【文献】
Francisco Batista-Viera et al.,A new method for reversible immobilization of thiol biomolecules based on solid-phase bound thiol sulfonate groups,Applied Biochemistry and Biotechnology,1991年,vol.31,pp.175-195
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記化学化合物は、前記ナノチャネルの前記表面と反応する官能基を含み、前記官能基はアクリレート基、アシルハライド基、アミド基、アミン基、カルボキシレート基、カルボキシレートチオール基、エステル基、エーテル基、ヒドロキサム酸基、ヒドロキシル基、メタクリレート基、ニトレート基、ニトリル基、リン酸基、ホスフィン基、ホスホン酸
基、シラン基、スルフェート基、スルフィド基、スルフィット基、チオレート基、アルケ
ン基、アルキン基、アジド基、アセタール基、アルデヒド基、ジエン基、無水物またはこれらの任意の組み合わせである、請求項5に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に開示されるのは、ナノポア構造体内もしくはナノポア装置内またはその両方のナノチャネルの表面を可逆的に被覆する可逆的結合を使用するための方法である。コーティングを含むナノポア構造体と、コーティングを作製および使用するための方法との両方を開示する。例示的な一実施形態では、可逆的結合は、2つの硫黄原子間で形成される共有結合であるジスルフィド結合である。
【0014】
本明細書で使用する場合、「アナライト」という用語は、解析を行っている、または検出しようとしている化合物、分子、物質、化学成分または生体分子を意味する。本開示は、特定のアナライトに限定することを意図するものではない。代表的なアナライトには、イオン、糖類、タンパク質、核酸および核酸配列がある。
【0015】
本明細書で使用する場合、「ナノポア」という用語は、基板と、「ナノチャネル」、すなわちイオン電流が流れることができる、基板を通り抜けるナノスケールの通路とを有する構造体を意味する。ナノポアの内径は、使用目的によって大きく異なってもよい。
【0016】
本明細書で使用する場合、「ナノポア装置」という用語は、2つの流体リザーバを分断するナノポアを意味する。動作に関しては、シス側およびトランス側の2つの流体リザーバは、荷電イオン、電解質もしくは目的のアナライトまたはそれらすべてを含む水溶液で満たされている。荷電イオン、電解質もしくはアナライトまたはそれらすべては、濃度勾配あるいは印加された電場により動かされてナノチャネルを通り流体リザーバ間を通過する。
【0017】
本明細書で使用する場合、「可逆的結合」という用語は、任意の化学結合が、当該技術分野において公知の好適な分析方法により破壊、切断、開裂または解消され得ることを意味する。破壊、開裂、切断という用語および同様の用語は、同義で使われる。
【0018】
本明細書で使用する場合、「スルフヒドリル」、「チオ」および「チオール」という用語は、硫黄を含む官能基を意味する。スルフヒドリル官能基およびチオール官能基は、−SH部分を含む。スルフヒドリル官能基およびチオール官能基は反応性であり、酸化されてジスルフィド結合を形成することができる。
【0019】
本明細書で使用する場合、「ジスルフィド」および「ジスルフィド結合」という用語は、連結した硫黄原子対からなる構造単位を意味する。特に、2つのスルフヒドリル基は一緒になって−S−S−結合を形成する。こうしたジスルフィド結合は、還元剤で破壊して、その後元のスルフヒドリル基を再形成することができる。
【0020】
本明細書で使用する場合、「還元剤」という用語は、ジスルフィド結合を還元または破壊する任意の元素、化合物もしくは化合物または元素の組み合わせあるいはそれらすべてを意味する。
【0021】
本明細書で使用する場合、「リガンド」および「アナライト結合基」という用語は同義で使われる。リガンドおよびアナライト結合基という用語は、別の分子またはアナライトと結合することが知られているまたは予想される任意の分子または官能基を意味する。リガンドおよびアナライト結合基という用語は、阻害剤、アクチベーター、アゴニスト、アンタゴニスト、天然基質、天然基質のアナログ、抗体、化学化合物、化学官能基またはこれらの任意の組み合わせを包含する。
