特許第6504992号(P6504992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6504992口腔用マウスピースの製造方法および口腔用マウスピース
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6504992
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】口腔用マウスピースの製造方法および口腔用マウスピース
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/06 20060101AFI20190415BHJP
   A61F 5/56 20060101ALI20190415BHJP
【FI】
   A61M16/06 D
   A61F5/56
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-210957(P2015-210957)
(22)【出願日】2015年10月27日
(65)【公開番号】特開2017-80027(P2017-80027A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】515037335
【氏名又は名称】大坪 建夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(74)【代理人】
【識別番号】100194984
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】大坪 建夫
【審査官】 家辺 信太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−161736(JP,A)
【文献】 米国特許第5267862(US,A)
【文献】 国際公開第2014/116044(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102551946(CN,A)
【文献】 特開2003−275311(JP,A)
【文献】 特開2006−20986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/06
A61F 5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作成された装用者の各歯型模型をもとに、軟性樹脂を用いて象られたマウスピースパーツを上顎と下顎に対応させて個別に形成する工程と、
前記上顎および下顎の歯型模型の各々を、ガイドピン付き咬合器へ中心咬合位となるように取り付け、取り付けられた同歯型模型に前記各マウスピースパーツを取り付ける工程と、
前記上顎および下顎の各マウスピースパーツにおいて噛み合わせにより互いに接触する部位を溶着可能となるまで加熱して前記ガイドピン付き咬合器を閉じて押圧して、左奥歯から右奥歯までの間の部位が連続するように溶着し、口腔の内外方向において気密となるように前記上顎および下顎の前記各マウスピースパーツを一体化する工程とを備える
口腔用マウスピースの製造方法。
【請求項2】
前記マウスピースパーツを上顎と下顎に対応させて個別に形成する工程が、加熱した軟性樹脂シートを歯型模型の歯部および歯肉部の外形に沿うように真空吸引して行うものである
請求項1に記載の口腔用マウスピースの製造方法。
【請求項3】
前記上顎と下顎の歯型模型をガイドピン付き咬合器に中心咬合位で装着する際に、更に、下顎安静位となるように設定する
請求項1または請求項2に記載の口腔用マウスピースの製造方法。
【請求項4】
前記マウスピースパーツを上顎と下顎に対応させて個別に形成する工程に先立ち、装用者の上顎および下顎各々の歯型模型を作成する工程を備える
請求項1、請求項2または請求項3に記載の口腔用マウスピースの製造方法。
【請求項5】
予め作成された装用者の上顎と下顎の歯型模型をもとに軟性樹脂で象られた上部マウスピースパーツと下部マウスピースパーツとを備え、
前記上部マウスピースパーツと前記下部マウスピースパーツが、装用者が中心咬合位を保持可能配置で、左奥歯から右奥歯までの間の部位が連続的に熱溶着された熱溶着部を以て、口腔の内外方向において気密となるように一体化された構造である
口腔用マウスピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔用マウスピースの製造方法および口腔用マウスピースに関するものである。更に詳しくは、装用時に生じるバキューム効果によって、舌根部や軟口蓋等の咽頭部における気道を塞ぐ可能性がある部位(以下「舌根部等」という)が口腔内側に引き上げられることで気道が確保され、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の症状が改善されるものに関する。
