特許第6504088号(P6504088)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6504088
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】アクリロニトリル系繊維束の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/18 20060101AFI20190415BHJP
   D01D 5/06 20060101ALI20190415BHJP
【FI】
   D01F6/18 Z
   D01D5/06 103
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-46690(P2016-46690)
(22)【出願日】2016年3月10日
(65)【公開番号】特開2017-160564(P2017-160564A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】生田 博義
(72)【発明者】
【氏名】長坂 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】船越 祥二
(72)【発明者】
【氏名】花輪 達也
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−052129(JP,A)
【文献】 特開2007−291594(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/047437(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 − 13/02
D01F 1/00 − 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸原液を、口金から一旦空気中に押し出した後、底面に配された凝固浴液流入口から上方に凝固浴液が供給される凝固浴中に下向きに進入せしめて凝固糸条とし、口金の下方の凝固浴中に配された方向転換ガイドで凝固糸条を折り返して凝固浴外に引き出すアクリロニトリル系繊維束の製造方法であって、方向転換ガイドから口金に向かう凝固浴液の平均流速が4.0m/分以下であることを特徴とするアクリロニトリル系繊維束の製造方法。
【請求項2】
明細書で規定する、方向転換ガイドから口金に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域の面積Sが450cm以上の形状の凝固浴槽を用いる請求項1に記載のアクリロニトリル系繊維束の製造方法。
【請求項3】
方向転換ガイドから5〜200mmの位置に浴中緩衝板を有する請求項1に記載のアクリロニトリル系繊維束の製造方法。
【請求項4】
浴中緩衝板と鉛直線とが成す角が、凝固糸条が方向転換ガイドで折り返される際に成す角以上である請求項3に記載のアクリロニトリル系繊維束の製造方法。
【請求項5】
浴中緩衝板が凝固浴の壁面に接している請求項3または4に記載のアクリロニトリル系繊維束の製造方法。
【請求項6】
浴中緩衝板が開孔率5〜50%、孔径が50mm以下の多孔板である請求項3〜5のいずれかに記載のアクリロニトリル系繊維束の製造方法。
【請求項7】
明細書で規定する、方向転換ガイドから口金に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域の面積Sが350cm以上の形状の凝固浴槽を用いる請求項3〜6のいずれかに記載のアクリロニトリル系繊維束の製造方法。
【請求項8】
口金の孔数が1,000〜60,000である請求項1〜7のいずれかに記載のアクリロニトリル系繊維束の製造方法。
【請求項9】
凝固糸条を凝固浴外に引き出す速度が25〜50m/分である請求項1〜8のいずれかに記載のアクリロニトリル系繊維束の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維の製造方法に適した、安定して高品位のアクリロニトリル系繊維束を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維の前駆体繊維などとして用いられるアクリロニトリル系繊維束の製造においては、生産効率を高め、そして製造原価を低減させることが重要である。この要求に応えるため、一錘当たりの孔数を増加させた紡糸口金や、口金錘数・糸条数を増加させる方法、更には糸条走行速度を増大させる方法等、多種多様の方法が採用されている。これらの方法のうち、口金一錘当たりの孔数を増加させたり、糸条走行速度を増加させたりすることは、大幅な設備投資を伴わずに要求に応えることができる点で大きな利点がある。
【0003】
しかしながら、アクリロニトリル系繊維束の製造において、アクリル系ポリマーを含んだ紡糸原液を口金面から一旦空気中に押し出した後、凝固浴中に下向きに吐出し、方向転換ガイドで折り返して凝固浴外に引き出す乾湿式紡糸法を採用する場合、凝固浴中の糸条走行速度を増加させると、得られるアクリロニトリル系繊維束の品位が著しく悪化し、糸切れ等の操業性の悪化を伴うことが多い。
【0004】
