(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
閉路制御時インダクタンス演算部及び前記閉路制御時抵抗値演算部の少なくとも一方は、前記操作コイルを流れる電流と、操作コイルの端子間電圧及び直流抵抗値と、閉路制御時インダクタンスとの関係式における自然対数による指数関数をフーリエ級数展開により得られた近似式にしたがって演算を行なうことを特徴とする請求項1に記載の電磁接触器の操作コイル駆動装置。
前記閉路制御時スイッチング補正部は、前記操作コイルの直流抵抗値の工場出荷値に対する閉路制御時における操作コイルの直流抵抗変化分から、工場出荷時に設定された操作コイルを駆動する半導体スイッチング素子の閉路制御時のオン・オフ時間比率に対する補正比率を演算することを特徴とする請求項1に記載の電磁接触器の操作コイル駆動装置。
前記駆動制御部は、前記保持制御時に一定のサイクルで前記操作コイルを流れるコイル電流のサンプリング時間で前記操作コイルのインダクタンスを演算する保持制御時インダクタンス演算部と、該保持制御時インダクタンス演算部の演算結果に基づいて前記操作コイルの直流抵抗値を演算する保持制御時抵抗値演算部と、該保持制御時抵抗値演算部の演算結果に基づいて前記半導体スイッチング素子の保持制御時におけるオン・オフ時間比率を補正する保持制御時スイッチング補正部とを有することを特徴とする請求項1に記載の電磁接触器の操作コイル駆動装置。
保持制御時インダクタンス演算部及び前記保持制御時抵抗値演算部の少なくとも一方は、前記操作コイルを流れる電流と、操作コイルの端子間電圧及び直流抵抗値と、保持制御時インダクタンスとの関係式における自然対数による指数関数をフーリエ級数展開により得られた近似式にしたがって演算を行なうことを特徴とする請求項4に記載の電磁接触器の操作コイル駆動装置。
前記保持制御時スイッチング補正部は、前記操作コイルの直流抵抗値の工場出荷値に対する保持制御時における操作コイルの直流抵抗変化分から、工場出荷時に設定された操作コイルを駆動する半導体スイッチング素子の閉路制御時のオン・オフ時間比率に対する補正比率を演算することを特徴とする請求項4に記載の電磁接触器の操作コイル駆動装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して、本発明の一実施の形態を説明する。
以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0015】
また、以下に示す実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
以下、本発明の第1の実施の形態である電磁接触器の操作コイル駆動装置の一態様について説明する。
【0016】
先ず、本発明に適用し得る電磁接触器10は、
図1に示すように、絶縁材からなる下ケース11と、下ケース11の上部に装着した絶縁材からなる上ケース12と、上ケース12の上部開口を覆って装着した絶縁材からなる消弧カバー13とで構成されている。
上ケース12の中間壁には、左右一対の固定接触子15A,15B及び端子板16A,16Bが所定間隔を保って固定されている。
【0017】
固定接触子15A及び端子板16Aは、外部供給電源17に接続され、固定接触子15B及び端子板16Bは、電動機等の電気機器を駆動するインバータ等の負荷装置18に接続されている。
下ケース11の空間部及び上ケース12中間壁より下側の空間部下部空間には、電磁石装置21が収納されている。この電磁石装置21は、左右一対の固定鉄心21a,21bと、一方の固定鉄心21aの外周にコイルホルダ21cを介して巻回された操作コイル21dと、他方の固定鉄心21bの外周にコイルホルダ21cを介して巻回された操作コイル21eと、一対の固定鉄心21a,21bの下部端面に当接して設けたヨーク21fと、一対の固定鉄心21a,21bの上部端面に当接して設けた磁極板21g,21hと、磁極板21g,21hに対向して配置された可動鉄心21iとを備えている。
【0018】
また、上ケース12の中間壁部を挟む内部空間に可動接点機構22が収納されている。
可動接点機構22は、接点支え23及び電磁石装置21の可動鉄心21iを固定する連結部24を備えて上下方向に移動自在に配置された可動接点ホルダ25と、可動接点ホルダ25の上部に連結され、固定接触子15A及び15Bに上方から対向している1枚の板状の可動接触子26と、接点支え23の上部に連結されて可動接触子26に対して下方に向けてばね付勢力を付与する接圧スプリング27と、磁極板21g,21hと連結部24との間に複数配置され、可動鉄心21iを固定鉄心21a,21bから離れる方向に付勢する復帰スプリング28とを備えている。
