特許第6504964号(P6504964)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6504964
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】部材の状態評価装置および状態評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20190415BHJP
   G01N 29/12 20060101ALI20190415BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20190415BHJP
【FI】
   G01N29/24
   G01N29/12
   G01N29/04
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-154962(P2015-154962)
(22)【出願日】2015年8月5日
(65)【公開番号】特開2017-32479(P2017-32479A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000165697
【氏名又は名称】原子燃料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】松永 嵩
(72)【発明者】
【氏名】小川 良太
(72)【発明者】
【氏名】匂坂 充行
(72)【発明者】
【氏名】礒部 仁博
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−048655(JP,A)
【文献】 実開昭62−010624(JP,U)
【文献】 特開2006−300809(JP,A)
【文献】 特開2013−066989(JP,A)
【文献】 特開2005−308486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の部材に加振力を加え、前記加振力により発生する前記部材の振動をセンサで検知することにより、前記部材の状態を評価する部材の状態評価装置であって、
先端の打撃部により前記部材を打撃して前記部材に加振力を加える打撃体と、
前記加振力により発生した前記部材の振動を検知するセンサと、
前記加振力により発生した前記部材の振動を前記センサへ伝達する振動伝達体とを備えており、
前記センサが、前記打撃体と一体化して配置されており、
さらに、前記振動伝達体が、前記部材の打撃による衝撃を緩和させながら、前記部材の振動をセンサへ伝達する緩衝性の振動伝達体であり、一方が前記センサの受振面に接し、他方が前記打撃部よりも前記部材側に突出するように配置されていることを特徴とする部材の状態評価装置。
【請求項2】
前記打撃体に、ハンドリング用の柄が取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の部材の状態評価装置。
【請求項3】
前記打撃体を所定の方向へ案内するガイド体が、前記打撃体の外側に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の部材の状態評価装置。
【請求項4】
さらに、前記打撃体を前記部材に向けて付勢する弾性体が、前記ガイド体に備えられていることを特徴とする請求項3に記載の部材の状態評価装置。
【請求項5】
前記打撃体に、長尺のアクセスバーが取り付けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の部材の状態評価装置。
【請求項6】
移動可能手段に搭載されて、検査対象の部材を遠隔から検査できるように構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の部材の状態評価装置。
【請求項7】
前記移動可能手段が、走行ロボット、飛行ロボット、無線小型ヘリコプター、水中潜航ロボットのいずれかであることを特徴とする請求項6に記載の部材の状態評価装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の部材の状態評価装置を用いて部材の状態評価を行う部材の状態評価方法であって、
前記打撃部で前記部材を打撃することにより前記部材に加振力を加え、
前記加振力により発生する前記部材の振動を、前記振動伝達体を介して前記センサへ伝達し、
伝達された前記部材の振動を前記センサで検知することにより、前記部材状態評価を行うことを特徴とする部材の状態評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカーボルト等の部材を検査対象として、その状態を評価する部材の状態評価装置および状態評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、基礎に固定されたアンカーボルト等の部材の健全性を評価するに際しては、従来より、打音検査装置を用いて、検査対象となる部材に加振力を与えると同時に加振力により発生した検査対象の振動をセンサにより検知して、検査対象の状態を評価することが行われている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