【0022】
本明細書で使用する場合、「単層」という用語は、実質的に1分子厚、1原子厚または1層厚である層を意味する。実質的には1層厚であるけれども、0分子から2分子程度の多少のばらつきは、開示された実施形態の範囲内である。
【0023】
ナノポア装置は、ナノポア構造体で分断された2つの流体リザーバを含む装置である。ナノポア構造体は、基板を貫通するナノチャネルを含み、かつ2つの流体リザーバを連結する基板または膜、たとえば、シリカニトリド膜を含む。ナノチャネルは、ナノメートルスケール以上の直径のチャネルであり、チャネルは、たとえば透過型電子顕微鏡(TEM:transmission electron microscopy)を用いて基板に穴を開けてもよい。ナノポア基板は、平行分析(parallel analysis)のため2つ以上のナノチャネルを含んでもよい。
【0024】
ナノチャネルおよび流体リザーバは、荷電イオン(緩衝液)もしくはナノチャネルを通って2つの流体リザーバ間を通過する他のアナライトまたはその両方を含む水性電解質溶液で満たしてもよい。荷電イオンもしくはアナライトまたはその両方は、たとえば、濃度勾配または印加された電場により動かすことができる。
【0025】
図1は、ナノポア装置100の例示的実施形態の一部切欠側面図を図示する。ナノポア装置100は、第1の表面122および第2の表面124を有する基板120を含むナノポア構造体101を含む。基板120は、第1の表面122から第2の表面124まで基板120を貫通し、シス側流体リザーバ102およびトランス側流体リザーバ104を分断するナノチャネル130を含む。ナノチャネル130は、流体がリザーバ間を流れるナノチャネル130の内側を覆う表面140を含む。動作については、シス側流体リザーバおよびトランス側流体リザーバ102および104はそれぞれ、任意の水性電解質または荷電イオンを含む溶液もしくは緩衝溶液110で満たすことができる。ナノポア装置100は単なる例示的実施形態である。ナノポア装置100の他の実施形態を使用してもよい。
【0026】
緩衝液溶液110は一般に多岐にわたり、限定することを意図するものではない。緩衝液溶液110のpH、緩衝液およびイオンなどの組成は、特定の用途によって異なる。一実施形態では、シス側流体リザーバ102およびトランス側流体リザーバ104は、同一もしくは異なる流体または緩衝液を含んでもよい。
【0027】
ナノポア構造体101は、チップ、ディスク、ブロック、プレートおよび同種のものなどの基板120から製造することができる。こうした基板120は、種々の材料、以下に限定されるものではないが、酸化シリコンおよび窒化シリコンなどのシリコン、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム、ガラス、セラミック、ゲルマニウム、ポリマー(たとえば、ポリスチレン)もしくはガリウムヒ素またはそれらすべてから作ることができる。基板120はエッチングすることができ、たとえば、チップは半導体チップであってもよい。基板120は多層基板であってもよい。本明細書の目的上、多層基板の任意の中央材料が外側材料と同一または異なることを意図するものではない。ナノポア基板120の厚さ、および多層基板内の各層の厚さは、一般に多岐にわたってもよい。ナノポア基板120の個々の厚さは、限定することを意図するものではなく、特定の用途によって異なる。ナノチャネル130の表面140の特性および組成は、基板120の構造によって異なる。したがって、表面140は、基板120を構成する材料のいずれからなってもよい。
【0028】
ナノポア基板120は、任意の好適な製造プロセス、以下に限定されるものではないが、化学気相成長(CVD)法、プラズマ化学気相成長(PECVD:plasma enhanced CVD)法、リソグラフィによるパターニングおよびエッチング法、ならびにエピタキシャル成長法を用いて製造することができる。その後、任意の好適なプロセス、以下に限定されるものではないが、電子ビーム穿孔、たとえばTEM、またはイオンビーム穿孔により、基板を通るナノポア内のチャネルを製造することができる。任意に、ナノポア基板120は、平行分析のため第2、第3または第4のナノチャネルを含む。
