特許第6504188号(P6504188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6504188プリプレグ材料、繊維強化樹脂複合材料、多層構造体、プリプレグ材料の製造方法および繊維強化樹脂複合材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6504188
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】プリプレグ材料、繊維強化樹脂複合材料、多層構造体、プリプレグ材料の製造方法および繊維強化樹脂複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20190415BHJP
   B29B 15/12 20060101ALI20190415BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20190415BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20190415BHJP
【FI】
   C08J5/24
   B29B15/12
   B29C43/18
   B29K105:08
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-27650(P2017-27650)
(22)【出願日】2017年2月17日
(65)【公開番号】特開2018-131578(P2018-131578A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2018年5月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 元樹
(72)【発明者】
【氏名】土倉 弘至
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−231233(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−0926746(KR,B1)
【文献】 韓国公開特許第10−2009−0092800(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B29B 7/00−15/14
B29C 31/00−31/10、
37/00−37/04、
C08J 5/04− 5/10、5/24
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度繊維織物の片面のみに樹脂を付着してなるプリプレグ材料であって、樹脂付着率が6〜15質量%であり、織物への内部浸透率が15〜35%であるプリプレグ材料。
【請求項2】
高強度繊維織物の片面のみに樹脂を付着してなるプリプレグ材料であって、樹脂付着率が6〜15質量%であり、織物への内部浸透率が35%以下であるプリプレグ材料の製造方法であって、高強度繊維織物の片面のみに樹脂を付着させる工程を2回以上施すことを特徴とする、プリプレグ材料の製造方法。
【請求項3】
1回目の樹脂付着率が0.8質量%以上であることを特徴とする、請求項2に記載のプリプレグ材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載のプリプレグ材料を、樹脂付着面が一定方向になるようにして複数枚数積層し、これを加熱加圧成形してなる繊維強化樹脂複合材料。
【請求項5】
請求項1記載のプリプレグ材料または、請求項2〜3のいずれかに記載のプリプレグ材料の製造方法で得られたプリプレグ材料を、樹脂付着面が一定方向になるようにして所定枚数重ね合せ、これを加熱加圧成形してなる繊維強化樹脂複合材料の製造方法。
【請求項6】
防弾盾、防弾板、ヘルメット、ならびに車輌、船舶、航空機の付加装甲のいずれかに用いられるものである請求項4に記載の繊維強化樹脂複合材料。
【請求項7】
請求項4に記載の繊維強化樹脂複合材料にセラミックスまたは金属が積層された多層構造体。
【請求項8】
