特許第6504562号(P6504562)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6504562
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】通信診断システムおよび通信診断方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/373 20150101AFI20190415BHJP
   H04B 7/155 20060101ALI20190415BHJP
   H04B 17/26 20150101ALI20190415BHJP
   H04B 17/10 20150101ALI20190415BHJP
   H04B 17/318 20150101ALI20190415BHJP
   H04B 17/345 20150101ALI20190415BHJP
   G01W 1/14 20060101ALI20190415BHJP
【FI】
   H04B17/373
   H04B7/155
   H04B17/26
   H04B17/10 200
   H04B17/318
   H04B17/345
   G01W1/14 E
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-134344(P2015-134344)
(22)【出願日】2015年7月3日
(65)【公開番号】特開2017-17613(P2017-17613A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 成志
【審査官】 佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−246375(JP,A)
【文献】 特開2000−091975(JP,A)
【文献】 特開2015−035748(JP,A)
【文献】 特開2003−348480(JP,A)
【文献】 特開昭60−033747(JP,A)
【文献】 特開昭61−283235(JP,A)
【文献】 特開昭48−059717(JP,A)
【文献】 米国特許第6321065(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/00−17/40
G01W 1/14
H04B 7/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送受信局と衛星との間で無線通信を行う衛星通信における前記無線通信の可否を診断する通信診断システムにおいて、
前記送受信局の位置情報と、前記送受信局から前記衛星への方角を示す方位角と、前記送受信局における前記衛星が出力する伝送波の出力強度を示す受信レベルと、を有する送受信局ログ情報を取得するログ情報取得手段と、
前記送受信局と前記衛星との間における所定距離毎の地点の気象情報を取得する気象情報取得手段と、
前記位置情報と、前記方位角と、前記気象情報とから、前記所定距離毎の地点の累積気象情報を算出する累積算出手段と、
前記累積気象情報と前記受信レベルとの相関関係を算出し、前記相関関係に基づき、前記送受信局における過去、現在のまたは予測される累積気象情報から前記送受信局における前記無線通信の可否を診断する診断手段と、
を備えたことを特徴とする通信診断システム。
【請求項2】
前記気象情報は、前記所定距離毎の地点の雨量を有し、
前記累積気象情報は、前記送受信局から所定の地点までの間における前記所定距離毎の前記雨量を累積した累積雨量を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の通信診断システム。
【請求項3】
前記気象情報は、前記所定距離毎の地点の雨量と、前記所定距離毎の地点の微小粒子状物質の浮遊量とを有し、
前記累積気象情報は、前記送受信局から所定の地点までの間における前記所定距離毎の前記雨量を累積した累積雨量と、前記所定距離毎の前記微小粒子状物質の浮遊量を累積した累積微小物質浮遊量とを有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の通信診断システム。
【請求項4】
前記送受信局ログ情報は、さらに、前記伝送波を受信していない区間における受信強度を示すノイズレベルを有し、
前記診断手段は、前記受信レベル及び前記ノイズレベルから前記受信レベルにおける通信可否の閾値を示す判定レベルを算出し、前記受信レベル及び前記判定レベルの回帰直線を算出し、前記回帰直線から前記受信レベルが前記判定レベル以下となる確率分布を算出して前記送受信局における前記無線通信の可否を診断する、
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の通信診断システム。
【請求項5】