【0019】
上記構成を有する電磁接触器10は、
図1に示す固定接触子15A及び15Bに対して可動接触子26が上方に離間した開極状態で、固定鉄心21a,21bの操作コイル21d,21eに電流を流すことで固定鉄心21a,21bの透磁率により強い磁束を発生させる。固定鉄心21a,21bに発生した強い磁束により可動鉄心21iに対する吸引力が固定鉄心21a,21bに発生する。なお、吸引力は操作コイル21d,21eに流すコイル電流と操作コイル21d,21eに巻かれた巻線回数との積に比例する。
【0020】
操作コイル21d,21eを駆動開始後一定時間経て固定鉄心21a,21bに発生する吸引力により、可動鉄心21iが下方に吸引され、
図2に示すように、可動接触子26が固定接触子15A及び15Bに接圧スプリング27の接触圧で接触する。このため、電磁接触器10が閉極状態となり、外部供給電源17の電力が負荷装置18に供給される。
また、電磁接触器10は、操作コイル21d及び21eに電流を流すために、
図3に示す操作コイル駆動装置30を内蔵している。
【0021】
この操作コイル駆動装置30は、単相交流電源または三相交流電源であるコイル電源31が運転スイッチ32を介して接続される整流回路33を備えている。運転スイッチ32は、電磁接触器10をオン状態(閉極状態)とオフ状態(開極状態)に制御する外部からの切り替え信号によって制御される。整流回路33は、コイル電源31の形式に応じた数の整流ダイオードなどで構成され、以下の各回路に交流電圧を整流した直流電圧を正極側ラインLp及び負極側ラインLnを介して供給する。
【0022】
また、操作コイル駆動装置30は、整流回路33の正極側ラインLp及び負極側ラインLn間に並列に接続された入力電圧検出回路34と駆動制御部35とを備えている。入力電圧検出回路34は例えば抵抗素子による電圧分圧手段を用いて整流回路33の出力電圧を検出し駆動制御部35に供給する。駆動制御部35は、例えばマイクロプロセッサ等の演算処理回路35aを含んで構成されている。この駆動制御部35は、整流回路33の出力電圧が直接動作電源として供給されているが、整流回路33の出力電圧が高電圧である場合には、例えば電圧レギュレータ回路などによる低電圧電源から動作電源が供給される。
【0023】
さらに、操作コイル駆動装置30は、整流回路33の正極側ラインLp及び負極側ラインLn間に直列に接続された電磁接触器10の操作コイル21d及び21eと直列に接続された電流検出抵抗素子36と半導体スイッチング素子40とを備えている。すなわち、整流回路33の正極側ラインLpには、直列に接続された操作コイル21d、21eの一端が接続され、操作コイル21d、21eの他端には、電流検出抵抗素子36の一端が接続されている。
【0024】
また、電流検出抵抗素子36の他端には、半導体スイッチング素子40の高電位側電極が接続されている。半導体スイッチング素子40の低電位側電極には、整流回路33の負極側ラインLnが接続されている。
そして、操作コイル駆動装置30は、操作コイル21d,21eの両端間に接続された電圧検出部としてのコイル電圧処理回路37と電流検出抵抗素子36の両端に接続された電流検出部としてのコイル電流処理回路38と、半導体スイッチング素子40の制御電極に接続されたパルス発生回路39とを備えている。コイル電圧処理回路37の出力は駆動制御部35に入力され、コイル電流処理回路38の出力も駆動制御部35に入力される。駆動制御部35の出力(投入制御信号C、保持制御信号D)は、パルス発生回路39に入力される。
【0025】
また、操作コイル21d,21eと電流検出抵抗素子36の直列回路には、還流回路を構成するダイオード素子41が並列接続されている。
上記構成を有する操作コイル駆動装置30は、電磁石装置21の操作コイル21d,21eに供給するコイル電流を適切に制御する回路である。
ここで、操作コイル駆動装置30は、一般には、可動鉄心21iを固定鉄心21a,21bに吸着させるように操作コイル21d,21eを駆動し、さらに、吸着状態を保持するように操作コイル21d,21eを駆動する。
【0026】
なお、可動鉄心21iを固定鉄心21a,21bに吸着させるようにする制御を閉路制御と称し、その後の吸着状態を保持する制御を保持制御と称す。また、可動鉄心21iを固定鉄心21a,21bから離間させる制御は開路制御と称す。
