(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の被覆部に含まれるFeの酸化物におけるFe原子のうち、価数が3価であるFe原子の割合が50%以上であることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性金属粉末。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、図面に示す具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.軟磁性金属粉末
1.1.軟磁性金属粒子
1.2.被覆部
1.2.1.第1の被覆部
1.2.2.第2の被覆部
1.2.3.第3の被覆部
2.圧粉磁心
3.磁性部品
4.圧粉磁心の製造方法
4.1.軟磁性金属粉末の製造方法
4.2.圧粉磁心の製造方法
【0022】
(1.軟磁性金属粉末)
本実施形態に係る軟磁性金属粉末は、
図1に示すように、軟磁性金属粒子2の表面に被覆部10が形成された被覆粒子1を複数含む。軟磁性金属粉末に含まれる粒子の個数割合を100%とした場合、被覆粒子の個数割合が90%以上であることが好ましく、95%以上であることが好ましい。なお、軟磁性金属粒子2の形状は特に制限されないが、通常、球形である。
【0023】
また、本実施形態に係る軟磁性金属粉末の平均粒子径(D50)は、用途および材質に応じて選択すればよい。本実施形態では、平均粒子径(D50)は、0.3〜100μmの範囲内であることが好ましい。軟磁性金属粉末の平均粒子径を上記の範囲内とすることにより、十分な成形性あるいは所定の磁気特性を維持することが容易となる。平均粒子径の測定方法としては、特に制限されないが、レーザー回折散乱法を用いることが好ましい。
【0024】
(1.1.軟磁性金属粒子)
本実施形態では、軟磁性金属粒子の材質は、Feを含み軟磁性を示す材料であれば特に制限されない。本実施形態に係る軟磁性金属粉末が奏する効果は、主として、後述する被覆部に起因するものであり、軟磁性金属粒子の材質の寄与は小さいからである。
【0025】
Feを含み軟磁性を示す材料としては、純鉄、Fe系合金、Fe−Si系合金、Fe−Al系合金、Fe−Ni系合金、Fe−Si−Al系合金、Fe−Si−Cr系合金、Fe−Ni−Si−Co系合金、Fe系アモルファス合金、Fe系ナノ結晶合金等が例示される。
【0026】
Fe系アモルファス合金は、合金を構成する原子の配列がランダムであり、合金全体として結晶性を有していない非晶質合金である。Fe系アモルファス合金としては、たとえば、Fe−Si−B系、Fe−Si−B−Cr−C系等が例示される。
【0027】
Fe系ナノ結晶合金は、Fe系アモルファス合金、または、初期微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有するFe系合金を熱処理することにより、非晶質中にナノメートルオーダーの微結晶が析出した合金である。
【0028】
本実施形態では、Fe系ナノ結晶合金から構成される軟磁性金属粒子における平均結晶子径が1nm以上50nm以下であることが好ましく、5nm以上30nm以下であることがより好ましい。平均結晶子径が上記の範囲内であることにより、軟磁性金属粒子に被覆部を形成する際に、当該粒子に応力が掛かっても、保磁力の増加を抑制することができる。
【0029】
Fe系ナノ結晶合金としては、たとえば、Fe−Nb−B系、Fe−Si−Nb−B−Cu系、Fe−Si−P−B−Cu系等が例示される。
【0030】
また、本実施形態では、軟磁性金属粉末は、材質が同じ軟磁性金属粒子のみを含んでいてもよいし、材質が異なる軟磁性金属粒子が混在していてもよい。たとえば、軟磁性金属粉末は、複数のFe系合金粒子と、複数のFe−Si系合金粒子との混合物であってもよい。
【0031】
なお、異なる材質とは、金属または合金を構成する元素が異なる場合、構成する元素が同じであってもその組成が異なる場合、結晶系が異なる場合等が例示される。
【0032】
(1.2.被覆部)
被覆部10は絶縁性であり、第1の被覆部11と、第2の被覆部12と、第3の被覆部13と、から構成される。被覆部10は、軟磁性金属粒子の表面から外側に向かって、第1の被覆部11、第2の被覆部12、第3の被覆部13の順で構成されていれば、第1の被覆部11、第2の被覆部12、第3の被覆部13以外の被覆部を有していてもよい。
【0033】
第1の被覆部11、第2の被覆部12、第3の被覆部13以外の被覆部は、軟磁性金属粒子の表面と第1の被覆部11との間に配置されていてもよいし、第1の被覆部11と第2の被覆部12との間に配置されていてもよいし、第2の被覆部12と第3の被覆部13との間に配置されていてもよいし、第3の被覆部13上に配置されていてもよい。
【0034】
本実施形態では、第1の被覆部11は、軟磁性金属粒子2の表面を覆うように形成されており、第2の被覆部12は、第1の被覆部11の表面を覆うように形成されており、第3の被覆部13は、第2の被覆部12の表面を覆うように形成されている。
【0035】
