【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載年月日 平成26年10月28日 掲載アドレス http://www.nozawa−kobe.co.jp/ http://www.nozawa−kobe.co.jp/news/news_sk_2014.html http://www.nozawa−kobe.co.jp/news/pdf/release141028.pdf 会見年月日 平成26年10月28日 会見場所 神戸経済記者クラブ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
押出成形セメント板は軽量かつ高い強度を有していることから、建物の外壁材として広く用いられている。押出成形セメント板を用いる外壁構造では、一般に建物の躯体に下地材となるアングルを固定し、押出成形セメント板の背面に留め付けられたZクリップ等を当該アングルに係止させるようにして、押出成形セメント板を取り付けている。
【0003】
建物が建てられる地域によっては建物の外壁が強い風雨に曝され、また建物の高層部では外壁が受ける外的環境は低層部よりも過酷となる。特に建物の最上部に設けられる屋上目隠し壁は開放型の外壁となるため、この外壁に対する風圧は大きく、しかも当該外壁は負圧だけでなく内側からの風圧にも耐える必要がある。
【0004】
押出成形セメント板の施工可能部位及び寸法は、押出成形セメント板の強度、押出成形セメント板の剛性、及び押出成形セメント板の取付耐力の3つの要素で決定される。風圧が大きくかかる屋上目隠し壁に押出成形セメント板を用いる場合、この3つの要素のうち主に取付耐力の強さを基準に使用できるか否かが決められる。従って、このような場面においては押出成形セメント板の取付耐力の一層の向上が望まれている。
【0005】
特許文献1には、押出成形セメント板の取付耐力を向上させる構造として、押出成形セメント板の断面形状を背面へ向かうに従って接近する一対の傾斜面を有するものとし、取付ボルトが螺合する受け金物を、両傾斜面と当接する形状とした取付構造が記載されている。この構造では、特殊な断面形状の中空部を有する押出成形セメント板を用いることで、受け金物から力をうける押出成形セメント板のせん断面積を増加させ、取付耐力を向上させている。
【0006】
特許文献2では、矩形状の受け金物の短辺部に沿って嵩上げ部材を設け、この嵩上げ部材を介して受け金物を押出成形セメント板に留めている。この構造では、中空部の表面の僅かな凹凸を跨ぐように受け金物を留めることで、この凹凸に起因する取付耐力の低下を防いでいる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的な受け金物は平板状となっており、力が加わった際に押出成形セメント板のボルト穴の近傍に強い力が作用する。そのため、ボルト穴を起点とする損傷を生じさせないように構造設計を行う必要がある。また、取付ボルトを通すための穴開け後の切削片が、受け金物と押出成形セメント板との間に残存すると、力が均等にかからなくなるおそれがある。このことは受け金物を留めている部位の耐力の低下に繋がり、穴開け加工時には注意を要する。
【0009】
特許文献1及び特許文献2に記載された構造では、これらの問題は解決していると考えられる。しかし特許文献1の構造では、特殊な断面形状の中空部を有する押出成形セメント板を製作しなければならずコストアップとなる。この構造では、肉厚部が形成されることにもなり、押出成形セメント板の重量が増大し、運搬性や施工性の低下に繋がることが懸念される。押出成形セメント板のボルト穴の位置がずれた場合には、受け金物が中空部の傾斜面に当接し難くなることから、所望の留付強度が得られなくなる可能性があるため、ボルト穴の加工に手間を要するといった欠点もある。
【0010】
