(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの通信機器の高周波数化に伴い、これらの送信部および受信部には、高周波に対応したセラミックコイルが多数採用されている。これらのセラミックコイルの中でも、特にスマートフォンなどに使用される高周波インダクタには、小型化、高周波対応および高Q値化が要望されている。インダクタの浮遊容量が大きいと、自己共振周波数が低周波化し、高周波領域ではインダクタとしての機能が著しく低下することがある。また、低抵抗、低損失なAg系導体を内部電極に適用するために、低温焼結性が求められることがある。
【0003】
したがって、セラミックコイルの材料としては、誘電率の低いガラス系材料が一般的に用いられている。低誘電率のガラス系材料として、誘電率εが3.8程度のSiO
2が一般的に知られている。しかし、SiO
2は960℃以下では焼結しないため、融点が960℃程度のAg系導体を内部電極とする場合には使用が制限される。このため、低温での焼結が可能なコイル材料が要望されている。
【0004】
低誘電率であり、低温焼結に有望なガラス系材料としてホウケイ酸ガラス(ε:3.8)からなるガラス系材料の使用が検討された。この材料は900℃以下で焼結可能であり、低温焼結には有望と考えられる。しかしながら、この材料を、セラミックコイル等のコイル電子部品の素体として用いた場合、素体表面に生じた傷などがクラックの起点となり、本来期待される強度よりも、低い強度しか発揮できないという問題がある。
【0005】
そこで、ガラス系材料の強度向上のために、ガラス系材料にフィラーを添加したガラスセラミックスの使用が検討されている。フィラーとしては、Al
2O
3(アルミナ)が広く使用されている。フィラーは、ガラス相との親和性、濡れ性を有する必要がある。この観点からアルミナは有望なフィラー材料の1つである。
【0006】
しかし、フィラーの添加によりガラス相と接する内部電極の表面粗度が上がる。内部電極の伝導は、表面伝導が支配的であるため、表面粗度の望ましくない上昇は、抵抗の増大を招く。特に小型化、薄層化が進行している積層チップインダクタでは、内部電極の表面状態がQ値に重大な影響を及ぼす。また、アルミナの誘電率εは10前後であり、フィラーの添加は必然的に誘電率を増大する。
【0007】
低温焼結可能なガラスセラミック組成物として、特許文献1(特開2007−15878号公報)には、耐酸性の向上を目的とした以下のセラミック組成物が開示されている。
『28〜50重量%のSiO
2、36〜55重量%のMO(ただし、MOは、CaOおよびMgOの少なくとも一方)、0〜20重量%のAl
2O
3、および5〜17.5重量%のB
2O
3からなるホウケイ酸系ガラス粉末と、
ZrO
2を1重量%以上含むセラミック粉末とを混合したものであり、前記ホウケイ酸系ガラス粉末を40〜80重量%、および前記セラミック粉末を60〜20重量%それぞれ含有する、セラミック組成物。』
【0008】
特許文献1には、前記セラミック粉末は、ZrO
2に加えてAl
2O
3を含み得ることも記載がある。本文献に具体的に開示されたセラミック組成物は、ZrO
2を多量に含むか、またはα−Al
2O
3を多量に含む。また、本文献には、セラミック粉末(フィラー)としてZrO
2とα−Al
2O
3とを含むガラスセラミックス組成物も開示されているが、いずれの具体例においても、ZrO
2を多量に含むか、またはα−Al
2O
3を多量に含む。
【0009】
特許文献1のセラミック組成物は、耐酸性の向上を目的とし、耐酸性向上に有効なZrO
2を比較的多量に含む。ZrO
2は強度および耐酸性の向上には有効であるが、誘電率を高める作用を有する。また、Al
2O
3もガラス材料の誘電率を高くする。本文献にはセラミック組成物の誘電率に関する記載はないが、比較的多量にZrO
2フィラーおよび/またはAl
2O
3フィラーを含むため、高い誘電率を有すると推定され、高周波領域での使用には適さない。
【0010】
このように、コイル素子の強度向上の観点からはフィラーの添加は有望ではあるが、電気的特性の観点からはフィラーの配合量を適正な範囲に抑制することが望まれる。したがって、誘電率、強度、焼結性をバランスよく改善するために、ジルコニアの配合量とアルミナの配合量とを適正化し、誘電率を過度に上昇させずに、強度向上に寄与でき、焼結温度を過度に上昇させないセラミック組成物の開発が要望される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明するが、本発明は以下に説明する実施形態のみに限定されない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できる変形、類似物が含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0026】
