【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成26年度経済産業省「戦略的基盤技術高度化支援事業『高速双ロール式縦型鋳造法による難加工性高機能薄板の革新的製造技術の確立』」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
金属板を製造する方法として、ロール式連続鋳造法がある。ロール式連続鋳造法として、単ロール式連続鋳造法、双ロール式連続鋳造法などが知られている。
【0003】
たとえば、単ロール式連続鋳造法では、回転する鋳造ロールに金属溶湯を当接させることで、鋳造ロールの外周面から冷却を受けて金属溶湯が凝固して凝固殻が形成される。凝固殻は成長を続けながら薄帯状の金属板が作製される。
【0004】
また、双ロール式連続鋳造法では、互いに回転する一対の鋳造ロール間に形成された湯溜まりに金属溶湯を注湯し、夫々鋳造ロールの外周面から冷却を受けて金属溶湯が凝固して凝固殻が形成される。凝固殻は成長を続けながら鋳造ロール間で接合されて薄帯状の金属板が形成される(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
一般に冷却用の鋼製鋳造ロールは、外殻となるシェルを円柱状のコアに焼き嵌めすることで締結し、シェルの軸方向両端をコアに溶接することで一体化している。
【0006】
鋳造工程において、鋳造ロールは、金属溶湯との接触により加熱され、樽型に熱膨張する。その結果、鋳造された金属板は、幅方向の中央が凹んだ形状の断面になる(たとえば特許文献2、非特許文献1参照)。このため、特許文献1では、シェルの軸方向に複数の冷媒通路を形成している。また、後述する
図12(a)に示すようにコア64の周面に冷媒通路66を形成することで冷却を図った例もある。
【0007】
特許文献1や特許文献2は、鉄鋼板を鋳造する鋳造ロールであり、特許文献1では、シェルの熱膨張による樽型変形を抑えるために、予め熱膨張分を考慮してシェルを軸方向中央に向けて凹形状に凹ませている。また、特許文献2では、冷却通路からの冷却能を高めるため、シェルを熱伝導率にすぐれる銅から作製している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1は、予め熱膨張分を考慮してシェルの中央を凹ませた形状としているが、操業条件によって所期のとおり熱膨張せず、金属板に凹凸が生ずる虞がある。また、シェルを凹状に加工することは非常に困難である。
【0011】
特許文献2は、シェルが銅製であり、ロールの耐荷重が低い鉄の鋳造用向けであり、アルミニウムなどの非鉄金属のように高い耐荷重を必要とする用途には向いていない。また、銅は、耐摩耗性が低く、傷付き易く耐久性に欠ける。
【0012】
このため、
図12(a)に示すように、コア64の周面に1又は複数の冷媒通路を形成した鋳造ロール60が提案されている。シェルとコアは、焼嵌めにて固定されている。しかしながら、このような鋳造ロール60であっても、鋳造された金属板68の断面が
図12(c)に示すように幅方向の中央部が凹んだ形状となってしまうことから、熱膨張によりシェル62が
図12(b)の如く樽型に変形していると考えられる。
【0013】
従来、シェル62の樽型膨張の原因は、非特許文献1に記載されているように、シェル62の軸方向の中央部分が最も高温となって熱膨張するためと考えられていた。
【0014】
上記通説を確認するため、最も高温となるシェル62の軸方向中央部分が冷却されるように、
図13(a)に示すように、コア64(幅100mm)の軸方向中央に冷媒通路を形成した鋳造ロール60を作製した。しかしながら、やはり熱膨張によりシェル62が
図13(b)の如く樽型に変形し、鋳造された金属板68の断面が
図13(c)に示すように、幅方向の中央部が凹んだ形状となった。
【0015】
次に、発明者は、
図14(a)に示すように、コア64,64及びシェル62,62を軸方向に2分(夫々幅50mm)することを思い立った。対応する円柱状の各コア64,64には、シェル62,62の夫々の中央に冷媒通路66,66を形成し、シェル62,62とコア64,64の両端部を輪状に溶接にて固定して鋳造ロール60を作製した。
