特許第6504393号(P6504393)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6504393
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】打撃工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 21/02 20060101AFI20190415BHJP
【FI】
   B25B21/02 J
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-89314(P2015-89314)
(22)【出願日】2015年4月24日
(65)【公開番号】特開2016-203322(P2016-203322A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094983
【弁理士】
【氏名又は名称】北澤 一浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095946
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 伸
(74)【代理人】
【識別番号】100099829
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 朗子
(74)【代理人】
【識別番号】100192337
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】原田 哲祐
(72)【発明者】
【氏名】西河 智雅
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−111779(JP,A)
【文献】 特開2010−269424(JP,A)
【文献】 特開平04−365564(JP,A)
【文献】 特開2000−079572(JP,A)
【文献】 特開2011−073115(JP,A)
【文献】 特開平09−123068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B21/00−23/18
B25D1/00−17/32
B25F5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータによって回転され、内側に突出する突起を有する筒状のライナと、
前記ライナの内側で回転されるシャフトと、
前記シャフトに移動可能に設けられ、前記ライナの内周面と当接可能な一対のブレードと、
前記ブレードを前記内周面側に付勢する付勢部材と、を備え、
前記シャフトは、その外周面に前記ライナ側に突出する複数の突起を有し、
前記複数の突起は、前記シャフトの中心を通り前記ブレードの移動方向に延びる前記シャフトの仮想線に対する両側にそれぞれ複数設けられていることを特徴とする打撃工具。
【請求項2】
前記複数の突起は、前記仮想線に対して線対称に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の打撃工具。
【請求項3】
前記複数の突起は、前記仮想線に対する一方側のそれぞれにおいて、前記中心を通り前記仮想線と直交する第2の仮想線に対して線対称に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の打撃工具。
【請求項4】
前記ライナの突起は、前記仮想線に対して両側に設けられた一対の突起からなることを特徴とする請求項3に記載の打撃工具。
【請求項5】
前記ライナの前記突起は、前記第2の仮想線からずれた位置に設けられることを特徴とする請求項4に記載の打撃工具。
【請求項6】
前記仮想線に対して一方側に設けられた隣り合う前記シャフトの複数の突起は、突出量が異なることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の打撃工具。
【請求項7】
内部に作動油が充填されるライナ室と一対の作用部とを有して、回転可能に設けられたライナと、
前記ライナ室において回転可能に設けられたシャフトと、
前記ライナ及び前記シャフトの一方を回転させるモータと、
前記シャフトに移動可能に設けられ、前記作用部と協働する一対のブレードと、
前記一対のブレードを互いに反対方向に付勢する付勢部材と、
