(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6505757
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】グリース組成物、転がり軸受、およびモータ
(51)【国際特許分類】
C10M 129/30 20060101AFI20190415BHJP
C10M 129/38 20060101ALI20190415BHJP
C10M 145/16 20060101ALI20190415BHJP
C10M 145/12 20060101ALI20190415BHJP
C10M 169/06 20060101ALI20190415BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20190415BHJP
C10M 115/08 20060101ALN20190415BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20190415BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20190415BHJP
C10N 20/06 20060101ALN20190415BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20190415BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20190415BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20190415BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20190415BHJP
【FI】
C10M129/30
C10M129/38
C10M145/16
C10M145/12
C10M169/06
F16C33/66 Z
!C10M115/08
C10N10:02
C10N10:04
C10N20:06 Z
C10N30:00 Z
C10N30:08
C10N40:02
C10N50:10
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-12863(P2017-12863)
(22)【出願日】2017年1月27日
(65)【公開番号】特開2018-119090(P2018-119090A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2018年6月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】特許業務法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 佑介
【審査官】
中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−016168(JP,A)
【文献】
特開2004−124035(JP,A)
【文献】
特開2004−123954(JP,A)
【文献】
特開2016−145292(JP,A)
【文献】
特開2004−002696(JP,A)
【文献】
特開2003−042166(JP,A)
【文献】
特開2008−274091(JP,A)
【文献】
特開2002−146376(JP,A)
【文献】
特開2013−035882(JP,A)
【文献】
特開2007−177123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリース組成物が封入されており、
前記グリース組成物は、
基油と、増ちょう剤と、分散剤0.2wt%以上とを含有し、
前記分散剤はカルボン酸金属塩、ポリカルボン酸の金属塩およびカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体の少なくともいずれかを含み、前記分散剤は平均粒子径が0.5μm以上5μm以下であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記グリース組成物において、
前記カルボン酸金属塩および前記ポリカルボン酸の金属塩の少なくとも一方は、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩のうち少なくとも一種を含むアルカリ金属塩、またはマグネシウム塩、カルシウム塩のうち少なくとも一種を含むアルカリ土類金属塩であることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記グリース組成物において、
前記カルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体を形成する前記カルボン酸金属塩は、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩のうち少なくとも一種を含むアルカリ金属塩、またはマグネシウム塩、カルシウム塩のうち少なくとも一種を含むアルカリ土類金属塩であることを特徴とする請求項1または2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記グリース組成物において、
前記分散剤の含有量は、5wt%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記グリース組成物において、
前記増ちょう剤が下記一般式(1)で示されるジウレア化合物を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の転がり軸受。