前記診断手段は、前記所定距離毎の地点毎に前記累積気象情報と前記受信レベルとの相関関係をそれぞれ算出し、前記相関関係の最小二乗誤差をそれぞれ算出し、前記最小二乗誤差が最も小さい前記相関関係に基づき、前記送受信局における前記無線通信の可否を診断する、
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の通信診断システム。
【請求項6】
前記送受信局は、海上を航行している船舶内に設置されている船上局または地上に設置されている地上局である、
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の通信診断システム。
【請求項7】
前記送受信局は、海上を航行して季節及び地域毎に前記累積気象情報及び前記受信レベルを収集し、
前記診断手段は、収集された前記累積気象情報及び前記受信レベルからそれぞれ前記相関関係を算出してデータベースを構築し、船舶が海上を航行する際に前記データベースを参照してその船舶が航行する季節及び地域における前記無線通信の可否を診断する、
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の通信診断システム。
【請求項8】
送受信局と衛星との間で無線通信を行う衛星通信において、
前記送受信局の位置情報、前記送受信局から前記衛星への方角を示す方位角、及び前記送受信局における前記衛星が出力する伝送波の出力強度を示す受信レベルを有する送受信局ログ情報と、
前記送受信局と前記衛星との間における所定距離毎の地点の気象情報と、を取得し、前記無線通信の可否を診断する通信診断方法であって、
前記位置情報と、前記方位角と、前記気象情報とから、前記所定距離毎の地点の累積気象情報を算出する累積算出処理と、
前記累積気象情報と前記受信レベルとの相関関係を算出し、前記相関関係に基づき、前記送受信局における過去、現在のまたは予測される累積気象情報から前記送受信局における前記無線通信の可否を診断する診断処理と、
を有することを特徴とする通信診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星通信における通信の可否を予測して通知する通信診断システムおよび通信診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶通信の高速化要求が急速に高まっているが、それに対応するため、インマルサット社より、Global Xpress(以下、「GX」という。)通信と呼ばれる高速衛星通信システムが提供される予定である。このGX通信は、Ka帯と呼ばれる20GHz〜30GHzの周波数帯域の伝送波を用いて無線通信を行うものである。しかし、このKa帯を使用した無線通信は、降雨等の気象条件により伝送波の出力が減衰して通信できない場合があることが知られている。
【0003】
従来、例えば、気象データサーバの気象予測データから所定時間経過後の予測降雨量を取得するネットワーク監視装置が知られている(例えば、特許文献1等参照。)。このネットワーク監視装置は、現状の回線ルートにおける予測降雨量から、現状の回線ルートに回線エラーが発生するか否かを予測し、回線エラーが発生すると予測した場合、回線エラーが発生しないと予測される回線ルートへ切り替えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−049593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実際の無線通信では、降雨だけではなく、黄砂、PM2.5、及び火山の噴煙等の微小粒子状物質も伝送波の出力に影響することがある。また、台風等の暴風雨が接近している状況では、海上における波しぶきも影響することがある。これらの全ての要因について、無線通信の可否を理論的に算出するのは容易ではない。
【0006】
そこで本発明は、降雨量や微小粒子状物質等の分布を示す累積気象情報と、伝送波の出力強度との相関関係を算出し、所定の累積気象情報における無線通信の可否を算出することにより、無線通信の可否を容易に予測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、送受信局と衛星との間で無線通信を行う衛星通信における前記無線通信の可否を診断する通信診断システムにおいて、前記送受信局の位置情報と、前記送受信局から前記衛星への方角を示す方位角と、前記送受信局における前記衛星が出力する伝送波の出力強度を示す受信レベルと、を有する送受信局ログ情報を取得するログ情報取得手段と、前記送受信局と前記衛星との間における所定距離毎の地点の気象情報を取得する気象情報取得手段と、前記位置情報と、前記方位角と、前記気象情報とから、前記所定距離毎の地点の累積気象情報を算出する累積算出手段と、前記累積気象情報と前記受信レベルとの相関関係を算出し、前記相関関係に基づき、前記送受信局における過去、現在のまたは予測される累積気象情報から前記送受信局における前記無線通信の可否を診断する診断手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