【0029】
ナノチャネル130の直径dは、任意の用途に合わせて調整することができる。したがって、以下の直径は、限定的であることを意図するものではない。一実施形態では、ナノチャネルのチャネル直径dは約1〜約1,000nmである。別の実施形態では、ナノチャネルの直径dは約5〜約50nmである。なお別の実施形態では、ナノチャネルの直径dは約10〜約20nmである。
【0030】
緩衝液110中のイオン、分子またはアナライトのナノチャネル130の通過は、たとえば、印加された電場によるイオンの移動から電流変化を測定することにより、検出または測定することができる。緩衝液110には、どのような分子またはアナライトが含まれていてもよい。しかしながら、ナノポアの両端(across thenanopore)の電気信号を測定するため基板120の埋め込み電極の使用など、アナライトの結合を検出する他の任意の方法を使用してもよい。電気信号は、イオン電流、トンネル電流、電場および電位の少なくとも1つから生じ得る。
【0031】
ナノチャネル130の表面140の少なくとも一部に設けられたコーティングは、ナノチャネル130の物理化学的特性を変化させることができる。さらに、コーティングは、目的のアナライトに特異的な表面露出した官能基を与えることもできる。アナライトがコーティングの表面上のリガンドまたは特異的アナライト結合基に結合すると、測定電流の変化を検出することができる。こうした電流変化は、アナライトに関する化学的情報、生物物理学的情報および生化学的情報を与える。あるいは、ナノチャネルの表面上にアナライト結合化合物を設けると、アナライト結合基へのアナライトの結合を電気的に検出することができる。
【0032】
しかしながら、従来のコーティングは不可逆であり、特定のアナライト解析用に個々のナノポア構造体を製造する必要があるため、欠点を有する。さらに、コーティングを除去するための洗浄方法も、時間がかかるうえ、ナノポアそれ自体に構造損傷を引き起こし得る刺激性の強い試薬を必要とする。
【0033】
さらに、従来のコーティングの一部は大きなタンパク質、ペプチドまたは分子を利用する。したがって、これらのコーティングは、使用できるナノチャネルの直径を限定することがある。
【0034】
一方、本明細書に開示されるのは、ナノチャネル130の表面140に設けることができる汎用性があり再利用可能なコーティングである。特に、コーティングを形成するため、可逆的結合を使用する。最初に、単層またはコーティングを形成するため、ナノチャネル表面140に化学化合物を設ける。化学化合物は、可逆的結合を形成できる反応性官能基を含む。その後、その化学化合物と可逆的結合を形成し、同時に目的のアナライトに結合できる化学化合物を単層上に設ける。ナノチャネル130にアナライトを導入後、アナライトはナノチャネル表面上のアナライト結合基に結合する。解析が終了したら、コーティングを解消してもよいし、あるいは可逆的結合を破壊してもよく、新しいコーティングを塗布することができる。この方法により再使用および汎用性が可能になる。
【0035】
図2は、ナノポア構造体101(
図1を参照)内のコートされたナノチャネル200の例示的実施形態の一部切欠側面図を図示する。再び
図1を参照して、ナノポア構造体101のナノチャネル130は、ナノチャネル130の表面140の少なくとも一部に設けられた反応性官能基を含む化学化合物210の単層またはコーティングを含んでもよい。反応性官能基は反応性スルフヒドリル基であってもよい。ナノチャネル130の切開部(cut through)は、スルフヒドリル基がナノチャネル130の中心に向かって配向した化学化合物210でコートされたナノチャネル130の表面140を示す。コートされたナノチャネル200は、単なる例示的実施形態である。コートされたナノチャネル200の他の実施形態を使用してもよい。
【0036】