そこで、特許文献1には紡糸原液を直接凝固浴中に吐出し凝固浴外に引き出す湿式紡糸法において、紡出糸条と凝固浴底面の間に仕切板を配置することで、糸条走行速度を高めても凝固浴内での糸条の乱れや、絡まりの原因となる凝固浴液の乱れを抑制する技術が開示されている。また、同じく湿式紡糸法において、紡出糸条と凝固浴底面の間に開口を有する整流板を配置する技術によっても、同様の効果を発揮することが知られている(特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、これらの技術は、湿式紡糸法では大きな効果を発揮するが、乾湿式紡糸法においては、単に紡出糸条と凝固浴底面との間に仕切り板や整流板を配置するだけでは、凝固浴液の乱れを十分に抑制することがこれまで不可能であった。この理由として、凝固浴はその組成を一定なものに保つために、槽から一旦排出した液を槽に戻すという循環がなされているが、湿式紡糸法では一般的に、槽に供給される凝固浴液の流入方向が、紡糸原液が吐出される方向と同一方向である。しかしながら、乾湿式紡糸法で紡糸原液が吐出される方向(下向き)と水平方向に凝固浴液を流入させれば、糸条が乱れ、単繊維切れや絡まりを誘発が発生する。そのため、乾湿式紡糸法では、一般的に凝固浴液は図1に示すように循環ポンプを用い凝固浴の底部にある凝固浴液流入口6から供給されるため、凝固浴液の流入方向は対向(上向き)となっている。循環のために凝固浴下方向から供給される凝固浴液の流れと、下向きに進行する凝固糸条の周りに随伴する液の流れ、いわゆる随伴流とが、浴内で衝突することで生じる液の乱れや、凝固浴出側の槽壁に衝突して転換した浴液の流れを糸条が受けるため、糸条の単繊維切れや絡まりを誘発し、糸条走行速度を高める上での障壁となっていた(特許文献4参照)。
【0006】
前記した問題を解決するために、口金と凝固浴中の方向転換ガイドの間に、下向きに走行する糸条と適度な距離を置いて、糸条を取り囲むように整流板を設置する技術が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、かかる技術では整流筒から出た糸条が浴液の乱れを受けるため、前記した問題を解消するには不十分であった。また、整流筒から出た糸の随伴流を制御するため、糸の流れに沿うような整流板の設置する技術が提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、かかる技術では下向きに進行する凝固糸条の随伴流が整流板に衝突して口金位置に向かう方向(上向き)に転換するため、前記した問題を解消するには不十分であった。
【0007】
また、口金から下方に紡出された糸条が凝固浴の底面で反射する随伴流の影響を受けにくくするため、口金から下方に紡出される糸条の周囲の全部または一部を囲む横整流板を設置する技術が提案されている(特許文献5参照)。しかしながら、かかる技術では凝固液面揺れを抑制するには有効であっても、横整流板の下部にある方向転換ガイドでは糸条が浴液の乱れを受け、前記した問題を解消するには不十分であった。口金から下方に紡出された糸条の随伴流は下向きであるが、凝固浴の底面で反射して口金位置に向かう方向(上向き)に転換し、糸条と対向する。口金位置に近くなるほど随伴流の影響により流速は小さくなり影響は小さくなるが、方向転換ガイドでは随伴流の影響を受ける前であるために流速が速く、糸条への影響が大きい。またこの方向転換ガイドは糸条の進行方向が変わる部分になるため浴液の乱れの影響が大きく、糸条走行速度の増加または口金多ホール化により随伴流および槽壁に衝突して口金位置に向かう方向(上向き)に転換した浴液の流れが強くなった際に方向転換ガイドで走行糸条を大きく乱し、単繊維切れや単繊維間接着などの糸欠点を引き起こしていた。
【0008】
また、アクリロニトリル系繊維束の生産効率を高めるために、紡糸原液を吐出する多数の紡糸孔が間隔をおいて配列されて設けられた口金の外面が気相を介して凝固液の液面に向いている乾湿式紡糸用スピニングパックにおいて、前記紡糸孔の数が6,000以上である乾湿式紡糸用スピニングパックが提案されている(特許文献6参照)。しかしながら、口金の多ホール化により凝固糸条のフィラメント数が増加し、それに伴い下向きに進行する凝固糸条の随伴流は増加する。増加した随伴流が方向転換ガイドの下方で凝固浴底の槽壁に衝突して口金位置に向かう方向(上向き)に転換する浴液の流れも増加する。そのため、口金の多ホール化と同時に高速紡糸を行うことは更なる随伴流の増加が発生し、かかる技術では方向転換ガイドで走行糸条を大きく乱し、単繊維切れや単繊維間接着などの糸欠点を引き起こしていた。そのため、生産効率の向上効果は不十分であった。
【0009】
安定して高品位のアクリロニトリル系繊維束を製造するためには、方向転換ガイドで口金位置に向かう方向(上向き)の浴液の流れを抑制することが重要であると考えられるが、乾湿式紡糸法において、かかる条件を満たし、糸条走行速度の増加または口金多ホール化させながら、安定して高品位のアクリロニトリル系繊維束を製造する方法、および具体的に浴液の流れをどこまで抑制する必要があるか定量評価された方法は開示されていなかった。
【0010】
また、生産効率を高める手段として、特定の分子量分布の大きなPAN系重合体溶液を用いる技術が提案されている(特許文献7参照)。しかしながら、かかる技術では特定の分子量分布の大きなPAN系重合体溶液を用いて糸条走行速度を増加させることが可能となるが、分子量制御達成の手段が複雑になり、本制御達成のためには大幅な設備投資が必要となり、設備投資に対する生産効率の向上効果は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭62−33814号公報
【特許文献2】特開平11−229227号公報
