特許第6505480号(P6505480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6505480溶融亜鉛めっき用または合金化溶融亜鉛めっき用原板、および溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6505480
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】溶融亜鉛めっき用または合金化溶融亜鉛めっき用原板、および溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20190415BHJP
   C23C 2/02 20060101ALI20190415BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20190415BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20190415BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20190415BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20190415BHJP
【FI】
   C22C38/00 301T
   C23C2/02
   C23C2/06
   C22C38/06
   C22C38/38
   !C21D9/46 J
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-53267(P2015-53267)
(22)【出願日】2015年3月17日
(65)【公開番号】特開2016-50356(P2016-50356A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年9月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-175945(P2014-175945)
(32)【優先日】2014年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】千田 実
(72)【発明者】
【氏名】入江 広司
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/047804(WO,A1)
【文献】 特開2008−266778(JP,A)
【文献】 特開2004−263295(JP,A)
【文献】 特開2004−263271(JP,A)
【文献】 特開平05−263206(JP,A)
【文献】 特開2013−142198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/00− 8/10
C21D 9/46− 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.06〜0.3%、
Si:1.00〜1.6%、
Mn:1〜3%、
Al:0%超0.1%以下、
を含有し、
残部が鉄および不可避的不純物であり、
Si/Mnの比が1.0以下を満足する鋼板を、還元焼鈍して得られる亜鉛めっき用原板であって、
前記亜鉛めっき用原板の表面について、電子線マイクロアナライザーによりFeのマッピングを実施し、33.6μm×41.4μmの測定視野に観察されるFeのマッピング強度を0から240まで15間隔で16分割したとき、前記マッピング強度が195以上の占める領域が70%以上であることを特徴とする溶融亜鉛めっき用または合金化溶融亜鉛めっき用原板。
【請求項2】
更に、質量%で、
Cr:0%超1%以下、および
Mo:0%超1%以下よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1に記載の溶融亜鉛めっき用または合金化溶融亜鉛めっき用原板。
【請求項3】
更に、質量%で、
B:0%超0.005%以下を含有する請求項1または2に記載の溶融亜鉛めっき用または合金化溶融亜鉛めっき用原板。
【請求項4】
更に、質量%で、
Ti:0%超0.1%以下、および
Nb:0%超0.1%以下よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき用または合金化溶融亜鉛めっき用原板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき用または合金化溶融亜鉛めっき用原板を用いて得られる溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不めっきの発生が抑制された高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の素材として有用な高強度溶融亜鉛めっき用または高強度合金化溶融亜鉛めっき用原板、およびその製造方法、並びに当該高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の燃費向上を図り、耐食性などを高めるため、高張力鋼板に溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっきの亜鉛めっきが施された高強度めっき鋼板が広く使用されている。このような高強度めっき鋼板として、SiやMnを添加して強度、延性、加工性などの特性を向上させた鋼板の使用が増加している。