請求項4に記載の繊維強化樹脂複合材料に接着層を介してセラミックスまたは金属が積層されている多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグ材料及びその製造方法に関する。また、前記プリプレグ材料を用いた繊維強化樹脂複合材料及びその製造方法、並びにそれを用いてなる多層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、飛来物に対する耐衝撃性(耐弾性能)を有した繊維強化樹脂複合材料は、種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、織布の一方の面に熱硬化性樹脂の層を設けてなるシート材料を、織布と熱硬化性樹脂層とが交互になるように複数枚重ね、加熱加圧により一体化してなる防護用複合積層体により、織布の弾性を維持しながら良好な耐弾性能を得ることができるという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−246683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1記載の防護用複合積層体は、ある程度の耐弾性能が得られるものの、耐弾性能を更に向上させた耐弾材料(特許文献1では、シート材料)、及び前記耐弾材料を含む繊維強化樹脂複合材料の開発が求められている。
【0006】
かかる従来技術に鑑み、本発明の課題は、飛来物に対する耐衝撃性(耐弾性能)に優れた繊維強化複合材料あるいは多層構造体を与えるプリプレグ材料、繊維強化樹脂複合材料、および多層構造体を提供することにある。また、前記プリプレグ材料および繊維強化樹脂複合材料を好適に製造できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、次の構成を有する。
(1)高強度繊維織物の片面のみに樹脂を付着してなるプリプレグ材料であって、樹脂付着率が6〜15質量%であり、織物への内部浸透率が35%以下であるプリプレグ材料。
(2)上記(1)に記載のプリプレグ材料の製造方法であって、高強度繊維織物の片面のみに樹脂を付着させる工程を2回以上施すことを特徴とする、プリプレグ材料の製造方法。
(3)1回目の樹脂付着率が0.8質量%以上であることを特徴とする、上記(2)に記載のプリプレグ材料の製造方法。
(4)上記(1)記載のプリプレグ材料または、上記(2)〜(3)のいずれかに記載のプリプレグ材料の製造方法で得られたプリプレグ材料を、樹脂付着面が一定方向になるようにして複数枚数積層し、これを加熱加圧成形してなる繊維強化樹脂複合材料。
(5)上記(1)記載のプリプレグ材料または、上記(2)〜(3)のいずれかに記載のプリプレグ材料の製造方法で得られたプリプレグ材料を、樹脂付着面が一定方向になるようにして所定枚数重ね合せ、これを加熱加圧成形してなる繊維強化樹脂複合材料の製造方法。
(6)防弾盾、防弾板、ヘルメット、ならびに車輌、船舶、航空機の付加装甲のいずれかに用いられるものである上記(4)に記載の繊維強化樹脂複合材料。
(7)上記(4)に記載の繊維強化樹脂複合材料にセラミックスまたは金属が積層された多層構造体。
(8)上記(4)に記載の繊維強化樹脂複合材料に接着層を介してセラミックスまたは金属が積層されている多層構造体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来のものに比べ、飛来物に対する耐衝撃性(耐弾性能)に優れた繊維強化樹脂複合材料、多層構造体を与え得るプリプレグ材料、及び前記プリプレグ材料を用いた繊維強化樹脂複合材料、多層構造体を提供できる。また、本発明の製造方法によれば、前記プリプレグ材料、繊維強化複合材料を好適に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0010】
<プリプレグ材料>
本発明に係るプリプレグ材料は、高強度繊維織物の片面のみに樹脂を付着してなるプリプレグである。
【0011】
本発明の高強度繊維織物に用いられる高強度繊維としては、引張強度が17cN/dtex以上のものが好ましく、17〜45cN/dtexのものがより好ましく、19〜40cN/dtexのものがさらに好ましい。また、高強度繊維の弾性率としては、300〜2000cN/dtexが好ましく、350〜1800cN/dtexがさらに好ましい。