前記ライナと前記シャフトとの相対回転及び前記付勢部材の付勢力により、前記ブレードと前記作用部とが互いに接触したとき、前記ブレードを境にして前記ライナ室を第1の高圧室と第1の低圧室とに区画し、前記ブレードが受圧面として作用して第1の打撃トルクを発生させ、前記第1の打撃トルクを前記ライナ及び前記シャフトの他方に作用させる一対の第1のシール部と、
前記ライナと前記シャフトとの相対回転及び前記付勢部材の付勢力により、前記ブレードと前記作用部とが互いに接触したとき、前記ブレードを境にして前記ライナ室を第2の高圧室と第2の低圧室とに区画し、前記ブレードが受圧面として作用して第2の打撃トルクを発生させ、前記第2の打撃トルクを前記ライナ及び前記シャフトの他方に作用させる一対の第2のシール部と、
を有し、
前記第1及び第2のシール部は、前記ライナ及び前記シャフトのいずれか一方において、前記相対回転の方向に離間して設けられていることを特徴とする打撃工具。
【請求項8】
前記第2のシール部は、前記第2の打撃トルクが発生するときに、前記第2の高圧室の回転方向下流側端部をシールするために、前記ライナ室の内面と前記シャフトの外周面との間に画定された間隙を備えることを特徴とする請求項7記載の打撃工具。
【請求項9】
前記第2のシール部は、前記第2の打撃トルクが発生するときに、前記第2の高圧室の回転方向下流側端部をシールするために、前記ライナ室の内面及び前記シャフトの外周面のいずれか一方に、前記シャフトの回転方向に形成された溝部を備えることを特徴とする請求項7記載の打撃工具。
【請求項10】
前記一対のブレードのそれぞれは、一端部と他端部とを有し、それぞれの一端部は前記付勢部材により付勢され、それぞれの他端部は前記作用部に接触可能であり、
前記ライナは、前記ブレードが前記作用部に乗り上がり可能な形状をなし、前記ブレードの他端部が前記作用部に乗り上がった状態で、前記付勢部材の付勢力により前記ブレードとの面圧が上昇することにより前記ライナと前記シャフトとが共回り可能に構成されていることを特徴とする請求項7から9の何れか一に記載の打撃工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動油を使用する打撃工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ネジやボルト等の締め付けを行うインパクト工具として、油圧を利用して打撃力を発生させるオイルパルス工具が知られている。オイルパルス工具は、金属同士の衝突がないため、メカニカル方式のインパクト工具に比べて、作動音が低いという特徴を有する。このようなオイルパルス工具は、オイルパルスユニットを駆動する動力としてモータを使用し、モータの出力軸がオイルパルスユニットに直結される。オイルパルス工具を作動させるためのトリガスイッチを引くと、モータが駆動される。
【0003】
オイルパルス工具においては、十分な衝撃打撃トルクを発生させるために、メインシャフトに対してライナが1回転する毎に1打撃を行う構成が一般的に取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−269424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、インパクト工具に用いられるモータはブラシレスモータが主流となり、その出力も年々向上しているため、1回転2打撃でも十分なねじ締め作業が可能になっている。しかし、1回転2打撃構造とするためには、ライナやシャフトの形状を変更する必要があり、加工費や型代の増加により製造価格につながる可能性がある。
【0006】
また、1回転2打撃では打撃力の低下が避けられず、高トルクが必要な締付作業には対応できかねるという問題もあった。
【0007】
そこで、本発明は、斯かる実情に鑑み、従来構成の一部に変更を加えただけで1回転2打撃を可能にしながらも高トルクを出力可能な打撃工具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による打撃工具は、モータと、前記モータによって回転され、内側に突出する突起を有する筒状のライナと、前記ライナの内側で回転されるシャフトと、前記シャフトに移動可能に設けられ、前記ライナの内周面と当接可能な一対のブレードと、前記ブレードを前記内周面側に付勢する付勢部材と、を備え、前記シャフトは、その外周面に前記ライナ側に突出する複数の突起を有し、前記複数の突起は、前記シャフトの中心を通り前記ブレードの移動方向に延びる前記シャフトの仮想線に対する両側にそれぞれ複数設けられていることを特徴とする。
【0009】
上記構成により、ライナがモータによりシャフトに対して相対的に一回転する間に、複数の突起の個数に応じた回数の打撃トルクが発生するので、2回以上の打撃動作が可能となる。