(コイル電子部品)
図1に、本発明の一実施形態に係るコイル電子部品として、積層チップコイル1を例示する。積層チップコイル1は、セラミックス層2と、内部電極層3とがZ軸方向に交互に積層してあるチップ素体4を有する。
【0027】
各内部電極層3は、四角状環またはC字形状またはコ字形状を有し、隣接するセラミックス層2を貫通する内部電極接続用スルーホール電極(図示略)または段差状電極によりスパイラル状に接続され、コイル導体30を構成している。
【0028】
チップ素体4のY軸方向の両端部には、それぞれ端子電極5が形成してある。各端子電極5には、Z軸方向の上下に位置する引出電極3a,3bの端部が接続してあり、各端子電極5は、閉磁路コイル(巻線パターン)を構成するコイル導体30の両端に接続される。
【0029】
本実施形態では、セラミックス層2および内部電極層3の積層方向がZ軸に一致し、端子電極5の上下面がXY平面に平行になり、側面がXZ平面に平行になる。なお、X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直である。
図1に示す積層チップコイル1では、コイル導体30の巻回軸が、Z軸に略一致する。
【0030】
チップ素体4の外形や寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができ、通常、外形はほぼ直方体形状とし、例えばX軸寸法は0.1〜0.8mm、Y軸寸法は0.2〜1.6mm、Z軸寸法は0.1〜1.0mmである。
【0031】
また、セラミックス層2の電極間厚みおよびベース厚みには特に制限はなく、電極間厚み(内部電極層3、3の間隔)は3〜50μm、ベース厚み(Z軸方向での、引出電極3a,3bからチップ素体4の端部までの距離)は5〜300μm程度で設定することができる。
【0032】
本実施形態では、端子電極5としては、特に限定されず、素体4の外表面にAgやPdなどを主成分とする導電性ペーストを付着させた後に焼付け、さらに電気めっきを施すことにより形成される。電気めっきには、Cu、Ni、Snなどを用いることができる。
【0033】
コイル導体30は、好ましくはAg(Agの合金含む)を含み、例えばAg単体、Ag−Pd合金などで構成される。また、コイル導体の副成分として、Zr、Fe、Mn、Ti、およびそれらの酸化物を含むことができる。
【0034】
セラミックス層2は、本発明の一実施形態に係るガラスセラミックス焼結体で構成してある。以下、ガラスセラミックス焼結体について詳細に説明する。
【0035】
(ガラスセラミックス焼結体)
本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体は、特定組成のガラス相と、ガラス相中に分散されたセラミックス相とを有し、該セラミックス相はアルミナ粒子とジルコニア粒子とを含む。本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体は、焼結体の断面において、ガラス相中に分散されたセラミックス相が観察される。
【0036】
焼結体の断面におけるアルミナ粒子の面積率は、13〜30%であり、好ましくは13%超30%以下であり、さらに好ましくは15〜28%であり、特に好ましくは17〜26%である。アルミナ粒子の面積率が高すぎると、電極層の平滑性を損ない、また誘電率が上昇する。アルミナ粒子の面積率が低すぎると、フィラーとしての機能が発現されず、強度を向上できないことがある。したがって、誘電率を低くする上では、アルミナ粒子の面積率は低いことが好ましく、また焼結体の強度向上を優先する場合にはアルミナ粒子の面積率は高いことが好ましい。よって、焼結体の強度向上を優先する態様では、アルミナ粒子の面積率は、26〜30%であってもよく、また28〜30%であってもよく、26〜28%であってもよい。また、誘電率を低くする上では、アルミナ粒子の面積率は13〜17%であってもよく、また13〜15%であってもよく、15〜17%であってもよい。
【0037】
