特許第6503759号(P6503759)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋紡株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6503759-ポリエステル樹脂組成物 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6503759
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20190415BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20190415BHJP
   C08L 25/14 20060101ALI20190415BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20190415BHJP
   C08G 63/672 20060101ALI20190415BHJP
   C08G 63/64 20060101ALI20190415BHJP
【FI】
   C08L67/02
   C08L23/26
   C08L25/14
   C08L21/00
   C08G63/672
   C08G63/64
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-11425(P2015-11425)
(22)【出願日】2015年1月23日
(65)【公開番号】特開2016-135831(P2016-135831A)
(43)【公開日】2016年7月28日
【審査請求日】2017年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中川 知英
(72)【発明者】
【氏名】安井 淳一
【審査官】 岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−216979(JP,A)
【文献】 特開平03−221554(JP,A)
【文献】 特開2009−263648(JP,A)
【文献】 特開昭62−285947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)60〜90質量部、酸無水物基またはグリシジル基を有するように変性された変性オレフィン系樹脂(B)〜25質量部、及び結晶性ポリエステルエラストマー(C)0〜25質量部からなる樹脂組成物100質量部に対して、コアシェル型エラストマー(D)0.1〜5質量部、及びスチレン−グリシジルアクリレート系共重合体(E)0.1〜5質量部を含有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度が、0.9dl/g以上である請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記変性オレフィン系樹脂(B)が、無水マレイン酸またはメタクリル酸グリシジルを0.01〜15質量%共重合したエチレン共重合体からなる群より選択される一種以上の変性エチレン系樹脂である請求項1または2に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記結晶性ポリエステルエラストマー(C)が芳香族ジカルボン酸と脂肪族又は脂環族ジオールとから構成される結晶性ポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントが結合されてなる熱可塑性ポリエステルエラストマーである請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
250℃、10kgでのメルトフローレート(MFR)が、10g/10分以下である請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
曲げ弾性率1.9GPa以下である請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物からなる中空成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂の優れた物性、耐熱性、耐薬品性を損なうことなく、柔軟でかつブロー成形性に優れたポリエステル樹脂組成物に関する。特に、ブロー成形性における肉厚コントロール性や形状コントロール性に優れるため、耐衝撃性の高い中空成形品を得ることが可能なポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
PBTは、広く自動車用途に使用されているが、その非強化成形品は耐衝撃性が不足している。また、PBT骨格を持つ共重合エラストマーは、結晶性エラストマーであるが故に耐薬品性は高く、柔軟性に優れるが、PBTと同等の耐熱性は無く、価格が高い欠点がある。さらに高温、高湿など厳しい環境を考慮した中空成形品を得るためには、耐久性が不足しているため適していない。
【0003】
特許文献1では、ポリエステルブロック共重合体とPBTと相溶化材の組み合わせで、薄肉成形用のポリエステル共重合体樹脂組成物に関する情報を開示している。この樹脂組成物は、低温環境で衝撃耐性が高く、成形性に優れる樹脂組成物であるが、ブロック共重合体の比率が高いため材料コストは高く、融点も低いため耐熱性に劣る。また、ブロー成形性に必要な粘度コントロールがされていないため、ブロー成形による中空成形品を得ることはできない。
【0004】
特許文献2では、PBTまたはPBT共重合体とポリエステルエラストマーに、安定剤と一定量のコアシェル型エラストマーを添加したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する情報が開示されている。この樹脂組成物は、柔軟で加水分解性を改良されているが、ブロー成形性に必要な粘度コントロールがされていないため、ブロー成形による中空成形品を得ることはできない。
【0005】
特許文献3では、PBTにポリエステルエラストマーと3つ以上の官能基を有する多官能性化合物を配合した、流動性、強靭性に優れた樹脂組成物に関する情報を開示しているが、一定の官能基を導入して結果的に粘度コントロールをしているもの、ブロー成形性に必要な粘度コントロールがされていないため、ブロー成形による中空成形品を得ることはできない。
