【実施例】
【0118】
以下の実施例は、本発明を作製および使用する方法に関する完全な開示および説明を当業者に提供するために述べられ、本発明者らが本発明として見なす範囲を制限しないと意図され、また以下の実験が行われた全てまたは唯一の実験を表すのではないと意図される。用いた数字(たとえば、量、温度等)に関しては正確を期するように努力しているが、いくつかの実験誤差および偏差があることは考慮されるべきである。それ以外であると示している場合を除き、分量は重量での分量であり、分子量は重量平均分子量であり、温度はセ氏であり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。
【0119】
コロニー刺激因子-1(CSF-1)またはマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)は、造血を促進することが発見された初期のサイトカインの1つである。造血系において、M-CSFは、共通の骨髄前駆細胞(CMP)段階から始まって骨髄前駆細胞に特異的に、および単球/マクロファージ系列へのCMPの分化にとって都合がよいように作用すると考えられる(Sherr, C.J. et al. (1988) Macrophage colony-stimulating factor, CSF-1, and its proto-oncogene- encoded receptor, Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol. 53 Pt 1 :521-530)。さらに、M-CSFは、マクロファージの生存、接着、および運動性にとっても必要である(Pixley, F.J., and Stanley, E.R. (2004) CSF-1 regulation of the wandering macrophage: complexity in action, Trends Cell Biol. 14:628-638; Socolovsky, M. et al. (1998) Cytokines in hematopoiesis: specificity and redundancy in receptor function, Adv. Protein Chem. 52:141-198; Stanley, E.R. et al. (1997) Biology and action of colony-stimulating factor-1, Mol. Reprod. Dev. 1997;46:4-10)。骨髄の分化におけるその重要な役割の他に、M-CSFは、破骨細胞の分化にとって、雌性生殖管の細胞の分化、生存、および増殖にとって、ならびに胎盤の形成にとって肝要である(Pixley et al. (2004); Socolovsky et al. (1998); Stanley et al. (1997))。M-CSFは、線維芽細胞、骨髄(BM)間質細胞、活性化T細胞およびマクロファージ、ならびに分泌上皮細胞を含む多様な細胞によって産生される。M-CSFはM-CSF受容体(Fms;CD115)を通してシグナルを伝達し、M-CSFによるその受容体のライゲーションにより、Fmsのチロシンリン酸化が起こり、その後Grb2、Shc、Sos1、およびp85等のいくつかの宿主細胞タンパク質のリン酸化が起こる(Pixley et al. (2004); Stanley et al. (1997); Rohrschneider, L.R. et al. (1997) Growth and differentiation signals regulated by the M- CSF receptor, Mol. Reprod. Dev. 46:96-103; Yeung, Y.G. and Stanley, E.R. (2003) Proteomic approaches to the analysis of early events in colony-stimulating factor-1 signal transduction, Mol. Cell. Proteomics 2:1143-1155)。
【0120】
本発明者らは、ヒト化マウスにおけるヒト骨髄分化の欠損が、骨髄分化を促進する特異的シグナルの欠如による可能性があるという仮説を立てた。これを確認するために、本発明者らは、適切な組織から生理的レベルでヒトM-CSFを分泌するようにヒト化マウスの新規世代を操作した。これらのヒト化M-CSFマウスの分析により、ヒトM-CSFが正常に発現されることが定性的および定量的に明らかとなった。ヒトCD34