観察面におけるジルコニア粒子の面積率は、0.05〜6%であり、好ましくは0.05〜5%であり、さらに好ましくは1〜5%であり、特に好ましくは2〜5%である。ジルコニア粒子の面積率が高すぎると、焼結体の誘電率が上昇し、高周波域での使用が困難になることがある。ジルコニア粒子の面積率が低すぎると、フィラーとしての機能が発現されず、強度を向上できないことがある。したがって、焼結体の強度向上を優先する態様では、ジルコニア粒子の面積率は、5〜6%であってもよい。また、誘電率を低くする上では、ジルコニア粒子の面積率は0.05〜2%であってもよく、また0.05〜1%であってもよい。
【0038】
また、観察面におけるアルミナ粒子の面積率とジルコニア粒子の面積率は、合計で13.05〜36%であり、好ましくは14%〜33%、さらに好ましくは15%〜30%、特に好ましくは20〜28%の範囲にある。アルミナ粒子の面積率とジルコニア粒子の面積率の合計が高過ぎると誘電率が上昇し、高周波域での使用が困難になることがある。合計の面積率が低すぎると、フィラーとしての機能が発現されず、強度を向上できないことがある。
【0039】
前記焼結体の断面におけるアルミナ粒子は、粒径が所定の範囲にあることが好ましく、95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは実質的に100%の粒子が、円相当径で0.05〜4μmの範囲にあることが好ましい。過度に小さすぎる粒子では、フィラーとしての機能が発現されず、強度を向上できないことがある。また、過大な粒子を含むと電極層の平滑性を損なうことがある。
本実施形態において、アルミナは焼成温度でガラス相に溶融し難く、フィラーとして残存させるという性質上、αアルミナであることが好ましい。アルミナは焼成温度で融解し、少量のアルミナがガラス相に取り込まれることがある。しかし、すべてのアルミナが融解するわけではなく、アルミナとして焼結体に残存する。STEM−EDSおよびXRDで残存粒子が確認可能である。
【0040】
前記焼結体の断面におけるジルコニア粒子は、粒径が所定の範囲にあることが好ましく、95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは実質的に100%の粒子が、円相当径で0.05〜1μmの範囲にあることが好ましい。過度に小さすぎる粒子では、フィラーとしての機能が発現されず、強度を向上できないことがある。また、過大な粒子を含むと電極層の平滑性を損なうことがある。
【0041】
本実施形態において、ジルコニアは、特に限定されないが、例えば、単斜晶ジルコニアや、部分安定化ジルコニア(正方晶と単斜晶の混晶)、安定化ジルコニア(立方晶)の形態で用いることができ、必要に応じてこれらを併用してもよい。ジルコニアは焼成温度で融解し、少量のジルコニウムがガラス相に取り込まれることがある。しかし、すべてのジルコニアが融解するわけではなく、ジルコニアとして焼結体に残存する。STEM−EDSで残存粒子が確認可能であり、面積率が1%あれば、ジルコニアのピークがXRDで観察可能である。
【0042】
なお、ここで粒子の「面積率」とは、断面における観察視野の全面積に対する特定粒子の断面積の割合であり、百分率で表記する。「円相当径」は粒子の投影面積と同じ面積を持つ円の直径を意味し、ヘイウッド径とも呼ばれる。面積率および円相当径は、STEM−EDSによるイメージ画像から求められる。具体的測定法は後述する。
【0043】
また、本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体は、セラミックス相にシリカ粒子をさらに含んでいても良い。シリカ粒子は誘電率εが3.8であり、焼結体の誘電率を低くする作用を有する。しかし、シリカ粒子を過剰に含有すると焼結体の強度が低下する傾向にある。
【0044】
したがって、シリカ粒子を配合する場合、観察面におけるシリカ粒子の面積率は、好ましくは5〜35%であり、さらに好ましくは10〜30%、特に好ましくは15〜25%である。シリカ粒子の面積率が過少であると、焼結体の誘電率が低下し難い。シリカ粒子の面積率が高すぎると、強度が低下することがある。
【0045】
前記焼結体の断面におけるシリカ粒子は、粒径が所定の範囲にあることが好ましく、95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは実質的に100%の粒子が、円相当径で0.2〜4μmの範囲にあることが好ましい。過度に小さすぎる粒子では、粉体の表面積が大きくなりすぎるため、塗料化が困難になる。また、過大な粒子を含むと電極層の平滑性を損なうことがある。