【0010】
好ましくは、前記複数の突起は、前記仮想線に対して線対称に設けられている。
【0011】
好ましくは、前記複数の突起は、前記仮想線に対する一方側のそれぞれにおいて、前記中心を通り前記仮想線と直交する第2の仮想線に対して線対称に設けられている。
【0012】
好ましくは、前記ライナの突起は、前記仮想線に対して両側に設けられた一対の突起からなる。
【0013】
好ましくは、前記ライナの前記突起は、前記第2の仮想線からずれた位置に設けられる。
【0014】
好ましくは、前記仮想線に対して一方側に設けられた隣り合う前記シャフトの複数の突起は、突出量が異なる。当該構成により、ライナがモータによりシャフトに対して相対的に一回転する間の打撃動作によって生じる打撃トルクの大きさを変えることができる。
【0015】
本発明による打撃工具は、内部に作動油が充填されるライナ室と、一対の作用部とを有して、回転可能に設けられたライナと、前記ライナ室において回転可能に設けられたシャフトと、前記ライナ及び前記シャフトの一方を回転させるモータと、前記シャフトに移動可能に設けられ、前記作用部と協働する一対のブレードと、前記一対のブレードを互いに反対方向に付勢する付勢部材と、前記ライナと前記シャフトとの相対回転及び前記付勢部材の付勢力により、前記ブレードと前記作用部とが互いに接触したとき、前記ブレードを境にして前記ライナ室を第1の高圧室と第1の低圧室とに区画し、前記ブレードが受圧面として作用して第1のトルクを発生させ、前記第1トルクを前記ライナ及び前記シャフトの他方に作用させる一対の第1のシール部と、前記ライナと前記シャフトとの相対回転及び前記付勢部材の付勢力により、前記ブレードと前記作用部とが互いに接触したとき、前記ブレードを境にして前記ライナ室を第2の高圧室と第2の低圧室とに区画し、前記ブレードが受圧面として作用して第2の打撃トルクを発生させ、前記第2トルクを前記ライナ及び前記シャフトの他方に作用させる一対の第2のシール部と、を有し、前記第1及び第2のシール部は、前記ライナ及び前記シャフトのいずれか一方において、前記相対回転方向に離間して設けられていることを特徴とする。
【0016】
上記構成により、ライナ及びシャフトのいずれか一方がモータにより他方に対して相対的に一回転する間に、第1のシール部を通過すると第1の打撃トルクが生じ、第2のシール部を通過すると第2の打撃トルクが生じる。すなわち、ライナ及びシャフトのいずれか一方がモータにより他方に対して相対的に1回転する間に、少なくとも2回の打撃トルクが発生するので、複数回の打撃動作が可能となる。
【0017】
好ましくは、前記第1のシール部は、前記第1のトルクが発生するときに、前記第1の高圧室の回転方向下流側端部をシールするために、前記ライナ室の内面と前記シャフトの外周面との間に画定される第1の間隙を有し、前記第2のシール部は、前記第2の打撃トルクが発生するときに、前記第2の高圧室の回転方向下流側端部をシールするために、前記ライナ室の内面と前記シャフトの外周面との間に画定される第2の間隙を有し、前記第2の間隙は、前記第1の間隙よりも前記ライナ室の内面と前記シャフトの外周面との間の距離が長い。
【0018】
上記構成により、第1の打撃トルクの強度と、第2の打撃トルクの強度とを変えるとともに、第1の打撃トルクの強度を、第2の打撃トルクの強度よりも大きくすることができる。
【0019】
好ましくは、前記第1のシール部は、前記第1のトルクが発生するときに、前記第1の高圧室の回転方向下流側端部をシールするために、前記ライナ室の内面と前記シャフトの外周面との間に画定される第1の間隙を有し、前記第2のシール部は、前記第2の打撃トルクが発生するときに、前記第2の高圧室の回転方向下流側端部をシールするために、前記ライナ室の内面と前記シャフトの外周面との間に画定される第2の間隙を有し、前記第1の間隙は、前記作動油が通過する第1の通過面積を有し、前記第2の間隙は、前記作動油が通過する第2の通過面積を有し、前記第2の通過面積は、前記第1の通過面積よりも広い。
【0020】
上記構成により、第1の打撃トルクの強度と、第2の打撃トルクの強度とを変えるとともに、第1の打撃トルクの強度を、第2の打撃トルクの強度よりも大きくすることができる。
【0021】
好ましくは、前記第2の通過面積は、前記第2の間隙を画定する前記ライナ室の内周面において前記相対回転方向に形成された溝部により前記第1の通過面積よりも広く形成されている。
【0022】
上記構成により、第2の間隙に溝を設けるという簡単な構成で、第1の打撃トルクの強度と、第2の打撃トルクの強度とを変えるとともに、第1の打撃トルクの強度を、第2の打撃トルクの強度よりも大きくすることができる。