+細胞を生着させたヒト化M-CSFマウスの分析により、様々な組織におけるヒト単球/マクロファージの出現率の増加が示された。さらに、これらのマウスから得られたヒト単球/マクロファージは、増強された機能的特性を示した。
【0121】
本明細書において記述されるヒト化M-CSFマウスは、ヒト骨髄細胞の出現率および機能の増強を示す。ヒトM-CSFを、組み換え活性化遺伝子2(Rag2;Genbankアクセッション番号1.NM_009020.3)およびγ鎖(γc、同様に「インターロイキン2受容体、γ鎖」、またはIL2RGとしても知られる;Genbankアクセッション番号 1.NM_013563.3)を欠損するBalb/cマウス(Rag2
-/-γc
-/-マウス)のマウスM-CSF座に挿入すると、これらのマウスにおいて定性的にしかも定量的にヒトM-CSFの忠実な発現が起こった。ヒト化M-CSF(M-CSF
h/h)の新生仔においてヒト胎児肝臓由来造血幹細胞および前駆細胞(CD34
+)を肝臓内移入すると、骨髄、脾臓、および末梢血においてヒト単球/マクロファージのより効率的な分化および出現率の増加が起こった。さらに、M-CSF
h/hマウスは、移植後20週間であってもヒト単球/マクロファージの分化を持続的に支持する能力を示した。その上、M-CSF
h/hマウスは、対照の非改変マウスとは異なり、肝臓および肺を含む様々な組織内に常在ヒト単球/マクロファージを含む。ヒト化M-CSFマウスから得られたヒト単球/マクロファージはまた、遊走、貪食、活性化、およびLPSに対する反応等の機能的特性の増強を示す。
【0122】
実施例1:細胞調製、分析法、およびアッセイ
CD34
+細胞の単離および移植。ヒト胎児肝臓試料を、Albert Einstein College of Medicine, Bronx, NYのヒト胎児肝臓組織貯蔵所からおよびAdvance Biosciences Resources, Inc., Alameda, CAから得た。ヒト組織を伴う実験は全て、エール大学ヒト治験委員会の承認を受けて行った。
【0123】
ヒトCD34
+細胞を単離するために、胎児肝臓組織をPBSによって1回すすぎ、小片に切断して、コラゲナーゼD(100 ng/mL)によって37℃で45分間処置した。単細胞浮遊液を調製して、密度勾配遠心分離(リンパ球分離培地、MP biomedicals)を用いて単核球を単離した。細胞を抗ヒトCD34マイクロビーズによって処置した後、MACS(商標)技術(Miltenyi Biotech)によってCD34
+細胞を単離した。
【0124】
移植する場合、新生仔(生後1日)に致死下量の放射線を4時間あけて2回の線量(2×150 cGy)を照射して、精製ヒトCD34
+細胞1×10
5個から2×10
5個をPBS 20μL中で22ゲージ針(Hamilton Company, Reno, NV)を用いて肝臓に注射した。
【0125】
間葉間質細胞(MSC)の単離および培養
マウスの長骨を単離して、BM細胞を押し出した。骨を小片に切断して、コラゲナーゼDおよびP(25 ng/mL)の混合物によって37℃で45分間消化した。浮遊細胞を単離して、MSC培養培地(Stem Cell Technologies)の存在下で平板培養した。培養2週間後、CD45
+Sca1
+CD90
+細胞を単離して培養した。
【0126】
抗体およびフローサイトメトリー
単細胞浮遊液をFACS CaliburまたはLSRIIおよびCELLQUEST(商標)ソフトウェア、FACS DIVA(商標)ソフトウェア(BD Biosciences, San Jose, CA)、またはFLOWJO(商標)ソフトウェア(Tree Star, Inc., Ashland, OR)をそれぞれ用いて、フローサイトメトリーによって分析した。定義された亜集団の細胞のソーティングは、FACS ARIA(商標)セルソーター(BD Biosciences, San Jose, CA)を用いて行った。
【0127】
以下のヒト抗体を試験に用いた:CD11 b、CD14、CD33、CD34、CD38、CD40、CD45、CD80、CD86、CD90、およびHLA-DR。
【0128】
以下のマウス抗体を本試験に用いた:CD11 b、CD40、CD45、CD80、CD86、F4/80、Gr1、H2K
d、およびIA
d。