【特許文献3】特開平11−350244号公報
【特許文献4】特開2007−291594号公報
【特許文献5】国際公開第2013/047437号
【特許文献6】特開2011−63926号公報
【特許文献7】特開2010−255159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は乾湿式紡糸において、糸条走行速度の高速化または口金多孔化しつつ、高品位のアクリロニトリル系繊維束を安定して製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記目的を達成するために、次の構成を有する。すなわち、紡糸原液を、口金から一旦空気中に押し出した後、底面に配された凝固浴液流入口から上方に凝固浴液が供給される凝固浴中に下向きに進入せしめて凝固糸条とし、口金の下方の凝固浴中に配された方向転換ガイドで凝固糸条を折り返して凝固浴外に引き出すアクリロニトリル系繊維束の製造方法であって、方向転換ガイドから口金に向かう凝固浴液の平均流速が4.0m/分以下であることを特徴とするアクリロニトリル系繊維束の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、乾湿式紡糸法において、糸条走行速度を高速化または口金多孔化させても、凝固糸条が凝固浴中で受ける浴液抵抗を減少させることができ、それにより単繊維切れや絡まり等の品位低下要因を減少させることができ、高品位なアクリル系炭素繊維束を短時間のうちに大量に生産できるようになる。特に、炭素繊維用アクリル系前駆体繊維束を製造するに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】乾湿式紡糸装置の実施形態の一例を概略で示す側断面図である。
図2】乾湿式紡糸装置の実施形態の別の一例を概略で示す側断面図である。
図3】本発明に係る乾湿式紡糸装置の実施形態の一例を概略で示す平面図であり、口金の上方から下方の凝固浴を示す平面図である。
図4図3に示す実施形態の一例を概略で示す側断面図である。
図5】本発明に係る乾湿式紡糸装置の別の実施形態の一例を概略で示す平面図であり、口金の上方から下方の凝固浴を示す平面図である。
図6図5に示す別の実施形態の一例を概略で示す側断面図である。
図7】本発明に係る乾湿式紡糸装置の実施形態の一例を概略で示す側断面図である。
図8】本発明に係る乾湿式紡糸装置の別の実施形態の一例を概略で示す側断面図である。
図9】本発明に係る乾湿式紡糸装置の更に別の実施形態の一例を概略で示す側断面図である。
図10】本発明に係る乾湿式紡糸装置の更に別の実施形態の一例を概略で示す側断面図である。
図11】本発明に係る乾湿式紡糸装置の更に別の実施形態の一例を概略で示す側断面図である。
図12】本発明に係る乾湿式紡糸装置の更に別の実施形態の一例を概略で示す側断面図である。
図13】乾湿式紡糸装置の凝固浴液の平均速度を測定する方法を示す側断面図である。
図14】乾湿式紡糸装置の凝固浴液の平均速度を測定する方法を示す正面図である。
図15】乾湿式紡糸装置の凝固浴液の平均速度を算出する方法を示す別の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のアクリルニトリル系繊維束の製造方法は、上記課題を解決するために以下の構成を有する。すなわち、口金から吐出されたポリマーが凝固浴内に侵入し、方向転換ガイドにより糸条進行方向が変わる際に受ける浴液の流れを抑制し、随伴流による糸揺れによる単繊維間接着や単繊維絡まり、さらには単繊維切れを抑制し、高品位なアクリロニトリル系繊維束の製造方法を提供することにある。
【0017】
まず、アクリロニトリル系繊維束の製造方法について説明する。
【0018】
本発明において、アクリロニトリル系繊維束の原料となる紡糸原液は、アクリル系重合体が溶媒に溶解されてなる。アクリル系重合体としては、アクリロニトリル(以下、ANと略記する)90質量%以上を重合してなる重合体が好ましく使用される。アクリル系重合体は、AN100質量%を重合してなるホモポリマーであってもよく、ANに他のモノマーを共重合させたコポリマーであってもよい。ANに共重合させるモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、およびそれらアルカリ金属塩、アンモニウム塩および低級アルキルエステル類、アクリルアミドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類等を採用することができる。
【0019】
紡糸原液に用いる溶媒としては、例えば、塩化亜鉛水溶液、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記する)、またはジメチルホルムアミド等を用いることが可能である。紡糸原液におけるアクリル系重合体の濃度は、10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。かかる濃度が低すぎると、凝固浴中へ吐出した凝固糸条の単繊維がローラーとの擦過により切断され易くなり、濃度が高すぎると、口金内の圧力が大きくなり、吐出孔がポリマーにより詰まりやすく操業性が悪化することがある。
【0020】
次に本発明における乾湿式紡糸法について詳細に説明する。図1および図2は本発明に使用できる乾湿式紡糸装置の一態様を例示説明するための概念側面図である。
【0021】
