(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記旋回制御部は、旋回内側に設けられた前記推進器を駆動させる前記熱機関の燃料噴射量を、旋回外側に設けられた前記推進器を駆動させる前記熱機関の燃料噴射量より小さくする
請求項1または請求項2に記載の旋回制御装置。
前記速度制御部は、前記操舵指令を受け付けたときに、旋回外側に設けられた前記推進器及び旋回内側に設けられた前記推進器を駆動させる前記熱機関の燃料噴射量を減少させ、
前記旋回制御部は、前記操舵指令の受け付けの所定時間後に、旋回外側に設けられた前記推進器を駆動させる前記熱機関の燃料噴射量を増加させる
請求項2に記載の旋回制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら実施形態について詳しく説明する。
《第1の実施形態》
図1は、第1の実施形態に係る船舶100の構成を示す概略図である。
本実施形態に係る船舶100は、右舷推進器11、右舷動力装置12、右舷舵板13、右舷舵アクチュエータ14、左舷推進器21、左舷動力装置22、左舷舵板23、左舷舵アクチュエータ24、補助推進器31、補助動力装置32、旋回制御装置40を備える。
【0022】
右舷推進器11は、船体の右舷側に設けられたスクリュープロペラである。
右舷動力装置12は、右舷推進器11を駆動する動力源である。右舷動力装置12は、ガスタービンやディーゼル機関などの熱機関によって実現される。
右舷舵板13は、右舷推進器11の船体後方に設けられる。右舷舵板13は、右舷推進器11が出力する水流の流れを変えることで、船体の進行方向を変化させる。
右舷舵アクチュエータ14は、旋回制御装置40の指令に従って右舷舵板13の迎角を変化させる。
【0023】
左舷推進器21は、船体の左舷側に設けられたスクリュープロペラである。
左舷動力装置22は、左舷推進器21を駆動する動力源である。左舷動力装置22は、ガスタービンやディーゼル機関などの熱機関によって実現される。
左舷舵板23は、左舷推進器21の船体後方に設けられる。左舷舵板23は、左舷推進器21が出力する水流の流れを変えることで、船体の進行方向を変化させる。
左舷舵アクチュエータ24は、旋回制御装置40の指令に従って左舷舵板23の迎角を変化させる。
【0024】
補助推進器31は、右舷推進器11と左舷推進器21の間、かつ右舷推進器11及び左舷推進器21より船体後方に設けられる。補助推進器31は、ウォータージェットやスクリュープロペラなどの推進器によって実現される。本実施形態に係る補助推進器31は、船体の右舷側と左舷側とに一対設けられる。なお、他の実施形態に係る補助推進器31は、船体の船首船尾軸上に1つだけ設けられても良い。また、他の実施形態に係る補助推進器31は、船体の右舷側と左舷側とに二対以上設けられても良い。
補助動力装置32は、補助推進器31を駆動する動力源である。補助動力装置32は、ガスタービンやディーゼル機関などの熱機関または電動機によって実現される。
【0025】
旋回制御装置40は、図示しない舵輪の操作量に基づいて、右舷動力装置12、右舷舵アクチュエータ14、左舷動力装置22および左舷舵アクチュエータ24を制御する。
図2は、第1の実施形態に係る旋回制御装置40のソフトウェア構成を示す概略ブロック図である。
旋回制御装置40は、入力部41、旋回制御部42、アクチュエータ制御部43、動力装置制御部44を備える。なお、本実施形態では、1つの旋回制御装置40が各処理部を備える場合について説明するが、これに限られず、他の実施形態では各処理部が別個の装置に設けられていても良い。
【0026】
入力部41は、図示しない舵輪の角度に応じて出力される操舵指令及び操縦ハンドルの操作量の入力を受け付ける。なお操舵指令は、操舵角度を指示する指令である。
旋回制御部42は、入力部41に入力された操舵指令及び操縦ハンドルの操作量に基づいて、右舷動力装置12および左舷動力装置22の燃料噴射量を決定する。本実施形態に係る旋回制御部42は、旋回内側に設けられた推進器を駆動させる動力装置の燃料噴射量を、旋回外側に設けられた推進器を駆動させる動力装置の燃料噴射量より小さくする。つまり、旋回制御部42は、旋回内側に設けられた舵板に生じる揚力が旋回外側に設けられた舵板に生じる揚力より小さくなるように動力装置の燃料噴射量を制御する。