【0129】
細胞培養
マウスマクロファージの分化に関して、BM細胞を、10%FCSおよび必要な補助物質(2 mM L-グルタミン、1%ペニシリン-ストレプトマイシン、および1 mM非必須アミノ酸)を添加したDMEMの存在下で6ウェルプレートにおいて平板培養した。細胞を、組み換え型マウスM-CSF(10 ng/mL)または組み換え型ヒトM-CSF(10 ng/mL)のいずれかによって7日間処置した。細胞培養上清を3日毎に採取して、培養物を新鮮な培地およびサイトカインに交換した。
【0130】
活性化、貪食、および遊走等のヒトマクロファージ試験に関して、脾臓のCD45
+CD14
+CD33
+細胞2×10
5個をソーティングして、15%ヒトAB血清および必要な補助物質(2 mM L-グルタミン、1%ペニシリン-ストレプトマイシン、および1 mM非必須アミノ酸)を添加したDMEMにおいてインビトロで培養した。
【0131】
活性化、貪食、および遊走アッセイ
インビボでのLPS刺激に関して、マウスにLPS(100 ng/g体重)をi.p.注射した。インビトロでのLPS刺激に関して、LPS(10 ng/mL)を細胞に添加して、1日または2日培養した。インビトロでのpoly I:C刺激に関して、細胞をpoly I:C(10μg/mL)の存在下で6時間または12時間培養した。
【0132】
貪食アッセイは、市販のVYBRANT(商標)貪食アッセイキット(Invitrogen)を用いて製造元の説明書に従って行った。
【0133】
市販のQCM(商標)走化性細胞遊走アッセイキット(Millipore)を用いて、製造元の説明書に従って遊走アッセイを行った。
【0134】
RNA抽出およびリアルタイムPCR
総RNAを市販のキットシステム(RNEASY(商標)ミニキット、Qiagen)を用いて単離した。オリゴdTプライマーを用いてcDNAを合成し、逆転写酵素(Roche)によって伸長させた。PCR反応は、7500リアルタイムPCRシステムおよびPower SYBR(商標)Green PCRマスターミックス(Applied Biosystems)を用いて製造元の説明書に従って、以下の遺伝子特異的プライマー対を用いて 1試料当たり2個ずつ行った:ヒトCSF1(センス:
およびアンチセンス:
、マウスcsf1(センス:
およびアンチセンス:
、ヒトIFNa(センス:
およびアンチセンス:
、ヒトIFNb(センス:
およびアンチセンス:
、マウスhprtプライマー(センス:
およびアンチセンス:
、ならびにヒトHPRTプライマー(センス:
およびアンチセンス:
)。通常のPCRに関して、標的細胞のDNAを、市販のキット(DNEASY(商標)血液および組織キット、Qiagen)を用いて抽出して、遺伝子特異的プライマー対を用いてPCR分析を行った。
【0135】
ELISA
サイトカイン定量試験に関して、血清または細胞培養上清のいずれかを採取して、市販のヒトIL6およびヒトTNF ELISAキット(Ray Biotech, Inc., GA)を用いて製造元の説明書に従ってELISAに供した。
【0136】
組織学
固形臓器を4%PFA中で固定した。固定した臓器をパラフィン(Blue RiBbon; Surgipath Medical Industries)に包埋した。ブロックを切片にして、5μm切片をH&E染色によって染色した後、ルーチンの方法によってカバーガラスを載せた。切片はいかなる培地も加えずに維持した。Zeiss Axio Imager、A1顕微鏡(2倍および10倍の対物レンズ)、AxioCam MRc5カメラ、およびAxioVision 4.7.1イメージングソフトウェア(Carl Zeiss Microimaging LLC)を用いて、デジタル光学顕微鏡画像を室温で記録した。
【0137】
統計分析
データは平均値±SEMとして表記する。統計学的有意性は、両側のStudent t検定を用いて評価した。P値>0.05は、有意ではないと見なされ、P値<0.05は
*で表記した。
【0138】
実施例2:細胞生着のための遺伝子改変マウス
ヒトM-CSFノックイン戦略