このように、打音検査装置を状態評価装置として用いることにより、検査対象の形状や検査環境、検査員の熟練度に依存せず、様々な状態を把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−45637号公報
【特許文献2】特許第3691477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の場合には、検査対象にセンサを設置した後にハンマーなどで打撃して加振力を与える必要があるため、センサを設置する工程と加振力を与える工程を個別に設けることが必要となる。
【0006】
そして、特許文献2の場合には、ハンマーに加速度センサを取り付けて、打撃したときの反力によって得られるハンマーの振動を観測する方法であるため、検査対象の振動を直接測ることができず、精度の点で問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、センサを設置する工程と加振力を加える工程とを1つの工程で同時に行うと共に、加振力を加えた検査対象部材自身の振動を測ることができる部材の状態評価装置および状態評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討を行い、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
請求項1に記載の発明は、
検査対象の部材に加振力を加え、前記加振力により発生する前記部材の振動をセンサで検知することにより、前記部材の状態を評価する部材の状態評価装置であって、
先端の打撃部により前記部材を打撃して前記部材に加振力を加える打撃体と、
前記加振力により発生した前記部材の振動を検知するセンサと、
前記加振力により発生した前記部材の振動を前記センサへ伝達する振動伝達体とを備えており、
前記センサが、前記打撃体と一体化して配置されており、
さらに、前記振動伝達体が、前記部材の打撃による衝撃を緩和させながら、前記部材の振動をセンサへ伝達する緩衝性の振動伝達体であり、一方が前記センサの受振面に接し、他方が前記打撃部よりも前記部材側に突出するように配置されていることを特徴とする部材の状態評価装置である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、
前記打撃体に、ハンドリング用の柄が取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の部材の状態評価装置である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、
前記打撃体を所定の方向へ案内するガイド体が、前記打撃体の外側に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の部材の状態評価装置である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、
さらに、前記打撃体を前記部材に向けて付勢する弾性体が、前記ガイド体に備えられていることを特徴とする請求項3に記載の部材の状態評価装置である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、
前記打撃体に、長尺のアクセスバーが取り付けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の部材の状態評価装置である。
【0014】
請求項6に記載の発明は、
移動可能手段に搭載されて、検査対象の部材を遠隔から検査できるように構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の部材の状態評価装置である。
【0015】
請求項7に記載の発明は、
前記移動可能手段が、走行ロボット、飛行ロボット、無線小型ヘリコプター、水中潜航ロボットのいずれかであることを特徴とする請求項6に記載の部材の状態評価装置である。
【0016】
請求項8に記載の発明は、
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の部材の状態評価装置を用いて部材の状態評価を行う部材の状態評価方法であって、
前記打撃部で前記部材を打撃することにより前記部材に加振力を加え、
前記加振力により発生する前記部材の振動を、前記振動伝達体を介して前記センサへ伝達し、
伝達された前記部材の振動を前記センサで検知することにより、前記部材状態評価を行うことを特徴とする部材の状態評価方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、センサを設置する工程と加振力を加える工程とを1つの工程で同時に行うと共に、加振力を加えた検査対象部材自身の振動を測ることができる部材の状態評価装置および状態評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係る部材の状態評価装置を示す概略側断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る部材の状態評価装置の打撃部を示す概略図であって、(a)は断面図、(b)は正面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る部材の状態評価装置の変形例1を示す概略側断面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る部材の状態評価装置の変形例2を示す概略側断面図である。