特許文献2の構造では、嵩上げ部材の存在により取付耐力の低下を防いでいるものの、押出成形セメント板への負圧に対する高い取付耐力を、長期間に渡って維持するのは困難である。そのため、負圧への高い取付耐力が長期間に渡って要求される屋上目隠し壁への使用を制限されてしまうといった問題がある。
【0011】
そこで本発明は従来技術の問題点に鑑み、コストアップを招かず、かつ運搬性、施工性及び加工性を低下させずに、押出成形セメント板の取付耐力を向上させることができる押出成形セメント板の取付構造、縦張り取付構造及び横張り取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の押出成形セメント板の取付構造は、断面矩形状に形成された複数の中空部が一方向に並設された押出成形セメント板を、下地材を介して建物の躯体に取り付ける押出成形セメント板の取付構造において、前記下地材に留め付けられるクリップと、このクリップを貫通すると共に前記押出成形セメント板の背面側から前記何れかの中空部に貫通する取付ボルトと、当該中空部内に設けられて前記取付ボルトと螺合し前記押出成形セメント板の背面側基材を内側から挟持する挟持部材とを備えた押出成形セメント板の取付構造であって、前記挟持部材は、前記取付ボルトと螺合する螺合部を有すると共に前記背面側基材から離間している離間部と、この離間部における前記中空部の両側の隔壁側に
存在し当該両隔壁の近傍で前記背面側基材に当接する当接部とからな
り、前記挟持部材は長短辺を有する平面視矩形状に形成されて、前記当接部が当該挟持部材の長辺部として構成され、かつ前記両隔壁に沿って存在し、前記離間部は、前記螺合部が存在する内側部分と、当該螺合部近傍の屈曲箇所を介し短手方向両側の外側部分を有しており、前記内側部分が前記背面側基材と平行に平面状に形成され、前記外側部分が当該屈曲箇所から前記当接部に向けて傾斜状に形成され、前記当接部が、前記挟持部材の両角の外縁部分で構成されて前記背面側基材に対して線状に接触していることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の押出成形セメント板の取付構造を用いれば、断面矩形状の中空部を有する一般的な押出成形セメント板を使用できるためコストアップとならない。本発明の取付構造では、押出成形セメント板に肉厚部が形成されることがなく、押出成形セメント板の重量が増大せず、運搬性や施工性の低下を招かない。挟持部材は、取付ボルトと螺合する螺合部を有すると共に背面側基材から離間している離間部と、中空部の両隔壁の近傍で背面側基材に当接する当接部とからなるので、押出成形セメント板のボルト穴の高い位置決め精度が要求されず、ボルト穴の加工に手間がかからない。挟持部材は中空部の両隔壁の近傍で背面側基材に当接する当接部を有しているため、負圧等がかかった時に挟持部材で背面側基材を押圧するのは、中空部の両隔壁の近傍となる。そのため、高い取付耐力を得ることができる。
【0014】
前記挟持部材は長短辺を有する平面視矩形状に形成されて前記当接部が当該挟持部材の長辺部として構成されており、当該当接部が前記両隔壁に沿って存在してい
る。このような挟持部材を用いることで、コストが抑えられ、それと共に取付耐力を効果的に向上させることができる。
【0015】
本発明の押出成形セメント板の取付構造は、押出成形セメント板を鉛直方向である縦方向に並べた縦張り取付構造、及び押出成形セメント板を水平方向である横方向に並べた横張り取付構造に適用することができる。
【0016】