1回のターゲティング段階でマウスM-CSF核酸配列をヒトM-CSF核酸配列(VELOCIGENE(登録商標)、対立遺伝子識別番号5093)に交換するためのターゲティング構築物を、既に記述されたように(Valenzuela et al. (2003) High-throughput engineering of the mouse genome coupled with high-resolution expression analysis, Nat. Biotechnol. 21 :652-659)、VELOCIGENE(登録商標)技術を用いて構築した。マウスおよびヒトM-CSF DNAをそれぞれ、細菌人工染色体(BAC)RPCI-23、クローン373B18およびBAC RPCI-11、クローン101 M23から得た。簡単に説明すると、エキソン2から非コードエキソン9の633 nt下流まで伸長する17.5 kbヒトM-CSF配列に隣接するマウスM-CSF上流および下流相同性アーム、およびfloxed薬物選択カセットを含む、ギャップ修復クローニングによって作製された線状化ターゲティング構築物を、市販のV17 ES細胞株(BALB/c×129F1)から作製したRAG2
+/-γc
-/-マウス胚幹(ES)細胞に電気穿孔した。M-CSF遺伝子のヘテロ接合欠失を有するマウスES細胞を、マウスCsf1遺伝子のイントロン2(TUFプライマー、
;TUPプローブ、
;TURプライマー、
および3'隣接配列(TDFプライマー、
;TDPプローブ、
;TDRプライマー、
)における配列を認識する2つのTaqMan qPCRアッセイによるLoss-of-Alleleスクリーニングによって同定した。マウス遺伝子とヒトCSF1遺伝子との同時の交換を、CSF1のイントロン2における配列(フォワードプライマー、
;プローブ、
;リバースプライマー、
)の1コピー、およびネオマイシン耐性(neor)カセット(フォワードプライマー、
;プローブ、
;リバースプライマー、
)の1コピーを検出するGain-of Allele TaqManアッセイによって確認した;
図8を参照されたい。CSF1配列を認識するqPCRアッセイは、マウスゲノムからのDNAを増幅しない。同じアッセイを用いて、標的化ES細胞に由来するマウスの遺伝子型を確認した。薬物選択カセットのCreによる切除を、neo
r TaqManアッセイによって確認した。全てのプライマー-プローブセットは、Biosearch Technologiesによって供給された。プローブは、その5'末端で6-カルボキシ-フルオレセイン(FAM)およびその3'末端でBHQ-1によって標識された。
【0139】
正確に標的化されたES細胞に、薬物選択カセットを除去するために一過性のCre発現ベクターをさらに電気穿孔した。薬物カセットを有しない標的化ES細胞クローンを、VELOCIMOUSE(登録商標)法(Poueymirou et al. (2007))によって8細胞期マウス胚に導入した。ヒト化M-CSF遺伝子(VG5093)を有するVELOCIMICE(登録商標)(ドナーES細胞に完全に由来するF0マウス)を、修正を加えた対立遺伝子アッセイを用いて(Valenzuela et al.(2003))、マウス対立遺伝子の喪失およびヒト対立遺伝子の獲得に関する遺伝子タイピングによって同定した。
【0140】
マウスの維持
Balb/c Rag2
-/-γc
-/-M-CSF
m/m、Balb/c Rag2
-/-γc
-/-M-CSF
h/m、およびBalb/c Rag2
-/-γc
-/-M-CSF
h/hマウスを、エール大学の動物飼育施設において特異的病原体を含まない条件下で維持した。マウスの実験は全て、エール大学の学内動物飼育使用委員会によって承認された。
【0141】
ヒト化M-CSFマウスの作製
マウスにおけるヒトM-CSFの生理的発現によって、ヒト化マウスにおいてヒトマクロファージの分化の改善が起こるか否かを確認するために、Balb/c Rag2
-/-γc
-/-マウスをヒトM-CSFを発現するように操作した。Rag2
-/-γc
-/-欠損を有するBalb/c系統は、マウスにおけるヒト免疫系の研究に関して成功したモデル系として役立つ(Traggiai E et al. (2004) Development of a human adaptive immune system in cord blood cell- transplanted mice, Science 304:104-107)。これらのマウスにおけるヒトM-CSFの生理的レベルを超える発現を回避するために、マウスM-CSFコード配列をヒト相対物に交換する戦略を採用した。一段階ターゲティングにおいてM-CSFオープンリーディングフレームの大部分をヒトM-CSFコード配列(VELOCIGENE(登録商標)対立遺伝子識別番号5093)に交換するための構築物(