【0016】
そして、この鋳造ロール60を用いて金属板68の鋳造を行なった。この場合においても、最も高温となる軸方向の中央部、すなわち、シェル62,62どうしの継ぎ目部分が外向きに熱膨張することが予想された。しかしながら、実際に金属板68の鋳造を行なうと、この鋳造ロール60により鋳造された金属板68の断面は、
図14(c)、より詳細には
図11の比較例2のグラフに示すような板厚分布の2つの谷が生じた形状となった。このことから、シェル62,62は、夫々が
図14(b)に示すように樽型に熱膨張していると推測された。つまり、シェル62,62は、最も高温となるシェル62,62どうしの継ぎ目部分ではなく、各シェル62,62の中央が熱膨張したと考えられる。板厚の変化量は、比較例1と比べて小さくなっていることから、ロールを軸方向に多分割することも板厚分布差を小さくすることに有効ではあるが、ロールが複雑な構造になり、ロールの製造が難しくなる。
【0017】
発明者がこの理由を考察したところ、
図13や
図14に示すように、シェル62,62は、コア64への溶接による固定によって最も強い拘束力を受けており、これらシェル62,62の各端部がコア64に固定され、軸方向(軸に平行な方向)の伸びに制約を受ける結果、熱膨張による軸方向の応力がシェル62,62のロール径が太くなる方向に方向を変えて作用し、シェル62,62が夫々樽型に変形したと推測するに至った。
【0018】
つまり、シェルを円柱状のコアに焼き嵌めによって軸方向両端で拘束し、コアとシェルの間に冷却を施したシェル・コア構造では、シェルは、コアに軸方向に拘束を受けつつ冷却を受けるシェルの内側部分と、十分な冷却を受けないシェルの外側部分との間の熱膨張差が生じることになる。このとき、シェルの外側部分は外側に外径方向及び周方向に膨張しようとするが、シェルは、コアによって軸方向両端が拘束されているから、生じた応力は、ロール径が太くなる方向に方向を変えて外向きに作用し、樽型に熱膨張してしまうことが理由であるとの知見を得た。この知見に基づき、本発明に至った。
【0019】
本発明の目的は、鋳造ロールの樽型変形を抑え、板厚分布の平坦な金属板を製造するための鋳造ロールを提供することである。特に非鉄金属の高速鋳造に適した鋳造ロールを提供することである。更にはAl-SiCp等のセラミック粒子を複合した複合材のような硬くてロールを傷付き易い非鉄金属材料の鋳造に適した鋳造ロールを提供することである。
【0020】
従来、非鉄金属材料を鋳造する場合の鋳造ロールの周速は5m/min以下であるが、本発明では、鋳造ロールの周速が10m/min以上120m/min以下の高速鋳造に適した非鉄金属材料用鋳造ロールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る冷却用鋳造ロールは、
非鉄金属板の連続鋳造に用いられる鋼
又は鋳鉄を含む鉄系合金製の鋳造ロールであって、
ロール外周側を少なくとも構成し、外周面の近傍に冷媒がロール長手方向に流通する冷媒通路を円周方向に複数形成してなる円筒状又は直径が100mm以上の円柱状のロール本体を有し、
前記ロール本体は、
前記外周面から前記冷媒通路までの距離dが3mm≦d<20mm、
隣り合う冷媒通路どうしの間隔cが5mm≦c≦20mm、
であり、
前記ロール本体が円筒状の場合、前記ロール本体の内周面から前記冷媒通路までの距離aは、10mm以上、且つ、前記外周面から前記冷媒通路までの距離dの2倍以上である。
【0022】
前記鋳造ロールは、双ロール式連続鋳造に用いられ、
鋳造ロールの耐荷重が0.1〜2kN/mm、
周速10m/min以上120m/min以下、
で用いられることが好適である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の冷却用鋳造ロールによれば、冷媒通路をロール本体の外周面と近い位置に設けたことで、ロール本体の冷却能を高めることができる。また、ロール本体は、冷媒通路よりも内周側を厚く構成したことで、内周側の曲げ応力を大きくすることができる。また、ロール本体の内周側は、冷媒通路により冷却を受けるから熱膨張により殆んど変形することはない。従って、ロール本体の内周側の厚みが十分であれば、金属板を鋳造する際に、加熱を受けて外側に熱膨張しようとする薄いロールの外周側がロール径が太くなる方向に変形しようとする応力に対抗しうる抗力を有することとなり、この内周側からの十分な抗力が有ればロール本体の外周側の熱膨張による変形を抑えることができる。従って、本発明の鋳造ロールを用いて鋳造された金属板は、板厚分布の差が小さい平坦な形状にすることができる。このため、非鉄金属の高速鋳造に適する。