この発明では、送受信局の位置情報と、送受信局から前記衛星への方角を示す方位角と、気象情報とから、送受信局と衛星との間における所定距離毎の地点の累積気象情報が算出され、累積気象情報と衛星が出力する伝送波の出力強度を示す受信レベルとの相関関係が算出される。また、この相関関係に基づき、送受信局における過去、現在のまたは予測される累積気象情報から送受信局における無線通信の可否が診断される。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の通信診断システムにおいて、前記気象情報は、前記所定距離毎の地点の雨量を有し、前記累積気象情報は、前記送受信局から所定の地点までの間における前記所定距離毎の前記雨量を累積した累積雨量を有する、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の通信診断システムにおいて、前記気象情報は、前記所定距離毎の地点の雨量と、前記所定距離毎の地点の微小粒子状物質の浮遊量とを有し、前記累積気象情報は、前記送受信局から所定の地点までの間における前記所定距離毎の前記雨量を累積した累積雨量と、前記所定距離毎の前記微小粒子状物質の浮遊量を累積した累積微小物質浮遊量とを有する、ことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の通信診断システムにおいて、前記送受信局ログ情報は、さらに、前記伝送波を受信していない区間における受信強度を示すノイズレベルを有し、前記診断手段は、前記受信レベル及び前記ノイズレベルから前記受信レベルにおける通信可否の閾値を示す判定レベルを算出し、前記受信レベル及び前記判定レベルの回帰直線を算出し、前記回帰直線から前記受信レベルが前記判定レベル以下となる確率分布を算出して前記送受信局における前記無線通信の可否を診断する、ことを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の通信診断システムにおいて、前記診断手段は、前記所定距離毎の地点毎に前記累積気象情報と前記受信レベルとの相関関係をそれぞれ算出し、前記相関関係の最小二乗誤差をそれぞれ算出し、前記最小二乗誤差が最も小さい前記相関関係に基づき、前記送受信局における前記無線通信の可否を診断する、ことを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の通信診断システムにおいて、前記送受信局は、海上を航行している船舶内に設置されている船上局または地上に設置されている地上局である、ことを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の通信診断システムにおいて、前記送受信局は、海上を航行して季節及び地域毎に前記累積気象情報及び前記受信レベルを収集し、前記診断手段は、収集された前記累積気象情報及び前記受信レベルからそれぞれ前記相関関係を算出してデータベースを構築し、船舶が海上を航行する際に前記データベースを参照してその船舶が航行する季節及び地域における前記無線通信の可否を診断する、ことを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の発明は、送受信局と衛星との間で無線通信を行う衛星通信において、前記送受信局の位置情報、前記送受信局から前記衛星への方角を示す方位角、及び前記送受信局における前記衛星が出力する伝送波の出力強度を示す受信レベルを有する送受信局ログ情報と、前記送受信局と前記衛星との間における所定距離毎の地点の気象情報と、を取得し、前記無線通信の可否を診断する通信診断方法であって、前記位置情報と、前記方位角と、前記気象情報とから、前記所定距離毎の地点の累積気象情報を算出する累積算出処理と、前記累積気象情報と前記受信レベルとの相関関係を算出し、前記相関関係に基づき、前記送受信局における過去、現在のまたは予測される累積気象情報から前記送受信局における前記無線通信の可否を診断する診断処理と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1及び請求項8に記載の発明によれば、送受信局における過去、現在のまたは予測される累積気象情報から送受信局における無線通信の可否が診断されることにより、そのときの気象条件における無線通信の可否を容易に予測することが可能となる。そのため、GX通信が出来ない場合、その原因が気象条件によるものか故障によるものかを切り分けることが容易になるため、GX通信を利用する顧客からの無線通信が出来ない旨の問い合わせに対し、迅速に原因を調査して回答することができるようになる。