本発明では、通常、25〜30℃、好ましくは27〜29℃に温調された紡糸原液を、口金1から一旦空気中に押し出して、凝固浴液が貯留された凝固浴3の中に下向きに進入せしめる。ここで、凝固浴液としては、紡糸原液に使用される溶媒と同種の溶媒と水との混合液が好ましく使用できる。紡糸原液温度が低すぎると、紡糸原液の粘度が高すぎるため、口金からの自由吐出線速度が遅くなり、口金1から凝固浴液面7との間で単繊維切れが発生することがある。一方、紡糸原液温度が高すぎると、紡糸原液の粘度が低すぎるため、口金1から凝固浴液面7との間で単繊維同士の融着による操業性低下を引き起こすことがある。
【0022】
凝固浴3の中に進入せしめた凝固糸条2は、口金1の下方の凝固浴3中に配された方向転換ガイド4で折り返されて、凝固浴出フリーローラー5を介して凝固浴外へ引き出される。図1において、循環浴液8が、方向転換ガイド4の下方に位置する凝固浴液流入口6から、上向きに供給されている。また凝固糸条2の随伴流は、方向転換ガイド4の下方で凝固浴3底の槽壁に衝突して口金1に向かう方向(上向き)に転換する。
【0023】
ここで口金1の孔数増加または紡糸速度の上昇により随伴流は増加し、それに伴い方向転換ガイド4の下方で凝固浴3底の槽壁に衝突して口金1に向かう方向(上向き)に転換する浴液の流れも増加する。本発明は、この凝固糸条2の走行方向と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速を抑制することを特徴とするものである。ただし、循環浴液8は、凝固浴3内の温度・濃度を規定値に制御するため、循環浴液8の流量は口金1の孔数増加または紡糸速度の上昇に伴い必要量だけ循環する形態とするのが好ましい。
【0024】
本発明では、凝固糸条2が凝固浴3中で受ける浴液抵抗を減少し、それにより単繊維切れや絡まり等の品位低下要因を減少させる点から、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の平均流速を4.0m/分以下に抑えることが必須要件である。
【0025】
図2は、凝固浴液の乱れを抑制するため、凝固糸条2から方向転換ガイド4の間に、特許文献3で提案されるような、下向きに走行する凝固糸条2を適度な距離を置いて取り囲むようにして整流筒9を配置し、さらに、下向きに走行する凝固糸条2と凝固浴3の壁面との間に、特許文献4で提案されるような、仕切板10を有する態様を示す一例である。本発明のアクリロニトリル系繊維束の製造方法においても、整流筒9および仕切板10を備えた乾湿式紡糸装置を用いることが好ましい。
【0026】
凝固糸条2の走行方向と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速を抑制する点から、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域の面積Sが、450cm以上の形状の凝固浴槽を用いることも、本発明のアクリロニトリル系繊維束の製造方法の好ましい形態である。
【0027】
ここで、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域の面積Sは、次に具体的に説明されるように、凝固糸条2が凝固浴3から引き出される方向に対し、方向転換ガイド4の位置から逆方向となる凝固浴3中の領域の占める面積のことを指す。なお、方向転換ガイド4の位置から逆方向において、方向転換ガイド4と凝固浴3の側壁との間の水平線上に仕切板10などの他の部材が存在する場合は、方向転換ガイド4の位置から仕切板10の位置までで形成される凝固浴3中の領域の占める面積を面積Sとする。
【0028】
図3および図4は、面積Sの規定を説明するための実施形態の一例である。図3および図4では、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の平面が、四角形の形状を有しており、また方向転換ガイド4から凝固浴3の側壁までの水平線上に、他の部材を有しない。この場合、図3および図4に示すように、凝固浴3の幅Xと、方向転換ガイド4から凝固浴3の側壁までの距離Y1の積で、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域の面積Sが求まる。
【0029】
方向転換ガイド4から凝固浴出フリーローラー5までの間は凝固糸条2が上向きに進行し、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れと対向することはないため、凝固糸条2が凝固浴3中で受ける浴液抵抗の影響は小さい。一方で、方向転換ガイド4から凝固浴3の側壁までの間は凝固糸条2が下向きに進行するため、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れと対向し、凝固糸条2が凝固浴3中で受ける浴液抵抗の影響は大きい。そのため、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域の面積Sを大きくすることで、凝固糸条2の走行方向と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速を抑制することができる。そのため、面積Sが450cm以上の形状の凝固浴槽を用いることが好ましく、500cm以上の形状の凝固浴槽を用いることが更に好ましい。ただし、面積Sを必要以上に大きくすることは凝固浴槽の巨大化に繋がり大幅な設備投資が必要となるため、設備投資に対する生産効率の向上効果は考慮する必要がある。なお、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域は四角形の形状に制限されるものではなく、台形、扇形など、凝固浴3の形状に応じて、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域の面積Sを求めることができる。