一実施形態では、化学化合物210は、別の官能基と可逆的結合を形成できる任意の反応性官能基、分子または生体分子を含む。可逆的結合の形成が可能な反応基の好適な例として、タンパク質、ペプチド、抗体、小分子、ポリマー、脂質、ポリヌクレオチド、DNA鎖、炭水化物またはこれらの任意の組み合わせが挙げられる。好適な反応基の他の非限定的な例には、アクリレート基、アシルハライド基、アミド基、アミン基、カルボキシレート基、カルボキシレートチオール基、エステル基、エーテル基、ヒドロキサム酸基、ヒドロキシル基、メタクリレート基、ニトレート基、ニトリル基、リン酸基、ホスフィン基、ホスホン酸基、シラン基、スルフェート基、スルフィド基、スルフィット基、スルフヒドリル基、チオレート基、アルケン基、アルキン基、アジド基、アセタール基、アルデヒド基、ジエン基、無水物またはこれらの任意の組み合わせがある。
【0037】
別の実施形態では、単層を形成する化学化合物210は第1の反応性スルフヒドリル基を含み、ナノチャネル130の表面140を実質的に被覆する。単層の上に設けられたアナライト結合化合物はさらに、可逆的ジスルフィド結合を形成できる第2のスルフヒドリル基を含む。
【0038】
別の実施形態では、コーティングは、ナノチャネル130の表面140の全部または一部を実質的に被覆してもよい。化学化合物210は、ナノチャネル130の表面140上に単層またはコーティングを形成することができる。さらに複数層を使用してもよい。
【0039】
コーティングまたは単層は最初に、ナノポア構造体101の製造プロセスにおいて化学化合物210をナノチャネル表面140の任意の場所に設けることにより、形成することができる。実質的に表面140から離れる方向もしくはナノチャネル130の中心の方向またはその両方に向いている可逆的結合を形成する反応基に加えて、化学化合物210は、表面140と相互作用する官能基を含む。官能基は、官能基が表面140に結合する、または表面140と接触生成物(contact product)を形成することができれば、ナノチャネル130の表面140に対してどのような親和性を有してもよい。
【0040】
表面140と接触生成物を形成する化学化合物210の官能基は一般に多岐にわたり、限定することを意図するものではない。選択される官能基は、基板120の表面特性によって異なる。好適な官能基として、アクリレート基、アシルハライド基、アミド基、アミン基、カルボキシレート基、カルボキシレートチオール基、エステル基、エーテル基、ヒドロキサム酸基、ヒドロキシル基、メタクリレート基、ニトレート基、ニトリル基、リン酸基、ホスフィン基、ホスホン酸基、シラン基、スルフェート基、スルフィド基、スルフィット基、チオレート基、アルケン基、アルキン基、アジド基、アセタール基、アルデヒド基、ジエン基、無水物またはこれらの任意の組み合わせがあるが、これに限定されるものではない。
【0041】
例示的実施形態では、ナノチャネル130の表面140は比較的塩基性であり、たとえば窒化ケイ素、酸化ハフニウムまたは酸化アルミニウムを含む。次いでホスホン酸基またはヒドロキサム酸基を有する二官能性化学化合物210の単層を表面140に設ける。その結果、化学化合物210のコーティングは、様々なアナライト結合化合物と可逆的で切断可能な結合を形成することができる。
【0042】
ナノチャネル表面との接触生成物を形成する官能基と、化学化合物210の可逆的結合を形成する反応性官能基とは、直接連結していても、あるいはリンカー分子または基を使用することにより間接的に連結していてもよい。任意選択のリンカーは、どのような化学化合物、ポリマーまたは生体高分子でもよい。好適なリンカーの非限定的な例には、様々な長さの炭化水素、ペプチド、生体高分子、合成ポリマー(たとえばポリエチレングリコール(PEG))、またはこれらの任意の組み合わせがある。リンカーの長さは、任意の所望の長さに調整することができる。任意に、リンカーは分岐していてもよい。
【0043】
ナノチャネル130の表面140上の最初の単層は、その後、アナライト結合基に連結する少なくとももう1つの反応基を有する任意の化合物をナノチャネル130の表面140に可逆的に設けることができるため、汎用性があるナノポア構造体101を与える。コーティングの汎用性は、可逆的結合を破壊し、異なるアナライトへの結合または検出に特異的な官能基を有する別の化学化合物との可逆的結合を再形成する能力による。したがって、コーティングを再使用することができる。
【0044】