また、気象条件により所定の送受信局と衛星との間の無線通信が不可能になると事前に予測される場合には、他の送受信局が使用可能であるときにはその送受信局を使用して衛星と無線通信を行う等の運用が可能となる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、累積雨量と受信レベルとの相関関係に基づき、送受信局における無線通信の可否が診断されることにより、具体的な気象条件と無線通信の可否との相関関係を明確にすることが可能となる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、累積雨量及び累積微小物質浮遊量と受信レベルとの相関関係に基づき、送受信局における無線通信の可否が診断されることにより、具体的な気象条件及び大気の状態と無線通信の可否との相関関係を明確にすることが可能となる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、受信レベルとノイズレベルとから、受信レベルにおける通信可否の閾値を示す判定レベルが算出され、受信レベルが判定レベル以下となる確率分布が算出されることにより、受信レベルが判定レベル以下の場合は無線通信が不可能であると容易に予測することが可能となる。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、相関関係の最小二乗誤差が算出され、最小二乗誤差が最も小さい地点の相関関係に基づき、送受信局における無線通信の可否が診断されることにより、より正確に無線通信の可否を算出することが可能となる。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、送受信局は、海上を航行している船舶内に設置されている船上局または地上に設置されている地上局のいずれでも良いので、移動中の送受信局であっても本発明を適用することができる。
【0022】
請求項7に記載の発明によれば、季節及び地域毎に相関関係が算出されてデータベースが構築され、船舶が航行する際にそのデータベースが参照されて航行する季節及び地域における無線通信の可否が診断されるため、航行する季節及び地域における無線通信の可否を瞬時に判断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】この発明の実施の形態に係る通信診断システム1の概略を示す構成図である。
図2図1の通信診断システム1における累積雨量を算出する例を示す模式図である。
図3図1のインスタンス31aが算出した累積雨量と伝送波DWの受信レベルとの相関関係の例を示す図である。
図4図3の相関関係から確率分布を算出する例を示す図であり、受信レベル及び判定レベルの確率分布及び分散を算出する例を示す図(a)、及び受信レベルが判定レベル以下となる確率分布を算出する例を示す図(b)である。
図5図1のGX端末11から0.0°の地点における累積雨量と受信レベル及び判定レベルとの相関関係を示す図である。
図6図1のGX端末11から0.1°の地点における累積雨量と受信レベル及び判定レベルとの受信レベルとの相関関係を示す図である。
図7図1のGX端末11から0.2°の地点における累積雨量と受信レベル及び判定レベルとの受信レベルとの相関関係を示す図である。
図8図1のGX端末11から0.3°の地点における累積雨量と受信レベル及び判定レベルとの受信レベルとの相関関係を示す図である。
図9図1のGX端末11から0.4°の地点における累積雨量と受信レベル及び判定レベルとの受信レベルとの相関関係を示す図である。
図10図1のGX端末11から0.5°の地点における累積雨量と受信レベル及び判定レベルとの受信レベルとの相関関係を示す図である。
図11図1のGX端末11から0.6°の地点における累積雨量と受信レベル及び判定レベルとの受信レベルとの相関関係を示す図である。
図12図1のGX端末11から0.7°の地点における累積雨量と受信レベル及び判定レベルとの受信レベルとの相関関係を示す図である。
図13図1のGX端末11から0.8°の地点における累積雨量と受信レベル及び判定レベルとの受信レベルとの相関関係を示す図である。
図14図1のGX端末11から0.9°の地点における累積雨量と受信レベル及び判定レベルとの受信レベルとの相関関係を示す図である。
図15図1のGX端末11から1.0°の地点における累積雨量と受信レベル及び判定レベルとの受信レベルとの相関関係を示す図である。
図16図1のGX端末11から1.1°の地点における累積雨量と受信レベル及び判定レベルとの受信レベルとの相関関係を示す図である。
図17図10の相関関係から通信が不可能となる確率を算出した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0025】
この発明の実施の形態に係る通信診断システム1は、GX衛星S(衛星)と送受信局BSとの間の無線通信の可否を診断するシステムであり、主として、図1に示すように、GX衛星Sと、送受信局BSと、気象海象情報取得局WSと、クラウドサーバCSとを備えている。
