(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項4記載の交流高圧電動機の絶縁診断方法において、前記基準値は、前記分布の平均値μ、標準偏差σを用いてμ+3σとして算出することを特徴とする交流高圧電動機の絶縁診断方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係る交流高圧電動機の絶縁診断方法は、複数の3kV級交流高圧電動機M
Bに対してそれぞれ、運転電圧の変動に基づいて設定した最大運転電圧を印加する絶縁特性試験T
1、定格電圧を印加する絶縁特性試験T
2、及び絶縁破壊試験を順次行い、絶縁特性試験T
1、T
2でそれぞれ得られた種々の絶縁特性R
1、R
2と絶縁破壊試験で得られた絶縁破壊電圧V
Fの設計絶縁破壊電圧に対する割合(本実施の形態では%表示)を示す絶縁破壊電圧性能P
Fとの関係から、絶縁特性試験T
1で得られる各絶縁特性R
1を変数として絶縁破壊電圧性能(本実施の形態では%表示)を算出する演算式F
1及び絶縁特性試験T
2で得られる各絶縁特性R
2を変数として絶縁破壊電圧性能(本実施の形態では%表示)を算出する演算式F
2をそれぞれ求める工程を有している。
【0013】
更に、交流高圧電動機の絶縁診断方法は、診断対象の3kV級交流高圧電動機M
Cに対して絶縁特性試験T
1、T
2をそれぞれ行って種々の絶縁特性D
1、D
2を測定し、得られた各絶縁特性D
1、D
2と演算式F
1、F
2を用いて絶縁破壊電圧性能C
1、C
2(本実施の形態では%表示)をそれぞれ算出する工程と、絶縁破壊電圧性能C
2の値に応じて、3kV級交流高圧電動機M
Cの絶縁性能に対して絶縁性能良好、絶縁性能要監視、絶縁性能要注意、又は絶縁性能不良の判定を行い、絶縁性能要注意又は絶縁性能不良と判定した際は、絶縁破壊電圧性能P
Fと演算式F
1から算出される絶縁破壊電圧性能のそれぞれの統計量を用いて前記絶縁破壊電圧性能C
1を補正し、得られた補正値を絶縁性能要注意時又は絶縁性能不良時の絶縁破壊電圧性能とする工程とを有している。
【0014】
3kV級交流高圧電動機M
Bに対して絶縁特性試験T
1、絶縁特性試験T
2、及び絶縁破壊試験を順次行う場合、
図1に示すように、3kV級交流高圧電動機M
Bの各相のコイルU、V、Wの端部を連結部10で接続し、連結部10を試験用変圧器11(試験用電圧源の一例)の二次側の対となる端子12、13の一方、例えば端子12と接続する。そして、端子12、13間には高圧リアクトル14が接続され、端子13は絶縁診断装置15を介して接地する。試験用変圧器11の一次側の対となる端子16、17は、200V商用電源(図示せず)に開閉器18を介して接続する誘導電圧調整器19の出力側とそれぞれ接続している。符号20は、試験用変圧器11の一次側の端子16、17間に接続されて試験用変圧器11の一次側に印加される電圧を測定する電圧計である。なお、絶縁診断装置15には、交流試験法により交流高圧電動機の絶縁特性を求める際に従来から使用しているものを使用することができる。
【0015】
ここで、種々の絶縁特性R
1とは、例えば、最大運転電圧印加時の電流増加率(ΔI
1)、最大運転電圧印加時の誘電正接(tanδ
1)と放電が発生しない電圧印加時の誘電正接(tanδ
0)の差(Δtanδ
1)、及び最大運転電圧印加時の最大放電電荷(Q
max1)である。また、種々の絶縁特性R
2とは、例えば、定格電圧印加時の電流増加率(ΔI
2)、定格電圧印加時の誘電正接(tanδ