本発明の縦張り取付構造は、押出成形セメント板の中空部を鉛直方向に延在させた縦張り取付構造において、上側躯体に連結された第1下地材を介して前記押出成形セメント板の上側を固定する上側構造と、下側躯体に連結された第2下地材を介して前記押出成形セメント板の下側を固定する下側構造と、前記上側躯体と前記下側躯体とを連結して当該両躯体間のたわみを抑制するたわみ抑制補助部材と、前記押出成形セメント板の上側及び下側を、それぞれ前記第1及び第2下地材に固定する押出成形セメント板の取付構造とを備え、当該押出成形セメント板の取付構造が、上記本発明の押出成形セメント板の取付構造であることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の縦張り取付構造とすれば、断面矩形状の中空部を有する一般的な押出成形セメント板に使用できるためコストアップとはならない。本発明の縦張り取付構造では、押出成形セメント板に肉厚部が形成されることがなく、押出成形セメント板の重量が増大せず、運搬性や施工性の低下を招かない。挟持部材は、取付ボルトとの螺合部を有すると共に背面側基材から離間している離間部と、中空部の両隔壁の近傍で背面側基材に当接する当接部とからなるので、押出成形セメント板のボルト穴に高い位置決め精度が要求されず、ボルト穴の加工に手間がかからない。挟持部材は中空部の両隔壁の近傍で背面側基材に当接する当接部を有しており、負圧等がかかった時に挟持部材で背面側基材を押圧するのは、中空部の両隔壁の近傍となる。そのため、高い取付耐力が必要な部位への縦張りでの施工が可能となる。
【0018】
本発明の横張り取付構造は、押出成形セメント板の中空部を水平方向に延在させた横張り取付構造において、躯体に連結された下地材に前記押出成形セメント板を固定する押出成形セメント板の取付構造を備え、当該押出成形セメント板の取付構造が、上記本発明の押出成形セメント板の取付構造であることを特徴とするものである。
【0019】
本発明の横張り取付構造とすれば、断面矩形状に形成された中空部を有する一般的な押出成形セメント板に使用できるためコストアップとはならない。本発明の横張り取付構造では、押出成形セメント板に肉厚部が形成されることがなく、押出成形セメント板の重量が増大せず、運搬性や施工性の低下を招かない。挟持部材は、取付ボルトとの螺合部を有すると共に背面側基材から離間している離間部と、中空部の両隔壁の近傍で背面側基材に当接する当接部とからなるので、押出成形セメント板のボルト穴に高い位置決め精度が要求されず、ボルト穴の加工に手間がかからない。挟持部材は中空部の両隔壁の近傍で背面側基材に当接する当接部を有しており、負圧等がかかった時に挟持部材で背面側基材を押圧するのは、中空部の両隔壁の近傍となる。そのため、高い取付耐力が必要な部位への横張りでの施工が可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、特殊な押出成形セメント板を用いる必要がなく、押出成形セメント板の重量が増大せず、かつボルト穴の加工に手間がかからないため、コストアップを招かず、運搬性、施工性及び加工性を低下させない。それと共に、挟持部材で背面側基材を押圧するのは、中空部の両隔壁の近傍となるため、取付耐力を格段に向上させることができ、屋上目隠し壁等の過酷な使用環境で長期間に渡って使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る押出成形セメント板の取付構造1を示す断面図である。この押出成形セメント板の取付構造1に使用される押出成形セメント板2は、水、セメント、骨材、繊維等を混練した混合物を押出成形機で押し出し、所定寸法に切断して製作されたものである。押出成形セメント板2には、断面矩形状に形成された複数の中空部3が押出方向である長手方向に互いに平行して構成されている。これら複数の中空部3が構成されていることで、押出成形セメント板2の表面側基材2aと背面側基材2bを繋ぐ複数の隔壁4が形成されている。
【0023】
押出成形セメント板の取付構造1は、押出成形セメント板2を下地材5で介して建物の躯体に取り付ける構造である。この押出成形セメント板の取付構造1は、下地材5に留め付けるクリップ6と、このクリップ6を貫通し押出成形セメント板2の背面側からスプリングワッシャ15及びワッシャ16を組み付けた状態で何れかの中空部3に貫通する取付ボルト7と、当該中空部3内に設けられて取付ボルト7と螺合する挟持部材8とで主に構成されている。