【背景技術】
【0002】
かねてより、自動車事故や労働事故の一部において、閉塞性睡眠時無呼吸症候群がその原因として指摘されている。閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中の筋弛緩により舌根部等が下がって気道を閉塞することが主な原因とされており、その治療用具の一つとして、例えば、下記特許文献1に記載されたマウスピースが提案されている。
【0003】
図8(a)に示すように、特許文献1に記載されたマウスピース9は、上下顎で挟持する部分である本体90の前方側に管91が設けられており、管91は、マウスピース9の前方側に向けて開口部92が形成されると共に、両端がマウスピース9の内周面となる口蓋内側へ連通した孔93が形成されており、管91を通じて口腔内外に呼吸気が流通可能に形成されている。
【0004】
このマウスピース9によれば、図8(b)に示すように、睡眠時に口を閉じていても呼吸が可能で、現在、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の主流の治療方法である持続陽圧呼吸療法のように持ち運び等が不便な送気装置を使用しないでも、気道が確保されて症状が改善するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−142497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1記載のマウスピース9は、口腔内外に呼吸気が流通することを可能とするものではあるが、睡眠中の筋弛緩により舌根部や軟口蓋が下がって気道を閉塞することを本質的に抑制しうる構造のものではなかった。
【0007】
また、マウスピースを用いて行う閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療方法の一つとして、睡眠中の気道を確保すべく下顎を上顎よりも前側に突き出させるように構成されたマウスピースを使用したスリープスプリント療法があるが、これも口呼吸を補助するものであるため、口が渇く、唾液が多く出る、歯が痛い、顎が痛い、噛み合わせに変化が生じる等の副作用が生じる可能性が報告されている。
【0008】
本発明は、以上の点を鑑みて創案されたものであり、装用時に生じるバキューム効果によって舌根部が口腔内側に引き上げられることで気道が確保され、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の症状が改善される口腔用マウスピースと、その製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために本発明の口腔用マウスピースの製造方法は、作成された装用者の各歯型模型をもとに、軟性樹脂を用いて象られたマウスピースパーツを上顎と下顎に対応させて個別に形成する工程と、前記上顎および下顎の歯型模型の各々を、ガイドピン付き咬合器へ中心咬合位となるように取り付け、取り付けられた同歯型模型に前記各マウスピースパーツを取り付ける工程と、前記上顎および下顎の各マウスピースパーツにおいて噛み合わせにより互いに接触する部位を溶着可能となるまで加熱して前記ガイドピン付き咬合器を閉じて押圧し、押圧後のガイドピンの浮きが0mm乃至2mmの範囲内に収まるようにし、かつ接触した部位が口腔の内外方向において気密となるように前記上顎および下顎の各マウスピースパーツを一体化させる工程とを備える。
【0010】
ここで、作成された装用者の各歯型模型をもとに、軟性樹脂を用いて象られたマウスピースパーツを上顎と下顎に対応させて個別に形成する工程を備えることにより、装用者の歯型と合致すると共に、装用者が違和感を覚えにくい柔軟なマウスピースパーツを作成することができる。
【0011】
上顎および下顎の歯型模型の各々を、ガイドピン付き咬合器へ中心咬合位となるように取り付け、取り付けられた同歯型模型に前記各マウスピースパーツを取り付ける工程を備えることにより、各マウスピースパーツを中心咬合位となるように位置調整することができる。なお、中心咬合位とは、上顎と下顎の歯列が最も多くの部位で接触し、安定して噛み合う状態の下顎の位置であり、以下同じ意味で使用している。
【0012】
上顎および下顎の各マウスピースパーツにおいて噛み合わせにより互いに接触する部位を溶着可能となるまで加熱してガイドピン付き咬合器を閉じて押圧し、押圧後のガイドピンの浮きが0mm乃至2mmの範囲内に収まるようにし、かつ接触した部位が口腔の内外方向において気密となるように上顎および下顎の各マウスピースパーツを一体化させる工程を備えることにより、上顎および下顎の各マウスピースパーツにおいて噛み合わせにより互いに接触する部位の厚みが0mm乃至2mm以下であって、同部位を厚みがないか、または薄いものとすることができ、かつ、口腔の内外方向において気密となった、口腔用マウスピースを得ることができる。