2)と放電が発生しない電圧印加時の誘電正接(Δtanδ
0)の差(Δtanδ
2)、及び最大運転電圧印加時の最大放電電荷(Q
max2)である。
【0016】
同一規格の3kV級交流高圧電動機であっても、使用環境が異なると絶縁劣化形態(例えば、主たる劣化要因、劣化速度等)が異なる。そこで、複数の3kV級交流高圧電動機M
Bを予め使用環境に応じて、例えば、業種(産業)別に分類する。なお、製鉄業のように一つの業種でも作業内容が広範囲にわたる場合は、例えば、作業別(工程別や工場別)に分類する。次いで、分類した複数の3kV級交流高圧電動機M
B毎に、絶縁特性試験T
1、T
2及び絶縁破壊試験を順次行ってそれぞれ複数の絶縁特性R
1、R
2、及び絶縁破壊電圧V
Fを測定し、得られた複数の絶縁特性R
1、R
2の分布から平均値μ及び標準偏差σをそれぞれ求める。
【0017】
そして、3kV級交流高圧電動機M
Bに対して測定された各絶縁特性R
1と絶縁破壊試験で得られた絶縁破壊電圧性能P
Fとの関係から、絶縁特性試験T
1で得られる複数の絶縁特性R
1を変数として絶縁破壊電圧性能P
Fを算出する演算式F
1を求める場合、絶縁特性試験T
1で得られる絶縁特性R
1の代わりに、絶縁特性試験T
1で得られる絶縁特性R
1を絶縁特性R
1の分布に対してそれぞれ設定した基準値を用いて正規化した正規化値を用いる。同様に、種々の絶縁特性R
2と絶縁破壊試験で得られた絶縁破壊電圧性能P
Fとの関係から、絶縁特性試験T
2で得られる複数の絶縁特性R
2を変数として絶縁破壊電圧性能P
Fを算出する演算式F
2を求める場合、絶縁特性試験T
2で得られる絶縁特性R
2の代わりに、絶縁特性試験T
2で得られる絶縁特性R
2を絶縁特性R
2の分布に対してそれぞれ設定した基準値を用いて正規化した正規化値を用いる。
【0018】
絶縁特性R
1、R
2の正規化値を用いることによって、業種別の3kV級交流高圧電動機M
Bの絶縁特性R
1、R
2を、3kV級交流高圧電動機M
Bという一つの集団(データベース)が有する絶縁特性として扱うことができる。
ここで、基準値として、例えば、分布の平均値μ、標準偏差σを用いてμ+3σとして算出される値を採用する。基準値をμ+3σとすることで、演算式F
1、F
2を用いて絶縁破壊電圧性能を算出する際、過剰に大きな絶縁特性R
1、R
2の絶縁破壊電圧性能に及ぼす影響(例えば、絶縁破壊電圧性能が負の値になる頻度)、及び過剰に小さな絶縁特性R
1、R
2の絶縁破壊電圧性能に及ぼす影響(例えば、絶縁破壊電圧性能が100%を超える頻度)をそれぞれ小さくすることができる。
【0019】
3kV級交流高圧電動機M
Bの試験において、定格電圧(E)を印加する絶縁特性試験T
2では部分放電が発生する電圧条件が成立し、非特許文献2の6kV級交流高圧電動機における6kV級交流高圧電動機の印加電圧3.8kVに近いため、絶縁破壊電圧性能を算出する条件での試験として相応しい印加電圧と考えられる。このため、各絶縁特性R
2と絶縁破壊試験から得られた絶縁破壊電圧性能P
Fとの関係から決定した演算式F
2を用いて算出される絶縁破壊電圧性能は、絶縁破壊試験から得られる絶縁破壊電圧性能P
Fをよく近似する可能性が高いと考えられる。しかし、非特許文献2の演算式は、平均的な劣化サンプルに基づいた演算式であると考えられるため、異常な絶縁劣化を起こした3kV級交流高圧電動機に対しては、演算式F
2から算出した絶縁破壊電圧性能は絶縁破壊電圧性能P
Fからずれることになる。従って、演算式F
2から求めた絶縁破壊電圧性能の分布の平均値は絶縁破壊電圧性能P