また旋回制御部42は、入力部41に入力された操舵指令に基づいて、右舷舵アクチュエータ14および左舷舵アクチュエータ24の回転角度を決定する。
アクチュエータ制御部43は、旋回制御部42が決定した回転角度で右舷舵アクチュエータ14および左舷舵アクチュエータ24を駆動させる。
動力装置制御部44は、旋回制御部42が決定した燃料噴射量で右舷動力装置12および左舷動力装置22を駆動させる。
【0027】
次に、本実施形態に係る旋回制御装置40の動作を説明する。
図3は、第1の実施形態に係る旋回制御装置40の動作を示すフローチャートである。
入力部41は、舵輪の角度に応じて出力される操舵指令及び操縦ハンドルの操作量を検出する(ステップS1)。次に旋回制御部42は、操舵指令が示す操舵角度が所定の中立範囲(例えば、±2度の範囲)にあるか否かを判定する(ステップS2)。旋回制御部42は、操舵角度が中立範囲にないと判定した場合(ステップS2:NO)、操舵角度に基づいて旋回方向を特定する(ステップS3)。具体的には、操舵角度が0度より大きい場合、旋回制御部42は、旋回方向が右舷方向であると判定する。他方、操舵角度が0度より小さい場合、旋回制御部42は、旋回方向が左舷方向であると判定する。
【0028】
旋回制御部42は、旋回方向が右舷方向であると判定した場合(ステップS3:右舷方向)、操縦ハンドルの操作量に基づいて左舷動力装置22の燃料噴射量を決定する(ステップS4)。次に、旋回制御部42は、左舷動力装置22の燃料噴射量と操舵角度とに基づいて右舷動力装置12の燃料噴射量を決定する(ステップS5)。決定される右舷動力装置12の燃料噴射量は、左舷動力装置22の燃料噴射量に、操舵角度から特定される旋回中心から左舷動力装置22までの距離に対する当該旋回中心から右舷動力装置12までの距離の比を乗じて算出される値である。なお、右舷動力装置12の燃料噴射量は、左舷動力装置22の燃料噴射量より小さい値となる。旋回制御部42は、操舵角度と燃料噴射量の比との関係を示すテーブルを参照して右舷動力装置12の燃料噴射量を決定しても良いし、操舵角度と左舷動力装置22の燃料噴射量から直接右舷動力装置12の燃料噴射量を決定しても良い。
【0029】
他方、旋回制御部42は、旋回方向が左舷方向であると判定した場合(ステップS3:左舷方向)、操縦ハンドルの操作量に基づいて右舷動力装置12の燃料噴射量を決定する(ステップS6)。次に、旋回制御部42は、右舷動力装置12の燃料噴射量と操舵角度とに基づいて左舷動力装置22の燃料噴射量を決定する(ステップS7)。決定される左舷動力装置22の燃料噴射量は、右舷動力装置12の燃料噴射量に、操舵角度から特定される旋回中心から右舷動力装置12までの距離に対する当該旋回中心から左舷動力装置22までの距離の比を乗じて算出される値である。
【0030】
また、操舵角度が所定の中立範囲にある場合(ステップS2:YES)、旋回制御部42は、操縦ハンドルの操作量に基づいて右舷動力装置12及び左舷動力装置22の燃料噴射量を決定する(ステップS8)。つまり、操舵角度が所定の中立範囲にある場合、旋回制御部42は、右舷動力装置12及び左舷動力装置22の燃料噴射量を等しい値に決定する。
【0031】
旋回制御部42が、ステップS5からステップS8の処理によって右舷動力装置12及び左舷動力装置22の燃料噴射量を決定すると、動力装置制御部44は、右舷動力装置12及び左舷動力装置22を、旋回制御部42が決定した燃料噴射量に基づいて動作させる(ステップS9)。また、アクチュエータ制御部43は、右舷舵板13及び左舷舵板23の角度が操舵指令が示す操舵角度になるよう、右舷舵アクチュエータ14及び左舷舵アクチュエータ24を動作させる(ステップS10)。
【0032】
ここで、旋回内側に設けられた推進器を駆動させる動力装置の燃料噴射量を、旋回外側に設けられた推進器を駆動させる動力装置の燃料噴射量より小さくする理由について説明する。