【0003】
一方、SiおよびMnは、Feよりも酸化し易い易酸化性元素である。そのため、Feにとっては還元性雰囲気であっても、SiおよびMnは容易に酸化されて鋼板表面に濃化し、酸化物を形成する場合がある。これらの酸化物は、めっき時の溶融亜鉛と鋼板表面とのめっき濡れ性を著しく低下させ、不めっきの発生や合金化不良を引き起こし、めっき鋼板の外観性状を悪化させる。
【0004】
そこで、SiやMnの添加に伴う不めっきの発生が抑制された高強度めっき鋼板を製造するために、種々の方法が提案されている。例えば特許文献1には、SiおよびMnを含み、めっき濡れ性および耐ピックアップ性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が提案されている。具体的には、オールラジアントチューブ型の加熱炉を備えた連続式溶融亜鉛めっき設備において、炉内の水素分圧と水蒸気分圧の対数比を制御しつつ、予熱、加熱、均熱の工程順に焼鈍する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−142198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1では、焼鈍炉を3つの区画に分け、それぞれの区画で雰囲気が大幅に異なるように制御しなければならず、多大な設備投資が必要となり、コストが大幅に上昇する。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、不めっきの発生が抑制された高強度めっき鋼板を製造するための素材として有用な高強度溶融亜鉛めっき用または高強度合金化溶融亜鉛めっき用原板を、還元焼鈍方法により効率よく製造する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し得た本発明に係る溶融亜鉛めっき用または合金化溶融亜鉛めっき用原板は、質量%で、C:0.06〜0.3%、Si:1.00〜1.6%、Mn:1〜3%、Al:0%超0.1%以下、を含有し、Si/Mnの比が1.0以下を満足する鋼板を、還元焼鈍して得られる亜鉛めっき用原板であって、上記亜鉛めっき用原板の表面について、電子線マイクロアナライザーによりFeのマッピングを実施し、33.6μm×41.4μmの測定視野に観察されるFeのマッピング強度を0から240まで15間隔で16分割したとき、上記マッピング強度が195以上の占める領域が70%以上であるところに要旨を有する。
【0009】
上記亜鉛めっき用原板は、更に、質量%で、Cr:0%超1%以下、およびMo:0%超1%以下よりなる群から選択される少なくとも1種を含有するものであってもよい。
【0010】
上記亜鉛めっき用原板は、更に、質量%で、B:0%超0.005%以下を含有するものであってもよい。
【0011】
上記亜鉛めっき用原板は、更に、質量%で、Ti:0%超0.1%以下、およびNb:0%超0.1%以下よりなる群から選択される少なくとも1種を含有するものであってもよい。
【0012】
また、上記課題を解決し得た本発明に係る溶融亜鉛めっき用または合金化溶融亜鉛めっき用原板の製造方法は、上記成分組成の鋼板を、H2:5〜10体積%を含有する窒素雰囲気下で、還元焼鈍して亜鉛めっき用原板を製造する方法であって、上記還元焼鈍は、上記鋼板の板温を600℃以上620℃以下の温度域で20秒以上保持する加熱工程を含むところに要旨を有する。
【0013】
本発明には、上記の溶融亜鉛めっき用または合金化溶融亜鉛めっき用原板を用いて得られる溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板も包含される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、還元焼鈍法により高強度溶融亜鉛めっき用または高強度合金化溶融亜鉛めっき用原板を効率よく製造することができる。
【0015】
本発明の製造方法を用いれば、不めっきの発生が抑制された高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を低コストで提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の溶融亜鉛めっき用または合金化溶融亜鉛めっき用原板は、SiおよびMnを含む鋼板を還元焼鈍して得られるものであり、亜鉛めっき用原板表面について電子線マイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe MicroAnalyser)によるFeのマッピングを実施したとき、33.6μm×41.4μmの測定視野に観察されるFeのマッピング強度を0から240まで15間隔で16分割したとき、上記マッピング強度が195以上の占める領域が70%以上を満足するものである。このような亜鉛めっき用原板を用いれば、不めっきの発生が抑制された溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。
【0017】
