(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6504789
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
B60M 3/06 20060101AFI20190415BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20190415BHJP
【FI】
B60M3/06 E
H02M7/48 R
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-230258(P2014-230258)
(22)【出願日】2014年11月13日
(65)【公開番号】特開2016-94054(P2016-94054A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000196587
【氏名又は名称】西日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】筒井 信道
(72)【発明者】
【氏名】梅田 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】坂本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】青柳 嘉木
(72)【発明者】
【氏名】坂本 守
【審査官】
橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−191441(JP,A)
【文献】
実開昭58−164937(JP,U)
【文献】
特開昭59−023737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M1/00−7/00
H02M7/42−7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流き電系統によりき電される車両の回生電力を交流電力に変換する電力変換部を備え、前記電力変換部の交流出力側に負荷及び交流電源系統が互いに並列に接続されると共に、前記交流電源系統から前記負荷に常時給電し、かつ、前記回生電力により直流き電電圧が所定値以上になったときに前記電力変換部を直流−交流変換動作させて前記電力変換部から前記負荷に交流電力を供給可能であって、筐体が接地されている電力変換装置において、
前記直流き電系統内の接地されたレールに接続された前記電力変換部の負側電路に、直流リアクトルを挿入し、前記電力変換部と前記筐体との間の浮遊容量と接地とを介して前記レール及び前記負側電路を含む経路に流れる高調波電流を抑制することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載した電力変換装置において、
前記電力変換部、または、前記電力変換部と前記負荷との間に設けられた変圧器が、接地されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した電力変換装置において、
前記電力変換部が電圧型インバータからなり、
前記電力変換部の正側入力端子と前記直流き電系統のき電線との間に接続される第1リアクトルと、
前記電力変換部の正側入力端子と負側入力端子との間に接続されるコンデンサと、
前記電力変換部の負側入力端子と前記コンデンサとの接続点と前記レールとの間に接続される前記直流リアクトルとしての第2リアクトルと、
を備えることを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流き電系統から発生した回生電力の余剰分を交流電力に変換して負荷に供給するようにした電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
直流き電系統において、車両の制動動作により発生した回生電力は、き電線を介して他の列車の力行電力として利用されている。このような直流き電系統では、同一の変電区間内において、回生電力が力行電力を上回ると、き電電圧が上昇し、回生電力が力行電力を下回った場合には、き電電圧が低下する。
【0003】
ここで、例えば特許文献1には、直流き電系統におけるき電電圧の安定化を図りながら、交流電源系統に逆潮流しない範囲で余剰回生電力を有効に活用する回生電力吸収装置が開示されている。
図4は、この特許文献1に記載された従来技術の構成図である。
【0004】
図4において、101は直流のき電線、102はレール、110は車両、301は駅構内の照明設備や空調設備、昇降設備等の負荷、303は低圧の交流電源系統、304は変圧器である。
また、400は、き電線101及びレール102と交流電源系統303との間に接続された回生電力吸収装置である。この回生電力吸収装置400は、複数のIGBTからなるIGBT変換器410、制御器420、電力検出器431,432、電流検出器433、電圧検出器434,435、チョッパ436、二次電池437、遮断器438、及び変圧器440を備えている。
【0005】
制御器420において、電圧制御器421は、き電線の電圧指令値VF
REFと電圧検出値VFとの偏差から第1の回生電力指令値WABS
REFを演算する。電力指令分配器422は、負荷電力WL,回生電力指令値WABS
REF及び充電率SOCから、第2の回生電力指令値WABS
REF2及びチョッパ436の電力指令値ΔWABSを生成する。
電流換算器423は、回生電力指令値WABS
REF2と回生電力検出値WABSとの偏差を有効電流偏差に換算し、電流制御器424は、有効電流偏差をゼロにするようにIGBT変換器410の交流出力電圧を制御する。
【0006】
一方、電流換算器425は、チョッパ436の電力指令値ΔWABSを電流指令値I
