【実施例1】
【0035】
≪半導体装置の構造≫
本実施例1による半導体装置の構造について
図1を用いて説明する。
図1は、本実施例1による半導体装置を示す断面図であり、(a)は熱処理前の半導体装置の態様を説明する断面図、(b)は熱処理後の半導体装置の態様を説明する断面図である。
【0036】
まず、
図1(a)を用いて、被接合部材1と半導体チップ4とを熱処理により接合する前の半導体装置の構成について説明する。
【0037】
被接合部材1の基板1aの第1主面上には、チップ搭載部1bが形成されており、その周囲には、複数の配線パターン1cが形成されている。また、基板1aの第1主面と反対側の第2主面上にも、配線パターン1dが形成されている。本実施例1では、基板1a、チップ搭載部1b、配線パターン1cおよび配線パターン1dを含めて被接合部材1と言う。チップ搭載部1b、配線パターン1cおよび配線パターン1dは、例えばCu膜からなり、その厚さは、例えば0.2〜0.5mm程度である。
【0038】
チップ搭載部1bの上面上には、複数の多孔質金属層2が互いに離間して形成されている。複数の多孔質金属層2は、ナノまたはマイクロレベルのAg粒子を含む多孔質Ag層であり、Ag粒子ペーストを例示することができる。
【0039】
ここで、離間とは、2つの部材が離れて配置され、直接接していないことをいう。また、2つの部材間に他の部材が配置されていても、2つの部材は離間しているという。すなわち、他の部材を介して2つの部材が接続されていても、これら2つの部材は離間されているという。
【0040】
つまり、後述の
図1(b)では、第一の多孔質金属層2と第二の多孔質金属層2は、金属間化合物層6によって覆われている。また、第一の多孔質金属層2と第二の多孔質金属層2との間には、金属間化合物層6を介して金属間化合物層9が配置されている。このように、第一の多孔質金属2と第二の多孔質金属2は、金属間化合物層6と金属間化合物層9とを介して電気的に接続される関係にある。このような関係を有していても、第一の多孔質金属2と第二の多孔質金属2は離間しているという。
【0041】
さらに、複数の多孔質金属層2の上面および側面を覆ってチップ搭載部1bの上面上にSn系はんだ3が形成されている。そして、複数の多孔質金属層2およびSn系はんだ3を介して、チップ搭載部1bの上面上に半導体チップ4が搭載されている。
【0042】
半導体チップ4は、その厚さ方向と交差する平面形状が四角形となっており、表面と、表面と反対側の裏面とを有している。半導体チップ4の表面側には、複数の半導体素子、絶縁層と配線層とをそれぞれ複数段積み重ねた多層配線層およびこの多層配線層を覆う表面保護膜などが形成されている。
【0043】
さらに、半導体チップ4の表面側には、複数の半導体素子と電気的に接続された複数の電極パッドが形成されており、複数の電極パッドは、表面保護膜にそれぞれの電極パッドに対応して形成された開口部に露出している。
【0044】
半導体チップ4の裏面は、被接合部材1と対向しており、半導体チップ4の裏面には、Ni電極5が形成されている。Ni電極5の厚さは、例えば0.2〜1.0μm程度であり、代表的な値としては、0.5μmを例示することができる。
【0045】
次に、
図1(b)を用いて、被接合部材1と半導体チップ4とを熱処理により接合した後の半導体装置の構成について説明する。
【0046】
熱処理により、多孔質金属層2に含まれるAgとSn系はんだ3に含まれるSnとが反応して、金属間化合物、すなわちAg−Sn化合物が形成される。
【0047】
また、互いに隣り合う多孔質金属層2の間に露出するチップ搭載部1bから、チップ搭載部1bを構成するCuがSn系はんだ3内へ拡散し、そのCuとSn系はんだ3に含まれるSnとが反応して、金属間化合物、すなわちCu−Sn化合物が形成される。
【0048】
