(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[工程(1)]
本発明の工程(1)は、(A)ラウリン酸を80質量%以上含む炭素数12〜18の飽和脂肪酸を加熱溶融する工程である。
成分(A)は、洗浄時の泡立ちを高めるために用いられ、パーム核油、ヤシ油等の植物性油脂から得られるものを用いることもできる。低温での泡立ちの向上、経時での外観の白色度の低下を小さくさせる観点から、成分(A)中のラウリン酸の含有量は、83質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上がさらにより好ましく、99質量%以上が特に好ましく、実質100質量%が最も好ましい。
【0010】
成分(A)は、後記成分(B)と混合される前に、予め加熱溶融される。加熱溶融することで、成分(B)と均一に混合され、低温及び高温での泡立ちに優れ、使用時にざらつきのない、経時での外観の白色度の低下が小さく、石鹸表面に結晶の析出がない石鹸を得ることができる。
成分(A)を加熱溶融する際の温度は、40℃以上が好ましく、41〜80℃がより好ましく、42〜60℃がさらに好ましい。この加熱溶融は、成分(A)を、加熱器の設置された容器に投入し、前記温度範囲に加熱器の温度を設定して行うことができる。
【0011】
本発明において、成分(A)は、不飽和脂肪酸を含んだ状態で用いても良い。不飽和脂肪酸としては、炭素数16〜18のものが挙げられ、炭素数18のものがより好ましい。
本発明により得られる石鹸において、不飽和脂肪酸の含有量は、低温での泡立ち、石鹸硬度を向上させる観点から、0.4質量%以下が好ましく、0.01〜0.3質量%がより好ましく、0.01〜0.25質量%がさらに好ましい。
【0012】
[工程(2)]
本発明の工程(2)は、工程(1)で得られた成分(A)の加熱溶融物と、(B)炭素数8〜22の脂肪酸ナトリウム塩を80質量%以上含む組成物とを混合して、成分(B)に成分(A)を被覆する工程である。
成分(B)において、低温及び高温の泡立ちを向上させ、水で濡れた後の石鹸の膨潤を抑える観点から、炭素数8〜22の脂肪酸ナトリウム塩(b1)の含有量は、80質量%以上であり、80〜94質量%が好ましく、82〜92質量%がより好ましく、84〜90質量%がさらに好ましい。
【0013】
また、炭素数8〜22の脂肪酸ナトリウム塩(b1)は、得られる石鹸の泡立ちを向上させる観点、石鹸硬度を高め、水で濡れた後の石鹸の膨潤を抑える観点から、ラウリン酸ナトリウム塩、ミリスチン酸ナトリウム塩のいずれか1種を含むことが好ましく、ラウリン酸ナトリウム塩とミリスチン酸ナトリウム塩の両方を含むことがより好ましい。
炭素数8〜22の脂肪酸ナトリウム塩(b1)に含まれる、ラウリン酸ナトリウム塩の含有量は、同様の観点から、5〜28質量%が好ましく、9〜25質量%がより好ましく、14〜22質量%がさらに好ましい。
また、炭素数8〜22の脂肪酸ナトリウム塩(b1)に含まれる、ミリスチン酸ナトリウム塩の含有量は、1〜12質量%が好ましく、3〜10質量%がより好ましく、5〜8質量%がさらに好ましい。
【0014】
成分(B)における炭素数8〜22の脂肪酸ナトリウム塩(b1)は、牛脂、ヤシ油、パーム油、パーム核油等の油脂を加水分解して得られる脂肪酸を水酸化ナトリウム水溶液で中和するか、油脂を直接けん化することによって得ることができる。
炭素数8〜22の脂肪酸ナトリウム塩(b1)は、得られる石鹸の泡立ち及び硬度を向上させる観点から、炭素数12以下の脂肪酸ナトリウム塩を主成分とする脂肪酸ナトリウム塩と、炭素数14以上の脂肪酸ナトリム塩を主成分とする脂肪酸ナトリウム塩を含むことが好ましい。本発明において、主成分とは、炭素数12以下の脂肪酸ナトリウム塩を主成分とする脂肪酸ナトリウム塩においては、炭素数12以下の脂肪酸ナトリム塩の含有量が、炭素数13以上の脂肪酸ナトリム塩の含有量よりも多いことを意味し、炭素数14以上の脂肪酸ナトリウム塩を主成分とする脂肪酸ナトリウム塩においては、炭素数14以上の脂肪酸ナトリム塩の含有量が、炭素数13以下の脂肪酸ナトリム塩の含有量よりも多いことを意味する。