【0030】
図5および図6は、面積Sの規定を説明するための実施形態の別の一例である。図5および図6では、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域の平面が、四角形の形状を有しており、また方向転換ガイド4から凝固浴3の側壁までの水平線上に、他の部材、ここでは仕切板10を有する。この場合、図5および図6に示すように、凝固浴3の幅Xと、方向転換ガイド4から仕切板10までの距離Y2の積で、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域の面積Sが求まる。
【0031】
また、図7図12は、本発明の実施形態を示す一例である。図7図12では、乾湿式紡糸装置は方向転換ガイド4の近傍に浴中緩衝板11を有する。浴中緩衝板11により凝固糸条2の走行方向と対向して口金1に向かう凝固浴液の平均流速を抑制することができる。口金1から下向きに走行する凝固糸条2と、凝固糸条2の走行方向と対向して口金1に向かう凝固浴液の衝突を抑制する点から、浴中緩衝板11と方向転換ガイド4の距離は200mm以下にすることが好ましく、100mm以下にすることが更に好ましい。また凝固糸条2と浴中緩衝板11が接触して単糸切れを起こすことを避けるために、浴中緩衝板11と方向転換ガイド4の距離は5mm以上にすることが好ましい。
【0032】
浴中緩衝板11により遮断した凝固浴液を凝固糸条2の走行方向に整流する点から、図9図12のように、浴中緩衝板11と鉛直線とが成す角が、凝固糸条2が方向転換ガイド4で折り返される際に成す角以上とすることが好ましい。これにより、凝固糸条2の走行方向と対向して口金1に向かう凝固浴液を、方向転換ガイド4から凝固浴出フリーローラー5の方向に進行する凝固糸条2の随伴流と同一方向に整流することができる。
【0033】
凝固糸条2の走行方向と対向して口金1に向かう凝固浴液が浴中緩衝板11を回避することを抑制する点から、図11のように、浴中緩衝板11が凝固浴3の壁面に接していることが好ましい。
【0034】
凝固糸条2による凝固浴液の乱れを抑制する点および循環浴液8による凝固浴液の乱れを抑制する点から、図12のように、整流筒9および仕切板10を有することが好ましい。整流筒9の構成は、使用する口金の形に合わせて、円形・矩形・正方形等に加工することにより糸条走行速度を向上することが可能となる。かかる整流筒9は、その上端が凝固浴液面7から下方に0〜300mmにすることが好ましく、50〜150mmにすることが更に好ましく、上端部が、凝固浴液面7より上方に突出していると、凝固浴液の循環を阻害し、濃度斑が発生する懸念がある。同様に、仕切板10の端部が凝固浴液面7から下方に0〜300mmにすることが好ましい。また、凝固浴液の乱れを可能な限り、凝固糸条2に与えないために、凝固糸条2と仕切板10の距離を20〜200mmにすることが好ましく、50〜100mmにすることが更に好ましい。また、50〜100mmの距離で隔てて、凝固糸条2を取り囲むように、あるいは、凝固糸条2を挟むように仕切板10を設置することが更に好ましい。仕切板10を有している際には、凝固糸条2の走行方向と対向して口金1に向かう凝固浴液が浴中緩衝板11を回避することを抑制する点から、図12のように、浴中緩衝板11が仕切板10の壁面に接していることが好ましい。
【0035】
浴中緩衝板11を構成する板は無孔板であっても多孔板であっても良いが、凝固浴液が浴中緩衝板11に衝突してはね返り、乱流となることを抑制する点から、多孔板であることが好ましい。効果的に凝固糸条2の走行方向と対向して口金1に向かう凝固浴液を緩衝する点から、多孔板の開口率は5〜50%の範囲にすることが好ましい。また孔径は50mm以下にすることが好ましく、25mm以下にすることが更に好ましい。
【0036】
また、凝固糸条2の走行方向と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速を抑制する点から、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域の面積Sが、350cm以上の形状の凝固浴槽を用い、かつ、方向転換ガイド4の近傍に浴中緩衝板11を有することも、本発明のアクリロニトリル系繊維束の製造方法の好ましい形態である。
【0037】
なお、口金の孔数を多くすると、凝固浴内での凝固糸条の糸密度が増加し、単繊維間接着や単繊維間絡まりなど糸欠点が発生しやすくなるため、本発明のアクリロニトリル系繊維束の製造方法では、口金の孔数60,000以下にすることが好ましく、24,000以下にすることが更に好ましい。また生産効率の低下を抑制する点から、孔数1,000以上にすることが好ましく、より好ましくは3,000以上であり、更に好ましくは6,000以上である。
【0038】
また、凝固糸条を凝固浴外へ引き出す速度が高速になると凝固浴内の随伴流が増加し、槽壁に衝突して口金に向かう方向(上向き)に転換した凝固浴液の流れも増加する。この口金に向かう方向(上向き)の流速増加によって糸揺れが増大することによる単繊維間接着や単繊維絡まり、さらには単繊維切れを抑制する点から、凝固糸条を凝固浴外へ引き出す速度を50m/分以下にすることが好ましく、40m/分以下にすることが更に好ましい。一方で生産効率の低下を抑制する点から、凝固糸条を凝固浴外へ引き出す速度を25m/分以上にすることが好ましく、30m/分以上にすることが更に好ましい。