【0024】
例えば次のようにして押出成形セメント板2が取り付けられる。押出成形セメント板2の所定箇所の中空部3内に挟持部材8をそれぞれ配置し、クリップ6及び背面側基材2bに取付ボルト7を貫通させ、取付ボルト7と挟持部材8とで背面側基材2bを挟持すると同時にクリップ6を仮固定する。躯体側に固定された下地材5に仮固定したクリップ6を係止して取付ボルト7を締め付け、押出成形セメント板2の背面側基材2bをパッキン等と共に挟持することで、下地材5に押出成形セメント板2を取り付ける。
【0025】
図2は本発明の押出成形セメント板の取付構造1に使用する挟持部材8を3方向から見た図であり、
図3は中空部3内に設けられた挟持部材8の斜視図である。本実施形態の挟持部材8は、平面視矩形状の所要厚みを有する金属板をプレス加工で断面略くの字状に屈曲させて形成したものである。
【0026】
挟持部材8は、取付ボルト7と螺合する螺合部9を有すると共に背面側基材2bから離間している離間部12と、この離間部12における中空部3の両側の隔壁4側に延設されて当該両隔壁4、4の近傍で背面側基材2bに内側から当接する当接部13とからなる。本実施形態では、螺合部9としてのねじ穴が形成された内側部分10の短手方向両側に、屈曲箇所を介して外側部分11が構成されている。挟持部材8の各部位の寸法は押出成形セメント板2の仕様に適合するものであればよい。
【0027】
背面側基材2bから離間している離間部12は、内側部分10と両外側部分11の一部とで構成されている。背面側基材2bに当接する当接部13は、離間部12の短手方向両側に存在しており、挟持部材8の長手方向に沿った外縁となる両外縁部分11g、11gで構成されている。従って当接部13は、挟持部材8の長辺部として構成されて、押出成形セメント板2の両隔壁4、4に沿って存在している。挟持部材8には離間部12が存在していることから、
図1のように挟持部材8と背面側基材2bとの間に空洞部14が形成され、挟持部材8が背面側基材2bと当接する箇所は、当接部13のみとなっている。
【0028】
挟持部材8の当接部13を中空部3の両隔壁4、4の近傍に存在させていることが重要である。押出成形セメント板2に負圧がかかり、取付ボルト7の引き抜き方向に力が生じた時に挟持部材8で背面側基材2bを押圧するのは、両隔壁4、4の近傍となる。当接部13を両隔壁4、4の近傍に存在させることで、押出成形セメント板2が挟持部材8から受ける力のうち、背面側基材2bのボルト穴29に近い部分にかかる力を極力抑える。それと共に当該受ける力を可及的に各隔壁4側へ逃がすことで、当該各隔壁4にかかる力を大きくする。ここでいう各隔壁4側とは、背面側基材2bの当接部分30等の各隔壁4に近い部分及び各隔壁4のことをいう。
【0029】
各隔壁4は、挟持部材8から受ける力と略同方向(背面側基材2bの厚み方向)に大きい幅寸法を有しており、当該受ける力に対して高い耐力を有している。従って各隔壁4側に力を逃がすことによって、押出成形セメント板2のクラック等を長期間に渡って防止できる。これにより、押出成形セメント板2の取付耐力を格段に向上させることができる。
【0030】
当接部13と各隔壁4との距離t1は中空部近い程よいが、当接部13を各隔壁4のぎりぎり近くにするために挟持部材8を大きく形成すると、挟持部材8を中空部3内に配置する際の作業性を低下させるおそれがある。そのため挟持部材8は、これらの点を考慮した寸法にすることが好ましい。
【0031】
当接部13と各隔壁4との距離t1は、中空部3の巾Wに対して1/10〜1/4が好ましく、より好ましくは中空部3の巾Wに対して1/8〜1/5である。当接部13と各隔壁4との距離t1が中空部3の巾Wに対して1/4より大きくなり、当接部13が各隔壁4から遠くなれば、背面側基材2bのボルト穴29に近い部分にかかる力が大きくなり、押出成形セメント板2の高い取付耐力を得ることができない。
【0032】