本実施形態では、表面が物質により被覆されているとは、当該物質が表面に接触して接触した部分を覆うように固定されている形態をいう。また、軟磁性金属粒子または被覆部の表面を被覆する被覆部は、粒子の表面の少なくとも一部を覆っていればよいが、表面の全部を覆っていることが好ましい。さらに、被覆部は粒子の表面を連続的に覆っていてもよいし、断続的に覆っていてもよい。
【0036】
(1.2.1.第1の被覆部)
図1に示すように、第1の被覆部11は、軟磁性金属粒子2の表面を覆っている。また、第1の被覆部11は、酸化物から構成されていることが好ましい。本実施形態では、第1の被覆部11は、Siの酸化物を主成分として含んでいる。「Siの酸化物を主成分として含む」とは、第1の被覆部11に含まれる元素のうち、酸素を除いた元素の合計量を100質量%とした場合に、Siの含有量が最も多いことを意味する。本実施形態では、Siは、酸素を除いた元素の合計量100質量%に対して、30質量%以上含まれることが好ましい。
【0037】
被覆部が第1の被覆部を有することにより、得られる圧粉磁心の耐熱性が向上する。したがって、熱処理後の圧粉磁心の抵抗率の低下を抑制することができるため、圧粉磁心のコアロスを低減することができる。
【0038】
第1の被覆部に含まれる成分は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope)を用いたエネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDS)による元素分析、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy:EELS)による元素分析、TEM画像の高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)解析等により得られる格子定数等の情報から同定することができる。
【0039】
第1の被覆部11の厚みは、上記の効果が得られる限りにおいて特に制限されない。本実施形態では、1nm以上30nm以下であることが好ましい。また、3nm以上であることがより好ましく、5nm以上であることがさらに好ましい。一方、10nm以下であることがより好ましく、7nm以下であることがさらに好ましい。
【0040】
(1.2.2.第2の被覆部)
図1に示すように、第2の被覆部12は、第1の被覆部11の表面を覆っている。また、第2の被覆部12は、酸化物から構成されていることが好ましい。本実施形態では、第2の被覆部12は、Feの酸化物を主成分として含んでいる。「Feの酸化物を主成分として含む」とは、第2の被覆部12に含まれる元素のうち、酸素を除いた元素の合計量を100質量%とした場合に、Feの含有量が最も多いことを意味する。また、本実施形態では、Feは、酸素を除いた元素の合計量100質量%に対して、50質量%以上含まれることが好ましい。
【0041】
また、第2の被覆部は、Feの酸化物以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、たとえば、軟磁性金属粒子を構成する軟磁性金属に含まれるFe以外の合金元素が例示される。具体的には、Cu、Si、Cr、B、AlおよびNiからなる群から選ばれる1つ以上の元素の酸化物が例示される。これらの酸化物は、軟磁性金属粒子に形成された酸化物であってもよいし、軟磁性金属粒子を構成する軟磁性金属に含まれる合金元素由来の酸化物であってもよい。第2の被覆部に、これらの元素の酸化物が含まれることにより、被覆部の絶縁性を補強することができる。
【0042】
Feの酸化物の形態は特に制限されず、たとえば、FeO、Fe
2O
3、Fe
3O
4として存在する。ただし、本実施形態では、第2の被覆部12に含まれるFeの酸化物のFeのうち、価数が3価であるFeの割合が50%以上であることが好ましい。すなわち、たとえば、Feの価数が2価であるFeOは、第2の被覆部12に50%以上含まれることは好ましくない。また、価数が3価であるFeの割合は60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。
【0043】
被覆部が、第1の被覆部に加えて、第2の被覆部を有することにより、得られる圧粉磁心の耐電圧性が向上する。したがって、熱硬化して得られる圧粉磁心に高い電圧を印加しても絶縁破壊が生じない。その結果、圧粉磁心の定格電圧を高めることや圧粉磁心の小型化を達成することができる。
【0044】
第2の被覆部に含まれる成分は、第1の被覆部に含まれる成分と同様に、TEMを用いたEDSによる元素分析、EELSによる元素分析、TEM画像のFFT解析等により得られる格子定数等の情報から同定することができる。
【0045】
第2の被覆部12に含まれるFeのうち、価数が3価であるFeの割合が50%以上であるか否かは、FeとOとの化学結合状態を解析できる分析手法であれば特に制限されないが、本実施形態では、第2の被覆部に対して、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy:EELS)を用いて分析を行う。具体的には、TEMにより得られるEELSスペクトルに現れる吸収端近傍微細構造(Energy Loss Near Edge Structure:ELNES)を解析して、FeとOの化学結合状態の情報を得て、Feの価数を算出する。