本明細書において「亜鉛めっき用原板」とは、高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の素材として用いられる鋼板であって、冷間圧延後の鋼板を還元焼鈍した後、亜鉛めっきを行う前の鋼板を意味する。以下では、溶融亜鉛めっき用または合金化溶融亜鉛めっき用原板を単に、亜鉛めっき用原板または原板と略記する場合がある。
【0018】
本明細書において「溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板」とは、上記亜鉛めっき用原板に溶融亜鉛めっき処理または合金化溶融亜鉛めっき処理を施して得られるめっき鋼板を意味する。以下では、上記「溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板」を単に、亜鉛めっき鋼板またはめっき鋼板と略記する場合がある。
【0019】
はじめに、本発明に到達した経緯の概要を説明する。
【0020】
上述のとおり、SiおよびMnは、Feよりも酸化し易い易酸化性元素であり、亜鉛めっき用原板の表面に濃化して酸化物を形成する。このとき、SiおよびMnは再結晶によって形成された結晶粒界を通って、亜鉛めっき用原板の表面に濃化すると言われている。従って、SiおよびMnが亜鉛めっき用原板の表面に濃化するのは再結晶が完了する温度、すなわち鋼板の板温で600℃程度と考えられる。
【0021】
亜鉛めっき用原板の表面に形成される酸化物は、Si酸化物、Mn酸化物、Si−Mn複合酸化物の三つに大別される。Mn酸化物は、酸化状態によっていくつかの化合物が存在するが、このうちMnO2は、融点が535℃と比較的低温である。鋼板の再結晶完了温度は600℃程度であり、もし、亜鉛めっき用原板の表面に形成されるMn酸化物に低融点のMnO2が含まれていれば、MnO2は直ちに溶融状態となると考えられる。
【0022】
更に、600℃程度の範囲に一定時間保持していれば、MnO2は還元焼鈍の昇温過程
で濃化してくるSiおよびMnも巻き込んで、亜鉛めっき用原板の表面に広く、融点の低い溶融状態のSi−Mn複合酸化物を形成すると考えられる。昇温した後、降温するが、上述したSi−Mn複合酸化物の融点が上記鋼板の板温より低温であるならば、Si−Mn複合酸化物は凝固を開始すると考えられる。このとき、Si−Mn複合酸化物は凝集しながら凝固するので、亜鉛めっき用原板上には、微細なドーム状の酸化物が形成されると予測される。そのため、亜鉛めっき用原板表面に占める上記酸化物の占積率は小さくなり、Feの露出面が広く出現すると考えられる。一方、600℃程度の範囲で保持せず昇温した場合には、溶融状態のSi−Mn複合酸化物は形成されず、融点が900℃を超える様なSi酸化物、Mn酸化物、またはSi−Mn複合酸化物が亜鉛めっき用原板の表面を広く覆うため、不めっきが発生しやすくなると考えられる。
【0023】
このような推察メカニズムに基づき、本発明者らは更に検討を行った。その結果、還元焼鈍時における加熱工程の際、上述した600℃以上で620℃以下の温度域を20秒以上保持する工程を含むように還元焼鈍を行えば、亜鉛めっき用原板表面に形成される酸化物の形態が制御されてFeの露出面積が一定以上確保された亜鉛めっき用原板が得られること、上記亜鉛めっき用原板を用いれば、不めっきの発生が抑制されためっき鋼板が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0024】
上述したように本発明の亜鉛めっき用原板は、質量%で、C:0.06〜0.3%、Si:1.00〜1.6%、Mn:1〜3%、Al:0%超0.1%以下を含有し、Si/Mnの比が1.0以下を満足する鋼板を、還元焼鈍して得られる亜鉛めっき用原板であって、上記亜鉛めっき用原板の表面について、電子線マイクロアナライザーによりFeのマッピングを実施し、33.6μm×41.4μmの測定視野に観察されるFeのマッピング強度を0から240まで15間隔で16分割したとき、上記マッピング強度が195以上の占める領域が70%以上である点に特徴がある。
【0025】
以下では、上記のようにして測定されるFeのマッピング強度が195以上の領域を単にFe露出領域と呼ぶ場合がある。また、上記測定視野全体に対するFe露出領域の占める割合を単にFe露出率と呼ぶ場合がある。
【0026】
まず、本発明の亜鉛めっき用原板は、Fe露出率70%以上を満足する。Fe露出率が大きい程、溶融亜鉛との反応性が高くなり、不めっきの発生を抑制することができる。Fe露出率の下限は、好ましくは72%以上、より好ましくは75%以上である。Fe露出率は大きい程好ましいが、100%にすることは工業生産上不可能である。
【0027】
更に上記亜鉛めっき用原板は、以下の成分組成を満足する。
【0028】
C:0.06〜0.3%
Cはめっき鋼板の強度を上昇させるために必要な元素であり、C量が0.06%未満では強度の確保が困難である。そのために、C量の下限を0.06%以上とする。C量の下限は、好ましくは0.07%以上、より好ましくは0.08%以上である。しかしながら、C量が過剰になると溶接性が低下するようになるため、C量の上限を0.3%以下とする。C量の上限は、好ましくは0.28%以下、より好ましくは0.25%以下である。
【0029】
Si:1.00〜1.6%