そして、複数の多孔質金属層2の上面および側面に、主としてAg−Sn化合物(例えばAg
3Sn)からなる金属間化合物層6が形成される。また、互いに隣り合う多孔質金属層2の間に露出するチップ搭載部1bの上面に、主としてCu−Sn化合物(例えばCu
3Sn)からなる金属間化合物層7が形成される。また、半導体チップ4の裏面のNi電極5に接して、主としてCu−Sn化合物(例えばCu
6Sn
5)からなる金属間化合物層8が形成される。
【0049】
そして、チップ搭載部1bと金属間化合物層8との間、具体的には、被接合部材1側に形成された金属間化合物層6および金属間化合物層7と、半導体チップ4側に形成された金属間化合物層8との間に、Snを主成分とする金属間化合物からなる金属間化合物層9が形成される。Snを主成分とする金属間化合物とは、例えばAg−Sn化合物(例えばAg
3Sn)およびCu−Sn化合物(例えばCu
6Sn
5)である。
【0050】
ここで、主成分とは、化合物およびはんだなどの接合部材のうち最も割合が多い元素をいう。例えば、Ag
3Sn化合物であれば主成分はAgであり、Su
6Sn
5化合物であれば、Suが主成分である。Sn−3Ag−0.5Cuはんだであれば、その主成分はSnである。
【0051】
本実施例1では、多孔質金属層2に、ナノまたはマイクロレベルのAg粒子を含む多孔質Ag層を用いた。多孔質Ag層は、Sn系はんだ3で接合する際に、Sn系はんだ3の濡れ性が非常によいことから、良好な接合を得ることができる。また、多孔質Ag層に含まれるAgはSn系はんだ3に含まれるSnと反応してAg−Sn化合物を生成する速度が速いため、高融点化することが容易となる。
【0052】
多孔質Ag層を形成する手段の例としては、以下の方法がある。ナノサイズのAg粒子と溶剤とからなるAg粒子ペーストの分割パターンを、被接合部材1のチップ搭載部1bの上面上にスクリーン印刷で形成し、その後、高温槽で焼結させる。あるいは、スクリーン印刷の替わりに、スタンプなどを利用して分割パターンを転写する方式またはディスペンサにより供給する方法でも同様に多孔質Ag層を形成することができる。
【0053】
≪本実施例1による半導体装置の特徴および効果≫
本実施例1による半導体装置の特徴および効果について
図2〜
図4を用いて説明する。
図2は、本実施例1による被接合部材と半導体チップとの接合部の一部を拡大して示す断面図である。
【0054】
図3は、多孔質金属層を分割せずに、チップ搭載部の上面上に半導体チップとほぼ同じ面積の一つの多孔質金属層を形成した場合における被接合部材と半導体チップとの接合部の一部を拡大して示す断面写真である。
【0055】
図4は、多孔質金属層を分割して、チップ搭載部の上面上に複数の多孔質金属層を互いに離間して形成した場合における被接合部材と半導体チップとの接合部の一部を拡大して示す断面写真である。
【0056】
なお、以下の説明では、適宜、
図1(a)および(b)を参照する。
【0057】
1.半導体装置の特徴
本実施例1による半導体装置は、被接合部材と、半導体チップと、被接合部材と半導体チップとを接合する接合部と、を備える。そして、上記接合部が、被接合部材のチップ搭載部の上面上に互いに離間して形成された複数の多孔質金属層と、半導体チップの裏面のNi電極に接して形成されたCu−Sn化合物からなる第1の層と、複数の多孔質金属層を覆ってチップ搭載部の上面と第1の層との間に介在する、Snを主成分とする金属間化合物からなる第2の層と、を有することを特徴とする。Snを主成分とする金属間化合物は、例えばAg−Sn化合物およびCu−Sn化合物である。
【0058】
2.耐熱性について
接合に用いたSn系はんだに含まれるSnが被接合部材と半導体チップとの接合部に残存すると、その部分の耐熱性は低いため、接合部において所望する耐熱性が得られない可能性がある。