各隔壁4に沿う当接部13の長さn1は、背面側基材2bや各隔壁4の寸法等にもよるが50mm〜80mmが好ましく、より好ましくは60mm〜70mmである。当接部13の長さn1が50mmよりも小さければ、背面側基材2bの当接箇所に力が集中してしまい高い取付耐力を得ることができない。当接部13が各隔壁4に沿って長い程、当該各隔壁4側へ逃される力が大きくなり、より高い取付耐力を得ることができる。その反面、当接部13を長くとるために挟持部材8を大きくし過ぎると、挟持部材8の重量が増加して搬送性等が低下するため、この点を考慮して挟持部材8の寸法等を決定する。
【0033】
背面側基材2bと離間部12の間には空洞部14が形成されていればよいが、背面側基材2bと離間部12との間隔t2が狭すぎれば、挟持部材8の撓みでこれらが互いに接触するおそれがある。そのため、背面側基材2bと離間部12との間隔t2は2mm〜8mm程度空いていることが好ましい。
【0034】
押出成形セメント板2の各隔壁4が表面側基材2aと背面側基材2b間で直線状となっていることで、当該各隔壁4側に大きい力を逃がすことができるため、中空部3は断面矩形状であることが必須である。中空部が断面異形状となっていれば、背面側基材2bの当接箇所と遠くなる隔壁部分が存在することになり、背面側基材2bへかかる力を抑え難くなる。
【0035】
押出成形セメント板2の背面側基材2bの厚みn2は、押出成形セメント板の総厚によっても異なるが、例えば総厚50mm〜100mmの押出成形セメント板の場合、12mm〜18mmが好ましく、より好ましくは14mm〜16mmである。各隔壁4の厚みn3は中空部3の巾Wに対して1/7〜1/3が好ましく、より好ましくは1/5〜1/3である。当接部13と各隔壁4との距離t1、当接部13の長さn1、背面側基材2bの厚みn2、各隔壁4の厚みn3の関係は、(n2+n3)/2≧t1かつn2×4≦n1の関係式を満たすことが好ましい。押出成形セメント板の取付構造1を適用可能な押出成形セメント板2の種類及び寸法は限定されないが、上記各寸法で構成された押出成形セメント板2であれば、より効果的に取付耐力を向上させることができる。
【0036】
実施例及び比較例として、挟持部材に矩形状のプレート材である通常の角ナットを使用した場合と、本実施形態の挟持部材8を使用した場合の引抜試験による破壊荷重を測定した。その結果、通常の角ナットでは平均値が4.53Nであり、本実施形態の挟持部材8では平均値が6.31Nであった。本実施形態の挟持部材8を使用した場合、通常の角ナットに比べて1.39倍の破壊荷重を得ることができた。尚、実施例に用いた押出成形セメント板の総厚は60mm、n2は14mm、中空部の巾は56mm、n3は14mmである。実施例として用いた本実施形態の挟持部材8は、厚さ6mm、巾40mm、長さ60mm、t1の距離9mm、t2の距離3mm、比較例とした通常の角ナットは、厚さ6mm、巾30mm、長さ60mmとなるものを用いた。
【0037】
図4(a)〜(c)に挟持部材の変形例を示す。
図4(a)及び(b)はそれぞれ挟持部材の異なる変形例を示す中空部内正面図であり、(c)は挟持部材の他の変形例を示す中空部内平面図である。
図4(a)に示す挟持部材20は離間部となる基板21と、この基板21の両側に固定された当接部となる薄板部材22とで構成されており、各隔壁4に沿って長い平面視矩形状に形成されている。
図4(b)に示す挟持部材23は、
図1の実施形態と同様にプレス加工で形成されたものであり、離間部となる本体部24と、この本体部24の両側の当接脚部25とで構成されており、背面側基材2bへの当接面積をより大きく確保できる。
【0038】
背面側基材2bへの当接面積をさらに大きくした挟持部材が、
図4(c)に示す変形例である。この挟持部材26は、離間部となる基板27とこの基板27の両側に固定された当接部となる薄長板部材28とで構成されており、両薄長板部材28、28は、基板27の長さを超えて各隔壁4に沿って長く形成されている。当接面積をより大きくした挟持部材26を用いることで、取付耐力をさらに高めることができる。挟持部材は平面視矩形状に限らず、矩形以外の平面視多角形状、平面視一部円弧状等、他の形状に形成されていてもよい。