Siは固溶強化元素であり、めっき鋼板の強度を上昇させることに有効である。また、Siは特にめっき層に摺動を伴うような加工に対して、めっき密着性を高める効果も有している。そのために、Si量の下限を1.00%以上とする。Si量の下限は、好ましくは1.1%以上、より好ましくは1.2%以上である。しかしながら、Si量が1.6%を超えると、酸化物の凝集が不十分となり、Fe露出率を70%以上に確保することができず、不めっき発生を抑制することができなくなる。そのためSi量の上限を1.6%以下とする。Si量の上限は、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.4%以下である。
【0030】
Mn:1〜3%
Mnは焼入れ性を高め、めっき鋼板の強度を高めるために有用な元素である。そのためにMn量の下限を1%以上とする。Mn量の下限は、好ましくは1.2%以上、より好ましくは1.4%以上である。しかしながら、Mn量が3%を超えるとMnの偏析が生じて加工性が低下する。そのためにMn量の上限を3%以下とする。Mn量の上限は、好ましくは2.9%以下、より好ましくは2.8%以下である。
【0031】
Al:0%超0.1%以下
Alは脱酸目的で添加するとともにフェライトの形成を促進し、延性を高める効果がある。そのためにAl量の下限を0%超とする。Al量の下限は、好ましくは0.02%以上、より好ましくは0.04%以上である。しかしながら、過剰な添加はAl系の粗大介在物の個数を増大させ、穴拡げ性の劣化や表面疵の原因となる。そのために、Al量の上限を0.1%以下とする。Al量の上限は、好ましくは0.09%以下、より好ましくは0.08%以下である。
【0032】
Si/Mnの比:1.0以下
更に、鋼中のSi量(質量%)とMn量(質量%)の関係は、Si/Mnの比が1.0以下を満たす必要がある。Si量がMn量より多くなると、還元焼鈍時に発生するSiO2の生成を抑制できない。SiO2は、溶融亜鉛と反応しないため、これが原板表面に形成すると不めっきが発生する。Si/Mnの上限は、好ましくは0.98以下、より好ましくは0.95以下である。Si/Mnの下限は、Si量の下限およびMn量の上限を考慮すると、好ましくは0.33以上、より好ましくは0.38以上である。
【0033】
本発明に用いられる鋼中元素は上記の通りであり、残部は鉄および不可避不純物である。上記不可避不純物として、例えば、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素、例えば、S、P、H、Nなどが挙げられる。
【0034】
更に、上記原板は、以下の選択成分を含有してもよい。
【0035】
Cr:0%超1%以下、およびMo:0%超1%以下よりなる群から選択される少なくとも1種
CrおよびMoは、いずれも焼入れ性向上に有効な元素である。これらの元素は、夫々単独でまたは適宜組み合わせて含有させても良い。
【0036】
Cr:0%超1%以下
Crは焼入れ性を向上させ、原板のミクロ組織に硬質なベイナイトやマルテンサイトを形成させて、めっき鋼板の高強度化に有効に寄与する元素である。そのために、Cr量の下限は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上である。しかしながら、Cr量が1%を超えると、この効果は飽和する。そのためにCr量の上限は、好ましくは1%以下、より好ましくは0.9%以下とする。なお、Crは不めっき発生の抑制には、ほとんど寄与しない。
【0037】
Mo:0%超1%以下
Moは焼入れ性を向上させ、原板のミクロ組織に硬質なベイナイトやマルテンサイトを形成させて、めっき鋼板の高強度化に有効に寄与する元素である。そのために、Mo量の下限は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上である。しかしながら、Mo量が1%を超えるとこの効果は飽和するとともに大幅なコストアップとなる。そのためにMo量の上限は、好ましくは1%以下、より好ましくは0.9%以下とする。
【0038】
B:0%超0.005%以下
BはSiおよびMnと同様に、易酸化性元素であるが、還元焼鈍過程において原板表面に移動する際、SiおよびMnが、再結晶により形成された結晶粒界を移動するのに対し、Bは粒界の形成に関係なく原板表面に移動するといわれている。Bの酸化物B23は融点が低く、ガラス状の複合酸化物を形成し、複合酸化物の融点を低下させる。上記複合酸化物の融点は不明であるが、Bを添加することで低融点のガラス状複合酸化物が、より形成されやすくなり、酸化物がドーム状に凝集してFe露出率が一層大きくなりやすくなると考えられる。上記複合酸化物の形成され易さなどを考慮すると、Bの下限は、好ましくは0%超、より好ましくは0.0003%以上である。しかしながら、B量が0.005%を超えても複合酸化物形成効果は飽和し、めっき性はそれ以上改善しない。そのためにB量の上限は、好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.004%以下とする。
【0039】
Ti:0%超0.1%以下、およびNb:0%超0.1%以下よりなる群から選択される少なくとも1種
TiおよびNbは、いずれもミクロ組織を微細化する効果を有し、強度と延性のバランスを高める元素である。これらの元素は、夫々単独でまたは適宜組み合わせて含有させても良い。
【0040】
Ti:0%超0.1%以下
