【文献】
Parasitol. Res. (2012) vol.110, issue 6, p.2563-2567
【文献】
Brain Heart Infusion Broth (BHI Broth), Scharlau, [検索日 2018-05-18], <http://www.scharlabmagyarorszag.hu/katalogus/02-599_TDS_EN.pdf>
【文献】
Parasitol. Res.,2013年,vol.112,p.4087-95
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
乳タンパク質の加水分解物又は心臓及び脳からなる群から選ばれる少なくとも1種の動物組織の抽出物と酵母エキス及び糖類とを主成分として含む、アカントアメーバ用培地(ただし、ペプトン/酵母エキス/グルコース(712)ブイヨン及び2%のバクトカシトンを含むPYG培地を除く)。
【背景技術】
【0002】
アカントアメーバ(Acanthamoeba)は、自然界に広く存在する原生生物の一種であるアカントアメーバ属微生物の総称であり、土壌や水中などに生息し、水道水にも生息する場合がある。また、アカントアメーバは、感染症の病原体であることが広く知られており、例えば、角膜炎や肉芽腫性脳炎を引き起こす。
【0003】
アカントアメーバ角膜炎を罹患すると、眼に強い痛みを感じるばかりか、重症化すると角膜に穴が開き失明する可能性もある。アカントアメーバ角膜炎はコンタクトレンズ使用者に特に頻発しており、その要因の一つとしてコンタクトレンズの不適切な使用やケア方法が挙げられる。
【0004】
コンタクトレンズを使用する際には、単回使用のコンタクトレンズを除き、コンタクトレンズケア用品等による清浄が求められる。コンタクトレンズの中でも、特に含水性の材料からなるソフトコンタクトレンズは、真菌類や細菌類は勿論のこと、アカントアメーバの温床となりやすい。そこで、ソフトコンタクトレンズは、コンタクトレンズ用ケア用品などによって消毒することが求められる。
【0005】
係る事情により、ソフトコンタクトレンズ用ケア用品においては、その消毒効果が非常に重要であり、その消毒効果は各種消毒評価方法によって確認される。ところが、真菌類や細菌類に対する消毒評価方法はガイドラインがすでに定められているものの、アカントアメーバに対する消毒評価方法には公定法とよべる定まった方法がない。
【0006】
アカントアメーバの消毒評価方法の一つに、Spearman−Karber法がある。この方法は、所定の消毒液により消毒処理を施したアカントアメーバを段階希釈した後培養し、各希釈液における生存アカントアメーバ数(陽性数)と死滅アカントアメーバ数(陰性数)とから消毒能を評価する方法である。しかし、本方法では、陽性数及び陰性数の判断に大きな差が生じやすく、その評価結果の正確性は低い。そこで、生存アカントアメーバ数を正確に把握する方法が望まれている。
【0007】
例えば、生細胞数を測定する方法としてはMTT法が知られている。MTT法は、3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(以下、MTTとよぶ。)が生細胞内のミトコンドリア内脱水素酵素により還元されて3,5−ジフェニル−1−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)ホルマザン(以下、MTTホルマザンとよぶ。)が生成されることを利用する方法である。MTT法では、被験試料にMTTを添加し、得られたMTTホルマザン量から被験試料中の生細胞数を求める。
【0008】
特許文献1には、MTTと同じ水溶性のテトラゾリウム化合物であるWST−1と電子キャリアーである1−MPMSとを組み合わせることにより、MTTを用いる場合よりも微生物の増殖状況や活性を簡便に測定できることが記載されている。
【0009】