図5】本発明の実施の形態に係る部材の状態評価装置の変形例3を示す概略側断面図である。
図6】本発明の実施の形態に係る部材の状態評価装置の変形例4を示す概略側断面図である。
図7】部材の状態評価装置の性能評価試験の概略図であって、(a)は従来の打撃体・センサ分離型の装置の性能評価試験、(b)は本発明の実施の形態に係る打撃体・センサ一体型の装置の性能評価試験を示している。
図8】従来の打撃体・センサ分離型の装置で得られた信号波形を示す図であって、(a)は生波形、(b)は周波数解析後の周波数分布を示す図である。
図9】本発明の実施の形態の打撃体・センサ一体型の装置で得られた信号波形を示す図であって、(a)は生波形、(b)は周波数解析後の周波数分布を示す図である。
図10】実施例1における試験体系を示す図である。
図11】実施例1において得られた周波数分布を示す図である。
図12】実施例2における3個の試験体系を示す図である。
図13】実施例2において得られた周波数分布を示す図である。
図14】実施例3における4個の試験体系を示す図である。
図15】実施例3において得られた周波数分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態に係る部材の状態評価装置および打音検査方法について説明する。
【0020】
1.本発明の概要
本発明に係る部材の状態評価方法は、検査対象となる部材に加振力を加え、加振力により発生する部材の振動をセンサにより検知して部材の状態を評価する点においては、従来の打音検査装置を用いた部材の状態評価方法と原理的に同様である。
【0021】
しかし、本発明に係る部材の状態評価方法は、部材の状態評価装置として、先端の打撃部により部材を打撃して部材に加振力を加える打撃体と、加振力により発生した部材の振動を検知するセンサとが一体化して配置された状態評価装置を用いて、部材の状態評価を行う点において従来と異なっている。
【0022】
打撃体とセンサとが一体化して配置されていることにより、部材の状態評価を行う際に、センサを設置する工程と加振力を加える工程とを1つの工程で同時に行うと共に、加振力を加えた検査対象部材自身の振動をセンサで直接測ることができるため、部材の状態評価を効率的に行うことができる。
【0023】
そして、本発明に係る部材の状態評価装置においては、さらに、一方がセンサの受振面に接し、他方が打撃体の打撃部よりも部材側に突出するように振動伝達体が配置されている。そして、この振動伝達体は、部材の打撃による衝撃を緩和させる緩衝性を有している一方で、検査対象およびセンサに常に接することにより、部材の振動をセンサへ確実に伝達する。
【0024】
このような振動伝達体が配置されていることにより、検査対象の部材を打撃した時、打撃による衝撃を減少させると共に、センサに的確に振動を伝達することができ、より精度高い状態評価を行うことができる。
【0025】
2.本実施の形態に係る部材の状態評価装置
図1は本発明の実施の形態に係る部材の状態評価装置を示す概略側断面図である。図1に示すように、部材の状態評価装置1は、打撃体2と、センサ3と、振動伝達体4とを備えている。そして、打撃体2とセンサ3とは一体化されており、センサ3の受振面に接して振動伝達体4が配置されている。なお、センサ3は曲線で示したケーブルにより、信号処理システムに接続されている。
【0026】
(1)打撃体
打撃体2は、先端の打撃部2aにより検査対象の部材を打撃して振動させる。本実施の形態において、打撃体2は金属材料で筒状に形成されており、先端の開口した打撃部2aで検査対象の部材を打撃することにより、部材に加振力が加わる。なお、本実施の形態において、打撃体2の後端部は閉塞されている。
【0027】
(2)センサ
センサ3は、加わった加振力により発生した部材の振動を検知する。本実施の形態において、センサ3は打撃体2内の打撃部2aより凹んだ位置に配置されている。このようにセンサ3が配置されていることにより、部材を打撃体2の打撃部2aで打撃した際に、センサ3が検査対象の部材に直接接触することがなく、打撃に伴うセンサ3の損傷を防止することができる。
【0028】
検知された振動は、その後、センサ3内で電気信号に変換され、ケーブルを介して信号処理システムに送信される。
【0029】
具体的なセンサ3としては、検査対象の部材の振動を高感度で検知することができるという観点から、外部騒音や振動などの周辺環境からの影響を受けにくいAEセンサが好ましいが、これに限定されず、振動を検知することができるセンサである振動センサや加速度センサなどの一般的なセンサを用いてもよい。
【0030】