図8)を、既に記述されたようにVELOCIGENE(登録商標)技術を用いて構築した(Valenzuela et al.(2003))。注意すべきことに、プロモーターおよびマウスの他の調節エレメント(5' UTR等の)は、このベクターにおいて保存された。線状化ターゲティングベクターを、Balb/c×129 Rag2
+/-γc
-/-胚幹細胞に電気穿孔した。正確に標的化されたES細胞に、薬物選択カセットを除去するために一過性のCre発現ベクターをさらに電気穿孔した。薬物カセットを有しない標的化ES細胞クローンを、VELOCIMOUSE(登録商標)法によって8細胞期マウス胚に導入した(Poueymirou et al. (2007))。ヒト化M-CSF遺伝子(VG 5093)を有するVELOCIMICE(登録商標)(ドナーES細胞に完全に由来するF0マウス)を、修正を加えた対立遺伝子アッセイを用いて、マウス対立遺伝子の喪失およびヒト対立遺伝子の獲得に関して遺伝子タイピングすることによって同定した(Valenzuela et al.(2003))。子孫の連続的異種交配を通して、Balb/c Rag2
-/-γc
-/-マウスキメラマウス、ならびにマウスおよびヒトM-CSF(M-CSF
m/h、ヘテロ接合ノックイン)、およびヒトM-CSFのみ(M-CSF
h/h、ホモ接合ノックイン)を有するジャームライントランスミットマウスを作製した。
【0142】
ヒト化M-CSFマウスの特徴付け
ヒト化M-CSFマウスにおけるヒトM-CSFの発現を評価した。M-CSF
m/mまたはM-CSF
h/hマウスのいずれかからの臓器を採取して、種特異的であるプライマーを用いて、マウスおよびヒトM-CSF mRNA発現に関して分析した。
図1Aおよび1Bに示されるように、M-CSFは、BM、脾臓、血液、肝臓、脳、肺、精巣、および腎臓を含む分析された臓器の大部分において発現される。しかし、胸腺および皮膚は、M-CSFの検出可能な発現を示さなかった。注目すべきことに、マウスおよびヒトM-CSFの発現パターンはそれぞれ、M-CSF
m/mおよびM-CSF
h/hマウスのあいだで同等であった。次に、M-CSF
m/m、M-CSF
m/h、およびM-CSF
h/hマウスにおけるマウスおよびヒトM-CSFの発現レベルを定量した。骨髄間葉間質細胞(MSC)を単離して、M-CSF mRNAの発現レベルを、リアルタイムPCRを用いて定量し(
図1C)、M-CSFタンパク質(分泌型)を、ELISAを用いて定量した(
図1D)。M-CSF
m/mマウスは、マウスM-CSFのみを発現したが、M-CSF
m/hマウスはマウスおよびヒトM-CSFの両方を発現し、ならびにM-CSF
h/hマウスは、ヒトM-CSFのみを発現した。ヒトM-CSFの発現レベルは、マウスM-CSFと同等であった。これらのデータと一致して、血清中のCSF-1の分析から、m/m、h/m、およびh/hマウスにおけるCSF-1タンパク質の発現レベルが同等であることが判明した(
図1E)。ヘミ接合性によって、遺伝子およびタンパク質発現レベルの減少は起こらず、遺伝子-用量レベルが、このサイトカインにとって制限的ではないように思われることを示している。
【0143】
マウスM-CSFをヒトM-CSFと交換することによって、特に骨および造血に対して有害な効果が起こるか否かを調べるために、M-CSF
h/hマウスを様々な週齢で分析した。M-CSFシグナル伝達が欠損しているマウス(Csf1
op/opおよびCsf1r
-/-)は、歯の出現不全および骨欠損を示すことが、初期の研究から報告されている(Dai, X.M. et al. (2002) Targeted disruption of the mouse colony-stimulating factor 1 receptor gene results in osteopetrosis, mononuclear phagocyte deficiency, increased primitive progenitor cell frequencies, and reproductive defects, Blood 99:111-120; Felix, R. et al. (1990) Macrophage colony stimulating factor restores in vivo bone resorption in the op/op osteopetrotic mouse, Endocrinology 