【0013】
また、前記マウスピースパーツを上顎と下顎に対応させて個別に形成する工程が、加熱した軟性樹脂シートを歯型模型の歯部および歯肉部の外形に沿うように真空吸引して行うものである場合には、軟性樹脂シートから歯型模型の歯部および歯肉部の外形に沿う形状となった部分を切り離すだけで済むので、加工が容易である。
【0014】
また、前記上顎と下顎の歯型模型をガイドピン付き咬合器に中心咬合位で装着する際に、更に、下顎安静位となるように設定する場合には、装用者が上顎と下顎の相互の位置について違和感を覚えにくく、装用感の良い口腔用マウスピースとすることができる。なお、下顎安静位とは、顎の力を抜くことにより自然に下顎が誘導された状態での下顎の位置であり、以下同じ意味で使用している。また、下顎安静位は、通常、中心咬合位の2〜3mm下方の位置である。
【0015】
また、前記マウスピースパーツを上顎と下顎に対応させて個別に形成する工程に先立ち、装用者の上顎および下顎各々の歯型模型を作成する工程を備える場合には、口腔用マウスピースの原型となる歯型模型を作成することができ、例えば、歯型模型を内製化することで一連の作業の効率性が向上する。
【0016】
上記の目的を達成するために本発明の口腔用マウスピースは、予め作成された装用者の上顎の歯型模型をもとに軟性樹脂で象られた上部マウスピースパーツと、予め作成された装用者の下顎の歯型模型をもとに軟性樹脂で象られたものであり、装用者が中心咬合位かつ下顎安静位を保持可能である配置で前記上部マウスピースパーツと一体になるように熱溶着されると共に、同熱溶着部分の厚みが0乃至2mmの範囲内であって口腔の内外方向において気密となるように上部マウスピースパーツと一体化されている下部マウスピースパーツとを備える。
【0017】
ここで、上部マウスピースパーツは、装用者の上顎の歯型模型をもとに象られているためフィット感が良く、軟性樹脂で象られているため装用時に感じられる傷みが生じにくい。
【0018】
下部マウスピースパーツも、装用者の下顎の歯型模型をもとに象られているためフィット感が良く、軟性樹脂で象られているため装用時に感じられる傷みが生じにくい。また、一体となった後の上部マウスピースパーツと下部マウスピースパーツは、装用者が中心咬合位かつ下顎安静位を保持可能である位置に配置されるため、スリープスプリント療法で見られる歯痛、顎痛、噛み合わせの変化といった副作用が生じる可能性が低減する。
【0019】
また、上部マウスピースパーツと下部マウスピースパーツの熱溶着部分の厚みが0乃至2mmの範囲内に形成されているため、例えば、装用時に生じうる、口腔内の違和感、噛み合わせの変化といった副作用が生じる可能性が低減する。
【0020】
更に、上部マウスピースパーツと下部マウスピースパーツの熱溶着部分が口腔の内外方向において気密となるように形成されているため口呼吸ができなくなり、例えば、スリープスプリント療法で見られる口の渇き、唾液が多く出るといった副作用が生じる可能性が低減する。
【0021】
加えて、口腔の内外方向において気密となる口腔用マウスピースマウスピースを装用することで、鼻呼吸する装用者の口腔内は、呼吸の際の吸気の都度、繰り返し陰圧状態になり、この陰圧状態下では、舌根部が口腔内側に引き上げられ、気道が確保される。
【0022】
より詳しく説明すると、口呼吸ができなくなったことで、装用者は必然的に鼻呼吸となり、吸入する空気は鼻腔から咽頭を経て気管に至るのであるが、吸気の都度、密閉された口腔内の空気が咽頭を経て気管側へ引かれて、口腔内が陰圧状態となる。口腔内が陰圧状態となると、咽頭側から見た口腔奥側(前歯、口腔前庭、硬口蓋の方向)へ向かう吸引力が発生し、これに伴って舌全体が引き上げられることで、舌根部も口腔内側に引き上げられる。閉塞性睡眠時無呼吸は、睡眠による筋弛緩で舌根部が気道を塞ぐことによって引き起こされるが、前述のようにマウスピースを装用することで舌根部が口腔内側に引き上げられて気道が確保され、症状が改善する。
【発明の効果】
【0023】
本発明による口腔用マウスピースの製造方法によれば、装用時に生じるバキューム効果によって舌根部が口腔内側に引き上げられることで気道が確保され、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の症状が改善される口腔用マウスピースを提供することができる。
また、本発明による口腔用マウスピースによれば、装用時に生じるバキューム効果によって舌根部が口腔内側に引き上げられることで気道が確保され、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の症状を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の口腔用マウスピースの側面視説明図である。
