくは2.5以上であり、そして、前記と同様の観点から、4以下であり、好ましくは3.5以下である。
前記式(1)において、POで表されるプロピレンオキシ基は、プロパン−1,3−ジイルモノオキシ基であってもよく、プロパン−1,2−ジイルモノオキシ基であってもよく、製造容易性の観点から、好ましくはプロパン−1,2−ジイルモノオキシ基である。プロパン−1,2−ジイルモノオキシ基は、プロパン−1,2−ジイル−1−オキシ基であってもよく、プロパン−1,2−ジイル−2−オキシ基であってもよい。プロパン−1,2−ジイルモノオキシ基は、プロピレングリコールの付加によって得ることができる。
【0056】
前記一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤Cは、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルであり、主成分としてジプロピレングリコールモノアルキルエーテル及びトリプロピレングリコールモノアルキルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、炭化水素基であるR
1の炭素数が、好ましくは8以上であり、より好ましくは10以上であり、そして、好ましくは12以下であって、POの平均付加モル数であるaが、好ましくは2.5以上であり、そして、好ましくは3.5以下である。
具体的には、ジプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノオクチルエーテル、トリプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールモノオクチルエーテル、トリプロピレングリコールモノデシルエーテル、トリプロピレングリコールモノドデシルエーテル、テトラプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラプロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、テトラプロピレングリコールモノオクチルエーテル等が挙げられる。
【0057】
これらの中でも、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくはトリプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールモノオクチルエーテル、トリプロピレングリコールモノデシルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノドデシルエーテルから選ばれる1種以上であり、より好ましくはトリプロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールモノオクチルエーテル、トリプロピレングリコールモノデシルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノドデシルエーテルから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはトリプロピレングリコールモノオクチルエーテル、トリプロピレングリコールモノデシルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノドデシルエーテルから選ばれる1種以上である。低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点からは、より更に好ましくはトリプロピレングリコールモノオクチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノデシルエーテルから選ばれる1種以上である。インクの吐出安定性を向上させる観点からは、より更に好ましくはトリプロピレングリコールモノデシルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノドデシルエーテルから選ばれる1種以上であり、より更に好ましくはトリプロピレングリコールモノドデシルエーテルである。
【0058】
[有機溶媒D]
本発明で用いる水系インクは、ポリマー粒子による過度の粘度増加を抑制し、インクの吐出安定性を向上させる観点から、沸点90℃以上の1種以上の有機溶媒Dを含有することが好ましい。
【0059】
有機溶媒Dの沸点は、インクジェットノズル中でのインクの乾燥を防止する観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは160℃以上、更に好ましくは170℃以上、より更に好ましくは180℃以上であり、そして、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の乾燥性を早め、耐擦過性を向上させる観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下、更に好ましくは220℃以下、より更に好ましくは200℃以下である。
沸点の低い有機溶媒ほど、特定の温度における飽和蒸気圧が高く、蒸発速度も速くなる。また、特定の温度における蒸発速度が速い有機溶媒の割合が多いほど、特定の温度における混合有機溶媒の蒸発速度は速くなる。
有機溶媒Dとして、2種以上の有機溶媒を用いる場合には、有機溶媒Dの沸点は、各有機溶媒の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値である。該加重平均値は、混合溶媒の蒸発速度の指標となる。