【0046】
Feの酸化物のEELSスペクトルにおいて、酸素K端のELNESスペクトルの形状は、FeとOとの化学結合状態を反映しており、Feの価数により変化する。そこで、Feの価数が3価であるFe
2O
3の標準物質のEELSスペクトルと、Feの価数が2価であるFeOの標準物質のEELSスペクトルとにおいて、それぞれの酸素K端のELNESスペクトルをリファレンスとする。ここで、Fe
3O
4の酸素K端のELNESスペクトルについては、Fe
3O
4には2価のFeと3価のFeとが混在しており、スペクトルの形状が、FeOの酸素K端のELNESスペクトルの形状と、Fe
2O
3の酸素K端のELNESスペクトルの形状と、の合成形状とほぼ等しいので、Fe
3O
4の酸素K端のELNESスペクトルはリファレンスとして用いない。
【0047】
なお、第2の被覆部におけるFeの酸化物の存在形態は、元素分析、格子定数等の情報に基づき決定するので、Fe
3O
4の酸素K端のELNESスペクトルをリファレンスとして用いないことが、第2の被覆部にFe
3O
4が存在しないことを意味するのではない。FeO、Fe
2O
3、Fe
3O
4を確認する手法としては、たとえば、電子顕微鏡による回折パターンを解析する手法が例示される。
【0048】
Feの価数を算出するために、第2の被覆部に含まれるFeの酸化物の酸素K端のELNESスペクトルについて、リファレンスのスペクトルを用いて最小二乗法によるフィッティングを行う。フィッティング結果を、FeOのスペクトルのフィッティング係数とFe
2O
3のスペクトルのフィッティング係数との和が1となるように規格化することにより、第2の被覆部に含まれるFeの酸化物の酸素K端のELNESスペクトルに対する、FeOのスペクトルに起因する割合と、Fe
2O
3のスペクトルに起因する割合とが算出される。
【0049】
本実施形態では、Fe
2O
3のスペクトルに起因する割合が、第2の被覆部に含まれるFeの酸化物中における3価のFeの割合であると見なして、価数が3価であるFeの割合を算出する。
【0050】
なお、最小二乗法によるフィッティングは、公知のソフトウェア等を用いて行うことができる。
【0051】
第2の被覆部12の厚みは、上記の効果が得られる限りにおいて特に制限されない。本実施形態では、3nm以上50nm以下であることが好ましい。5nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。一方、50nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることがさらに好ましい。
【0052】
本実施形態では、第2の被覆部12に含まれるFeの酸化物は緻密な構造を有している。Feの酸化物が緻密であることにより、被覆部が絶縁破壊しにくく耐電圧性が良好となる。このような緻密なFeの酸化物は、酸化雰囲気中で熱処理することにより好適に形成できる。
【0053】
一方、Feの酸化物は、大気中で軟磁性金属粒子の表面が酸化することにより自然酸化膜として形成されることがある。軟磁性金属粒子の表面では、水分の存在下において、酸化還元反応によりFe
2+が生じ、Fe
2+がさらに空気酸化されてFe
3+が生じる。Fe
2+とFe
3+とは共沈してFe
3O
4が生じるが、生じたFe
3O
4は軟磁性金属粒子の表面から剥がれやすい傾向にある。また、Fe
2+およびFe
3+は、加水分解により、含水鉄酸化物(水酸化鉄、オキシ水酸化鉄等)を形成して、自然酸化膜に含まれることがある。しかしながら、含水鉄酸化物は緻密な構造を形成できないため、緻密なFeの酸化物を含まない自然酸化膜が第2の被覆部として形成されても耐電圧性を良好にすることができない。
【0054】
(1.2.3.第3の被覆部)
図1に示すように、第3の被覆部13は、第2の被覆部12の表面を覆っている。本実施形態では、第3の被覆部13は、P、Si、BiおよびZnからなる群から選ばれる1つ以上の元素の化合物を含んでいる。また、当該化合物は酸化物であることが好ましく、酸化物ガラスであることがより好ましい。
【0055】
また、P、Si、BiおよびZnからなる群から選ばれる1つ以上の元素の化合物を主成分として含んでいることが好ましい。当該化合物は酸化物であることがより好ましい。「P、Si、BiおよびZnからなる群から選ばれる1つ以上の元素の酸化物を主成分として含む」とは、第3の被覆部13に含まれる元素のうち、酸素を除いた元素の合計量を100質量%とした場合に、P、Si、BiおよびZnからなる群から選ばれる1つ以上の元素の合計量が最も多いことを意味する。また、本実施形態では、これらの元素の合計量は50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
【0056】
酸化物ガラスとしては特に限定されず、たとえば、リン酸塩(P
2O
5)系ガラス、ビスマス酸塩(Bi
2O
3)系ガラス、ホウケイ酸塩(B
2O