このような特性を備えた高強度繊維としては、特に限定されるものではなく、例えば、芳香族ポリアミド(アラミド)、芳香族ポリエーテルアミド、全芳香族ポリエステル、超高分子量ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、ノボロイド、ポリピリドビスイミダゾール、ポリアリレート、ポリケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドイミド、ポリエーテルケトンなどからなる繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維などが好ましく使用でき、耐衝撃性、生産性、価格などからアラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリピリドビスイミダゾール繊維、ガラス繊維がさらに好ましく使用できる。また、これら高強度繊維の繊度としては、100〜7000dtexであることが好ましく、200〜3500dtexの範囲がさらに好ましいが、特に限定されるものではない。
【0012】
さらに高強度繊維を用いて高強度繊維織物を作製する。該織物には、平織、綾織、朱子織、畝織、斜子織、杉綾、二重織などを用いることができる。かかる繊維及び織物は、原糸の製造工程や加工工程での生産性あるいは特性改善のために通常使用されている各種添加剤を含んでいてもよい。例えば熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、耐電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤、油剤などを含有、または付着せしめることができる。
【0013】
プリプレグ材料を構成する樹脂(マトリックス樹脂)としては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いることができ、特に限定されるものではないが、熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、珪素樹脂、ポリイミド樹脂、ビニルエステル樹脂などやその変性樹脂など、熱可塑性樹脂であれば塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル、ポリアミドなど、さらには熱可塑性ポリウレタン、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ネオプレン、ポリエステル等の合成ゴム又はエラストマーなどが好ましく使用できるが、特に限定されるものではない。中でも、フェノール樹脂とポリビニルブチラール樹脂を主成分とする樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂が耐衝撃性、寸法安定性、強度、価格などから好ましく使用できる。さらに好ましくはフェノール樹脂とポリビニルブチラール樹脂を主成分とする樹脂である。かかる熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂には、工業的にその目的、用途、製造工程や加工工程での生産性あるいは特性改善のため通常使用されている各種添加剤を含んでいてもよい。例えば、変性剤、可塑剤、充填剤、離型剤、着色剤、希釈剤などを含有せしめることができる。樹脂を付着させる際は、溶剤あるいは希釈剤を用い、樹脂の塗液、いわゆるワニスの形態で用いることや、あらかじめフィルムを作製し、ラミネートする方法が挙げられるが、ワニスの形態で塗布し得る場合にはワニスの形態が簡便で好ましい。
【0014】
プリプレグ材料を得る方法は、高強度繊維織物の片面に均一に付着させることができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、グラビアコート、キスコート、コンマダイレクトコート等の塗布(コーティング)方法、ラミネート装置によるラミネート法などが一般的に行われる。ただし、塗布する樹脂粘度によっては、加工時に織物内部に浸透する可能性があるため、樹脂粘度の影響を受け難く、一定量の加工液が正確に塗布できる利点のあるコンマリバースコートが適している。
【0015】
このとき、本発明では、高強度繊維織物の片面のみに樹脂を付着させる。そして、樹脂付着率を6〜15質量%とし、織物への内部浸透率を35%以下とする。
【0016】
一般に、織物の内部まで樹脂を浸透させた場合、織物を構成する繊維の自由度が小さくなり、繊維強化樹脂複合材料としたときの飛来物に対する耐衝撃性(耐弾性能)が低下する。そのため、織物の片面のみに樹脂を付着させることで、織物を構成する繊維の自由度を確保することができ、繊維強化樹脂複合材料としたときの飛来物に対する耐衝撃性(耐弾性能)を向上することができる。
【0017】