【0060】
有機溶媒Dとして使用する化合物は、多価アルコール、非イオン性界面活性剤C以外の多価アルコールアルキルエーテル、含窒素複素環化合物、アミド、アミン、含硫黄化合物等が挙げられる。多価アルコールは多価アルコールの概念に含まれる複数を混合して用いることができ、多価アルコールアルキルエーテルも同様に複数を混合して用いることもできる。
多価アルコールとしては、エチレングリコール(沸点197℃)、ジエチレングリコール(沸点244℃)、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール(沸点188℃)、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール(沸点210℃)、1,3−ブタンジオール(沸点208℃)、1,4ブタンジオール(沸点230℃)、3−メチル−1,3−ブタンジオール(沸点203℃)、1,5−ペンタンジオール(沸点242℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(沸点196℃)、1,2,6−ヘキサントリオール(沸点178℃)、1,2,4−ブタントリオール(沸点190℃)、1,2,3−ブタントリオール(沸点175℃)、ペトリオール(沸点216℃)等が挙げられる。また、1,6−ヘキサンジオール(沸点250℃)、トリエチレングリコール(沸点285℃)、トリプロピレングリコール(沸点273℃)、グリセリン(沸点290℃)等を沸点が250℃未満の化合物と組み合わせて用いることもできる。
【0061】
多価アルコールアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点122℃)、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点160℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点158℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点133℃)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点227℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点90℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点100℃)、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。また、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点276℃)等を沸点が250℃未満の化合物と組み合わせて用いることもできる。
【0062】
含窒素複素環化合物としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(沸点202℃)、2−ピロリドン(沸点245℃)、1,3−ジメチルイミダゾリジノン(沸点220℃)、ε−カプロラクタム(沸点136℃)等が挙げられる。
アミドとしては、例えば、ホルムアミド(沸点210℃)、N−メチルホルムアミド(沸点199℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(沸点153℃)等が挙げられる。
アミンとしては、例えば、モノエタノ−ルアミン(沸点170℃)、ジエタノールアミン(沸点217℃)、トリエタノールアミン(沸点208℃)トリエチルアミン(沸点90℃)等が挙げられる。
含硫黄化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシド(沸点189℃)等が挙げられる。また、スルホラン(沸点285℃)及びチオジグリコール(沸点282℃)等を沸点が250℃未満の化合物と組み合わせて用いることもできる。
【0063】
これらの中でも、インクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは多価アルコール、及び非イオン性界面活性剤C以外の多価アルコールアルキルエーテルから選ばれる1種以上であり、より好ましくは多価アルコールであり、更に好ましくはプロピレングリコール及びジエチレングリコールから選ばれる1種以上であり、より更に好ましくはプロピレングリコールである。
多価アルコール及び多価アルコールアルキルエーテルから選ばれる1種以上の有機溶媒D中の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは実質的に100質量%であり、より更に好ましくは100質量%である。
【0064】
[その他の成分]
本発明の水系インクには、前記成分の他に、通常用いられる保湿剤、湿潤剤、浸透剤、分散剤、非イオン性界面活性剤C以外の界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0065】
(水系インクの製造方法)
本発明の水系インクは、顔料A、ポリマー粒子Bの水分散体、非イオン性界面活性剤C、水、及び必要に応じてプロピレングリコール等を混合し、攪拌することによって得ることができる。
本発明に係る水系インクの各成分の含有量、インク物性は以下のとおりである。
