(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エーテル化合物及び飽和炭化水素化合物から選ばれる少なくとも1種を含む反応溶媒中で、前記一般式(2)で表される化合物を水素化還元する、請求項5〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態(以下、単に「本実施形態」という。)について説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその本実施形態のみに限定されない。
【0015】
<ポリエーテルジオール化合物>
本実施形態によって製造可能となるポリエーテルジオールは分子内に1個のシクロヘキサン−ビスメチレン構造(2つのメチレン基が個々にシクロヘキサン環に結合した構造)と2つのネオペンチルグリコール構造を有し、それらが複数のエーテル結合によって連結された構造のポリエーテルジオールであり、具体的には下記一般式(1)で表される構造を持つ。これについて以下に詳細に説明する。
【0016】
【化7】
式(1)において、R
1,R
2,R
3及びR
4は、それぞれ同じまたは異なってよく、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基を表す。また、中央のシクロヘキサン骨格に接続する2つの3−ヒドロキシ−2,2−ジアルキルプロポキシメチル基は、1,4位または1,3に結合する。
【0017】
式(1)の化合物は複数の幾何異性体を持ち、本発明においては幾何異性体の少なくともどちらか一方または両方を表す。式(1)の幾何異性体の生成比率は、後述する反応条件、反応溶媒種、触媒種などによって変化し、特に制限はない。得られた幾何異性体の混合物は混合物のまま、あるいは従来公知な方法によって分離して利用することができる。
【0018】
具体的な例としては、式(1)において、前記R
1及び前記R
2の組み合わせ、並びに前記R
3及び前記R
4の組み合わせが、それぞれ独立にメチル基とメチル基、メチル基とエチル基、メチル基とプロピル基、メチル基とヘキシル基、エチル基とエチル基、エチル基とブチル基、およびプロピル基とペンチル基のものがあげられる。これらの中で好ましいのはメチル基とメチル基、メチル基とノルマルプロピル基、エチル基とエチル基、およびエチル基とノルマルブチル基のものであり、特に好ましいのはメチル基とメチル基の組み合わせとなるものである。
【0019】
また、これらの中で製造方法が特に簡便となり好ましいのは、式(1)において、前記R
1及び前記R
2の組み合わせ、並びに前記R
3及び前記R
4の組み合わせが同一の置換基の組み合わせとなるものである。具体的な例としては前記R
1及び前記R
2の組み合わせ、並びに前記R
3及び前記R
4の組み合わせがどちらも同一でメチル基とメチル基、メチル基とエチル基、メチル基とプロピル基、メチル基とヘキシル基、エチル基とエチル基、エチル基とブチル基、およびプロピル基とペンチル基となるものがあげられる。これらの中で好ましいのはメチル基とメチル基、メチル基とノルマルプロピル基、エチル基とエチル基、およびエチル基とノルマルブチル基のものであり、特に好ましいのはメチル基とメチル基のものである。この場合には前記R
1、前記R
2、前記R
3及び前記R
4の全てがメチル基となる。
【0020】
<ポリエーテルジオール化合物の製造>
本実施形態のポリエーテルジオールの製造方法は、水素化触媒の存在下に下記一般式(2)で表される多環式アセタール(以下、「多環式アセタール」という。)を水素化還元することにより下記一般式(3)で表されるポリエーテルジオールを得るものである。
【0021】
【化8】
ここで式(2)において、R
5,R
6,R
7及びR
8は、それぞれ同じまたは異なってよく、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基を表す。
また、R
5及びR
6を有する複素環基並びにR
7及びR
8を有する複素環基は、中央のシクロヘキサン骨格に対し、1,4位または1,3位に結合する。
【0022】
【化9】
ここで式(3)において、R
5,R
6,R
7及びR
8は、式(2)と同じである。またR
5及びR
6で置換された3−ヒドロキシ−プロポキシメチル基並びにR
7及びR
8で置換された3−ヒドロキシ−プロポキシメチル基の中央シクロヘキサン環上での置換位置は、1,4位または1,3位である。
【0023】
式(2)及び式(3)の化合物は複数の幾何異性体を持ち、本発明においては幾何異性体の少なくともどちらか一方または両方を表す。この幾何異性体の生成比率は、反応条件、反応溶媒種、触媒種などによって変化し、特に制限はない。得られた幾何異性体の混合物は混合物のまま、あるいは従来公知な方法によって分離して利用することができる。
【0024】
さらに、R
5〜R
8のアルキル基の組み合わせによっては、式(2)及び式(3)の化合物は複数の光学異性体を持つ場合がある。
【0025】
また、式(2)において、中央のシクロヘキサン骨格が有す2つの複素環基が1、4位にあれば、水素化還元で得られる式(3)でも中央のシクロヘキサン骨格が有す2つの
3−ヒドロキシ−2,2−ジアルキルプロポキシメチル基は1、4位になる。
【化10】
【0026】
同様に式(2)において、中央のシクロヘキサン骨格が有す2つの複素環基が1、3位にあれば、水素化還元で得られる式(3)でも中央のシクロヘキサン骨格が有す2つの
3−ヒドロキシ−2,2−ジアルキルプロポキシメチル基は1、3位になる。
【化11】
【0027】
<原料化合物>
本実施形態のポリエーテルジオールの製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう。)に原料として用いる化合物は、上記一般式(2)で表される多環式アセタールである。
【0028】
本実施形態に用いられる多環式アセタールの合成原料や製法等に特に制限はなく、従来公知の方法で製造されたものを用いることができる。最も簡便で効率的な多環式アセタールの製造方法の1つはシクロヘキサン−1,4−ジカルボアルデヒド及びシクロヘキサン−1,3−ジカルボアルデヒドから選ばれる少なくとも1つと、2,2−ジ置換−1,3−プロパンジオールを従来公知な酸触媒などにより脱水環化させる方法である。それ以外にもシクロヘキサン−1,4−ジカルボアルデヒド及びシクロヘキサン−1,3−ジカルボアルデヒドから選らばれる少なくとも1つの低級アルコールアセタールと2,2−ジ置換−1,3−プロパンジオールとのアセタール交換反応による製造方法などであってもよい。
【0029】
更には工業的に入手しやすいテレフタルアルデヒド及びイソフタルアルデヒドから選ばれる少なくとも1つと、2,2−ジ置換−1,3−プロパンジオールを従来公知な酸触媒などにより脱水環化させて、それぞれ対応するテレフタルアルデヒド ビス(2,2−ジ置換−プロピレン)アセタールまたはイソフタルアルデヒド ビス(2,2−ジ置換−プロピレン)アセタールへと誘導し、該アセタールを核水素化して本願多環式アセタールを得る製造方法であってもよい。
ここで、2,2−ジ置換−1,3−プロパンジオールは1種または2種を用いてよい。
【0030】
【化12】
ただし、式(9)の原料であるジアルキル置換プロピレングリコール2種は同一でも異なっていてもよく、またR
5〜R
8はそれぞれ独立に、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基を表す。
また、原料のテレフタアルデヒドまたはイソフタルアルデヒド中のアルデヒド基はそれぞれベンゼン環中1,4位または1,3に結合し、脱水環化後および水素化還元後もベンゼン環中の置換位置は維持される。