127:2592-2594; Wiktor-Jedrzejczak, W. et al. (1990) Total absence of colony-stimulating factor 1 in the macrophage-deficient osteopetrotic (op/op) mouse, Proc. Natl Acad. Sci. USA 87:4828- 4832; Yoshida, H. et al. (1990) The murine mutation osteopetrosis is in the coding region of the macrophage colony stimulating factor gene, Nature 345:442-444)。対照的に、M-CSF
h/hマウスは、正常な歯および骨特性を明らかにした。さらに、Csf1
op/opおよびCsf1r
-/-とは異なり、BMの総細胞含有量(
図2A)、BM、脾臓(SP)および末梢血(PB)における骨髄細胞の出現率(
図2B)、ならびにBMおよびSPにおけるマクロファージの出現率(
図2C)は、M-CSF
m/m、M-CSF
h/m、およびM-CSF
h/hマウスにおいて同等であった。この知見と一致して、HSC区画の出現率(長期HSC、短期HSC、および多能性前駆細胞を含む)および骨髄前駆細胞区画(一般的骨髄前駆細胞、顆粒球単球前駆細胞、および巨核球赤血球前駆細胞を含む)は、M-CSF
m/m、M-CSF
h/m、およびM-CSF
h/hマウスにおいて同等であった(
図9)。
【0144】
M-CSF
h/hマウスにおいて造血および骨発達が正常であることに関して可能性がある説明は、ヒトM-CSFがマウス細胞と交叉反応性である可能性がある点である。このことを確認するために、M-CSF
m/mから総BM細胞を単離して、組み換え型マウスM-CSFまたは組み換え型ヒトM-CSFのいずれかの存在下で培養した。サイトカインの非存在下で培養したBM細胞は生存できなかったが、ヒトまたはマウスM-CSFのいずれかの存在下で培養した細胞は、同等のインビトロ分化レベルを示した(
図2D)。共刺激分子およびMHCの発現に関するこれらのインビトロ分化マクロファージの分析により、ヒトまたはマウスM-CSFのいずれかの存在下でこれらの分子のレベルが同等であることが示された(
図2E)。本発明者らの知見と一貫して、これまでの研究から、ヒトM-CSFはマウス標的細胞において活性であるが、マウスM-CSFはヒト細胞とは交叉反応性でないことが報告された(Sieff, C.A. (1987) Hematopoietic growth factors, J. Clin. Invest. 79:1549-1557)。
【0145】
実施例3:ヒト化M-CSFマウスにおけるヒト単球/マクロファージの分化
M-CSFヒト化の影響を評価するために、致死下量の放射線を照射した新生仔Rag2
-/-γc
-/-M-CSF
m/m、Rag2
-/-γc
-/-M-CSF
h/m、およびRag2
-/-γc
-/-M-CSF
h/hの肝臓内(i.h.)に精製ヒト胎児肝CD34
+細胞〜2×10
5個を移植した。次に移植後8週目にレシピエントから採血して、ドナー(ヒトCD45発現に基づく)起源の細胞を確認した。移植後12週目で、レシピエントを屠殺して、そのBM、SP、およびPBを採取した。分析から、M-CSF
m/mマウスと比較して、M-CSF
h/mマウスおよびM-CSF
h/hマウスの両方のBM、SP、およびPBにおいてCD14
+CD33
+単球/マクロファージ系列細胞の相対出現率および絶対出現率の増強が明らかとなった(
図3A〜C)。M-CSF
h/mマウスは、CD14
+CD33
+細胞の出現率の増加を示したが、CD14
+CD33
+細胞の最大の出現率は、M-CSF
h/hマウスにおいて見いだされた。興味深いことに、この増加に加えて、CD14
+CD33
+細胞の出現率は、M-CSF
h/mおよびM-CSF
h/hマウスのBM、SP、およびPBにおいても増加した(
図3A)。
【0146】
ヒトM-CSFノックインマウスが持続的なヒト骨髄形成を支持するか否かを分析するために、移植後12、16、および20週目にレシピエントを分析した。ヒトCD14
+CD33
+単球/マクロファージ系列細胞は、M-CSF
m/mマウスにおいて16週目ではわずかに低減され、移植後20週目では大きく低減されたが、M-CSF
h/mおよびM-CSF