一方、非特許文献1には、アカントアメーバの培養方法として、ペプトン類の一種であるプロテオースペプトンを主成分とするPYG培地を用いる培養方法が記載されている。また、非特許文献2には、種々のペプトン類が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明の培地は乳タンパク質の加水分解物又は胃以外の動物組織の抽出物を主成分として含む。
【0025】
本発明の培地は、生細胞数の測定方法として広く用いられているMTT法に基づいた、アカントアメーバの生細胞数を測定するのに適した培地である。本発明の培地を利用すれば、例えば、下記工程(1)〜(4)を含む、アカントアメーバに対する消毒効果の評価方法を実施することが期待できる。
(1)消毒処理に供したアカントアメーバを、MTTの存在下で本発明の培地を用いて培養する工程
(2)前記培養したアカントアメーバを固相に捕集する工程
(3)前記固相に、物理的応力を加えてMTTホルマザン可溶性溶媒を適用することにより、前記固相に捕集したアカントアメーバからMTTホルマザンを抽出する工程
(4)前記抽出したMTTホルマザンの量により、前記消毒処理のアカントアメーバに対する消毒効果を評価する工程
【0026】
本発明の培地は、乳タンパク質の加水分解物、胃以外の動物組織の抽出物又はその両方を主成分として含む。乳タンパク質の加水分解物は、牛や豚などの哺乳動物の乳に由来するタンパク質を酸や酵素を用いることなどによって加水分解したものであれば特に限定されず、例えば、カゼインの加水分解物、乳清の加水分解物などが挙げられる。胃以外の動物組織の抽出物としては、例えば、脳、心臓又はその両方の抽出物が挙げられる。乳タンパク質の加水分解物及び胃以外の動物組織の抽出物は、これらの中でも炭水化物の含有率が低いものが好ましく用いられる。
【0027】
乳タンパク質の加水分解物及び胃以外の動物組織の抽出物の具体例としては、カザミノ酸、カゼインダイジェスト、カシトン、ラクトアルブミン加水分解物、トリプチケース、トリプトン、ブレインハートインフュージョンブロスなどが挙げられ、これらは単独で、又は二種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、MTTとの反応性及びアカントアメーバの増殖性を考慮した場合、好ましくはカザミノ酸、カゼインダイジェスト、トリプチケース、トリプトン、ブレインハートインフュージョンブロスであり、より好ましくはカザミノ酸、カゼインダイジェスト、トリプトン、ブレインハートインフュージョンブロスであり、さらに好ましくは炭水化物の含有率が比較的低いカザミノ酸、トリプトン、ブレインハートインフュージョンブロスである。
【0028】
乳タンパク質の加水分解物及び胃以外の動物組織の抽出物の入手方法は特に限定されない。例えば、乳タンパク質の加水分解物は、乳そのもの、カゼイン、乳清といった乳を、塩酸といった酸やペプシンといった酵素などで当業者に知られる条件で処理し、必要があれば凍結乾燥といった乾燥処理に供することにより得ることができる。また、胃以外の動物組織の抽出物は、脳や心臓といった胃以外の臓器を精製水などで蒸煮し、必要があれば凍結乾燥といった乾燥処理に供することにより得ることができる。乳タンパク質の加水分解物及び胃以外の動物組織の抽出物は市販されているものを用いてもよく、これらの市販品としては、例えば、非特許文献2に記載されているものがある。
【0029】
液体培地として調製時の培地の全体量に対する乳タンパク質の加水分解物及び胃以外の動物組織の抽出物の配合量はアカントアメーバを増殖し得る程度の量であれば特に限定されないが、例えば、0.1〜90W/V%であり、好ましくは0.25〜75W/V%であり、より好ましくは0.5〜50W/V%であり、さらに好ましくは1.0〜10W/V%である。乳タンパク質の加水分解物及び胃以外の動物組織の抽出物の配合量が0.1W/V%未満である場合はアカントアメーバに増殖能を付与することができず、該配合量が90W/V%を超える場合は浸透圧等の影響によりアカントアメーバの増殖を抑制する可能性がある。
【0030】
本発明の培地は、乳タンパク質の加水分解物及び胃以外の動物組織の抽出物に加えて、アカントアメーバの増殖能への影響を考慮し、例えば、pH5.0〜8.0、好ましくはpH5.5〜7.5、より好ましくは6.0〜7.0の範囲となるような緩衝剤を添加してもよい。