【0039】
乾湿式紡糸法によって紡糸し、凝固糸条を凝固浴外に引き出した後、浴中延伸を行う。この浴中延伸は、通常50〜98℃の延伸浴中で約2〜6倍に延伸される。なお、紡糸した凝固糸条は、好ましくは浴中延伸後水洗するか、水洗後浴中延伸することによって、品質・品位に影響を与えないように残存溶媒を除去しておく。浴中延伸後は、通常、油剤を付与し、ホットローラーなどで乾燥緻密化する。また、必要があればその後、スチーム延伸等の2次延伸を行う。本発明では、これらの工程を経て得られた複数のアクリロニトリル系繊維束を巻き取るかキャンなどに収納する前に集束用フリーローラーガイド群により合糸し、巻き取り機によりパッケージに巻き取られるかキャンに収納される。また別の態様として、巻き取ったアクリロニトリル系繊維束を複数本解舒するか、キャンから引き出して集束用フリーローラーガイド群により合糸を行うこともできる。かかるアクリロニトリル系繊維束を構成する単糸数は、1,000を超えるとき、より好ましくは2,000を超えるときに本発明のアクリロニトリル系繊維束の製造方法の効果を好適に得ることができる。また、単糸数の上限は特に制限がないが、通常100,000以下である。
【0040】
次に、本発明のアクリロニトリル系繊維束の製造方法によって得られたアクリロニトリル系繊維束から炭素繊維を製造する方法について説明する。
【0041】
前記したアクリロニトリル系繊維束の製造方法により製造されたアクリロニトリル系繊維束を、200〜300℃の空気などの酸化性雰囲気中において耐炎化処理する。処理温度は低温から高温に向けて複数段階に昇温するのが耐炎化繊維束を得る上で好ましく、さらに毛羽の発生を伴わない範囲で高い延伸比で繊維束を延伸するのが炭素繊維の性能を十分に発現させる上で好ましい。次いで得られた耐炎化繊維束を窒素などの不活性雰囲気中で1000℃以上に加熱することにより、炭素繊維を製造する。その後、電解質水溶液中で陽極酸化をおこなうことにより、炭素繊維表面に官能基を付与し樹脂との接着性を高めることが可能となる。また、エポキシ樹脂等のサイジング剤を付与し、耐擦過性に優れた炭素繊維を得ることが好ましい。
【実施例】
【0042】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【0043】
(凝固浴液の平均流速)
凝固浴液と比重の等しいビーズを凝固浴内に拡散させた後に、ビーズの動きをカメラで撮影し、平均流速を算出した。図13のように方向転換ガイド4から水平方向に凝固浴の壁面側50mmの位置に水中カメラを沈め(図13で水中カメラ設置位置12を表示)、走行糸条側にレンズを向けて、ビーズの動きを撮影した。ビーズの移動距離を測定するため、メジャー等をカメラで同時に撮影し、画像を解析することで算出した。移動したビーズを識別できるよう、5種類の色のビーズを20個ずつ、凝固浴内に拡散させた。また、凝固糸条の走行状態を生産時と同様にするために、ビーズの外径は2mmの球体状のものを用いた。図14のように走行糸条の中央の位置と、左側に50mmの位置と、右側に50mmの位置の3点で撮影を行い、各測定点で0.5秒間隔に5秒間の撮影を行い、各測定点で3つのビーズを無作為に選出し、計9つのビーズの移動距離から平均流速を算出した。0.5秒間隔に撮影することでビーズの動き、すなわち凝固液の流れをトレースすることができ、図15のように撮影開始した際のビーズ13の位置と5秒後に撮影した際のビーズ13の位置を結ぶ距離の垂直方向成分を移動距離とし、この時の移動距離平均値Dmmから次式にて浴液の平均流速Vm/分を算出した。
【0044】
V=D/83.3
凝固糸条が吐出される方向(下向き)に流れるビーズと、方向転換ガイドから口金に向かう方向(上向き)に流れるビーズが観察されるが、上向きに流れるビーズのみを無作為に選出した。なお、撮影開始した際のビーズの位置と、5秒後に撮影した際のビーズの位置を比較し、上向きに移動しているビーズを上向きに流れるビーズと判定した。また、図2および図12のように、凝固浴内に仕切板10を設置した際には、方向転換ガイド4と仕切板10の間に水中カメラを設置するか、仕切板10を透明なアクリル樹脂製にすることで、凝固浴3の壁面と仕切板10の間に水中カメラを設置しても、方向転換ガイド4付近を撮影できるようにした。
【0045】
(接着評価)
凝固浴から引取後の繊維束を50cm採取し、底が黒色で、2cm深さの水が入ったバットで繊維束を泳がせ、ばらけ具合を観察して、接着状態を評価した。評価基準は以下の通りである。
1:単繊維状にばらけている。
2:ピンセットで水中の繊維束を軽くたたくと単繊維にばらける。
3:数本単位でばらけない繊維束を含む。
4:数十本単位でばらけない繊維束を1つ含む。
5:数十本単位でばらけない繊維束を複数含む。
【0046】
(アクリロニトリル系繊維束の品位)
アクリロニトリル系繊維束を巻き取る手前で1000m分のアクリル系繊維の毛羽の数を数え、品位を評価した。評価基準は以下の通りである。
1:(毛羽本数/1繊維束・1000m)≦1
2:1<(毛羽本数/1繊維束・1000m)≦2
3:2<(毛羽本数/1繊維束・1000m)≦5
4:5<(毛羽本数/1繊維束・1000m)<60
5:(毛羽本数/1繊維束・1000m)≧60。