【0066】
(顔料Aの含有量)
顔料Aの水系インク中の含有量は、印字物の印字濃度を向上させる観点から、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上であり、そして、溶媒揮発時のインクの粘度増加を抑制し、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは15.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以下、更に好ましく8.0質量%以下、より更に好ましくは6.0質量%以下である。
【0067】
(ポリマー粒子Bの含有量)
ポリマー粒子Bの水系インク中の含有量は、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、より更に好ましくは1.5質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下である。
【0068】
(ポリマーの含有量)
ポリマーの水系インク中の含有量は、水系インク中の水不溶性ポリマーの量であり、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは2.0質量%以上、より更に好ましくは3.0質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、更に好ましくは6.0質量%以下、より更に好ましくは5.0質量%である。
ポリマーの水系インク中の含有量は、顔料含有ポリマー粒子Pと顔料を含有しないポリマー粒子Qとを併用する場合には、顔料含有ポリマー粒子Pを構成する水不溶性ポリマーaと顔料を含有しないポリマー粒子Qの合計含有量である。
【0069】
(質量比〔顔料A/ポリマー〕)
顔料Aとポリマーの水系インク中の質量比〔顔料A/ポリマー〕は、低吸水性の記録媒体に印字した印字物の乾燥性を早め、耐擦過性を向上させる観点から、好ましくは100/200以上、より好ましくは100/150以上、更に好ましくは100/100以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは100/10以下、より好ましくは100/30以下、更に好ましくは100/50以下である。
【0070】
(水不溶性ポリマーaの含有量)
水不溶性ポリマーaの水系インク中の含有量は、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、より更に好ましくは1.5質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下である。
【0071】
(顔料を含有しないポリマー粒子Qの含有量)
顔料を含有しないポリマー粒子Qの水系インク中の含有量は、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、並びにインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、より更に好ましくは1.5質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下である。
【0072】
(質量比〔水不溶性ポリマーa/顔料を含有しないポリマー粒子Q〕)
顔料含有ポリマー粒子Pを構成する水不溶性ポリマーaと顔料を含有しないポリマー粒子Qの水系インク中の質量比〔水不溶性ポリマーa/顔料を含有しないポリマー粒子Q〕は、印字濃度及び耐擦過性を向上させる観点から、好ましくは100/500以上、より好ましくは100/300以上、更に好ましくは100/150以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは100/20以下、より好ましくは100/30以下、更に好ましくは100/60以下である。
【0073】
(顔料Aと水不溶性ポリマーaとの合計含有量)
顔料Aと水不溶性ポリマーaとの水系インク中の合計含有量は、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは17.0質量%以下、より好ましくは12.0質量%以下、更に好ましくは10.0質量%以下、より更に好ましくは8.0質量%以下である。
【0074】
(非イオン性界面活性剤Cの含有量)
非イオン性界面活性剤Cの水系インク中の含有量は、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、より更に好ましくは1.5質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、更に好ましくは2.0質量%以下である。
【0075】
(質量比〔非イオン性界面活性剤C/ポリマー〕)
非イオン性界面活性剤Cとポリマーの水系インク中の質量比〔非イオン性界面活性剤C/ポリマー〕は、低吸水性の記録媒体に印字した印字物の乾燥性を早め、耐擦過性を向上させる観点から、好ましくは100/1000以上、より好ましくは100/500以上、更に好ましくは100/350以上、より更に好ましくは100/250以上であり、そして、好ましくは100/50以下、より好ましくは100/100以下、更に好ましくは100/150以下である。
【0076】
(有機溶媒Dの含有量)
有機溶媒Dの水系インク中の含有量は、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