船舶100が旋回するとき、旋回内側の推進器が通る経路は、旋回外側の推進器が通る経路より短くなる。これは、旋回内側の推進器より旋回外側の推進器の方が旋回の中心からの距離が遠いためである。本実施形態によれば、旋回制御装置40は、旋回外側の推進器の出力が旋回内側の推進器の出力より大きくなるよう動力装置の燃料噴射量を制御する。これにより、旋回制御装置40は、各推進器の出力を各推進器が通る経路の長さに応じた強さにすることができるため、船舶100の旋回効率を向上させることができる。また本実施形態では、推進器の回転数ではなく推進器の動力を供給する動力装置の燃料噴射量を制御する。これにより、動力装置として、フィードバックに対する時間遅れが大きい熱機関を用いる場合にも、適切に旋回の制御を行うことができる。
【0033】
なお、本実施形態に係る旋回制御装置40は、船体を旋回させる際に、旋回内側の推進器を駆動させる動力装置の燃料噴射量を減少させるが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る旋回制御装置40は、船体を旋回させる際に、旋回外側の推進器を駆動させる動力装置の燃料噴射量を増加させても良い。
【0034】
《第2の実施形態》
第2の実施形態について説明する。本実施形態に係る旋回制御装置40は、第1の実施形態に係る旋回制御装置40の動作に加え、船体の旋回を開始する際に船体の速度を低下させる。これにより、旋回制御装置40は、旋回半径を小さくすることができる。
図4は、第2の実施形態に係る旋回制御装置40のソフトウェア構成を示す概略ブロック図である。
【0035】
本実施形態に係る旋回制御装置40は、第1の実施形態に係る旋回制御装置40の構成に加え、さらに速度制御部45を備える。
速度制御部45は、入力部41に入力された操舵指令に基づいて、補助動力装置32の燃料噴射量を決定する。具体的には、速度制御部45は、操舵指令が示す操舵角度が中立範囲外である場合に、補助動力装置32の燃料噴射量を低下させることで、船体の速度を低下させる。
【0036】
次に、本実施形態に係る旋回制御装置40の動作を説明する。
図5は、第2の実施形態に係る旋回制御装置40の動作を示すフローチャートである。なお、第2の実施形態の手順のうち、第1の実施形態と同じ手順であるものについては、第1の実施形態と同じ符号を用いて説明する。
【0037】
入力部41は、舵輪の角度に応じて出力される操舵指令及び操縦ハンドルの操作量を検出する(ステップS1)。次に速度制御部45は、操舵指令が示す操舵角度が所定の中立範囲にあるか否かを判定する(ステップS21)。速度制御部45は、操舵角度が中立範囲にないと判定した場合(ステップS21:NO)、補助動力装置32の燃料噴射量を0に決定する(ステップS22)。つまり、旋回制御装置40は、操舵角度が所定の中立範囲にない場合、補助推進器31を動作させない。
【0038】
次に旋回制御部42は、操舵角度に基づいて旋回方向を特定する(ステップS3)。旋回制御部42は、旋回方向が右舷方向であると判定した場合(ステップS3:右舷方向)、操縦ハンドルの操作量に基づいて左舷動力装置22の燃料噴射量を決定する(ステップS4)。次に、旋回制御部42は、左舷動力装置22の燃料噴射量と操舵角度とに基づいて右舷動力装置12の燃料噴射量を決定する(ステップS5)。他方、旋回制御部42は、旋回方向が左舷方向であると判定した場合(ステップS3:左舷方向)、操縦ハンドルの操作量に基づいて右舷動力装置12の燃料噴射量を決定する(ステップS6)。次に、旋回制御部42は、右舷動力装置12の燃料噴射量と操舵角度とに基づいて左舷動力装置22の燃料噴射量を決定する(ステップS7)。
【0039】
他方、操舵角度が所定の中立範囲にある場合(ステップS21:YES)、速度制御部45は、操縦ハンドルの操作量に基づいて補助動力装置32の燃料噴射量を決定する(ステップS23)。つまり、旋回制御装置40は、操舵角度が所定の中立範囲にある場合、補助推進器31を動作させる。また、旋回制御部42は、操縦ハンドルの操作量に基づいて右舷動力装置12及び左舷動力装置22の燃料噴射量を決定する(ステップS8)。
【0040】