R1−NHCONH−R2−NHCONH−R3・・・(1)
ここで、R1、R2、R3は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基から選ばれる炭化水素基である。
【請求項6】
グリース組成物が封入されており、
前記グリース組成物は、
基油と、下記一般式(1)で示されるジウレア化合物を含む増ちょう剤と、分散剤0.2wt%以上5%以下とを含有し、
前記分散剤はセバシン酸のナトリウム塩、ポリアクリル酸のナトリウム塩、およびマレイン酸ナトリウム塩とイソブチレンとの共重合体の少なくともいずれかを含み、
前記分散剤は平均粒子径が0.5μm以上5μm以下であることを特徴とする転がり軸受。
R1−NHCONH−R2−NHCONH−R3・・・(1)
ここで、R1、R2、R3は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基から選ばれる炭化水素基である。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の転がり軸受を備えていることを特徴とするモータ。
【請求項8】
前記モータが、インペラを備えたファンモータであることを特徴とする請求項7に記載のモータ。
【請求項9】
基油と、下記一般式(1)で示されるジウレア化合物を含む増ちょう剤と、分散剤0.2wt%以上5%以下とを含有し、
前記分散剤はセバシン酸のナトリウム塩、ポリアクリル酸のナトリウム塩、およびマレイン酸ナトリウム塩とイソブチレンとの共重合体の少なくともいずれかを含み、
前記分散剤は平均粒子径が0.5μm以上5μm以下である
ことを特徴とするグリース組成物。
R1−NHCONH−R2−NHCONH−R3・・・(1)
ここで、R1、R2、R3は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基から選ばれる炭化水素基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物、転がり軸受、およびモータに関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品や医療機器などのファンモータなどに適用される転がり軸受において、潤滑のためにグリース組成物が使用されている。グリース組成物は、基油と増ちょう剤と添加剤とを含有しており、例えば増ちょう剤としてウレア化合物を含有したウレアグリースがある。このウレアグリースは耐熱性が良いため、これを使用した転がり軸受は、高温で使用されても音響特性が良好である。
【0003】
例えば、特許文献1には、基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するグリース組成物において、増ちょう剤としてのウレア化合物と、添加剤(防錆剤)としてカルボン酸、カルボン酸塩およびエステルのうち少なくとも一種を含有したウレアグリースが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するグリース組成物において、基油が30質量%(wt%)以上の芳香族エステル油を含み、ジウレア化合物を5〜35質量%(wt%)含有したウレアグリースが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−224823号公報
【特許文献2】特開2004−339448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、家電製品や医療機器などに使用されるファンモータは、高速回転に伴う発熱量の増加などにより使用環境が高温化している。これに伴い転がり軸受の使用環境もより高温化している。したがって、ウレアグリースには、従来よりも高温の環境下で使用されても熱劣化が抑制されることが求められている。さらに、医療機器などは、その使用期間の初期段階から耐用寿命までに亘って特に静粛性が求められる。しかしながら、従来のウレアグリースでは耐熱性が不十分なため、前述したような高温の環境で転がり軸受に使用すると次第にウレアグリースが凝集し、音響特性が劣化していく問題があり、音響特性についてもさらなる改善が必要とされている。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高温環境で長期に亘って使用されても熱劣化が少ないグリース組成物、高温環境で使用されても初期段階から音響特性が良好な転がり軸受、およびモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係るグリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、平均粒子径0.5μm以上5μm以下の分散剤0.2wt%以上とを含有し、前記分散剤はカルボン酸の金属塩、ポリカルボン酸の金属塩、およびカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体の少なくともいずれかを含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様に係るグリース組成物において、前記カルボン酸の金属塩および前記ポリカルボン酸の金属塩の少なくとも一方は、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩のうち少なくとも一種を含むアルカリ金属塩、またはマグネシウム塩、カルシウム塩のうち少なくとも一種を含むアルカリ土類金属塩であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