特許第6504458号(P6504458)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6504458
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】橋梁の防食塗装方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/08 20060101AFI20190415BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20190415BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20190415BHJP
【FI】
   E01D19/08
   E01D22/00 A
   E01D1/00 E
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-233385(P2015-233385)
(22)【出願日】2015年11月30日
(65)【公開番号】特開2017-101404(P2017-101404A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】518126144
【氏名又は名称】株式会社三井E&Sマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】貝沼 重信
(72)【発明者】
【氏名】内田 大介
(72)【発明者】
【氏名】松本 巧
(72)【発明者】
【氏名】石原 修二
(72)【発明者】
【氏名】浅野 浩一
(72)【発明者】
【氏名】井上 大地
【審査官】 神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−200157(JP,A)
【文献】 特開2010−053301(JP,A)
【文献】 特開2014−151281(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0233795(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/08
E01D 1/00
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁における腐食防止のための塗装方法であって、
塗装面との間に不動態被膜が構成されるセメント系防食塗料により構成される下地処理剤を被塗装部材における角部と、前記角部を含む板厚方向端面に塗布し、
前記下地処理剤が硬化した後、前記下地処理剤の塗布範囲よりも広い範囲を一般塗料により塗装することを特徴とする橋梁の防食塗装方法。
【請求項2】
橋梁における腐食防止のための塗装方法であって、
塗装面との間に不動態被膜が構成されるセメント系防食塗料により構成される下地処理剤を被塗装部材における添接板やボルトの配置部、および溶接部分と、その外周近傍であって、主体とする塗布範囲よりも狭い面積の範囲に塗布し、
前記下地処理剤が硬化した後、前記下地処理剤の塗布範囲よりも広い範囲を一般塗料により塗装することを特徴とする橋梁の防食塗装方法。
【請求項3】
前記下地処理剤と前記一般塗料との間に、中塗り塗装を施すことを特徴とする請求項1または2に記載の橋梁の防食塗装方法。
【請求項4】
前記下地処理剤による塗膜の厚みを、前記中塗り塗装の塗膜厚、および前記一般塗料の塗膜厚よりも厚くしたことを特徴とする請求項に記載の橋梁の防食塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼材料の防食塗装方法に係り、特に、橋梁に使用される鉄鋼材料の防食塗装に好適な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁に使用される鉄鋼材の場合、防食処理の代表例が塗装であり、下塗りと上塗り(場合によっては下塗りと上塗りの間に中塗り)を施し、目的、用途別に複数回の塗装が施される。
【0003】
橋梁は、薄板を組み合わせて溶接される構造であり、塗装面が十分にとれる板面は、十分な塗膜厚が確保されるが、端面にあたるコバ部分では、板厚の薄さに起因して、十分な塗装面積を得ることができない。このため、コバ部分では、スプレー塗装でも刷毛塗装でも、十分な塗膜厚を得ることができないことがある。
【0004】
このため、塗膜の薄いコバ部分から錆が発生し、被塗装部材の腐食へと発展することがある。よって、コバ部分の塗膜厚を確保する事が長寿命化への課題の一つとなっている。
【0005】
橋梁において、防食のために塗装を施す場合、橋梁構成部材全体を被覆するように塗装することが一般的であるが、橋梁を構成する部材として、耐候性鋼を用いた場合には、防食のための塗装を部分塗装とすることもある。
【0006】