【0023】
好ましくは、前記一対のブレードのそれぞれは、一端部と他端部とを有し、それぞれの一端部は前記付勢部材により付勢され、それぞれの他端部は前記作用部に接触可能であり、前記ライナは、前記ブレードが前記作用部に乗り上がり可能な形状をなし、前記ブレードの他端部が前記作用部に乗り上がった状態で、前記付勢部材の付勢力により前記ブレードとの面圧が上昇することにより前記ライナと前記シャフトとが共回り可能に構成される。
【0024】
上記構成により、ライナとシャフトとが共回りすることにより、ライナ及びシャフトのいずれか一方を回転させるモータからの動力が、第1又は第2の打撃トルクとしてライナ及びシャフトの他方に伝達されて打撃動作を行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の打撃工具によれば、ライナ及びシャフトのいずれか一方が他方に対して相対的に1回転する間に、少なくとも2回の打撃動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施の形態に係る打撃工具であるオイルドライバの断面図。
図2】オイルパルスユニットの断面図。
図3】(a)は第1のシール部を形成するとき、(b)は第2のシール部を形成するときの、オイルユニットのメインシャフトの回転軸と直交する方向における断面図。
図4】メインシャフトの斜視図。
図5】(a)は第1のシール部を形成するとき、(b)は第2のシール部を形成するときに、ライナとメインシャフトとの位置関係を示す図。
図6】打撃工具の動作時に生じる打撃トルクを示すグラフ。
図7】動作時におけるライナとシャフトとの動作の関係を説明する断面図。
図8】第2の実施の形態の打撃工具のシャフトの斜視図。
図9図8に示すシャフトの一部の拡大斜視図。
図10】第3の実施の形態の打撃工具のシャフトの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の第1の実施の形態を添付図面を参照して説明する。尚、本明細書の説明において上下及び前後の方向は、図面中に示した方向として説明する。図1に、本発明による打撃工具の第1の実施の形態であるオイルパルス工具を示す。
【0028】
オイルパルス工具1は、充電可能な電池パック2により供給される電力を利用してモータ3を駆動し、モータ3によってオイルパルスユニット4を駆動し、オイルパルスユニット4に連結された出力軸5に回転力と打撃力を与えることによって六角ソケット等の先端工具に回転打撃力を連続的又は間欠的に伝達してナット締めやボルト締め等の作業を行う。
【0029】
オイルパルスユニット4は、ハウジング6の胴体部内に内蔵される。オイルパルスユニット4では、後方側のライナアッパプレート41がモータ3の回転軸3Aに直結され、前方側のメインシャフト10がシャフトとして出力軸5に直結される。トリガスイッチ7が引かれてモータ3が起動されると、モータ3の回転力はオイルパルスユニット4に伝達される。オイルパルスユニット4の内部にはオイルが作動油として充填されていて、出力軸5に負荷のかかっていないとき、又は、負荷が小さい際には、オイルの抵抗のみで出力軸5はモータ3の回転が減速されて回転する。出力軸5に強い負荷がかかると出力軸5及びメインシャフト10の回転が止まり、オイルパルスユニット4の外周側のライナ20のみが回転を続ける。そして、ライナ20とメインシャフト10との相対的な位置関係によりオイルを密閉すると、オイルの圧力が急激に上昇して衝撃パルスを発生し、尖塔状の強いトルクによりメインシャフト10を回転させ、出力軸5に大きな打撃トルクが伝達される。以後、同様の打撃動作が数回繰り返され、締結対象が設定トルクで締め付けられる。
【0030】
図2は、図1のオイルパルスユニット4の拡大断面図である。オイルパルスユニット4は、主に、モータ3によって回転する駆動部分と、先端工具が取り付けられる出力軸5と同期して回転する出力部分の2つの部分により構成される。モータ3によって回転する駆動部分は、モータ3の回転軸3Aに接続された減速機構に接続されるライナアッパプレート41と、その外周側で前方に延びるようにライナアッパプレート41に固定される外径が筒状(略円柱形)のライナ20とを含む。尚、ライナ20は、ライナケース44に収容される。出力軸5と同期して回転する出力部分は、メインシャフト10と、メインシャフト10の外周側に180度隔てて形成された溝にバネを介して取付けられるブレード12、13とを含んで構成される。
【0031】
