特許第6506076号(P6506076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6506076
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】排泥槽
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20190415BHJP
【FI】
   E02D3/12 102
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-70829(P2015-70829)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-191222(P2016-191222A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2018年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130362
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 嘉英
(72)【発明者】
【氏名】手塚 広明
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇寛
(72)【発明者】
【氏名】川西 敦士
(72)【発明者】
【氏名】太田 光貴
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−229729(JP,A)
【文献】 特開平05−112927(JP,A)
【文献】 特開2010−229793(JP,A)
【文献】 特開2009−144353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤改良工事に伴い地盤中から噴出する排泥を一時的に貯留するための排泥槽であって、
改良対象地盤に設けた削孔の上部を覆う筒状の本体部と、
前記本体部の上面を閉塞する上面閉塞部材と、
前記上面閉塞部材に設けたロッド挿通開口と、
前記上面閉塞部材に設けた排泥ホース挿通開口と、
前記本体部の下部開放面において、前記削孔の周囲を覆って前記削孔と前記本体部との間を閉塞する下面閉塞部材と、
前記下面閉塞部材の開口部に密着して前記本体部と一体に設けられ、上部が前記本体部内へ突出するとともに、下部が地盤内に挿入される筒状のガイドパイプと、
を備えたことを特徴とする排泥槽。
【請求項2】
前記上面閉塞部材から前記本体部の内部下方に向かって設けられ、前記本体部を前記排泥ホース挿通開口側の第1貯留部と前記削孔の直上の第2貯留部とに区切るとともに、前記本体部の下部において前記第1貯留部と前記第2貯留部とを連通状態とする仕切り板を設けたことを特徴とする請求項1に記載の排泥槽。
【請求項3】
密閉された前記本体部の内部圧力を所定値以上に上昇させないことにより前記本体部に連通した前記改良対象地盤の内部圧力を一定に保つための圧力調整装置を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の排泥槽。
【請求項4】
前記上面閉塞部材に開閉可能な開閉蓋を取り付け、
前記ロッド挿通開口は、前記開閉蓋に設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の排泥槽。
【請求項5】
前記下面閉塞部材は、可撓性及び弾性を備えた部材により形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の排泥槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排泥槽に関するものであり、例えば、高圧噴射撹拌工法等を用いて地盤改良を行う際に、地盤中から噴出するスライムや排泥水を一時的に貯留するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高圧噴射撹拌工法等を用いた地盤改良工事では、地盤中から噴出するスライムや排泥水を排泥ピットに一時的に貯留した後、適切な処理を行っている。このための技術として、改良対象となる地盤の地表面を掘削して排泥ピットを形成する技術と、地表面を掘削することなく箱状の排泥槽を設置する技術とが知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1に記載された技術は、地盤中に固化材を注入して地盤改良工事や改善工事を行うための工法に関するものであり、改良対象となる地盤表面を掘削して排泥ピットを形成し、この排泥ピットを介して削孔を掘削切削する。そして、削孔にロッドを挿入し、ロッドの先端から固化材、高圧水、圧縮空気等を噴出させると、これに伴い地盤中の排泥が削孔を介して地表へ噴出し、排泥槽内へ溜まるようになっている。