耐候性鋼を用いて構成した橋梁において、防食のために部分塗装を施すという技術としては、特許文献1に開示されているようなものが知られている。特許文献1に開示されている技術は、沿岸付近に設置された橋梁に対する部分塗装に関するものである。特許文献1では、橋梁における高腐食部分と低腐食部分とを分別し、設置個所の環境から、塩害の激しい箇所を特定している。そして、塩害の影響を及ぼす風の流れを遮断するジャマ板を設置すると共に、高腐食部分に防食塗装を施すというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4959433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されているような技術を用いれば、橋梁全体を塗装する事無く、高腐食部分への塩害を低減することができると考えられる。しかし、塗膜自体の厚さや塗装方法などは、従来の技術を用いて形成されるため、角部を含むコバ部分は、十分な塗膜厚を得ることができない。このため、コバ部分からの腐食を解消することはできない。
【0009】
そこで本発明では、コバ部分からの錆の発生に起因した腐食を抑制することのできる橋梁の防食塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための橋梁の防食塗装方法は、橋梁における腐食防止のための塗装方法であって、塗装面との間に不動態被膜が構成されるセメント系防食塗料により構成される下地処理剤を被塗装部材における角部と、前記角部を含む板厚方向端面に塗布し、前記下地処理剤が硬化した後、前記下地処理剤の塗布範囲よりも広い範囲を一般塗料により塗装することを特徴とする。
【0011】
また、上記目的を達成するための橋梁の防食塗装方法は、橋梁における腐食防止のための塗装方法であって、塗装面との間に不動態被膜が構成されるセメント系防食塗料により構成される下地処理剤を被塗装部材における添接板やボルトの配置部、および溶接部分と、その外周近傍であって、主体とする塗布範囲よりも狭い面積の範囲に塗布し、前記下地処理剤が硬化した後、前記下地処理剤の塗布範囲よりも広い範囲を一般塗料により塗装することを特徴とするものであっても良い。
【0012】
また、上記のような特徴を有する橋梁の防食塗装方法において前記下地処理剤は、セメント系防食塗料であることが望ましい。このような特徴を有することにより、下地処理剤に傷が付き、鋼材が外部に晒された場合であっても、錆の進行による腐食を抑制することができる。
【0013】
また、上記のような特徴を有する橋梁の防食塗装方法では、前記下地処理剤と前記一般塗料との間に、中塗り塗装を施すようにすると良い。このような特徴を有することにより、一般塗料による上塗りの乗りを良くし、上塗りの密着性を高めることができる。
【0014】
さらに、上記のような特徴を有する橋梁の防食塗装方法では、前記下地処理剤による塗膜の厚みを、前記中塗り塗装の塗膜厚、および前記一般塗料の塗膜厚よりも厚くすることができる。このような特徴を有することにより、コバ部分を確実に被覆することができ、防食効果を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
上記のような特徴を有する橋梁の腐食防止方法では、コバ部分からの錆の発生に起因した腐食を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】塗装対象とする橋梁の主桁を示す斜視図である。
図2図1におけるA−B−C−D断面を示す図である。
図3図2におけるa部分の拡大図である。
図4】下地処理剤の塗装部位の第1の応用例を示す図である。
図5】下地処理剤の塗装部位の第2の応用例を示す図である。
図6】下地処理剤の塗装部位の第2の応用例の変形例を示す図である。
図7】下地処理剤の塗装部位の第3の応用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の橋梁の防食塗装方法に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、塗装対象とする橋梁の主桁を示す斜視図であり、図2は、図1におけるA−B−C−D断面を示す図である。主桁10は、腹板12と、上フランジ14、下フランジ16、垂直補剛材18、および水平補剛材20を基本として構成されている。腹板12は、主桁10の主体となる鋼板であり、板面が垂直となるように配置されている。上フランジ14、および下フランジ16は、腹板12の上下それぞれに、その板面が腹板12の板面と直交するように接続される板である。垂直補剛材18は、上フランジ14と下フランジ16の間に、腹板12に沿って配置される補強材であり、その板面が腹板12の板面と直交するように配置されている。水平補剛材20は、腹板12の板面に、その板面が、上フランジ14および下フランジ16の板面と平行となるように立設されている補強材である。
【0018】
本実施形態の防食塗装方法では、まず、図2において破線で囲っている部分、すなわち、構成部材の角部と、この角部を含む板厚方向端面(以下、単にコバ部分と称す)を下地処理剤30(図3参照)で塗装する。
【0019】
本実施形態で用いる下地処理剤30は、複合型防食作用を持ったセメント系防食塗料とすると良い。複合型防食作用を持ったセメント系防食塗料とは、例えば、塗膜中にセメントと無機系粉体及び亜硝酸イオンを含み、アルカリ防食と自己修復防食作用が同時に進行し、防食性を高める作用を持った塗料である。
【0020】
具体的な作用として、次のような作用がある。セメント系防食塗料は、水酸化カルシウム(Ca(OH))と亜硝酸イオン(NO)を含み、被覆面をアルカリ雰囲気に保つこととなる。このような環境下では、塗膜に傷がつき、隙間から塩化物イオン(Cl)等の侵入によって、2価の鉄イオン(Fe2+)として溶出した際、鉄イオンは、化学式1に示すように、水酸化物イオンと亜硝酸イオンの反応により、酸化鉄(3)=錆(Fe)の形成により不動態化し、腐食の進行を抑制する。