Tiは、フェライト中に析出することでめっき鋼板の高強度化にも有効な元素でもある。そのために、Ti量の下限は、好ましくは0%超、より好ましくは0.01%以上である。しかしながら、Ti量が0.1%を超えるとこの効果は飽和する。そのためにTi量の上限は、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.09%以下、更に好ましくは0.08%以下とする。
【0041】
Nb:0%超0.1%以下
Nbは、フェライト中に析出することでめっき鋼板の高強度化にも有効な元素でもある。そのために、Nb量の下限は、好ましくは0%超、より好ましくは0.01%以上である。しかしながら、Nb量が0.1%を超えるとフェライトの延性を低下させ、加工性が低下する。そのためにNb量の上限は、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.09%以下、更に好ましくは0.08%以下とする。
【0042】
以上、本発明の亜鉛めっき用原板について説明した。
【0043】
次に、本発明の亜鉛めっき用原板を製造する方法について説明する。
【0044】
本発明の亜鉛めっき用原板は、上記成分組成を有する鋼を溶製、熱間圧延、酸洗、冷間圧延した後、下記の還元焼鈍を行うことにより得られる。還元焼鈍以外の工程は、一般的に行われている条件を採用すればよい。本発明に係る亜鉛めっき用原板の好ましい製造方法は、以下のとおりである。
【0045】
まず、上記成分組成を有する鋼を溶製した後、熱間圧延を行う。熱間圧延の加熱温度は、仕上げ温度を確保するために、好ましくは1100〜1300℃程度とする。熱間圧延の仕上げ温度は、好ましくは800〜950℃とする。
【0046】
仕上げ圧延後、巻取り開始温度までの平均冷却速度は、好ましくは10〜120℃/sとする。
【0047】
巻取り温度は700℃以下とするのが良い。巻取り温度が700℃を超えると、鋼板表面に形成されるスケールが厚くなり、酸洗性が劣化する。そのために、巻取り温度の上限は、好ましくは700℃以下とする。一方、巻取り温度の下限は特に限定されないが、低すぎると低温変態生成相が過剰に生成し、鋼板が硬くなりすぎて冷間圧延性を低下させる。そのために、巻取り温度の下限は、好ましくは250℃以上、より好ましくは400℃以上である。
【0048】
このように製造した熱間圧延後の鋼板に酸洗を行う。酸洗は常法に従って行えばよく、一回の酸洗を行ってもよいし、複数回に分けて酸洗を行ってもよい。
【0049】
酸洗後、冷間圧延を行う。冷間圧延の圧下率を15%以上とするのが良い。その理由は、圧下率を15%未満とするには、熱間圧延工程で鋼板の板厚を薄くしなければならず、熱間圧延工程で板厚を薄くすると鋼板長さが長くなるため、酸洗に時間がかかり生産性が低下するためである。そのために、圧下率の下限は、好ましくは15%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは45%以上である。しかしながら、圧下率が70%を超えると冷間圧延荷重が大きくなりすぎてしまい、冷間圧延が困難となる。そのために、圧下率の上限は、好ましくは65%以下、より好ましくは60%以下とする。
【0050】
上記のようにして得られた鋼板を還元焼鈍する。還元焼鈍は例えば連続式溶融亜鉛めっきライン(CGL:Continuous Galvanizing Line)にて行うことが推奨される。上記CGLは、オールラジアントチューブ方式の全還元型焼鈍炉を有することが好ましい。本発明を特徴付ける還元焼鈍の詳細は以下のとおりである。
【0051】
還元雰囲気:N2−5〜10体積%H2
還元焼鈍時の加熱処理は、亜鉛めっき用原板表面におけるFe露出領域を確保するために、H2を5〜10体積%含有し、残部がN2および不可避的不純物である還元雰囲気下で行う。H2濃度が5体積%未満では、Feの酸化を抑制することはできない。そのためH2の下限値を5体積%以上とする。好ましくは5.5体積%以上、より好ましくは6体積%以上である。しかしながら、H2が10体積%を超えると、還元焼鈍後の亜鉛めっき用原板表面におけるFe露出領域が低減し、不めっき発生面積率が上昇する。そのために、H2の上限値を10体積%以下とする。H2の上限値は好ましくは9.5体積%以下、より好ましくは9体積%以下である。なお、窒素ガス雰囲気中のH2量が10体積%を超えると上記Fe露出領域が低減する詳細な理由は不明であるが、H2濃度が高くなるとSiおよびMnが結晶粒界だけでなく結晶粒内にも濃化しやすくなり、その結果、Fe面の露出が妨げられると考えられる。
【0052】
上記還元雰囲気の下、加熱して還元焼鈍する。還元焼鈍における鋼板の板温の下限は、加工性などの観点から、約(Ac1+50℃)以上とすることが好ましい。より好ましくは780℃以上、更に好ましくは790℃以上である。一方、還元焼鈍における鋼板の板温の上限は、好ましくは900℃以下、より好ましくは890℃以下である。上記900℃は、一般的な還元焼鈍の上限温度である。
【0053】
ここでAc1点は、下記式に基づいて算出されるものである(「講座・現代の金属学 材料編4 鉄鋼材料」、社団法人日本金属学会より)。
c1
=723−10.7×[Mn]−16.9×[Ni]+29.1×[Si]+16.9×[Cr]+290×[As]+6.38×[W]
【0054】