例示的実施形態では、ナノポア構造体は、ナノチャネルと、ナノチャネルの表面の少なくとも一部に設けられる化学化合物の単層とを含む基板を含み、化学化合物はナノチャネルに導入された少なくとも1つのアナライト結合化合物と可逆的結合を形成する。少なくとも1つのアナライト結合化合物は、可逆的結合を形成する官能基を含んでもよく、可逆的結合は選択的に切断することができる。可逆的結合を選択的に切断できることで、再使用と、多く種類のアナライトを検出する汎用性とが可能になる。
【0045】
特に、開示されたコーティングは、分子の混合物から目的のタンパク質または他の分子の選択的結合を可能にすることにより、こうしたコーティングを有さない従来のナノポア構造体および装置と比較して汎用性を高めるものである。この種のコーティングは、多くの有望な薬剤(リガンドまたはアナライト)について、特定の標的またはアナライト結合基をスクリーニングする創薬用途に使用してもよい。さらに、こうしたコーティングは、診断用途にも拡大し得る。
【0046】
開示されたコーティング法はまた、ナノポア装置の再使用を可能にする。表面官能基化ナノチャネルは不可逆的であるか、あるいは解消しにくい場合があるため、新たなナノチャネル表面官能基化が必要になるたびに、たとえば、新しいリガンドまたはアナライト結合基が必要になるたびに、新しいナノチャネルを使用しなければならない。しかしながら、ナノチャネル表面に官能基化分子を可逆的に結合する可逆的結合を使用すると、ナノチャネル表面の除去および再コーティングが容易になることによりナノチャネルの汎用性が高まる。
【0047】
可逆的コーティングとしてジスルフィド結合を使用すると、リガンドまたはアナライト結合基/レセプタが、表面それ自体ではなく可逆的な機能表面の一部になるため、融通性が高まる。したがって、チャネルを被覆する部分の大きさを制御することができる。
【0048】
タンパク質または他のアナライトの結合時にナノチャネルの閉塞を最大にする必要がある用途では、タンパク質などコーティングに結合するより大きな分子を有し、リガンドなどのより小さい分子を組み込むと有利である。こうすると電気信号の変化が大きくなる。特に、分子が大きくなるとナノポア内で排除される流体の量が大きくなることで、ポア進入時の電気信号が増大する。これにより信号が増大し、装置の感度が向上する。さらに、コーティングにジスルフィド結合などの可逆的結合を使用することは、ナノチャネルの大きさを損なう必要がないことを意味する。
【0049】
開示された再利用可能なコーティングの別の利点は、リガンドが小さくてもポアサイズが実質的に小さくならないことである。従来のコーティングとは異なり、たとえば大きなヒスチジンタグ抗体を含むコーティング、ジスルフィドを含むコーティング、または小さな官能基または結合の利用を含むことにより、コーティングにはサイズ制限がない。
【0050】
さらに、コーティングは、結合がジスルフィド結合である場合、還元剤などの化学的切断剤を用いて容易に除去され、除去のための刺激性の強い試薬を必要としない。このため、本ナノチャネルコーティングは、より汎用性があり、したがって本技術は、スループットの面でより安定している。
【0051】
可逆的結合がジスルフィド結合である場合、コーティングの化学化合物は、より大きなペプチド/タンパク質タグでなく、小さな機能的スルフヒドリル基を含みさえすればよい。コーティングに使用される化学化合物、特にタンパク質のタグ化は、化学化合物の機能に影響を与える場合がある。コーティングの化学化合物においてタグの必要性を排除すると、タンパク質タグ化の従来の方法により利用できなかった可能性がある系を利用することができる。
【0052】
図3は、ジスルフィドを含む再利用可能なコーティングを含むナノポア構造体300の例示的実施形態の一部切欠側面図を図示する。第1のスルフヒドリル基を含む化学化合物210の単層をナノチャネル130の表面140の少なくとも一部に付着させた後、第1のスルフヒドリル基と可逆的ジスルフィド結合310を形成する第2のスルフヒドリル基を含むアナライト結合化合物350を単層に設ける。さらに、アナライト結合化合物350は、目的のアナライト340と相互作用するまたは接触生成物を形成するアナライト結合基330を含む。アナライト結合基330は第2のスルフヒドリル基に直接連結していてもよいが、任意に、アナライト結合化合物350は、ジスルフィド結合310を形成する第2のスルフヒドリル基にアナライト結合基330を連結するリンカー320を含む。