3−SiO
2)系ガラス等が例示される。
【0057】
P
2O
5系ガラスとしては、P
2O
5が50wt%以上含まれるガラスが好ましく、P
2O
5−ZnO−R
2O−Al
2O
3系ガラス等が例示される。なお、「R」はアルカリ金属を示す。
【0058】
Bi
2O
3系ガラスとしては、Bi
2O
3が50wt%以上含まれるガラスが好ましく、Bi
2O
3−ZnO−B
2O
3−SiO
2−Al
2O
3系ガラス等が例示される。
【0059】
B
2O
3−SiO
2系ガラスとしては、B
2O
3が10wt%以上含まれ、SiO
2が10wt%以上含まれるガラスが好ましく、BaO−ZnO−B
2O
3−SiO
2−Al
2O
3系ガラス等が例示される。
【0060】
被覆部が第3の被覆部を有していることにより、被覆粒子は高い絶縁性を示すので、被覆粒子を含む軟磁性金属粉末から構成される圧粉磁心の抵抗率が向上する。さらに、圧粉磁心を熱処理しても、軟磁性金属粒子と第3の被覆部との間には第1の被覆部および第2の被覆部が配置されているので、第3の被覆部へのFeの移動が阻害される。その結果、圧粉磁心の抵抗率の低下を抑制することができる。
【0061】
また、本実施形態では、
図2に示すように、第3の被覆部の内部に、軟磁性金属微粒子20が存在することが好ましい。被覆粒子1において、最外層である第3の被覆部の内部に、軟磁性を示す微粒子が存在することにより、被覆部の厚みを大きくした場合、すなわち、絶縁性を高めた場合であっても、透磁率の低下を抑制できる。
【0062】
また、軟磁性金属微粒子20は、短径方向SDが被覆粒子1の周方向CDよりも径方向RDに近く、長径方向LDが被覆粒子の径方向RDより周方向CDに近いことが好ましい。このような形態で存在することにより、本実施形態に係る軟磁性金属粉末が圧粉成形される際に、各被覆粒子に圧力が掛かっても、軟磁性金属微粒子20が圧力を分散することができるので、軟磁性金属微粒子20が存在していても被覆部10の破壊が抑制され、絶縁性を維持することができる。
【0063】
また、軟磁性金属微粒子20の短径と長径とから算出されるアスペクト比(短径:長径)は、1:2〜1:10000であることが好ましい。また、アスペクト比は、1:2以上であることがより好ましく、1:10以上であることがさらに好ましい。一方、1:1000以下であることがより好ましく、1:100以下であることがさらに好ましい。軟磁性金属微粒子20の形状に異方性を持たせることにより、軟磁性金属微粒子20を通る磁束が1点に集中せず、面上に分散することになるため、粉末の接点での磁気飽和を抑制でき直流重畳特性が良好となる。なお、軟磁性金属微粒子20の長径は、軟磁性金属微粒子20が第3の被覆部13の内部に存在していれば、特に制限されないが、たとえば、10nm以上1000nm以下である。
【0064】
軟磁性金属微粒子20の材質としては、軟磁性を示す金属であれば特に制限されない。具体的には、Fe、Fe−Co系合金、Fe−Ni−Cr系合金等が例示される。また、被覆部10が形成される軟磁性金属粒子2の材質と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0065】
本実施形態では、軟磁性金属粉末に含まれる被覆粒子1の個数割合を100%とした場合に、第3の被覆部13の内部に軟磁性金属微粒子2が存在する被覆粒子1の個数割合は、特に制限されないが、たとえば、50%以上100%以下であることが好ましい。
【0066】
第3の被覆部に含まれる成分は、第1の被覆部に含まれる成分と同様に、TEMを用いたEDSによる元素分析、EELSによる元素分析、TEM画像のFFT解析等により得られる格子定数等の情報から同定することができる。
【0067】
第3の被覆部13の厚みは、上記の効果が得られる限りにおいて特に制限されない。本実施形態では、5nm以上200nm以下であることが好ましい。7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。一方、100nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。
【0068】
第3の被覆部13が、軟磁性金属微粒子20を含む場合には、第3の被覆部13の厚みが大きくても透磁率の低下を抑制できるので、150nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。
【0069】
(2.圧粉磁心)
本実施形態に係る圧粉磁心は、上述した軟磁性金属粉末から構成され、所定の形状を有するように形成されていれば特に制限されない。本実施形態では、軟磁性金属粉末と結合剤としての樹脂とを含み、当該軟磁性金属粉末を構成する軟磁性金属粒子同士が樹脂を介して結合することにより所定の形状に固定されている。また、当該圧粉磁心は、上述した軟磁性金属粉末と他の磁性粉末との混合粉末から構成され、所定の形状に形成されていてもよい。
【0070】
(3.磁性部品)