図2図1の口腔用マウスピースの製造工程において作成された上顎および下顎の各歯型模型を示す斜視図である。
図3図2に示す歯型模型からマウスピースパーツを作成する工程を表しており、(a)は歯型模型から象ったシート状のマウスピースパーツの斜視説明図であり、(b)はシートから切り離された状態のマウスピースパーツの斜視説明図である。
図4図2に示す上顎および下顎の各歯型模型をガイドピン付き咬合器に取り付けた状態を側方から表し、一部を拡大した説明図である。
図5図4に示すガイドピン付き咬合器に取り付けた各歯型模型へ、マウスピースパーツを被せるようにして取り付けた状態を側方から表し、一部を拡大した説明図である。
図6図4に示すガイドピン付き咬合器において、上顎および下顎の各マウスピースパーツの接触部分を熱溶着した状態を側方から表し、一部を拡大した説明図である。
図7】閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者の睡眠時における咽頭部の状態と空気の流れを示しており、(a)は口腔用マウスピースを装用していない患者を表し、(b)は図1に示す口腔用マウスピースを装用した患者を表した使用状態説明図である。
図8】(a)は特許文献1記載のマウスピースの斜視図、(b)は特許文献1記載のマウスピースの使用状態説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1ないし図7を参照して、本発明の実施の形態を更に詳細に説明する。なお、各図における符号は、煩雑さを軽減し理解を容易にする範囲内で付している。また、本実施の形態における「EVA」は、先に述べた「軟性樹脂」と同等物であり、「EVAシート」は、先に述べた「軟性樹脂シート」と同等物である。
【0026】
(口腔用マウスピース1)
口腔用マウスピース1について、図1を参照して説明する。
口腔用マウスピース1は、EVA(エチレン酢酸ビニルコポリマー:ethylene‐vinyl acetate copolymer)シートにより形成された上顎マウスピースパーツ12と下顎マウスピースパーツ13を熱溶着して一体に成型されたものであり、この熱溶着部位は、装用者が中心咬合位かつ下顎安静位を保持できる箇所に設定してあると共に、口腔の内外方向において気密となるようしてある。
【0027】
(口腔用マウスピース1の製造方法)
口腔用マウスピース1の製造方法を説明する。
【0028】
(1)歯型模型の作成工程
最初に、装用者Hの上顎および下顎各々の歯型模型を作成する。この工程は、歯科の治療等において行われる歯型模型の作成工程と同様の工程である。
【0029】
具体的には、歯科で使用される歯型を取るためのトレーに印象材を盛りつけ、同トレーを装用者Hの口腔内に入れて上顎および下顎の各々の型を取り、歯型模型のいわゆる雌型を作成する。作成した上顎および下顎の各々の雌型に石膏等を流し込み、硬化後に取り出したものが上顎歯型模型T1および下顎歯型模型T2となる(図2参照)。
【0030】
(2)マウスピースパーツの作成工程
先述の工程(1)で作成された上顎歯型模型T1と下顎歯型模型T2をもとに、上顎と下顎のマウスピースパーツを個別に作成する。なお、本実施の形態では、各マウスピースパーツを、バキュームフォーマー(図示省略)を使用して作成する。
【0031】
バキュームフォーマーに、上顎歯型模型T1と下顎歯型模型T2、EVAシートSをセットし、加熱および真空吸引を行う。上顎歯型模型T1と下顎歯型模型T2は、歯部の先端がEVAシートS側を向くように配置する。
【0032】
このとき、加熱されたEVAシートSは、真空吸引されることで、上顎歯型模型T1と下顎歯型模型T2の歯部および歯肉部の外形に沿う(即ち、EVAシートSが上顎歯型模型T1と下顎歯型模型T2の形状を象る)ように変形し、この結果、1枚のEVAシートS上に上顎と下顎の各々のマウスピースパーツ原型が形成される(図3(a)参照)。
【0033】
そして、EVAシートSからマウスピースパーツ原型を各々切り離すことで、上顎歯型模型T1を象った部分が上顎マウスピースパーツ12に、下顎歯型模型T2を象った部分が下顎マウスピースパーツ13となる(図3(b)参照)。
【0034】
(3)マウスピースパーツの接着準備工程
上顎歯型模型T1および下顎歯型模型T2の各々を、ガイドピン付き咬合器Mへ取り付ける。取り付けられた上顎歯型模型T1および下顎歯型模型T2は、中心咬合位となるように調節し、更に、上顎歯型模型T1および下顎歯型模型T2の配置が下顎安静位となるように調節する(図4参照)。このとき、上顎歯型模型T1および下顎歯型模型T2を閉じたときに生じるガイドピンG下端の浮きが0mmとなるように調整する(図4の拡大部参照)。
【0035】