【0059】
しかし、本実施例1によれば、被接合部材と半導体チップとの接合部の耐熱性を向上させることができる。以下に、その理由を説明する。
【0060】
図1(a)および(b)に示したように、本実施例1による被接合部材1と半導体チップ4との接合部では、チップ搭載部1bの上面上に互いに離間して複数の多孔質金属層2を形成したことにより、チップ搭載部1bの上面上に半導体チップ4とほぼ同じ面積の一つの多孔質金属層2を形成した場合と比較して、Sn系はんだ3と接する多孔質金属層2の表面積が増加する。このように、Sn系はんだ3と接する多孔質金属層2の表面積が増加することから、多孔質金属層2に含まれるAgとSn系はんだ3に含まれるSnとの反応が促進する。
【0061】
さらに、
図2に示すように、互いに隣り合う多孔質金属層2の間に露出するチップ搭載部1bから、チップ搭載部1bを構成するCuがSn系はんだ3内へ拡散し、そのCuとSn系はんだ3に含まれるSnとが反応して、Cu−Sn化合物が形成される。
【0062】
このように、Ag−Sn化合物の生成に加えて、Cu−Sn化合物が生成されるので、Sn系はんだ3に含まれるSnが消費されやすく、被接合部材1と半導体チップ4との接合部にSn系はんだ3に含まれるSnが残存することを防止することができる。これにより、被接合部材1と半導体チップ4との接合部において所望する耐熱性を得ることができるので、半導体装置において高温駆動が可能となる。
【0063】
3.信頼性について
(第1の効果)
多孔質金属層を分割せずに、チップ搭載部の上面上に半導体チップとほぼ同じ面積の一つの多孔質金属層を形成して、熱処理により、多孔質金属層に含まれるAgとSn系はんだに含まれるSnとを反応させた場合は、被接合部材と半導体チップとの接合部にAg−Sn化合物が形成される。
【0064】
ところが、Ag−Sn化合物が、多孔質金属層から成長して半導体チップの裏面のNi電極に達するまでには、例えば300℃の温度で1.5〜2時間程度の熱処理が必要となる。この間、
図3に示すように、Ni電極を構成するNiとSn系はんだに含まれるSnとが反応して、Ni−Sn化合物が形成される。Ni電極を構成するNiが全て反応してしまうと、半導体チップの裏面からNi−Sn化合物が剥離して、半導体装置が壊れる恐れがある。
【0065】
このため、金属間化合物を形成する熱処理は短時間で行うことが要求される。しかし、短時間の熱処理では、前述したように、被接合部材と半導体チップとの接合部にSnが残存するという問題がある。
【0066】
しかし、本実施例1によれば、Ni−Sn化合物の生成を抑制して半導体装置の破壊を回避することができる。以下に、その理由を説明する。
【0067】
図1(a)および(b)に示したように、本実施例1による被接合部材1と半導体チップ4との接合部では、チップ搭載部1bの上面上に互いに離間して複数の多孔質金属層2を形成している。これにより、互いに隣り合う多孔質金属層2の間に露出するチップ搭載部1bから、チップ搭載部1bを構成するCuがSn系はんだ3内へ拡散し、そのCuとSn系はんだ3に含まれるSnとが反応して、Cu−Sn化合物が形成される。
【0068】
さらに、そのCuはSn系はんだ3内を半導体チップ4の裏面へ向かって拡散し、Niの結晶構造とCuの結晶構造とが似ていることから、CuがNi電極5の表面に析出する。そして、
図4に示すように、その析出したCuとSn系はんだ3に含まれるSnとの反応が促進することにより、Ni電極5に接してCu−Sn化合物が形成される。
【0069】
これにより、
図2に示したように、複数の多孔質金属層2の上面および側面に、主としてAg−Sn化合物(例えばAg
3Sn)からなる金属間化合物層6が形成される。また、互いに隣り合う多孔質金属層2の間に露出するチップ搭載部1bの上面に、主としてCu−Sn化合物(例えばCu