【0006】
特許文献4では、ブロー成形による中空成形品を得ることのできるポリエステルエラストマーの調製方法が開示してあるが、耐熱性が低く、120℃以上の環境での使用が制限される。また開示されている増粘の手法は、PBTマトリクスとした場合に十分な粘度コントロールをすることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−126832号公報
【特許文献2】特開2009−263648号公報
【特許文献3】特開2009−173899号公報
【特許文献4】特開2011−94000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)を柔軟化させると同時に、粘度をコントロールし、かつ押出しや滞留によるゲル化を抑制することによって、PBT樹脂の優れた物性、耐熱性、耐薬品性を損なうことなく、柔軟でかつブロー成形性に優れたPBTマトリクスのポリエステル樹脂組成物を与える。特に、ブロー成形におけるパリソンの硬さやドローダウン性に優れるため、自動車のダクト部品やブロー成形で成形される中空部品に対して、極めて有用であるポリエステル樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂、変性オレフィン系樹脂、結晶性ポリエステルエラストマーからなる樹脂組成物に対して、コアシェル型エラストマーとスチレン−グリシジルアクリレート系共重合体を一定割合で配合することによって、PBT樹脂の優れた物性、耐熱性、耐薬品性を損なうことなく、柔軟でかつ耐熱性に優れたポリエステル樹脂組成物を与える。特に、ブロー成形におけるドローダウンが少なく、ブロー成形時にドローダウンしない成形性良好な組成物を得ることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明によれば、
[1] ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)60〜90質量部、変性オレフィン系樹脂(B)0〜25質量部、及び結晶性ポリエステルエラストマー(C)0〜25質量部からなる樹脂組成物100質量部に対して、コアシェル型エラストマー(D)0.1〜5質量部、及びスチレン−グリシジルアクリレート系共重合体(E)0.1〜5質量部を含有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
[2] 前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度が、0.9dl/g以上である[1]に記載のポリエステル樹脂組成物。
[3] 前記変性オレフィン系樹脂(B)が、無水マレイン酸またはメタクリル酸グリシジルを0.01〜15質量%共重合したエチレン共重合体からなる群より選択される一種以上の変性エチレン系樹脂である[1]または[2]に記載のポリエステル樹脂組成物。
[4] 前記結晶性ポリエステルエラストマー(C)が芳香族ジカルボン酸と脂肪族又は脂環族ジオールとから構成される結晶性ポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントが結合されてなる熱可塑性ポリエステルエラストマーである[1]〜[3]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
[5] 250℃、10kgでのメルトフローレート(MFR)が、10g/10分以下である[1]〜[4]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
[6] 曲げ弾性率1.9GPa以下である[1]〜[5]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物からなる中空成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリエステル組成物は、ブロー成形性に優れ、滞留によるゲル化が抑制されているため、パリソンの硬さやドローダウン性に優れ、ブロー成形における生産効率が非常に高い。また、PBT樹脂の優れた物性、耐熱性、耐薬品性を損なうことなく、柔軟でかつ耐熱性に優れたポリエステル成形品を与えるため、自動車のダクト部品やブロー成形で成形される中空部品に対して極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】成形評価のために成形したパイプの評価位置と外観寸法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のポリエステル樹脂組成物について詳述する。
本発明で用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、公知の重縮合法により製造することができ、バッチ重合および連続重合のいずれでもよい。エステル交換反応や直接重合も適用できる。カルボキシル末端基量を少なくでき、流動性を制御できる観点から連続重合が好ましく、コスト面からは直接重合が好ましい。成分と構成に関しては、少なくともテレフタル酸またはそのエステル形成誘導体である低級アルコールエステルなどを含むジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオール又はそのエステル形成誘導体を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。ポリブチレンテレフタレート樹脂は、ホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を80モル%以上含有する共重合体であってもよい。
【0014】
本発明で用いられるポリブチレンテレフタレート樹脂としては、通常は、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(重量比)の混合溶媒を用いて、温度30℃で測定した固有粘度が、0.9dl/g以上の範囲であることが好ましい。0.9dl/g未満のものを用いると、ブロー成形できる粘度にするために添加する増粘剤の量が多くなりすぎて、生産時に激しくゲル化する可能性がある。本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂としては、固有粘度を異にする2種類以上のものを併用して、所望の固有粘度となるように調整してもよい。その場合のポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、2種類以上の樹脂の各固有粘度から、配合質量割合を基に加重平均で算出する。
ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、1.0dl/g以上がより好ましい。また、固有粘度の上限としては、1.5dl/g以下が好ましく、1.4dl/g以下がより好ましい。
【0015】
本発明で用いられるポリブチレンテレフタレート樹脂は、カルボキシル末端基量が30meq/kg以上であることが、カルボキシル末端を反応に用いる増粘設計をする場合に、粘度コントロールの観点から好ましい。カルボキシル末端基量はポリブチレンテレフタレート樹脂を粉砕し、ベンジルアルコール中200℃で溶解後、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液の滴定で求められる。本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂としては、カルボキシル末端基量を異にする2種類以上のものを併用して、所望のカルボキシル末端基量となるように調整してもよい。その場合のポリブチレンテレフタレート樹脂のカルボキシル末端基量は、上記固有粘度の場合と同様である。
ポリブチレンテレフタレート樹脂のカルボキシル末端基量の上限としては、100meq/kg以下が好ましく、80meq/kg以下がより好ましい。
【0016】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の配合量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、変性オレフィン系樹脂(B)、及び結晶性ポリエステルエラストマー(C)の合計を100質量部とした60〜90質量部である。(A)成分の配合量は、少なすぎると得られるポリエステル樹脂組成物の強度が低く、多すぎると(B)成分、(C)成分の改質効果が損なわれる。(A)成分の配合量は、65〜85質量部が好ましい。
【0017】
本発明で用いられる変性オレフィン系樹脂(B)は、酸無水物基やグリシジル基等の官能基を有するように変性されたオレフィン系樹脂である。変性オレフィン系樹脂としては、無水マレイン酸またはメタクリル酸グリシジルを共重合したエチレン共重合体であることが好ましい。この時、無水マレイン酸またはメタクリル酸グリシジル0.01〜15重量%を共重合したエチレン共重合体であることがより好ましい。さらには、エチレン(共)重合体に、無水マレイン酸またはメタクリル酸グリシジル0.01〜15重量%、好ましくは0.01〜10重量%を共重合した変性エチレン共重合体であることが好ましく、これらは通常公知の方法で製造することが可能であり、通常の共重合により製造する方法でも、グラフト共重合により製造する方法でもよい。
【0018】
また、本発明の変性オレフィン系樹脂(B)としては、未変性のエチレン共重合体と、変性エチレン共重合体から選択される一種または二種以上とを併用して使用してもよい。使用される少なくとも一種の共重合体のガラス転移温度が−30℃以下であることが、−30℃以下での耐衝撃性を向上するためには望ましい。
(B)成分の配合量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)60〜90質量部に対して、0〜25質量部である。(B)成分の配合量は、少なすぎると得られる組成物の衝撃強度の低下を招き、多すぎると得られる組成物の優れた成形性が損なわれる。ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)65〜85重量部に対して、変性オレフィン系樹脂(B)5〜20質量部が好ましい。この配合量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、変性オレフィン系樹脂(B)、及び結晶性ポリエステルエラストマー(C)の合計を100質量部としたときの量である。
【0019】
本発明で用いられる結晶性ポリエステルエラストマー(C)とは、結晶性ポリエステルからなるハードセグメントと、ソフトセグメントが結合されてなる熱可塑性ポリエステルエラストマーである。具体的には、芳香族ジカルボン酸と脂肪族又は脂環族ジオールとから構成される結晶性ポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントが結合されてなる熱可塑性ポリエステルエラストマーであることが好ましい。前記ソフトセグメント成分の含有量は、10〜85質量%が好ましく、10〜80質量%がより好ましく、10〜70質量%がさらに好ましい。
【0020】
本発明に用いる結晶性ポリエステルエラストマー(C)において、ハードセグメントのポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸は通常の芳香族ジカルボン酸が広く用いられ、特に限定されないが、主たる芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸であることが望ましい。その他の酸成分としては、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。これらは樹脂の融点を大きく低下させない範囲で用いられ、その量は全酸成分の30モル%未満、好ましくは20モル%未満である。
【0021】
また、本発明にかかる結晶性ポリエステルエラストマー(C)において、ハードセグメントのポリエステルを構成する脂肪族又は脂環族ジオールは、一般の脂肪族又は脂環族ジオールが広く用いられ、特に限定されないが、主として炭素数2〜8のアルキレングリコール類であることが望ましい。具体的にはエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。1,4−ブタンジオール及び1,4−シクロヘキサンジメタノールが最も好ましい。
【0022】
上記のハードセグメントのポリエステルを構成する成分としては、ブチレンテレフタレート単位あるいはブチレンナフタレート単位よりなるものが物性、成形性、コストパフォーマンスの点より好ましい。