また、樹脂付着率が6質量%未満では、繊維強化樹脂複合材料としたときに飛来物が衝突した際、剛性が低いため形態保持性が低くなる。また、15質量%を超えると、織物を構成する繊維の自由度を奪うため耐衝撃性が低下する。この樹脂付着率は織物質量に対する量であり、耐衝撃性能(耐弾性能)の点から好ましくは8〜11質量%である。
【0018】
そして、織物への内部浸透率を35%以下とすることで、飛来物の被弾時に耐弾性能に寄与する高強度繊維の割合が増え、繊維の自由度を確保しながらも繊維強化樹脂複合材料の剛性を損ねることがないため、耐衝撃性能(耐弾性能)に優れたプリプレグ材料を得ることが可能となる。繊維の自由度を高める点から、内部浸透率は15〜25%であることが好ましい。織物内部への樹脂浸透を抑制する点から、1回目の塗布加工で織物表面に薄く塗って薄膜を形成させ、2回目以降の塗布加工で目標とする樹脂比率に仕上げることが樹脂加工のポイントである。
【0019】
ここで、織物への内部浸透率の測定方法は、後述の方法で決定されるものである。
【0020】
上記の織物への内部浸透率の調整は、ワニスの粘度やコーティング加工速度、クリアランス条件などによって調整することができる。
【0021】
ワニスの20℃における粘度は10cP(mPa・s)以上であることが好ましい。粘度を10cP以上とすることで、塗布加工時に織物内部への浸透を抑制し、繊維の自由度が大きくなり、繊維強化樹脂複合材料としたときの飛来物に対する耐衝撃性(耐弾性能)が向上する。この粘度は織物内部への過度の浸透を抑制する点から、さらに好ましくは100〜1500cP(mPa・s)であり、加工する布帛により適宜調整することが好ましい。
【0022】
コーティング時の加工速度は3m/分以上とすることが好ましい。特に1回目の塗布加工速度が3m/分以上とすることで、織物内部への樹脂の過度の浸透を抑制し、繊維の自由度を大きくすることができるので耐衝撃性を向上させることができる。この加工速度は織物内部への過度の浸透を抑制する点から、さらに好ましくは5m/分以上であり、加工する布帛により適宜調整することが好ましい。
【0023】
さらに、1回目の塗布加工時のクリアランス設定は、1.5mm以下とすることが好ましい。クリアランス設定が1.5mmを超えると塗布量が多くなり、薄膜化による内部浸透抑制効果が得られず、繊維の自由度を奪うため耐衝撃性が低下する。この樹脂クリアランス設定は薄膜化の点から、さらに好ましくは1.0mm以下であり、加工する布帛や加工設備能力に応じて適宜調整することが好ましい。
【0024】
プリプレグ材料の製造方法は、上記の特性が得られる方法であれば、特に限定されるものではないが、下記の方法が好ましい。
【0025】
本発明に係るプリプレグ材料の製造方法は、高強度繊維織物の片面のみに樹脂を付着させる工程を2回以上施すことが好ましい。
【0026】
一般に、織物の片面のみに熱硬化性樹脂を付着させる工程が1回の場合、一度に全ての樹脂を付着させるため、結果として織物の内部まで樹脂が浸透してしまい、織物を構成する繊維の自由度が小さくなり、繊維強化樹脂複合材料としたときの飛来物に対する耐衝撃性(耐弾性能)が低下することがある。そのため、前記付着工程を2回以上施すことで、織物内部への過度の樹脂浸透を抑制し織物を構成する繊維の自由度を確保することができ、繊維強化樹脂複合材料としたときの飛来物に対する耐衝撃性(耐弾性能)を向上することができる。
【0027】
また、1回目の樹脂付着率は高強度繊維織物表面に薄い膜を形成させ、内部浸透を抑制する点から0.8質量%以上であることが好ましく、0.8〜3.5質量%であることが好ましい。さらには1回目の樹脂付着率を1〜2質量%とすることが好ましい。
【0028】
上記により2回目以降の最終目標とする樹脂塗布加工時の織物内部浸透を適正範囲に制御することができる。
【0029】
2回以上付着させて内部浸透率を適正な範囲に制御するためには、1回目に樹脂を付着した後、高強度繊維織物表面に薄い膜を形成させ、その後に2回目の付着を行うことが好ましい。ワニスを塗布することにより付着させる場合には、1回目の塗布後に乾燥させることが好ましく、2回目以降も塗布の都度乾燥を行うことが好ましい。乾燥の程度は、乾燥によりワニスに含まれる溶剤、希釈液などを除去して樹脂の薄い膜を形成し、樹脂の過度の内部浸透を制御することができれば、塗布の都度溶剤、希釈剤を完全に除去する必要はない。
【0030】