本実施形態に係る磁性部品は、上記の圧粉磁心を備えるものであれば特に制限されない。たとえば、所定形状の圧粉磁心内部に、ワイヤが巻回された空芯コイルが埋設された磁性部品であってもよいし、所定形状の圧粉磁心の表面にワイヤが所定の巻き数だけ巻回されてなる磁性部品であってもよい。本実施形態に係る磁性部品は、電源回路に用いられるパワーインダクタに好適である。
【0071】
(4.圧粉磁心の製造方法)
続いて、上記の磁性部品が備える圧粉磁心を製造する方法について説明する。まず、圧粉磁心を構成する軟磁性金属粉末を製造する方法について説明する。
【0072】
(4.1.軟磁性金属粉末の製造方法)
本実施形態では、被覆部が形成される前の軟磁性金属粉末は、公知の軟磁性金属粉末の製造方法と同様の方法を用いて得ることができる。具体的には、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、回転ディスク法等を用いて製造することができる。また、単ロール法により得られる薄帯を機械的に粉砕して製造してもよい。これらの中では、所望の磁気特性を有する軟磁性金属粉末が得られやすいという観点から、ガスアトマイズ法を用いることが好ましい。
【0073】
ガスアトマイズ法では、まず、軟磁性金属粉末を構成する軟磁性金属の原料が溶解した溶湯を得る。軟磁性金属に含まれる各金属元素の原料(純金属等)を準備し、最終的に得られる軟磁性金属の組成となるように秤量し、当該原料を溶解する。なお、金属元素の原料を溶解する方法は特に制限されないが、たとえば、アトマイズ装置のチャンバー内で真空引きした後に高周波加熱にて溶解させる方法が例示される。溶解時の温度は、各金属元素の融点を考慮して決定すればよいが、たとえば1200〜1500℃とすることができる。
【0074】
得られた溶湯をルツボ底部に設けられたノズルを通じて線状の連続的な流体としてチャンバー内に供給し、供給された溶湯に高圧のガスを吹き付けて、溶湯を液滴化するとともに、急冷して微細な粉末を得る。ガス噴射温度、チャンバー内の圧力等は、軟磁性金属の組成に応じて決定すればよく、粒子径については篩分級や気流分級等をすることにより粒度調整が可能である。
【0075】
続いて、得られる軟磁性金属粒子に対して被覆部を形成する。被覆部を形成する方法としては、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。軟磁性金属粒子に対して湿式処理を行って被覆部を形成してもよいし、乾式処理を行って被覆部を形成してもよい。
【0076】
第1の被覆部は、粉末スパッタ法、ゾルゲル法、メカノケミカルを利用したコーティング方法等により形成することができる。粉末スパッタ法では、軟磁性金属粒子をバレル容器内に投入し、バレル容器内を排気して真空状態としてから、バレル容器を回転させながらバレル容器内に設置されたSiの酸化物のターゲットをスパッタリングして、軟磁性金属粒子の表面に堆積させることにより、第1の被覆部を形成することができる。第1被覆部の厚みは、スパッタリング時間等により調整することができる。
【0077】
また、第2の被覆部は、酸化雰囲気中での熱処理、第1の被覆部と同様に粉末スパッタ法等により形成することができる。酸化雰囲気中での熱処理では、第1の被覆部が形成された軟磁性金属粒子を酸化雰囲気中で所定の温度で熱処理することにより、軟磁性金属粒子を構成するFeが第1の被覆部を通り抜けて第1の被覆部の表面まで拡散し、表面で雰囲気中の酸素と結合して、緻密なFeの酸化物が形成される。このようにすることにより、第2の被覆部を形成することができる。軟磁性金属粒子を構成する他の金属元素が拡散しやすい元素である場合には、当該金属元素の酸化物も第2の被覆部に含まれる。第2の被覆部の厚みは、熱処理温度および時間等により調整することができる。
【0078】
また、第3の被覆部は、メカノケミカルを利用したコーティング方法、リン酸塩処理法、ゾルゲル法等により形成することができる。メカノケミカルを利用したコーティング方法では、たとえば、
図3に示す粉末被覆装置100を用いる。第1の被覆部および第2の被覆部が形成された軟磁性金属粉末と、第3の被覆部を構成する材質(P、Si、Bi、Znの化合物等)の粉末状コーティング材とを、粉末被覆装置の容器101内に投入する。投入後、容器101を回転させることにより、軟磁性金属粉末と粉末状コーティング材との混合物50が、グラインダー102と容器101の内壁との間で圧縮され摩擦が生じて熱が発生する。この発生した摩擦熱により、粉末状コーティング材が軟化し、圧縮作用により軟磁性金属粒子の表面に固着して、第3の被覆部を形成することができる。
【0079】
メカノケミカルを利用したコーティング方法により第3の被覆部を形成することにより、第2の被覆部に緻密でないFeの酸化物(Fe
3O
4、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄等)が含まれる場合であっても、被覆時に、圧縮および摩擦作用により緻密でないFeの酸化物が除去され、第2の被覆部に含まれるFeの酸化物の大部分を、耐電圧性の向上に寄与する緻密なFeの酸化物とすることが容易となる。なお、緻密でないFeの酸化物が除去された結果、第2の被覆部の表面は比較的に滑らかになる。
【0080】