ライナ20には、両端部がライナアッパプレート41及びライナロアプレート46により閉塞されるライナ室20Aが形成される。メインシャフト10は、ライナ室20Aに貫通され、ライナ室20Aの内部で回転できるように保持される。ライナ室20Aには、トルクを発生するためのオイルが充填される。メインシャフト10とライナロアプレート46との間にはOリング47が設けられ、ライナ20とライナアッパプレート41の間にはOリング48が設けられ、ライナ室20Aの気密性が確保される。尚、ライナ20にはオイルの圧力を高圧室から低圧室に逃がすリリーフバルブ(図示せず)が設けられて、発生するオイルの最大圧力を制御し、締め付けトルクを調整することができる。
【0032】
ライナ室20Aは、図3(a)及び図3(b)に示すように、ライナ20の回転軸に垂直方向の断面が略楕円形であり、内周面に4つの凸状のシール面21、22、23、24が突起または突起部として設けられる。4つのシール面のうち、2つの凸状のシール面21、22は、一対の作用部として、ライナ室20Aの内周面において、ライナ室20Aの長軸線X−X(ライナ室20Aの中心軸を通る長径方向の直線でありメインシャフト10の中心を通る中心線)上にそれぞれ形成される。他の2つの凸状のシール面23、24は、ライナ室20Aの内周面において、ライナ室20Aの短軸線Y−Y(ライナ室20Aの中心軸を通る短径方向の直線)よりシール面21に近い距離αのところにそれぞれ形成される。従って、2つのシール面23、24は、ライナ20の回転軸(長軸線と短軸線との交点でありライナ20の中心)に対し互いに180度非対称に形成される。なお、長軸線X−Xは仮想線に対応し、短軸線Y−Yは第2の仮想線に対応する。
【0033】
メインシャフト10は、図4に示すように、ライナ室20Aに嵌装される筒状部材からなる。メインシャフト10に、図3(a)に示すように、中心を通る長軸線X−X上において、2つのブレード挿入溝11a,11bを互いに対向するように設ける。各ブレード挿入溝11a,11b内に、第1及び第2の打撃トルク発生時に、ライナ室20Aの内周面に形成された2つのシール面21、22と摺接するブレード12、13を嵌挿する。ブレード12、13の間には、付勢部材としてのばね14が設けられ、常時ブレード12、13を互いに反対方向、すなわちそれぞれ外周方向に付勢する。ブレード12、13の各々の円周方向における厚さは、ブレード挿入溝11の溝幅より小さく形成される。
【0034】
また、ブレード12、13は、ライナ20の回転に伴い、シール面21、22の各々に乗り上がり可能な形状に形成されている。ブレード12、13は、シール面21、22の各々に乗り上がった状態で、ばね14による付勢によりシール面21、22の各々と摺接して、ライナ20とメインシャフト10とが共回り可能に設けられている。
【0035】
図3(a)に示すように、ブレード12、13がライナ室20Aの2つのシール面21、22にそれぞれ摺接するときに、ライナ室20Aのシール面23、24と第1のシール部を構成する凸状のシール面15、16(突起)がメインシャフト10の外周面に形成される。より詳細には、シール面15、16は、長軸線X−Xに直交する短軸線Y−Yからブレード12に接近する距離αのところにそれぞれ形成される。また、このとき、メインシャフト10の外周面のシール面15とライナ室20Aのシール面23との間には、図5(a)に示すように、お互いの接触を避けるために、微小な間隙βが設けられる。同様に、メインシャフト10の外周面のシール面16とライナ室20Aのシール面24との間にも、お互いの接触を避けるために微少な間隙βが設けられる。間隙βは、20〜50μm程度である。なお、この間隙βは、オイルパルスユニット4の大きさによって異なる。
【0036】
さらに、ライナ20がメインシャフト10に対して図3(a)に示す状態から相対的に180度回転して図3(b)に示す状態になると、ブレード12、13は、ライナ20のシール面22、21とそれぞれ摺接する。このとき、ライナ室20Aのシール面23、24と第2のシール部を構成する凸状のシール面17、18(突起)がメインシャフト10の外周面に形成される。より詳細には、図3(b)に示すように、シール面17、18は、短軸線Y−Yからブレード13に接近する距離αのところにそれぞれ形成される。また、このとき、メインシャフト10の外周面のシール面18とライナ室20Aのシール面24との間には、図5(b)に示すように、お互いの接触を避けるために、微小な間隙βが設けられる。なお、間隙βは、間隙βより大きく形成される。また、間隙βは、オイルパルスユニット4の大きさによって異なる。