【0026】
GX衛星Sは、GX通信を行うための通信衛星であり、送受信局BSとの間でKa帯の周波数帯域の伝送波DWを用いて無線通信を行う人工衛星である。このKa帯は、降雨等の気象条件や、黄砂、PM2.5、及び火山の噴煙等の微小粒子状物質の影響を受けやすい周波数帯域であり、これらの影響により出力が減衰し、無線通信できない場合がある。
【0027】
送受信局BSは、海上を航行している船舶内に設けられ、GX衛星Sと伝送波DWを介して無線通信を行うことにより他の船舶や地上に設けられた送受信局と通信を行うものであり、GX端末11が設置されている。なお、送受信局BSは、地上に設けられたものでも良い。
【0028】
GX端末11は、伝送波DWを送受信する通信インターフェース装置であり、GX衛星Sの方向を自動検知して伝送波DWを送受信する機能を有している。また、GX端末11は、伝送波DWの送受信情報や、送受信局BSの位置情報(緯度及び経度)、送受信局BSからGX衛星Sへの方角を示す方位角、伝送波DWの出力強度を示す受信レベル、及び伝送波DWを受信していない区間における受信強度を示すノイズレベル等の送受信局ログ情報を取得し、アーカイブARに記憶する機能(ログ情報取得手段)を有している。このGX端末11は、アーカイブARを伝送波DW及びGX衛星Sを介してクラウドサーバCSへ送信する。
【0029】
気象海象情報取得局WSは、気象観測情報及び海象情報を取得する設備であり、気象海象サーバ21が設置されている。気象海象サーバ21は、気象観測情報及び海象情報を取得する機能(気象情報取得手段)を有し、クラウドサーバCSへ送信するサーバコンピュータであり、例えば、気象業務支援センターから取得した気象データである気象情報WDを提供するものである。この気象情報WDは、例えば、GPV形式のファイルであり、図2に示すように、送受信局BS内のGX端末11からGX衛星Sの方向に伸びる矢印L1上の所定距離毎の地点(例えば、緯度及び経度が0.02°毎の地点)P1,P2,・・・,P7の雨量等の各種気象データを有している。
【0030】
クラウドサーバCSは、インターネットに接続されたPCに対して、各種ソフトウェアやデータを必要に応じてインターネットを介して提供するサーバコンピュータであり、例えば、アマゾン・ドット・コム(登録商標)社が提供するAmazon Web Service(以下、「AWS」という。)(登録商標)を利用するものである。このクラウドサーバCSには、仮想マシン31と、データストレージ32とが設置されている。
【0031】
仮想マシン31は、1台のハードウェア資源を複数のOS(Operating System)及びアプリケーションソフトに共有させ、そのOS及びアプリケーションソフトを複数のユーザに割り当てて独立して動作させる仕組みである。この仮想マシン31は、例えば、AWSのサービスの1つであるAmazon EC2(登録商標)を利用するものである。仮想マシン31は、メモリ上にインスタンス31aと呼ばれるコンピュータプログラム及びデータ構造を実行可能な状態に展開したものを記憶している。データストレージ32は、インスタンス31aが使用するためのデータを格納するためにインターネット上に提供されているデータサーバであり、インスタンス31aからアクセスされるものである。このデータストレージ32は、例えば、AWSのサービスの1つであるAmazon S3を利用するものである。データストレージ32は、各種データを格納するためのバケット32aを有している。インスタンス31aは、バケット32aに格納されている各種データの量に応じて複数のインスタンス31a1,31a2,31a3,・・・を生成するように構成されている。
【0032】
インスタンス31aは、GX端末11から送信されたアーカイブARと、気象海象サーバ21から送信された気象情報WDとをバケット32aへ記憶させる機能を有している。また、インスタンス31aは、アーカイブARと気象情報WDとを読み込み、気象情報WD内の図2に示す地点P1,P2,・・・,P7の雨量より、送受信局BS内のGX端末11から地点P1,P2,・・・,P7までの間の累積雨量(累積気象情報)を算出し、累積情報ADに出力する機能(累積算出手段)を有している。さらに、インスタンス31aは、累積情報ADを取得して相関関係を算出し、この相関関係に基づいて、GX衛星Sとの無線通信の可否を診断する機能(診断手段)を有している。累積情報ADは、例えば、CSV形式のファイルである。
【0033】
次に、このような通信診断システム1における通信診断方法等について説明する。
【0034】
この通信診断方法は、インスタンス31aによる累積算出処理及び診断処理を有している。累積算出処理は、アーカイブARと気象情報WDとを読み込み、図2に示す地点P1,P2,・・・,P7の雨量より、GX端末11から地点P1,P2,・・・,P7までの間の累積雨量をそれぞれ算出する処理であり、例えば、図2の地点P3までの累積雨量を算出する場合、地点P1,P2,P3における雨量を累積して算出する処理である。