なお、本実施の形態において、センサ3は、図2に示すように、そのサイズや形状に合わせて作成された打撃体2の内部に収納されている。これにより、打撃による衝撃でずれが生じることが防止されて、センサ3でより高精度に信号を受信することができる。なお、図2は本実施の形態に係る部材の状態評価装置の打撃部を示す概略図であって、(a)は縦断面図、(b)は正面図である。
【0031】
なお、センサ3の形状が円筒形で打撃体2の形状が角筒状など、打撃体2とセンサ3の形状が異なっていてもよいが、この場合には、センサ3と打撃体2との間に緩衝材(図示省略)を介在させて、打撃による衝撃でずれが生じることを抑制させることが好ましい。
【0032】
(3)振動伝達体
振動伝達体4は、部材の打撃による衝撃を緩和させながら、部材の振動をセンサ3へ伝達する緩衝性の振動伝達体であり、一方がセンサ3の受振面に接し、他方が打撃部2aよりも部材側に突出するように配置されて、加振時においては部材およびセンサの双方に常に接している。
【0033】
具体的な振動伝達体としては、加振時、圧縮されてある程度変形しながらも、部材およびセンサの双方に常に接して部材の振動を十分センサ3の受振面に伝達するという観点から、ゴム、スポンジ、テープ、樹脂、プラスチック、発泡材、ゲルなどから、適宜選択して使用することができる。
【0034】
本実施の形態において、この振動伝達体4は、打撃体2の開口2bから少しだけ部材側にはみ出した状態で配置されている。これにより、従来のセンサを用いた打撃体・センサ分離型の装置の場合と同じ順序で信号の取得を行うことができる。即ち、従来の装置の場合、センサを設置した後、ハンマーなどを用いて打撃して信号を取得する順で信号の取得が行われているが、本実施の形態においても、はみ出している振動伝達体4が先に検査対象の部材に接触して、センサ3と検査対象の部材とが振動伝達体4を介して密に接触した状態で打撃部2aが検査対象の部材を打撃することができる。
【0035】
(4)信号処理システム
信号処理システムは、センサ3の出力部とケーブルを介して接続されている。この信号処理システムは、部材の状態評価装置1のセンサ3によって検知された検査対象の部材の振動の信号波形を取得し、信号波形を周波数解析して、信号波形の周波数情報を得るために設けられており、アナログ信号をデジタル信号に変換する装置と、振動の信号波形の周波数解析を行う解析用パーソナルコンピュータとを備えている。また、信号強度が小さい場合においては、必要に応じて信号増幅器(アンプ)を用いることもできる。
【0036】
解析用パーソナルコンピュータは、振動の信号波形を解析するための信号処理ソフトウェアを備えており、センサ3によって受信された振動の信号波形に対してFFT(高速フーリエ変換)などの周波数解析を施すことにより、信号波形の周波数情報を出力する。
【0037】
また、解析用パーソナルコンピュータの記憶部(図示省略)には、状態が予め確認されている部材の信号波形の周波数情報がデータベースとして格納されている。この周波数情報はモックアップを用いた試験などにより予め取得しておいたものである。検査対象の部材の得られた信号波形の周波数情報とデータベースに格納されている周波数情報とを比較することにより、部材の状態を判断することができる。
【0038】
3.本実施の形態に係る部材の状態評価方法
以下、上記した本実施の形態に係る部材の状態評価装置を用いて行う部材の状態評価方法について説明する。
【0039】
まず、本実施の形態に係る部材の状態評価装置を検査対象の部材に押し当てることにより、打撃体2の打撃部2aで検査対象の部材を打撃する。
【0040】
具体的には、最初に、打撃部2aよりも突出している振動伝達体4が、検査対象の部材に接触する。その後、振動伝達体4が打撃により圧縮されると共に、打撃体2の打撃部2aが検査対象の部材を打撃する。
【0041】
打撃部2aで検査対象の部材を打撃することにより、検査対象の部材が振動する。このとき、センサ3は上記したように打撃部2aよりも凹んだ位置に配置されているため、打撃に伴うセンサ3の損傷を防止することができる。
【0042】
打撃により発生した部材の振動は、振動伝達体4を介してセンサ3に伝達される。このとき、圧縮された振動伝達体4は部材およびセンサ3の双方に密に接触しているため、打撃によるセンサ3への衝撃を緩和させつつ、センサ3に検査対象の部材の振動を効率良く伝達することができる。
【0043】
伝達された部材の振動は、センサ3により検知された後、センサ3内で電気信号に変換される。変換された電気信号は信号処理システムに送信され、その後、信号処理システム内において状態評価が行われる。
【0044】
状態評価が完了した後は、打撃体2の打撃部2aを検査対象の部材から離し、圧縮されていた振動伝達体4を元の状態に復帰させる。
【0045】
このように、本実施の形態に係る部材の状態評価方法によれば、センサを設置する工程と加振力を加える工程とを同時に行うことができるため、部材の状態評価を効率的に行うことができる。そして、2つの工程が1つに集約されるため、工程が単純化され、打撃による検査を人手でなく機械で行うことができ、この面からも部材の状態評価を効率的に行うことができる。