【0023】
また、本発明にかかる結晶性ポリエステルエラストマー(C)におけるハードセグメントを構成するポリエステルとして好適な芳香族ポリエステルは、通常のポリエステルの製造法に従って容易に得ることができる。また、かかるポリエステルは、数平均分子量10000〜40000を有しているものが望ましい。
【0024】
本発明に用いる結晶性ポリエステルエラストマー(C)におけるソフトセグメント成分である脂肪族ポリエーテルは、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などのポリ(アルキレンオキシド)グリコールなどが挙げられる。
【0025】
上記脂肪族ポリエーテルの中でも、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールが好ましく、より好ましくは、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物である。また、これらのソフトセグメントの数平均分子量としては、共重合された状態において300〜6000程度であることが好ましい。
【0026】
本発明に用いる結晶性ポリエステルエラストマー(C)は、公知の方法で製造できる。例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール、およびソフトセグメント成分を触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、ジカルボン酸と過剰量のグリコールおよびソフトセグメント成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法が挙げられる。
【0027】
(C)成分の配合量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)60〜90質量部に対して、0〜25質量部である。(C)成分の配合量は、少なすぎると得られるポリエステル樹脂組成物の衝撃強度の低下を招き、多すぎると得られるポリエステル樹脂組成物の優れた成形性が損なわれる。ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)65〜85重量部に対して、結晶性ポリエステルエラストマー(C)0〜15質量部が好ましい。この配合量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、変性オレフィン系樹脂(B)、及び結晶性ポリエステルエラストマー(C)の合計を100質量部としたときの量である。(A)成分、(B)成分の比率において(B)成分の比率が多くなる場合、(C)成分を添加し、その添加量をコントロールすることで金型転写時の固化プロセスにおける流動性を上げて、外観を良化することができる。
【0028】
本発明に用いるコアシェル型エラストマー(D)はコア層およびシェル層のうち、いずれか一方をゴム成分(軟質成分)で構成し、他方の成分を硬質成分で構成しているものが一例として挙げられる。コアシェル型エラストマーは、通常、ゴム成分で構成されたコア層と、このコア層を被覆又は包含する硬質樹脂(ガラス状樹脂など)で構成されたシェル層とを備えた多層構造を有している場合が多く、本発明でも好ましく用いられる。
【0029】
樹脂組成物の耐衝撃性改良の点からは、コアシェル型エラストマー(D)はブタジエン成分含有ゴム、ブチルアクリレート成分含有ゴム、シリコーン系ゴムから選ばれるゴムをコア層とし、その周囲にアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物から選ばれる単量体の1種または2種以上をグラフト重合して形成されたシェル層からなる、コアシェル型エラストマーが特に好ましい。一方、耐薬品性の観点からは、ブタジエン成分を含まないコアシェル型エラストマーが好ましく、耐薬品性の指標としてはトルエン:イソオクタン=1:1(体積比)混合溶液に室温で溶解しないことが好ましい。
【0030】
コアシェル型エラストマーの例としては、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン重合体(MBS)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン重合体(MABS)、メチルメタクリレート−ブタジエン重合体(MB)、メチルメタクリレート−アクリルゴム重合体(MA)、メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン重合体(MAS)、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−(アクリル・シリコーンIPN(INTERPENETRATING POLYMER NETWORK)ゴム)重合体等が挙げられる。これらのゴム性重合体は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0031】
コアシェル型エラストマー(D)のコア層(ゴム成分)のガラス転移温度は、低温でも効果を得るために0℃未満が好ましく、より好ましくは−20℃以下、さらに好ましくは−30℃以下である。
【0032】
シェル層は、例えば硬質樹脂成分で構成でき、一般的にはビニル系重合体で構成できる。ビニル系重合体は、芳香族ビニル単量体(スチレン、α−メチルスチレンなど)、シアン化ビニル単量体(例えば、(メタ)アクリロニトリルなど)、メタクリル酸エステル系単量体、及びアクリル酸エステル単量体の中から選ばれた少なくとも1種の単量体、又は共重合体で構成できる。メタクリル酸エステル系単量体としては、例えば、アルキルメタクリレート(例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートなどのC1−20アルキルメタクリレート、好ましくはC1−10アルキルメタクリレート、さらに好ましくはC1−6アルキルメタクリレート)、アリールメタクリレート(フェニルメタクリレートなど)、シクロアルキルメタクリレート(シクロへキシルメタクリレートなど)などが例示できる。アクリル酸エステル単量体としては、前記コア層のアクリル酸エステルが例示できる。ビニル系重合体は、メタクリル系モノマー、芳香族ビニル系モノマーから選択された少なくとも1種[特に、少なくともメチルメタクリレートなど)]を重合成分とする重合体である場合が多い。なお、シェル層を構成するビニル系重合体は、架橋性モノマーとの共重合体であってもよい。