Fによく一致するが、ばらつき(例えば、標準偏差)は大きくなるという特徴を有する。
【0020】
一方、3kV級交流高圧電動機の絶縁特性試験T
1において印加する最大運転電圧(例えば、1.25E/3
1/2)は部分放電が比較的安定に発生する最低レベルの電圧であるため、演算式F
1により求められる絶縁特性は、安定した絶縁特性を得ることができるが、定格電圧試験である絶縁特性試験T
2での絶縁特性R
2に比べて全体的に特性値が小さくなる傾向にある。このため、演算式F
1を用いて算出される絶縁破壊電圧性能の分布の平均値は、絶縁破壊試験から得られる絶縁破壊電圧性能P
Fからずれる可能性が高い。しかし、運転電圧領域での絶縁破壊電圧性能を算出することで、運転電圧領域で測定した絶縁特性R
1と絶縁破壊電圧V
Fとの相関が極めて高いことを3kV級交流高圧電動機の絶縁特性試験において発見した。このため、平均的な劣化要因から外れた3kV級交流高圧電動機に対しても絶縁特性R
1と絶縁破壊電圧V
Fの相関は高くなり、演算式F
1を用いて算出される絶縁破壊電圧性能の分布のばらつき(例えば、標準偏差)は小さくなるという特徴を有する。
【0021】
診断対象の3kV級交流高圧電動機M
Cの絶縁破壊電圧性能C
1、C
2を算出する場合、先ず、3kV級交流高圧電動機M
Cに対して絶縁特性試験T
1、T
2をそれぞれ行って種々の絶縁特性D
1、D
2を測定する。そして、診断対象の3kV級交流高圧電動機M
Cと同じ業種に分類された3kV級交流高圧電動機M
Bを用いて得られている種々の絶縁特性R
1の分布に対してそれぞれ設定した基準値を用いて種々の絶縁特性D
1を正規化して正規化値を求め、演算式F
1に代入して絶縁破壊電圧性能C
1を算出する。同様に、種々の絶縁特性R
2の分布に対してそれぞれ設定した基準値を用いて種々の絶縁特性D
2を正規化して正規化値を求め、演算式F
2に代入して絶縁破壊電圧性能C
2を算出する。
【0022】
演算式F
1、F
2の決定に使用した各絶縁特性R
1、R
2は、限られた台数の3kV級交流高圧電動機M
Bに対して得られたものなので、各絶縁特性R
1、R
2は限られた範囲内に存在している。このため、3kV級交流高圧電動機M
Cが3kV級交流高圧電動機M
Bと同一の業種であっても、3kV級交流高圧電動機M
Cに対して測定した各絶縁特性D
1、D
2が、各絶縁特性R
1、R
2の上限値を超えたり、下限値を下回ることがある。そこで、3kV級交流高圧電動機M
C毎に測定された各絶縁特性D
1、D
2の正規化値を用いることにより、過剰に大きな絶縁特性D
1、D
2、過剰に小さな絶縁特性D
1、D
2が得られた場合でも、絶縁破壊電圧性能C
1、C
2に及ぼす影響を小さくすることができる。その結果、3kV級交流高圧電動機M
C毎に算出される絶縁破壊電圧性能C
1、C
2のばらつきを小さくすることができ、算出した絶縁破壊電圧性能C
1、C
2から、3kV級交流高圧電動機M
Cの絶縁破壊電圧性能を、3kV級交流高圧電動機M
Cが属する業種内で正確に評価とすることができる。
【0023】
ここで、演算式F
2を用いて算出される絶縁破壊電圧性能の分布の平均値は、絶縁破壊試験から得られる絶縁破壊電圧性能P
Fに一致するが、演算式F
2を用いて算出される絶縁破壊電圧性能の分布のばらつきは大きくなるという特徴を有する。このため、診断対象の3kV級交流高圧電動機M
Cの絶縁破壊電圧性能C
1、C
2が得られると、先ず、演算式F
2から算出された絶縁破壊電圧性能C
2の値を用いて3kV級交流高圧電動機M