同様に、メインシャフト10の外周面のシール面17とライナ室20Aのシール面23との間にも、お互いの接触を避けるために間隙βが設けられている。すなわち、凸状のシール面17、18のメインシャフト10の外周面からの突出量は、シール面15、16のメインシャフト10の外周面からの突出量よりも小さくなるように形成されている。なお、シール面15、18とシール面16、17とは、それぞれ、長軸線X−X(中心線)に対して線対称にメインシャフト10に設けられている。また、シール面15、16とシール面18,17とは、短軸線Y−Y(メインシャフト10の中心を通り長軸線X−Xと直交する第2中心線)に対して線対称にメインシャフト10に設けられている。
【0037】
オイルパルス工具1はボルト締め付け時において締め付けボルトの座面が着座すると、メインシャフト10に負荷がかかり、メインシャフト10、ブレード12、13は、回転方向にほぼ停止した状態になり、ライナ20だけが回転し続ける。ライナ20がメインシャフト10の外周を相対的に回転するとき、ライナ20のシール面21、22は、ばね14により付勢されたメインシャフト10のブレード12、13とそれぞれ摺接すると共に、ライナ20のシール面23、24はメインシャフト10のシール面15、16とそれぞれシールされるので、第1のシール部が形成され、ライナ室20Aは4分割される。具体的には、各ブレード12、13を境にしてライナ室20Aは、第1の高圧室と第1の低圧室とに区画される。第1の高圧室と第1の低圧室との圧力差により生じた力が、ブレード12、13の各々を受圧面として作用するので、ライナ20の回転方向に瞬間的に強力な第1の打撃トルクが発生する。この第1の打撃トルクによりメインシャフト10が回動されて強い打撃力が発生する。より具体的には、第1の打撃トルクによりライナ20及びメインシャフト10が共回りするので、先端工具を介して打撃及び締付動作を行うことができる。
【0038】
さらに、この状態より、ライナ20がメインシャフトに対して相対的に180度回転すると、ライナ20のシール面21、22は、ばね14により付勢されたメインシャフト10のブレード13、12とそれぞれ摺接すると共に、ライナ20のシール面23、24はメインシャフト10のシール面17、18とそれぞれシールされるので、第2のシール部が形成され、ライナ室20Aを4分割される。具体的には、各ブレード12、13を境にしてライナ室20Aは、第2の高圧室と第2の低圧室とに区画される。第2の高圧室と第2の低圧室との圧力差により生じた力が、ブレード12、13の各々を受圧面として作用するので、ライナ20の回転方向に瞬間的に強力な第2の打撃トルクが発生する。この第2の打撃トルクによりメインシャフト10が回動されて強い打撃力が発生する。より具体的には、第2の打撃トルクによりライナ20及びメインシャフト10が共回りするので、先端工具を介して打撃及び締付動作を行うことができる。
【0039】
第2のシール部が形成されるとき、第1のシール部に比較して、ライナ20のシール面23、24と、メインシャフト10のシール面17、18との間の間隙β2は、ライナ20のシール面23、24と、メインシャフト10のシール面15、16との間の間隙β1より広い。すなわち、作動油の通過面積が間隙β1より間隙β2のほうが広いために、作動油が高圧室から低圧室に向けてリークしやすいので、第2の打撃トルクは、第1の打撃トルクより小さくなる。従って、図6に示すように、メインシャフト10に対してライナ20が相対的に1回転する間、大きさの異なる2種類のトルクが回転速度に応じて交互に発生する。第2の打撃トルクが第1の打撃トルクよりも小さい場合であっても、ねじ締めに必要なトルクよりも大きければ、打撃作業は円滑に行われる。このような構造とすることで、木ネジの締め付け等の比較的低いトルクで締め付ける作業と、ボルトの締め付け等の高いトルクが必要な作業とを同時に満たすことができる。2打撃機構とすることにより締め付け速度が速くなり、シール面間の隙間を変えることでトルクが一律になる構造よりも高トルクにすることが可能となる。
【0040】
このように、第1のシール部及び第2のシール部が形成される度に、第1の打撃トルク及び第2の打撃トルクがそれぞれ発生して打撃作業が行われる。すなわち、ライナ20がメインシャフト10に対して相対的に1回転するときに、打撃トルクが2回発生する。具体的には、上記動作により、1秒間に40〜60回の打撃トルクを発生させることができる。
【0041】