【0024】
また、ロールは鋼
又は鋳鉄を含む鉄系合金製なので、安価で、加工が容易のため製造しやすく、強度が高いので、鋳造時のロール圧によってもロール表面が変形し難く、且つ、たとえAl−SiCpのような複合材の鋳造においても表面が傷付き難い。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係る鋳造ロールについて図面を参照しながら説明を行なう。
【0027】
図1は、本発明の鋳造ロール10を採用した双ロール式連続鋳造装置40の一例を示す要部説明図である。
図1は、後述する湯溜まり42の中央で鋳造ロール10,10の軸方向に直交するよう断面したものである。
【0028】
図に示すように、双ロール式連続鋳造装置40は、互いに軸方向を水平且つ平行とした一対の鋳造ロール10,10を鋳造される金属板50の厚さに合わせた間隔を存して配置している。鋳造ロール10,10は、軸心Oを中心として図中矢印方向に回転するよう駆動手段に連繋されている。
【0029】
鋳造ロール10,10間には、金属溶湯が注湯される湯溜まり42が形成されている。湯溜まり42は、たとえば、鋳造ロール10,10の端部又は鋳造ロール10,10上周面に沿って、金属板50の幅に相当する間隔で一対の横堰44(
図1では一方の横堰のみを示す)と、鋳造ロール10,10の軸方向に平行且つ軸中心よりも内側に配置され、下縁が鋳造ロール10,10に接触又は僅かな隙間を存して接近した一対の縦堰46,46から構成することができる。横堰44及び縦堰46は、内表面に断熱材を配置することが好適である。断熱材として、アルミナファイバーの如き不織布(たとえば、商品名「イソウール」(登録商標))を例示できる。
【0030】
鋳造ロール10,10は、後述するとおり冷媒通路24,24(
図3乃至
図5参照)に冷媒を流通させつつ互いに内向きに回転させ、この状態で湯溜まり42に金属溶湯52を注湯することで、金属溶湯52は、鋳造ロール10,10の各外周面26から冷却を受けて凝固し、凝固殻54,54が形成される。そして、凝固殻54,54は成長を続けながら鋳造ロール10,10どうしの間隔が最も接近するキス点12で接合され、薄帯状の金属板50となって鋳造ロール10,10の下方から連続的に送出される。
【0031】
なお、本発明の鋳造ロール10は、双ロール式連続鋳造法に限らず、異形双ロール式連続鋳造法や、単ロール式連続鋳造法などにも好適に採用することができる。
図2は、スクレイパー47を用いた単ロール式連続鋳造装置41の要部説明図である。
【0032】
本発明の円筒状又は円柱体の鋳造ロール10は、従来技術、例えば鋳造、鍛造、曲げ及び溶接等で作製することができ、冷媒通路24を形成する冷媒通過孔の穿孔も例えばドリルを用いて行うことができる。
【0033】
<第1実施形態>
図3は、本発明の一実施形態に係る鋳造ロール10の断面図である。図に示すように、鋳造ロール10は、円筒状であって鋳造ロール10の外周を構成するロール本体20と、駆動手段(図示せず)に連繋される支持部30を含んでいる。支持部30は、軸32から複数のスポーク34(図示では4本)を突設し、スポーク34の先端がロール本体20の内周面28に当接した構造を例示できる。
【0034】
円筒状のロール本体20(なお、以下では円筒状のロール本体を「シェル22」と称する)は、鋼
又は鋳鉄を含む鉄系合金から形成することができる。本発明のシェル22に好適な鋼として、炭素を0.1質量%〜3質量%を含有する鉄合金、たとえば、鉄を主成分とする軟鋼、工具鋼、機械構造用炭素鋼等が好ましい。鉄系合金は、安価であって、製造が容易であり、最も好適な材料である。本発明において、シェル22に鉄系合金を採用したのは、強度が強く、傷付き難く、次に説明する冷媒通路24をシェル22の外周面26の近傍に形成できるからである。たとえば、シェルとして銅や銅合金を採用した場合、冷媒通路を本発明のように穿設すると、シェルの外周面に凹凸が生じてしまい、冷媒通路を外周面の近傍に形成できない不具合がある。