REFに換算し、電流制御器426は、電流指令値I
REFと二次電池437の電流検出値I
BATTとの偏差をゼロにするようにチョッパ436の出力電圧を制御する。また、充電率演算器427は、二次電池437の電流検出値I
BATT及び電圧検出値V
BATTに基づいて充電率SOCを演算する。
【0007】
この従来技術では、車両110の回生運転時にき電電圧検出値VFが上昇し、第1の回生電力指令値WABS
REFが負荷301の電力検出値WLを超えると、第2の電力指令値WABS
REF2が電力検出値WLに制限されて交流電源系統303への逆潮流が抑制される。これと同時に、電力指令値ΔWABSが増加するため、電流制御器426を介したチョッパ436の動作によって二次電池437が充電される。
また、車両110の回生運転が終了して力行運転に移行すると、き電電圧検出値VFが低下するが、第1の回生電力指令値WABS
REFが負になることにより、チョッパ436の動作によって二次電池437の放電が開始され、更に、IGBT変換器410の動作によってき電電圧が所定値に維持されるものである。
【0008】
これにより、負荷301の消費電力を上回る余剰回生電力を利用して二次電池437を充電し、また、き電電圧の低下時には二次電池437を放電させることで、き電電圧の安定化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4432675号公報(段落[0027]〜[0044]、
図5,
図9等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図4に示すように、上記の回生電力吸収装置400は通常、接地されており、また、レール102も接地されている。この場合、IGBT変換器410内のIGBTが高速でスイッチングすると、IGBTに発生する急激な電圧変化(dV/dt)により、IGBT変換器410と回生電力吸収装置400の筺体等との間に存在する浮遊容量450を介して大地に高調波電流が流れ、この高調波電流がレール102に流入する。
このような高調波電流の還流経路は、浮遊容量450を介したものばかりでなく、例えば変圧器440の接地側を介してレール102に流入する経路も存在する。
【0011】
しかしながら、レール102には鉄道の信号設備や踏切設備等を制御するための様々な信号電流が流れているため、上記高調波電流がノイズとなって信号電流に悪影響を与え、各種設備の正常な動作が保証されなくなる等のおそれがあった。
【0012】
そこで、本発明の解決課題は、余剰回生電力を処理するための電力変換部のスイッチング動作に伴う高調波電流を抑制してレールへの流入を防止した電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、流き電系統によりき電される車両の回生電力を交流電力に変換する電力変換部を備え、前記電力変換部の交流出力側に負荷及び交流電源系統が互いに並列に接続されると共に、前記交流電源系統から前記負荷に常時給電し、かつ、前記回生電力により直流き電電圧が所定値以上になったときに前記電力変換部を直流−交流変換動作させて前記電力変換部から前記負荷に交流電力を供給可能
であって、筐体が接地されている電力変換装置において、
前記直流き電系統内の接地されたレールに接続された前記電力変換部の負側電路に、直流リアクトルを挿入し
、前記電力変換部と前記筐体との間の浮遊容量と接地とを介して前記レール及び前記負側電路を含む経路に流れる高調波電流を抑制するものである。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した電力変換装置において、前記電力変換部、または、前記電力変換部と前記負荷との間に設けられた変圧器が、接地されていることを特徴とする。
また、請求項3に係る発明は、
請求項1または2に記載した電力変換装置において、前記電力変換部が電圧型インバータからなり、前記電力変換部の正側入力端子と前記直流き電系統のき電線との間に接続される第1リアクトルと、前記電力変換部の正側入力端子と負側入力端子との間に接続されるコンデンサと、前記電力変換部の負側入力端子と前記コンデンサとの接続点と前
記レールとの間に接続される
前記直流リアクトルとしての第2リアクトルと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、直流き電系統のレールに接続される電力変換部の負側電路に直流リアクトルを挿入することにより、負側電路から接地を介してレールに流入する高調波電流を抑制し、レールに流れている各種の信号電流に対する影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る電力変換装置の構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る電力変換装置の課題を説明するための構成図である。
【
図3】
図2における高調波電流の経路の説明図である。
【
図4】特許文献1に記載された従来技術の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
前後するが、
図2は、本発明の実施形態に係る電力変換装置200の課題を説明するためのものであり、前記同様に、101は直流き電系統のき電線、102はレール、110は車両である。
【0018】
電力変換装置200の正側入力端子Pはき電線101に接続され、負側入力端子Nはレール102に接続されている。また、電力変換装置200の交流出力端子は、駅構内の照明設備や空調設備、昇降設備等の負荷301に接続されると共に、負荷301に対して並列に、三相変圧器302を介して交流電源系統303に接続されている。なお、G
1はレール102の接地、G
2は電力変換装置200の筺体等の接地を示す。
【0019】