3Sn)からなる金属間化合物層7が形成される。
【0070】
また、半導体チップ4の裏面のNi電極5に接して、主としてCu−Sn化合物(例えばCu
6Sn
5)からなる金属間化合物層8が形成される。
【0071】
そして、チップ搭載部1bと金属間化合物層8との間、具体的には、被接合部材1側に形成された金属間化合物層6および金属間化合物層7と、半導体チップ4側に形成された金属間化合物層8との間に、Snを主成分とする金属間化合物からなる金属間化合物層9が形成される。Snを主成分とする金属間化合物とは、例えばAg−Sn化合物(例えばAg
3Sn)およびCu−Sn化合物(例えばCu
6Sn
5)である。
【0072】
このように、半導体チップ4の裏面のNi電極5に接してCu−Sn化合物からなる金属間化合物層8が形成されることにより、半導体チップ4の裏面におけるNi−Sn化合物の生成が抑制できるので、Ni−Sn化合物の生成による半導体装置の破壊を回避することができる。
【0073】
本発明者らが検討したところ、例えば300℃の温度で30分程度の熱処理により、半導体チップ4の裏面のNi電極5に接してCu−Sn化合物からなる金属間化合物層8が形成され、複数の多孔質金属層2を覆ってチップ搭載部1bの上面とCu−Sn化合物からなる金属間化合物層8との間にAg−Sn化合物およびCu−Sn化合物を形成することができた。
【0074】
(第2の効果)
被接合部材と半導体チップとの接合部を全て金属間化合物で形成した場合、金属間化合物が脆性であるため、接合部に大きな衝撃が加わると、一気に接合部が破壊するおそれがある。
【0075】
しかし、本実施例1によれば、
図1(a)および(b)に示したように、短時間の熱処理により、被接合部材1と半導体チップ4との接合部にAg−Sn化合物およびCu−Sn化合物を形成することができる。
【0076】
従って、多孔質金属層2が全て金属間化合物になる前に、金属間化合物を生成する反応が止まり、複数の多孔質金属層2をチップ搭載部1bの上面上に残すことができる。チップ搭載部1bの上面上に残る複数の多孔質金属層2が被接合部材1と半導体チップ4との接合部に加わった衝撃を吸収するので、接合部の破壊を抑えることができる。
【0077】
また、金属間化合物に亀裂が生じても、その亀裂は多孔質金属層2で止まり、接合部の破壊を抑えることができる。
【0078】
≪多孔質金属層の平面パターン≫
複数の多孔質金属層の平面パターンの一例を
図5〜
図7に示す。
図5は、本実施例1による互いに離間して形成された複数の多孔質金属層の第1の配置例を示す平面図である。
図6は、本実施例1による互いに離間して形成された複数の多孔質金属層の第2の配置例を示す平面図である。
図7は、本実施例1による互いに離間して形成された複数の多孔質金属層の第3の配置例を示す平面図である。
【0079】
被接合部材のチップ搭載部の主面上に、チップ搭載部に接して形成される複数の多孔質金属層の平面パターンは、Sn系はんだと接触する表面積が増加するように、微細であることが望ましい。これは、Sn系はんだと接触する多孔質金属層の表面積が小さいと、金属間化合物を生成する時間が長くなるからである。
【0080】
平面視において、半導体チップに対する複数の多孔質金属層の面積比率は、40%以上、かつ、80%以下であることが望ましい。面積比率が40%よりも小さい場合、残部が金属間化合物となるため、被接合部材と半導体チップとの接合部の特性として脆性が強くなり信頼性が低下するおそれがある。一方、面積比率が80%よりも大きい場合、接合時に供給するSn系はんだの量が少なくなり、被接合部材と半導体チップとの接合部の全域を良好に接合することが難しくなる。
【0081】