【0046】
また、加振力を加えた検査対象部材自身の振動を直接測ることができるため、十分な精度で部材の状態評価を行うことができる。
【0047】
なお、本実施の形態において検査対象となる部材は、打撃により固有の振動特性を示す部材であれば制限されず、例えば、金属、セラミックス、樹脂等で製作された管材、棒材、板材、ワイヤ材、チェーン材、もしくはそれらの組み合わせ部材など、具体的には、鉄板、鉄骨・鉄筋・鋼管(土木、建築、鉄塔、足場、支柱、ガードレール、フェンス、その他の構造物に使用される部材)、配管、機器(ポンプや車など)のシャフト、アンカーボルト(接着系アンカー、金属系アンカー、基礎ボルトなど)、ロックボルト(ねじり棒鋼、異形棒鋼、全ねじ棒鋼、鋼管膨張型など)、緊張材・引張材(例えば、プレストレストコンクリートやグラウンドアンカーに使用されるPC鋼線、PC鋼より線、異形PC鋼線、異形PC鋼より線、連続繊維補強材など)、セラミックス製品(例えば、ガラス、セメント、コンクリート、陶磁器など)などへ適用可能である。
【0048】
4.部材の状態評価装置の変形例
本実施の形態に係る部材の状態評価装置は、図1に示した例に限定されることなく、種々の変形例を考えることができる。
【0049】
(1)変形例1
図3は本実施の形態に係る部材の状態評価装置の変形例1を示す概略側断面図である。図3に示すように、打撃体2にはハンドリング用の柄6が取り付けられており、その他の構成は図1の部材の状態評価装置と同じである。同じ構成には同符号を付す。なお、柄6の取り付け位置は、図3(a)に示すように打撃体2の後端部であっても、図3(b)に示すように打撃体2の側面部であってもよい。
【0050】
図3に示すように、打撃体2に柄6を取り付けることで、検査作業者が部材の状態評価装置を容易にハンドリングすることができ、また柄6の部分と機械を組み合わせることにより、機械による打音検査が可能となる。
【0051】
即ち、2つの工程(センサの設置と打撃)を別々に行う必要がある従来の技術においては機械で実施することが困難であったが、本実施の形態に係る部材の状態評価装置を用いた場合、検査対象の部材に押し当てるだけの動作で状態評価を行うことができるため、機械による検査を実現可能なものとすることができる。
【0052】
(2)変形例2
図4は本実施の形態に係る部材の状態評価装置の変形例2を示す概略側断面図である。図4に示すように、打撃体2の外側にガイド体7を取り付け、ばねなどの弾性体8で一定の加振力を加える構造となっている。
【0053】
即ち、打撃体2を収容し得る大きさの筒状に形成されて先端が開口したガイド体7が打撃体2の外側に配置されることにより、打撃体2を検査対象の部材に向けてガイド体7をスライドさせて案内することができる。そして、図4においては、検査対象の部材に向けてガイド体7を介して打撃体2を付勢力により案内する弾性体8を備えている。
【0054】
弾性体8の取り付け位置は、図4(a)に示すように柄6に設けられた鍔部6aとガイド体7との間に介在させるものであっても、図4(b)に示すようにガイド体7と打撃体2との間に介在させてものであってもよい。
【0055】
このような構造とすることにより、加振力を与える方向をガイド体7により一定に保つことができると共に、弾性体8の付勢力により打撃体2を前進させて部材を打撃することができるため、加振力を一定の方向および一定の力に保つことができ、より高精度な検査を行うことができる。
【0056】
(3)変形例3
図5は本実施の形態に係る部材の状態評価装置の変形例3を示す概略側断面図である。図5に示すように、適切な長さのアクセスバー9を取り付けることにより、従来の打撃体・センサ分離型の検査装置では検査できなかった高所や狭隘部、水中などにある部材であっても容易に検査することができる。即ち、低所や狭隘部の入口や水上から検査作業者がアクセスバー9により打撃体2を遠隔操作することができるため、このような場所にある部材でも打撃して状態を評価することができる。
【0057】
(4)変形例4
図6は本実施の形態に係る部材の状態評価装置の変形例4を示す概略側断面図である。図6に示すように、センサ3の片側にのみ打撃体2が配置されている。このように、スペースの問題などによっては、センサ3の片側にのみ打撃体2を配置する構造とすることも可能である。
【0058】
(5)変形例5
また、部材の状態評価装置を移動可能手段に搭載して、検査対象の部材を遠隔から検査できるように構成させることもできる。
【0059】
このような移動可能手段としては、具体的には、走行ロボット、ドローン等の飛行ロボット、無線小型ヘリコプター、水中潜航ロボット等を用いることができる。
【0060】
移動可能手段に部材の状態評価装置を搭載することにより、遠隔で部材の状態評価装置を操作して検査することが可能となり、従来では測定が困難であった検査対象の部材についても容易に測定することができる。
【0061】
5.本実施の形態に係る部材の状態評価装置を用いた評価試験
以下、本実施の形態に係る部材の状態評価装置を用いて行った評価試験について説明する。
【0062】
(1)評価方法