【0033】
シェル層のガラス転移温度は、取り扱いや耐熱性の観点から30℃以上が好ましく、さらに好ましくは50℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。
【0034】
コアシェル型エラストマー(D)の平均粒子径は、例えば、0.05〜10μm程度の範囲が好ましく、より好ましくは0.05〜5μm、さらに好ましくは0.1〜3μm程度である。コアシェル型エラストマーのゴム層とシェル層とは、通常、グラフト結合によって結合しており、このグラフト結合は、必要により、コア層(ゴム層)の重合成分にシェル層と反応するグラフト交差剤を添加して、ゴム層に反応基を与えた後、シェル層を形成させることによって得ることができる。
【0035】
本特許のポリエステル樹脂組成物におけるコアシェル型エラストマー(D)の役割としては、耐衝撃性や柔軟性の付与のほか、スチレン−グリシジルアクリレート系共重合体(E)の助剤として、(E)の反応効率を上げる目的で使用される。コンパウンドプロセスでは、PBTとの反応性が高く、官能基の多い(E)成分は、単独もしくはPBTと反応しながら凝集する傾向にあり、凝集すると反応効率が大幅に落ちて増粘に寄与する効率が著しく悪くなる。シェル層が主にメタクリル系であるコアシェルゴムの表面は、(E)成分との親和性が高く、かつコアシェル型エラストマーは粒子径がコントロールされた微粒子であり、かつマトリクスであるPBT樹脂との反応性がないか、もしくは小さいため、PBTマトリクスへの微分散性に優れている。分散のプロセスで、(D)成分は親和性の高いスチレン−グリシジルアクリレート系共重合体(E)をひきつれて分散するため、(E)成分をコアシェル型エラストマーなしでPBTに添加した場合と比べて凝集がなく、(E)成分とPBTの反応効率低下を大幅に改善することができる。
【0036】
(D)成分の配合量は、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計100質量部に対して、0.1〜5質量部である。5質量部より多いと、耐熱性、耐加水分解性の面より好ましくない。0.1質量部未満だと、上記の効果を十分に発揮できない。(D)成分の配合量は、0.2〜4質量部が好ましく、0.3〜3質量部がより好ましい。
【0037】
なお、コアシェル型ポリマーは、慣用の方法(乳化重合法、シード重合法、マイクロサスペンジョン重合法、懸濁重合法など)により調製したものを用いてもよく、市販品を使用してもよく、具体的にはロームアンドハースジャパン(株)から、「パラロイドEXL−2620」(コア層:ポリブタジエン70質量%、シェル層:スチレンおよびメチルメタクリレートであるグラフト共重合体)などを入手して使用することができる。
【0038】
本発明に用いられるスチレン−グリシジルアクリレート系共重合体(E)は、PBT樹脂の持つヒドロキシル基あるいはカルボキシル基と反応し得る官能基として、グリシジル基を1分子あたり2個以上含有する。このことが、官能基のもつ反応の速さから、樹脂全体に一部架橋を導入する点で好ましい。本発明において、スチレン−グリシジルアクリレート系共重合体(E)とは、グリシジルアクリレート、及び/またはグリシジルメタクリレートを共重合成分として含む共重合体を指す。以下、グリシジルアクリレートとグリシジルメタクリレートを合わせて、グリシジル(メタ)アクリレートと示す場合がある。(E)成分の効果により、溶融押出時においてPBT樹脂の持つカルボキシル基と反応することで分子鎖が延長され、高い増粘効果を得ることができる。スチレン−グリシジルアクリレート系共重合体(E)は、グリシジル(メタ)アクリレートが1〜50モル%であることが好ましく、2〜40モル%であることがより好ましく、4〜29モル%であることがさらに好ましい。
【0039】
(E)成分は、PBT樹脂の粘度によって好ましい量が選定されるが、ブロー成形が可能な粘度となるまでPBT樹脂の鎖延長を行うことが目的である。(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計100質量部に対して、(D)成分0.1〜5質量部とともに成分(E)0.1〜5質量部の添加が必要である。5質量部を超えて添加すると粘度および分子量が増大しすぎて成形が困難になる。0.1質量部未満では十分な増粘効果は得られない。(D)成分の配合量は、0.2〜3質量部が好ましく、0.3〜2質量部がより好ましい。
【0040】
スチレン−グリシジルアクリレート系共重合体(E)は、具体的にスチレン/メチルメタクリレート/グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン/ブチルメタクリレート/グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン/ブタジエン/グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン/イソプレン/グリシジルメタクリレート共重合体等があるが、これらのいかなるものでもよく、またこれらを混合して使用することももちろん可能である。スチレン−グリシジルアクリレート系共重合体(E)としては、(X)20〜99モル%のビニル芳香族モノマー、(Y)1〜50モル%のグリシジル(メタ)アクリレート、および(Z)0〜79モル%のアルキル(メタ)アクリレートからなる共重合体が好ましい。より好ましくは(X)が20〜99モル%、(Y)が2〜40モル%、(Z)が0〜40モル%からなる共重合体で、さらに好ましくは、(X)が25〜90モル%、(Y)が4〜29モル%、(Z)が0〜20質量%からなる共重合体である。これらの組成は、PBT樹脂との反応に寄与する官能基濃度に影響する為、上述のように適切に制御することが好ましい。ブロー成形性や機械特性を損なわない理由でグリシジル(メタ)アクリレートは、1〜50モル%が好ましい。
【0041】