図5に示す多孔質金属層2のレイアウトでは、X方向に沿って第1間隔で配置された複数の多孔質金属層2が、X方向とチップ搭載部1bの表面において直交するY方向に沿って第2間隔で配置されている。多孔質金属層2は、平面視において四角形状であり、その1辺の寸法は10〜15μm程度である。第1間隔と第2間隔とは同じであってもよく、または異なっていてもよい。また、千鳥配列となるように配置してもよい。
【0082】
図6に示す多孔質金属層2のレイアウトでは、X方向に沿って延在する複数の多孔質金属層2が、Y方向に互いに離間して配置されている。所謂ストライプ状に複数の多孔質金属層2は配置されている。Y方向の多孔質金属層2の幅は、例えば10〜15μm程度である。
【0083】
図7に示す多孔質金属層2のレイアウトでは、X方向に沿って第1間隔で配置された複数の多孔質金属層2が、Y方向に沿って第2間隔で配置されている。多孔質金属層2は、平面視において円形状であり、その直径は10〜15μm程度である。第1間隔と第2間隔とは同じであってもよく、または異なっていてもよい。また、千鳥配列となるように配置してもよい。
【0084】
≪変形例1≫
前述の実施例1では、はんだにSn系はんだを用いたが、In系はんだを用いることもできる。
【0085】
変形例1による接合部は、被接合部材のチップ搭載部の上面上に互いに離間して形成された複数の多孔質金属層と、半導体チップの裏面のNi電極に接して形成されたCu−In化合物からなる第1の層と、複数の多孔質金属層を覆ってチップ搭載部の上面と第1の層との間に介在する、Inを主成分とする金属間化合物からなる第2の層と、を有することを特徴とする。
【0086】
これにより、前述の実施例1とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0087】
≪変形例2≫
前述の実施例1では、被接合部材のチップ搭載部をCu膜により構成したが、チップ搭載部を、表面にCu膜が形成された部材により構成することもできる。
【0088】
変形例2による接合部は、被接合部材のチップ搭載部の上面上に互いに離間して形成された複数の多孔質金属層と、半導体チップの裏面のNi電極に接して形成されたCu−Sn化合物からなる第1の層と、複数の多孔質金属層を覆ってチップ搭載部の上面と第1の層との間に介在する、Snを主成分とする金属間化合物からなる第2の層と、を有する。さらに、チップ搭載部は、表面にCu膜が形成された部材からなることを特徴とする。
【0089】
チップ搭載部を構成するCu膜からCuがSn系はんだに拡散して、反応することにより、Cu−Sn化合物を形成することができるので、前述の実施例1とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0090】
なお、はんだは、Sn系はんだに限定されるものではなく、例えばIn系はんだであってもよい。また、被接合部材を構成する、基板の第1主面および第2主面にそれぞれ形成された配線パターンもCu膜を表面に有する部材により構成してもよい。
【0091】
≪変形例3≫
前述の実施例1では、被接合部材のチップ搭載部をCu膜により構成したが、チップ搭載部を、表面にCu膜が形成された部材により構成し、さらに、そのCu膜の表面にAgめっきを施してもよい。
【0092】
変形例3による接合部は、被接合部材のチップ搭載部の上面上に互いに離間して形成された複数の多孔質金属層と、半導体チップの裏面のNi電極に接して形成されたCu−Sn化合物からなる第1の層と、複数の多孔質金属層を覆ってチップ搭載部の上面と第1の層との間に介在する、Snを主成分とする金属間化合物からなる第2の層と、を有する。さらに、チップ搭載部は、表面にCu膜が形成された部材からなり、そのCu膜の表面にはAgめっきが施されていることを特徴とする。
【0093】
チップ搭載部が、Agめっきを施したCu膜を表面に有する部材であることにより、多孔質金属層の接合強度を高めることができる。
【0094】