【0035】
図4乃至
図6は、シェル22の一実施形態に係る構成の詳細を示している。なお、
図5は、冷媒通路24を通るようにシェル22の軸方向に沿う断面図であり、
図6は、
図4の枠部Aを切り出して説明する斜視図である。図に示すように、シェル22には、同心円上に複数の冷媒通路24が形成される。
【0036】
冷媒通路24は、シェル22の外周面26からの距離dが3mm以上20mm未満、望ましくは10mm以下である。シェル22の外周面26から冷媒通路24までの距離dを20mm未満、望ましくは10mm以下と薄くすることにより、冷媒通路24と外周面26との間、すなわち、冷媒通路24よりも外側部分の冷却能を高めることができる。
【0037】
望ましくは、シェル22の外周面26から冷媒通路24までの距離dは、3mm以上とする。距離dが3mm未満になると、シェル22の外周面26の強度が低下し、ロール圧により鋳造時に外周面26に凹みが生じる虞があるためである。また、距離dが3mm未満であると、冷媒通路24の穿設を機械加工によって行なうことが困難になる虞があるためである。
【0038】
また、隣り合う冷媒通路24,24どうしの間隔c、すなわち冷媒通路24,24どうしを区画する隔壁の厚さcは、5mm≦c≦20mmとする。冷媒通路24,24どうしの間隔cが5mm未満であると、冷媒通路24,24間の隔壁の強度が低下し、隔壁が座屈等することでシェル22の外周面26が変形してしまう虞があるためである。一方、冷媒通路24,24どうしの間隔cが20mmを越えると、シェル22に形成できる冷媒通路24の数が少なくなって冷却能が低下するためである。冷媒通路24,24どうしの間隔cは、望ましくは5mm≦c≦10mmである。
【0039】
冷媒通路24は、断面略円形とすることが好適である。この場合、冷媒通路24の半径rは、2mm≦r≦10mm(直径は4mm≦2r≦20mm)とすることが望ましい。冷媒通路24の断面を略円形としたのは、外周面26からの応力や熱膨張等に伴い生じる応力の集中を避けるためであり、また、冷媒通路24をドリルで開設できるため簡便だからである。冷媒通路24の半径rについて、2mm≦r≦10mmとしたのは、2mm未満であると穿孔過去が困難になるためであり、また、冷媒を十分に流通させることができずに冷却能が低下することがあり、また、冷媒通路24の半径rが20mmを越えると、シェル22の外周面26の強度が低下し、鋳造時に外周面26に凹みが生じる虞があるためである。
【0040】
シェル22の内周面28から冷媒通路24までの距離aは、10mm以上、且つ、上述したシェル22の外周面26から冷媒通路24までの距離dの2倍以上とすることが望ましい。
図7に望ましい距離aの範囲を示している。金属板の幅方向にわたる中央部が凹状の板厚分布は、冷媒通路24より外周側が、熱膨張によって樽型に変形しようとすることで生ずる。これを防ぐには、冷媒通路24より内周側となる軸側の部分を介してこの変形を抑止する必要があり、シェル22に変形を抑止するための強度が要求される。そして、外周側に向かう力(
図6中にその力を矢印F1で示す)に対抗するためには、冷媒通路24よりも内周側の厚さ、すなわちシェル22の内周面28から冷媒通路24までの距離aを大きく採ればよい。
【0041】
距離aの値は、主に冷媒通路24の位置、大きさ、間隔等の幾何形状や、鋳造時の温度、冷却媒体の温度と抜熱量等にも関係するが、主にはロール本体材料である、鋼
又は鋳鉄を含む鉄系合金材料の、熱伝導率、熱膨張率、強度(降伏応力)がより重要性高く関係する。
【0042】
よって、本発明においては距離aの大きさは、10mm以上、且つ、距離dの2倍以上が必要である。距離aが10mmより小さければ、あるいは距離dの2倍よりも小さければ、冷媒通路24よりも外周側の熱膨張による変形応力に抗する抗力が小さくなり、外周側が変形してロールが樽状に変形する。
【0043】