以下に詳述するように、本発明では、加熱途中の600〜620℃の温度域における保持時間を20秒以上に制御したところに最大の特徴があり、上記要件を満足する限り、加熱時の平均昇温速度は特に限定されず、加熱途中の600〜620℃の温度域を除いて通常用いられる範囲を適宜採用することができる。例えば一般的な平均昇温速度は、生産性の観点から、好ましくは2℃/s以上、より好ましくは4℃/s以上、更に好ましくは6℃/s以上である。しかしながら、平均昇温速度が20℃/s超になると、再結晶挙動が不均一になり、亜鉛めっき用原板の形状を崩す虞がある。そのため、平均昇温速度の上限は、好ましくは20℃/s以下、より好ましくは15℃/s以下、更に好ましくは12℃/s以下である。
【0055】
600〜620℃の温度域における保持時間:20秒以上
本発明における還元焼鈍工程は、昇温の際、鋼板の板温を600〜620℃の温度域で20秒以上保持する工程を含むことが重要である。前述した、低融点のMnO2を起点とするSi−Mn複合酸化物の凝集メカニズムによれば、昇温の際に留意すべき温度域は600〜620℃の範囲であり、この温度域を通過する時間を20秒以上とすれば、不めっきの発生が抑制されためっき鋼板が得られることを見出した(後記する実施例を参照)。
【0056】
本明細書において「600〜620℃の温度域で20秒以上保持する」とは、上記温度域を20秒以上かけて昇温すること、すなわち、上記温度域を通過する時間(保持する時間)が20秒以上であることを意味する。上記要件を満足する限り、そのパターンは特に限定されない。例えば、上記温度域の通過時間が20秒以上となるように、上記温度域を全て、一定の平均昇温速度で加熱しても良い。後記する実施例に記載のように、上記温度域の一部の領域を一定時間保持する等温保持工程を含むように加熱しても良い。或いは、上記温度域の一部の領域を冷却しても良い。これらは本発明で適用可能なパターンの一例であり、「上記温度域を20秒以上かけて保持する」との要件を満足する限り、種々のパターンを採用することができる。
【0057】
なお、本明細書における「鋼板の板温」について、後述する実施例では、鋼板の表面温度を測定したが、これに限定されない。本発明では、板厚が好ましくは0.4mm以上2.3mm以下程度の薄板の冷延鋼板を用いて還元焼鈍しているため、このような薄板の冷延鋼板では、板厚方向における温度勾配は実質的に生じないからである。
【0058】
上記鋼板の保持温度が600℃を下回ると、再結晶が完了していないためMnが鋼板表面に濃化できない。そのため、本発明で亜鉛めっき用原板表面に形成させたいMn酸化物の溶融状態ができず、凝集によるドーム状の酸化物の形成が困難になる。よって、亜鉛めっき用原板表面のSi酸化物またはMn酸化物またはSi−Mn複合酸化物による被覆率が高くなり、溶融亜鉛と亜鉛めっき用原板表面との反応性を阻害する。そこで、上記鋼板の保持温度の下限を600℃以上とする。好ましくは602℃以上、より好ましくは605℃以上である。しかしながら、上記鋼板の保持温度が620℃を超えると、融点が900℃を超える様なSi酸化物またはMn酸化物またはSi−Mn複合酸化物の析出が進行し、上記酸化物による被覆率が高くなり、溶融亜鉛と亜鉛めっき用原板表面との反応性を阻害する。そのため、上記鋼板の保持温度の上限を620℃以下とする。好ましくは618℃以下、より好ましくは615℃以下である。
【0059】
また、上記温度域での保持時間が20秒を下回ると、上記効果を十分に発揮することができず、溶融亜鉛と亜鉛めっき用原板表面との反応性を阻害する。そのため、保持時間の下限を20秒以上とする。好ましくは22秒以上、より好ましくは25秒以上である。保持時間の上限は特に設定されないが、実際のラインでの生産性を考慮すると、40秒程度までが妥当である。
【0060】
露点:好ましくは−55〜0℃
本発明では、所望とする亜鉛めっき用原板を還元焼鈍により、新たな設備を設けることなく低コストで効率よく製造するとの観点から、露点の範囲は、工業上採用可能な範囲とする。下限については、工業的に−55℃未満の露点とすることは困難であるため、好ましくは−55℃以上、より好ましくは−50℃以上とする。一方、露点が0℃を超えると、ガスが供給される配管系統内に結露が発生する危険性が高くなり、これを防止するために設備投資が必要となる。そのために、露点の上限値は、好ましくは0℃以下、より好ましくは−10℃以下とする。
【0061】
還元焼鈍をCGLで行う場合、還元焼鈍の上限温度(例えば約900℃)まで加熱した後、更に均熱処理を行うことが好ましい。均熱処理の条件は特に限定されず、通常用いられる範囲を適宜採用することができる。
【0062】
例えば上記均熱温度の下限は、加工性などの観点から、約(Ac1+50℃)以上とすることが好ましい。より好ましくは780℃以上、更に好ましくは790℃以上である。しかしながら、均熱温度が高すぎると、オーステナイト粒が粗大化し、加工性が低下する。そのため、均熱温度の上限は、好ましくは900℃以下、より好ましくは890℃以下とする。
【0063】
また、上記均熱温度域における均熱時間の下限は、10秒以上とすることが好ましい。但し、生産性などを考慮すると、上記均熱時間の上限は、おおむね、600秒以下であることが好ましい。
【0064】
上記均熱処理のパターンとして、例えば後記する実施例のように850℃の温度域で一定時間(当該実施例では60秒)保持する等温保持を行っても良い。但し、本発明はこれに限定されない。