【0046】
本実施形態において、シリカは、特に限定されないが、例えば、α石英(結晶シリカ)や、石英ガラス(アモルファスシリカ)の形態で用いることができ、必要に応じてこれらを併用してもよい。シリカは焼成温度で融解し、少量のシリカがガラス相に取り込まれることがある。しかし、すべてのシリカが融解するわけではなく、シリカとして焼結体に残存する。STEM−EDSおよびXRDで残存粒子が確認可能である。
【0047】
本実施形態において、ガラス相はMO−SiO
2−Al
2O
3−B
2O
3系ガラスを含む。ガラス相は非晶性であり、XRD観察ではハローパターンを示す。MO−SiO
2−Al
2O
3−B
2O
3系ガラスは、ホウケイ酸塩系ガラスであり、低誘電率であり、また低温焼結が可能なため、特にインダクタ素子に焼結体を適用する場合に好ましい。ここで、Mは、アルカリ土類金属(Mg、Ca、SrおよびBa)から選択される1種以上であればよく、好ましくはCaを含み、かつMg、SrおよびBaから1種類以上を含み、特に好ましくはCaおよびSrを含む。したがって、特に好ましいMOは、CaOおよびSrOを含む。また、該ガラスは、ガラス転移点が700〜850℃であることが好ましい。なお、ガラス転移点は、熱機械分析装置(TMA)により測定される。
【0048】
焼結後のMO−SiO
2−Al
2O
3−B
2O
3系ガラスは、主としてMO、SiO
2、Al
2O
3およびB
2O
3から構成されており、フィラーとして用いるアルミナ、ジルコニアあるいはシリカの一部がガラス相に取り込まれていても良い。したがって、焼結後のガラス相の組成は、原料として使用するガラス粒子の組成とは一致しないことがある。
【0049】
焼結後の好ましいガラス相は、後述するSTEM‐EDS分析による酸化物換算で、
MO(Mはアルカリ土類金属)を5〜14質量%、さらに好ましくは6〜13質量%含み、
Al
2O
3を3〜20質量%、さらに好ましくは8〜15質量%含み、
SiO
2を60〜80質量%、さらに好ましくは65〜75質量%含み、
B
2O
3を2〜12質量%、さらに好ましくは3〜8質量%含む。
【0050】
さらに、ガラス相には、原料の混合時にメディアとして使用するジルコニアボールあるいはフィラーのジルコニアに由来するジルコニウムが取り込まれることがある。
【0051】
したがって、ガラス相は、酸化物換算で、ZrO
2を2質量%以下、好ましくは1質量%以下の割合で含んでいても良い。
【0052】
上記ガラス相は、Al
2O
3を含むため、フィラーとして用いられるアルミナ粒子との結合が強くなり、焼結体の強度向上に寄与する。
【0053】
また、該ガラスは、本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分を含有していてもよく、他の成分の含有量の合計は、該ガラス中に、好ましくは2質量%以下ある。他の成分としては、例えばK
2O、Na
2O等が挙げられる。
【0054】
上記のMO−SiO
2−Al
2O
3−B
2O
3系ガラスは、低温焼成が可能であり、アルミナ粒子およびジルコニア粒子との混合により、低誘電率および高強度を実現でき、さらに、電子部品化した際に高いQ値を実現し得る。
【0055】
(製造方法)
本発明のガラスセラミック焼結体は、ガラス原料、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、必要に応じシリカ粒子を混合し、焼結して得られる。
【0056】
ガラス原料は、焼結後の組成が上記したガラス組成を満足するように調製されたMO−SiO
2−Al
2O
3−B
2O
3系ガラスが使用される。原料ガラスの粒径は特に限定はされないが、レーザー回折式粒度分布計による測定でD90が好ましくは1〜5μm、さらに好ましくは2〜4μmである。Agを含む内部電極層を有する電子部品の製造に際しては、950℃以下で焼結可能なガラス原料を用いることが好ましい。適用するガラスは1種類に限定されず、組成比の異なる複数のガラス原料を使用しても良い。また、焼結温度が過度に上昇しない範囲で、MO−SiO
2−Al
2O
3−B
2O
3系ガラス以外のガラスを併用してもよい。
【0057】