例えば複数の多孔質金属層がAgからなる場合、複数の多孔質金属層は、ペースト状のAgを、Agめっきを施したCu部材の上面上にスクリーン印刷法により印刷し、焼結することにより形成される。この場合、Agめっきを施していないCu部材の場合よりも高い接合強度を得ることができる。また、上記焼結の際、非酸化雰囲気でなくても、AgがCu部材の表面を覆っていることで、チップ搭載部の酸化を防止することができる。チップ搭載部が酸化すると、Sn系はんだで接合する際に接合不良に繋がるおそれがあるが、変形例3では、この接合不良を回避することができる。
【0095】
Agめっきの厚さは3μm以下にすることが望ましい。Agめっきの厚さが3μmよりも厚い場合、Sn系はんだで接合した際に、露出するチップ搭載部からAgめっきがSn系はんだ内に溶融せず、Agめっきの下地のCuがSn系はんだへ拡散しないおそれがある。CuがSn系はんだへ拡散しない場合、半導体チップの裏面のNi電極に接してCu−Sn化合物からなる金属間化合物層を形成することが難しくなる。
【0096】
Agめっきを3μmよりも厚くせざるを得ない場合には、複数の多孔質金属層を、Cuを含む金属により構成する(後述の変形例6および7参照)、または半導体チップの裏面のNi電極に接してCu層を設けるなどの方法により、Ni電極に接してCu−Sn化合物からなる金属間化合物層を形成するためのCuを供給する。
【0097】
なお、はんだは、Sn系はんだに限定されるものではなく、例えばIn系はんだであってもよい。また、被接合部材を構成する、基板の第1主面および第2主面にそれぞれ形成された配線パターンもAgめっきを施したCu膜を表面に有する部材により構成してもよい。
【0098】
≪変形例4≫
前述の実施例1では、被接合部材のチップ搭載部をCu膜により構成したが、チップ搭載部を、表面にCu膜が形成された部材により構成し、さらに、そのCu膜の表面にAuめっきを施してもよい。
【0099】
変形例4による接合部は、被接合部材のチップ搭載部の上面上に互いに離間して形成された複数の多孔質金属層と、半導体チップの裏面のNi電極に接して形成されたCu−Sn化合物からなる第1の層と、複数の多孔質金属層を覆ってチップ搭載部の上面と第1の層との間に介在する、Snを主成分とする金属間化合物からなる第2の層と、を有する。さらに、チップ搭載部は、表面にCu膜が形成された部材からなり、そのCu膜の表面にはAuめっきが施されていることを特徴とする。
【0100】
チップ搭載部が、Auめっきを施したCu膜を表面に有する部材であることにより、多孔質金属層の接合強度を高めることができる。
【0101】
例えば複数の多孔質金属層がAgからなる場合、複数の多孔質金属層は、ペースト状のAgを、Auめっきを施したCu部材の上面上にスクリーン印刷法により印刷し、焼結することにより形成される。この場合、Auめっきを施していないCu部材の場合よりも高い接合強度を得ることができる。また、上記焼結の際、非酸化雰囲気でなくても、AuがCu部材の表面を覆っていることで、チップ搭載部の酸化を防止することができる。チップ搭載部が酸化すると、Sn系はんだで接合する際に接合不良に繋がるおそれがあるが、変形例4では、この接合不良を回避することができる。
【0102】
Auめっきの厚さが1μm以下であれば、Sn系はんだで接合した際に、露出するチップ搭載部からAuめっきはSn系はんだ内に溶融し、Auめっきの下地のCuがSn系はんだへ拡散する。CuがSn系はんだと反応することにより、半導体チップの裏面のNi電極に接してCu−Sn化合物からなる金属間化合物層を形成することができる。
【0103】
なお、はんだは、Sn系はんだに限定されるものではなく、例えばIn系はんだであってもよい。また、被接合部材を構成する、基板の第1主面および第2主面にそれぞれ形成された配線パターンもAuめっきを施したCu膜を表面に有する部材により構成してもよい。