【0031】
上記一般式(2)で表される多環式アセタールを製造する場合に採用できる2,2−ジ置換−1,3−プロパンジオールとしては、例えば下記のA群から選ばれる化合物が挙げられる。
ここに挙げるA群から選ばれる化合物は、シクロヘキサン−1,4−ジカルボアルデヒド、シクロヘキサン−1,3−ジカルボアルデヒドと反応させる場合のみならず、テレフタルアルデヒド及びイソフタルアルデヒドと反応させて、それぞれテレフタルアルデヒド ビス(2,2−ジ置換−プロピレン)アセタール及びイソフタルアルデヒド ビス(2,2−ジ置換−プロピレン)アセタールを製造する場合にも採用される。
【0032】
[A群]
2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、
2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、
2−メチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、
2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、
2−メチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、
2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、
2−プロピル−2−ペンチル−1,3−プロパンジオール、
2−メチル−2−ヘキシル−1,3−プロパンジオール。
1、3−プロパンジオールの2位の炭素原子に結合した置換基が一般式(2)におけるR
5、R
6、R
7及びR
8に該当する。
【0033】
上記一般式(2)のR
5、R
6、R
7及びR
8としては、例えば、それぞれ独立してメチル基、エチル基、n−プロピル基、1−メチルエチル基(イソプロピル基)、n−ブチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基(tert−ブチル基)、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基(ネオペンチル基)、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,2,2−トリメチルプロピル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、及び1−エチル−2−メチルプロピル基が挙げられる。
【0034】
これらの中では、R
5、R
6、R
7及びR
8がそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、n−プロピル基又は1−メチルエチル基(イソプロピル基)、n−ブチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基(tert−ブチル基)であると好ましい。R
5、R
6、R
7及びR
8がそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、n−プロピル基又はn−ブチル基であると、より好ましい。R
5、R
6、R
7及びR
8が全てメチル基であると一層好ましい。
【0035】
本実施形態に用いられる多環式アセタールは上記一般式(2)で表される化合物であれば特に制限はなく、上記一般式(2)は中央のシクロヘキサン環に対して1,4−異性体のみまたは1,3−異性体の1種のみで用いてもよいし、該異性体2種を任意の割合で混合したものであってもよい。
更に、上記一般式(2)は、R
5、R
6、R
7及びR
8のアルキル基の組み合わせの異なる2つ以上の混合物であっても良い。2つ以上の混合物の場合、その混合比率に特に制限はない。
【0036】
<水素化触媒>
I.特定金属成分
本実施形態において用いられる水素化触媒の有効成分としては、接触水素化能を有する金属元素(以下、「特定金属成分」という。)が挙げられる。特定金属成分としては、例えば、ニッケル、コバルト、鉄、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、イリジウム、銅、銀、モリブデン、タングステン、クロム及びレニウムが挙げられる。特定金属成分は、水素化能を示すのであれば、金属の状態であっても、陽イオンの状態であってもよい。これらの中では、一般的には、金属状態の方が、水素化能が強く、還元雰囲気下で安定であるため、金属の状態であることが好ましい。特定金属成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて、固体触媒に含有された状態で用いることができる。特定金属成分を2種以上用いる場合、それらの組み合わせ、混合比率及び形態について特に制限はなく、個々の金属の混合物、あるいは、合金又は金属間化合物のような形態で用いることができる。
本実施形態において、水素化触媒は、特定金属成分としてパラジウム、白金、ニッケル及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む固体触媒であると好ましく、特に好ましくはパラジウムを含む固体触媒である。
【0037】
これらの特定金属成分の原料に特に制限はなく、従来公知の方法により触媒を調製する際に原料として用いられるものを採用できる。そのような原料としては、例えば、それぞれの金属元素の水酸化物、酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、アンミン錯体及びカルボニル錯体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0038】
本実施形態の水素化触媒は、金属成分として特定金属成分を単独で又は接触水素化能を有しない金属と組み合わせて用いることもできる。特定金属成分を単独で用いる例としては、特定金属成分の金属微粉末で構成されるパラジウムブラック及び白金ブラックのような触媒、特定金属成分および接触水素化能を有しない金属を組み合わせた例としては、特定金属成分とアルミニウムと少量の添加物とから合金を形成し、その後にアルミニウムの全部又は一部をリーチングさせることにより調製されるスポンジ触媒などが挙げられる。
【0039】
II.特定添加成分
また、触媒の活性、選択性及び物性等を一層向上させるために、アルカリ金属元素としてリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウム、アルカリ土類金属元素としてマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム、ハロゲン元素としてフッ素、塩素、臭素及びヨウ素、補助添加元素として水銀、鉛、ビスマス、錫、テルル及びアンチモンからなる群よりそれぞれ選ばれる1種又は2種以上の元素の化合物(以下、特定添加成分と略す。)を、前述の特定金属成分と共に触媒に添加して用いることもできる。
【0040】
これらの特定添加成分の原料に特に制限はなく、従来公知の方法により触媒を調製する際に原料として用いられたものを採用できる。そのような原料としては、例えば、それぞれの金属元素の水酸化物、酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩及びアンミン錯体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、特定添加成分の添加方法、及び特定添加成分と特定金属成分との比率についても特に制限はない。
【0041】
III.特定非金属成分