なお、図4図6に示すガイドピン付き咬合器Mは、歯科技工業界で一般的に使用されているものであるため作用の説明を省略するが、一般的なガイドピン付き咬合器が有する位置調整機能、ガイドピンを用いた噛み合わせの確認機能を備えているものとする。
【0036】
本工程は、工程(2)で作成された上顎マウスピースパーツ12と下顎マウスピースパーツ13を接着する前の準備として行われるものであり、この作業は、接着後の上顎マウスピースパーツ12と下顎マウスピースパーツ13との配置が装用者にとって最適となるように、接着作業時に使用するガイドピン付き咬合器Mの取り付けベースとなる上顎歯型模型T1および下顎歯型模型T2の各々の位置について調整するためのものである。
【0037】
次に、上顎歯型模型T1に上顎マウスピースパーツ12を、下顎歯型模型T2に下顎マウスピースパーツ13を、それぞれ被せるようにして取り付ける(図5参照)。なお、この状態で上顎歯型模型T1と下顎歯型模型T2が噛み合うようにガイドピン付き咬合器Mを閉じると、上顎マウスピースパーツ12および下顎マウスピースパーツ13の歯先の肉厚分の高さ(約2〜4mm程度)で、ガイドピンGの浮きが生じる(図5の拡大部参照)。
【0038】
(4)マウスピースへの仕上げ工程
ガイドピン付き咬合器Mを開き、上顎マウスピースパーツ12および下顎マウスピースパーツ13において噛み合わせにより互いに接触する部位をハンディガスバーナー等で溶着可能となるまで加熱し、再度ガイドピン付き咬合器Mを閉じて、上顎マウスピースパーツ12と下顎マウスピースパーツ13を接触させる。
【0039】
次に、ガイドピン付き咬合器Mを上方から押圧し、ガイドピンG下端の浮きが2mm以下となる(可能な限り0mmに近づける)ように、かつ、上顎マウスピースパーツ12と下顎マウスピースパーツ13の接触する部位が口腔の内外方向において気密となるように、一体化(熱溶着)させる(図6参照)。
【0040】
なお、ここで「2mm以下となる(可能な限り0mmに近づける)」とは、装用時に、装用者の上下顎の位置が中心咬合位と下顎安静位を再現するようにするためには、各マウスピースパーツの接触部位の厚みをより少なくした方が良いという観点から述べたものであり、2mmを超える場合を排除するものではないが、2mmを越えると、口腔内に生じる違和感、噛み合わせの変化といった副作用が生じる可能性があり、好ましくない。
【0041】
ここで、ガイドピンG下端の浮きを0mmに近づけるためには、例えば、(ア)上顎マウスピースパーツ12と下顎マウスピースパーツ13が接触する部位をハンディガスバーナー等で溶着可能となるまで加熱し、上顎マウスピースパーツ12と下顎マウスピースパーツ13が接触する溶けた部位に上顎歯型模型T1と下顎歯型模型T2の各先端部が食い込んで突き破り、その一部に孔が開いて上顎歯型模型T1と下顎歯型模型T2の一部が接触する(即ち、一部の接触部位に孔が開いて上顎マウスピースパーツ12と下顎マウスピースパーツ13の内側の空間が連通する)まで押圧し、かつ口腔の内外方向については気密となるように溶着させて一体化させる方法、あるいは、(イ)上顎マウスピースパーツ12と下顎マウスピースパーツ13の接触する部位のいずれか一方の接触する部位をハンディガスバーナー等で溶着可能となるまで加熱し、両方のマウスピースパーツの接触部位において、加熱された方のマウスピースパーツの接触部位が加熱されていない方のマウスピースパーツによってガイドピンG下端の浮きが0mmになるまで食い込むように押圧し、かつ口腔の内外方向において気密となるように一体化させる方法、が挙げられる。
【0042】
一体化した上顎マウスピースパーツ12と下顎マウスピースパーツ13をガイドピン付き咬合器M(換言すると、上顎歯型模型T1および下顎歯型模型T2)から外すと、口腔用マウスピース1が得られる。
【0043】
本実施の形態において、印象材としては、アルジネート印象材、寒天印象材等が使用されるが、歯型模型の形成に使用可能な素材であれば、特に限定するものではない。
【0044】
本実施の形態において、歯型模型を形成する素材としては、石膏が使用されるが、これに限定するものではなく、例えば、各種合成樹脂等であって歯型模型の形成に使用可能な素材であればよく、更に、一定の耐熱性(加熱された軟性樹脂シートの温度に耐えうる程度の耐熱性)を備える素材であることがより好ましい。
【0045】
本実施の形態において、マウスピースパーツを形成する素材として、熱可塑性および軟性を有する樹脂シートであるEVAシートを使用しているが、これに限定するものではなく、例えば、他の種類の合成樹脂素材等であって、人体への毒性が無く、口腔内に入れた際に装用者が痛みを感じないか、またはほとんど痛みを感じないように、口腔内の形状に合わせて変形する軟性を有するものであってもよい。
【0046】