原料アルミナ粒子は、焼結工程後にもガラス相に融解せず、少なくとも一部がセラミックス相を形成するように残存させるため、融点の高いαアルミナであることが好ましい。アルミナは焼成温度で融解し、少量のアルミナがガラス相に取り込まれることがある。しかし、すべてのアルミナが融解するわけではなく、アルミナとして焼結体に残存する。残存したアルミナ粒子は、焼結体断面において所定の円相当径を有することが好ましい。したがって、レーザー回折式粒度分布計による測定で、原料アルミナ粒子のD90は好ましくは1〜3μm、さらに好ましくは1.5〜2μmである。
【0058】
原料ジルコニア粒子は、例えば、単斜晶ジルコニアや、部分安定化ジルコニア(正方晶と単斜晶の混晶)、安定化ジルコニア(立方晶)の形態で用いることができ、必要に応じてこれらを併用してもよい。ジルコニアは焼成温度で融解し、少量のジルコニウムがガラス相に取り込まれることがある。しかし、すべてのジルコニアが融解するわけではなく、ジルコニアとして焼結体に残存する。残存したジルコニア粒子は、焼結体断面において所定の円相当径を有することが好ましい。したがって、レーザー回折式粒度分布計による測定で、原料ジルコニア粒子のD90は、好ましくは0.1〜4μm、さらに好ましくは0.1〜2μmである。
【0059】
原料シリカ粒子は、例えば、α石英(結晶シリカ)や、石英ガラス(アモルファスシリカ)の形態で用いることができ、必要に応じてこれらを併用してもよい。シリカは焼成温度で融解し、少量のケイ素がガラス相に取り込まれることがある。しかし、すべてのシリカが融解するわけではなく、シリカとして焼結体中に残存する。残存したシリカ粒子は、焼結体断面において所定の円相当径を有することが好ましい。したがって、レーザー回折式粒度分布計による測定で、原料シリカ粒子のD90は、好ましくは1.5〜4μm、さらに好ましくは2〜3μmである。
【0060】
本発明のガラスセラミックス焼結体の製造方法について、
図1に示した積層チップコイル1の製造を例にとり、さらに詳細に説明する。
【0061】
図1に示す積層チップコイル1は、上記原料を用い、一般的な製造方法により製造することができる。すなわち、上記した各原料粒子を、バインダーと溶剤とともに混練して得たガラスセラミックスペーストを、Agなどを含む導体ペーストと交互に印刷積層した後、焼成することで、本発明のガラスセラミックス焼結体を備えるチップ素体4を形成することができる(印刷法)。
【0062】
あるいはガラスセラミックスペーストを用いてグリーンシートを作製し、グリーンシートの表面に内部電極ペーストを印刷し、それらを積層して焼成することでチップ素体4を形成しても良い(シート法)。いずれにしても、チップ素体4を形成した後に、端子電極5を焼き付けあるいはメッキなどで形成すれば良い。
【0063】
ガラスセラミックスペースト中のバインダーおよび溶剤の含有量には制限はなく、例えば、バインダーの含有量は5〜25重量%、溶剤の含有量は30〜80重量%程度の範囲で設定することができる。また、ペースト中には、必要に応じて分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等を20重量%以下の範囲で含有させることができる。Agなどを含む導体ペーストも同様にして作製することができる。また、焼成条件などは、特に限定されないが、内部電極層にAgなどが含まれる場合には、焼成温度は、好ましくは950℃以下、さらに好ましくは920℃以下である。焼成時間は特に限定はされないが、高温で長時間焼成すると、フィラーとして用いたアルミナ、ジルコニア、シリカが融解し、ガラス相に取り込まれることがある。したがって、焼成温度にもよるが、0.5〜10時間、さらには1〜5時間程度が好ましい。
【0064】
本実施形態のガラスセラミックス焼結体は、フィラーとしてアルミナおよびジルコニアを併用することで、フィラー量を過度に増加することなく、誘電率を低くでき、強度、焼結性をバランスよく改善できる。さらに、フィラー量を抑制しても、アルミナおよびジルコニアはガラス相との濡れ性が高く、十分な強度を有するガラスセラミックス焼結体が得られる。また、フィラー量が抑制できるため、焼結体と内部電極との界面を平滑化させることが可能となり、高周波インダクタのQ値の向上も期待できる。さらにアルミナおよびジルコニアにより十分な強度が確保できるため、低誘電率のシリカを比較的多量に配合でき、焼結体の誘電率をさらに低下できる。また、好ましい実施形態に係るガラス原料、フィラー原料よれば、焼結性が高く、好ましくは840℃〜950℃、より好ましくは870℃〜950℃程度の低温で焼成しても十分に緻密なガラスセラミックス焼結体が得られる。そのため、例えば低温で焼結させることが求められるAgを導体とする積層チップコイル等のコイル電子部品のセラミックス層として好適に用いることができる。