本実施形態の水素化触媒において、特定金属成分に非金属物質を組み合わせて用いることもできる。非金属物質としては、例えば、主に、元素単体、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩及びリン酸塩が挙げられる(以下、該非金属物質を「特定非金属成分」という。)。その具体例としては、例えば、グラファイト、ダイアモンド、活性炭、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化ホウ素、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ニオブ、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化クロム、アルミノシリケート、アルミノシリコホスフェート、アルミノホスフェート、ボロホスフェート、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸ストロンチウム、水酸化アパタイト(ヒドロキシリン酸カルシウム)、塩化アパタイト、フッ化アパタイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム及び炭酸バリウムが挙げられる。特定非金属成分は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。2種以上を組み合わせて用いる場合の組み合わせや混合比率、形態については特に制限はなく、個々の化合物の混合物、複合化合物、又は複塩のような形態で用いることができる。
【0042】
工業的に用いる観点から、簡便で廉価に得られる特定非金属成分が好ましい。そのような特定非金属成分として好ましいのは、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物及びアパタイト化合物であり、より好ましくはジルコニウム化合物及びアパタイト化合物(ヒドロキシリン酸カルシウムなど)である。それらの中でも特に好ましいものは、酸化ジルコニウムである。さらには、上述の特定添加成分を用いて、これらの特定非金属成分の一部又は全部を、修飾したりイオン交換したりしたものも用いることができる。
【0043】
また、特定非金属成分として、特定金属成分の炭化物、窒化物及び酸化物なども用いることが可能である。ただし、これらを水素還元雰囲気下に晒すと、一部が金属にまで還元されるため、このような場合には、一部が特定金属成分として、残りが非金属成分として用いられることになる。このような場合の例としては、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化コバルト、酸化モリブデン、酸化タングステン及び酸化クロムなどの酸化物が挙げられる。
【0044】
IV.水素化触媒
本実施形態の水素化触媒として、特定金属成分を単独で用いてもよく、特定金属成分と特定非金属成分とを組み合わせて用いてもよく、場合によっては、これらに加えて特定添加成分を含んでもよい。本実施形態の水素化触媒の製造方法は特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。その例として、特定金属成分の原料化合物を、特定非金属成分上に含浸する方法(担持法)、特定金属成分の原料化合物と特定非金属成分の原料化合物とを適当な溶媒に共に溶解させた後にアルカリ化合物などを用いて同時に析出させる方法(共沈法)、特定金属成分の原料化合物と特定非金属成分を適当な比率で混合均一化する方法(混練法)などが挙げられる。
【0045】
水素化触媒の組成又は触媒調製法の都合によっては、特定金属成分を陽イオンの状態で調製した後に還元処理して、金属の状態とすることもできる。そのための還元方法及び還元剤としては、従来公知のものを用いることができ、特に制限はない。還元剤としては、例えば、水素ガス、一酸化炭素ガス、アンモニア、ヒドラジン、ホスフィン及びシランのような還元性無機ガス、メタノール、ホルムアルデヒド及びギ酸のような低級含酸素化合物、水素化ホウ素ナトリウム及び水素化リチウムアルミニウムのような水素化物が挙げられる。これらの還元剤が存在する気相中又は液相中で、陽イオンの状態の特定金属成分を還元処理することにより、特定金属成分は金属の状態に変換される。この時の還元処理条件は、特定金属成分及び還元剤の種類や分量などにより、好適な条件に設定することができる。この還元処理の操作は、本実施形態の製造方法における水素化還元の前に、別途、触媒還元装置を用いて行ってもよく、本実施形態の製造方法に用いる反応器中で反応開始前又は反応操作と同時に行ってもよい。
【0046】
また、本実施形態の水素化触媒の金属含有量及び形状にも特に制限はない。その形状は粉末状であっても成形したものであってもよく、成形した場合の形状及び成形法についても特に制限はない。例えば、球状品、打錠成形品及び押出成型品、並びにそれらを適当な大きさに破砕した形状を、適宜選択して用いることができる。
【0047】
特に好ましい特定金属成分はパラジウムであり、これを用いた触媒について以下に詳細に述べる。特定金属成分がパラジウムである場合、パラジウムが貴金属であることを考慮すると、その使用量は少なく、かつパラジウムが有効に利用されることが経済的に望まれる。そのため、パラジウムを触媒担体に分散させて担持して用いることが好ましい。
【0048】
パラジウムの原料となるパラジウム化合物としては、水又は有機溶媒に可溶なパラジウム化合物が好適である。そのようなパラジウム化合物としては、例えば、塩化パラジウム、テトラクロロパラジウム塩、テトラアンミンパラジウム塩、硝酸パラジウム及び酢酸パラジウムが挙げられる。これらの中では、水又は有機溶媒に対する溶解度が高く、工業的に利用しやすいので、塩化パラジウムが好ましい。塩化パラジウムは、塩化ナトリウム水溶液、希塩酸またはアンモニア水等に溶解して用いることができる。
【0049】
パラジウム化合物の溶液を触媒担体に添加するか、あるいは、触媒担体をパラジウム化合物の溶液に浸漬するなどして、触媒担体上にパラジウム又はパラジウム化合物を固定化する。固定化の方法は担体への吸着、溶媒留去による晶析、パラジウム化合物と作用する還元性物質及び/又は塩基性物質を用いた析出沈着のような方法が一般的であり、適宜好適な方法が用いられる。このような方法により調製される水素化触媒におけるパラジウムの含有量は、金属パラジウム換算で、水素化触媒の全量に対して0.01〜20質量%であると好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%であり、更に好ましくは0.5〜5質量%である。パラジウムの含有量が0.01質量%以上であることにより、より十分な水素化速度が得られ、多環式アセタールの転化率が更に高くなる。一方、パラジウムの含有量が20質量%以下であると、パラジウムの水素化触媒における分散効率が更に高くなるので、より有効にパラジウムを用いることができる。
【0050】
パラジウム化合物や触媒調製法の都合によっては、パラジウムは金属の状態ではなく、陽イオンの状態で担体に担持される場合がある。その場合、担持された陽イオンのパラジウム(例えば、パラジウム化合物の状態で存在)を金属パラジウムへ還元してから用いることもできる。そのための還元方法及び還元剤は、従来公知のものを採用することができ、特に制限はない。還元剤としては、例えば、水素ガス、一酸化炭素ガス、アンモニア及びヒドラジンのような還元性無機ガス、メタノール、ホルムアルデヒド及びギ酸のような低級含酸素化合物、エチレン、プロピレン、ベンゼン及びトルエンのような炭化水素化合物、水素化ホウ素ナトリウム及び水素化リチウムアルミニウムのような水素化物が挙げられる。陽イオンのパラジウムを還元剤と気相中又は液相中で接触させることにより、容易に金属パラジウムに還元することができる。この時の還元処理条件は、還元剤の種類及び分量などにより好適な条件に設定することができる。この還元処理の操作は、本実施形態の製造方法における水素化還元の前に、別途、触媒還元装置を用いて行ってもよく、本実施形態の製造方法に用いる反応器中で反応開始前又は反応操作と同時に行ってもよい。