乾燥条件としては、樹脂加工後、50〜200℃の範囲内で乾燥させることが好ましい。その際、段階的に昇温して乾燥処理を施すことが好ましい。樹脂加工直後の材料は200℃を超える温度で一気に乾燥させると、塗布した樹脂面に気泡が発生する場合があり、2回目以降の樹脂加工の際に、気泡部が剥がれ落ちることで樹脂加工斑やコーターの刃先が破損する懸念がある。この乾燥温度は、塗布した樹脂を緩やかに乾燥させる点から、さらに好ましくは80〜150℃の範囲であり、加工樹脂の耐熱温度により適宜調整することが好ましい。なお、上記乾燥は樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合には熱硬化性樹脂が硬化しない程度の条件を選択、例えば温度が高く熱硬化が懸念される場合には、暴露時間を短くする、温度を低めにするなどの方法により、適宜に調整することができる。織物の片面に塗布する樹脂が熱可塑性の場合は、織物の片面に塗布してから一旦当該樹脂の軟化温度以上、好ましくは溶融温度以上にして、薄い膜の形成を完了させたのち、樹脂の固化温度以下まで冷却する。
【0031】
<繊維強化樹脂複合材料>
本発明に係る繊維強化樹脂複合材料は、前記のプリプレグ材料を積層し、加熱加圧成形により得られるものである。この工程により、熱硬化性樹脂は硬化物となり、繊維強化樹脂複合材料が得られる。一方で、樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合は、前述の加熱加圧成形後に常温程度まで冷却してから圧力を開放することで繊維強化樹脂複合材料が得られる。
【0032】
その製造方法としては、例えば、前記プリプレグ材料を、樹脂付着面が一定方向になるように、すなわち樹脂付着面が樹脂非付着面に接するようにして複数枚数積層し、これを加熱加圧成形する方法がある。この場合、繊維強化樹脂複合材料の一方の面は樹脂が付着した状態となり、他方の面は織物が露出した状態となる。また、前記プリプレグ材料を、樹脂付着面が一定方向になるようにして所定枚数重ね合せ、さらに、樹脂付着面の反対側に、両面に樹脂を付着させたプリプレグ1枚を配置して、これを加熱加圧成形してもよい。この場合、繊維強化樹脂複合材料の両面が、樹脂が付着した状態となる。
【0033】
プリプレグ材料の積層枚数は、用途や高強度繊維織物の目付に応じて適宜決定されるが、通常50枚程度であり、積層枚数が多いと成形工程が煩雑となるため、30枚以下が好ましい。
【0034】
本発明に係る繊維強化樹脂複合材料の製造方法は、加熱プレス成型工程により所定の形状に成型することが一般的であり、例えば、下記の手順により実施することができる。
【0035】
まず、下型及び上型から構成され、所定形状の成型空間を有する金型を準備し、下型及び上型を所定温度に加熱しておく。
【0036】
そして、繊維強化樹脂積層体を構成するプリプレグを一定方向に所定枚数重ね合せて積層し、これを前記金型内に配置する。
【0037】
そして、所定圧力にて加熱し、圧縮成型した後、金型内から取り出すことにより、繊維強化樹脂複合材料を得る。
【0038】
このときの成型条件は、使用する樹脂等により適宜設定することができるが、フェノール樹脂の場合、成型温度は150〜170℃が好ましく、成型圧力は3〜20MPaが好ましく、成型時間は15〜30分が好ましい。
【0039】
また、オートクレーブ成形法により所定の形状に成形することも可能であり、例えば、下記の手順により実施することができる。
【0040】
一般的なオートクレーブ成形法は、所定の形状のツール板にプリプレグを積層して、バッギングフィルムで覆い、積層物内を脱気しながら加圧加熱硬化または加圧加熱冷却させる方法である。オートクレーブ成形法は、繊維配向が精密に制御でき、またボイドの発生が少ないため、力学特性に優れ、高品位な成形体が得られる。また、樹脂として熱可塑性樹脂を使用する場合では、積層体の内部温度を所定温度に下がるまで加圧状態を維持し、十分に冷却してから圧力を開放する。
【0041】
このときの成形条件は、使用する樹脂等により適宜設定することができるが、フェノール樹脂の場合、成形温度は150〜170℃が好ましく、成形圧力は0.3〜15MPaが好ましく、成形時間は15〜60分が好ましい。
【0042】
上記のようなオートクレーブ成形では、反応釜の容量に応じて、複数個の成形加工が可能であり、成形効率に優れる。
【0043】
<多層構造体>
本発明に係る多層構造体は、繊維強化樹脂複合材料にセラミックスまたは金属を積層してなるものである。この場合、積層されたセラミックスまたは金属の表面側を、飛来物に対する衝突面側とすればよい。