【0035】
診断処理は、まず、図3に示すように、インスタンス31aが算出した累積雨量と受信レベルとの相関関係を示す直線L2と、累積雨量と判定レベルとの相関関係を示す破線L3とを算出する。ここで、判定レベルとは、受信レベルがこの値以下の場合にはGX端末11とGX衛星Sとの通信が不可能であると判定するための値であり、ノイズレベルに所定の演算をして算出されるものである。図3における黒丸で示した点は、所定期間(例えば、1月)内に所定間隔(例えば、10秒間隔)で、図2の地点P1,P2,・・・,P7(例えば、GX端末11から緯度及び経度を0.02°毎に、0.8°の範囲)で取得した雨量から算出した累積雨量のときの受信レベルを示す点であり、×で示した点は、同期間の累積雨量のときのノイズレベルを示す点であり、白丸で示した点は、同期間の累積雨量のときの判定レベルを示す点である。直線L2は、図3の受信レベルの点から最小二乗法を用いて算出した回帰直線であり、破線L3は、図3の判定レベルの点から最小二乗法を用いて算出した回帰直線である。この相関関係は、累積雨量を算出した地点P1,P2,・・・,P7ごとに算出される。
【0036】
次に、地点P1,P2,・・・,P7毎に算出された累積雨量と受信レベルとの相関関係を示す直線L2について、最小二乗誤差を算出する。この最小二乗誤差が最も少ない場合、GX端末11とGX衛星Sとの間における累積雨量と受信レベルとの相関関係を示していると判断される。この理由を以下に説明する。
【0037】
図2に示すように、GX端末11とGX衛星Sとの間で無線通信を行う場合、伝送波DWは、雲C1の下及び雲C2の上を通過している。この場合、地点P1〜P4の間の雨量はGX端末11とGX衛星Sとの間の無線通信に影響を与えるが、地点P5〜P7の間の雨量はGX端末11とGX衛星Sとの間の無線通信に影響を与えないと考えられる。すなわち、地点P1,P2,・・・,P7毎に算出された累積雨量の内、地点P1〜P4の間の雨量を累積した地点P4の累積雨量が最も受信レベルとの相関関係があると考えられ、このときの回帰直線の最小二乗誤差は最も少なくなると考えられる。そのため、最小二乗誤差が最も少ない場合をGX端末11とGX衛星Sとの間における累積雨量と受信レベルとの相関関係を示していると判断する。
【0038】
次に、最小二乗誤差が最も少ないときの累積雨量と受信レベルとの相関関係及び累積雨量と判定レベルとの相関関係について、図4(a)に示すように、確率分布曲線及び分散を算出する。図4(a)の直線L4は累積雨量と受信レベルとの相関関係を示し、破線L5は累積雨量と判定レベルとの相関関係を示し、分布曲線WL11,WL12,WL13,WL14は直線L4の所定の点における確率分布曲線を示し、分布曲線WL21,WL22,WL23,WL24は破線L5の所定の点における確率分布曲線を示している。また、直線L4の関係式は、
Y1=An*X+Bn
であり、この受信レベルY1の分散はσ1である。破線L5の関係式は、
Y2=Am*X+Bm
であり、この判定レベルY2の分散はσ2である。
【0039】
その後、図4(b)に示すように、判定レベルY2と、受信レベルY1との差分を算出する。ここで、判定レベルY2から受信レベルY1を引いた値Yが0より大きい場合とは、判定レベルが受信レベルより大きい場合、すなわちGX端末11とGX衛星Sとの通信が不可能である場合である。そのため、このYが0より大きい値になる確率を、分散σ1,σ2を加算して算出することにより、GX端末11とGX衛星Sとの通信が不可能になる確率を算出し、GX端末11とGX衛星Sとの通信の可否を診断することができる。
【0040】
図5ないし図16は、GX端末11から緯度及び経度を0.1°毎に、0.0°〜1.1°の範囲で取得した雨量から算出した累積雨量と、受信レベル及び判定レベルとの相関関係を示す図である。図5ないし図16の直線L11,L12,・・・,L22は累積雨量と受信レベルとの相関関係を示し、破線L31,L32,・・・,L42は累積雨量と判定レベルとの相関関係を示している。また、黒丸で示した点、×で示した点、及び白丸で示した点は、図3と同様に、それぞれ受信レベル、ノイズレベル、判定レベルを示している。さらに、直線L11,L12,・・・,L22の関係式はそれぞれ、
Y=A1*X+B1,Y=A2*X+B2,・・・,Y=A12*X+B12
であり、最小二乗誤差はそれぞれE1,E2,・・・,E12である。破線L31,L32,・・・,L42の関係式はそれぞれ、
Y=C1*X+D1,Y=C2*X+D2,・・・,Y=C12*X+D12
である。
【0041】