【0077】
(水の含有量)
水の水系インク中の含有量は、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、インクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
【0078】
(水系インク物性)
水系インクの32℃の粘度は、インクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは2.0mPa・s以上、より好ましくは3.0mPa・s以上、更に好ましくは5.0mPa・s以上であり、そして、インクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9.0mPa・s以下、更に好ましくは7.0mPa・s以下、より更に好ましくは6.0mPa・s以下である。
なお、32℃における水系インクの粘度は、実施例に記載の方法により測定される。
水系インクのpHは、低吸水性の記録媒体に印字した際に、ドット径の広がり、耐擦過性、画像均一性を向上させる観点、及びインクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは7.0以上、より好ましくは8.0以上、更に好ましくは8.5以上であり、そして、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下、更に好ましくは9.5以下である。
なお、pHは、実施例に記載の方法により測定される。
【0079】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録方法は、前記水系インクを充填した容器を、インク飛翔手段を有するインクジェット記録装置に装着し、低吸水性の記録媒体にインクを飛翔させ印字して画像を形成し、記録する方法である。
本発明のインクジェット記録方法は、低吸水性の記録媒体に印字した後、印字物を乾燥する工程を有していてもよい。
インク飛翔手段としては、サーマル式又はピエゾ式のインクジェットヘッドを用いてインクを飛翔する方法があるが、本発明においては、ピエゾ式のインクジェットヘッドを用いてインクを飛翔させ印字する方法が好ましい。
【0080】
<低吸水性の記録媒体>
本発明のインクジェット記録方法に用いる記録媒体の純水との接触時間100m秒における吸水量は、0g/m
2以上10g/m
2以下である。該吸水量は、自動走査吸液計を用いて、実施例に記載の方法により測定することができる。
本発明に用いられる低吸水性の記録媒体としては、コート紙及びフィルムが挙げられる。
前記吸水量は、コート紙の場合、印字物の画像均一性、印字濃度及び光沢度を向上させる観点から、好ましくは8.0g/m
2以下、より好ましくは7.0g/m
2以下、更に好ましくは6.0g/m
2以下、より更に好ましくは5.5g/m
2以下であり、そして、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の乾燥性を早め、耐擦過性及び画像均一性を向上させる観点から、好ましくは1.0g/m
2以上、より好ましくは2.0g/m
2以上、更に好ましくは3.0g/m
2以上、より更に好ましくは4.0g/m
2以上である。
前記吸水量は、フィルムの場合、印字物の画像均一性、印字濃度及び光沢度を向上させる観点から、好ましくは5.0g/m
2以下、より好ましくは3.0g/m
2以下であり、そして、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の乾燥性を早め、耐擦過性及び画像均一性を向上させる観点から、好ましくは0.1g/m
2以上、より好ましくは0.5g/m
2以上、更に好ましくは1.0g/m
2以上である。
なお、記録媒体の純水との接触時間100m秒における吸水量は、実施例に記載の方法により測定される。
記録媒体の60°光沢度は、印字物の光沢度及び視認性を向上させる観点から、好ましくは5以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは30以上であり、そして、好ましくは200以下である。60°光沢度は、光沢計「HANDY GLOSSMETER」(日本電色工業株式会社製、品番:PG−1M)を用いて測定することができる。
【0081】
コート紙としては、例えば、「OKトップコートプラス」(王子製紙株式会社製、坪量104.7g/m
2、60°光沢度49.0、接触時間100m秒における吸水量(以下の吸水量は同じ)4.9g/m
2)、多色フォームグロス紙(王子製紙株式会社製、坪量104.7g/m
2、60°光沢度36.8、吸水量5.2g/m
2)、UPM Finesse Gloss(UPM社製、坪量115g/m
2、60°光沢度27.0、吸水量3.1g/m
2)、UPM Finesse Matt(UPM社製、坪量115g/m
2、60°光沢度5.6、吸水量4.4g/m
2)、TerraPress Silk(Stora Enso社製、坪量80g/m
2、60°光沢度6.0、吸水量4.1g/m
2)、LumiArt(Stora Enso社製、坪量90g/m
2、60°光沢度26.3)等が挙げられる。
【0082】
フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルム等が挙げられる。これらフィルムは必要に応じてコロナ処理等の表面処理を行っていてもよい。