【0051】
本発明の特定金属成分と共に用いられる特定非金属成分として、好ましいものの1種はジルコニウム化合物であり、これを含む水素化触媒について、以下に詳細に述べる。本実施形態に用いられるジルコニウム化合物は、好ましくは、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、ジルコン酸アルカリ土類塩、ジルコン酸希土類塩及びジルコンからなる群より選ばれる1種を単独で又は2種以上を組み合わせたものである。
【0052】
特に好ましいジルコニウム化合物は酸化ジルコニウムであり、その製法に特に制限はない。例えば、一般的な方法として知られているのは、可溶性ジルコニウム塩の水溶液を塩基性物質で分解して、水酸化ジルコニウム又は炭酸ジルコニウムとし、その後に熱分解するなどして調製する方法である。このときのジルコニウム化合物の原料に制限はなく、例えば、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラアルコキシド、酢酸ジルコニウム及びジルコニウムアセチルアセトナートが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、分解のために用いられる塩基性物質としては、例えば、アンモニア、アルキルアミン類、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化マグネシム、水酸化カルシウム、水酸化ランタン、水酸化イットリウム及び水酸化セリウムが挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0053】
特定非金属成分として酸化ジルコニウムを用いる場合、その物性や形状などに特に制限はない。また、酸化ジルコニウムの純度にも、特に制限はなく、市販されている汎用から高純度品のレベルの純度のものを、適宜用いることができる。
【0054】
ジルコニウム化合物に代表される特定非金属成分を触媒担体として用いる際、これらの担体の形状や粒径、気孔率などの物性値や金属成分を担持する方法などについても、特に制限はない。反応方式や条件に好適な形状、担体物性、担持方法などを適宜選択して用いることができる。また、これらを触媒担体として用いる時のBET比表面積にも特に制限はなく、0.1〜400m
2/g程度の一般的な比表面積のものを用いることができるが、1〜300m
2/gのものが好ましく、10〜200m
2/gのものがより好ましい。
【0055】
<水素化還元反応>
本実施形態の水素化還元に用いられる溶媒については、原料である多環式アセタールのみを用い無溶媒の環境下で反応を行ってもよく、反応溶媒を用いてもよい。反応溶媒を用いる場合、水素化還元に不活性な状態であれば、その種類や濃度に特に制限はない。ただし、多環式アセタールよりも水素化触媒における特定金属成分と強く相互作用するような反応溶媒を用いると、極端に反応速度が低下したり、反応が停止したりすることがある。このような観点から、例えば、リン、窒素、硫黄を含有する化合物は、反応溶媒として用いない方が好ましいが、反応速度に大きく影響を与えない程度の微量であれば、用いてもよい。反応溶媒として好ましいのは、飽和炭化水素、エステル化合物及びエーテル化合物であり、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0056】
反応溶媒としては、例えば、飽和炭化水素として、n−ペンタン、iso−ペンタン、n−ヘキサン、iso−ヘキサン、2,2−ジメチル−ブタン、n−ヘプタン、iso−ヘプタン、2,2,4−トリメチルペンタン、n−オクタン、iso−オクタン、n−ノナン及びiso−ノナンやその異性体、n−デカン、n−ペンタデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンやその異性体、およびデカリン、エステル化合物として、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、n−酪酸メチル、n−酪酸エチル、n−酪酸ブチル、i−酪酸メチル、n−酪酸シクロヘキシル、i−酪酸シクロヘキシル及び吉草酸メチル並びにそれらエステル化合物の異性体、エーテル化合物として、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジn−プロピルエーテル、ジiso−プロプルエーテル、ジn−ブチルエーテル、ジiso−ブチルエーテル、ジsec−ブチルエーテル、メチルプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、メチルブチルエーテル、メチルペンチルエーテル、エチルブチルエーテル、プロピルブチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、エチルシクロペンチルエーテル、エチルシクロヘキシルエーテル、プロピルシクロペンチルエーテル、プロピルシクロヘキシルエーテル、ブチルシクロペンチルエーテル、ブチルシクロヘキシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、メチルテトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン及びジメチル−1,4−ジオキサン並びにそれらのエーテル化合物の異性体類が挙げられる。なお、本明細書において、反応溶媒としての飽和炭化水素化合物には、直鎖の、分岐した、及び環状のアルカンが包含される。
【0057】
これらの中で、n−ペンタン、iso−ペンタン、n−ヘキサン、iso−ヘキサン、2,2−ジメチル−ブタン、n−ヘプタン、iso−ヘプタン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジn−プロピルエーテル、ジiso−プロピルエーテル、ジn−ブチルエーテル、ジiso−ブチルエーテル、ジsec−ブチルエーテル、メチルプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、メチルテトラヒドロピラン及び1,4−ジオキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ジiso−プロピルエーテル、1,4−ジオキサン及びノルマルヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0058】
本発明の方法において分子内に水酸基を持つアルコール化合物を反応溶媒に用いると、アルコールの水素化分解などの副反応の影響によると考えられる反応阻害効果により目的の水素化還元反応の速度が大きく損なわれるために好ましくなく、原料や溶媒中の不純物として持ち込まれる微量のアルコールを除き、本発明の反応は非アルコール溶媒下で行われることが好ましい。
【0059】