係るグリース組成物において、前記カルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体を形成する前記カルボン酸金属塩は、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩のうち少なくとも一種を含むアルカリ金属塩、またはマグネシウム塩、カルシウム塩のうち少なくとも一種を含むアルカリ土類金属塩であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様に係るグリース組成物において、前記分散剤の含有量は、5wt%以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係るグリース組成物において、前記増ちょう剤が下記一般式(1)で示されるジウレア化合物を含むことを特徴とする。
R
1−NHCONH−R
2−NHCONH−R
3・・・(1)
ここで、R
1、R
2、R
3は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基から選ばれる炭化水素基である。
【0013】
本発明の一態様に係るグリース組成物は、基油と、下記一般式(1)で示されるジウレア化合物を含む増ちょう剤と、平均粒子径0.5μm以上5μm以下の分散剤0.2wt%以上5wt%以下とを含有し、前記分散剤はセバシン酸のナトリウム塩、ポリアクリル酸のナトリウム塩、およびマレイン酸ナトリウム塩とイソブチレンとの共重合体の少なくともいずれかを含むことを特徴とする。
R
1−NHCONH−R
2−NHCONH−R
3・・・(1)
ここで、R
1、R
2、R
3は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基から選ばれる炭化水素基である。
【0014】
本発明の一態様に係る転がり軸受は、前述のグリース組成物が封入されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係るモータは、前述の転がり軸受を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温環境で使用されても熱劣化が少ないグリース組成物、高温環境で使用されても初期段階から耐用寿命まで良好な音響特性が維持される転がり軸受、およびモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る転がり軸受を備えたファンモータの断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例の実験結果を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例の実験結果を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照して、本発明に係るグリース組成物、転がり軸受、およびモータの実施形態について詳細に説明する。なお、以下の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付し、重複した説明を適宜省略する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る転がり軸受20を備えたファンモータ10の断面図である。
図2は、本発明の実施形態に係る転がり軸受20の断面図である。
【0020】
本発明の実施形態に係るファンモータ10は、ロータシャフト11と、転がり軸受20と、ステータ12と、インペラ13と、ケーシング16とを備えている。ロータシャフト11は転がり軸受20により回転可能に保持されている。インペラ13は、ロータハウジング14と、ロータハウジング14の外周に設けられた羽根15とを有している。
【0021】
転がり軸受20は、内輪21と、外輪22と、球状の転動体23と、保持器24と、シール材25とを備えている。そして、シール材25によりシールされた内部に、グリース組成物Gが封入されている。なお、本発明の実施形態に係る転がり軸受20が適用されるのは、ファンモータに限定されるものではなく、他の種類のモータに適用されてもよい。
【0022】
次に、本発明の実施形態に係るグリース組成物Gについて説明する。本発明の実施形態に係るグリース組成物Gは、基油と、増ちょう剤とを含有し、さらに分散剤として、カルボン酸の金属塩、ポリカルボン酸の金属塩およびカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体の少なくともいずれかを含有している。本発明者らは、グリース組成物について鋭意検討した結果、転がり軸受にグリース組成物を適用して高温環境下(例えば140℃以上)で長時間使用した場合、グリース組成物中の凝集物が粗大化することにより、転がり軸受の音響特性が劣化することを確認した。そして、グリース組成物に、分散剤としてカルボン酸の金属塩、ポリカルボン酸の金属塩およびカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体の少なくともいずれかを含有させることにより、転がり軸受を高温環境下で長時間使用しても凝集物の粗大化が抑制でき、音響特性の劣化が低減できることを見出した。さらに、分散剤の平均粒子径を0.5μm以上5μm以下の範囲にすると、少ない添加量でも初期段階から音響特性が向上することを見出した。本発明の実施形態に係るグリース組成物Gは、この知見によりなされたものである。
【0023】