【0004】
特許文献2に記載された技術は、地盤表面を掘削せずに排泥槽を設置する技術であり、箱状の本体部と、地盤改良機のロッドを挿通するとともに地盤から噴出する泥土を通過させるための挿通孔と、挿通孔から下方へ向かって突出した突出管と、泥土を排出するための掃出口とを備えた排泥槽に関するものである。そして、工事対象となる地盤の地表面に箱状の本体部を設置して、挿通孔を介して地盤中から吹き出す泥土を本体部に貯留し、本体部に泥土が溜まったら、掃出口を閉塞しているシャッター部材を動作させて掃出口を開放し、本体部から泥土を掃き出すようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−115441号公報
【特許文献2】特開2009−144353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、高圧噴射撹拌工法等を用いた地盤改良工事では、地盤中から噴出するスライムや排泥水を一時的に貯留する必要があり、地表面を掘削して排泥ピットを形成し、あるいは、地表面に箱状の排泥槽を設置することにより対応していた。この点、大規模な地盤改良工事を行う際には、排泥ピットを形成し、あるいは排泥槽を設置するための十分なスペースを確保することができるため、排泥処理に支障をきたすことはない。
【0007】
しかし、住宅が密集した住宅地において、既存の建造物を撤去せずに地盤改良工事を行う必要がある場合には、地盤改良工事を行うための各種の装置類を狭隘な敷地内に設置しなければならない。このため、狭隘地の地盤改良工事に適した装置が提案されているが、排泥ピットや排泥槽については何ら考慮されていないのが実情である。そして、狭隘地の地盤改良工事において、地表面を掘削して排泥ピットを形成すると、地盤中から噴出するスライムや排泥水が飛び散ったり、溢れ出たりして、近隣の住宅に迷惑を及ぼすおそれがある。また、このような狭隘地に大型の排泥槽を設置することはできない。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、狭隘地であっても、地盤改良工事で地盤中から噴出する排泥を確実に受け止めて貯留することが可能な排泥槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の排泥槽は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明の排泥槽は、地盤改良工事に伴い地盤中から噴出する排泥(スライムや排泥水等)を一時的に貯留するための装置であって、改良対象地盤に設けた削孔の上部を覆う筒状の本体部と、本体部の上面を閉塞する上面閉塞部材と、当該上面閉塞部材に設けたロッド挿通開口と、当該上面閉塞部材に設けた排泥ホース挿通開口と、本体部の下部開放面において、削孔の周囲を覆って削孔と本体部との間を閉塞する下面閉塞部材と、下面閉塞部材の開口部に密着して前記本体部と一体に設けられ、上部が本体部内へ突出するとともに、下部が地盤内に挿入される筒状のガイドパイプとを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
また、上述した構成からなる排泥槽において、上面閉塞部材から本体部の内部下方に向かって設けられ、本体部を排泥ホース挿通開口側の第1貯留部と削孔の直上の第2貯留部とに区切るとともに、本体部の下部において第1貯留部と第2貯留部とを連通状態とする仕切り板を設けることが好ましい。
【0011】
また、上述した構成からなる排泥槽において、密閉された本体部の内部圧力を所定値以上に上昇させないことにより本体部に連通した改良対象地盤の内部圧力を一定に保つための圧力調整装置を備えることが好ましい。圧力調整装置は、例えば、本体部の内部と外部を連通する圧力調整管と、本体部の内部圧力を測定する圧力計と、本体部の内部圧力が所定値以上となった場合に開状態となって、本体部の内部圧力の上昇を防止する圧力調整弁により構成することができる。
【0012】