本実施形態における水素化還元の反応系は、多環式アセタール又はそれと反応溶媒とを含む液相、水素ガスの気相、及び水素化触媒の固相から形成され、これらが共存して行われる反応形式であれば特に制限はない。本実施形態の水素化還元における反応容器のタイプは、管型、槽型、釜型などの従来公知の形式を用いることができる。また、原料組成物の供給方法は、流通方式及び回分方式のいずれであってもよい。水素化触媒は、固定床、流動床及び懸濁床など従来公知の方式を採用することができ、特に制限はない。固定床流通方式の場合、灌液流状態及び気泡流状態でも反応を行うことができる。原料液の流通方向は、重力方向へ流通するダウンフロー、それとは逆方法へ流通するアップフローのいずれであってもよく、原料ガスの供給方向も原料液に対して並流、向流のいずれであってもよい。
【0060】
本実施形態の水素化還元における反応温度は、50〜350℃が好ましく、より好ましくは100〜300℃、更に好ましくは150〜280℃である。反応温度が50℃以上であると、より高い水素化速度が得られやすくなり、350℃以下であると、原料の分解を伴う副反応をより抑制でき、目的物の収量を更に高めることができる傾向がある。
【0061】
本実施形態の水素化還元における反応圧力は、好ましくは0.1〜30MPaであり、より好ましくは2〜15MPaである。反応圧力が0.1MPa以上であることにより、より高い水素化速度が得られやすくなり、多環式アセタールの転化率が向上する傾向があり、30MPa以下であると、反応設備コストをより低く抑えることができ、経済的に好ましい傾向がある。
【0062】
本実施形態の水素化還元に用いられる水素ガスは、特に高純度に精製されたものでなくてもよく、通常、工業的な水素化反応に用いられている品質であってもよい。また、水素化反応が水素分圧に依存して促進されるため、用いられる水素ガスの純度は高い方が好ましいが、水素ガスをヘリウム、アルゴン、窒素及びメタン等の反応に不活性なガスと混合してもよい。反応系内における多環式アセタールに対する水素ガスの比率は、回分反応の場合、多環式アセタールに対する水素ガスの仕込みモル比として、流通反応の場合、多環式アセタールに対する水素ガスのモル換算の供給速度比として表すと、好ましくは0.1〜300、より好ましくは0.5〜100である。水素ガスの仕込みモル比またはモル換算の供給速度比が0.1以上であると、水素化反応がより促進される傾向があり、水素ガスの仕込みモル比またはモル換算の供給速度比が300以下であると、過剰な水素ガスを循環利用させるための設備コストをより低く抑えることができる傾向がある。
【0063】
<反応中間体>
発明者らは上述の多環式アセタールの水素化還元によりポリエーテルジオールを得る反応について検討する過程で、水素化還元反応の反応速度が充分であれば2つのアセタール環は殆ど同時に水素化還元されて目的のポリエーテルジオールを与える一方で、反応温度が低いなどの反応速度が遅い条件下では、一方のアセタール環のみが還元されたモノエーテルモノアルコール化合物(以下、「中間体」という。)が生成物中に認められ、そのまま反応時間を伸ばすなどして、反応を継続すると中間体も還元されて目的のポリエーテルジオールへと転化し、中間体の残存量は痕跡程度となる現象を認めている。これは中間体もまた、本発明のポリエーテルジオールの原料となり得ることを示唆するものである。すなわち、中間体が比較的多く生成した場合などには、従来公知な方法によって回収した後に、中間体単独あるいは別の多環式アセタールと混合した後に本実施形態によって水素化還元してポリエーテルジオールへ転化するなどしてもよい。
【0064】
<ポリエーテルジオールの製造プロセス>
一般式(3)の化合物の製造方法としては限定されるものではないが、以下の工程(a)〜(c)からなる製造方法も挙げられる。
【0065】
工程(a);段落0032記載のA群から選ばれる2,2−ジ置換−1,3−プロパンジオールと、テレフタルアルデヒドおよびイソフタルアルデヒドから選ばれる少なくとも1つとを脱水環化して、下記一般式(6)で表されるアセタール化合物を製造する工程、
工程(b);下記一般式(6)で表されるアセタール化合物の芳香環のみを水素化還元することにより、前記一般式(2)で表される多環式アセタールを製造する工程、
工程(c);式(2)で表される多環式アセタールを本実施形態の水素化触媒の存在下に水素化還元することにより、上記一般式(3)で表されるポリエーテルジオールを製造する工程。
これらの(a)〜(c)工程群を連続して行うことにより、一般式(3)の化合物を製造することができる。
【化13】
ただし、ここで式(6)において、R
5,R
6,R
7及びR
8は、それぞれ式(2)と同じ。
【0066】
工程(a)の反応スキームを反応式(10)に示した。
【化14】
ただし、式(10)の原料の一つであるジアルキル置換プロピレングリコール2種は同一でも異なっていてもよく、またR
5〜R
8はそれぞれ独立に、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基を表す。
また、原料のもう1つであるテレフタアルデヒドまたはイソフタルアルデヒド中のアルデヒド基はベンゼン環中1,4位または1,3に結合し、脱水環化後に得られた式(6)化合物中の複素環基はそれぞれベンゼン環中の1,4位または1,3に結合する。
【0067】
工程(a)は上記のA群から選ばれる2,2−ジ置換−1,3−プロパンジオールとテレフタルアルデヒド及びイソフタルアルデヒドから選ばれる少なくとも1つとを脱水環化して、上記一般式(6)で表されるアセタール化合物を製造する工程であって、この時の脱水環化方法としては従来公知な方法を用いることができる。例えば塩酸,硫酸のような無機酸、パラトルエンスルホン酸のような有機スルホン酸、酸性イオン交換樹脂並びにシリカーアルミナ及びアルミノシリケートのような固体酸触媒などから選ばれる少なくとも1つの従来公知な触媒を用い、0〜200℃程度の反応温度で、無溶媒または任意の有機溶媒の存在下に反応を行う。副生する水を抜き出した方が好ましく、水単独で抜き出す方法や有機溶媒と共に共沸させて抜き出す方法などを用いることができる。反応によって生成した上記一般式(6)で表される化合物は再結晶、抽出、蒸留などの従来公知な方法により単離することができる。
工程(a)ではテレフタルアルデヒドを出発物質として式(6)中の1,4−体化合物が得られ、イソフタルアルデヒドを出発物質として式(6)中の1,3−体化合物が得られる。
【0068】
工程(b)の反応スキームを反応式(11)に示した。
【化15】
ただし式(11)中でR
5〜R
8は、それぞれ式(10)と同じ。
【0069】
工程(b)は上記一般式(6)で表されるアセタール化合物の芳香環のみを水素化還元することにより、上記一般式(2)で表される多環式アセタールを製造する工程であって、この時の芳香環の水素化還元方法としては、従来公知な方法として例えばルテニウム、ロジウム、パラジウム及びニッケル等から選ばれる少なくとも1つの金属触媒を用いた水素化還元法であってよい。発明者らの検討ではルテニウム及びロジウムから選ばれる少なくとも1つと、これらを他の金属成分で修飾した金属種を含む触媒の存在下に0〜120℃以下の低温度で水素化することで、ほぼ定量的に芳香環のみが水素化されることを見出した。
【0070】
反応によって生成した上記一般式(2)で表される化合物は再結晶、抽出、蒸留などの従来公知な方法により単離することができるが、反応の選択性が高いために濾過による触媒分離のみ、或いは更に加えて反応溶媒の留去のみの極めて簡便な処理だけで次工程に用いることも可能であり、工業的な効果は大きい。
工程(b)では式(6)の化合物を出発物質として式(2)の化合物が得られる。
【0071】
工程(c)の反応スキームを反応式(12)に示した。
【化16】
ただし式(12)中でR
5〜R
8は、それぞれ式(10)と同じ。