h/hマウスの両方において16および20週目でヒトCD14
+CD33
+細胞の有意な比率が観察された。それにもかかわらず、ヒトCD14
+CD33
+細胞の最大出現率はM-CSF
h/hマウスにおいて認められた(
図4Aおよび4B)。
【0147】
次に、ヒト化M-CSFマウスがヒト組織マクロファージの効率的な分化を支持するか否かを評価した。この目的に関して、M-CSF
m/m、M-CSF
m/h、およびM-CSF
h/hマウスにPBSを還流して、その臓器(肝臓、肺、および皮膚を含む)を採取した。腹腔内をPBSで洗うことによって腹膜の細胞を得た。単細胞浮遊液を調製して、ヒトCD14
+CD33
+細胞の出現率を計算した。予想されたようにヒトCD14
+CD33
+細胞の出現率は、M-CSF
m/hおよびM-CSF
h/hマウスの両方において、肝臓、肺、および腹膜において有意に増加した。しかし、皮膚外植片の分析から、M-CSF
m/mおよびM-CSF
m/hマウスのあいだでヒトCD14
+CD33
+細胞の出現率が同等であることが判明したが、これらの細胞の有意な増加がM-CSF
h/hマウスの皮膚外植片において観察された(
図5)。併せて考慮すると、これらのデータは、マウスにおけるヒトM-CSFの発現が、ヒトHSCの骨髄/マクロファージ系列の分化を改善することを示唆している。
【0148】
実施例4:ヒト化M-CSFマウスにおけるヒト単球/マクロファージの機能
ヒト化M-CSFマウスにおけるヒトCD14
+CD33
+単球/マクロファージが通常に機能するか否かを調べるために、インビボおよびインビトロ機能試験を行った。致死下量の放射線を照射したM-CSF
m/mおよびM-CSF
m/h仔に胎児肝臓CD34
+細胞を注射して、移植後12週目でドナー由来の造血を評価して、レシピエントマウスにLPSまたはPBSのいずれかを注射した。LPS注射の2日後、レシピエントを、脾臓におけるヒトCD14
+CD33
+細胞の出現率に関して分析した。LPS注射は、M-CSF
m/mマウスにおいて単球/マクロファージ系列細胞の中等度の増加を誘導したが、PBS注射群と比較して、LPSを注射したM-CSF
m/hマウスは、脾臓においてヒトCD14
+CD33
+細胞の数倍の増加を示した(
図6A)。次に、これらの細胞がインビボでLPS刺激に反応して炎症誘発性サイトカインを産生できるか否かを調べた。
【0149】
ヒトCD34
+細胞を生着させたM-CSF
m/mおよびM-CSF
m/hマウスにLPSを注射した。注射後6時間目に、マウスから採血して、ヒトおよびマウスIL6およびTNFαの血清レベルをELISAによって決定した。ヒト化M-CSFマウスにおける単球/マクロファージの出現率の増加と一致して、ヒトIL6およびTNFαレベルの上昇がM-CSF
m/hマウスにおいて検出された。これらのサイトカインの基礎レベルは、M-CSF
m/hマウスではより高かったが、LPS刺激によって、血清中のヒトIL6およびTNFαレベルの増強が起こった(
図6Bおよび6C)。次に、インビトロで単球/マクロファージ(ヒト化M-CSFマウスから得られた)が炎症誘発性サイトカインを分泌する能力を分析した。ヒトCD34+細胞による再構成の12週間後、ヒトCD14
+CD33
+細胞を、M-CSF
m/mまたはM-CSF
h/hマウスのいずれかの脾臓から単離して、インビトロでLPSによって24時間または48時間刺激した。細胞培養上清におけるIL-6およびTNFαサイトカインレベルをELISAによって評価した。インビボデータと一致して、M-CSF
h/hマウスから精製されたCD14
+CD33
+細胞は、LPSに反応してこれらのサイトカインの増強されたレベルを分泌した(
図7Aおよび7B)。同様に、ヒト化M-CSFマウスから単離されたヒトCD14
+CD33
+細胞は、poly I:C刺激に反応して、増強されたインターフェロン-αおよびインターフェロン-βmRNAレベルを発現した(
図7C)。最後に、ヒト化M-CSFマウスから得られたヒト単球/マクロファージの貪食、遊走、および活性化特性を分析した。ヒトCD34
+再構成M-CSF
h/hマウスから精製されたヒトCD14
+CD33
+細胞は、増加した貪食特性を示し(
図7D)、ケモカインMip3βに反応して増強された走化性を示した(
図7E)。予想されたように、M-CSF
h/hマウスから得たヒト単球/マクロファージは、インビトロでLPS刺激に反応して、CD40、CD80、およびCD86,ならびにHLA-DRを含む共刺激分子のアップレギュレーションに基づいて評価した場合に、活性化特性の増強を示した(