【0044】
多層構造体に使用されるセラミックスとしては、ファインセラミックスであれば問題なく使用できる。特に限定されるものではないが、特性として、例えば圧縮強度1500MPa以上、曲げ強度300MPa以上、ビッカース硬さ1000kgf/mm(9807MPa)以上のものが好ましい。具体的にはアルミナ類、窒化類、珪石類、ボロン類、マグネシア類などや、これらセラミックスの混合焼成物、セラミックスが金属補強された構成物、セラミックスが繊維補強された構成物、炭素繊維等の耐熱性繊維でセラミックスを強靱化した繊維複合セラミックスやセラミックス粒子、ウィスカ、短繊維、連続長繊維で強化したセラミックス基複合材料(例えば、炭化珪素繊維/炭化珪素マトリックス複合材)などが好ましく使用できる。耐衝撃性、軽量性、強度、価格などからアルミナ類、窒化類、珪石類、ボロン類がさらに好ましく使用できる。アルミナ類であれば、純度が85%以上であることが好ましい。純度が85%未満であれば添加物の量の関係から、飛来物衝突時のエネルギー吸収性能が低下する。
【0045】
また、多層構造体に使用される金属としては、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、亜鉛、鉛、すずなどの純金属や、物性を改質するため、2種類以上の金属または炭素などの非金属を溶かし合わせた合金、例えば炭素鋼、高張力鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、ジューコール鋼、ハッドフィールド鋼、超強靱鋼、ステンレス鋼、鋳鉄、銅合金(真鍮、すず青銅、アルミニウム青銅、ベリリウム銅など)、アルミニウム合金(Al−Cu系合金、Cu合金、Al−Si系合金、Al−Mg系合金、ジュラルミンなど)、マグネシウム合金(Mg−Al−Zn合金、Mg−Zn−Zr合金、Mg−希土類元素合金、Mg−Th系合金、Mg−Mn合金、Mg−Th−Mn合金、Mg−Zn−R.E.合金など)、チタン合金、ニッケル合金(Ni−Mn合金、Ni−Cu合金、Ni−Mo合金、Ni−Cr合金など)、亜鉛合金、鉛合金、すず合金、また、アルミ、チタン、銅などの金属マトリックスを金属やセラミックスの粒子、ウィスカ、短繊維、連続長繊維で強化した金属基複合材料(例えば、ボロン繊維強化アルミ、炭化珪素/チタン)などが好ましく使用できる。軽量性、硬度、耐力、耐衝撃性などからチタン、ステンレス鋼、ジュラルミン、チタン合金がさらに好ましく使用できる。また、かかる金属には製造工程や加工工程での生産性から常識の範囲内で不純物を含んでいてもよい。
【0046】
上記のようなセラミックスまたは金属は、単独、あるいは複数枚の組み合わせでもよく、複数の組み合わせの場合、1種類あるいは2種類以上組み合わせてもよい。形状としては三角形、長方形、正方形、台形、六角形等の多角形であり、複数片を隙間なく配列できる形状が好ましい。厚み方向については、平面板、曲面板に限らず、均一な厚みのものや接合部の耐衝撃性向上のために平面形状における端部の厚みが中央部に対し厚いもの等を採用でき、重量面からは均一厚みのものが好ましい。
【0047】
このような形状のセラミックス片、または金属片を本発明に係る繊維強化樹脂複合材料上に例えば千鳥状に配置することにより、飛来物に対し優れた耐衝撃性能を有する多層構造体を構成できる。例えば、形状が正方形の場合、その一辺の長さは3〜10cmの範囲内にあることが好ましく、さらには、4〜7cmの範囲内にあることが好ましい。
【0048】
セラミックス、または金属の厚みは、対象とする飛来物の構造や重量、速度、安全率などにより適宜選択するものとする。例えば、飛来物が30−06M2AP弾の場合、アルミナセラミックスであれば7〜13mmの範囲内にあることが好ましく、NATO M80弾の場合、アルミナセラミックスであれば4〜9mmの範囲内にあることが好ましく、NATO SS−109弾であれば3.0〜7mmの範囲内にあることが好ましい。各飛来物に対し上記厚み未満であれば、十分な耐衝撃性能を付与できない。また、上記厚みを超えると満足できる耐衝撃性能を付与できるものの、多層構造体の重量が増す。
【0049】
さらに、繊維強化樹脂複合材料にセラミックス、または金属を積層する際、接着剤を介して固定することにより多層構造体とすることができる。接着剤としては、プリプレグ作製に用いられる樹脂や合成ゴム、エポキシ樹脂、熱可塑性樹脂フィルム、ウレタン樹脂等の接着剤で接着し、セラミックスや金属と繊維強化樹脂複合材料の間を密着させる。このようにして得られたセラミックスや金属と繊維強化樹脂複合材料の積層品(多層構造体)の形状は使用目的に応じ、平板、曲面板等適宜選択できる。