本発明のポリエステル樹脂組成物には、安定剤を添加することが好ましく、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。具体的には、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−トルエン、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6’−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、カルシウム(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシーベンジルーモノエチル−フォスフェート)、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ペンテリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、ビス〔3,3−ビス(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)酪酸〕グリコールエステル、トリフェノール、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、N,N’−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン、2,2’−オキサミドビス〔エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,1,3−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−S−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミックアヒドトリエステルウイズ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−S−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナアミド)などを挙げることができる。これらの中でも特に、テトラキス〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンのような分子量が500以上のものが好ましい。
【0042】
また、硫黄系酸化防止剤も安定剤として好ましい。具体的には、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジウロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジラウリルチオジプロピオネート、ジオクタデシルサルファイド、ペンタエリストリール−テトラ(β−ラウリル−チオプロピオネート)エステルなどを挙げることができる。これらの中でも特に、チオジプロピオンエステル系化合物が好ましい。
【0043】
本発明に使用することができる安定剤は、前述のものに限定されないし、他の複数の安定剤を同時に併用することも問題ない。安定剤は、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計量を100質量部とすると、0.01〜5質量部配合することが好ましく、より好ましくは0.05〜3質量部、さらに好ましくは0.1〜1.5質量部である。配合量が、上記範囲未満では耐熱性改良効果が低く、上記範囲を超えるとブリードアウトし外観が悪くなる可能性がある。
【0044】
さらに、本発明のポリエステル樹脂組成物には、上記の安定剤以外に、本発明の効果を阻害しない範囲において、目的に応じて種々の添加剤を配合することができる。添加剤としては、公知のヒンダードアミン系、トリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、ニッケル系、サリチル系等の光安定剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、過酸化物等の分子量調整剤、金属不活性剤、有機及び無機系の核剤、中和剤、制酸剤、防菌剤、蛍光増白剤、充填剤、難燃剤、難燃助剤、有機及び無機系の顔料などを添加することができる。これらの添加剤は合計で、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計量を100質量部とすると、40質量部以下の範囲で配合することが可能である。
【0045】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法としては、本発明におけるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、変性オレフィン系樹脂(B)、結晶性ポリエステルエラストマー(C)、コアシェル型エラストマー(D)、スチレングリシジルアクリレート系共重合体(E)などの各成分を所定の配合比に混合した後に、溶融混錬すればよい。混合は、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダーなどが使用でき、溶融混錬は、バンバリーミキサー、ニーダー式加熱機、単軸もしくは二軸の溶融混錬押出機などを使用することができる。
【0046】
本発明のポリエステル樹脂組成物のMFR(g/10分)は、実施例の[MFR]に記載の方法により測定され、その範囲は10以下であることが好ましい。MFRが10超の場合、ブロー成形性が悪くなる傾向にある。MFRを10以下の範囲にするためには、ポリエステル樹脂組成物を上記の配合とすることが重要である。特に、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度(IV)が適正な範囲のものを選択することが効果的である。
また、ポリエステル樹脂組成物のMFR(g/10分)は、0.2以上8未満であることがより好ましい。MFRをこの範囲にすることにより、ブロー成形性と外観の両立が期待できる。MFRを0.2以上8未満の範囲にするためには、ポリエステル樹脂組成物を上記の配合とし、特にポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度(IV)が1.0dl/g以上でカルボキシル末端が30meq/kg以上であり、(C)、コアシェル型エラストマー(D)、スチレングリシジルアクリレート系共重合体(E)が適切な所定量添加されていることが重要である。MFRは、0.5以上7以下であることがさらに好ましい。