本実施の形態において、マウスピースパーツを形成するためにバキュームフォーマーを利用しているが、これに限定するものではなく、例えば、作成された歯型模型に加熱した軟性樹脂シートを押し当てて、手作業で型に馴染ませるようにして象ってもよいし、歯型模型に液状の軟性樹脂を噴霧して象る等の公知技術を採用してもよい。
【0047】
本実施の形態においては、各マウスピースパーツを上顎と下顎に対応させて個別に形成する工程に先立ち、装用者の上顎および下顎各々の歯型模型を作成する工程を備えているが、これに限定するものではなく、例えば、歯型模型を作成する工程は外注等に出してもよい。
【0048】
(作用)
図7を参照して、口腔用マウスピース1の作用を説明する。
【0049】
図7(a)は、口腔用マウスピースを装用していない閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者(以下「非装用者N」という)の睡眠時における咽頭部の状態と空気の流れを矢印で表している。図7(a)に示す非装用者Nは、睡眠中の筋弛緩により舌根部2や軟口蓋3が下がり、咽頭部の気道4を閉塞しており、閉塞性睡眠時無呼吸が起きる状態である。
【0050】
図7(b)は、口腔用マウスピース1を装用した閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者(以下「装用者H」という)の睡眠時における咽頭部の状態と空気の流れを矢印で表している。図7(b)に示す装用者Hは、睡眠中に筋弛緩しても舌根部2や軟口蓋3が下がっていない。この現象は、以下のような作用によって起きるものと推察される。
【0051】
(ア)口腔用マウスピース1を装用すると、上顎マウスピースパーツ12と下顎マウスピースパーツ13の熱溶着部分が口腔の内外方向において気密となるように形成されているため、装用者Hは口呼吸ができなくなって鼻呼吸となる。
【0052】
(イ)吸気は鼻腔内を通じて咽頭部を含む気道4に至り肺へ向かうが、このとき、密閉状態にある口腔内の空気が鼻腔から気道4を通過する吸気の流れに引かれて咽頭側に流出し、その結果、吸気の都度、口腔内が陰圧状態となる。
【0053】
(ウ)陰圧となった口腔内には、咽頭側から見た奥の方(換言すると、前歯、口腔前庭、硬口蓋の方向)へ引く力(吸引力)が発生し、本来であれば筋弛緩により垂れ下がる舌根部2や軟口蓋3が口腔内側に引き上げられ、気道4が確保される。
【0054】
(エ)前述の通り、閉塞性睡眠時無呼吸は睡眠による筋弛緩で舌根部2等が気道4を塞ぐことによって引き起こされるが、装用者Hが口腔用マウスピース1を装用することで、口腔内にバキューム効果が生じ、舌根部2等が口腔内側に引き上げられて気道4が確保され、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の症状が改善する。
【0055】
口腔用マウスピース1を装用した場合、スリープスプリント療法で見られる口の渇き、唾液が多く出るといった副作用が生じる可能性が低減する。
【0056】
また、上顎マウスピースパーツ12と下顎マウスピースパーツ13の熱溶着部分が0〜2mmといった肉厚に形成されているため、装用時に、装用者の中心咬合位と下顎安静位が再現され、口腔内に生じる違和感、噛み合わせの変化といった副作用が生じる可能性が低減する。
【0057】
先に述べた口腔用マウスピース1の製造方法によれば、装用時に生じるバキューム効果によって舌根部2等が口腔内側に引き上げられることで気道4が確保され、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の症状が改善される口腔用マウスピース1を提供することができ、また、熟練した歯科技工士の手によらなくても、加工精度の高い口腔用マウスピース1を得ることができる。
【0058】
現在主流の治療方法である持続陽圧呼吸療法においては、旅行先等にも送気装置を持参する負担があって不便であるが、口腔用マウスピース1はそれを装用するだけという手軽なものであるため、利便性がよい。また、口腔用マウスピース1を装用することで、いびきをかくことや、歯ぎしりも防止できる。
【0059】
本明細書及び特許請求の範囲で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書及び特許請求の範囲に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。
【符号の説明】
【0060】
1 口腔用マウスピース
12 上顎マウスピースパーツ
13 下顎マウスピースパーツ
2 舌根部
3 軟口蓋
4 気道
H 装用者
N 非装用者
T1 上顎歯型模型
T2 下顎歯型模型
M ガイドピン付き咬合器
G ガイドピン
9 マウスピース
90 本体
91 管
92 開口部
93 孔
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8