半導体スイッチング素子40は、例えば、MOS−FET(Metal Oxide Semiconductor−Field Effect Transistor)やバイポーラトランジスタなどで実現できるが、N型MOS−FETの場合は、半導体スイッチング素子40の前記制御電極がゲート端子に、高電位側電極がドレイン端子に、さらに、低電位側電極がソース端子にそれぞれ相当する。
【0027】
半導体スイッチング素子40は、パルス発生回路39からオン・オフ信号によって整流回路33の出力直流電圧をスイッチングするようになっている。これによって、操作コイル21d,21eにコイル電流が流れる。このときに、操作コイル21d,21eの両端子には整流回路33の出力電圧から電流検出抵抗素子36の両端電圧と半導体スイッチング素子20の飽和電圧分を差し引いた電圧が発生する。この操作コイル21d,21eの両端電圧は、コイル電圧処理回路37に入力される。
【0028】
ただし、一般的には、半導体スイッチング素子40としては、その飽和電圧が整流回路33の出力電圧に比べ充分小さな素子を選択する。これにより、半導体スイッチング素子の持つパッケージ熱抵抗の影響による素子破損を防止することができる。また、電流検出抵抗素子36は、投入パルス時に操作コイル21d,21eに流す大きな電流に耐えるように、抵抗×電流
2が電流検出抵抗素子36のパッケージ耐熱温度を考慮し微小な抵抗値を選定する。さらに、電流検出抵抗素子36の両端子電圧が整流回路33の出力電圧に比べ充分小さな抵抗値を選定する。
【0029】
半導体スイッチング素子40は、パルス発生回路39から供給されるオン・オフ信号によって整流回路33の出力直流電圧をスイッチングするようになっている。これによって、操作コイル21d,21eにコイル電流が流れる。コイル電流の大きさは、電源電圧と操作コイル21d,21eの抵抗値およびインダクタンス値と半導体スイッチング素子40のオン時間によって決まる。電流検出抵抗素子36は、操作コイル21d,21eに流れるコイル電流を検出し、コイル電流処理回路38に出力する。
【0030】
駆動制御部35は、可動鉄心21iを固定鉄心21a,21bに吸着させる閉路制御と、その後の吸着状態を維持する保持制御とを行う。この駆動制御部35の具体的構成は、
図4に示すように、操作コイル21d,21eの抵抗値のばらつきやコイル温度上昇による操作コイル抵抗の変化など電源電圧以外の変動要因を正確に計測するために、例えばマイクロプロセッサで構成される演算処理回路35aを搭載している。また、駆動制御部35は、例えば少なくとも2個のアナログ/デジタル変換器(以下、ADCと記載する)35b,35cを搭載している。さらに、駆動制御部35は、演算処理回路35aおよびパルス発生回路39に、パルス幅変調(PWM)制御機能を持たせるため少なくとも2個の第1タイマ35d及び第2タイマ35eを搭載している。このうち第1タイマ35dはPWM周期を決定するタイマに使用し、またその周期は可聴周波数外の十数KHzを越えていることが望ましい。
【0031】
また、第2タイマ35eは、半導体スイッチング素子40をオンさせて操作コイル21d,21eを励磁する時間を決定するのに使用する。この場合に、閉路制御時には決められたPWM周期に対し、第1タイマ35dで定める操作コイル21d,21eを励磁する時間(あるいは、Duty比)を閉路制御時には大きく設定し、保持制御時には小さく設定する。
【0032】
すなわち、本実施形態では、
図5(d)に示すように、操作コイル21d,21eの閉路制御の開始直後の一定期間、操作コイル21d,21eを励磁する期間Tsと保持制御中一定サイクルで一定期間操作コイル21d,21eを励磁する期間Thを設けている。これらの設定された期間Tsおよび期間Thでは、操作コイル21d,21eに印可されている操作コイル電圧がコイル電圧処理回路37を経由して駆動制御部35に取り込まれる。また、操作コイル21d,21eを流れるコイル電流は電流検出抵抗素子36で電圧信号に変換され、さらに、コイル電流処理回路38を経由して駆動制御部35に取り込まれる。ここで、コイル電圧処理回路37の出力信号は駆動制御部35に搭載された1つのADC35bに取り込まれデジタルデータに変換される。
【0033】
また、コイル電流処理回路38の出力信号は駆動制御部35に搭載されたもう一つのADC35cに取り込まれデジタルデータに変換される。
演算処理回路35aの具体的構成は、