【0047】
本発明のポリエステル樹脂組成物の曲げ弾性率は、ISO178に準じて測定される。本発明のポリエステル樹脂組成物の曲げ弾性率は、1.9GPa以下であることが好ましい。曲げ弾性率をこの範囲にすることにより、製品の柔軟性を得ることが期待できる。曲げ弾性率をこの範囲にするためには、ポリエステル樹脂組成物を上記の配合とすることが重要である。曲げ弾性率は、1.8GPa以下であることがより好ましく、1.7GPa以下であることがさらに好ましい。
【0048】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ブロー成形によって成形されることが好ましい。ブロー成形はウェルドレスの中空成形体を生産する方法として生産効率に優れており、長尺の中空成形品をウェルドレスで生産することができる。またブロー成形時のパリソンドローダウンが少なく、溶融時の粘度が高い低MFR材料ほど形状設計の自由度が高くなるため、本発明のポリエステル樹脂はブロー成形において最大限その利点を引き出すことができる。
【0049】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、上述のように作製されているので、その成形品は曲げ弾性率が低く、柔軟でウェルドのない信頼性の高い中空成形品を効率的に生産できる。従って、自動車の耐熱ダクト部品や中空の樹脂パイプとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の趣旨に適合しうる範囲で変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において各測定は、以下の方法に従った。
【0051】
〔結晶性ポリエステルエラストマーの組成分析〕
熱可塑性ポリエステルエラストマーの組成は、重クロロホルム溶媒中でヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)ジェミニ−200を用いて、1H−NMR分析を行なって、その積分比より決定した。
【0052】
〔結晶性ポリエステルエラストマーの還元粘度〕
樹脂0.05gを25mLの混合溶媒(フェノール/テトラクロロエタン=60/40)に溶かし、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0053】
〔結晶性ポリエステルエラストマーの融点(Tm)〕
50℃で15時間減圧乾燥した樹脂を示差走査熱量計DSC−50(島津製作所製)を用いて室温から20℃/分の昇温速度で測定し、融解による吸熱のピーク温度を融点とした。なお、測定試料は、アルミニウム製パン(TA Instruments社製、品番900793.901)に10mg計量し、アルミニウム製蓋(TA Instruments社製、品番900794.901)で密封状態にして、アルゴン雰囲気で測定した。
【0054】
〔ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度〕
1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(重量比)の混合溶媒を用いて、温度30℃で測定した。
【0055】
〔ポリブチレンテレフタレート樹脂のカルボキシル末端基量〕
ポリブチレンテレフタレート樹脂を粉砕し、ベンジルアルコール中200℃で溶解後、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液の滴定で求めた。
【0056】
〔曲げ弾性率〕
ISO178に準じて測定した。
【0057】
〔曲げ降伏強度〕
ISO178に準じて測定した。
【0058】
〔MFR〕
ISO1133に準じてA法で測定した。温度、荷重条件は、250℃、10kgで測定した。
【0059】
〔シャルピー衝撃〕
ISO179に準じて測定した。
【0060】
〔シャルピー試験後の試験片〕
シャルピー衝撃試験の試験後の試験片がノンブレイク(2つに分断されない)の場合:NB、ブレイクの場合:Bとした。
【0061】
〔機械特性判定〕
前述の試験方法で試験した結果で、曲げ降伏強度20MPa以上、曲げ弾性率1.9GPa以下、シャルピー衝撃強度70以上で試験片がノンブレイク(2つに分断されない)ものを合格(○)として、いずれかひとつでも満たさないものを不合格(×)とした。
【0062】
〔ドローダウン性〕
ブロー成形性(パリソンの押出し賦型性)およびパリソンのドローダウン性は次のように測定した。
ブロー機(FKI社製、45φ2層式ダイレクトブロー成形機)を用い、ダイスφ32mm、マンドレルφ22mmでアキュームレーターを使用せずに連続方式で、図1に示す円筒形状(パイプ状)で肉厚の偏差をつけない均一の厚さのパリソンを押出し、パリソンの賦型性(固化・伸びの状態)、ドローダウンの状態及び成形品内部の平滑性、成形品肉厚について評価した。なお成形条件は、シリンダー温度は250℃として、金型温度は60℃とした。エアーの噴きつけは型締め3秒後に実施し、吹きつけ時間は20秒とした。図1に示した成形品A部とB部の肉厚差が1mm未満でかつ、成形品の肉厚が3mm以上の場合はドローダウン性合格(○)とし、ドローダウンが激しく、賦型できない場合やA部、B分の肉厚差が1mm以上の場合や、成形品肉厚が3mmより小さい場合は不合格(×)とした。
【0063】
〔ゲル化〕
前述の成形機、成形条件で、10分間樹脂組成物の押出しと成形を行い、ストップした後にブロー連続成形を再開し、再開後から5ブロー目の成形品の表面と内壁にゲル化によるブツが多数見える場合はゲル化不合格(×)とした。5ブロー目の成形品でブツが見えないものはゲル化の挙動がない、もしくは少ないと判断しゲル化合格(○)とした。
【0064】
〔総合評価〕
機械特性判定が合格(○)でかつドローダウン性、ゲル化が合格(○)、MFRが10g/10分以下のものを総合評価合格(○)として、いずれかの評価が不合格(×)もしくはMFRが10超のものを不合格(×)と判定した。
【0065】
使用した原材料は以下の通りである。
〔ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)〕
A1:1200−211XG 固有粘度=1.23dl/g、カルボキシル末端=35meq/kg (CHANG CHUN PLASTICS CO.,LTD.)