基油の種類は特に限定されるものではなく、一般的にグリース基油として使用される、合成炭化水素油、アルキルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、エステル油、鉱油、フッ素油、シリコーン油などを単独または混合して使用できる。基油の含有量は、例えば70wt%以上90wt%以下とすればよい。
【0024】
合成炭化水素油系としては、例えばノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセントエチレンオリゴマーなどのポリアルファオレフィンが挙げられる。エステル油としては、例えばジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルタレート、メチル・アセチルシノレートなどのジエステル油、トリオクチルトリメリテート、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート、テトラ−2−エチルヘキシルピロメリテート等の芳香族エステル油、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンベラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなどのポリオールエステル油、炭酸エステル油などが挙げられる。アルキルジフェニルエーテル油としては、モノアルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリアルキルジフェニルエーテルなどが挙げられる。上述した中でも、芳香族エステル油が好ましく、単独または混合して使用できる。特に、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテートとテトラ−2−エチルヘキシルピロメリテートとを混合した基油を使用することが好ましい。
【0025】
増ちょう剤としては、非ウレア化合物またはウレア化合物を使用できるが、耐熱性および音響特性の点からウレア化合物を使用することが好ましい。増ちょう剤の含有量は、例えば10wt%以上30wt%以下の範囲とすればよい。
【0026】
非ウレア化合物としては、金属石鹸、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などが挙げられる。金属石鹸は、ステアリン酸などの脂肪族モノカルボン酸や、12−ヒドロキシステアリン酸などの少なくとも1個の水酸基を含む脂肪族モノカルボン酸とアルカリ土類金属水酸化物から合成される。また、脂肪族モノカルボン酸と、脂肪族ジカルボン酸などの二塩基酸とから合成される複合金属石鹸も用いることができる。
【0027】
ウレア化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア化合物を使用できる。特に、耐熱性および音響特性(静音性)の点から、ジウレア化合物を使用することが好ましい。ジウレア化合物は、下記の式(1)で示すことができる。
R
1−NHCONH−R
2−NHCONH−R
3・・・(1)
【0028】
ここで、R
1、R
2、R
3は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基から選ばれる炭化水素基である。具体的には、R
1、R
2、R
3は脂肪族炭化水素基でも脂環族炭化水素基でも芳香族炭化水素基でもよく、炭素数に特に限定はない。R
2は、芳香族炭化水素基であることが好ましく、フェニル基が1個もしくは2個置換したものであることがより好ましい。これらを合成する際に使用する原料には、アミン化合物とイソシアネート化合物を用いる。アミン化合物として、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキアデシルアミン、オクタデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどに代表される脂肪族アミンや、シクロヘキシルアミンなどに代表される脂環式アミンの他に、アニリン、p−トルイジン、エトキシフェニルアミンなどに代表される芳香族アミンが用いられる。イソシアネート化合物として、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートが用いられる。脂肪族アミンと芳香族アミンをアミン原料に用いて、芳香族イソシアネートとで合成する脂肪芳香族ジウレア化合物を用いることが好ましい。
【0029】
分散剤として含有されるカルボン酸の金属塩に使用されるカルボン酸に限定はないが、脂肪族カルボン酸が好ましく、脂肪族飽和カルボン酸でも脂肪族不飽和カルボン酸でもよい。またポリカルボン酸の金属塩に使用されるポリカルボン酸にも限定はなく、ポリカルボン酸を構成するカルボン酸としては、同様に脂肪族カルボン酸が好ましく、脂肪族飽和カルボン酸でも脂肪族不飽和カルボン酸でもよい。ポリカルボン酸を構成するカルボン酸としては、脂肪族不飽和カルボン酸がより好適に用いられる。不飽和カルボン酸ではアクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、3−ブテン酸、メタクリル酸、アンゲリカ酸、チグリン酸、4−ペンテン酸、2−エチル−2−ブテン酸、10−ウンデセン酸、オレイン酸などがあり、飽和ジカルボン酸ではシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸がある。飽和カルボン酸ではギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸があり、不飽和ジカルボン酸では、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などがある。