【0047】
[実施例1]
図1および図3に示す乾湿式紡糸装置を用いるとともに、紡糸原液として、AN99モル%、イタコン酸1モル%を共重合してなるAN共重合体を20質量%含むDMSO溶液を紡糸原液として用い、一錘当たりの孔数が6,000ホールの口金から、28℃に温調した紡糸原液を、一旦空気中に押し出して、30質量%DMSO水溶液で調整された凝固浴中へ下方向に進入させて凝固糸条とし、方向転換ガイド4で角度65°で折り返して、25m/分の速度で凝固浴外に引き出した後、水洗工程へ搬入した。その後、浴延伸工程で延伸させながらアミノシリコーンを主成分とする油剤を付与し、更に乾燥・後延伸工程を経てアクリロニトリル系繊維束を得た。
【0048】
凝固浴3は、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域の面積Sが、300cmの形状の凝固浴槽を用いた。
【0049】
表1に示す通り、方向転換ガイド4部分を凝固糸条と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速は3.8m/分であり、接着およびアクリル系繊維製造時の品位は良好であった。
【0050】
[比較例1]
凝固糸条を35m/分の速度で凝固浴外に引き出した以外は、実施例1と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。
【0051】
表1に示す通り、方向転換ガイド4部分を凝固糸条と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速は5.8m/分であり、接着およびアクリル系繊維製造時の品位は満足できるものではなかった。
【0052】
[比較例2](特開2007−291594の実施例3、実施例4および実施例6に類似した方法)
図2および図5に示す乾湿式紡糸装置を用い、整流筒9および仕切板10を有し、逆円錐状に加工された整流筒9の上端が凝固浴液面7から下方に100mmに、仕切板10の端部が凝固浴液面7から下方に150mmに、凝固糸条2と仕切板10の距離を20mmとし、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域の面積Sが、300cmになるように凝固浴3の形状を変更した以外は、比較例1と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。方向転換ガイド4部分を凝固糸条と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速は4.9m/分に抑制されたが、接着およびアクリル系繊維製造時の品位は、依然満足できるものではなかった。
【0053】
[実施例2]
図3および図4に示す乾湿式紡糸装置を用い、凝固浴3は、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域の面積Sが、400cmの形状の凝固浴槽を用いた以外は、比較例1と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。方向転換ガイド4部分を凝固糸条と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速は3.9m/分に抑制され、接着およびアクリル系繊維製造時の品位は良好であった。また、凝固浴外に引き出す速度を、実施例1の25m/分から35m/分に高速化していることに比例して、その生産効率は向上し、その製造原価も満足できるものであった。
【0054】
[比較例3]
凝固浴3は、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域の面積Sが、200cmの形状の凝固浴槽を用いた以外は、実施例2と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。方向転換ガイド4部分を凝固糸条と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速は6.5m/分に増大し、接着およびアクリル系繊維製造時の品位は満足できるものではなかった。
【0055】
[実施例3]
凝固浴3は、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域の面積Sが、500cmの形状の凝固浴槽を用いた以外は、実施例2と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。方向転換ガイド4部分を凝固糸条と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速は3.5m/分に抑制され、接着およびアクリル系繊維製造時の品位も良好であった。
【0056】
[実施例4]
図3および図7に示す乾湿式紡糸装置を用い、凝固浴3内の方向転換ガイド4部分に浴中緩衝板11を有し、浴中緩衝板11と方向転換ガイド4の間の距離が5mm、浴中緩衝板11と鉛直線との角度が30°、浴中緩衝板11と凝固浴3の壁面との間の距離が50mm、浴中緩衝板11は多孔板形状で30%の開孔率を有しその孔径は50mmとした以外は、比較例1と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。方向転換ガイド4部分を凝固糸条と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速は3.5m/分に抑制され、接着およびアクリル系繊維製造時の品位は良好であった。また、凝固浴外に引き出す速度を、実施例1の25m/分から35m/分に高速化していることに比例して、その生産効率は向上し、その製造原価も満足できるものであった。