旋回制御部42が、ステップS5からステップS8の処理によって右舷動力装置12及び左舷動力装置22の燃料噴射量を決定すると、動力装置制御部44は、右舷動力装置12及び左舷動力装置22並びに補助動力装置32を、旋回制御部42及び速度制御部45が決定した燃料噴射量に基づいて動作させる(ステップS24)。また、アクチュエータ制御部43は、右舷舵板13及び左舷舵板23の角度が操舵指令が示す操舵角度になるよう、右舷舵アクチュエータ14及び左舷舵アクチュエータ24を動作させる(ステップS10)。
【0041】
このように、本実施形態によれば、旋回制御装置40は、操舵角度が中立範囲にある場合に補助推進器31を駆動させ、操舵角度が中立範囲にない場合に補助推進器31を停止させることで、船体の旋回を開始する際に船体の速度を低下させる。これにより、旋回制御装置40は、旋回半径を小さくすることができる。
【0042】
なお、本実施形態に係る旋回制御装置40は、操舵角度が中立範囲にない場合に、補助動力装置32の燃料噴射量を0にするが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る旋回制御装置40は、操舵角度が中立範囲内にない場合に、操縦ハンドルの操作量から決定される燃料噴射量(操舵角度が中立範囲にあるときの燃料噴射量)に、0以上1未満の係数をかけた値を補助動力装置32の燃料噴射量をとしても良い。
【0043】
《第3の実施形態》
第3の実施形態について説明する。本実施形態に係る旋回制御装置40は、船体の旋回を開始する際に補助動力装置32に加え、右舷動力装置12及び左舷動力装置22の両方の燃料噴射量を低下させることで、船体の速度を第2の実施形態よりさらに低下させる。これにより、旋回制御装置40は、旋回半径を小さくすることができる。
【0044】
次に、本実施形態に係る旋回制御装置40の動作を説明する。
図6は、第3の実施形態に係る旋回制御装置40の動作を示すフローチャートである。なお、第3の実施形態の手順のうち、第1の実施形態と同じ手順であるものについては、第2の実施形態と同じ符号を用いて説明する。
【0045】
入力部41は、舵輪の角度に応じて出力される操舵指令及び操縦ハンドルの操作量を検出する(ステップS1)。次に速度制御部45は、操舵指令が示す操舵角度が所定の中立範囲にあるか否かを判定する(ステップS21)。速度制御部45は、操舵角度が中立範囲にないと判定した場合(ステップS21:NO)、補助動力装置32の燃料噴射量を0に決定する(ステップS22)。
【0046】
次に旋回制御部42は、操舵角度に基づいて旋回方向を特定する(ステップS3)。旋回制御部42は、旋回方向が右舷方向であると判定した場合(ステップS3:右舷方向)、操縦ハンドルの操作量に基づいて左舷動力装置22の燃料噴射量を決定する(ステップS4)。次に、旋回制御部42は、左舷動力装置22の燃料噴射量と操舵角度とに基づいて右舷動力装置12の燃料噴射量を決定する(ステップS5)。他方、旋回制御部42は、旋回方向が左舷方向であると判定した場合(ステップS3:左舷方向)、操縦ハンドルの操作量に基づいて右舷動力装置12の燃料噴射量を決定する(ステップS6)。次に、旋回制御部42は、右舷動力装置12の燃料噴射量と操舵角度とに基づいて左舷動力装置22の燃料噴射量を決定する(ステップS7)。
【0047】
ステップS4からステップS7の処理によって旋回制御部42が燃料噴射量を決定すると、速度制御部45は、旋回開始からの経過時間が一定時間経過したか否かを判定する(ステップS31)。旋回開始からの経過時間とは、例えば操舵角度が中立範囲外になった時刻からの経過時間である。
旋回開始からの経過時間が一定時間経過していない場合(ステップS31:NO)、動力装置制御部44は、右舷動力装置12及び左舷動力装置22を、旋回制御部42が決定した右舷動力装置12及び左舷動力装置22の燃料噴射量のうち低い方の燃料噴射量に基づいて動作させる(ステップS32)。つまり、動力装置制御部44は、旋回方向が右舷方向である場合、ステップS5で決定した燃料噴射量で右舷動力装置12及び左舷動力装置22を制御し、旋回方向が左舷方向である場合、ステップS7で決定した燃料噴射量で右舷動力装置12及び左舷動力装置22を制御する。これにより、旋回制御装置40は、旋回を開始する際に船舶100の速度を低下させることができる。なおこのとき補助動力装置32は動作を停止している。また、アクチュエータ制御部43は、右舷舵板13及び左舷舵板23の角度が操舵指令が示す操舵角度になるよう、右舷舵アクチュエータ14及び左舷舵アクチュエータ24を動作させる(ステップS10)。