【0065】
このようにして得られた亜鉛めっき用原板に亜鉛めっきを施すと本発明の溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。これらの亜鉛めっき方法も特に限定されず、通常用いられる方法を採用することができる。
【0066】
上記のようにして得られた亜鉛めっき用原板を溶融亜鉛に浸漬し、溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。
【0067】
例えば、溶融亜鉛めっき鋼板は、上記還元焼鈍後、直ちに溶融亜鉛に浸漬する場合は、めっき浴温まで冷却する。一方、直ちに溶融亜鉛に浸漬しない場合は、室温まで冷却する。冷却方法は特に限定されず、通常用いられる方法を適宜採用することができる。例えば、めっき浴温または室温までの平均降温速度の下限は、生産性などを考慮して、おおむね、1℃/s以上が好ましい。より好ましくは5℃/s以上である。しかしながら、上記平均降温速度が速すぎると、原板の形状を崩す可能性が高くなるため上限値は、好ましくは50℃/s以下、より好ましくは45℃/s以下である。なお、冷却時の雰囲気は、還元雰囲気であれば良い。該冷却時の還元雰囲気のH2量は、好ましくは5体積%以上、10体積%以下である。
【0068】
めっき浴温は、特に限定されず、通常用いられる範囲に設定することができるが、好ましくは440℃〜480℃程度である。めっき浴の組成も特に限定されず、公知の溶融亜鉛めっき浴を用いればよい。例えば、亜鉛めっき浴中のAl含有量は、好ましくは0.12〜0.30質量%である。溶融亜鉛めっき層の付着量は、好ましくは60〜120g/m2である。
【0069】
上記のようにして得られた溶融亜鉛めっき鋼板に合金化処理を行えば、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。合金化の方法は特に限定されず、公知の条件を採用できる。例えば、合金化温度は、好ましくは500℃〜560℃程度である。合金化温度が低すぎると合金化ムラが発生しやすく、高すぎると合金化が促進されすぎて合金化溶融亜鉛めっき層に含まれるFe量が過剰になり、めっき層と素地鋼板の界面にΓ層が厚く形成され、めっき密着性を低下させる要因となる。このとき、亜鉛めっき浴中のAl含有量は、好ましくは0.08〜0.13質量%である。また、めっき付着量は、好ましくは30〜70g/m2である。
【0070】
上記のようにして得られた本発明の溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板の引張強度は、好ましくは780MPa以上、より好ましくは980MPa以上である。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0072】
本実施例では、実験室規模で熱延および冷延を行った後、めっきシミュレーターを用いて還元焼鈍およびめっきを行った。詳細には、下記表1に示す種々の成分組成の鋼塊を溶製した。表1中「−」は0%を示す。
【0073】
まず、溶製した鋳片を1100℃まで加熱後粗圧延し、仕上げ厚さ20mm、仕上げ幅160mmのスラブを得た。次に、このスラブを熱間圧延して熱延原板を作製した。詳細には、1200℃で30分加熱した後、仕上げ温度870℃、仕上げ厚さ2.5mm、巻取り温度600℃の条件で熱間圧延を行った。次いで、このようにして得られた熱延原板を80℃、5質量%HClで酸洗して黒皮を除去した後、冷間圧延して厚さ1.2mmの冷延原板を得た。
【0074】
次に、このようにして得られた冷延原板から70mm×150mmの大きさの試料を切り出した。これを脱脂した後、めっきシミュレーターを用いて、下記表2に示す条件で還元焼鈍を行った。詳細には、赤外線加熱炉を用い、還元雰囲気にて、室温から表2に記載の等温温度まで10℃/sの平均昇温速度で加熱した後、当該温度で所定時間保持した。次いで、均熱処理の欄に記載の温度まで10℃/sの平均昇温速度で加熱した後、当該温度で60秒均熱処理した。なお、露点は、表2の試験No.11は−40℃とし、表2の試験No.1〜10、および試験No.12〜34は全て−55℃とした。
【0075】
均熱処理の後、直ちに平均降温速度5.2℃/sで室温まで還元雰囲気でN冷却を行い、亜鉛めっき用原板を作製した。
【0076】
このようにして得られた亜鉛めっき用原板のFe露出率を以下のようにして測定した。まず、上記の亜鉛めっき用原板の任意の箇所から10×10mmの試験片を切り出した。この試験片の表面について電子線マイクロアナライザーを用いて3000倍の測定倍率で観察した。測定位置は試験片の中央近辺とした。詳細な測定条件は以下のとおりである。
EPMA装置(島津製作所製EPMA−8705)
加速電圧:20kV、
試料電流:0.01μA、
ビーム径:直径3μm、
X線:Kα線
測定領域:33.6μm×41.4μm
【0077】
上記の条件で測定したFeのマッピング強度を0から240まで15間隔で分割し(すなわち16分割する)、上記測定視野中に占める、Feのマッピング強度が195以上の占める領域の比率を求めた。
【0078】