ここで、き電線101の標準電圧は、例えば1500[V]であり、交流電源系統303の電圧は、例えば低圧の三相200[V]である。
図2から明らかなように、交流電源系統303の交流電力は、三相変圧器302を介して負荷301に常時、供給されている。
【0020】
電力変換装置200において、正側入力端子Pは、高速遮断器201と直流遮断器202と直流リアクトル203aとを介して、電力変換部204の正側入力端子(+)に接続されている。なお、203bはフィルタ用のコンデンサである。また、電力変換装置200の負側入力端子Nは、電力変換部204の負側入力端子(−)に接続されている。
【0021】
電力変換部204は、内部の半導体スイッチング素子のスイッチング動作によって直流−交流変換を行うインバータ等により構成されている。
電力変換部204の交流出力端子には、交流リアクトル205a及びコンデンサ205bからなるフィルタ回路205が接続されており、その出力側は、三相変圧器206及び交流遮断器207を介して、負荷301及び三相変圧器302にそれぞれ接続されている。
【0022】
高速遮断器201と直流遮断器202との接続点と、電力変換部204の負側電路との間には、き電電圧検出部208が接続され、この検出部208から出力されるき電電圧検出値が制御部220に入力されている。
更に、フィルタ回路205と三相変圧器206との接続点の電圧が交流電圧検出部209により検出され、交流遮断器207と三相変圧器302との接続点の電圧が交流電圧検出部210により検出される。これらの交流電圧検出部209,210による電圧検出値も、制御部220に入力されている。
【0023】
制御部220は、き電電圧検出部208及び交流電圧検出部209,210からの各電圧検出値に基づいて、電力変換部204の半導体スイッチング素子をスイッチングするための駆動信号を生成する。
【0024】
この電力変換装置200の起動動作としては、まず、制御部220を起動し、交流電圧検出部210により交流電源系統303の電圧を検出する。次に、直流側の高速遮断器201を投入し、き電電圧検出部208により、き電電圧が例えば900[V]以上であることを検出する。次いで、直流遮断器202を投入することにより、直流リアクトル203aを介して電力変換部204に直流電圧を印加する。
更に、交流遮断器207を投入して交流電圧検出部209により交流電源系統303の電圧を検出し、この電圧と同期した電圧を電力変換部204から出力させるように、制御部220が電力変換部204を制御する。
【0025】
制御部220は、車両110の回生運転時に、き電電圧検出部208により検出されるき電電圧が回生電力によって所定の閾値(例えば、1600[V])以上になった場合に、電力変換部204を直流−交流変換動作させ、出力電圧波形を交流電源系統303の電圧波形と同期させたうえで負荷301に交流電力を供給する。なお、き電電圧が1600[V]を下回る時は、電力変換部204を待機状態とする。
負荷301への給電にあたっては、制御部220により、交流電源系統303からの入力電圧、電力変換部204の出力電力、及び負荷301への出力電力を監視し、交流電源系統303側へ電力が逆潮流しないように制御を行う。
【0026】
ここで、
図3は、
図2における制御部220と、制御部220に入出力される信号線とを省略した電力変換装置200の主要部を示している。
図2及び
図3から分かるように、レール102及び電力変換装置200は何れも接地されている。また、
図3に示すように、例えば電力変換部204と電力変換装置200の筐体との間には浮遊容量230が存在する。
【0027】
このため、
図4と同様に、電力変換部204内の半導体スイッチング素子のスイッチング動作に伴う急激な電圧変化(dV/dt)により、電力変換部204から浮遊容量230を介して大地に高調波電流が流れる。この高調波電流が、
図3に矢印aで示すように、大地からレール102に流入して電力変換部204の負側電路に還流すると、前述したごとく、レール102を流れる様々な信号電流に対する高調波ノイズとなって悪影響を及ぼす。
また、高調波電流の還流経路は、上記以外にも、例えば、電力変換部204の負側電路を介して三相変圧器206の接地側からレール102に流入する経路も存在する。
【0028】
そこで、本発明の実施形態では、
図1に示す電力変換装置200Aのように、レール102に接続される電力変換部204の負側電路、詳しくは負側入力端子Nとコンデンサ203bの負側端子との間に、直流リアクトル211を挿入することとした。
この直流リアクトル211は、電力変換部204のスイッチングに起因して発生する高調波電流に対し高インピーダンス素子として作用するため、レール102に流入する高調波電流を抑制し、高調波ノイズを低減することができる。これにより、レール102を流れる鉄道設
備用の信号電流にノイズが混入するのを防止することができる。
【0029】
なお、
図1の例では、負側入力端子Nとコンデンサ203bの負側端子との間に直流リアクトル211を接続してあるが、コンデンサ203bの負側端子と電力変換部204の負側入力端子(−)との間に直流リアクトル211を接続した場合にも同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0030】
101:き電線
102:レール
110:車両
200,200A:電力変換装置
201:高速遮断器
202:直流遮断器
203a:直流リアクトル
203b:コンデンサ
204:電力変換部
205:フィルタ回路
205a:交流リアクトル
205b:コンデンサ
206:三相変圧器
207:交流遮断器
208:き電電圧検出部
209,210:交流電圧検出部
211:直流リアクトル
220:制御部
230:浮遊容量
301:負荷
302:三相変圧器
303:交流電源系統
P:正側入力端子
N:負側入力端子
G
1,G
2:接地