距離aが短すぎると、外周側に向かう力に対抗する力(抗力)が足らず、冷媒通路24よりも外周側の熱膨張による変形する力(応力)に抗することができず、外周側が変形してロールが樽状に変形する。
【0044】
一方、距離aが大きければ、冷媒通路24よりも外周側の熱膨張による変形応力に抗する抗力が大きくなり、ロール本体の外周側の熱膨張による変形を抑えることができる。
【0045】
このように、シェル22の内周面28から冷媒通路24までの距離aを大きく採ることで、シェル22は、外周側に向かう力に対抗する力を大きくすることができる。そして、シェル22の内周側は、冷媒通路24により冷却を受けるから熱膨張により殆んど変形することはない。これにより、シェル22の内周側は、金属板50を鋳造する際に、加熱を受けて外側に熱膨張(
図6中矢印F1)しようとする薄い外周面を内部から外周側に向かう変形しようとする力を十分に抑止する力を有する(
図6中にその力を矢印F2で示す)。この内周側からの変形に抗する力F2が熱膨張による力F1と釣り合うことで、シェル22の外周面の熱膨張による変形を抑えることができる。
【0046】
シェル22の厚さtは、上記したシェル22の外周面26からの距離dと、冷媒通路24の直径2rと、シェル22の内周面28から冷媒通路24までの距離aを加えたものとなる。
【0047】
シェル22の軸方向の長さは、鋳造される金属板50の幅に応じて適宜決定される。たとえば、横堰44,44をシェル22の端部に設ける場合、シェル22の長さは金属板50の幅に一致する。
【0048】
シェル22を上記構成とし、シェル22の内周面28側に支持部30(たとえば
図3参照)を一体回転可能に締結した鋳造ロール10が作製される。支持部30は、駆動手段に連繋されるため、シェル22を一体回転可能に拘束する必要がある。従って、上記した冷媒通路24の設置による熱膨張の低減効果や、距離a、距離dによりシェル22内に生ずる熱膨張による力F1とこれに対抗する力F2の相殺効果により、シェル22中で軸方向略中央に外向きの応力の集中を防ぐことができ、シェル22が全体として見れば樽型に膨張してしまうことをさらに抑えることもできる。
【0049】
得られた鋳造ロール10は、
図1や
図2に示すようにロール式連続鋳造装置40、41に設置される。
図1の双ロール式連続鋳造装置40では、鋳造ロール10,10は一対設置され、各冷媒通路24には、冷却水、冷却油等の冷却媒体を流通させる。そして、鋳造ロール10,10を駆動手段により互いに内向きに回転させ、湯溜まり42に金属溶湯52を注湯する。
【0050】
本発明の鋳造ロール10により鋳造される金属として、非鉄金属が好適である。より具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金、Al−Si系合金、Si量の多いAl過共晶合金、Al−Cu系合金、Al−Mg系合金、JIS1000系乃至8000系Al合金、その他実用的なAl合金などのアルミニウム合金、Al−SiC
p(Al合金にSiCのセラミック粉末を含む)などのアルミニウム基をマトリックスとする複合材料、銅、真鍮などの銅合金、マグネシウム、マグネシウム合金、AZ系合金、AM系合金、ZK系合金、マグネシウム基をマトリックスとする複合材料などを例示することができる。
【0051】
然して、金属溶湯52は、
図1に示すように、シェル22の外周面26から冷却を受けて凝固し、凝固殻54,54が形成される。そして、凝固殻54,54は成長を続けながらシェル22,22どうしの間隔が最も接近するキス点12で接合され、金属板50となって下方から連続的に送出される。
【0052】
このとき、シェル22は、金属溶湯52からの加熱と、冷媒通路24を流通する冷却媒体による冷却を受けることになる。金属溶湯52からの加熱によって、シェル22は、
図6の矢印F1に示すように外側方向に熱膨張しようとする。一方で、シェル22は、冷媒通路24よりも内周側の距離aを大きく採っているから、内周側の冷媒通路24への冷却によって、シェル22は、冷媒通路24よりも内周側の曲げに対する抵抗力が大きく、シェル22は、熱膨張によって外周側に生じるF1に対し、内周側からF1に対抗し、釣り合う力F2が抗力として外周側に作用するから、シェル22の外周面の熱膨張による変形を抑えることができる。