【0057】
[実施例5]
図3および図8に示す乾湿式紡糸装置を用い、浴中緩衝板11と方向転換ガイド4の間の距離を150mmにした以外は、実施例4と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。方向転換ガイド4部分を凝固糸条と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速は3.7m/分に増大したが、接着およびアクリル系繊維製造時の品位は良好であった。
【0058】
[実施例6]
図3および図9に示す乾湿式紡糸装置を用い、浴中緩衝板11と鉛直線との角度を65°と糸条引取角度と同一にした以外は、実施例4と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。方向転換ガイド4部分を凝固糸条と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速は3.2m/分に抑制され、実施例4と比べて接着が更に良好であった。
【0059】
[実施例7]
図3および図10に示す乾湿式紡糸装置を用い、浴中緩衝板11と鉛直線との角度を90°と糸条引取角度以上にした以外は、実施例4と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。方向転換ガイド4部分を凝固糸条と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速は3.0m/分に抑制され、実施例4と比べて接着が更に良好であった。
【0060】
[実施例8]
図3および図11に示す乾湿式紡糸装置を用い、浴中緩衝板11が凝固浴の壁面に接しているようにした以外は、実施例7と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。方向転換ガイド4部分を凝固糸条と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速は2.8m/分に抑制された。
【0061】
[実施例9]
浴中緩衝板11を無孔板にした以外は、実施例8と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。方向転換ガイド4部分を凝固糸条と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速は3.3m/分に増大したが、接着およびアクリル系繊維製造時の品位は良好であった。
【0062】
[実施例10]
浴中緩衝板11は多孔板形状で75%の開孔率を有しその孔径は100mmとした以外は、実施例8と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。方向転換ガイド4部分を凝固糸条と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速は3.6m/分に増大したが、接着およびアクリル系繊維製造時の品位は良好であった。
【0063】
[実施例11]
浴中緩衝板11と方向転換ガイド4の間の距離を300mmにした以外は、実施例8と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。方向転換ガイド4部分を凝固糸条と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速は3.9m/分に増大したが、接着およびアクリル系繊維製造時の品位は良好であった。
【0064】
[実施例12]
図5および図12に示す乾湿式紡糸装置を用い、凝固浴3内の方向転換ガイド4部分に浴中緩衝板11を有し、浴中緩衝板11と方向転換ガイド4の間の距離が5mm、浴中緩衝板11と鉛直線との角度を90°と糸条引取角度以上にし、浴中緩衝板11を仕切板10と接しているようにし、浴中緩衝板11は多孔板形状で30%の開孔率を有しその孔径は50mmとした以外は、比較例2と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。方向転換ガイド4部分を凝固糸条と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速は2.5m/分に抑制され、接着およびアクリル系繊維製造時の品位は非常に良好であった。
【0065】
[実施例13]
凝固浴3は、方向転換ガイド4から口金1に向かう凝固浴液の流れの垂直方向の領域の面積Sが、400cmの形状の凝固浴槽を用いた以外は、実施例12と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。方向転換ガイド4部分を凝固糸条と対向して口金1に向かう凝固浴液の流速は2.2m/分に抑制された。
【0066】
【表1】
【符号の説明】
【0067】
1 口金
2 凝固糸条
3 凝固浴
4 方向転換ガイド
5 凝固浴出フリーローラー
6 凝固浴液流入口
7 凝固浴液面
8 循環浴液
9 整流筒
10 仕切板
11 浴中緩衝板
12 水中カメラ設置位置
13 ビーズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15