A2:1200−211M 固有粘度=0.83dl/g、カルボキシル末端=12meq/kg (CHANG CHUN PLASTICS CO.,LTD.)
【0066】
〔変性オレフィン系樹脂(B)〕
B1:ボンドファースト7M(住友化学工業社製 エチレン/アクリル酸メチル/グリシジルメタクリレート共重合体、ガラス転移温度―33℃ GMA含有量6%)
B2:ボンドファースト7L(住友化学工業社製 エチレン/アクリル酸メチル/グリシジルメタクリレート共重合体、ガラス転移温度約―33℃ GMA含有量3%)
【0067】
〔結晶性ポリエステルエラストマー(C)〕
ポリエステルエラストマー(C1):
原料としてポリブチレンテレフタレート(PBT)と、数平均分子量10000を有するポリカーボネートジオールを用いて、表1に示すポリエステルエラストマーC1を合成した。
ポリエステルエラストマー(C2):
原料としてジメチルテレフタレート(DMT)と、1,4―ブタンジオール(BD)、数平均分子量1000を有するポリテトラメチレングリコール(PTMG)を用いて、表1に示すポリエステルエラストマーC2を合成した。
【0068】
【表1】
【0069】
〔コアシェル型エラストマー(D)〕
ロームアンドハース(株)製「パラロイドEXL2620」
【0070】
〔スチレン−グリシジルアクリレート系共重合体(E)〕
E1:グリシジルメタクリレート6〜10モル%を含むスチレン−グリシジルアクリレート系共重合体 東亜合成製 アルフォンUG4050
E2:グリシジルメタクリレート14〜18モル%を含むスチレン−グリシジルアクリレート系共重合体 東亜合成製 アルフォンUG4070
【0071】
〔酸化防止剤〕
実施例、比較例の作製において、コンパウンド時にヒンダードフェノール系安定剤 イルガノックス1010(BASF社製)と硫黄系安定剤シーノックス412S(シプロ化成社製)をそれぞれ0.2質量部添加した。
【0072】
〔離型材、顔料〕
実施例、比較例の作製において、コンパウンド時に以下の離型剤0.6質量部、黒顔料マスター1.0質量部(カーボンブラックとして)を添加した。
離型剤: WE40(クラリアント社製モンタン酸エステルワックス)
黒顔料; ABF−T−9801(レジノカラー社製 カーボンブラックマスターバッチ)
【0073】
〔実施例1〜7、比較例1〜7〕
上記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、変性ポリオレフィン系樹脂(B)、結晶性ポリエステルエラストマー(C)、コアシェル型エラストマー(D)、スチレン−グリシジルアクリレート系共重合体(E)、酸化防止剤、黒顔料、離型剤の各成分を表2に記載の配合比でドライブレンドし、31mmφ二軸押出機(CONTINENT社製)を用いて、250℃の温度設定で溶融混練してストランド状に押出し、水冷してペレタイザーでペレット化した。得られたペレットを100℃にて5時間減圧乾燥し、ポリエステル樹脂組成物を得た。評価結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2の結果から明らかなように、実施例1〜7に示したポリエステル樹脂組成物は、柔軟でブロー成形性が良好であり、滞留によるゲル化がない。比較例1〜7は、機械特性は良好なものの、多くの水準で増粘とゲル化のバランスが悪く増粘剤の反応を効率的に制御できていないため、成形性と物性のバランスも悪く、いずれかの特性において実施例より劣る結果となっている。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のポリエステル組成物はブロー成形性に優れ、滞留によるゲル化を抑制されているためブロー成形における生産効率が、パリソンの硬さやドローダウン性に優れるため、非常に高い。またPBT樹脂の優れた物性、耐熱性、耐薬品性を損なうことなく、柔軟でかつ耐熱性に優れたポリエステル成形品を与えるため、自動車のダクト部品やブロー成形で成形される中空部品として好適に使用出来る。
図1