【0031】
緩衝剤としてはアカントアメーバの増殖能を阻害するものでなければ特に限定されないが、例えば、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、トリスヒドロキシアミノメタン緩衝剤などが挙げられる。これらのうち、アカントアメーバの増殖性を考慮すれば、リン酸緩衝剤が好ましく用いられる。
【0032】
緩衝剤の配合量が少なすぎる場合は目的の緩衝効果が得られず、他方では緩衝剤の配合量が多過ぎる場合は培地中での析出やアカントアメーバの増殖を阻害することが懸念されることから、培地全量に対する緩衝剤の配合量は、例えば、0.005〜20W/V%であり、好ましくは0.01〜10W/V%である。
【0033】
本発明の培地には、上記成分に加えて、本発明の目的を損なわない程度に、エキス、糖類、無機物並びにその塩及び水和物などの各種の添加剤を配合することができる。
【0034】
添加剤の具体例としては、エキスとしては酵母エキス等;糖類としては、グルコース、スクロース、グリコーゲン、グルカン、フルクタン等;無機物としては、硫酸アンモニウム鉄(II)・六水和物、硫酸マグネシウム・七水和物、塩化カルシウム、塩化カルシウム・二水和物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明の培地における乳タンパク質の加水分解物及び胃以外の動物組織の抽出物とその他の成分との配合量は、例えば、乳タンパク質の加水分解物及び胃以外の動物組織の抽出物の配合量が20〜50質量部であり、かつ、その他の成分の合計の配合量が1〜5質量部である。乳タンパク質の加水分解物及び胃以外の動物組織の抽出物の配合量は、培地成分全体の量に対して、70〜99W/W%であることが好ましく、80〜98W/W%であることがより好ましく、90〜96W/W%であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明の培地の具体例は、乳タンパク質の加水分解物又は胃以外の動物組織の抽出物 10〜30質量部、酵母エキス 0.1〜5質量部、グルコース 0.01〜0.1質量部、マグネシウム塩 0.0001〜0.01質量部、カルシウム塩 0.00001〜0.0001質量部、鉄塩 0.00001〜0.0001質量部、リン酸塩 0.0001〜0.001質量部、及びクエン酸塩 0.0001〜0.01質量部からなる培地である。このような培地は、アカントアメーバに対する増殖能があり、かつ、MTTとの反応性が小さいことから、アカントアメーバの生細胞数測定用培地として有用である。また、このような培地と、MTT、WST−1、トリフェニルテトラゾリウム、テトラゾリウムバイオレット、ニトロブルーテトラゾリウム、テトラニトロブルーテトラゾリウム、テトラゾリウムブルークロライド、p−イオドニトロテトラゾリウムなどのテトラゾリウム化合物とを含むキットは、アカントアメーバの生細胞数測定用キットとして有用である。
【0037】
本発明の培地の調製は、一般的に知られる培地の調製方法に準じて行うことができ、特に限定されない。例えば、精製水に乳タンパク質の加水分解物及び胃以外の動物組織の抽出物並びにその他の成分を同時に、又は各成分の溶解性を確認しながら各成分を前後して添加することにより調製することができる。本発明の培地は、乳タンパク質の加水分解物及び胃以外の動物組織の抽出物並びにその他の成分を混合して得られる粉末状培地、乳タンパク質の加水分解物及び胃以外の動物組織の抽出物並びにその他の成分を水に溶解して得られる液体状培地、乳タンパク質の加水分解物及び胃以外の動物組織の抽出物並びにその他の成分にさらに寒天などを添加して凝固させた固形状培地などを包含する。
【0038】
本発明の培地にMTTを加えて、アカントアメーバを培養することができる。培地に加えるMTTは、MTTそのもの又はMTTを溶解したMTT溶液のどちらでもよい。MTT溶液の調製に用いられる溶媒はアカントアメーバの増殖能やMTTホルマザンの生成に影響を与えないものであれば特に限定されないが、例えば、リンゲル液、その他の生理的食塩水、精製水などが挙げられる。