図4に示すように、閉路制御を行なう閉路制御時インダクタンス演算部51、閉路制御時抵抗値演算部52、閉路制御時オン時間比率設定部53及び閉路制御時スイッチング補正部54を備えている。
【0034】
また、演算処理回路35aは、保持制御を行なう保持制御時インダクタンス演算部55、保持制御時抵抗値演算部56、保持制御時オン時間比率設定部57及び保持制御時スイッチング補正部58を備えている。
閉路制御時インダクタンス演算部51は、閉路制御の開始時に、閉路制御時インダクタンスL
MAGを演算する。
【0035】
閉路制御は、
図5に示すように、運転スイッチ32が
図5(a)に示すようにオン状態となったときに開始される。閉路制御の開始直後は、可聴周波数外の十数kHz以上のPWM周期を一定期間Tsの間Duty比100%とする。これにより、操作コイル21d,21eを流れる電流が
図5(b)に示すように増加し、その後、一定期間Tsが経過した後にDuty比を例えば50%に低下させて、操作コイル21d,21eに流れる電流を緩やかに増加させる。その後、固定鉄心21a,21bに可動鉄心21iが吸引されて可動接触子26が固定接触子15A,15Bに移動を開始すると、Duty比をさらに低下させて操作コイル21d,21eに流れる電流を減少させる。その後、
図5(d)に示すように、可動接触子26が固定接触子15A,15Bに接触して、電磁接触器10が、
図5(c)に示すように、オン状態となると、再度Duty比を50%程度まで増加させて操作コイル21d,21eに流れる電流をピーク電流まで増加させる。
【0036】
そして、操作コイル21d,21eに流れる電流がピーク電流に達すると、閉路制御期間を終了して後述する保持制御期間に移行する。
ここで、閉路制御の開始直後の一定期間Tsでは、PWM周期を時間ΔTとおき、Duty比100%となるので、操作コイル21d,21eには以下の式で示す電流i(n)が充電される。
【0037】
すなわち、閉路制御時に操作コイル21d,21eに充電される充電電流i(n)は、下記(1)式で表される。
【0038】
【数1】
n=0,1,2,・・・
ここで、上記(1)式の変数は以下の通りである。
i :操作コイル21d,21eの充電電流
V
MAG :操作コイル21d,21eの充電電圧
L
MAG :操作コイル21d,21eの閉路制御時インダクタンス
R
MAG :操作コイル21d,21eの閉路制御時直流抵抗値
R
S :電流検出抵抗値
ΔT :サンプリング時聞
さらに、演算処理回路35aでの内部演算を簡素化するために、(1)式の指数関数部をフーリエ級数展開すると、次式のように近似可能である。n=1のときの操作コイル21d,21eを流れる電流i(1)は、
【0039】
【数2】
であり、i(1)はコイル電流処理回路38で計測され、V
MAGはコイル電圧処理回路37で計測される。ΔTは予め決められたサンプリング時間すなわちPWM周期である。したがって、この(2)式の演算を閉路制御時インダクタンス演算部51で行なって、閉路制御時インダクタンスL
MAGを演算する。
【0040】
また、閉路制御時抵抗値演算部52は、閉路制御時インダクタンス演算部51で演算した閉路制御時インダクタンスL
MAGをもとに閉路制御時抵抗値R
MAGを演算する。
すなわち、前述した(1)式の指数関数部をフーリエ級数展開すると、操作コイル21d,21eを流れる電流は、
【0041】
【数3】
と展開できる。
そして、(2)式および(3)式より、
【0042】
【数4】
が得られる。実際使用する電流検出抵抗値R
Sは操作コイル21d,21eの直流抵抗値R
MAGに比べ
R
MAG≫R
S ・・・(5)
であり、(4)式においてR
S≒0と置くと、適当なnに対し直流抵抗値R
MAGを演算できる。したがって、閉路制御時抵抗値演算部52で、(4)式でR
S≒0とし、この(4)式にコイル電流処理回路38で測定したコイル電流i(n)、処理回数n、n=1のときの操作コイル21d,21eを流れる電流i(1)、閉路制御時インダクタンスL
MAG、PWM周期ΔTを代入して演算を行なうことにより、閉路制御時直流抵抗値R
MAGを演算することができる。
【0043】
一方、閉路制御期間を終了して保持制御期間に移行し、前記保持制御中一定サイクルで一定期間操作コイル21d,21eを励磁する期間Thを設けた場合の制御について記載する。
保持制御では、電磁接触器10のコンタクタ部すなわち接点部は
図2で示しているように固定鉄心21a,21bと可動鉄心21i間の空間ギャップが小さくなっている関係から操作コイル21d,21eのインダクタンスは、前述した閉制御時インダクタンスL