また、これらのカルボン酸によって構成されるポリカルボン酸は、モノカルボン酸のポリマーやジカルボン酸のポリマーでもよい。特にカルボキシル基を1個または2個含む不飽和カルボン酸のポリマーであることが好ましい。なお、これらのカルボン酸の金属塩は炭化水素化合物との共重合体を形成してもよい。すなわち、グリース組成物は、分散剤としてカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体を含んでいてもよい。また、グリース組成物は、カルボン酸金属塩、ポリカルボン酸の金属塩およびカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体の少なくともいずれかを含む構成としてもよい。カルボン酸金属塩およびポリカルボン酸の金属塩またはカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体を形成するカルボン酸金属塩の具体例としては、例えばアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などが好ましく、アルカリ土類金属塩としてはマグネシウム塩やカルシウム塩などが好ましい。カルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体においてカルボン酸金属塩と重合(重合反応)させる炭化水素化合物としては、例えばイソブチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエンなどがある。
【0030】
ポリカルボン酸の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量(Mw)が5000以上200000以下であることが好ましく、より好ましくは7000以上80000以下、さらに好ましくは9000以上16000以下である。
【0031】
本発明の実施形態に係るグリース組成物G中において、分散剤であるカルボン酸金属塩またはポリカルボン酸の金属塩は、平均粒子径が0.5μm以上5μm以下であり、0.2wt%以上含有されることが好ましい。平均粒子径が0.5μm以上5μm以下のカルボン酸金属塩またはポリカルボン酸の金属塩は含有量が0.2wt%という比較的少量であっても、耐熱性を十分に向上させ熱劣化を低減でき、音響特性が良好となる。なお、分散剤がカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体である場合も、0.2wt%以上含有されることが好ましい。本発明の実施形態に係るグリース組成物G中において、分散剤の含有量は、5wt%以下であることが好ましい。なお、平均粒子径が0.5μm以上5μm以下の分散剤の含有量が5wt%以下であればグリースの増粘効果が低減されるので、転がり軸受の回転トルクの上昇を防ぐことができる。なお、本実施形態において、分散剤の平均粒子径は、JIS Z 8825に準拠したレーザ回折散乱測定方法において測定した値である。
【0032】
また、グリース組成物Gには、その他の添加剤として、酸化防止剤、摩擦防止剤、金属不活性剤、錆止め剤、油性剤、粘度指数向上剤などを必要に応じて含有させることができる。
【0033】
以上のような構成とされた本実施形態に係るグリース組成物、転がり軸受、およびモータにおいては、グリース組成物が上述の分散剤を含有しているので、耐熱性が高く、高温環境下において使用されても熱劣化が少なく、転がり軸受を使用する初期の段階から音響特性が良好である。また、グリース組成物は、分散剤を含有していることにより、高温環境下において長時間使用されても凝集物の粗大化が抑制されるため、転がり軸受に使用した時に高温で長期に亘って使用された後も良好な音響特性が保たれる。
【0034】
なお、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0035】
例えば、上記実施形態で、グリース組成物は、分散剤としてカルボン酸またはポリカルボン酸のナトリウム塩を含有することができる。また、分散剤としてカルボン酸またはポリカルボン酸のナトリウム塩以外のポリカルボン酸の金属塩を含有する構成であってもよい。カルボン酸またはポリカルボン酸の金属塩としては、ナトリウム塩以外に、例えばリチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩が挙げられる。この場合、カルボン酸またはポリカルボン酸の金属塩のうち少なくとも一種を含んでいればよい。グリース組成物がカルボン酸またはポリカルボン酸の金属塩を含有していれば、上記実施形態で説明したグリース組成物Gと同様の効果を奏する。また、カルボン酸金属塩と炭化水素化合物とからなる共重合体がナトリウム塩またはナトリウム塩以外の金属塩を用いた構成であってもよい。また、グリース組成物が、分散剤としてカルボン酸金属塩、ポリカルボン酸の金属塩、カルボン酸金属塩と炭化水素化合物とからなる共重合体のうち2種以上を含む場合も、平均粒子径を0.5μm以上5μm以下として、合計で0.2wt%以上含有させることが好ましい。
【0036】
(実施例および比較例)
次に、本発明の実施例および比較例について説明する。実施例および比較例では、種々のグリース組成物を作製し、その特性について比較検討した。
【0037】