Cの絶縁性能を判定する。
例えば、絶縁破壊電圧性能C
2が予め設定した値K1(但し、K1<100)超の場合は、絶縁性能良好と判定する。絶縁破壊電圧性能C
2が予め設定した値K2(但し、K2<K1)を超えK1以下の場合は、絶縁性能要監視と判定し、判定された3kV級交流高圧電動機M
Cに対しては、所定の期間毎に絶縁特性試験T
1、T
2を実施し、絶縁破壊電圧性能C
1、C
2の変化を監視する。絶縁破壊電圧性能C
2が予め設定した値K3(但し、K3<K2)を超えK2以下の場合は、絶縁性能要注意と判定しコイルの巻替え計画を立案すると共に、絶縁性能要注意と判定された3kV級交流高圧電動機M
Cの正確な絶縁破壊電圧性能を把握する。即ち、絶縁性能要注意と判定された3kV級交流高圧電動機M
Cの絶縁破壊電圧性能C
1を、絶縁破壊電圧性能P
Fと演算式F
1から算出される絶縁破壊電圧性能のそれぞれの統計量を用いて補正して補正値を求め、絶縁性能要注意と判定された絶縁破壊電圧性能C
2を得られた補正値に置換えて絶縁性能要注意時の絶縁破壊電圧性能とする。また、絶縁破壊電圧性能C
2がK3以下の場合は絶縁性能不良と判定し、絶縁性能不良と判定された3kV級交流高圧電動機M
Cの正確な絶縁破壊電圧性能を把握する。即ち、絶縁性能不良と判定された3kV級交流高圧電動機M
Cの絶縁破壊電圧性能C
1を、絶縁破壊電圧性能P
Fと演算式F
1から算出される絶縁破壊電圧性能のそれぞれの統計量を用いて補正して補正値を求め、絶縁性能不良と判定された絶縁破壊電圧性能C
2を得られた補正値に置換えて絶縁性能不良時の絶縁破壊電圧性能とする。補正後も絶縁性能不良となった場合は緊急にコイルの巻替えを計画する
なお、K1、K2、K3は、各絶縁特性R
2と演算式F
2を用いて推定される絶縁破壊電圧性能に基づいて予め設定されたもので、K1、K2、K3の値は、例えば、製造業で使用される3kV級交流高圧電動機の場合、K1=55、K2=35、K3=23.7と設定される。
【0024】
演算式F
1を用いて算出される絶縁破壊電圧性能の分布の平均値は、絶縁破壊試験から得られる絶縁破壊電圧性能P
Fと異なる可能性が高いが、演算式F
1を用いて算出される絶縁破壊電圧性能の分布のバラツキは小さくなるという特徴を有する。そこで、絶縁破壊電圧性能P
Fの平均値P
FA(絶縁破壊電圧性能P
Fの統計量の一例)と、各絶縁特性R
1の補正値を演算式F
1に代入して算出される絶縁破壊電圧性能の平均値C
1A(演算式F
1から算出される絶縁破壊電圧性能の統計量の一例)を用いて、絶縁破壊電圧性能C
1の値に、平均値P
FAから平均値C
1Aを引いて得られる差分C
D(=P
FA−C
1A)を加えるという補正(絶縁破壊電圧性能C
1の補正の一例)を行って、得られた補正値を絶縁性能要注意時又は絶縁性能不良時の絶縁破壊電圧性能とする。従って、絶縁性能要注意と判定された3kV級交流高圧電動機M
Cでは、このときの絶縁破壊電圧性能C
2の代わりに、この3kV級交流高圧電動機M
Cの絶縁破壊電圧性能C
1に差分C
Dを加えて得られる補正値C
1+C
Dを絶縁性能要注意時の絶縁破壊電圧性能とする。同様に、絶縁性能不良と判定された3kV級交流高圧電動機M
Cでは、このときの絶縁破壊電圧性能C
2の代わりに、この3kV級交流高圧電動機M
Cの絶縁破壊電圧性能C
1に差分C
Dを加えて得られる補正値C
1+C
Dを絶縁性能不良時の絶縁破壊電圧性能とする。
【0025】
続いて、本発明の一実施の形態に係る交流高圧電動機の絶縁診断方法の作用について説明する。