また、式(12)において、中央のシクロヘキサン骨格が有す2つの複素環基が1、4位にあれば、水素化還元で得られる式(3)でも中央のシクロヘキサン骨格が有す2つの3−ヒドロキシ−2,2−ジアルキルプロポキシメチル基は1、4位になり、中央のシクロヘキサン骨格が有す2つの複素環基が1、3位にあれば、水素化還元で得られる式(3)でも中央のシクロヘキサン骨格が有す2つの3−ヒドロキシ−2,2−ジアルキルプロポキシメチル基は1、3位になる。
【0072】
工程(c)は上記一般式(2)で表される多環式アセタールを本実施形態の水素化触媒の存在下に水素化還元することにより、上記一般式(3)で表されるポリエーテルジオールを製造する工程であって、この時の水素化還元方法としては、本実施形態として段落0036〜0063記載の水素化触媒を用いた水素ガスによる水素化還元法が用いられる。得られた上記一般式(3)で表される化合物は再結晶、抽出及び蒸留などから選ばれる少なくとも1つの従来公知な方法により単離することができる。例えば幾何異性体(以下でcis/trans異性体と記載することがある)の混合物として上記一般式(3)で表される化合物が得られた場合には、再結晶によりそれぞれの幾何異性体を単離することができる。また、用途によっては、再結晶による各幾何異性体分離に手間をかけず幾何異性体の混合物のまま用いることもできる。
工程(c)では式(2)の化合物中1,4−異性体を出発物質とした場合には式(3)で1,4−異性体の化合物が得られ、式(2)の化合物中1,3−異性体を出発物質とした場合には式(3)で1,3−異性体の化合物が得られる。
【0073】
一般式(3)の化合物の製造方法としては、上記の工程(a)〜(c)を順次逐次的に行う製造方法以外に、上記の工程(b)、(c)を同時に行う製造方法(下記、反応式(13)に示す。)や、上記の工程(a)の後にアセタール環の水素化分解を先に行い、後に芳香環を水素化する方法(下記、反応式(14)に示す。)も可能である。
【化17】
【化18】
【0074】
しかしながら、本発明者らの検討では、ニッケル、パラジウム、ルテニウム、ロジウムのような一般的な水素化反応のための金属触媒を用いた場合には、アセタール環が開環する水素化反応速度よりも、脱ベンジル化により分解を伴う好ましくない水素化反応速度の方が極めて早いために、芳香環が存在したままアセタール環の水素化反応を行うと、脱ベンジル化した分解生成物が相当量副生し、目的の一般式(3)の化合物を高い収量で得られないことを確認している。
【0075】
このような観点から反応式(13)及び反応式(14)の反応スキームも製造法として可能ではあるものの、上記の工程(a)〜(c)を順次逐次的に行う製造方法に比べて不利である。よって、先に低温度で芳香環を水素化し、後にアセタール環を水素化することで高い収量で目的のポリエーテルジオールを得ることができる、上記の工程(a)〜(c)を順次逐次的に行う製造方法が最も好ましい。
【実施例】
【0076】
以下に、本発明の製造方法について、実施例及び比較例を挙げて、更に具体的に説明するが、本発明は要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
水素化還元の反応成績の評価は、ガスクロマトグラフ分析による仕込原料、並びに反応液中の原料、及び生成したポリエーテルジオールのモル数を基準として評価した。
原料(多環式アセタール)の転化率(%)=
100×[1−(反応液に残存する原料のモル数)/(仕込原料のモル数)]
生成ポリエーテルジオールの選択率(%)=
100×(目的とする生成物のモル数)/[(仕込原料のモル数)−(反応液に残存す
る原料のモル数)]
ただし、原料の多環式アセタール、及び生成したポリエーテルジオールに幾何異性体が存在する場合、それらの異性体を合算した値を用いた。
【0078】
ガスクロマトグラフの測定には以下の機器を用いた。
装置:GC−2010 島津製作所製 製品名
カラム:DB−1 アジレント・テクノロジー社製 製品名
【0079】
生成物の幾何異性体の同定は
1H−NMR測定及び
13C−NMR測定によって行った。測定条件を下記に示す。
装置:ECA500 日本電子株式会社製 製品名
1H−NMR
核種:
1H
測定周波数:500MHz
13C−NMR
核種:
13C
測定周波数:125MHz
【0080】
反応原料の前駆体である上記一般式(6)の環状アセタールは以下の方法により調製した。
【0081】
<参考調製例1>
(イソフタルアルデヒド ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタールの調製)
2,2−ジメチル−プロパン−1,3−ジオール(和光純薬工業試薬)53.2gと、イソフタルアルデヒド(東京化成工業試薬)33.6gと、ベンゼン170.8gと、粒状ナフィオン(商品名「NR−50」、シグマアルドリッチ社試薬)1.8gを300ミリリットルの丸底フラスコに収容し、常圧下で生成する水をベンゼンと共沸させながらディーン・スターク・トラップを用いて系外へ抜き出して、水の留出が止まるまで反応させた。これを濾過したのちに濃縮及び冷却することにより再結晶させて、イソフタルアルデヒド ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタールを61.4g単離した。下記に、この合成反応スキームを示す。
【0082】
【化19】
参考調製例1の環状アセタールの合成反応
【0083】
単離した化合物のNMR分析によって同構造を確認した
1H NMR (500 MHz, CDCl
3)
d 0.79, 1.28 (6H x 2, s x 2, C
H3C x 4), 3.63, 3.76 (4H x 2, d x 2, -C
H2-O-C- x 4), 5.40 (2H, s, acetal), 7.38 (1H, dd, Ph), 7.50 (2H, dd, Ph), 7.61-7.63 (1H, m, Ph).
13C NMR (125 MHz, CDCl
3)
d 21.9, 23.1, 30.2, 77.6, 101.5, 124.0, 126.4, 128.3, 138.5.
【0084】
同様に反応原料の前駆体である上記一般式(6)で表される環状アセタールの別1種を以下の方法により調製した。
【0085】
<参考調製例2>
(テレフタルアルデヒド ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタールの調製)
2,2−ジメチル−プロパン−1,3−ジオール(和光純薬工業試薬)56.0gと、テレフタルアルデヒド(東京化成工業試薬)35.6gと、ベンゼン159.4gと、粒状ナフィオン(商品名「NR−50」、シグマアルドリッチ社試薬)2.5gを300ミリリットルの丸底フラスコに収容し、常圧下で生成する水をベンゼンと共沸させながらディーン・スターク・トラップを用いて系外へ抜き出して、水の留出が止まるまで反応させた。これを濾過したのちに濃縮及び冷却することにより再結晶させて、テレフタルアルデヒド ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタールを76.5g単離した。下記に、この合成反応スキームを示す。
【0086】
【化20】
参考調製例2の環状アセタールの合成反応
【0087】
単離した化合物のNMR分析によって同構造を確認した
1H NMR (500 MHz, CDCl
3)
δ 0.79, 1.27 (6H x 2, s x 2, C
H3C x 4), 3.63, 3.75 (4H x 2, d x 2, -C
H2-O-C- x 4), 5.39 (2H, s, acetal), 7.50 (4H, s, Ph).
13C NMR (125 MHz, CDCl
3)
δ 21.9, 23.0, 30.2, 77.6, 101.4, 126.0, 139.0.