【0048】
他方、旋回開始からの経過時間が一定時間経過した場合(ステップS31:YES)、動力装置制御部44は、右舷動力装置12及び左舷動力装置22並びに補助動力装置32を、旋回制御部42及び速度制御部45が決定した燃料噴射量に基づいて動作させる(ステップS24)。また、アクチュエータ制御部43は、右舷舵板13及び左舷舵板23の角度が操舵指令が示す操舵角度になるよう、右舷舵アクチュエータ14及び左舷舵アクチュエータ24を動作させる(ステップS10)。
【0049】
他方、操舵角度が所定の中立範囲にある場合(ステップS21:YES)、速度制御部45は、操縦ハンドルの操作量に基づいて補助動力装置32の燃料噴射量を決定する(ステップS23)。また、旋回制御部42は、操縦ハンドルの操作量に基づいて右舷動力装置12及び左舷動力装置22の燃料噴射量を決定する(ステップS8)。そして、動力装置制御部44は、右舷動力装置12及び左舷動力装置22並びに補助動力装置32を、旋回制御部42及び速度制御部45が決定した燃料噴射量に基づいて動作させる(ステップS24)。また、アクチュエータ制御部43は、右舷舵板13及び左舷舵板23の角度が操舵指令が示す操舵角度になるよう、右舷舵アクチュエータ14及び左舷舵アクチュエータ24を動作させる(ステップS10)。
【0050】
このように、本実施形態に係る旋回制御装置40は、船体の旋回を開始する際に、右舷動力装置12及び左舷動力装置22の両方の燃料噴射量を低下させ、一定時間後に、旋回外側の推進器の動力装置の燃料噴射量を増加させる。これにより、旋回制御装置40は、第2の実施形態より旋回半径を小さくしつつ、旋回効率を確保することができる。
【0051】
なお、本実施形態では、旋回制御装置40は、右舷動力装置12及び左舷動力装置22の両方の燃料噴射量を一定時間の間低下させるが、これに限られない。例えば、他の実施形態では、速度制御部45が船体の速度を監視し、速度が一定速度未満になるまで右舷動力装置12及び左舷動力装置22の両方の燃料噴射量を低下させ、速度が一定速度未満になったときに、旋回外側の推進器の動力装置の燃料噴射量を増加させても良い。
【0052】
《第4の実施形態》
第4の実施形態について説明する。第1の実施形態に係る旋回制御装置40は、旋回の際に右舷動力装置12と左舷動力装置22の燃料噴射量を異ならせることで、旋回内側に設けられた舵板に生じる揚力が、旋回外側に設けられた舵板に生じる揚力より小さくなるように制御する。これに対し、本実施形態に係る旋回制御装置40は、左舷舵板23と右舷舵板13の角度を異ならせることで、旋回内側に設けられた舵板に生じる揚力が、旋回外側に設けられた舵板に生じる揚力より小さくなるように制御する。
本実施形態に係る旋回制御装置40のソフトウェア構成は、第1の実施形態と同じである。
【0053】
次に、本実施形態に係る旋回制御装置40の動作を説明する。
図7は、第4の実施形態に係る旋回制御装置40の動作を示すフローチャートである。
入力部41は、舵輪の角度に応じて出力される操舵指令及び操縦ハンドルの操作量を検出する(ステップS41)。次に旋回制御部42は、操舵指令が示す操舵角度が所定の中立範囲にあるか否かを判定する(ステップS42)。操舵角度が中立範囲にある場合(ステップS42:YES)、アクチュエータ制御部43は、右舷舵板13及び左舷舵板23の角度が操舵指令が示す操舵角度になるよう、右舷舵アクチュエータ14及び左舷舵アクチュエータ24を動作させる(ステップS43)。
【0054】
他方、操舵角度が中立範囲にない場合(ステップS42:NO)、旋回制御部42は、右舷舵板13の操舵角度目標値を、入力部41が検出した操舵指令が示す操舵角度に所定の補正値αを加算した値に決定する(ステップS44)。また旋回制御部42は、左舷舵板23の操舵角度目標値を、入力部41が検出した操舵指令が示す操舵角度に所定の補正値αを減算した値に決定する(ステップS45)。補正値αは、操舵角度の最大値と失速迎角との差の値より小さい正数とする。
【0055】