例えば、6kV級交流高圧電動機において、6kV級交流高圧電動機の運転電圧の1.25倍に近い4.5kVの電圧を印加する絶縁特性試験で採取した絶縁特性に基づいて推定した絶縁破壊電圧は、絶縁破壊試験で得られた絶縁破壊電圧との相関が高いことが指摘されている。このため、3kV級交流高圧電動機M
Bに対して、4.5kVに近い電圧である定格電圧を印加する絶縁特性試験T
2を行って得られた種々の絶縁特性R
2と絶縁破壊試験で得られた絶縁破壊電圧性能P
Fとの関係から、絶縁特性試験T
2で得られる各絶縁特性R
2を変数として絶縁破壊電圧性能を算出する演算式F
2を求めると、演算式F
2から得られる絶縁破壊電圧性能の分布では、平均値P
FAが絶縁破壊電圧性能P
Fとよく一致している(相関係数の絶対値が0.5〜0.7)。このため、診断対象の3kV級交流高圧電動機M
Cに対して絶縁特性試験T
2を行って種々の絶縁特性D
2を測定し、得られた各絶縁特性D
2と演算式F
2を用いて絶縁破壊電圧性能C
2を算出し、絶縁破壊電圧性能C
2を用いて3kV級交流高圧電動機M
Cの絶縁性能に対して絶縁性能良好、絶縁性能要監視、絶縁性能要注意、又は絶縁性能不良の判定を行う。
【0026】
運転電圧(定格電圧をEとしてE/3
1/2と表される)が変動した場合に基づい設定した最大運転電圧として運転電圧の1.25倍の電圧を印加する絶縁特性試験T
1を行って得られた種々の絶縁特性R
1と絶縁破壊電圧性能P
Fとの関係から、絶縁特性試験T
1で得られる各絶縁特性R
1を変数として絶縁破壊電圧性能を算出する演算式F
1を求めると、演算式F
1から得られる絶縁破壊電圧性能の分布では、平均値は絶縁破壊電圧性能P
Fと大きく異なるが、ばらつきは小さい(例えば、相関係数の絶対値が0.7〜1)。このため、絶縁破壊電圧性能C
1の値から診断対象の3kV級交流高圧電動機M
Cの絶縁性能が、絶縁性能要注意又は絶縁性能不良と判定された場合、絶縁破壊電圧性能P
Fの平均値P
FAと、各絶縁特性R
1の補正値を演算式F
1に代入して算出される絶縁破壊電圧性能の平均値C
1Aを用いて、絶縁破壊電圧性能C
1の値に、平均値P
FAから平均値C
1Aを引いて得られる差分を加えるという補正を行って、得られた補正値を絶縁性能要注意時又は絶縁性能不良時の絶縁破壊電圧性能とすることにより、絶縁性能要注意又は絶縁性能不良と判定された3kV級交流高圧電動機M
Cの絶縁性能を正確に把握することができる。
【0027】
複数の3kV級交流高圧電動機M
Bから絶縁特性試験T
1、T
2で得られる各絶縁特性R
1、R
2を変数として絶縁破壊電圧性能を算出する演算式F
1、F
2を求める場合、3kV級交流高圧電動機M
Bを予め使用環境に応じて、例えば、業種別に分類する。そして、業種別の3kV級交流高圧電動機M
Bに対して得られた各絶縁特性R
1、R
2と絶縁破壊試験で得られた絶縁破壊電圧性能P
Fとの関係から、絶縁特性試験T
1、T
2で得られる各絶縁特性R
1、R
2を変数として絶縁破壊電圧性能を算出する演算式F
1、F
2を求める場合、業種別の3kV級交流高圧電動機M
Bの各絶縁特性R
1、R
2の代わりに、各絶縁特性R
1、R
2の分布に対してそれぞれ設定した基準値、例えば、各分布の平均値μと標準偏差σからμ+3σとして算出される値を用いて正規化した正規化値を用いる。これにより、業種別の3kV級交流高圧電動機M
Bの絶縁特性R
1、R
2を、3kV級交流高圧電動機M
Bという一つの集団が有する絶縁特性として扱うことができる。
【0028】
また、演算式F
1、F