【0104】
≪変形例5≫
前述の実施例1では、被接合部材のチップ搭載部をCu膜により構成したが、チップ搭載部を、表面にCu膜が形成された部材により構成し、さらに、そのCu膜の表面にNiめっきを施してもよい。
【0105】
変形例5による接合部は、被接合部材のチップ搭載部の上面上に互いに離間して形成された複数の多孔質金属層と、半導体チップの裏面のNi電極に接して形成されたCu−Sn化合物からなる第1の層と、複数の多孔質金属層を覆ってチップ搭載部の上面と第1の層との間に介在する、Snを主成分とする金属間化合物からなる第2の層と、を有する。さらに、チップ搭載部は、表面にCu膜が形成された部材からなり、そのCu膜の表面にはNiめっきが施されていることを特徴とする。
【0106】
高温環境下で常時使用される半導体装置の中には、被接合部材のチップ搭載部が露出していると、酸化によりCuが変色するものがある。しかし、Cu膜の表面にNiめっきを施すことにより、変色を防止することができる。
【0107】
Niめっきの厚さが1μm以下であれば、Sn系はんだで接合した際に、露出するチップ搭載部からNiめっきはSn系はんだ内に溶融し、Niめっきの下地のCuがSn系はんだへ拡散する。CuがSn系はんだと反応することにより、半導体チップの裏面のNi電極に接してCu−Sn化合物からなる金属間化合物層を形成することができる。
【0108】
なお、はんだは、Sn系はんだに限定されるものではなく、例えばIn系はんだであってもよい。また、被接合部材を構成する、基板の第1主面および第2主面にそれぞれ形成された配線パターンもNiめっきを施したCu膜を表面に有する部材により構成してもよい。
【0109】
図8は、実施例1の変形例5による被接合部材と半導体チップとの接合部の一部を拡大して示す断面図である。
【0110】
図8に示すように、チップ搭載部1bは、基材1b1と、基材1b1上に形成されたCu膜1b2と、Cu膜1b2の表面に施されたNiめっき1b3と、から構成される。基材1b1と、Niめっき1b3を施さないCu膜1b2と、から構成されるチップ搭載部1bが前記変形例2である。また、Niめっき1b3に替えてCu膜1b2の表面にAgめっきを施したチップ搭載部1bが前記変形例3であり、Niめっき1b3に替えてCu膜1b2の表面にAuめっきを施したチップ搭載部が前記変形例4である。
【0111】
≪変形例6≫
前述の実施例1では、複数の多孔質金属層をAgにより構成したが、Cuにより構成することもできる。
【0112】
変形例6による接合部は、被接合部材のチップ搭載部の上面上に互いに離間して形成された複数の多孔質金属層と、半導体チップの裏面のNi電極に接して形成されたCu−Sn化合物からなる第1の層と、複数の多孔質金属層を覆ってチップ搭載部の上面と第1の層との間に介在する、Snを主成分とする金属間化合物からなる第2の層と、を有する。さらに、複数の多孔質金属層はCuからなることを特徴とする。
【0113】
多孔質金属層に、ナノまたはマイクロレベルのCu粒子を含む多孔質Cu層を用いる。多孔質Cu層は、Sn系はんだで接合する際に、Sn系はんだの濡れ性が非常によいことから、良好な接合を得ることができる。また、多孔質Cu層に含まれるCuはSn系はんだに含まれるSnと反応してCu−Sn化合物を生成する速度が速いため、高融点化することが容易となる。
【0114】
また、Cuは、チップ搭載部からだけでなく、多結晶Cu層からもSn系はんだ内へ拡散し、そのCuとSn系はんだに含まれるSnとが反応してCu−Sn化合物が形成される。従って、被接合部材のチップ搭載部を、例えば1μm以上の厚さのNiめっきを施したCu膜を表面に有する部材により構成した場合であっても、短時間で被接合部材と半導体チップとの接合部にCu−Sn化合物を形成することができる。