なお、操舵角度が正数である場合、旋回方向が右舷方向であるため、ステップS44及びステップS45の補正により、旋回内側に設けられる右舷舵板13の迎角(すなわち操舵角度の絶対値)が、左舷舵板23の迎角より大きい値となる。他方、操舵角度が負数である場合、旋回方向が左舷方向であるため、ステップS44及びステップS45の補正により、旋回内側に設けられる左舷舵板23の迎角が、右舷舵板13の迎角より大きい値となる。つまり、旋回制御部42は、旋回内側に設けられた舵板に生じる揚力が旋回外側に設けられた舵板に生じる揚力より小さくなるように舵板の操舵角度を制御する。
そして、アクチュエータ制御部43は、右舷舵板13及び左舷舵板23の角度が、旋回制御部42が算出した操舵角度目標値になるよう、右舷舵アクチュエータ14及び左舷舵アクチュエータ24を動作させる(ステップS46)。
【0056】
アクチュエータ制御部43がステップS43またはステップS46で右舷舵アクチュエータ14及び左舷舵アクチュエータ24を動作させると、動力装置制御部44は、右舷動力装置12及び左舷動力装置22並びに補助動力装置32を、入力部41が検出した操縦ハンドルの操作量に基づいて動作させる(ステップS47)。
【0057】
ここで、旋回内側に設けられた舵板の迎角を、旋回外側に設けられた舵板の迎角より大きくする理由について説明する。
船舶100が旋回するとき、旋回内側の舵板と旋回の中心とを結ぶ直線と、旋回外側の舵板と旋回の中心とを結ぶ直線とは、平行にはならない。具体的には、旋回内側の舵板と旋回の中心とを結ぶ直線の垂線と船首船尾軸とがなす角は、旋回外側の舵板と旋回の中心とを結ぶ直線の垂線と船首船尾軸とがなす角より大きくなる。これは、舵板が船体の重心より後方に設けられているためである。本実施形態によれば、旋回制御装置40は、旋回外側の舵板の迎角が旋回内側の舵板の迎角より小さくなるようアクチュエータを制御する。これにより、旋回制御装置40は、各舵板と旋回の中心とを結ぶ直線の垂線と舵板の迎角との差を小さくすることができるため、船舶100の旋回効率を向上させることができる。また本実施形態では、推進器の回転数ではなく舵板の迎角を制御する。これにより、動力装置として、フィードバックに対する時間遅れが大きい熱機関を用いる場合にも、適切に旋回の制御を行うことができる。
【0058】
なお、本実施形態に係る旋回制御装置40は、操舵角度の補正値αが固定値であるが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る旋回制御装置40は、操舵角度に基づいて旋回の中心を算出し、各舵板と旋回の中心とを結ぶ直線の垂線と操舵角度との差に基づいて、補正値αを算出しても良い。また、他の実施形態に係る旋回制御装置40は、予め計算されたテーブルに基づいて、操舵角度から補正値αを算出しても良い。
【0059】
また、他の実施形態に係る旋回制御装置40は、本実施形態と同様の舵角の制御に加え、第1の実施形態から第3の実施形態に示したような動力装置の燃料噴射量の制御を行っても良い。
【0060】
図8は、第4の実施形態に係る船舶100の構成を示す概略図である。
本実施形態に係る船舶100に設けられる右舷舵板13の操舵角度が取り得る範囲は、操舵角度の最小値に補正値αを加算した値から、操舵角度の最大値に補正値αを加算した値までの範囲である。同様に、左舷舵板23の操舵角度が取り得る範囲は、操舵角度の最小値から補正値αを減算した値から、操舵角度の最大値から補正値αを減算した値までの範囲である。そのため、
図8に示すように、右舷舵アクチュエータ14及び左舷舵アクチュエータ24を、その可動範囲の中間の角度がα度ずつ外側に向くように配置することで、第1の実施形態と同じ可動範囲のアクチュエータを用いて本実施形態に係る船舶100を実現することができる。
【0061】
《第5の実施形態》
第5の実施形態について説明する。第4の実施形態に係る旋回制御装置40は、旋回内側に設けられた舵板の迎角を、旋回外側に設けられた舵板の迎角より大きくすることで、旋回内側に設けられた舵板に生じる揚力が、旋回外側に設けられた舵板に生じる揚力より小さくなるように制御する。
本実施形態に係る旋回制御装置40のソフトウェア構成は、第1の実施形態と同じである。
【0062】
次に、本実施形態に係る旋回制御装置40の動作を説明する。