一般的に入手できるフィルムとしては、例えば、ルミラーT60(東レ株式会社製、ポリエチレンテレフタレート、厚み125μm、60°光沢度189.1、吸水量2.3g/m
2)、PVC80B P(リンテック株式会社製、塩化ビニル、60°光沢度58.8、吸水量1.4g/m
2)、カイナスKEE70CA(リンテック株式会社製、ポリエチレン)、ユポSG90 PAT1(リンテック株式会社製、ポリプロピレン)、ボニールRX(興人フィルム&ケミカルズ株式会社製、ナイロン)等が挙げられる。
【実施例】
【0083】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。
【0084】
(1)ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N−ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質として、予め重量平均分子量が単分散で特定されているポリスチレンを用いて測定した。
【0085】
(2)顔料水分散体の固形分濃度の測定
30mlのポリプロピレン製容器(φ=40mm、高さ=30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0086】
(3)顔料含有ポリマー粒子P、及びポリマー粒子Bの平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS−8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い測定した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定濃度は、5×10
−3%(固形分濃度換算)で行った。
【0087】
(4)インクのpH
pH電極「6337−10D」(株式会社堀場製作所製)を使用した卓上型pH計「F−71」(株式会社堀場製作所製)を用いて、25℃におけるインクのpHを測定した。
(5)インクの粘度
E型粘度計「TV−25」(東機産業株式会社製、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)を用いて、32℃にて粘度を測定した。
【0088】
(6)記録媒体と純水との接触時間100m秒における記録媒体の吸水量
自動走査吸液計(熊谷理機工業株式会社製、KM500win)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件下にて、純水の接触時間100msにおける転移量を測定し、100m秒の吸水量とした。測定条件を以下に示す。
「SpiralMethod」
Contact Time : 0.010 〜1.0(sec)
Pitch (mm) : 7
Length Per Sampling (degree) : 86.29
Start Radius (mm) : 20
End Radius (mm) : 60
Min Contact Time (ms) : 10
Max Contact Time (ms) : 1000
Sampling Pattern (1 - 50) : 50
Number of Sampling Points (> 0) : 19
「SquareHead」
Slit Span (mm) : 1
Slit Width (mm) : 5
【0089】
製造例1(水不溶性ポリマーa1溶液の製造)
2つの滴下ロート1及び2を備えた反応容器内に、表1の「初期仕込みモノマー溶液」に示すモノマー、溶媒、重合開始剤〔2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製、商品名:V−65)〕、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)を入れて混合し、窒素ガス置換を行い、初期仕込みモノマー溶液を得た。
次に、表1の「滴下モノマー溶液1」に示すモノマー、溶媒、重合開始剤、重合連鎖移動剤を混合して、滴下モノマー溶液1を得、滴下ロート1内に入れて、窒素ガス置換を行った。また、表1の「滴下モノマー溶液2」に示すモノマー、溶媒、重合開始剤、重合連鎖移動剤を混合して、滴下モノマー溶液2を得、滴下ロート2内に入れて、窒素ガス置換を行った。
窒素ガス雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー溶液を攪拌しながら77℃に維持し、滴下ロート1中の滴下モノマー溶液1を3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。次いで滴下ロート2中の滴下モノマー溶液2を2時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、反応容器内の混合溶液を77℃で0.5時間攪拌した。
次いで前記の重合開始剤(V−65)1.1部をメチルエチルケトン(以下、「MEK」ともいう)47.3部に溶解した重合開始剤溶液を調製し、該混合溶液に加え、77℃で0.5時間攪拌することで熟成を行った。前記重合開始剤溶液の調製、添加及び熟成を更に12回行った。次いで反応容器内の反応溶液を80℃に1時間維持し、固形分濃度は36.0%になるようにMEK8456部を加えて水不溶性ポリマーa1溶液を得た。水不溶性ポリマーa1の重量平均分子量は67,000であった。
なお、表1中のモノマーの詳細は下記のとおりである。
・スチレン系マクロマー:AS−6(S)、東亜合成株式会社製(有効分濃度50質量%、数平均分子量6000)