【化1】
【0021】
また、セメント系防食塗料は、一般塗料に比べて粘度を高めた厚塗りが容易で、コバ部分等の端部に対する密着性が高く、厚い塗膜を確保することができる。また、硬化に伴い密着強度が上昇するため、施工後の塗膜が剥離しにくい。
【0022】
そして、塗膜が傷つき、主桁10の構成材料である鋼板表面が外部に晒された場合であっても、上記のような複合型防食作用により、錆の進行を抑制することができる。このような作用を成す下地処理剤30としては、例えばスラグリードSR塗料(ダイキ工業株式会社)を挙げることができる。
【0023】
下地処理剤30を下塗りとしてコバ部分の塗装をした後、下地処理剤30の塗布範囲よりも広い範囲となるように、一般塗料による下塗り(以下、中塗り32と称す)と、上塗り34を施す。実施形態においては、主桁10全体に対して、中塗り32と、上塗り34を施すようにする。ここで、一般塗料としては、下塗りとなる下地処理剤30と伸び率(硬化の際の縮み率、および熱膨張率)が近似するものを採用することが望ましい。一般塗料の剥離や割れを抑制するためである。
【0024】
図2において丸で囲ったa部分を拡大した断面図を図3に示す。セメント系防食塗料は通常、80ヶ月の耐環境性能を持たせるためには200μm程度の厚みを持った塗装膜を形成することが望ましいとされている。これに対し、本実施形態においてコバ部分を被覆する下地処理剤30の塗膜厚は、100μm程度とする。
【0025】
防食塗り(下地処理剤30)の上に、一般塗料による下塗り32と中塗り34、及び上塗り36を施すからである。下塗り32の塗膜厚としては、35μm程度の塗膜厚での2度塗りとすると良い。また、中塗り34と上塗り36の塗膜厚としては、30μm程度の塗膜厚の中塗り34と、25μm程度の塗膜厚の上塗り36での2度塗りとすると良い。なお、下塗り32、中塗り34、および上塗り36は、下地処理剤30が硬化した後に施すようにすると良い。
【0026】
上記のような塗装方法を実施することにより、コバ部分を厚く、密着強度の高い塗膜で被覆することができる。また、塗膜が傷ついた場合であっても、セメント系防食塗料により、コバ部分の下地処理(防食塗り)を行うことにより、鋼板の表面がアルカリ雰囲気となり、錆の発生を抑制し、錆の進行による腐食を防ぐことができる。
【0027】
さらに、十分な塗膜厚を得ることのできない部分(実施形態ではコバ部分)のみに、防食塗りとしての下地処理剤30(セメント系防食塗料)による塗装を施すこととし、その他の部位は、一般塗料による下塗り32と中塗り34、および上塗り36としたことにより、下地処理剤30による塗装面積を抑制し、費用の高騰を抑えることもできる。
【0028】
また、上記実施形態では、下地処理剤30による防食塗りは、コバ部分のみを対象としていたが、一般塗料による塗膜の厚みが得られにくい部分に対しても、下地処理剤30による防食塗りを施すことで、当該部分からの錆の発生に起因した腐食を抑制することができる。
【0029】
具体的な例としては、図4に示すように、接続部や伸縮装置における添接板やボルト22の配置部分を含むその近傍(斜線でハッチングしている部分)を挙げることができる。
【0030】
また、図5に示すような、主桁10の端部部分(溶接線交差部)に下地処理剤30を施すようにしても良い。具体的な塗装範囲としては、図5中に破線で示すb−b線よりも端部側、すなわち斜線でハッチングした部分とすると良い。図5に示す例では、b−b線の上端側基点は、主桁10を支える橋脚24の上部に位置する支点上補剛材38を基点として、1つ支間中央側に位置する垂直補剛材18と上フランジ14との交点としている。また、b−b線の下端側基点は、上端側基点となる垂直補剛材18よりも1つ内側に位置する垂直補剛材18(基点から2つ目の垂直補剛材18)と下フランジ16との交点としている。なお、下地処理剤30を施す範囲を定めるb−b線は、直線に限るものでは無い。例えば図6に示すような、下に凸な双曲線とすることもできる。
【0031】
さらに、図7に示すような、腹板12、下フランジ16と垂直補剛材18の溶接部分にも、下地処理剤30を施すようにしても良い。溶接部分周辺部における下地処理剤30の塗装範囲としては、溶接ビードを基点としてcの範囲までを覆う範囲とすると良い。cの範囲としては、例えば、溶接ビードの端部を基点として、10mm程度とすれば良い。
【0032】
塗り直しがし難い橋脚支持部近傍の橋梁端部のこのような範囲に下地処理剤30による下塗りを施せば、経年劣化による端部からの錆の発生、および腐食の進行を長期に亙って抑制することができる。
【0033】
本施工方法は、図1に示すI桁橋に限定するものではなく、鋼橋であれば、I桁橋、箱桁橋から、吊橋まで適用可能である。また、複合トラス橋、波型鋼板橋などの鋼コンクリート複合構造や鋼製橋脚のコンクリート接触部とその近傍などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0034】
10………主桁、12………腹板、14………上フランジ、16………下フランジ、18………垂直補剛材、20………水平補剛材、22………ボルト、24………橋脚、30………下地処理剤、32………下塗り、34………中塗り、36………上塗り、38………支点上補剛材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7