【0039】
押出成形セメント板の取付構造1を縦張り取付構造に適用した例を次に説明する。
図5は押出成形セメント板の取付構造1を用いた本発明の縦張り取付構造の第1実施形態を示す縦断面図である。以下の説明において押出成形セメント板の取付構造1で説明した部材と共通する部材には同符号を付して説明する。
図6は
図5の縦張り取付構造35の上側を押出成形セメント板2の背面側から見た図である。
図7は
図5のA−A線断面図である。
【0040】
縦張り取付構造35は、中空部3を上下方向である鉛直方向に延在させた押出成形セメント板2の取付構造であり、本実施形態では上側躯体36に連結された第1下地材37を介して押出成形セメント板2の上側2Uを取り付ける上側構造38と、下側躯体39に連結された第2下地材40を介して押出成形セメント板2の下側2Sを取り付ける下側構造41と、上側躯体36と下側躯体39とを連結して当該両躯体36、39間のたわみを抑制するたわみ抑制補助部材42と、押出成形セメント板2の上側2U及び下側2Sを、それぞれ第1及び第2下地材37、40に固定する押出成形セメント板の取付構造1とを備えている。
【0041】
本実施形態で使用されるクリップ6は
図1の例で示したものと同様のクリップで、2つの取付ボルト7を使用するタイプである。
図6に示すようにクリップ6は基部31とこの基部31から延設された係止部32とで構成されている。基部31には、一方の取付ボルト7を通すための切込部17が形成され、係止部32の片側には、他部材との干渉を防止する傾斜部18が形成されている。このクリップ6では、取り付けの際、他方の取付ボルト7を中心として当該クリップ6を回動させて、切込部17を他方の取付ボルト7に引っ掛け、両取付ボルト7、7を締め込んで留め付けを行う。クリップ6の形状は限定されず、W型Zクリップ、1つの取付ボルトが使用されるZクリップ等も勿論使用することができる。
【0042】
図5は上側構造38としての最上部と下側構造41としての中間部を示しており、最上部の構造では上側躯体となるH型鋼材36の下側のフランジ36sにL型アングル43が固定されており、このL型アングル43に水平方向に長く延びる第1下地材37が固定されている。この第1下地材37に、押出成形セメント板2に留め付けられた複数のクリップ6が係合すると共に、取付ボルト7が締め付けられて、押出成形セメント板2の上側2Uが第1下地材37に固定されている。最上部のこの構造において、上述の押出成形セメント板の取付構造1によって押出成形セメント板2が上側躯体である上側のH型鋼材36に取り付けられている。
【0043】
中間部の構造では、下側躯体となるH型鋼材39の上側のフランジ39uにL型アングル44が固定されており、このL型アングル44に上下方向に長い支持アングル45が固定されている。この支持アングル45に、水平方向に長く延ばされた第2下地材としての受けアングル40が固定されている。この受けアングル40に、押出成形セメント板2の下部が支持されている。受けアングル40と押出成形セメント板2の背面側基材2bとの間にパッキング19が設けられている。第2下地材である受けアングル40に、押出成形セメント板2に留め付けられた複数のクリップ6が係合すると共に、取付ボルト7が締め付けられて、押出成形セメント板2の下側2Sが第2下地材である受けアングル40に固定されている。中間部のこの構造において、上述の押出成形セメント板の取付構造1によって押出成形セメント板2が下側躯体である下側のH型鋼材39に取り付けられている。
【0044】