図3のナノポア構造体300は、単なる例示的実施形態である。ナノポア構造体300の他の実施形態を使用してもよい。
【0053】
アナライト結合化合物350と、ナノチャネル130の表面140上に設けられた化学化合物210との間の可逆的結合は、シス側流体リザーバおよびトランス側流体リザーバ102および103の一方あるいは両方をそれぞれ、アナライト結合化合物350を含む適切な溶媒、たとえば、水で酸化剤と共に満たすことにより形成することができる。アナライト結合化合物350がナノチャネル130に進入すると、酸化剤は、アナライト結合化合物350の分子と化学化合物210のコーティングとの間の連結または結合の形成を支援し得る。互いに反応してホモカップリング生成物を形成するアナライト結合化合物350は、過剰の水、緩衝液または溶媒で洗い流すことができる。コーティングの化学化合物210に結合したアナライト結合化合物350は、新たに形成された可逆的結合310により表面140に結合したままである。最終結果として、アナライト結合基330を含むナノチャネル130が、別のタンパク質または目的のアナライト340に結合できるが、ナノチャネル130の壁または表面140に可逆的に結合している。
【0054】
例示的な一実施形態では、中枢神経系に広く分布する小さな神経ペプチド、ニューロテンシンを含むリガンド(アナライト結合基330)が、スルフヒドリル基を含む部分に結合することができる。このリガンドを使用して、ジスルフィド結合を形成できるチオール基で官能基化されたナノチャネル130を被覆してもよい。ニューロテンシンは、非常に高い親和性でニューロテンシン受容体1(NTS1:neurotensin receptor 1)に結合し、したがってニューロテンシンに対するNTS1の結合は、このコーティングを使用したナノポア装置で測定することができる。結合もしくは移動またはその両方が測定されたならば、ニューロテンシン/リガンドコーティングは、関心を持つ他の任意の有望なリガンドを再充填する前にナノチャネル130に還元剤を導入することにより除去することができる。
【0055】
結合が可逆的ジスルフィド結合である場合、ジスルフィド結合310の形成を促進するため酸化剤を使用してもよい。酸化剤の好適な非限定的な例には、過酸化水素、過ホウ酸もしくは臭素酸塩、たとえば過ホウ酸ナトリウムおよび臭素酸ナトリウム、またはこれらの任意の組み合わせがある。一実施形態では、ジスルフィド結合310は酸化剤の非存在下で形成される。酸化剤が存在する場合、ジスルフィド結合310の形成を促進するのに効果的な量で存在する。
【0056】
アナライト340は、解析を行っているか、または検出しようとしている化合物、分子、物質または化学成分であってもよい。本開示は、特定のアナライトに限定することを意図するものではない。代表的なアナライトには、イオン、ペプチド、タンパク質、抗体、炭水化物、ポリヌクレオチド、DNA鎖、ポリマー、脂質、イオン、金属またはこれらの任意の組み合わせがある。
【0057】
アナライト結合基330は、アナライト340と相互作用できる、接触生成物を形成できる、または結合できるどのような官能基またはリガンドであってもよい。アナライト340は様々であるため、アナライト結合基330の以下の例は、限定的であることを意図するものではない。アナライト結合基330の好適な例には、小さな化学化合物、分子、および生化学化合物、たとえば、ペプチド、タンパク質、抗体、炭水化物、ポリヌクレオチド、DNA鎖、ポリマー、脂質、イオン、金属またはこれらの任意の組み合わせがある。
【0058】
図4は、ナノポア構造体101内の再利用可能なコーティングを使用するための例示的な方法400のブロック図を図示する。ブロック410では、方法400は、ナノポア構造体内のナノチャネルの表面上に化学化合物の単層を形成することを含む。ブロック420では、可逆的結合を形成するため、単層の化学化合物とアナライト結合化合物を反応させる。アナライト結合化合物は、可逆的結合を形成する官能基およびアナライト結合基を含む。ブロック430では、移動現象、結合現象または移動現象および結合現象の両方である現象に関する、1つまたは複数の電気信号を測定する。移動現象は、アナライトが最初にアナライト結合基に結合し(結合現象)、次いで解離し、ナノポアから遊離する現象であってもよい。ブロック440では、可逆的結合を切断する。ブロック450では、アナライト結合化合物をナノチャネルからフラッシュする。その後、方法400は、再使用できるように、たとえばブロック420から開始して繰り返してもよい。方法400は、単なる例示的実施形態である。方法400の他の実施形態を使用してもよい。