炭素数12以下の脂肪酸ナトリウム塩を主成分とする脂肪酸ナトリウム塩としては、パーム核油から得られるパーム核脂肪酸を、炭素数14以上の脂肪酸ナトリム塩を主成分とする肪酸ナトリウム塩はパーム油から得られるパーム脂肪酸を原料としたものを使用することができる。
【0015】
また、同様の観点から、炭素数14以上の脂肪酸ナトリム塩を主成分とする脂肪酸ナトリウム塩の含有量に対する、炭素数12以下の脂肪酸ナトリム塩を主成分とする脂肪酸ナトリウム塩の質量割合([炭素数12以下の脂肪酸ナトリム塩を主成分とする脂肪酸ナトリウム塩]/[炭素数14以上の脂肪酸ナトリム塩]を主成分とする脂肪酸ナトリウム塩)は、成分(B)における炭素数8〜22の脂肪酸ナトリウム塩(b1)中、65/35〜10/90が好ましく、55/45〜15/85がより好ましく、45/55〜25/75がさらに好ましい。
【0016】
成分(B)は、炭素数8〜22の脂肪酸ナトリウム塩を80質量%以上含む組成物であり、これ以外に、例えば、脂肪酸、塩化ナトリウム、水等を含むことができる。工程(1)で得られた加熱溶融された成分(A)との均一な混合を得る観点、得られる石鹸の泡立ち及び使用感を向上させ、高い硬度の石鹸を得る観点から、脂肪酸、塩化ナトリウム、水から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、脂肪酸(b2)、塩化ナトリウム(b3)、水(b4)のすべてを含むのがより好ましい。
【0017】
成分(B)の組成物中に含まれる脂肪酸(b2)は、得られる石鹸の泡立ちを向上させる観点から、炭素数8〜22の脂肪酸を含むのが好ましく、成分(B)中の脂肪酸の含有量は、上記観点に加え、得られる石鹸の硬度を向上させる観点から、成分(B)中に、0.1〜2質量%であるのが好ましく、0.2〜1.8質量%がより好ましく、0.3〜1.5質量%がさらに好ましい。
【0018】
成分(B)に脂肪酸を含有させる方法としては、炭素数8〜22の脂肪酸ナトリウム塩と脂肪酸とを混合してもよいし、炭素数8〜22の脂肪酸ナトリウムに塩化ナトリムを加え、中和率を調整して、炭素数8〜22の脂肪酸ナトリウム塩と未中和の炭素数8〜22の脂肪酸の混合物として、炭素数8〜22の脂肪酸ナトリウムを80%質量%以上含む成分(B)としてもよい。
【0019】
成分(B)の組成物中に含まれる塩化ナトリウム(b3)の含有量は、得られる石鹸の硬度を向上させる観点から、成分(B)中、0.1〜1質量%であるのが好ましく、0.2〜0.8質量%がより好ましく、0.4〜0.6質量%がさらに好ましい。
また、成分(B)の組成物中に含まれる水(b4)の含有量は、石鹸の硬度を向上させる観点から、8〜16質量%であるのが好ましく、9〜15質量%がより好ましく、10〜14質量%がさらに好ましい。
また、成分(B)の組成物は、成分(A)を被覆しやすくするため、ペレット状(粒状)であることが好ましい。
【0020】
本発明により得られる石鹸は、成分(B)中の炭素数8〜22の脂肪酸ナトリウム塩(b1)と、成分(A)のラウリン酸を80質量%以上含む炭素数12〜18の飽和脂肪酸を含むことで、低温及び高温での泡立ちを向上させることができる。成分(A)に対する成分(b1)の質量割合(b1)/(A)は、7〜60が好ましく、10〜35がより好ましく、12〜30がさらに好ましい。
【0021】
本発明の工程(2)は、工程(1)で加熱溶融された成分(A)と、成分(B)とを混合して、成分(B)に成分(A)を被覆する工程である。
混合の際、成分(B)を含む系内の温度は、制限されないが、成分(B)と加熱溶融された成分(A)との混合物の温度を抑制し、製造された機械練石鹸での、経時での外観の白色度の低下を小さくさせる点から、20〜40℃であることが好ましく、21〜38℃がより好ましく、22〜35℃がさらに好ましい。