【0088】
反応原料である上記一般式(2)の多環式アセタールは以下の方法により調製した。
【0089】
<原料調製例1>
(シクロヘキサン−1,3−ジカルボアルデヒド ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタールの調製)
500mLのSUS製反応器内に、5%ルテニウム担持活性炭触媒(エヌ・イー・ケムキャット製粉末)3.82g、参考調製例1で調製したイソフタルアルデヒド ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタール 23.2g、及びノルマルヘキサン145.3gを収容し、反応器内を窒素ガスで置換した。その後、反応器内に水素ガスを8.0MPa充填し、反応温度である50℃へ昇温して8時間反応させた。その後に冷却して反応器の内容物を回収し、ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、原料の転化率は100%であり、生成物のシクロヘキサン−1,3−ジカルボアルデヒド ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタールへの選択率(幾何異性体の合計)は99.6%であった。この時、2つの幾何異性体が生成し、その比率はGC分析より83/17であった。反応選択性が高かったため、触媒を濾過して除去し、ノルマルヘキサンを留去するだけで上記一般式(2)の多環式アセタール化合物を得ることができた。下記に、この合成反応スキームを示す。
【0090】
【化21】
原料調製例1の多環式アセタールの合成反応
【0091】
反応原料である上記一般式(2)の他の多環式アセタールは以下の方法により調製した。
【0092】
<原料調製例2>
(シクロヘキサン−1,4−ジカルボアルデヒド ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタールの調製)
500mLのSUS製反応器内に、5%ルテニウム担持活性炭触媒(エヌ・イー・ケムキャット製粉末)2.70g、参考調製例2で調製したテレフタルアルデヒド ビス(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)アセタール 21.1g、及びノルマルヘキサン115.1gを収容し、反応器内を窒素ガスで置換した。その後、反応器内に水素ガスを8.0MPa充填し、反応温度である60℃へ昇温して9時間反応させた。その後に冷却して反応器の内容物を回収し、ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、原料の転化率は100%であり、生成物のシクロヘキサン−1,4−ジカルボアルデヒド−ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタールへの選択率(幾何異性体の合計)は99.5%であった。この時、2つの幾何異性体が生成し、その比率はGC分析より84/16であった。反応選択性が高かったため、触媒を濾過して除去し、ノルマルヘキサンを留去するだけで上記一般式(2)の多環式アセタール化合物を得ることができた。下記に、この合成反応スキームを示す。
【0093】
【化22】
原料調製例2の多環式アセタールの合成反応
【0094】
<担体調製例1>
金属成分の担体として用いた酸化ジルコニウムを下記の方法で調製した。
酸化ジルコニウム(ZrO
2)換算で25質量%の濃度のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液505gに、撹拌しながら28%アンモニア水15.5gを滴下することにより白色沈殿物を得た。これを濾過し、イオン交換水で洗浄した後に、110℃、10時間乾燥して含水酸化ジルコニウムを得た。これを磁製坩堝に収容し、電気炉を用いて空気中で400℃、3時間の焼成処理を行った後、メノウ乳鉢で粉砕して粉末状酸化ジルコニウム(以下、「担体A」と表記する。)を得た。担体AのBET比表面積を窒素吸着法により測定した(以下同様)。102.7m
2/gであった。
【0095】
<触媒調製例1>
パラジウムを特定金属成分とする触媒を下記の方法で調製した。
5.0gの担体Aに0.66質量%塩化パラジウム−0.44質量%塩化ナトリウム水溶液を添加し、担体上に金属成分を吸着させた。そこにホルムアルデヒド−水酸化ナトリウム水溶液を注加して吸着した金属成分を瞬時に還元した。その後、イオン交換水により触媒を洗浄し、乾燥することにより1.0質量%パラジウム担持酸化ジルコニウム触媒(以下、「A1触媒」と表記する。)を調製した。
【0096】
水素化還元反応は以下の方法で実施した。
【0097】
<実施例1>
100mLのSUS製反応器内に、A1触媒0.80g、原料調製例1で調製したシクロヘキサン−1,3−ジカルボアルデヒド ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタール 3.16g、及び1,4−ジオキサン24.9gを収容し、反応器内を窒素ガスで置換した。その後、反応器内に水素ガスを8.5MPa充填し、反応温度である230℃へ昇温して3.5時間反応させた。その後に冷却して反応器の内容物を回収し、ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、シクロヘキサン−1,3−ジカルボアルデヒド ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタールの転化率は100%であり、生成物の1,3−ビス−[(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)メチル]シクロヘキサンへの選択率(幾何異性体の合計)は88.0%であった。この時、2つの幾何異性体が生成した。なお、その幾何異性体の比率はGC分析ではピークが分離せずに求めることができなかった。下記に実施例1における反応スキームを示す。
【0098】
【化23】
実施例1の多環式アセタールの水素化還元反応
【0099】
再結晶法によって2つの幾何異性体の中の優位生成物の単独結晶と、優位生成物と劣位生成物の混合結晶(優位生成物質量/劣位生成物質量=3.3/1)を得た。これらのNMR分析によって優位生成物および劣位生成物それぞれの立体構造を同定した。
【0100】
(1,3−ビス−[(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)メチル]シクロヘキサンのNMRデータ
優位生成物(major)は単離された結晶を用いて帰属した。劣位生成物(minor)は質量比major : minor =3.3 : 1の混合結晶および上記majorのNMRチャートから帰属した。
幾何異性についてはH-H COSY, C-H COSY, NOE差測定および既知の1,3-ジメチルシクロヘキサン(cis、trans)および1,3-シクロヘキサンジオール(cis、trans)の帰属を参考に決定した。
(major, cis体)
1H NMR (500 MHz, CDCl
3) d0.63 (1H, dd,
H1) 0.86 (2H, ddd,
H4) 0.91 (6H x 2, s x 2,
CH3C x 4)1.27 (1H, ddt,
H6) 1.55-1.69 (2H, m,
H3), 1.69-1.83 (4H, m,
H2 &H5 &H7), 3.00-3.10 (2H, bs, -OH x 2), 3.19-3.27 (4H, m, -OC
H2CH(CH
2)
2- x 2), 3.26 (4H, s, -C(CH
3)
2C
H2O- x 2), 3.45 (4H, bd, C
H2OH x 2).
13C NMR (125 MHz, CDCl
3) d 21.9, 25.2, 29.8, 33.3, 36.1, 37.5, 72.2, 77.5, 80.8.
【化24】
(minor, trans体)
1H NMR (500 MHz, CDCl
3) d0.91 (6H x 2, s x 2,
CH3C x 4)1.22-1.31 (2H, m,
H3) 1.44 (4H, m,
H1 &H5) 1.52-1.60 (2H, m,
H4) 1.85-1.93 (2H, m,
H2), 3.05-3.15 (2H, bs, -OH x 2), 3.25-3.33 (4H, m, -OC
H2CH(CH
2)
2- x 2), 3.27 (4H, s, -C(CH
3)
2C
H2O- x 2), 3.44 (4H, s, C
H2OH x 2).
13C NMR (125 MHz, CDCl
3) d 20.8, 21.8, 28.5, 30.7, 32.6, 36.0, 71.8, 75.3, 80.5.