【0053】
これに対し、比較のために参考例である
図8に示すシェル22を作製した。
図8のシェル22は、冷媒通路24よりも外周側の距離dに対し、冷媒通路24の内周側の距離aが10mm未満、又は、外周側の距離dの2倍未満としたものである。かかるシェル22について、熱膨張時の状態を観察したところ、熱膨張によって冷媒通路24よりも外周側に生ずるF1と、内周側からF1に対向するF3(力で示す)が釣り合っておらず、F1がF3よりも大きくなる結果となった。これは、冷媒通路24よりも内周側の厚さ(距離a)が薄いためであり、内周側に十分な曲げ応力を具備できなかったことが原因である。そして、その結果、シェル22は、
図8に示すように熱膨張により中央がδだけ外側に膨らんだ樽型形状となってしまう。
【0054】
本発明では、冷媒通路24をシェル22の外周面26からの距離dを20mm未満、望ましくは10mm以下とし、且つ、隣り合う冷媒通路24,24どうしの間隔を5mm≦c≦20mm、望ましくは5mm≦c≦10mmとしたことで、冷媒通路24と外周面26との間の冷却能を可及的に高めることができる。
【0055】
また、本発明の鋳造ロール10を採用した双ロール式連続鋳造装置40は、シェル22を鉄系合金製としたことで、その耐荷重を0.1〜2kN/mmとすることができ、鋳造される金属板の薄肉化を達成できる。
【0056】
本発明の鋳造ロール10を採用した鋳造装置により鋳造される金属板50の板厚は、1mm〜10mmが好適であり、板幅は、30mm〜2100mmが好適である。シェル22の幅は、鋳造される金属板50の幅に応じて設定でき、たとえば、30mm〜2300mmとすることが好適である。
【0057】
また、鋳造ロール10の周速が、10m/min〜120m/minの高速連続鋳造に好適である。従って、金属板の製造効率を可及的に高めることができる。
【0058】
<第2実施形態>
上記第1実施形態では、ロール本体として、円筒状のシェル22について説明したが、
図10に示すように、ロール本体20は、円柱状とすることもできる。なお、本実施形態において、第1実施形態と同じ部材は同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0059】
この場合であっても、第1実施形態と同様、冷媒通路24は、隣り合う冷媒通路24,24どうしの間隔c、すなわち冷媒通路24,24どうしを区画する隔壁の厚さcは、5mm≦c≦20mm、望ましくは5mm≦c≦10mmとする。
である。
【0060】
また、冷媒通路24は、断面略円形とすることが好適であり、冷媒通路24の半径r(直径は2r)は、2mm≦r≦10mmとすることが望ましい。
【0061】
ロール本体20の軸心Oから冷媒通路24までの距離aは、20mm以上、又は、上述したロール本体20の外周面26から冷媒通路24までの距離dの2倍以上とすることが望ましい。
【0062】
すなわち、円柱状のロール本体20の直径Rは、ロール本体20の外周面26からの距離dと、冷媒通路24の直径2rと、冷媒通路24から軸心Oまでの距離aの2倍を加えたものとなるが、距離aを確保するために、直径Rは、100mm以上とすることが望ましく、特に上限はないが、使用上は1500mm程度である。
【0063】
シェル22の軸方向の長さは、鋳造される金属板50の幅に応じて適宜決定される。たとえば、横堰44,44をシェル22の端部に設ける場合、シェル22の長さは金属板50の幅に一致する。
【0064】
上記構成の円柱状のロール本体20からなる鋳造ロール10についても、実施形態1と同様の鉄系合金製とすることが好適であり、鋳造ロール10を採用した双ロール式連続鋳造装置40は、非鉄金属の鋳造に適している。また、鉄系合金製とすることで、その耐荷重を0.1〜2kN/mm以上とすることができ、鋳造ロール10の周速が、10m/min〜120m/minの高速連続鋳造に好適である。
【実施例】
【0065】
下記の要領で冷媒通路24を形成した本発明の円筒状のロール本体(シェル)となる実施例1〜4を作製した(
図4参照)。
【0066】
・シェルの材質:STK
・シェルの外径:300mm
・シェルの厚さt:25mm