【0039】
アカントアメーバを培養する条件は、アカントアメーバの増殖及びMTTホルマザンの生成に適した条件であれば特に限定されず、例えば、20〜30℃で、好ましくは約25℃で、数時間〜数十時間、好ましくは1〜24時間の条件である。
【0040】
アカントアメーバの生細胞数を測定する際は、培養したアカントアメーバを固相に捕集することが好ましい。
【0041】
固相は、アカントアメーバを捕集できるものであれば特に限定されないが、例えば、アカントアメーバの大きさに対して十分に孔径が小さい濾材などが挙げられる。濾材の孔径は、アカントアメーバの大きさが10μm以上であることから、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
【0042】
培養したアカントアメーバを固相に捕集する具体例として、アカントアメーバ含有溶液を固相である濾材の一方の側から適用し、遠心や圧力などの物理的応力を加えて、液体成分を濾材の他方の側から抜き取る濾過をすることにより、アカントアメーバを固相に捕集する工程が挙げられるが、これに限定されない。
【0043】
アカントアメーバを捕集した固相に、物理的応力を加えてMTTホルマザン可溶性溶媒を通過させることにより、前記固相に捕集したアカントアメーバからMTTホルマザンを抽出することが好ましい。
【0044】
MTTホルマザンを抽出するためのMTTホルマザン可溶性溶媒としては、分析装置や人体に対して比較的安全性が高い低級アルコールを用いることが好ましい。ただし、低級アルコールは、MTTホルマザンに対する溶解性が比較的低い。そこで低級アルコールを用いたMTTホルマザンの抽出に際しては、物理的応力を加えることにより、MTTホルマザンに対する溶解性が比較的低い溶媒を用いたとしても、MTTホルマザンに対する溶解性が比較的高いジメチルスルホキシド等の溶媒や低級アルコールであるイソプロパノールと塩酸や水酸化ナトリウムとの混合物を用いた場合と同程度のMTTホルマザンの抽出効率が得られる。したがって、低級アルコール及び物理的応力を用いることにより、固相に捕集したアカントアメーバを破砕し、かつ、アカントアメーバ内外に蓄積したMTTホルマザンを低級アルコール中に抽出することができる。
【0045】
MTTホルマザンの抽出の具体例としては、アカントアメーバを捕集した濾材の一方の側から低級アルコールを適用し、一方の側から他方の側に向けて物理的応力を加えて、低級アルコールを濾材に通過させる濾過を行うことによって、濾材の他方の側から抽出液としてMTTホルマザン含有物を得ることが挙げられるが、これに限定されない。この際の加える物理的応力としては、圧力、遠心力などが挙げられるが、遠心力が好適に用いられる。
【0046】
加える物理的応力が弱すぎる場合はMTTホルマザンを抽出しきれず、該物理的応力が強すぎる場合は濾材などの固相を破壊する可能性があることから、物理的応力が遠心力である場合、遠心速度は100〜10,000rpmが好ましく、500〜5,000rpmがより好ましく、1,000〜3,000rpmがさらに好ましい。物理的応力が圧力である場合は、上記遠心力と同程度の応力になる圧力である。
【0047】
抽出溶媒が有機溶媒である場合、物理的応力を加える時間が重要となり、該時間が短すぎる場合はMTTホルマザンを抽出し得る程度の物理的応力が得られず、該時間が長すぎる場合は抽出溶媒が蒸発する可能性があり、いずれにしても好ましくない。そこで、物理的応力を加える時間は30秒〜10分が好ましく、1分〜7分30秒がより好ましく、1分30秒〜5分がさらに好ましい。
【0048】
物理的応力の負荷は、一般的に知られる物理的応力の負荷操作に準じて行うことができ、特に限定されないが、例えば、遠心分離器、ポンプ、シリンジ、アスピレーターなどの機器や器具を用いる操作を単独で、又はこれらの2種以上の操作を組み合わせて実施することができる。
【0049】