・NKエステルM−40G:メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシ基の平均付加モル数n=4)、新中村化学工業株式会社製
【0090】
【表1】
【0091】
製造例2−1(顔料含有ポリマー粒子P−1の水分散体の製造)
製造例Iで得られた水不溶性ポリマーa1溶液(固形分濃度36.0%)178.7部を、MEK45部と混合し、水不溶性ポリマーa1のMEK溶液を得た。容積が2Lのディスパーに該水不溶性ポリマーa1のMEK溶液を投入し、1400rpmの条件で撹拌しながら、イオン交換水511.4部、5N水酸化ナトリウム水溶液22.3部、及び25%アンモニア水溶液1.7部を添加して、水酸化ナトリウムによる中和度が78.8モル%、アンモニアによる中和度が21.2モル%となるように調整し、0℃の水浴で冷却しながら、1400rpmで15分間撹拌した。
次いで黒色顔料であるカーボンブラック(キャボット社製、商品名:モナーク717)150部を加え、6400rpmで1時間撹拌した。得られた顔料混合物をマイクロフルイダイザー「M−7115」(Microfluidics社製)を用いて150MPaの圧力で9パス分散処理し、分散処理物(固形分濃度は25.0%)を得た。
前記工程で得られた分散処理物324.5部を2Lナスフラスコに入れ、イオン交換水216.3部を加え(固形分濃度15.0%)、回転式蒸留装置「ロータリーエバポレーター」(N−1000S、東京理化器械株式会社製)を用いて、回転数50r/minで、32℃に調整した温浴中にて、0.09MPaの圧力で3時間保持して、有機溶媒を除去した。更に、温浴を62℃に調整し、圧力を0.07MPaに下げて固形分濃度25%になるまで濃縮した。
得られた濃縮物を500mlアングルローターに投入し、高速冷却遠心機(himac CR22G、日立工機株式会社製、設定温度20℃)を用いて7000rpmで20分間遠心分離した後、液層部分を1.2μmのフィルター(MAP−010XS、ロキテクノ社製)で濾過し、顔料含有ポリマー粒子P−1(黒色)を含む濾液を回収した。
上記で得られた濾液300部(顔料52.5部、水不溶性ポリマーa1 22.5部)にプロキセルLVS(アーチケミカルズジャパン株式会社製、防黴剤、有効分20%、水80%)0.68部を添加し、更に固形分濃度が22.0%になるようにイオン交換水40.23部を添加し、室温で1時間攪拌して顔料含有ポリマー粒子P−1(黒色)の水分散体(顔料水分散体;平均粒径95nm、pH9.0)を得た。
【0092】
製造例2−2〜2−4(顔料含有ポリマー粒子P−2〜P−4の水分散体の製造)
製造例2−1において使用したカーボンブラック(モナーク717)を、シアン顔料(大日精化工業株式会社製、商品名:Chromofine Blue 6338JC)、マゼンタ顔料(大日精化工業株式会社製、商品名:Chromofine Red 6114JC)、及びイエロー顔料(山陽色素株式会社製、商品名: Fast Yellow 7414)に変更した以外は、製造例2−1と同様にして、顔料含有ポリマー粒子P−2(シアン)、P−3(マゼンタ)、P−4(イエロー)の水分散体を得た。
【0093】
製造例3(ポリマー粒子Q−1の水分散体の製造)
滴下ロートを備えた反応容器内に、表2の「初期仕込みモノマー乳化物」に示すモノマー、ラテムルE−118B(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、花王株式会社製、界面活性剤)、重合開始剤である過硫酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)、イオン交換水を入れて混合し、窒素ガス置換を行い、初期仕込みモノマー乳化物を得た。また、表2の「滴下モノマー乳化物」に示すモノマー、界面活性剤、重合開始剤、イオン交換水を混合して、滴下モノマー乳化物を得、滴下ロート内に入れて、窒素ガス置換を行った。
窒素ガス雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー乳化物を攪拌しながら室温から80℃まで30分かけて昇温し、80℃に維持したまま、滴下ロート中のモノマーを3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、反応容器内の温度を維持したまま、1時間攪拌した。次いで200メッシュで濾過し、ポリマー粒子Q−1(平均粒径;100nm)を含む濾液を回収した。ポリマー粒子Q−1の重量平均分子量は550,000であった。
【0094】
【表2】
【0095】
実施例1(水系インク1の製造)
顔料含有ポリマー粒子P−1の水分散体(固形分22質量%、平均粒径95nm)、及びポリマー粒子Q−1の水分散体(固形分40質量%、平均粒径100nm)を用いて、水系インク1を調製した。インク中に顔料Aを5質量%、ポリマー粒子Q−1を2質量%となるようにイオン交換水を加えた後、pH8.5〜10.0となるよう1N水酸化ナトリウム水溶液を加えて、以下の組成にて配合した。
水系インク1中のポリマーの含有量は、ポリマー粒子P−1中のポリマーa1とポリマー粒子Q−1の合計量で4.15質量%であった。
<組成>
顔料含有ポリマー粒子P−1の水分散体(固形分22質量%、黒色顔料を5部、水不溶性ポリマー粒子a1を2.15部含む) 32.5部
顔料を含有しないポリマー粒子Q−1の水分散体(固形分40質量%) 5.0部