成分(B)と加熱溶融された成分(A)との混合は、混合羽根を有する混合機で混合することが好ましい。混合羽根を有する混合機としては、混合羽根がブレード型であるリボンミキサーやニーダー等の公知の混合機が好ましく、ニーダーを用いるのがより好ましい。また、ニーダーのブレードとしては、具体的には、シグマ(Σ)形、ゼット(Z)形、スパイラル(S)形、マスチケータ形、フィッシュテール形等を用いることができる。混合羽根を有する混合機としては、例えば、「混練装置(1986年9月20日、第1版、株式会社科学技術総合研究所、P.108〜117、P.126〜129)」に記載されている装置などを用いることができる。
【0022】
このように、成分(B)と加熱溶融された成分(A)を混合することにより、成分(B)に成分(A)を被覆することができる。
ここで、成分(B)に成分(A)を被覆するとは、成分(B)の表面の一部もしくは全てに成分(A)を付着させることを示す。この工程を行うことで、次に行う工程(3)で、成分(A)と成分(B)を均一に混練しやすくすることができる。
【0023】
[工程(3)]
工程(3)は、工程(2)で得られた混合物を混練する工程である。本発明において、混練とは、ロール式混練機を用いて、組成物を均一に混合することを示す。
混練には、断面が円のロールを2〜5本を組み合わせたロール式混練機を使用することができ、ロールの数は3〜5本が好ましく、3本ロールを有するロール式混練機がより好ましい。ロール式混練機としては、3段ロールミル等公知の機械式混練機を用いることができる。
また、ロール間隔(ロール間の隙間)は、均一な石鹸を得る点から、0.1〜2mmが好ましく、0.2〜1.5mmがより好ましい。
【0024】
本発明においては、工程(2)で得られた混合物に、前記成分のほか、通常の石鹸組成物に用いられる成分、例えば、非イオン性界面活性剤、成分(A)、(B)以外のアニオン界面活性剤、両性界面活性剤、抗菌剤、香料、殺菌剤、キレート剤、酸化防止剤、顔料、ポリエチレングリコール、染料、油剤等をさらに混合して、混練してもよい。
【0025】
本発明においては、得られる石鹸の全組成中において、低温及び高温での泡立ち、石鹸硬度を向上させ、水で濡れた後の石鹸の膨潤を抑える観点から、ラウリン酸の含有量が、8〜25質量%であるのが好ましく、14〜23質量%がより好ましく、18〜21質量%がさらに好ましい。また、同様に、ミリスチン酸の含有量が、2〜7質量%であるのが好ましく、4〜6.5質量%がより好ましく、5〜6質量%がさらに好ましい。
なお、ラウリン酸、ミリスチン酸は、それぞれ、成分(A)、成分(B)の(b1)及び(b2)中に含まれる。
【0026】
工程(3)で混練後、通常の機械練製法により、機械練石鹸を製造することができる。
例えば、混練後、混練物をプロッダー(押出機)で棒状に押出した後、1個の大きさに切断し、型打ちすることにより、石鹸を得ることができる。
【0027】
石鹸の硬度は、製造成形時に、金型に石鹸の破片などが残らず、外観を損なうことなく製造できる点から、46以上が好ましく、47以上がより好ましく、49以上がよりさらに好ましい。なお、硬度の測定は、石鹸製造時の型打ち前の棒状石鹸押出装置の出口にある、円錐部分のヒーター温度を43℃に設定して石鹸を押出し、ゴム・プラスチック硬度計(GS−701N TYPE C、テクロック社製)で行う。
【実施例】
【0028】
実施例1〜4、比較例1〜4
表3に示す組成の機械練石鹸を製造し、10℃及び40℃での泡立ち、10℃での手洗い感触(ざらつきのなさ)、安定性(白色度の低下、表面の結晶の析出)、石鹸硬度並びに膨潤率を評価した。結果を表3に併せて示す。
【0029】
(製造方法)
パーム核油及びパーム油を加水分解して、表1に示す脂肪酸組成のパーム核脂肪酸(PK)とパーム油脂肪酸(PO)を得た。パーム核脂肪酸(PK)、パーム油脂肪酸(PO)に塩を加え、水酸化ナトリウム水溶液で中和して、乾燥させた後、押出成形機により直径1cmの棒状に押し出し、さらにペレタイザー(切断機)を用いて、長さ2cm以下のペレット状に切断した、表2に示す組成の組成物(B1)及び(B2)を得た。