本発明の培地を用いた生細胞数を測定する方法では、MTTに代替してその他のテトラゾリウム化合物、例えば、WST−1、トリフェニルテトラゾリウム、テトラゾリウムバイオレット、ニトロブルーテトラゾリウム、テトラニトロブルーテトラゾリウム、テトラゾリウムブルークロライド、p−イオドニトロテトラゾリウムなどのテトラゾリウム化合物を用いることができる。
【0050】
本発明の培地を用いれば、下記工程(A)〜(D)を含む、アカントアメーバの生細胞数の測定方法が達成できる。
(A)アカントアメーバを、MTTの存在下で本発明の培地を用いて培養する工程
(B)前記培養したアカントアメーバを固相に捕集する工程
(C)前記固相に、物理的応力を加えてMTTホルマザン可溶性溶媒を適用することにより、前記固相に捕集したアカントアメーバからMTTホルマザンを抽出する工程
(D)前記抽出したMTTホルマザンの量により、アカントアメーバの生細胞数を決定する工程
【0051】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限又は限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0052】
表1に示す条件にて、MTTホルマザン抽出法に関する評価を実施し、その結果を表2に示す。また、表3に示す処方にて調製した培地の性能を評価し、その結果を表4に示す。さらに表5に示すMTTホルマザン検出条件にて消毒評価を実施し、その結果を
図1〜2に示す。以下、これらの詳細について記載する。
【0053】
[1.MTTホルマザン抽出法]
(1)MTTホルマザン分散液の調製
MTTホルマザン(東京化成工業)0.001gを秤量し、PP製容器に移した。これに、リンゲル溶液1/4濃度(以下、1/4リンゲル液とよぶ。)10mLを加え、超音波を照射することによりMTTホルマザンを十分に分散させ、MTTホルマザン分散液を調製した。
【0054】
(2)遠心力によるMTTホルマザンの回収
MTTホルマザン分散液0.3mLを、孔径0.45μmの親水性PTFEフィルターが予め取り付けられたマイクロチューブ(コスモスピンフィルターH、ナカライテスク社)へ分取した。このマイクロチューブを1,500rpm、5分の条件で遠心分離することにより、遠心力による応力を加え、MTTホルマザンをフィルターに捕集した。1/4リンゲル液の入ったマイクロチューブを除き、MTTホルマザンを捕集したフィルターを新品のマイクロチューブに取り付けた後、該フィルター上から抽出溶媒(メタノール、プロパノール又はジメチルスルホキシド)0.3mLを加えた。このマイクロチューブを1,500rpm、5分の条件で遠心分離することにより、フィルター中に捕集したMTTホルマザンを抽出溶媒中に溶解させ回収した。後述する表1に示すとおり、このようにして実施したMTTホルマザン回収系のうち、抽出溶媒としてメタノール及びプロパノールを用いた回収系をそれぞれ実施例1及び2とし、ジメチルスルホキシドを用いた回収系を比較例3とした。
【0055】
(3)圧力によるMTTホルマザンの回収
MTTホルマザン分散液0.3mLを、孔径0.45μmの親水性PTFEフィルターを取り付けたPP製シリンジ(コスモナイスフィルターS、ナカライテスク社)へ分取した。次いで押出速度が30秒/滴となるようにシリンジを押すことにより圧力を加え、MTTホルマザン分散液中のMTTホルマザンをフィルターに捕集し、1/4リンゲル液を除いた。シリンジ中に抽出溶媒(プロパノール)0.3mLを加えて、押出速度が30秒/滴となるようにシリンジを押すことで圧力を加えることにより、フィルター中に捕集したMTTホルマザンを抽出溶媒中に溶解させ回収した。後述する表1に示すとおり、このようにして実施したMTTホルマザン回収系を実施例3とした。
【0056】
(4)無応力によるMTTホルマザンの回収