【0050】
また、該積層品において、飛来物の耐衝撃性をさらに向上させるため、接着剤を介して高強度繊維織物、または樹脂が付着した高強度繊維織物をセラミックス、または金属側に1〜2枚積層する方法や一般的な熱可塑性樹脂で被覆する方法などがある。織物を積層する場合、積層する高強度繊維織物は同種あるいは異種のものであってもかまわない。また、高強度繊維織物を積層する場合、繊維強化樹脂複合材料の変形を抑制しない範囲で高強度繊維織物を繊維強化樹脂複合材料の一部に積層できる。これによって、多層構造体周辺部に飛来物が衝突した際、セラミックスや金属と繊維強化樹脂複合材料の層間剥離を抑制でき耐衝撃性が向上する。該接着剤としてはプリプレグ作製に用いられる樹脂や合成ゴム、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。セラミックスや金属の表面に高強度繊維織物を積層しない場合、衝突時のセラミックス片が飛び散るばかりでなく、応力を緩和できないため耐衝撃性に劣ることがある。
【0051】
本発明に係る繊維強化樹脂複合材料及び多層構造体は、どのようなものにも使用でき、特に限定されるものではなく、例えば、防弾盾、防弾チョッキ、ヘルメット、ならびに車輌、船舶、航空機の付加装甲に使用されるのが好ましい。その場合、繊維強化樹脂複合材料や多層構造体は、製品形状や使用環境にあった状態で常法に従い製造後、着用、施工される。例えば、防弾盾は、必要な形状に裁断後、該繊維強化樹脂複合材料、または多層構造体を常法に従い成形加工することにより製造される。
【0052】
防弾板は、プリプレグ材料を複数枚重ねて積層して加熱加圧成型により製造される。ヘルメットは、必要な形状に裁断後、該繊維強化樹脂複合材料、または多層構造体を常法に従い成型加工することにより製造される。また、繊維強化樹脂複合材料製ヘルメットに必要な大きさのセラミックスタイル等を、接着剤を介して付加することもできる。車輌、船舶、航空機用付加装甲は、所定のサイズに該繊維強化樹脂複合材料、または多層構造体を常法に従い成形することにより製造される。さらに、機械加工によるボルト止めや面ファスナーなどにより車輌、船舶、航空機に施工される。
【0053】
以上のようにして得られた、繊維強化樹脂複合材料及び多層構造体は、軽量、かつ優れた耐衝撃性を有するという効果を奏する。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、実施例中の特性については、次の測定法を用いた。
【0055】
(測定・評価方法)
1.原糸強度、弾性率
JIS L1013:2010 8.5 に基づき、つかみ間隔25cm、引張り速度30±3cm/min、N=10回の引張り試験で引張強度(cN/dtex)、引張弾性率を求め平均値を算出した。
【0056】
2.繊度
JIS L 1013:2010 8.3.1 A法に基づき、112.5m分の小かせをサンプル数5セット採取し、20℃、60%の環境下で4時間放置後、その質量(g)を測定し、その値に10000/112.5をかけ、繊度(dtex)を求め平均値を算出した。
【0057】
3.目付
JIS L 1096:2010 8.3.2に基づき、約200mm×200mmの試験片2枚の質量(g)を量り、1m当たりの質量(g/m)を求め、平均値を算出した。
【0058】
4.織物の密度
JIS L 1096:2010 8.6.1に基づき、区間2.54cmの糸本数をたて/よこ方向に各5箇所ずつ数え、2.54cm当たりの密度(本/2.54cm)を求め、平均値を算出した。
【0059】
5.厚さ
JIS L 1096:2010 8.4に基づき、ダイヤルシックネスゲージ(押さえ圧23.5kPa)で10秒間加圧後の厚みを5箇所測り、平均値を算出した。
【0060】
6.曲げ特性
JIS K7017:1999 10.1に基づき、試験片寸法を長さ60mm、幅20mmの試験片を4本準備して、支点間距離40mm、試験速度3mm/minの3点曲げ試験で曲げ応力(MPa)、曲げ弾性率(GPa)を求め、平均値を算出した。なお、試験片の寸法はノギスを用いて計測した。
【0061】
7.粘度
JIS Z 8803:2011 9.4に基づき、B型粘度計で20℃に調温した樹脂の粘度を計測した。
【0062】