次に、オイルパルスユニット4の動作を説明する。トリガスイッチ7を引くことによりモータ3が回転し、モータ3の回転力が減速機構により減速されてライナ20に伝達されて、ライナ20が回転する。本実施の形態では、モータ3の回転軸3Aとオイルパルスユニット4との間の伝達経路に減速機構を設けたが、この構成に限らず、減速機構を設けずにモータ3の回転軸3Aにライナアッパプレート41を直結して、ライナ20がモータ3の回転と同期して回転するようにしても良い。
【0042】
図7の(1)〜(8)は、ライナ20がメインシャフト10に対して相対角で1回転する状態を示した図である。前述したように、出力軸5に負荷のかかっていないとき、又は、負荷が小さい時には、オイルの抵抗のみでメインシャフト10はモータ3によって回転する。出力軸5に強い負荷がかかるとそれに直結されたメインシャフト10の回転が止まり、外側のライナ20のみが回転を続ける。なお、本発明では、「1回転」とは、ライナ20がメインシャフト10に対して相対的に1回転すること、又は、メインシャフト10がライナ20に対し相対的に1回転すること、の何れかを意味するものである。
【0043】
図7の(1)は、メインシャフト10に衝撃パルスによる打撃力が発生するときの位置関係を示す図である。この(1)に示す位置が、「オイルを密閉する位置」であり、第1のシール部が形成されている状態である。このとき、ライナ20のシール面21、22とメインシャフト10のブレード12、13とが摺接し、ライナ20のシール面23、24と、メインシャフト10のシール面15、16とが第1のシール部を構成することで、ライナ室20Aが2つの第1の高圧室(図中、ライナ室20Aの右上及び左下の部屋)と2つの第1の低圧室(図中、ライナ室20Aの左上及び右下の部屋)の4室に区画される。
【0044】
ここで高圧、低圧とは、内部に存在するオイルの圧力を示す。さらにモータ3の回転によってライナ20が回転すると、第1の高圧室の容積は減少するためオイルは圧縮されて瞬間的に高圧が発生し、この高圧はブレード12、13を受圧面として第1の低圧室側に押し出す。その結果、メインシャフト10にはブレード12、13を介して瞬間的に回転力が作用して強力な回転トルクが発生する。この第1の高圧室が形成されることにより、ブレード12、13を図中時計方向に回転させるような強い第1の打撃力が作用する。図7(1)に示す位置を本発明では「第1の打撃位置」とする。
【0045】
図7の(2)は、第1の打撃位置からライナ20が45度回転した状態を示す。(1)に示す第1の打撃位置を過ぎると、ライナ20のシール面21、22とメインシャフト10のブレード12、13との摺接状態が解除され、ライナ20のシール面23、24と、メインシャフト10のシール面15、16との第1のシール部が消滅するため、ライナ20の内部の4室に区画されていた空間が解除され、相互の空間にオイルが流れるため、回転トルクは発生せず、ライナ20はモータ3の回転によりさらに回転する。
【0046】
図7の(3)は、第1の打撃位置からライナ20が90度回転した状態を示す。この状態では、ブレード12、13がライナ20のシール面24、23に当接してメインシャフト10から突出しない位置まで半径方向内側まで後退する。このため、オイルの圧力の影響を受けず回転トルクは発生しないため、ライナ20はそのまま回転する。
【0047】
図7の(4)は、第1の打撃位置からライナ20が135度回転した状態を示す。この状態ではライナ室20Aの内部は連通してオイルの圧力変化が生じないため、メインシャフト10に回転トルクは発生しない。
【0048】
図7の(5)は、第1の打撃位置からライナ20が180度回転した状態を示す。この(5)示す位置は、「オイルを密閉する位置」であり、第2のシール部が形成されている状態である。このとき、ライナ20のシール面21、22とメインシャフト10のブレード13、12とが摺接し、ライナ20のシール面23、24が、シール部16、15とは異なるメインシャフト10のシール面17、18と第2のシール部を構成することで、ライナ室20Aが2つの第2の高圧室(図中、ライナ室20Aの右上及び左下の部屋)と2つの第2の低圧室(図中、ライナ室20Aの左上及び右下の部屋)の4室に区画される。
【0049】
さらにモータ3の回転によってライナ20が回転すると、第2の高圧室の容積は減少するためオイルは圧縮されて瞬間的に高圧が発生し、この高圧はブレード12、13を受圧面として第2の低圧室側に押し出す。その結果、メインシャフト10にはブレード12、13を介して瞬間的に回転力が作用して強力な回転トルクが発生する。この第2の高圧室が形成されることにより、ブレード12、13を図中時計方向に回転させるような第2の打撃力が作用する。図7(1)に示す位置を「第2の打撃位置」とする。