メカノケミカルを利用したコーティング方法では、容器の回転速度、グラインダーと容器の内壁との間の距離等を調整することにより、発生する摩擦熱を制御して、軟磁性金属粉末と粉末状コーティング材との混合物の温度を制御することができる。本実施形態では、当該温度は、50℃以上150℃以下であることが好ましい。このような温度範囲とすることにより、第3の被覆部が第2の被覆部を覆うように形成しやすくなる。
【0081】
また、第3の被覆部に軟磁性金属微粒子を存在させる場合には、粉末状原料中に軟磁性金属微粒子を混合したものを、上記の方法により軟磁性金属粒子に被覆すればよい。
【0082】
(4.2.圧粉磁心の製造方法)
圧粉磁心は、上記の軟磁性金属粉末を用いて製造する。具体的な製造方法としては、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。まず、被覆部を形成した軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末と、結合剤としての公知の樹脂とを混合し、混合物を得る。また、必要に応じて、得られた混合物を造粒粉としてもよい。そして、混合物または造粒粉を金型内に充填して圧縮成形し、作製すべき圧粉磁心の形状を有する成形体を得る。得られた成形体に対して、たとえば50〜200℃で熱処理を行うことにより、樹脂が硬化し軟磁性金属粒子が樹脂を介して固定された所定形状の圧粉磁心が得られる。得られた圧粉磁心に、ワイヤを所定回数だけ巻回することにより、インダクタ等の磁性部品が得られる。
【0083】
また、上記の混合物または造粒粉と、ワイヤを所定回数だけ巻回して形成された空心コイルとを、金型内に充填して圧縮成形しコイルが内部に埋設された成形体を得てもよい。得られた成形体に対して、熱処理を行うことにより、コイルが埋設された所定形状の圧粉磁心が得られる。このような圧粉磁心は、その内部にコイルが埋設されているので、インダクタ等の磁性部品として機能する。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0086】
(実験例1〜91)
まず、表1および2に示す組成を有する軟磁性金属から構成され、平均粒子径D50が表1および2に示す値である軟磁性金属粒子からなる粉末を準備した。まず、準備した粉末に対して、SiO
2のターゲットを用いて粉末スパッタを行い、軟磁性金属粒子の表面を覆い、SiO
2から構成される第1の被覆部を形成した。本実施例では、第1の被覆部の厚みは3〜10nmの範囲内であった。なお、実験例1〜12、39、40、52〜56、74、75、84および85の試料には、第1の被覆部を形成しなかった。
【0087】
続いて、実験例に係る粉末を、表1および2に示す条件で熱処理を行った。このような熱処理を行うことにより、軟磁性金属粒子を構成するFeおよびその他の金属元素が、第1の被覆部内を拡散して、第1の被覆部の表面において酸素と結合し、Feの酸化物を含む第2の被覆部を形成した。なお、実験例37、38、47〜51、72、73、82および83の試料には、熱処理を行わず第2の被覆部を形成しなかった。また、実験例1〜6に係る試料は、大気中に30日間放置して、軟磁性金属粒子の表面に自然酸化膜を形成し、これを第2の被覆部とした。
【0088】
さらに、第1被覆部および第2被覆部が形成された粒子を含む粉末を、表1および2に示す組成を有する粉末ガラス(コーティング材)とともに、粉体被覆装置の容器内に投入し、粉末ガラスを第1被覆部および第2被覆部が形成された粒子の表面にコーティングして、第3の被覆部を形成することにより、軟磁性金属粉末が得られた。粉末ガラスの添加量は、第1被覆部および第2被覆部が形成された粒子を含む粉末100wt%に対して、当該粉末の平均粒子径(D50)が3μm以下である場合には3wt%、5μm以上10μm以下である場合には1wt%、20μm以上である場合には0.5wt%に設定した。所定の厚みを形成するために必要な粉末ガラス量は、第3の被覆部が形成される軟磁性金属粉末の粒子径により異なるからである。
【0089】
本実施例では、リン酸塩系ガラスとしてのP
2O
5−ZnO−R
2O−Al
2O
3系粉末ガラスにおいて、P
2O
5が50wt%、ZnOが12wt%、R
2Oが20wt%、Al
2O
3が6wt%であり、残部が副成分であった。
【0090】
なお、本発明者らは、P
2O
5が60wt%、ZnOが20wt%、R
2Oが10wt%、Al
2O
3が5wt%であり、残部が副成分である組成を有するガラス、P
2O
5が60wt%、ZnOが20wt%、R
2Oが10wt%、Al
2O
3が5wt%であり、残部が副成分である組成を有するガラス等についても同様の実験を行い、後述する結果と同様の結果が得られることを確認している。
【0091】
また、本実施例では、ビスマス酸塩系ガラスとしてのBi
2O
3−ZnO−B
2O
3−SiO
2系粉末ガラスにおいて、Bi
2O
3が80wt%、ZnOが10wt%、B
2O
3が5wt%、SiO
2が5wt%であった。ビスマス酸塩系ガラスとして他の組成を有するガラスについても同様の実験を行い、後述する結果と同様の結果が得られることを確認している。