図7(a)に示す従来の打撃体・センサ分離型の部材の状態評価装置と、図7(b)に示す本実施の形態の打撃体・センサ一体型の部材の状態評価装置とを用いて、部材の状態評価を行った。なお、本実施の形態の部材の状態評価装置においては振動伝達体としてゲルシートを用いた。なお、図7において、符号13はベースプレート、14は打撃体・センサ分離型の装置のAEセンサ、15は打撃用ハンマーである。
【0063】
(2)評価試験の概要
本試験においては、コンクリート構造物11の表面から頭部12が露出した状態で埋設されて固定されている金属拡張アンカー10を検査対象の部材とした。
【0064】
まず、金属拡張アンカー10の頭部12を本実施の形態の部材の状態評価装置1または打撃用ハンマー15を用いて打撃することにより、金属拡張アンカー10の内部に打音を発生させた。
【0065】
そして、金属拡張アンカー10を打撃した際の生波形及び周波数分布を比較した。なお、周波数分布は、生波形に対し周波数解析(FFT解析)を行うことにより求めた。
【0066】
(3)評価結果
打撃体・センサ分離型の検査装置の結果を図8に、また、打撃体・センサ一体型の検査装置の結果を図9に示す。なお、図8図9において、(a)は生波形を示すグラフ、(b)は周波数解析によって得られる信号波形の周波数分布のグラフである。
【0067】
図8図9とを比較すると、生波形・周波数分布の信号強度の差はあるものの、周波数分布においては状態に対応した特有のピークを示す周波数がどちらも同じ位置に現れていることから、本実施の形態の状態評価方法を採用しても、従来の状態評価方法と同様に、十分に高い精度の評価が可能であることが分かる。
【0068】
従って、本実施の形態の打撃体・センサ一体型の検査装置を用いた場合には、センサを設置する工程と加振力を加える工程とを1つの工程で同時に行うと共に、加振力を加えた検査対象部材自身の振動をセンサで直接測ることができ、その精度も従来の検査装置(打撃体・センサ分離型の装置)と同等の検査精度を有していることが確認された。
【実施例】
【0069】
1.実施例1
本実施例においては、主にグラウンドアンカーの緊張材部への接触状態を評価する模擬試験を行った。
【0070】
具体的には、図10に示すように、コンクリートブロックの中間部に隙間をあけて、中心部付近においてペンチ等で挟むことにより、内部でボルトが接触している状態を模擬した試験体系を作製し、コンクリートブロックから露出している部分を打音することにより、長尺の寸切ボルトの状態を評価した。なお、評価は、ボルトを接触させた状態およびボルトを接触させない状態で得られた周波数分布を比較することにより行った。結果を図11に示す。
【0071】
図11より、ボルトを接触させた状態とボルトを接触させない状態とでは、周波数分布が変化しており、接触したことによりボルトの振動が変化していることが分かる。このことより、施工されたグラウンドアンカーの緊張材部において、軸に垂直な方向に圧力が加わった際にも、周波数分布を確認することにより、状態の把握が可能となることが分かる。
【0072】
2.実施例2
本実施例においては、主にグラウンドアンカーの自由長の状態、特に長さの違いについて評価する模擬試験を行った。
【0073】
具体的には、図12に示すように、寸切ボルトの自由長を3段階で変化させた3個の試験体系を作製し、各々のコンクリートブロックから露出している部分を打音検査装置で打音して、得られた周波数分布を比較することにより評価した。結果を図13に示す。
【0074】
図13より、自由長の長さを変化させた場合、その変化に応じて周波数分布が変化しており、自由長の長さの変化によりボルトの振動が変化していることが分かる。このことより、施工されたグラウンドアンカーにおいて、自由長の長さが異なる場合であっても、周波数分布を確認することにより、状態の把握が可能となることが分かる。
【0075】
3.実施例3
本実施例においては、主にグラウンドアンカーの余長の状態を評価する模擬試験を行った。
【0076】
具体的には、図14に示すように、寸切ボルトの余長長さを4段階で変化させた4個の試験体系を作製し、各々のコンクリートブロックから露出している部分を打音検査装置で打音して、得られた周波数分布を比較することにより評価した。結果を図15に示す。
【0077】
図15より、余長の長さを変化させた場合、その変化に応じて周波数分布が変化しており、余長の長さの変化によりボルトの振動が変化していることが分かる。このことより、施工されたグラウンドアンカーにおいて、余長の長さが異なる場合であっても、周波数分布を確認することにより、状態の把握が可能となることが分かる。
【0078】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0079】
1 部材の状態評価装置
2 打撃体
2a 打撃部
2b 開口
3 センサ
4 振動伝達体
5 信号処理システム
6 柄
7 ガイド体
8 ばね体(弾性体)
9 アクセスバー
10 金属拡張アンカー
11 コンクリート構造物
12 頭部
13 ベースプレート
14 AEセンサ
15 打撃用ハンマー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15