MTTホルマザン分散液0.3mLを、孔径0.45μmの親水性PTFEフィルターが予め取り付けられたマイクロチューブ(コスモスピンフィルターH、ナカライテスク社)へ分取した。このマイクロチューブを1,500rpm、5分の条件で遠心分離することにより、遠心力による応力を加え、MTTホルマザンをフィルターに捕集した。1/4リンゲル液の入ったマイクロチューブを除き、MTTホルマザンを捕集したフィルターを新品のマイクロチューブに取り付けた後、該フィルター上から抽出溶媒(メタノール又はプロパノール)0.3mLを加えて、5分間静置した。静置後、応力をかけることなく、フィルター上部から抽出溶媒を回収した。後述する表1に示すとおり、このようにして実施したMTTホルマザン回収系のうち、抽出溶媒としてメタノール及びプロパノールを用いた回収系をそれぞれ比較例1及び2とした。
【0057】
(5)評価結果
抽出操作後、次の3項目についてMTTホルマザンの回収性を評価した。
【0058】
1)MTTホルマザンの残存
MTTホルマザンで捕集したフィルターを目視にて確認するとき、青紫のMTTホルマザンが残存していなかった場合に「適合」とし、残存していた場合に「不適合」とした。
【0059】
2)抽出溶媒の残存
シリンジ及びマイクロチューブを目視にて確認するとき、抽出溶媒が残存していなかった場合に「適合」とし、抽出溶媒がフィルターを透過せずに残存していた場合に「不適合」とした。
【0060】
3)抽出溶媒のポリエーテルエーテルケトン耐性
耐薬品性の高いポリエーテルエーテルケトン(PEEK)に対する耐薬品性を比較し、抽出溶媒におけるPEEKの耐薬品性がある場合に「適合」とし、耐薬品性がない場合は「不適合」とした。
【0061】
実施例1〜3及び比較例1〜3について実施した上記3項目の回収評価結果を後述する表2に示す。表2が示すとおり、実施例1〜3は、上記3項目についてすべて適合であり、MTTホルマザンの抽出方法並びに分析装置及びその部品への影響に問題がないことを示している。
【0062】
[2.培地]
(6)培地の調製
表3に示す処方に従って、本発明の実施例4〜6及び比較例4〜6の培地について、各成分を混合して得た混合物に精製水1,000mLを量り込み、室温にて各成分が均一になるように撹拌することにより調製した。得られた培地を滅菌し、各滅菌培地を調製した。なお、表3中の「ブレインハートインフュージョンブロス」は脳及び心臓に由来する動物組織を分解して得られたものであり、「プロテオースペプトン」は牛又は豚の胃に由来する動物組織を分解して得られたものである。また、トリプトン、カザミノ酸、ブレインハートインフュージョンブロス、プロテオースペプトン、モルトエクストラクト及びフィトンは、市販品(ベクトン・ディッキンソン社製)を用いた。
【0063】
(7)評価結果
4)MTTとの反応性
実施例4〜6及び比較例4〜6の各滅菌培地0.2mLを48ウェルカルチャープレートに分注した後、MTT溶液0.02mLをさらに加え、25℃インキュベーター内で24時間静置した。なお、MTT溶液は、非特許文献2の第12頁の記載を参照して、MTT25mgを1/4リンゲル液5mlに加えて溶解することにより調製した。
【0064】
静置後、各ウェル内の全内容物をスピンフィルター(コスモスピンフィルターH、ナカライテスク社)に移し、1,500rpm、5分の条件で遠心濾過した後、メタノールを抽出溶媒として用いて該フィルター上に捕集したMTTホルマザンを同条件で遠心濾過することにより抽出した。抽出物をHPLCにて表5に示す条件で検出し、MTTホルマザン面積値を求めた。
【0065】
得られたMTTホルマザン面積値を、PYG培地である比較例4について得られたMTTホルマザン面積値と比較することにより、MTTホルマザン相対率として各培地のMTT反応性を次式により求めた。
【0066】
【数1】
【0067】
MTT反応性が20%未満であるとき、その培地はMTTに対する反応性が低い培地であると判断した。
【0068】
5)アカントアメーバ増殖能
前培養したアカントアメーバを回収した。回収したアカントアメーバに1/4リンゲル液を加えて洗浄した後、遠心して上清を除去することにより、アカントアメーバを回収した。回収したアカントアメーバを、実施例4〜6及び比較例4〜6の培地を用いて、アカントアメーバ濃度が500cells/mLとなるようにアカントアメーバ懸濁液を調製した。T−25カルチャーフラスコ内に該アカントアメーバ懸濁液5mLを分注し、25℃インキュベーター内で3日間培養した後、該フラスコ内のアカントアメーバを回収し、血球計算盤にてアカントアメーバ数を計測した。各培地を用いて培養したアカントアメーバ数について、PYG培地である比較例4のアカントアメーバ数と比較することにより、アカントアメーバ数相対率として次式によりアカントアメーバ増殖能を求めた。