【0092】
また、本実施例では、ホウケイ酸塩系ガラスとしてのBaO−ZnO−B
2O
3−SiO
2−Al
2O
3系粉末ガラスにおいて、BaOが8wt%、ZnOが23wt%、B
2O
3が19wt%、SiO
2が16wt%、Al
2O
3が6wt%であり、残部が副成分であった。ホウケイ酸塩系ガラスとして他の組成を有するガラスについても同様の実験を行い、後述する結果と同様の結果が得られることを確認している。
【0093】
次に、得られた軟磁性金属粉末に対して、第2被覆部に含まれるFeの酸化物のFeのうち、3価のFeが占める割合と、軟磁性金属粉末を固化して粉末の抵抗率と、を評価した。
【0094】
3価のFeが占める割合については、球面収差補正機能付きのSTEMに付属のEELSにより、第1の被覆部に含まれるFeの酸化物の酸素K端のELNESスペクトルを取得して解析した。具体的には、170nm×170nmの視野において、Feの酸化物の酸素K端のELNESスペクトルを取得し、当該スペクトルについて、FeOおよびFe
2O
3の各標準物質の酸素K端のELNESスペクトルを用いて、最小二乗法によるフィッティングを行った。
【0095】
最小二乗法によるフィッティングは、GATAN社製Digital MicrographのMLLSフィッティングを用いて、各スペクトルにおける所定のピークエネルギーが一致するようにキャリブレーションを行い、520〜590eVの範囲において行った。フィッティング結果より、Fe
2O
3のスペクトルに起因する割合を算出して、3価のFeが占める割合を算出した。結果を表1および2に示す。
【0096】
粉末の抵抗率は、粉末抵抗測定装置を用いて、0.6t/cm
2の圧力を印加した状態での抵抗率を測定した。本実施例では、軟磁性金属粉末の平均粒子径(D50)が同じ試料のうち、比較例となる試料の抵抗率よりも高い抵抗率を示す試料を良好とした。結果を表1および2に示す。
【0097】
続いて、圧粉磁心の評価を行った。熱硬化樹脂であるエポキシ樹脂および硬化剤であるイミド樹脂の総量が、得られた軟磁性金属粉末100wt%に対して表1に示す値となるように秤量し、アセトンに加えて溶液化し、その溶液と軟磁性金属粉末とを混合した。混合後、アセトンを揮発させて得られた顆粒を、355μmのメッシュで整粒した。これを外径11mm、内径6.5mmのトロイダル形状の金型に充填し、成形圧3.0t/cm
2で加圧し圧粉磁心の成形体を得た。得られた圧粉磁心の成形体を180℃で1時間樹脂を硬化させ圧粉磁心を得た。この圧粉磁心に対し両端にIn−Ga電極を形成して、超高抵抗計により圧粉磁心の抵抗率を測定した。本実施例では、10
7Ωcm以上である試料を「○」とし、10
6Ωcm以上である試料を「△」とし、10
6Ωcm未満である試料を「×」とした。結果を表1および2に示す。
【0098】
続いて、作製した圧粉磁心を250℃で1時間、大気中で耐熱試験を行った。耐熱試験後の試料に対して、上記と同様にして、抵抗率を測定した。本実施例では、耐熱試験前の抵抗率から、抵抗率が4桁以上低下した試料を「×」とし、抵抗率の低下が3桁以下であった試料を「△」とし、抵抗率の低下が2桁以下であった試料を「○」とした。結果を表1および2に示す。
【0099】
さらに、圧粉磁心の試料の上下にソースメーターを用いて電圧を印加し、1mAの電流が流れた電圧値を耐電圧とした。本実施例では、軟磁性金属粉末の組成、平均粒子径(D50)、および、圧粉磁心を形成する際に用いた樹脂量が同じ試料のうち、比較例となる試料の耐電圧よりも高い耐電圧を示す試料を良好とした。樹脂量の違いにより耐電圧が変化するためである。結果を表1および2に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
表1、2より、結晶質の軟磁性金属粉末、アモルファス系の軟磁性金属粉末、ナノ結晶系の軟磁性金属粉末のいずれの場合であっても、軟磁性金属粒子の表面に、所定の組成を有する3層構造の被覆部を形成することにより、250℃での熱処理後であっても十分な絶縁性を有し、かつ良好な耐電圧性を有していることが確認できた。
【0103】
これに対し、第1の被覆部が形成されていない場合、第2の被覆部が形成されていない場合には、特に耐熱試験後の絶縁性が低下すること、すなわち、耐熱性が悪化することが確認できた。特に、第1の被覆部が形成されておらず、第2の被覆部が自然酸化膜である実験例1〜6については、自然酸化膜が緻密でないため、被覆部の絶縁性が低く、耐電圧および抵抗率の両方が非常に低いことが確認できた。
【0104】
(実験例92〜157)
Siの酸化物を有し、厚みが3〜10nmである第1被覆部と、熱処理温度が300℃、酸素濃度が500ppmである条件で熱処理を行って形成され、Feの酸化物を有する第2被覆部とが形成された粒子を含む粉末100wt%に対して、第3の被覆部を形成するための粉末ガラスを各粒子径に適したwt%、すなわち0.5wt%とし、および、表3、4に示す組成およびサイズを有する軟磁性金属微粒子を0.01wt%添加して、第3の被覆部を形成した以外は、実験例1〜91と同様にして、軟磁性金属粉末を作製した。
【0105】