図9は、第5の実施形態に係る旋回制御装置40の動作を示すフローチャートである。
入力部41は、舵輪の角度に応じて出力される操舵指令及び操縦ハンドルの操作量を検出する(ステップS51)。次に旋回制御部42は、操舵指令が示す操舵角度が所定の中立範囲にあるか否かを判定する(ステップS52)。操舵角度が中立範囲にある場合(ステップS52:YES)、アクチュエータ制御部43は、右舷舵板13及び左舷舵板23の角度が操舵指令が示す操舵角度になるよう、右舷舵アクチュエータ14及び左舷舵アクチュエータ24を動作させる(ステップS53)。
【0063】
他方、操舵角度が中立範囲にない場合(ステップS52:NO)、旋回制御部42は、操舵角度に基づいて旋回方向を特定する(ステップS54)。旋回制御部42は、旋回方向が右舷方向であると判定した場合(ステップS54:右舷方向)、右舷舵板13の操舵角度目標値を、失速迎角以上の値に決定する(ステップS55)。アクチュエータ制御部43は、右舷舵板13の角度が、旋回制御部42が決定した操舵角度目標値になるよう、右舷舵アクチュエータ14を動作させる。また、アクチュエータ制御部43は、左舷舵板23の角度が操舵指令が示す操舵角度になるよう、左舷舵アクチュエータ24を動作させる(ステップS56)。なお、操舵指令が示す操舵角度は、失速迎角未満の角度である。
【0064】
他方、旋回方向が左舷方向である場合(ステップS54:左舷方向)、旋回制御部42は、左舷舵板23の操舵角度目標値を、失速迎角以上の値に決定する(ステップS57)。アクチュエータ制御部43は、左舷舵板23の角度が、旋回制御部42が決定した操舵角度目標値になるよう、左舷舵アクチュエータ24を動作させる。また、アクチュエータ制御部43は、右舷舵板13の角度が操舵指令が示す操舵角度になるよう、右舷舵アクチュエータ14を動作させる(ステップS58)。
【0065】
ステップS53からステップS58の処理によってアクチュエータ制御部43が右舷舵アクチュエータ14及び左舷舵アクチュエータ24を動作させると、動力装置制御部44は、右舷動力装置12及び左舷動力装置22並びに補助動力装置32を、入力部41が検出した操縦ハンドルの操作量に基づいて動作させる(ステップS59)。
【0066】
ここで、旋回内側に設けられた舵板の迎角を失速迎角以上にする理由について説明する。
舵板の迎角が失速迎角以上になると、流れの剥離によって揚力が減少し、抵抗が増加することが知られている。つまり、本実施形態のように、旋回内側に設けられた舵板の迎角を失速迎角以上にすることで、旋回内側の推進力が低下する。第1の実施形態で説明したとおり、船舶100が旋回するとき、旋回内側の推進器が通る経路は、旋回外側の推進器が通る経路より短くなるため、本実施形態によれば旋回制御装置40は、舵板を介した各推進器の推進力を、各推進器が通る経路の長さに応じた強さにすることができるため、船舶100の旋回効率を向上させることができる。
【0067】
なお、他の実施形態に係る旋回制御装置40は、本実施形態と同様の舵角の制御に加え、第1の実施形態から第3の実施形態に示したような動力装置の燃料噴射量の制御を行っても良い。
【0068】
図10は、第5の実施形態に係る船舶100の構成を示す概略図である。
本実施形態に係る船舶100に設けられる右舷舵板13の操舵角度が取り得る範囲は、負の失効迎角から操舵角度の最大値までの範囲である。同様に、左舷舵板23の操舵角度が取り得る範囲は、操舵角度の最小値から正の失効迎角までの範囲である。そのため、
図10に示すように、右舷舵アクチュエータ14及び左舷舵アクチュエータ24を、その可動範囲の中間の角度が内側に向くように配置することで、最小限の可動範囲のアクチュエータを用いて本実施形態に係る船舶100を実現することができる。
【0069】
《第6の実施形態》
第6の実施形態について説明する。本実施形態に係る旋回制御装置40は、第2の実施形態に係る旋回制御装置40の動作のうち、旋回方向に応じた動力装置の燃料噴射量の制御を行わないものである。
【0070】
図11は、第6の実施形態に係る旋回制御装置40の動作を示すフローチャートである。なお、第6の実施形態の手順のうち、第2の実施形態と同じ手順であるものについては、第1の実施形態と同じ符号を用いて説明する。