【0069】
【数2】
【0070】
アカントアメーバ増殖能が80〜120%の範囲内にあるとき、その培地はPYGと同等のアカントアメーバ増殖能を達成し得る培地であると判断した。
【0071】
実施例4〜6及び比較例4〜6について実施した上記2項目の評価結果を後述する表4に示す。表4が示すとおり、実施例4〜6は、上記2項目について、いずれともMTTに対する反応性が低い培地であり、かつ、PYGと同等のアカントアメーバ増殖能を達成し得る培地であると評価できる。
【0072】
[3.消毒評価]
前培養したアカントアメーバを回収し、1/4リンゲル液にて1.0×10
7cells/mLとなるよう懸濁し、これを接種原液とした。
【0073】
接種原液0.1mLを、1/4リンゲル液10mLに接種し、初発アカントアメーバ濃度が1×10
5cells/mLとなるように調製し、これを標準試料とした。1/4リンゲル液の代わりにダルベッコリン酸緩衝液を用いて調製したものを、比較対照とした。1/4リンゲル液の代わりに塩酸ポリヘキサニド5.0μg/mL含有ダルベッコリン酸緩衝液を用いて調製したものを試料とした。
【0074】
25℃で4時間静置後、標準試料、比較対照及び試料各1mLを、不活性剤含有溶液(10%(V/V)ポリソルベート80含有1/4リンゲル液)9mLを含むポリプロピレン製15mL遠沈管に添加することにより、塩酸ポリヘキサニドを中和により不活性化した10倍希釈液を調製した。
【0075】
上記10倍希釈液の全量を、5,000rpm、10分間の条件で遠心処理し、アカントアメーバを沈殿させた。上清を除去した後、表3に記載の実施例4の培地を10mL加え、アカントアメーバを再懸濁し、10倍希釈液(1)として調製した。
【0076】
新しい遠沈管に前記10倍希釈液(1)1mLを分取した後、新たな実施例4の培地を9mL添加し、10倍希釈液(2)を調製した。同一の操作をさらに2度繰り返し、10倍希釈液(3)及び10倍希釈液(4)について希釈系列を調製した。
【0077】
調製した前記10倍希釈液(1)〜(4)の各0.2mLを48ウェルカルチャープレートに播種し、25℃で1週間培養した。培養後、ウェル内の培地を新たな実施例4の培地 0.2mLに交換し、さらに0.5%(W/V)MTT溶解1/4リンゲル液を0.02mL/ウェルになるように加えた。次いで、プレートを25℃にて一晩反応させた。
【0078】
MTTホルマザン含有アカントアメーバを含む反応物を、スピンフィルター(コスモスピンフィルターH、ナカライテスク社)を用いて、1,500rpm、5分間のスピン条件にて遠心分離することによりフィルター上に回収した。マイクロチューブを交換した後、フィルターにメタノール0.4mLを添加し、1,500rpm、5分間のスピン条件で遠心し、アカントアメーバ内のMTTホルマザンをメタノール中に溶出した。
【0079】
得られたメタノール溶出液の吸光度を後述する表5の条件にてHPLCにより測定し、標準試料を用いて得られた吸光度の面積値の対数値(MTTホルマザン面積値)とアカントアメーバ濃度(cells/mL)とから検量線を作成した(
図1を参照)。得られた検量線から比較対照及び試料の生存アカントアメーバ濃度を算出し、初発アカントアメーバ濃度から生存アカントアメーバ濃度を引き、それぞれのアカントアメーバ減少量を求めた。結果を
図2に示す。
図2に示すとおり、比較対照に比べて、消毒剤を含む試料では、アカントアメーバが減少したことがわかる。
【0080】
以上の結果から、本発明の培地によれば、MTT法を応用したアカントアメーバ評価方法が得られることが示された。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】