作製した軟磁性金属粉末のうち、実験例109の試料に対して、STEMにより、被覆粒子の被覆部近傍の明視野像を得た。得られた明視野像から得られたEELSのスペクトル像を
図4に示す。また、
図4に示すEELSのスペクトル像においてEELSのスペクトル分析を行い、元素マッピングをおこなった。
図4に示すEELSスペクトル像および元素マッピングの結果より、被覆部が第1の被覆部、第2の被覆部および第3の被覆部から構成されており、第3の被覆部内部には、組成がFeでありアスペクト比が1:2である軟磁性金属微粒子が存在していることが確認できた。
【0106】
続いて、各軟磁性金属微粒子を含む軟磁性金属粉末の圧粉磁心における透磁率(μ0)が27〜28となるように、圧粉磁心に占める軟磁性金属粉末の充填率を調整した以外は、実験例1と同様にして、圧粉磁心の試料を作製した。
【0107】
作製した圧粉磁心の試料に対して、透磁率(μ0)および透磁率(μ8k)を測定した。また、測定されたμ0に対するμ8kの比を算出した。この比は、直流電流が圧粉磁心に印加された場合の透磁率の低下率を示している。したがって、この比は直流重畳特性を示しており、この比が1に近いほど、直流重畳特性が良好であることを示す。結果を表3および4に示す。
【0108】
【表3】
【0109】
【表4】
【0110】
表3、4より、第3の被覆部内部に所定のアスペクト比を有する軟磁性金属微粒子が存在することにより、透磁率及び直流重畳特性が向上した。したがって、透磁率および直流重畳特性等の磁気特性を維持しつつ、粒子間の絶縁性を確実に確保することができる。
【0111】
(実験例158〜196)
Siの酸化物を有し、厚みが3〜10nmである第1被覆部と、熱処理温度が300℃、酸素濃度が500ppmである条件で熱処理を行って形成され、Feの酸化物を有する第2被覆部とが形成された粒子を含む粉末に対して、第3の被覆部の厚みおよび軟磁性金属微粒子の有無を表3に示す構成とした以外は、実験例1〜91と同様にして、軟磁性金属粉末を作製した。作製した軟磁性金属粉末を用いて、実験例1〜91と同様にして、圧粉磁心の試料を作製した。作製した圧粉磁心について、耐電圧性を評価し、実験例92〜157と同様にして、透磁率(μ0)を評価した。結果を表5に示す。なお、実験例158、171および184の試料に対しては、第3の被覆部を形成しなかった。
【0112】
【表5】
【0113】
表5より、第3の被覆部の厚みを所定の範囲内とすることにより、絶縁性と耐電圧性とを両立できることが確認できた。また、第3の被覆部内部に所定のアスペクト比を有する軟磁性金属微粒子が存在することにより、被覆部の厚みが大き場合であっても、直流重畳特性が低下しないことが確認できた。
【0114】
これに対して、第3の被覆部が形成されていない場合には、耐電圧性が悪化することが確認できた。
【0115】
(実験例197〜224)
表6に示す組成を有する軟磁性金属から構成され、平均粒子径D50が表6に示す値である軟磁性金属粒子からなる粉末を準備し、実験例1〜91と同様にして、Siの酸化物を有し、厚みが3〜10nmである第1の被覆部を形成し、表6に示す熱処理条件によりFeの酸化物を有する第2の被覆部を形成した。
【0116】
第1の被覆部および第2の被覆部が形成された粒子を含む粉末に対して、表6に示す組成を有するコーティング材を用いた以外は実験例1〜91と同様にして、第3の被覆部を形成した。
【0117】
本実施例では、第3の被覆部を形成する前の粉末と、第3の被覆部を形成した後の粉末と、に対して、保磁力を測定した。保磁力は、φ6mm×5mmのプラスチックケースに20mgの粉末を入れ、パラフィンを融解、凝固させて固定したものを、東北特殊鋼製保磁力計(K-HC1000型)を用いて測定した。測定磁界は150kA/mとした。また、第3の被覆部が形成される前後の保磁力の比を算出した。結果を表6に示す。
【0118】
また、第3の被覆部を形成する前の粉末に対して、X線回折を行い、結晶子径を算出した。結果を表6に示す。なお、実験例204〜208の試料はアモルファス系であるので、結晶子径の測定は行わなかった。
【0119】
なお、表6において、実験例197は、表1の実験例14であり、実験例204〜208は、表2の実験例57〜61であり、実験例209および210は、表2の実験例76および77であり、実験例211および212は、表2の実験例86および87であり、実験例218および219は、表1の実験例41および42である。
【0120】
【表6】
【0121】
表6より、平均結晶子径が上述した範囲内である場合には、第3の被覆部の形成前後で保磁力はそれほど増加しないことが確認できた。
【解決手段】軟磁性金属粒子を複数含む軟磁性金属粉末であって、軟磁性金属粒子の表面は被覆部により覆われており、被覆部は、軟磁性金属粒子の表面から外側に向かって、第1の被覆部と、第2の被覆部と、第3の被覆部とをこの順に有し、第1の被覆部は、Siの酸化物を主成分として含み、第2の被覆部は、Feの酸化物を主成分として含み、第3の被覆部は、P、Si、BiおよびZnからなる群から選ばれる1つ以上の化合物を含むことを特徴とする軟磁性金属粉末である。