【0050】
なお、第2のシール部が形成されるときの、ライナ20のシール面23、24とメインシャフト10のシール面17、18との間隙βが、第1のシール部が形成されるときのライナ20のシール面23、24とメインシャフト10のシール面15、16との間隙βより広いことから、第2の打撃力は、第1の打撃力より小さくなる。
【0051】
図7の(6)〜(8)の状態は、(2)〜(4)とほぼ同様であり、これらの状態の際は回転トルクが発生しない。(8)の状態からさらに回転すると、図7の(1)の状態に戻り、ライナ20のシール面21、22とメインシャフト10のブレード12、13とが摺接し、ライナ20のシール面23、24と、メインシャフト10のシール面15、16とが再び第1のシール部を構成するので、ライナ20の内部空間が2つの第1の高圧室と2つの第2の低圧室の4室に区画されるため、メインシャフト10に回転トルクが発生する。
【0052】
オイルパルス工具1は、トリガスイッチ7が引かれている間、オイルパルスユニット4が図7(1)〜(8)に示す動作を繰り返すので、第1及び第2の打撃トルクが交互に連続して発生する間、先端工具を介して打撃動作が繰り返される。
【0053】
このように、上記構成により、ライナ20がメインシャフト10に対して相対的に1回転する間に、2回の打撃動作を行うことが可能になる。
【0054】
また、1回転の間に生じる2つの打撃トルクのうち、第1の打撃トルクは、第2の打撃トルクよりも強いので、1回転あたりの打撃数を増やしながらも、十分な打撃力を維持することが可能であり、高トルクが必要な締付作業にも対応することができる。
【0055】
本実施の形態において使用されるライナ20は、従来の1回転1打撃のオイルパルス工具で使用されるライナと同じ構成を有する。従って、1回転1打撃のオイルパルス工具のメインシャフトを、本実施の形態のメインシャフト10に交換するだけで、1回転2打撃のオイルパルス工具とすることができる。従って、1回転2打撃の工具を製造するときのコストを廉価に抑えることができる。
【0056】
また、単位時間あたりの打撃数を、従来構成のオイルパルス工具に比較して増やすことができるので、打撃操作を短時間で終えることが可能になる。
【0057】
本実施の形態においては、シール部を構成するシール面の個数を、ライナ20よりもメインシャフト10に多く形成したが、メインシャフト10よりもライナ20に多くのシール面を形成しても、上記実施の形態と同様に、1回転に2打撃を行うことができる。
【0058】
また、メインシャフト10に設けるシール面の個数を上記実施の形態よりも増やすことによって、1回転における打撃数を増やして打撃作業の効率化を図ることができる。
【0059】
上記実施の形態では、図4に示すように、メインシャフト10に形成されるシール面15、16、17、18は、シール面15、16が、シール面17、18よりもメインシャフト外周面からの突出量が多くなるように形成することにより、第1のシール部と第2のシール部とでオイルの通過面積を変えて第1の打撃トルクと第2の打撃トルクの大きさを変えるように構成していた。図4に示すメインシャフト10に替えて、図8及び図9に示すように、4つのシール面のメインシャフト10’の外周面からの突出量を同じに形成しながらも、シール面17、18(18のみ図示)にメインシャフト10の回転方向に溝18aを形成することによって、第1の実施の形態と同様な作用及び効果を達成することができる。
【0060】
また、図10に示すように、外周面にシール面が形成されていないメインシャフトを用いた場合であっても、ライナ20がメインシャフトに対して相対的に180度回転してライナ20のシール面23、24がメインシャフトの外周面と摺接する度に打撃トルクが発生し、打撃動作を行うことができる。
【0061】
図8乃至図10に示すメインシャフトを用いた場合であっても、第1の実施の形態の打撃工具と同様な作用及び効果を達成することができる。
【0062】
なお、出力軸5をライナ20に連結して、モータ3の回転によりメインシャフト10を回転し、メインシャフト10の回転により生じるトルクをライナ20に伝達することにより、打撃作業を行っても良い。
【符号の説明】
【0063】
1 打撃工具
3 モータ
10 メインシャフト
12、13 ブレード
14 ばね
20 ライナ
23、24 作用部としてのシール面
15、16 第1のシール部としてのシール面
17、18 第2のシール部としてのシール面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10