上側躯体であるH型鋼材36の下側のフランジ36sと、下側躯体となるH型鋼材39の上側のフランジ39uとを渡るように、これらを連結するたわみ抑制補助部材42が固定されている。これにより、第1下地材37及び第2下地材40のたわみ量を減少させ、両下地材37、40のたわみや捻れに起因するクリップ6の留め付けの破損を有効に防止することができる。
【0045】
図8は本発明の縦張り取付構造の第2実施形態を示す縦断面図であり、
図9は
図8の縦張り取付構造50の下側を押出成形セメント板2の背面側から見た図である。
図8は上側構造51としての中間部と下側構造52としての最下部を示しており、中間部の構造では上側躯体となるH型鋼材39の下側のフランジ39sにL型アングル54が固定されており、このL型アングル54に水平方向に長く延びる第1下地材55が固定されている。この第1下地材55に押出成形セメント板2に留め付けられた複数のクリップ6が係合すると共に、取付ボルト7が締め付けられて、押出成形セメント板2の上側2Uが第1下地材55に固定されている。中間部のこの構造において、上述の押出成形セメント板の取付構造1によって押出成形セメント板2が上側躯体である上側のH型鋼材39に取り付けられている。
【0046】
最下部の構造では、下側躯体となるH型鋼材56の上下側のフランジ56u、sのそれぞれにL型アングル57、57が固定されており、これらのL型アングル57、57に上下方向に長い支持アングル58が固定されている。この支持アングル58に、水平方向に長く延ばされた第2下地材としての受けアングル59が固定されている。この受けアングル59に押出成形セメント板2の下部が支持されている。受けアングル59と押出成形セメント板2の背面側基材2bとの間にパッキング19が設けられている。第2下地材である受けアングル59に、押出成形セメント板2に留め付けられた複数のクリップ6が係合すると共に、取付ボルト7が締め付けられて、押出成形セメント板2の下側2Sが第2下地材である受けアングル59に固定されている。最下部のこの構造において、上述の押出成形セメント板の取付構造1によって押出成形セメント板2が下側躯体である下側のH型鋼材56に取り付けられている。
【0047】
上側躯体であるH型鋼材39の下側のフランジ39sと、下側躯体となるH型鋼材56の上側のフランジ56uとを渡るように、これらを連結するたわみ抑制補助部材60が固定されている。これにより、第1下地材55及び第2下地材59のたわみ量を減少させ、両下地材55、59のたわみや捻れに起因するクリップ6の留め付けの破損を有効に防止することができる。
【0048】
押出成形セメント板の取付構造1を横張り取付構造に適用した例を次に説明する。
図10は本発明の横張り取付構造の第1実施形態を示す縦断面図であり、
図11は
図10のB−B線断面図である。横張り取付構造は、中空部3を左右方向である水平方向に延在させた押出成形セメント板2の取付構造であり、本実施形態では躯体に連結された下地材に押出成形セメント板を固定する構造を備えている。
【0049】
図10及び
図11は建物の最上部の構造を示しており、この横張り取付構造65では躯体となるH型鋼材66にプレート材67が固定されており、上下方向に長く延びる2つの下地材68、68がこのプレート材67を左右から挟み込むように固定されている。これら両下地材68、68と押出成形セメント板2の背面側基材2bとの間にパッキング19が設けられている。横方向に向けられた2枚の押出成形セメント板2、2に留め付けられた複数のクリップ6が、これら下地材68、68に係止されている。それと共に取付ボルト7が締め付けられて、両押出成形セメント板2、2が突き合わされるようにして両下地材68、68に固定されている。最上部のこの構造において、上述の押出成形セメント板の取付構造1によって押出成形セメント板2が躯体であるH型鋼材66に取り付けられている。
【0050】
図12は本発明の横張り取付構造の第2実施形態を示す縦断面図であり、
図13は
図12の横張り取付構造69を押出成形セメント板2の背面側から見た図である。
図12及び