【0059】
400の方法において、ナノデバイスの充填のためシス側チャンバ102に様々な溶液を手作業または自動的に導入してもよい。様々な溶液は、電解質液、緩衝液、還元剤、切断剤、アナライトまたはこれらの任意の組み合わせを含んでもよい。自動流入(automatic entry)は、装置に含まれない個々の溶液を保持する他のチャンバに対するプログラム可能な電子制御式ゲートにより制御することができる。
【0060】
図5は、ナノポア構造体(nanopore structure)に可逆的アナライト結合コーティングを作製するための例示的な方法500のブロック図を図示する。ブロック510では、ナノチャネルの表面を、反応性官能基を含む化学化合物で被覆する。ブロック520では、反応性官能基と可逆的結合(reversible bond)を形成するため、ナノチャネルの表面にアナライト結合化合物(analyte binding compound)を設ける。ナノチャネルの表面は、化学化合物を含む流体をナノチャネルに導入することにより化学化合物で被覆することができる。アナライト結合化合物は、アナライト結合基を含む。ブロック530では、ナノチャネルにアナライトを導入し、アナライトは、アナライト結合基と接触生成物を形成するか、またはアナライト結合基に結合する。ブロック540では、可逆的結合を破壊し、反応性官能基を再形成するため、ナノチャネルに切断剤を導入する。さらに、切断剤をナノチャネルに導入すると、可逆的結合を破壊し、ナノチャネルの表面からアナライト結合化合物を除去することも同時に行うことができる。その後、アナライト結合化合物をナノチャネルからフラッシュする。方法500は、単なる例示的実施形態である。方法500の他の実施形態を使用してもよい。
【0061】
可逆的結合を選択的に切断する様々な方法を使用することができる。好適な方法の非限定的な例には、化学的方法、温度による方法、電気的方法、pHによる方法またはこれらの任意の組み合わせがある。特に、化学試薬(切断剤)をナノチャネルに導入してもよいし、ナノチャネル環境またはナノチャネル内の緩衝液のpHを変化させてもよいし、ナノチャネル環境の温度を上下させてもよいし、あるいは電圧および電流の変化を使用してもよい。
【0062】
可逆的結合がジスルフィド結合である場合、還元剤を使用して可逆的結合を切断してもよい。還元剤は可逆的ジスルフィド結合を破壊し、ナノチャネルの表面からアナライト結合化合物を除去する。その後、異なるアナライト結合基を含む第2のアナライト結合化合物をナノチャネルの表面に設けて、反応性スルフヒドリル基(sulfhydryl group)と可逆的ジスルフィド結合を再形成してもよい。
【0063】
非限定的な例示的還元剤には、チオールを含む還元剤および亜硫酸水素イオンを含む還元剤がある。例示的なチオールを含む還元剤には、メルカプトカルボン酸、そのアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、そのエステルおよびグリセリルエステル、ならびにそれらの混合物がある。これらの還元剤の例には、チオグリコール酸、チオ乳酸、3−メルカプトプロピオン酸および同種のものがある。これらの酸の好適なアルカリ金属塩には、ナトリウム塩またはカリウム塩、たとえばチオグリコール酸ナトリウムがある。アンモニウム塩、たとえばチオグリコール酸アンモニウムを使用してもよく、さらにこれらの酸およびアンモニア、モノ−、ジ−またはトリ−エタノールアミンおよびモノ、ジまたはトリ−イソ−プロパノールアミンから調製された塩が挙げられる。メルカプトカルボン酸エステルの例には、チオグリコール酸グリセリルがある。非限定的な例示的亜硫酸水素イオンを含む還元剤には、重亜硫酸アルカリ金属および重亜硫酸アンモニウムがある。
【0064】