【0071】
入力部41は、舵輪の角度に応じて出力される操舵指令及び操縦ハンドルの操作量を検出する(ステップS1)。次に速度制御部45は、操舵指令が示す操舵角度が所定の中立範囲にあるか否かを判定する(ステップS21)。速度制御部45は、操舵角度が中立範囲にないと判定した場合(ステップS21:NO)、補助動力装置32の燃料噴射量を0に決定する(ステップS22)。
【0072】
他方、操舵角度が所定の中立範囲にある場合(ステップS21:YES)、速度制御部45は、操縦ハンドルの操作量に基づいて補助動力装置32の燃料噴射量を決定する(ステップS23)。つまり、旋回制御装置40は、操舵角度が所定の中立範囲にある場合、補助推進器31を動作させる。
【0073】
ステップS22またはステップS23で補助動力装置32の燃料噴射量を決定すると、旋回制御部42は、操縦ハンドルの操作量に基づいて右舷動力装置12及び左舷動力装置22の燃料噴射量を決定する(ステップS8)。次に、動力装置制御部44は、右舷動力装置12及び左舷動力装置22並びに補助動力装置32を、旋回制御部42及び速度制御部45が決定した燃料噴射量に基づいて動作させる(ステップS24)。また、アクチュエータ制御部43は、右舷舵板13及び左舷舵板23の角度が操舵指令が示す操舵角度になるよう、右舷舵アクチュエータ14及び左舷舵アクチュエータ24を動作させる(ステップS10)。
【0074】
このように、本実施形態によれば、旋回制御装置40は、操舵角度が中立範囲にある場合に補助推進器31を駆動させ、操舵角度が中立範囲にない場合に補助推進器31を停止させることで、船体の旋回を開始する際に船体の速度を低下させる。これにより、旋回制御装置40は、旋回半径を小さくすることができる。
【0075】
なお、本実施形態に係る旋回制御装置40は、操舵角度が中立範囲にない場合に、補助動力装置32の燃料噴射量を0にするが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る旋回制御装置40は、操舵角度が中立範囲内にない場合に、操縦ハンドルの操作量から決定される燃料噴射量に、0以上1未満の係数をかけた値を補助動力装置32の燃料噴射量をとしても良い。
【0076】
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。
例えば、上述した実施形態に係る船舶100は、補助推進器31および補助動力装置32を備えるが、これに限られない。例えば、他の実施形態において、旋回制御装置40が第1の実施形態から第4の実施形態に示すように、旋回内側に設けられた舵板に生じる揚力が旋回外側に設けられた舵板に生じる揚力より小さくなるように動力装置の燃料噴射量または舵板の迎角を制御するのであれば、船舶100は、補助推進器31および補助動力装置32を備えなくても良い。
【0077】
図12は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータ900の構成を示す概略ブロック図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、インタフェース904を備える。
上述の旋回制御装置40は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。
【0078】
なお、少なくとも1つの実施形態において、補助記憶装置903は、一時的でない有形の媒体の一例である。一時的でない有形の媒体の他の例としては、インタフェース904を介して接続される磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等が挙げられる。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。
【0079】
また、当該プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、当該プログラムは、前述した機能を補助記憶装置903に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。