【0065】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0066】
また、本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体は、半導体装置のコイル素子などとして用いることもできる。本発明に係るコイル素子としては、例えば、本発明に係るガラスセラミックス焼結体を薄膜化し、半導体装置等の基板に組み込むコイル部品等が挙げられる。
【0067】
また、本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体は、高周波コイル用層間材料として好適に用いることができる。
【0068】
本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体は、誘電率が低く、かつ十分な強度を有するため、特に、内部電極層3、3間のセラミックス層2を構成する層間材料としてより好適である。
【0069】
本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体によれば、誘電率、強度、焼結性をバランスよく改善でき、かつ焼成後の焼結体と内部電極界面を平滑化させることが可能であり、凹凸の少ない平滑な内部電極層が得られ、コイル電子部品全体として、高周波領域での高いQ値を実現できる。ガラスセラミックス焼結体は、特に、1GHz以上の周波数領域で使用される高周波コイル用として特に好適である。
【0070】
上記本実施形態では、コイル電子部品1のセラミックス層2は、同一の材料で形成している例を示しているが、必ずしも同一材料にて形成する必要はない。上述のように、本実施形態に係るガラスセラミックス組成物は、内部電極層3、3間のセラミックス層2を構成する層間材料として特に好適であり、コイル導体30に接していないセラミックス層2は、他のセラミック材料により構成されていてもよい。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を、更に詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0072】
ガラス原料として、表1に記載の組成を有するCaO−SrO−SiO
2−Al
2O
3−B
2O
3系ガラス(試料番号1〜20)、CaO−BaO−SiO
2−Al
2O
3−B
2O
3系ガラス(試料番号21)を準備した。フィラー原料として、アルミナ粒子(D90:1.5μm)、ジルコニア粒子(D90:0.8μm)およびアモルファスシリカ(D90:3μm)を準備し、それぞれを秤量した。
【0073】
次に、予め秤量しておいた原材料を、溶媒(99%メタノール変性エタノール)と共に、ボールミル(メディアはジルコニアボール)を用いて、24時間湿式混合し、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、溶媒がなくなるまで乾燥機にて乾燥させ、ガラスセラミックス材料を得た。
【0074】
次に、得られたガラスセラミックス材料100重量部に対して、バインダーとしてアクリル樹脂系バインダー(エルバサイト、デュポン社製)を2.5重量部添加して造粒し、20メッシュの篩で整粒して顆粒とした。この顆粒を74MPa(0.75ton/cm
2)の圧力で加圧成形して、17φディスク形状(寸法=直径17mm、厚さ8.5mm)の成形体を得た。その後、得られた成形体を、空気中、900℃にて2時間焼成し、焼結体を得た。
【0075】
次に、得られた焼結体に対し、以下に示す条件で、各種特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
[面積率および円相当径]
焼結体のガラス相中に分散したアルミナ粒子、ジルコニア粒子およびアモルファスシリカの面積率および円相当径をSTEM−EDSにより下記の手順で測定した。
【0077】
1.画像解析ソフトおよび画像解析方法
焼結体中に含まれるアルミナ粒子、ジルコニア粒子およびアモルファスシリカの面積率はSTEM−EDSのマッピング像をマウンテック社製の画像解析ソフトであるMac−Viewを用いて、マッピング像の視野面積に対する各粒子の面積を求め、その割合を算出した。マッピング像に基づいて粒子と判断される箇所の外周をペンでなぞることで、その粒子の面積および円相当径を算出する。
【0078】
2.ガラス相、アルミナ、ジルコニアおよびアモルファスシリカの分離