2が決定されて、診断対象の3kV級交流高圧電動機M
Cに対して絶縁特性試験T
1、T
2をそれぞれ行って各絶縁特性D
1、D
2を測定し、得られた各絶縁特性D
1、D
2と演算式F
1、F
2を用いて絶縁破壊電圧性能C
1、C
2を求める場合も、3kV級交流高圧電動機M
Cと同じ業種に分類された3kV級交流高圧電動機M
Bを用いて得られている各絶縁特性R
1の分布に対してそれぞれ設定した基準値を用いて、各絶縁特性D
1、D
2を正規化して正規化値を求め、正規化値を演算式F
1、F
2にそれぞれ代入して絶縁破壊電圧性能C
1、C
2を算出する。これにより、例えば、初めて実施する3kV級交流高圧電動機M
Cに対してもばらつきの少ない絶縁破壊電圧性能C
1、C
2を求めることができると共に、業種内での3kV級交流高圧電動機M
Cの絶縁性能を同一判定基準で行うことができる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
同一業種に分類される10台の3kV級交流高圧電動機に対してそれぞれ絶縁特性試験T
1、T
2、及び絶縁破壊試験を順次行い、各絶縁特性R
1、R
2と絶縁破壊電圧性能Aを求めた。その結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
また、各絶縁特性R
1、R
2の分布を求め、各分布の平均値μ、標準偏差σを用いてμ+3σで算出される値を基準値として、基準値を用いて各絶縁特性R
1、R
2の正規化値を求め、各絶縁特性R
1、R
2の正規化値から絶縁破壊電圧性能Aを算出する演算式F
1、F
2を求めた。そして、各絶縁特性R
2と演算式F
2から絶縁破壊電圧性能Bを、各絶縁特性R
1と演算式F
1から絶縁破壊電圧性能Cをそれぞれ求めた。その結果を表1に示す。
【0032】
絶縁特性R
1、R
2はいずれも、電流増加率ΔI、誘電正接増加率Δtanδ、及び最大放電電荷Q
maxである。演算式F
i(i=1、2)は、電流増加率ΔI、誘電正接増加率Δtanδ、及び最大放電電荷Q
maxを変数として、次式の形式となった。
F
i(%)=100−α1×([ΔI
i]+[Δtanδ
i]−Δ初期値
i)−α2×log([Q
maxi]/Q
max初期値
i)
ここで、[ ]は正規化値を示す。また、α1、α2、Δ初期値
i(=ΔI
i+Δtanδ
i)、Q
max初期値
iは、それぞれ演算式F
1、F
2を決定する過程で決まる数値係数である。
なお、α1は33、α2は67、Δ初期値
1及びΔ初期値
2は0.8、Q
max初期値
1及びQ
max初期値
2は1000となった。
【0033】
絶縁破壊電圧性能Aに対する絶縁破壊電圧性能Bの偏差A−Bをそれぞれ求め、偏差A−Bの平均値及び標準偏差と、絶縁破壊電圧性能Aと絶縁破壊電圧性能Bとの相関係数をそれぞれ求めると、平均値は−2、標準偏差は7.49、相関係数は0.52であった。従って、演算式F
2から得られる絶縁破壊電圧性能Bの分布は、平均値が絶縁破壊電圧性能Aの平均値とよく一致し、相関係数は0.52を示し絶縁破壊電圧性能Aと絶縁破壊電圧性能Bとはかなり高い相関があることが解る。また、絶縁破壊電圧性能Aに対する絶縁破壊電圧性能Cの偏差A−Cをそれぞれ求め、偏差A−Cの平均値及び標準偏差と、絶縁破壊電圧性能Aと絶縁破壊電圧性能Cとの相関係数をそれぞれ求めると、平均値は−30、標準偏差は5.57、相関係数は0.71であった。従って、演算式F