次に、上記亜鉛めっき用原板の作製と同様に均熱処理し、平均降温速度5.2℃/sで460℃まで還元雰囲気でN冷却した後、溶融亜鉛中に浸漬し、溶融亜鉛めっき鋼板を作製した。具体的には、70mm×150mmの亜鉛めっき用原板のうち、浸漬用の治具の取り付け部等を除く70mm×130mmの部分を亜鉛めっき処理部分として、めっき浴温460℃、めっき浴中のAl量0.13質量%(試験No.1〜25、27、29、31)または0.23質量%(試験No.33、34)、および浸漬時間2秒でめっき処理を行った。
【0079】
また試験No.26、28、30、32については、めっき処理の後、更に合金化処理を行い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を作製した。具体的には、めっき浴中のAl量を、合金化が進み易いように0.11質量%としたこと以外は上記と同様にしてめっき処理を行った後、更に合金化処理を行った。合金化処理の条件は、還元雰囲気にて、還元焼鈍のときと同じ赤外線加熱炉を用いて平均昇温速度10℃/sで550℃まで昇温し、550℃で90秒保持した後、直ちに平均降温速度5.2℃/sで室温までN冷却を行った。
【0080】
このようにして得られた亜鉛めっき鋼板の不めっき発生面積率を目視にて求め、以下の基準で評価した。具体的には、上記亜鉛めっき処理部分70mm×130mmのうち、めっきが厚く付着し易い部分(70mm×30mm)を除いた70mm×100mmの部分を測定対象部分とした。上記測定対象部分のうち不めっき発生部分を、透明なOHP(Overhead Projector)シート上にマジックでトレースし、これを半透明の方眼紙に重ねて不めっき部の面積を積算し、不めっき面積を求めた。この不めっき面積を、測定対象面積(70mm×100mm)で割ることで、不めっき発生面積率を得た。不めっき発生面積率の評価方法は以下のとおりである。
良 :不めっき発生面積率が0%以上3%以下
不良:不めっき発生面積率が3%超
【0081】
本実施例では、上記の方法で不めっきの面積発生率を算出したが、算出方法はこれに限定されない。例えば、上記OHPシートを画像解析装置にかけて不めっき発生面積率を算出しても良い。
【0082】
これらの結果を表2に示す。表2中、GIは溶融亜鉛めっき鋼板、GAは合金化溶融亜鉛めっき鋼板をそれぞれ、意味する。なお、表2の「還元焼鈍」の欄における「−」は、等温保持を行っていないことを示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2A】
【0085】
【表2B】
【0086】
表1および表2より、以下のように考察することができる。
【0087】
表2の試験No.1〜13、25〜34は、いずれも本発明で規定する化学成分組成および還元焼鈍条件を満足するものであり、不めっきの抑制効果に優れていることがわかる。
【0088】
これに対し、試験No.14〜24は、本発明のいずれかの要件を満足しないため、不めっきの抑制効果が不良であった。
【0089】
試験No.14は、Si量の多い表1の鋼種10を用いた例であり、Fe露出率が小さくなり、不めっきの抑制効果が不良であった。
【0090】
試験No.15は、Si/Mnの比が高い表1の鋼種11を用いた例であり、Fe露出率が小さくなり、不めっきの抑制効果が不良であった。
【0091】
試験No.16、17は、Si量の多い表1の鋼種12、13を用いた例であり、Fe露出率が小さくなり、不めっきの抑制効果が不良であった。
【0092】
試験No.18、19は、本発明の組成を満足する表1の鋼種2、3を用いた例であり、特許文献1の表2のNo.59をおおむね模擬した比較例である。特許文献1には多数の実験例が記載されているが、上記No.59は、本発明に規定する化学成分を満足し、且つ、還元焼鈍における雰囲気(所定量のH2量を含むN2雰囲気)で還元焼鈍した例であるが、表2に示すように600〜620℃の保持時間が20秒を下回っている。そのため、Fe露出率が小さくなり、不めっきの抑制効果が不良であった。
【0093】
試験No.20は、本発明の組成を満足する表1の鋼種2を用いた例であり、600〜620℃の保持時間が20秒を下回るため、Fe露出率が小さくなり、不めっきの抑制効果が不良であった。
【0094】
試験No.21は、本発明の組成を満足する表1の鋼種2を用いた例であり、還元焼鈍時の加熱保持温度が低く、600〜620℃の保持時間が20秒を下回るため、Fe露出率が小さくなり、不めっきの抑制効果が不良であった。
【0095】
試験No.22は、本発明の組成を満足する表1の鋼種2を用いた例であり、還元焼鈍時の加熱保持温度が高く、600〜620℃の保持時間が20秒を下回るため、Fe露出率が小さくなり、不めっきの抑制効果は不良であった。
【0096】
試験No.23は、本発明の組成を満足する表1の鋼種2を用いた例であり、特許文献1の表2のNo.60をおおむね模擬した比較例である。上記No.60は、本発明に規定する化学成分を満足し、且つ、上記表2から算出されるように600〜620℃の保持時間が約24秒と本発明の要件を満足しているが、還元焼鈍時のH2濃度が本発明で規定する上限(10体積%)を超える例である。そのため、Fe露出率が小さくなり、不めっきの抑制効果は不良であった。
【0097】
試験No.24は、本発明の組成を満足する表1の鋼種2を用いた例であり、還元焼鈍時のH2濃度が高かったため、Fe露出率が小さくなり、不めっきの抑制効果が不良であった。