【0115】
図9は、実施例1の変形例6による被接合部材と半導体チップとの接合部の一部を拡大して示す断面図である。
【0116】
図9に示すように、接合部の部位によっては、互いに組成比の異なるCu−Sn化合物が形成される。例えば多孔質Cu層10の上面および側面に、組成比を主としてCu
3SnとするCu−Sn化合物11が形成され、同様に、互いに隣り合う多孔質Cu層10の間に露出するチップ搭載部1bの上面に、組成比を主としてCu
3SnとするCu−Sn化合物11が形成され、その他の部分に、組成比を主としてCu
6Sn
5とするCu−Sn化合物12形成される。
【0117】
多孔質Cu層を形成する手段の例としては、以下の方法がある。ナノサイズのCu粒子と溶剤とからなるCu粒子ペーストの分割パターンを、被接合部材のチップ搭載部の上面上にスクリーン印刷で形成し、その後、高温槽で焼結させる。あるいは、スクリーン印刷の替わりに、スタンプなどを利用して分割パターンを転写する方式またはディスペンサにより供給する方法でも同様に多孔質Cu層を形成することができる。
【0118】
なお、はんだは、Sn系はんだに限定されるものではなく、例えばIn系はんだであってもよい。
【0119】
≪変形例7≫
前述の実施例1では、複数の多孔質金属層をAgにより構成したが、AgおよびCuにより構成することもできる。
【0120】
変形例7による接合部は、被接合部材のチップ搭載部の上面上に互いに離間して形成された複数の多孔質金属層と、半導体チップの裏面のNi電極に接して形成されたCu−Sn化合物からなる第1の層と、複数の多孔質金属層を覆ってチップ搭載部の上面と第1の層との間に介在する、Snを主成分とする金属間化合物からなる第2の層と、を有する。さらに、複数の多孔質金属層はAgおよびCuからなることを特徴とする。
【0121】
多孔質金属層に、ナノまたはマイクロレベルのAg粒子およびCu粒子を含む多孔質Ag−Cu層を用いる。多孔質Ag−Cu層は、Sn系はんだで接合する際に、Sn系はんだの濡れ性が非常によいことから、良好な接合を得ることができる。また、多孔質Ag−Cu層に含まれるCuはSn系はんだに含まれるSnと反応してCu−Sn化合物を生成する速度が速いため、高融点化することが容易である。
【0122】
また、Cuは、チップ搭載部からだけでなく、多結晶Ag−Cu層からもSn系はんだ内へ拡散し、そのCuとSn系はんだに含まれるSnとが反応してCu−Sn化合物が形成される。従って、被接合部材のチップ搭載部を、例えば1μm以上の厚さのNiめっきを施したCu膜を表面に有する部材により構成した場合であっても、短時間で被接合部材と半導体チップとの接合部にCu−Sn化合物を形成することができる。
【0123】
多孔質Ag−Cu層を形成する手段の例としては、以下の方法がある。ナノサイズのAg粒子とCu粒子と溶剤とからなるAg−Cu粒子ペーストの分割パターンを、被接合部材のチップ搭載部の上面上にスクリーン印刷で形成し、その後、高温槽で焼結させる。あるいは、スクリーン印刷の替わりに、スタンプなどを利用して分割パターンを転写する方式またはディスペンサにより供給する方法でも同様に多孔質Ag−Cu層を形成することができる。
【0124】
なお、はんだは、Sn系はんだに限定されるものではなく、例えばIn系はんだであってもよい。
【0125】
このように、本実施例1による被接合部材と半導体チップとの接合部は、被接合部材のチップ搭載部の上面上に互いに離間して形成された複数の多孔質金属層と、半導体チップの裏面のNi電極に接して形成されたCu−Sn化合物からなる第1の層と、複数の多孔質金属層を覆ってチップ搭載部の上面と第1の層との間に介在する、Snを主成分とする金属間化合物からなる第2の層と、を有する。これにより、高温環境下において高い信頼性を有する鉛フリー半導体装置を実現することができる。