1から得られる絶縁破壊電圧性能Cの分布は、平均値は絶縁破壊電圧性能Aの平均値と大きくずれることになるが、相関係数は0.71を示し絶縁破壊電圧性能Aと絶縁破壊電圧性能Cとは高い相関があることが解る。
図2に、3kV級交流高圧電動機毎の絶縁破壊電圧性能A、B、Cを示す。
図2からも、3kV級交流高圧電動機間において、絶縁破壊電圧性能Aの変化挙動と絶縁破壊電圧性能Bの変化挙動はよく一致していることが解る。
【0034】
(実施例2)
実施例1に使用した3kV級交流高圧電動機と同一業種に分類される3kV級交流高圧電動機(320kW)に対して絶縁診断を8回実施し、絶縁特性試験T
1から得られる各絶縁特性R
1を実施例1で求めた演算式F
1に代入して絶縁破壊電圧性能Gを、絶縁特性試験T
2から得られる各絶縁特性R
2を実施例1で求めた演算式F
2に代入して絶縁破壊電圧性能Hをそれぞれ算出した。その結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2に示すように、絶縁特性試験T
2で測定した各絶縁特性R
2と演算式F
2を用いて求めた絶縁破壊電圧性能Hは、平均的な劣化要因から外れた3kV級交流高圧電動機に対して絶縁破壊電圧性能が絶縁破壊電圧性能P
Fからずれることになるため、絶縁破壊電圧性能Hが負に評価される場合が存在し、精度が大きく低下していることが解る。そこで、絶縁特性試験T
1で測定した各絶縁特性R
1と演算式F
1を用いて求めた絶縁破壊電圧性能Gに対して、実施例1における絶縁破壊電圧性能Aの平均値Aaと、各絶縁特性R
1の補正値を演算式F
1に代入して算出される絶縁破壊電圧性能Cの平均値Caを用いて、絶縁破壊電圧性能Gの値に、平均値Aaから平均値Caを引いて得られる差分を加えるという補正を行った。補正値を表2に示す。補正値は正の値を示し、絶縁性能が安定して評価されることを示している。
【0037】
(実施例3)
実施例1に使用した3kV級交流高圧電動機と同一業種に分類される3台の3kV級交流高圧電動機に対してそれぞれ絶縁特性試験T
2を行い各絶縁特性R
2を求めた。そして、実施例1の絶縁特性試験T
2で測定した各絶縁特性R
2と絶縁破壊試験から得られた絶縁破壊電圧性能Aを用いて、各絶縁特性R
2を変数として絶縁破壊電圧性能Aを求める演算式を求め、得られた演算式と各絶縁特性R
2を用いて絶縁破壊電圧性能Xを算出した。また、実施例1で求めた演算式F
2と各絶縁特性R
2を用いて絶縁破壊電圧性能Yを算出した。その結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
表3に示すように、3台の3kV級交流高圧電動機の各絶縁特性D
2を変数として絶縁破壊電圧性能Aを求める演算式から算出した絶縁破壊電圧性能Xは、正規化補正を行わない場合は評価結果に大きな差(24.1%〜80.0%と55.9%の差)が存在するが、演算式F
2を用いて評価される絶縁破壊電圧性能Y、即ち、3kV級交流高圧電動機M
Bという一つの集団(データベース)のデータを用いた正規化補正が行われた絶縁破壊電圧性能では、評価結果の差(49.6%〜84.1%と34.5%の差)が縮小していることが解る。従って、例えば、工場全体で使用されている3kV級交流高圧電動機の絶縁破壊電圧性能を算出して、3kV級交流高圧電動機を絶縁劣化が進行している順番に精度よく序列化することができる。
【0040】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
更に、本実施の形態とその他の実施の形態や変形例にそれぞれ含まれる構成要素を組合わせたものも、本発明に含まれる。