また、上述した構成からなる排泥槽において、上面閉塞部材に開閉可能な開閉蓋を取り付け、ロッド挿通開口は、開閉蓋に設けることが好ましく、下面閉塞部材は、可撓性及び弾性を備えた部材により形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の排泥槽によれば、地盤改良工事を行う際に、削孔部分に筒状の排泥槽を被せるだけで、地盤中から噴出するスライムや排泥水を一時的に貯留する装置を設けることができる。この排泥槽は、削孔径や地盤から噴出する排泥量に合わせて作成するので、大がかりな排泥ピットを構築することができず、あるいは大型の排泥槽を設置することができない狭隘な施工現場であっても設置することができる。
【0014】
また、本発明の排泥槽は、全体として円筒状等の簡易な装置であるため、住宅が密集した住宅地等において、既存の建造物を撤去せずに地盤改良工事を行う場合に、排泥槽を設置するための広大なスペースを確保する必要がなく、簡易な設備を用いて、排泥の飛散を確実に防止することができる。
【0015】
また、圧力調整装置を設けることにより、本体部の内部圧力が所定値以上に上昇しないため、排泥槽が削孔部分から外れたり、貯留した排泥が飛散したりすることがない。
【0016】
さらに、クレーン等の大規模な機械を必要とせず、設置や撤去を人手で行うことができるだけではなく、他の施工現場で再利用することができるので、施工コストを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る排泥槽の縦断面図。
図2】本発明の実施形態に係る排泥槽の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係る排泥槽の実施形態を説明する。図1及び図2は本発明の実施形態に係る排泥槽を説明するもので、図1は縦断面図、図2は平面図である。
【0019】
<排泥槽の概要>
本発明の実施形態に係る排泥槽200は、図1及び図2に示すように、改良対象地盤に設けた削孔10の上部を覆う筒状の本体部20と、本体部20の上面を閉塞する上面閉塞部材30と、上面閉塞部材30に設けたロッド挿通開口31と、上面閉塞部材30に設けた排泥ホース挿通開口32と、本体部20の下部開放面において、削孔10の周囲を覆って削孔10と本体部20との間を閉塞する下面閉塞部材40とを主要な構成要素とする。本発明の実施形態に係る排泥槽200は、例えば、鋼材により作成する。
【0020】
<本体部>
本体部20は、ロッド50を挿入するための削孔10の上部に被せる部材であり、図1及び図2に示す例では円筒状となっている。本体部20の直径は、ロッド50の径や削孔10から噴出する排泥量に応じて適宜設定する。また、本体部20の形状は円筒状だけに限られず、施工現場の状況に合わせて角筒状等としてもよい。
【0021】
本体部20の上面には上面閉塞部材30が設けてあり、下面には下面閉塞部材40が設けてある。また、本体部20の内部には、排泥ホース(図示せず)を挿入する第1貯留部60を形成するための仕切り板61を取り付けてある。この仕切り板61は、上面閉塞部材30から下方へ向かって延長した板材であり、本体部20の下部途中まで設けてある。すなわち、本体部20は、仕切り板61により、第1貯留部60と第2貯留部70とに区切られており、第1貯留部60と第2貯留部70は本体部20の下部において連通している。
【0022】
また、本体部20の上部外周面には、複数の把持部(取っ手)80を設けてある。排泥槽200を設置、移動、撤去する際には、作業者がこの把持部80を持って排泥槽200を持ち運びすることができる。図2に示す把持部80は、断面略コ字状となっているが、把持部80の形状はこれに限られず、作業者が排泥槽200を持ち運ぶことができれば、半円形等の形状であってもよい。
【0023】
<上面閉塞部材>
上面閉塞部材30は、本体部20の上面を閉塞して、排泥が飛び散ることを防止するための部材であり、下面が開放するとともに上面が閉塞し、本体部20の上面に被せるようになっている。また、上面閉塞部材30と本体部20との間には、止着部材160が設けてある。そして、本体部20の上面に上面閉塞部材30を被せて、止着部材160により両者を一体に止着することができる。また、止着部材160による止着を解除することにより、本体部20から上面閉塞部材30を取り外すことができる。このような構成とすることにより、本体部20の内部を容易に清掃することができる。なお、本体部20と上面閉塞部材30を一体の部材として設けてもよい。
【0024】