図7F)。全体として、ヒト化マウスにおいてヒトM-CSFの存在下で分化したヒト単球/マクロファージは、増強された機能的特性を示す。
【0150】
完全に再構成された機能的なヒト起源の造血/免疫系を有するマウスの作製は、当技術分野において非常に難題であった。今日まで3つのマウス系統(NOD-scidγc
-/-、[NSG]、NOD/Shi-scidγc
-/-[NOG]、およびBalb/c-Rag2
-/-γc
-/-)が開発されている。これらの系統の各々によって与えられる利点にもかかわらず、ヒトの造血は、これらのマウスにおいて不完全である。
【0151】
この主要な技術的難題を克服するために、マウスCSF-1遺伝子をそのヒト相対物と交換した。これによって、ヒト造血幹細胞および前駆細胞によって再構成されたマウスにおいて効率的なヒトマクロファージ分化が起こった。ヒト化CSF-1マウスの分析により、BM、脾臓、および末梢血においてヒト単球/マクロファージの効率的な分化が示された。その上、ヒトマクロファージは、これらのマウスにおいて肺および肝臓を含むいくつかの異なる組織において検出され、このことは、ヒト化マウスにおけるCSF-1の存在がヒト組織マクロファージの分化を促進するために十分であることを示した。さらに、CSF1
m/mおよびCSF1
h/hマウスから単離されたヒト単球/マクロファージを含む本明細書において記述される機能的試験から、CSF1
h/hマウスの細胞が、貪食、遊走、活性化、およびサイトカイン分泌等の機能を行うことに関してより良好であることが示された。これらの知見に基づいて、ヒトCSF-1の存在下で分化する単球/マクロファージはより良好に機能すると推論されうる。
【0152】
VELOCIGENE(登録商標)遺伝子操作技術を用いて、ヒトCSF-1を発現するBalb/c-Rag2
-/-γc
-/-マウスの新規系統を作製した。したがって、マウスCSF-1コード領域は、マウスcsf1遺伝子のプロモーター等の調節エレメントを乱すことなくヒト相対物に交換された。これによって、マウス調節エレメントとヒトCSF-1コード領域とを含むキメラ遺伝子が得られた。これらのマウスの発現試験から、このキメラ遺伝子が定性的および定量的に忠実に発現されることが示された。
【0153】
マウスマクロファージの分化におけるCSF-1の役割は、十分に確立されている。CSF-1(Csf1
op/op)またはその受容体(Csf1r
-/-)のいずれかを欠損するマウスは、マクロファージおよび破骨細胞出現率の重度の低減、大理石病、歯の発生不全、神経系、雄性および雌性受精能、真皮および滑膜を含む様々な組織の発達欠損を示す。これらの試験は、マウスにおけるCSF-1の役割に対して非常に重要な洞察を提供しているが、ヒトの造血におけるCSF-1の重要性はなおもほとんどわかっていないままである。この点において、本明細書において記述されるマウスは、ヒトの造血におけるサイトカインの生理学および機能ならびに造血細胞機能の理解を改善することができることから、貴重なツールとして役立つであろう。さらに、このマウスは、疾患のモデルとして用いられ、ヒトの免疫系に及ぼす物質の効果を調べるために用いられうる。このマウスモデルは、いくつかのヒトの障害および疾患の病理生理学の理解および処置において貴重なツールである。
【0154】
前述は、本発明の原理を単に説明している。当業者は、本明細書において明白に記述または示されていないが本発明の原理を具体化する様々な変化を考案することができ、それらも本発明の精神および範囲に含まれると認識されるであろう。さらに、本明細書において引用した全ての実施例および条件付き言語は、本発明の原理、および当技術分野をさらに推進するために本発明者らが貢献する概念を読者が理解するのを助けることを主に意図しており、そのような具体的に引用された実施例および条件に対する制限ではないと解釈される。その上、本発明の原理、局面および態様を引用する本明細書における全ての声明と共にその特異的実施例は、その構造的および機能的同等物の両方を包含すると意図される。さらに、そのような同等物は、現在公知の同等物と将来開発される同等物の両方、すなわち構造によらず、同じ機能を行う、開発された任意の要素を含むと意図される。それゆえ、本発明の範囲は、本明細書において示され、記述される例示的な態様に限定されないと意図される。むしろ、本発明の範囲および精神は、添付の特許請求の範囲によって具体化される。