図6は、ナノポア構造体内に可逆的コーティングを作製するためジスルフィド結合を使用する方法600の例示的実施形態を図示する。610では、反応性スルフヒドリル基を含む化学化合物またはタンパク質でナノチャネルの表面を被覆し、単層を形成する。スルフヒドリル基は、ナノチャネル表面から離れてチャネルの内部の方向に、またはナノチャネルの表面から離れる方向に向いている。620では、第2の遊離スルフヒドリル基およびアナライト結合基を有するアナライト結合化合物をナノチャネルに導入する。630では、アナライト結合化合物のスルフヒドリル基とナノチャネル表面の単層との間に可逆的ジスルフィド結合を形成する。640では、目的のアナライトをナノチャネルに導入する。650では、アナライトがナノチャネルの内側を覆うアナライト結合基に結合する。印加された電場の存在下で、電流出力の変化を観察することができ、結合現象が示される。660では、還元剤をナノチャネルに導入する。670では、還元剤がジスルフィド結合を破壊し、最初のコーティングの反応性スルフヒドリル基が再生される。680では、アナライト結合化合物および結合したアナライトがナノチャネルから除去される。ジスルフィド結合を破壊後、目的の他の任意のアナライトに特異的な別のアナライト結合化合物をナノチャネルに導入することができ、ナノポアを再使用することができる。方法600は、単なる例示的実施形態である。方法600の他の実施形態を使用してもよい。
【0065】
ナノポア装置の動作中、ナノポア構造体は、電流変動の適切な測定を行うため印加された電場下で十分に大きなイオン電流を考慮しておくべきである。電流変動は、ナノチャネルのコーティングに結合したリガンドへのアナライトの結合および解離により起こる。電流は、ナノポア構造体内のナノチャネルにより規定される電流経路を有する。こうした電流変動は、アナライトに関する化学的および生化学的情報を与える。
【0066】
本明細書に使用される用語は、特定の実施形態の説明のみを目的とするものであり、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で使用する場合、単数表現「1つの(a、an)」および「前記(the)」は、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、複数形も同様に含むことを意図している。さらに、「を含む(comprises)」もしくは「を含む(comprising)」という用語またはその両方は、本明細書に使用される場合、記載した特徴、整数、ステップ、動作、要素もしくは成分またはそれらすべての存在を明示するものであるが、もう1つの他の特徴、整数、ステップ、動作、構成成分もしくはそれらの群またはそれらすべての存在または付加を排除するものではないことも理解されよう。
【0067】
添付の特許請求の範囲におけるミーンズ・プラス・ファンクションまたはステップ・プラス・ファンクションの要素に対応する構造、材料、動作および等価物はすべて、具体的に特許請求された他の特許請求された構成要素と組み合わせて機能を実行するため、任意の構造、材料または動作を含むことを意図している。本発明の記載は、例示および説明を目的として提示したものであるが、網羅的であること、または開示した形態に本発明を限定することを意図するものではない。本発明の範囲および精神を逸脱することなく、多くの修正および変形が当業者には明らかになるであろう。実施形態については、本発明の原理およびその実用的用途を最もよく説明し、意図した特定の使用に適した様々な修正を含む種々の実施形態について当業者が本発明を理解できるように選択し、記載した。
【0068】
本明細書に図示したフローダイヤグラムは、一例にすぎない。本発明の精神を逸脱しない範囲でこの図または図中に記載したステップ(または動作)に多くの変形が存在し得る。たとえば、ステップを異なる順序で行ってもよいし、あるいはステップを加えても、削除しても、または修正してもよい。これらの変形はすべて特許請求の範囲に記載されている発明の一部と考えられる。
【0069】
本発明の好ましい実施形態について記載してきたが、当業者は、現在および将来を問わず、後述される特許請求の範囲に包含される様々な改善および強化を行うことができることが理解されよう。こうした特許請求の範囲は、最初に記載された本発明の適切な保護を維持するものと解釈されるべきである。