非イオン性界面活性剤C−1(花王株式会社製、トリプロピレングリコールモノオクチルエーテル、平均付加モル数a=3) 1.0部
プロピレングリコール 20.0部
サーフィノール104PG−50(日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系非イオン性界面活性剤のプロピレングリコール溶液、有効分50%) 2.0部
エマルゲン120(花王株式会社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、エーテル系非イオン性界面活性剤) 2.0部
1N水酸化ナトリウム水溶液 0.5部
イオン交換水 37部
得られた混合液を前記1.5μmフィルターで濾過し、水系インク1を得た。水系インク1の32℃における粘度は5.1mPa・sであった。
【0096】
実施例2〜3(水系インク2〜3の製造)
実施例1において、トリプロピレングリコールモノオクチルエーテルの量を表3に示す量に変更した以外は、実施例1と同様にして、水系インク2〜3を得た。
【0097】
実施例4〜5、比較例1〜5(水系インク4〜5、9〜13の製造)
実施例1において、トリプロピレングリコールモノオクチルエーテルに代えて表3に示す非イオン性界面活性剤を用いた以外は、実施例1と同様にして、水系インク4〜5、9〜13を得た。
【0098】
なお、表3中の非イオン性界面活性剤の詳細は下記のとおりである。
・C−1:トリプロピレングリコールモノオクチルエーテル(花王株式会社製、POの平均付加モル数a=3)
・C−2:トリプロピレングリコールモノデシルエーテル(花王株式会社製、POの平均付加モル数a=3)
・C−3:トリプロピレングリコールモノドデシルエーテル(花王株式会社製、POの平均付加モル数a=3)
・c1:トリプロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製、POの平均付加モル数=3)
・c2:トリプロピレングリコールモノブチルエーテル(花王株式会社製、POの平均付加モル数=3)
・c3:ジエチレングリコールモノブチルエーテル(和光純薬工業株式会社製、エチレンオキシ基の平均付加モル数=2)
・c4:ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(和光純薬株工業式会社製、POの平均付加モル数=2)
・c5:トリエチレングリコールモノオクチルエーテル(和光純薬工業株式会社製、エチレンオキシ基の平均付加モル数=3)
【0099】
実施例6〜8(水系インク6〜8の製造)
実施例1において、顔料含有ポリマー粒子P−1の水分散体を、顔料含有ポリマー粒子P−2(シアン)、P−3(マゼンタ)、P−4(イエロー)の水分散体に代えて、トリオキシプロピレングリコールオクチルエーテルの添加量を1.5質量%にした以外は、実施例1と同様にして、水系インク6〜8を得た。
なお、水系インク2〜13の32℃における粘度は5.0〜6.0mPa・sの間の値であった。
【0100】
<水系インクの耐擦過性、吐出性の評価>
上記で得られた水系インク1〜13について、以下の方法により、耐擦過性と吐出安定性を評価した。結果を表3に示す。
【0101】
(1)印字物の作製
市販のインクジェットプリンター(株式会社トライテック製、ピエゾ方式)に、実施例1〜8、及び比較例1〜5で得られた水系インクを充填し、23℃、相対湿度50%で、汎用光沢紙「UPM Finesse Gloss」(UPM株式会社製、吸水量3.1g/m
2)に、「30kHz、印刷速度75m/分」の条件にて、それぞれA4ベタ画像(単色)の印字を行い、23℃、相対湿度50%の条件下で3分間放置して乾燥させた光沢紙印字物を得た。
【0102】
(2)耐擦過性評価
前記(1)で得られた光沢紙印刷物上に、普通紙(ゼロックス4200)を巻きつけた450gの金属製のおもりを乗せ、長辺方向20cmの距離で往復10回こすった。おもりに巻きつけた紙や印字面の変化を6段階で目視で評価し、10回の平均値を耐擦過性とした。値が大きいほど、耐擦過性が良好なことを示す。
(評価基準)
1:紙の下地がほぼ完全に見え、他の部分に転写する
2:印字面の60%以上部分で紙の下地が見え、他の部分に転写する
3:印字面の40%以上部分で紙の下地が見え、他の部分に転写する
4:印字面の表面の少なくとも一部が削り取られ、他の部分に転写する
5:印字面の少なくとも一部でグロスチェンジが観察されるが、他の部分への転写はない
6:印字面に変化が観察されない
【0103】
(3)吐出安定性の評価
前記(1)と同じインクジェットプリンターにて全ノズルから吐出してから、10秒経過後に、再度全てのノズルから吐出したかどうか判別できるパターンを紙上に印字をした際のノズルのノズル欠け(正常に吐出していないノズル)数をカウントし、以下の評価基準により吐出安定性を評価した。全部でノズルの数は2656存在し、閉塞数が少ないほど吐出安定性が良好なことを示す。
(評価基準)
1:ノズル欠け11〜15
2:ノズル欠け9〜10
3:ノズル欠け7〜8
4:ノズル欠け5〜6
5:ノズル欠け3〜4
6:ノズル欠け1〜2
7:ノズル欠けなし
【0104】
【表3】
【0105】
表3から、実施例1〜8の水系インク1〜8は、比較例1〜5の水系インク9〜13に比べて、低吸水性の記録媒体に印字した際の印字物の耐擦過性、及びインクの吐出安定性に優れることが分かる。よって、本発明によれば優れた耐擦過性及び吐出安定性の両立が可能であることが分かる。