【化25】
【0101】
<実施例2>
100mLのSUS製反応器内に、A1触媒0.60g、原料調製例1で調製したシクロヘキサン−1,3−ジカルボアルデヒド ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタール 2.11g、及びノルマルヘキサン23.8gを収容し、反応器内を窒素ガスで置換した。その後、反応器内に水素ガスを8.5MPa充填し、反応温度である210℃へ昇温して5時間反応させた。その後に冷却して反応器の内容物を回収し、ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、シクロヘキサン−1,3−ジカルボアルデヒド ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタールの転化率は100%であり、生成物の1,4−ビス−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)メチル)シクロヘキサンへの選択率(幾何異性体の合計)は75.2%であった。
【0102】
<実施例3>
100mLのSUS製反応器内に、A1触媒0.60g、原料調製例2で調製したシクロヘキサン−1,4−ジカルボアルデヒド ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタール 6.52g、及び1,4−ジオキサン26.2gを収容し、実施例1と同様の方法で反応温度230℃で7時間反応させた。その結果、シクロヘキサン−1,4−ジカルボアルデヒド ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタールの転化率は100%であり、生成物の1,4−ビス[(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)メチル]シクロヘキサンへの選択率(幾何異性体の合計)は87.1%であった。この時、2つの幾何異性体が生成し、その比率はGC分析より76/24であった。下記に実施例3における反応スキームを示す。
【0103】
【化26】
実施例3の多環式アセタールの水素化還元反応
【0104】
再結晶法によって2つの幾何異性体の中の優位生成物の単独結晶と、優位生成物と劣位生成物の混合結晶(優位生成物質量/劣位生成物質量=1/1)を得た。これらのNMR分析によって同構造を確認した。結果としてシクロヘキサン環による構造異性体として2種を確認したが、これらの立体配置の同定には至らなかった。
【0105】
(1,4−ビス−[(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)メチル]シクロヘキサンのNMRデータ
優位生成物(major)は、単離した単独結晶を用いて帰属した。劣位生成物(minor)は質量比major : minor = 1:1の混合結晶および上記Majorチャートから帰属した。
幾何異性は既知の1,4-ジメチルシクロヘキサン(cis、trans)および1,4-シクロヘキサンジオール(cis、trans)の帰属を参考に決定した。
(major, trans体)
1H NMR (500 MHz, CDCl
3) d 0.91 (6H x 2, s x 2,
CH3C x 4)0.92-0.98 (4H, m, c-Hexane (
H2),), 1.47-1.59 (2H, m, H
1x 2), 170-1.80 (4H, m, c-Hexane(
H3)), 2.93 (2H, t, -O
H), 3.22 (4H, d, -OC
H2CH(CH
2)
2- x 2), 3.27 (4H, s, -C(CH
3)
2C
H2O- x 2), , 3.44 (4H, d, C
H2OH x 2).
13C NMR (125 MHz, CDCl
3) d 21.8, 29.3, 36.1, 38.0, 72.4, 77.5, 81.0.
【化27】
(minor, cis体)
1H NMR (500 MHz, CDCl
3) d 0.92 (6H x 2, s x 2,
CH3C x 4)1.34-1.43 (4H, m, c-Hexane (
H2),), 1.45-1.54 (4H, m, c-Hexane(
H3)) 170-1.80 (2H, m, H
1 x 2), 2.93 (2H, bs, -O
H), 3.28 (4H, s, -C(CH
3)
2C
H2O- x 2), 3.31 (4H, d, -OC
H2CH(CH
2)
2- x 2), 3.44 (4H, d, C
H2OH x 2).
13C NMR (125 MHz, CDCl
3) d 21.8, 25.6, 35.3, 36.1, 72.3, 75.0, 80.9.
【化28】
【0106】
<実施例4>本願化合物の物性評価
化学物質の親油性の指標の一つに1−オクタノール/水 分配位係数が知られており、測定方法としては日本工業規格Z7260−107(2000)やOECDテストガイドライン107に定められた方法で求めることができる。一般的には値(logPow値)が大きい程、その物質は親油性であることを表す。この値は実測する以外に化合物の分子構造から推算できることも知られており、アメリカ合衆国環境保護庁では、化学物質の環境への影響を評価する目的で、“The Estimations Programs Interface for Windows(登録商標)”の名称で計算ソフトウェアを配布している。そのソフトウェアのモジュールの一つである”KOWWIN バージョン1.68(2010.09)“を用いて、上記の物質の分配係数の推算を行った。
【0107】
本願化合物の近接既知化合物として特許文献3記載の1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシメチル)シクロヘキサン及び1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシメチル)シクロヘキサン、並びに本発明の代表例として1,4−ビス−[(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)メチル]シクロヘキサン及び1,3−ビス−[(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)メチル]シクロヘキサンの親油性を評価した。
【0108】
1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシメチル)シクロヘキサン及び1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシメチル)シクロヘキサンについては化学構造をsmiles表記としてそれぞれ“OCCOCC1CCC(COCCO)CC1”、“OCCOCC1CC(COCCO)CCC1”と入力を行い、それぞれ0.94の値を得た。また、1,4−ビス−[(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)メチル]シクロヘキサン及び1,3−ビス−[(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)メチル]シクロヘキサンについても、それぞれ“OCC(C)(C)COCC1CCC(COCC(C)(C)CO)CC1”、“OCC(C)(C)COCC1CC(COCC(C)(C)CO)CCC1”と入力することで、それぞれ3.66の値を得た。この推算結果より、本発明の物質の方が親油性と考えられた。
【0109】
また、ハンセン溶解度パラメーターの物性推算プログラムである市販ソフトウェア“HSPiPバージョン4.1.07”に内蔵されたY-MB法推算モジュール(パラメーターセット2013a使用)でも、上記のsmiles式を入力することで該分配係数の推算を行った。その結果、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシメチル)シクロヘキサンは0.31、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシメチル)シクロヘキサンは0.56であった。また、1,4−ビス−[(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)メチル]シクロヘキサンは3.01、1,3−ビス−[(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)メチル]シクロヘキサンは3.28であった。
【0110】
両ソフトウェア間で推算値の絶対値に差が生じているものの、特許文献3記載の既存近接化合物よりも本発明の物質の方が親油性を示す傾向は同様であった。
【0111】
<実施例5>
100mLのSUS製反応器内に、A1触媒0.60g、参考調製例1で調製したイソフタルアルデヒド ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタール 2.80g、及びノルマルヘキサン20.9gを収容し、実施例1と同様の方法で、反応温度230℃で3時間反応させた。その結果、イソフタルアルデヒド ビス(2,2−ジメチルプロピレン)アセタールの転化率は100%であり、生成物の1,3−ビス−[(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)メチル]シクロヘキサンへの選択率(幾何異性体の合計)は38.7%であった。この時、多量の低沸点分解生成物を認めた。下記に実施例5における反応スキームを示す。
【0112】
【化29】
実施例5の環状アセタールの水素化還元反応