表1に示す成分で、基油と増ちょう剤と分散剤とを混合して、実施例1〜12および比較例1〜7のグリース組成物を作製した。基油としては、エステル油(TOTM(トリオクチルトリメリテート)+TOPM(テトラオクチルピロメリテート))、PAO(ポリ−α−オレフィン)、鉱油を使用した。増ちょう剤としては、ジウレア化合物A(表1においてジウレアA)として芳香族ウレア化合物と脂肪族ウレア化合物を混合したもの、ジウレア化合物B(表1においてジウレアB)として脂肪族ウレア化合物と脂環式ウレア化合物を混合したものを使用した。分散剤としては、ポリカルボン酸の金属塩としてポリアクリル酸のナトリウム塩(表1においてA)、カルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体として、マレイン酸ナトリウム塩とイソブチレンとの共重合体(表1においてB)、カルボン酸金属塩としてセバシン酸ナトリウム塩(表1においてC)を使用した。表1中、百分率で示す数字は分散剤の含有量を質量%で示したものである。すなわち、実施例1〜12および比較例1〜7のグリース組成物には、分散剤A、BまたはCを0.2wt%以上5.0wt%以下の範囲で含有させた。ただし、実施例1〜12の分散剤の平均粒子径は0.5μm以上5.0μm以下とし、比較例1〜7の分散剤の平均粒子径は6.0μm以上10.0μm以下とした。分散剤の平均粒子径は、JIS Z 8825によるレーザ回折散乱測定方法において湿式分散を用い、レーザ回折散乱式粒度分布測定機(堀場製作所製、型番:LA−920)で測定した。溶媒はアセトンを使用し、測定前に超音波で5分間の分散を行った。作製した各グリース組成物に対して、後述する初期アンデロン値の測定と、加熱静置試験を行った後の粘度測定を行った。また、初期アンデロン値と加熱回転試験後のアンデロン値の比較も行った。
【0039】
粘度(単位:Pa・s)は、各グリース組成物を160℃の環境で500時間、静置するという加熱静置試験を行った後に、回転粘度計で測定した。具体的には、作製したグリース組成物に対して、160℃の温度条件で500時間の加熱静置試験を行った後に、温度25℃、せん断速度1/s、ギャップ0.2mmの条件で、レオメータを用いて測定した。このとき、粘度が高いほど、そのグリース組成物を充填した転がり軸受は高温で使用された後の回転トルクが高くなることを意味する。上記の実験の結果を表1に示す。
【0040】
初期アンデロン値は、転がり軸受に各グリース組成物を封入し、室温において、回転速度1800rpmで1分間回転させた後に測定した。具体的には、鋼シールド付き玉軸受(内径8mm、外径22mm、幅7mm)に、試験グリースを、軸受容積の25%〜35%で封入した。そして、この玉軸受をハウジングにセットし、軸受内径にシャフトを挿入して、試験用モータの回転軸にシャフトを結合し、玉軸受が内輪回転するようにして室温で回転させた。1分間回転させた後は、各玉軸受についてアンデロンメータ(株式会社菅原研究所社製)を用いてMバンド(300〜1800Hz)のアンデロン値を測定し、これを初期アンデロン値とした。なお、Mバンドの周波数300〜1800Hzは、人にとって耳障りな音と言われている。
【0041】
実施例1〜7および比較例1〜3のグリース組成物について、分散剤の平均粒子径が耐熱性に与える影響を確認するために、上述のように粘度の測定を行った。実験結果を
図3に示す。
図3において、横軸は分散剤の平均粒子径を示し、縦軸は粘度を示している。
図3の結果より、160℃のような高温環境下での加熱静置試験後において、分散剤の平均粒子径が5μm以下のグリース組成物では分散剤の平均粒子径が7μm以上のグリース組成物と比較して大幅に粘度が低かった。また、分散剤の平均粒子径5μmから7μmにかけては粘度の増加率が他の部分よりも大きかった。したがって、分散剤の平均粒子径を5μm以下とした方がより良い耐熱性が得られることが確認された。
【0042】
さらに、実施例1〜7と比較例1〜3のグリース組成物について、上述のように初期アンデロン値を測定した。この実験結果を
図4に示す。
図4において、横軸は分散剤の平均粒子径を示し、縦軸は初期アンデロン値を示している。
図4に示すように、分散剤の平均粒子径が5μm以下のグリース組成物は初期アンデロン値が0.6以下であり、分散剤の平均粒子径が6μm以上のグリース組成物の初期アンデロン値は1.5以上である。したがって平均粒子径が5μm以下の分散剤を用いた方が大幅に低い初期アンデロン値を示し、音響特性(静音性)が特に良好であることが確認された。
【0043】
図5は、実施例1〜3、10、11と比較例1〜3、6、7のグリース組成物について、転がり軸受に各グリース組成物を封入し、120℃の試験温度において、回転速度3000rpmで500時間回転させるという加熱回転試験を行った後の玉軸受のアンデロン値(Mバンド)を初期アンデロン値と比較したグラフである。
【0044】
玉軸受は上述と同じ寸法の鋼シールド付き玉軸受を用い、試験グリースも同様に軸受容積の25%〜35%の量を封入した。
図5では、実施例と比較例のいずれも、加熱回転試験後のアンデロン値は初期アンデロン値よりも上昇しているが、その上昇分はそれほど大きいものではなく、分散剤の添加によってアンデロン値の上昇が抑制されていることが分かる。実施例では初期アンデロン値も加熱回転試験後のアンデロン値も1.0を下回っている。一方、比較例の方は、初期アンデロン値も加熱回転試験後のアンデロン値も2.0を下回っているが、1.0を超えている。したがって、分散剤をグリース組成物に添加すると高温下でのアンデロン値の悪化が抑制されるが、なかでも分散剤の平均粒子径が5μm以下のグリース組成物を用いるとより良い音響特性が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0045】
G グリース組成物
10 モータ(ファンモータ)
11 ロータシャフト
12 ステータ
13 インペラ
14 ロータハウジング
15 羽根
16 ケーシング
20 転がり軸受
21 内輪
22 外輪
23 転動体
24 保持器
25 シール材