MAGから保持制御時インダクタンスL′
MAGへと増加する。
【0044】
このため、保持制御時インダクタンス演算部55で、保持制御時インダクタンスL′
MAGを演算する。
すなわち、前述した(2)式を流用すると、保持制御モードでの電流は下記(6)式で表すことができる。
【0045】
【数5】
ここで、i(1)はコイル電流処理回路38で計測され、V
MAGはコイル電圧処理回路37で計測される。i(h)は保持制御時の操作コイル21d,21eに流れる電流を決定する予め設定された設定電流である。△Tは予め決められたサンプリング時間すなわちPWM周期である。
【0046】
したがって、保持制御時インダクタンス演算部55で、(6)式にi(1)、i(h)、V
MAG及びΔTを代入して演算することにより、保持制御における操作コイル21d,21eのインダクタンスL′
MAGを演算することができる。
保持制御時抵抗値演算部56は、前述した(3)式を流用した下記(7)式の演算を行なうことにより、保持制御時抵抗値R
MAGを演算することができる。
【0047】
すなわち、前述した(1)式の指数関数部をフーリエ級数展開した前記(3)式に対応する電流と、前記(6)の電流とから下記(7)式が得られる。
【0048】
【数6】
実際使用する電流検出抵抗値R
Sは操作コイル21d,21eの直流抵抗R
MAGに比べ十分に小さく前述した(5)式を適用し、(7)式においてR
S≒0と置くと、適当なnに対し保持制御時直流抵抗値R
MAGが計算できる。
【0049】
したがって、保持制御時抵抗値演算部56で、(7)式でR
S≒0とし、この(7)式にコイル電流処理回路38で測定したコイル電流i(n)、設定電流i(h)、処理回数n、n=1のときの操作コイル21d,21eを流れる電流i(1)、保持制御時インダクタンスL′
MAG及びPWM周期ΔTを代入して演算を行なうことにより、保持制御時直流抵抗値R
MAGを演算することができる。
【0050】
以上により、電磁接触器の可動接触子26の釈放状態あるいは接触状態にかかわらず1サンプリングの測定結果とnサンプリングの測定結果から、閉路制御における投入開始時の操作コイル21d,21eのインダクタンスL
MAG及び直流抵抗値R
MAGを制御回路15で確認することができる。
これに加えて、保持制御における前記操作コイル21d,21eのインダクタンスL′
MAG及び同直流抵抗値R
MAGの確認を一定周期で行なうシーケンスを駆動制御部35に搭載することが可能となる。
【0051】
したがって、例えば、工場出荷時の電磁接触器の閉路制御時における投入開始時の操作コイルのインダクタンスおよび直流抵抗値を駆動制御部35に搭載されている演算処理回路35aに接続された不揮発性メモリ35f内に格納しておけば、電磁接触器10が出荷後の通常運転状態であったとしても、閉路制御時及び保持制御時の操作コイル21d,21eのインダクタンスおよび同直流抵抗値を演算して確認することができる。
【0052】
ここで、操作コイル21d,21eの巻線に、例えばエナメル被覆された銅線を使用すると銅線に使用する線材の温度係数αは、
【0053】
【数7】
である。したがって、前記工場出荷時の操作コイル21d,21eの直流抵抗値と現状運転状態の操作コイル21d,21eの直流抵抗値から、現状運転状態の工場出荷時に対する抵抗値変化を求めることが下記(9)により可能となる。ここで、工場出荷時に対する運転状態の温度変化をΔTmpで表すと、
【0054】
【数8】
となる。ここで、
△R :運転状態の操作コイル直流抵抗値−工場出荷時の操作コイル直流抵抗値
R
init:工場出荷時の操作コイル直流抵抗値
である。
【0055】
一方、パルス発生回路39は、駆動制御部35からの運転信号が“H”レベル(オン状態)であるときに、投入制御信号Cが“H”レベルである期間内で、半導体スイッチング素子40に閉路制御用オン・オフ信号を出力し、保持制御信号Dが“H”レベルにある期間内で、半導体スイッチング素子40に保持制御用のオン・オフ信号を出力する。
本実施の形態では、
図5(d)に示すように、閉路制御用のオン・オフ信号のオン時間比率は、保持制御用のオン・オフ信号のオン時間比率よりも大きくなるようにしている。また、閉路制御時のオン時間比率はこの期間内で定められたオン時間比率パターンを持つ。さらに、保持制御時のオン時間比率は固定比率で工場出荷時に定められている。
【0056】