図13は建物の最下部の構造を示しており、躯体となるH型鋼材70にプレート材71が固定されており、上下方向に長く延びる2つの下地材72、72がこのプレート材71を左右から挟み込むように固定されている。横方向に向けられた2枚の押出成形セメント板2、2に留め付けられた複数のクリップ6が、これら下地材72、72に係止されている。それと共に取付ボルト7が締め付けられて、両押出成形セメント板2、2が突き合わされるようにして両下地材72、72に固定されている。両下地材72、72の下端には受けアングル73が固定されており、この受けアングル73に両押出成形セメント板2、2の下部が支持されている。最下部のこの構造において、上述の押出成形セメント板の取付構造1によって押出成形セメント板2が躯体であるH型鋼材70に取り付けられている。
【0051】
上記実施形態の押出成形セメント板の取付構造1を用いれば、挟持部材8が当接部13を有しているため、押出成形セメント板2に負圧や内側からの風圧がかかった時に挟持部材8で背面側基材2bを押圧するのは両隔壁4、4の近傍となる。当接部13を両隔壁4、4の近傍に存在させることで、背面側基材2bのボルト穴29に近い部分にかかる力を極力抑え、挟持部材8から受ける力を可及的に各隔壁4側へ逃がすことがきる。これにより、高い引抜耐力等を得ることができ、取付耐力を格段に向上させることができる。
【0052】
断面矩形状に形成された中空部3を有する一般的な押出成形セメント板2を使用できるため、コストアップとならない。従来技術では、取付耐力を向上させるために押出成形セメント板に厚肉部が構成されることとなっていたが、本実施形態で使用される押出成形セメント板2は一般的なものであるため肉厚部は存在しない。そのため、押出成形セメント板2の重量が増大せず、運搬性や施工性の低下を招かないようにすることができる。
【0053】
挟持部材8は、離間部12と、両隔壁4、4の近傍で背面側基材2bに当接する当接部13とからなり、多少の位置ずれがあっても当該当接部13は背面側基材2bに確実に当接する。そのため、押出成形セメント板2のボルト穴29の位置決めに高い精度が要求されず、ボルト穴29の加工に手間がかからない。
【0054】
背面側基材2bのボルト穴29の加工で切削屑が残存した場合であっても、挟持部材8の離間部12はボルト穴29から離れているため、挟持部材8と背面側基材2bの間に切削屑が挟まれることがない。そのため、残存する切削屑に起因する力の集中を防止することができる。また取付ボルト7を締め付けることで、挟持部材8とクリップ6に挟まれた背面側基材2bに常時発生する力も低減される。
【0055】
このような押出成形セメント板の取付構造1を、縦張り取付構造及び横張り取付構造に用いることで、風圧が大きくかかり高い取付耐力が必要な部位への縦張りでの施工及び横張りでの施工が可能となる。以上説明したとおり、一般的な押出成形セメント板2を使用でき、押出成形セメント板2の重量が増大せず、かつボルト穴29の加工に手間がかからない。そのため、コストアップを招くようなことがなく、運搬性、施工性及び加工性を低下させない。それと共に、挟持部材8から受ける力は両隔壁4、4側へ逃がされるため、取付耐力が向上し、押出成形セメント板2の取り付け信頼性を格段に向上させることができる。これにより、押出成形セメント板2の高い取付耐力を必要とする部位での施工が可能となり、屋上目隠し壁等の過酷な環境において、押出成形セメント板2を長期間に渡って使用することができる。
【0056】
本発明は上記実施形態に限定するものではない。開示した実施形態は、本発明に係る押出成形セメント板の取付構造、縦張り取付構造及び横張り取付構造の例示であり制限的なものではない。本発明の押出成形セメント板の取付構造の適用対象となる縦張り取付構造及び横張り取付構造は限定されない。押出成形セメント板の取付構造に用いるクリップ、取付ボルト、必要に応じて設けられる他の部材は本発明の効果を損なわない限りにおいてどのような形態のものであってもよい。