FIB(FEI社製 Nova200)により焼結体からサンプリングし、STEM−EDS(日本電子社製 JEOL−2200FS)を用いて、加速電圧200kVの条件でSTEM観察とEDS分析を行った。EDSマッピングにより、各元素について
図2に示すような画像が得られる。Alの濃度が高い箇所はアルミナ粒子と判断され、Zrの濃度が高い箇所はジルコニア粒子と判断される。またSiの濃度が高い箇所はアモルファスシリカと判断される。
【0079】
XRD(PANalytical社製 X’PertPro)を用いて、X線出力設定45kV、40mAの条件で焼結体を測定したところ、
図3に示すように結晶相はαアルミナ、単斜晶ジルコニアのみから構成されることが確認できた。また、アモルファスのハローパターンも確認でき、αアルミナ、単斜晶ジルコニア以外はガラス相から構成されることがわかる。シリカ原料に石英ガラス(アモルファスシリカ)を用いた場合は、ガラス相と同じハローパターンとなる。しかし、アモルファスシリカの面積率に比べてハローパターンは大きく観察されるため、アモルファスシリカと原料ガラスとに由来する非結晶相が存在していると推定される。したがって、本発明の焼結体では、CaO−SrO−SiO
2−Al
2O
3−B
2O
3系ガラス相中に、アルミナ、ジルコニア、アモルファスシリカが分散された構造であることが確認できる。
【0080】
1サンプルについて、3視野の分析を行い、各粒子について平均値を算出し、アルミナ粒子、ジルコニア粒子およびアモルファスシリカの面積率とした。
【0081】
[ガラス相組成]
EDSマッピングにおいてアルミナ、ジルコニアおよびアモルファスシリカ以外の領域においては、アルカリ土類金属が連続して存在することを確認し、CaO−SrO−SiO
2−Al
2O
3−B
2O
3の組成を有する相と判断した。XRDにおいてアルミナ、ジルコニア以外の結晶ピークは確認されず、アモルファス相由来のハローパターンのみ存在することからこの領域は結晶化しておらず、CaO−SrO−SiO
2−Al
2O
3−B
2O
3系ガラス相を形成していると判断した。ガラス相の組成を調べるためガラス相中の異なる5か所を点分析し、その平均値を求めた。
【0082】
[焼結性]
ガラスセラミックス材料の焼結性は、FE−SEMを用いて焼結体の破断面観察を行い、空孔が少なく、緻密化が十分進んでいると判断されたものを良好、不十分と判断されたものを不良とした
【0083】
[比誘電率]
比誘電率(単位なし)は、ネットワークアナライザー(Agilent Technologies社製PNA N5222A)用いて、共振法(JIS R 1627)にて測定した。なお、本実施例では、比誘電率5.7未満を良好とした。
【0084】
[絶縁抵抗]
絶縁抵抗(単位:Ωm)は、得られた焼結体の両面にIn−Ga電極を塗り、直流抵抗値を測定し、抵抗値と寸法から算出した。測定は、絶縁抵抗計(HEWLETT PACKARD社製 4329A)を用いて、25V−30秒の条件で行った。なお、本実施例では、1×10
7Ω・m以上を良好とした。
[曲げ強度]
INSTRON社製万能材料試験機5543を用い、3点曲げ試験(支点間距離15mm)により焼結体の曲げ強度を測定した。なお、本実施例では150MPa以上を良好とした。
【0085】
【表1】
【0086】
表中、※を付した試料番号は、比較実験例を示す。なお、STEM−EDSの結果から、焼結体の断面において、アルミナ粒子の95%以上が、円相当径で0.05〜4μmの範囲にあり、ジルコニア粒子の95%以上が、円相当径で0.05〜1μmの範囲にあり、アモルファスシリカの95%以上が、円相当径で0.2〜4μmの範囲にあることを確認した。また、アモルファスシリカの面積率は何れの試料でも5〜35%の範囲にあった。
【0087】
上記結果から、本発明に係るガラスセラミックス焼結体は、低い誘電率と高い曲げ強度とが両立していることが分かる。ジルコニア粒子が配合されない場合(試料9)は、誘電率は低いものの、曲げ強度が低い。少量のジルコニア粒子を配合することで、曲げ強度が向上する(試料4,6,10,11)。アルミナ粒子、ジルコニア粒子の配合量が増大するにつれ、曲げ強度、誘電率ともに増加する。また、アルミナ粒子が過剰に配合(試料7,8)されると曲げ強度は高くなるが、誘電率は過度に上昇してしまう。アルミナ粒子の配合量は、適正な誘電率を達成する観点から、面積率で30%程度が上限となる。ジルコニア粒子の配合による曲げ強度の向上は、面積率で6%程度が上限となる(試料12、試料13)。