次に、25℃の組成物(B1)又は(B2)に、45℃で加熱溶融させた脂肪酸(比較例1では、粉末のままのラウリン酸、比較例3は未添加)を添加した後、香料及びその他の成分を加え(酸化チタンはポリエチレングリコールに分散させた状態で添加した)、ニーダー(ブレードはゼット(Z)型、佐竹社製)で10分間混合し、全成分を均一に混合した。なお、成分(A)及び(B)の混合時温度は、25〜45℃であった。また、得られた実施例1〜4の混合物においては、成分(B)に成分(A)が被覆されていた。
この混合物を、3段ロールミル(日本加工機社製)でロール間隔を0.2mmに設定して混練した。
得られた混練物を、棒状石鹸押出装置(真空2段プロッダー、日本加工機社製)で円柱状の棒状に押出を行った。その際、石鹸押出装置の出口にある、円錐部分のヒーター温度は43℃に設定した。その後型打ちすることにより、石鹸を得た。
【0030】
(評価方法)
(1)40℃での泡立ち:
40℃の水道水でナイロンタオルを濡らした後、石鹸1gをナイロンタオルにこすり付け、10秒間よくタオルを揉みこんで泡立てた。なお、ナイロンタオルに含まれる水の量は、70gとなるようにした。その後、泡のみを集め、メスシリンダーで泡量(mL)を測定した。測定値は、3回の平均値とした。
【0031】
(2)10℃での泡立ち:
水道水に氷を加えて10℃の水を調製し、その水に石鹸を30秒間漬け置きすることで、石鹸の温度を10℃に調整した。その後、石鹸を10℃の水から取出し、両手に石鹸をはさんで10回こすり泡立てを行った。その後、泡を手で集めて泡量(mL)を測定した。測定値は、3回の平均値とした。
【0032】
(3)10℃での手洗い感触(ざらつきのなさ):
水道水に氷を加えて10℃の水を調製し、その水に石鹸を30秒間漬け置きすることで、石鹸の温度を10℃に調整した。その後、石鹸を10℃の水から取出し、両手に石鹸をはさんで10回こすり、手に感じる石鹸表面のざらつきを、以下の基準で評価した。なお、評価は3人で行い、その合計点で示した。
4:ざらつきを全く感じない。
3:ざらつきをほとんど感じない。
2:ざらつきを感じる。
1:ざらつきを明らかに感じる。
【0033】
(4)安定性(白色度の低下):
製造直後の石鹸の色(L,a,b)を色差計(CR−200、ミノルタ社製)で測定した。その石鹸を50℃の恒温に入れ、30日間保存した後、同様に色(L,a,b)を測定した。直後の色と50℃保存品の色の色差(ΔE)を計算することにより、白色度の低下を評価した。
なお、色差(ΔE)は以下の式から計算し、色差(ΔE)が小さいほど、白色度の低下が小さいことを示す。
(白色度の低下、色差(ΔE)の計算)
・製造直後の石鹸のLab:L
0、a
0、b
0
・50℃、30日間保存後の石鹸のLab:L
1、a
1、b
1
・白色度の低下である色差(ΔE)を次の式から計算する。
ΔE={(L
1−L
0)
2+(a
1−a
0)
2+(b
1−b
0)
2}
1/2
【0034】
(5)安定性(表面の結晶の析出):
得られた石鹸を50℃の恒温槽で30日間保存した後、各石鹸の表面状態を、目視により観察し、以下の基準で評価した。なお、評価は3人で行い、その合計点で示した。
4:結晶の析出が全く見られない。
3:結晶の析出がほとんど見られない。
2:結晶の析出がわずかに見られる。
1:結晶の析出が明らかに見られる。
【0035】
(6)石鹸硬度:
型打ち前の棒状石鹸押出装置の出口にある、円錐部分のヒーター温度を43℃に設定して石鹸を押出し、ゴム・プラスチック硬度計(GS−701N TYPE C、テクロック社製)で石鹸硬度を測定した。なお、硬度は数値が高い方が製造時の成型性に優れることを示す。
【0036】
(7)膨潤率:
得られた石鹸を1cm×1cm×5cmの角型に切断し、重量測定後、25℃の水道水中に4時間浸漬を行った。浸漬後、再び重量を測定し、下式に従って膨潤率(%)を求めた。なお、膨潤率が低いほど、水で濡らした後の石鹸の形状が変化しにくいこと示す。
膨潤率(%)=(浸漬後の重量(g)/浸漬前の重量(g))×100
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】