最小二乗誤差E1,E2,・・・,E12は、最小二乗誤差E1が最も大きい値であり、GX端末11から離れるに従って、最小二乗誤差E2,E3,・・・,と徐々に小さくなり、最小二乗誤差E6が最も小さい値を示している。その後、最小二乗誤差E7,E8,・・・,と増減を繰り返すが、最小二乗誤差E6より大きい値を示している。そのため、図10に示す、GX端末11から0.5°のときの最小二乗誤差E6に係る直線L16及び破線L36が、GX端末11とGX衛星Sとの間における累積雨量と受信レベルとの相関関係及び累積雨量と判定レベルとの相関関係を示していると判断できる。
【0042】
その後、受信レベルY=A6*X+B6及び判定レベルY=C6*X+D6の確率分布曲線及び分散を算出し、差分を算出する。図17に示す直線L16及び一点鎖線L36は図10に示す直線L16及び破線L36と同じ相関関係を示すものであり、破線L161,L162は、受信レベルY=A6*X+B6の確率分布曲線における分散の平方根である標準偏差F1を加算及び減算した値の推移であり、二点鎖線L361,L362は、判定レベルY=C6*X+D6の確率分布曲線における標準偏差F2を加算及び減算した値の推移である。これらの確率分布曲線から、判定レベルから受信レベルを引いた値が0より大きくなる確率を算出したのが曲線WL4であり、図17の右辺側縦軸がその値を示している。曲線WL4に示すように、判定レベルY=C6*X+D6の値が受信レベルY=A6*X+B6の値に近くなるに従って曲線WL4の確率が増加し、判定レベルの値が受信レベルの値と等しくなると曲線WL4の確率が50%を超える。この値が、GX端末11とGX衛星Sとの通信が不可能になる確率であり、これにより、GX端末11とGX衛星Sとの通信の可否を診断することができる。
【0043】
このような累積雨量と受信レベル及び判定レベルとの相関関係は、季節及び地域によって異なる関係になる。例えば、日本及びその周辺地域においては、梅雨の時期と、積乱雲が発生する夏とで雲の高さが異なってくる。また、赤道付近の地域においては、雨期になると一定の時間帯にスコールが発生する。そのため、GX端末11を設置した船舶が世界中の海上を航行する際に、各季節及び各地域における送受信局ログ情報を収集してデータベースを構築し、各季節及び各地域毎の通信不可率を事前に計算する。この通信不可率は、環境の変化によって変化する可能性があるため、定期的(例えば、1月に1回、または1年に2回等)に更新する。これにより、船舶毎の通信不可率は、その船舶が所定の位置を航行する時刻、受信レベル、及び気象情報が分かれば、その季節及び地域における通信不可率計算モデルを参照することにより、瞬時に計算することが可能となる。
【0044】
以上のように、この通信診断システム1及び通信診断方法によれば、GX端末11とGX衛星Sとの間における累積雨量と受信レベルとの相関関係を示す直線L16と、累積雨量と判定レベルとの相関関係を示す破線L36とが算出され、その確率分布からGX端末11とGX衛星Sとの通信が不可能になる確率を示す曲線WL4が算出される。これにより、GX端末11とGX衛星Sとの通信が不可能になる確率が算出されるため、GX端末11とGX衛星Sとの通信の可否を容易に診断することが可能になる。
【0045】
また、GX端末11からの距離を変更して所定距離毎に累積雨量を算出し、それらの最小二乗誤差を算出して最小の場合を判定することにより、GX端末11とGX衛星Sとの通信が不可能になる確率を正確に予測することができる。
【0046】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、気象情報WDから降雨量を取得して相関関係を算出したが、降雨量だけではなく、例えば、黄砂、PM2.5、及び火山の噴煙等の微小粒子状物質の浮遊量の情報を取得し、累積微小粒子状物質を算出して相関関係を算出しても良い。また、降雨の場合には微小粒子状物質の浮遊量は減少すると考えられるため、降雨量及び微小粒子状物質の浮遊量の両方について相関関係を算出し、降雨量により重みづけをしても良い。
【0047】
また、上記の実施の形態では、取得した受信レベル及びノイズレベルの全ての値から回帰直線を算出したが、所定の統計処理を用いて一部の値のみを用いても良い。例えば、所定の累積雨量に対応する最頻値を用いる方法、確率分布曲線から所定値(例えば、標準偏差の2倍)以上乖離する値を除外する方法等を用いても良い。
【符号の説明】
【0048】
1 通信診断システム
11 GX端末(ログ情報取得手段)
21 気象海象サーバ(気象情報取得手段)
31 仮想マシン
31a インスタンス(累積算出手段、診断手段)
32 データストレージ
32a バケット
AD 累積情報(累積気象情報)
AR アーカイブ(送受信局ログ情報)
BS 送受信局
CS クラウドサーバ
DW 伝送波
S GX衛星
WD 気象情報
WS 気象海象情報取得局
図1
図2
図3
図4
図5
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