8.プリプレグ材料の樹脂の織物への内部浸透率
プリプレグ材料の織物断面を軽くほぐして樹脂浸透部と織物繊維部とに分離し、拡大写真観察で織物構成繊維の樹脂浸透部の厚み5箇所の平均を求め、(樹脂浸透部の厚み/樹脂含浸加工前の織物の厚み)×100の計算で織物への内部浸透率を算出した。なお、サンプリングはプリプレグ材料の幅なり5等分の箇所から取り出して樹脂の織物への内部浸透率を求め、平均値を算出した。
【0063】
9.樹脂付着率
3項記載の方法で樹脂加工前後の目付を算出し、下記式にて樹脂付着率(質量%)を算出した。
樹脂付着率(質量%)=(樹脂付着後目付−樹脂付着前目付)/樹脂付着後目付×100
【0064】
10.耐衝撃性能(V50耐弾性)
MIL−STD−662Fに準拠し、豊和工業(株)製小口径発射装置により1.1gの高速飛翔体でのBallistic Limit(V50:50%不貫通限界速度)を評価した。射距離2.5m、試験片サイズ150mm×150mm、試験数15枚の貫通速度(m/s)と不貫通速度(m/s)を求め、不貫通データ(弾速)の速い方から5点と、貫通データ(弾速)の遅い方から5点の計10点のデータから算出した。
【0065】
[判定]600m/s以上:○、600未満:×とした。
【0066】
実施例1
原糸強度20cN/dtex、弾性率500cN/dtexのアラミド繊維(総繊度3300dtex)を使用した平織織布(目付:460g/m2、織り密度17本/2.54cm、厚さ0.64mm)にフェノール系樹脂(主成分:フェノール樹脂+ポリビニルブチラール樹脂)のワニス(粘度1400cP(mPa・s))をコンマリバースコート機で1回目の片面塗布加工のクリアランス0.10mm、塗布加工速度10m/分の条件で塗布し、乾燥温度80〜150℃で段階的に昇温して乾燥後、1回目と同じワニスを用いて2回目の片面塗布加工をクリアランス0.20mmとした以外は1回目と同様の方法で塗布した後、乾燥温度80〜150℃で段階的に昇温して乾燥した。樹脂付着率8.9質量%のプリプレグ材料を得た。なお、1回目の塗布後の樹脂付着率は3.0%であった。
【0067】
該プリプレグ材料を一定方向に16枚積層し、150℃、100kg/cm2 、30分加熱加圧成形して熱硬化性樹脂を硬化させ、繊維樹脂複合強化材料の成形物を得た。成形物の評価結果を表1に示す。
【0068】
実施例2
実施例1と同じ手法で2回目の片面塗布加工のクリアランス0.15mmで樹脂付着率6質量%の繊維樹脂複合強化材料の成形物を得た。なお、1回目の塗布後の樹脂付着率は3.0%であった。成形物の評価結果を表1に示す。
【0069】
実施例3
実施例1と同じ手法で2回目の片面塗布加工のクリアランス0.25mmで樹脂付着率10.5質量%の繊維樹脂複合強化材料の成形物を得た。なお、1回目の塗布後の樹脂付着率は3.0%であった。成形物の評価結果を表1に示す。
【0070】
比較例1
原糸強度20cN/dtex、弾性率500cN/dtexのアラミド繊維(総繊度3300dtex)を使用した平織織布(目付:460g/m2、織り密度17本/2.54cm、厚さ0.64mm)にフェノール樹脂(主成分:フェノール樹脂+ポリビニルブーチラール)(粘度1400cP(mPa・s))をコンマリバースコート機で片面塗布加工のクリアランス0.15mm、加工速度10m/分、乾燥温度80〜150℃で乾燥して樹脂付着率5.0質量%のプリプレグを得た。該プリプレグを16枚積層し、150℃、100kg/cm2 、30分加熱加圧成形して熱硬化性樹脂を硬化させ、繊維樹脂複合強化材料の成形物を得た。成形物の評価結果を表1に示す。
【0071】
比較例2
比較例1と同じ手法で片面塗布加工のクリアランス0.20mmで樹脂付着率5.9質量%の繊維樹脂複合強化材料の成形物を得た。成形物の評価結果を表1に示す。
【0072】
比較例3
比較例1と同じ手法で片面塗布加工のクリアランス0.30mmで樹脂付着率8.7質量%の繊維樹脂複合強化材料の成形物を得た。成形物の評価結果を表1に示す。
【0073】
比較例4
比較例1と同じ手法で片面塗布加工のクリアランス0.40mmで樹脂付着率11.1質量%の繊維樹脂複合強化材料の成形物を得た。成形物の評価結果を表1に示す。
【0074】
実施例1、2、3の成形物は織物内部の樹脂浸透が抑制され、優れた耐衝撃性能(耐弾性能)を示した。
【0075】
一方で、比較例1、2、3は実施例よりも織物内部の樹脂浸透が確認でき、耐衝撃性能(耐弾性能)が劣っていた。
【0076】
【表1】