しかし、電磁接触器が運転状態にあるとき、工場出荷時とは先に記載の動作温度環境が変わる。すなわち、運転状態の周囲温度の変化と電磁接触器の運転による自己発熱による操作コイルの温度変化の影響が存在する。前記操作コイル21d,21eの温度変化の影響により,(9)式で示した温度変化による影響を受けることとなる。
したがって、前記閉路制御時のオン時間比率をD(1)、前記保持制御時のオン時間比率をD(2)とおくと、それぞれに対して(9)式で補正する必要がある。この補正により操作コイル21d,21eにはコイル電流に適正な補正を行うことでコイル電流制御が実現できる。
【0057】
具体的には、閉路制御時オン時間比率設定部53で設定されたオン時間比率D(1)に対して、閉路制御時スイッチング補正部54で、以下の(10)式で示す補正を行ない、投入制御信号Cとしてパルス発生回路39へ出力する。
同様に、保持制御時オン時間比率設定部57で設定されたオン時間比率D(2)に対して、下記の(11)式で示す補正を保持制御時スイッチング補正部58で行い、保持制御信号Dとしてパルス発生回路39へ出力する。
【0058】
【数9】
この閉路制御時スイッチング補正部54及び保持制御時スイッチング補正部58で行なう補正により、操作コイル21d,21eの温度を温度検出部で検出することなく、温度変動の影響を補正した操作コイルの電流駆動が可能になり、最善の電磁接触器を実現することが可能となる。
【0059】
このように上記実施の形態によれば、電磁接触器の可動鉄心を駆動する操作コイルに電源電圧をスイッチングして印可するスイッチング素子のオン・オフ時間比率を、閉路制御時では大きくし、保持制御時では小さくするように制御する電磁接触器のコイル駆動回路において、操作コイルの抵抗値の変化率を確認しながら運転することで、温度変化などの影響を受けることなく、確実に鉄心吸着駆動ならびに鉄心保持駆動を行うための最適なコイル電流制御ができ、電磁接触器10の確実な動作が実現できる。
【0060】
また、閉路制御時インダクタンス演算部51、閉路制御時抵抗値演算部52、保持制御時インダクタンス演算部55、保持制御時抵抗値演算部56でフーリエ級数展開による近似式を用いて演算を行なうので、演算処理回路25aとして演算処理能力の低いマイクロプロセッサ等を適用することができる。
また、操作コイルの抵抗値の演算過程を閉路制御時および保持制御時の両過程に設けることで、保持制御過程での操作コイルの抵抗値変動を把握することが可能であり、同時に、電磁接触器10において閉路制御時と保持制御時に接触器の構造に関与して操作コイルのインダクタンスが変化する場合にも、操作コイルの抵抗値を正確に確認することが可能となり、正確なコイル抵抗値変動を演算し、操作コイルの対温度変化に対する適切な電流制御が可能となる。
【0061】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、半導体スイッチング素子40は操作コイル21d,21eと負極側ラインLnとの間に介挿する場合に限らず、操作コイル21d,21eと正極側ラインLpとの間に介挿するようにしてもよい。さらに、電流検出抵抗素子36と半導体スイッチング素子40とを入れ替えて、正極側ラインLp及び負極側ラインLn間に、操作コイル21d,21e、半導体スイッチング素子40及び電流検出抵抗素子36の順で直列に接続するようにしてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、閉路制御時及び保持制御時の双方でインダクタンス及び直流抵抗値を監視する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、保持制御時におけるインダクタンス及び直流抵抗値の監視を省略するようにしてもよい。
さらに、上記実施形態では、閉路制御時インダクタンス演算部51、閉路制御時抵抗値演算部52、保持制御時インダクタンス演算部55、保持制御時抵抗値演算部56でフーリエ級数展開による近似式を用いて演算を行なう場合について説明したが、これに限定されるものではなく、近似式を用いず、(1)式及び(3)式とこれに相当する式を使用して演算を行なうようにしてもよい。
【0063】
また、駆動制御部35としてはマイクロプロセッサ等の演算処理回路35aで構成する場合に限らず、論理回路、比較器、演算回路等を組み合わせて構成することもできる。
さらに、電磁接触器10の構成も
図1及び
図2の構成に限定されるものではなく、他の固定接触子に対して可動接触子が操作コイルによって接離可能に構成されていれば、他の種々の構成の電磁接触器に本発明を適用することができる。