・シェルの軸方向長さ:100mm
・冷媒通路の半径r:4mm(直径8mm)
・シェルの外周面から冷媒通路までの距離d:5mm
・シェルの内周面から冷媒通路までの距離a:12mm
・冷媒通路どうしの間隔c:6.55mm
・冷媒通路の数:60個
・冷媒通路を流通する冷却媒体:水
【0067】
得られたシェル22に、
図3に示すような4本のスポーク34を有する支持部30を嵌めて実施例1〜4の鋳造ロールとし、夫々
図1に示す双ロール式連続鋳造装置40に設置した。
【0068】
また、比較例として、
図13乃至
図15に示した鋳造ロール60を作製し、夫々比較例1〜3とした。比較例1〜3は、円筒状のシェル62を円柱状のコア64に輪状に溶接し固定したものである。比較例1のシェル62の厚さや外径、軸方向長さは実施例と同じである。また、比較例2は、シェル62の厚さや外径は実施例と同じであり、コア64及びシェル62を軸方向に2分し、夫々の長さを50mmとした。シェル厚は、5mmである。
【0069】
なお、比較例1は、コア64の周面の軸方向中央に、幅40mm、深さ5mmの冷媒通路66、シェル厚5mm、比較例2は、夫々のコア64の周面の軸方向中央に、幅20mm、深さ5mmの冷媒通路66、シェル厚5mm、比較例3は、コア64の周面の軸方向中央に、幅80mm、深さ5mmの冷媒通路66を作製した。シェル厚は、3mmである。
【0070】
実施例1〜4、比較例1及び2について、下記の鋳造条件で鋳造を行なった。
【0071】
・金属溶湯:Al−30vol%SiC
p
・金属溶湯の温度(注湯時):700℃
・凝固距離:
図1及び表1参照(なお、凝固距離は金属溶湯が鋳造ロールの外周面と接触する距離)
・鋳造ロールの周速:表1参照
・鋳造ロールの荷重:0.5kN/mm
【0072】
【表1】
【0073】
実施例1〜4の設定条件は、夫々上記設定条件No.1〜No.4、比較例1及び2は夫々設定条件No.4にて鋳造を行なった。
【0074】
実施例及び比較例によって得られた各金属板について、鋳造開始から3m後の部分の板厚を幅方向に順次測定し、その板厚分布を測定した。結果を
図11に示す。
【0075】
図11を参照すると、実施例1〜4は何れの設定条件においても幅方向について、金属板の板厚差は殆んど生じていないことがわかる。一方、比較例1の金属板は幅方向両端に対して中央が約0.2〜0.25mm凹んだ板面形状となっていることがわかる。また、比較例2の金属板は幅方向に深さ約0.1mmの2つの凹みが形成されていることがわかる。なお、比較例2の凹みは小さいが、これは、シェルの幅が実施例や比較例1の半分だからである。
【0076】
なお、
図11に記載はしていないが、比較例3の金属板も幅方向に凹みが形成されている状況に変わりはなかった。また、比較例3でシェル厚を3mmから6mm、7mm、10mmに変更しても、金属板の幅方向に凹みが形成されている状況に変わりはなかった。実験終了のロール表面は、変形がなく、デント等の凹みも生じず、傷付きもなかった。
【0077】
これら結果より、実施例の鋳造ロールは何れも、シェルの外周面がフラットな状態を維持しているのに対し、比較例1は、シェルの外周面の軸方向略中央が熱膨張し、樽型になっており、比較例2は、2つのシェルが夫々樽型になっていることがわかる。
【0078】
上記のように、実施例1〜4の鋳造ロールがフラットな状態を維持できたのは、外周面から冷媒通路までの距離dを20mm未満としたためであり、冷媒通路よりも外側部分の冷却能を高め、さらに、シェル22は、冷媒通路よりも外周側の距離dに対して、内周面28からの距離aを10mm以上、且つ、距離dの2倍以上としたことで、
図6に示すように、外周側の熱膨張による力F1を内周側の力F2で相殺できたためである。一方、比較例1、比較例2は何れもシェルの熱膨張による応力に対抗する力を生じさせる構造ではなく、さらに、シェルがコアに溶接によって固定されていることで、
図9に示すようにシェルの熱膨張による応力F4がシェルの軸方向中央に向けて集中し、シェルが樽型変形(変形量をδで示す)してしまったことによる。
【0079】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。