本体部20は、上面閉塞部材30により閉塞されており、上面閉塞部材30には排泥ホース挿通開口32と、開閉蓋90と、圧力調整管100を設けてある。また、圧力調整管100の下方には、排泥が圧力調整管100内に侵入することを防止するための遮蔽部材110を取り付けてある。
【0025】
この圧力調整管100は、上面閉塞部材30を貫通して上下方向に設けた管状の部材であり、上端部(本体部20の外部)に圧力計120を取り付けるとともに、管内には、圧力計120からの開閉指示信号を受信して開閉する圧力調整弁130を設けてある。本実施形態では、圧力調整管100と圧力計120と圧力調整弁130が、圧力調整装置として機能する。
【0026】
そして、圧力計120により、本体部20内の圧力が所定値以上となったことを検知すると、圧力計120から圧力調整弁130に開閉指示信号(圧力調整弁130の開信号)が送信され、圧力調整弁130が開状態となって、本体部20内の圧力が所定値以上となることを防止する。また、圧力計120が本体部20内の圧力が所定値未満となったことを検知すると、圧力計120から圧力調整弁130に開閉指示信号(圧力調整弁130の閉信号)が送信され、圧力調整弁130が閉状態となる。
【0027】
<開閉蓋>
開閉蓋90は、略中央部にロッド挿通開口31を備えており、当該ロッド挿通開口31を設けた側を開放縁として両側に開くことができる。すなわち、開閉蓋90は、全体として四角形の板状部材からなり、略中央部で二分され、略中央部が開放縁となり、両側部と上面閉塞部材30との間にヒンジ33を取り付けることにより、両側部を回動支持縁としている。開閉蓋90は、回動支持縁を回動中心として、開閉することができる。
【0028】
<ロッド挿通開口>
ロッド挿通開口31は、開閉蓋90に設けた開口であり、二分された各開閉蓋90の略中央部に半円形状の切り欠きを設けることにより形成されている。ロッド挿通開口31を開閉蓋90に設けることにより、上面閉塞部材30に対してロッド50を容易に挿通することができる。また、ロッド挿通開口31とロッド50との間にパッキン150を介在させて、ロッド挿通開口31とロッド50との隙間を閉塞することが好ましい。パッキン150は、可撓性及び弾性を有するスポンジ等の部材とすることができる。
【0029】
<下面閉塞部材>
下面閉塞部材40は、本体部20の下部開放面において、削孔10の周囲を覆って削孔10と本体部20との間を閉塞するための部材である。すなわち、本実施形態の下面閉塞部材40は、ドーナッツ状となっており、中央部の開口が削孔10に対向し、その周囲を閉塞することにより、排泥槽200内に排泥を貯留することができるようになっている。
【0030】
下面閉塞部材40の開口には、上部が本体部20内へ突出するとともに、下部を地盤内に挿入する筒状のガイドパイプ140を設けてある。このガイドパイプ140により、地盤に対して排泥槽200を確実に固定することができる。また、ガイドパイプ140の上部が本体部20内へ突出しているため、排泥槽200の外部へスライムや排泥水が溢れ出すことがなく、排泥槽200の内部へ確実にスライムや排泥水を導入することができる。
【0031】
この下面閉塞部材40は、例えば、スポンジのように可撓性及び弾性を有する部材により形成することが好ましい。すなわち、排泥槽200を設置する地表面は、必ずしも平滑であるとは限らず、通常の場合多少の凹凸が存在する。したがって、下面閉塞部材40を可撓性及び弾性を有する部材により形成することにより、本体部20の下面を削孔10の周囲の地表面に密着させることができる。
【0032】
<排泥槽の設置>
本発明の実施形態に係る排泥槽200を設置するには、地盤改良工事で使用するロッド50の挿入位置に、本体部20の外周径とほぼ同様の設置穴(図示せず)を設ける。設置穴の深さは、排泥槽200の上部が地表面に突出する程度とする。そして、把持部80を持って排泥槽200を移動させ、設置穴内に排泥槽200を設置する。この際、ロッド50の挿入位置の地盤中に、ガイドパイプ140を挿入する。排泥槽200を設置したら、開閉蓋90を開いてロッド50を設置した後、開閉蓋90を閉じてロッド50の周囲を覆う。この状態で、ロッド50を地盤中に挿入しながら改良材等を注入して地盤改良を行う。
【0033】
地盤改良を行うと、削孔10からスライムや排泥水が噴出するが、このスライムや排泥水は第2貯留部70内に貯留されるとともに、第2貯留部70に連通した第1貯留部60から排泥ホース(図示せず)を用いて排出される。なお、図示しないが、排泥ホースには吸引装置が連通接続されている。また、上面閉塞部材30に圧力調整管100を設けてあるため、本体部20内の圧力が上昇するおそれはない。現行の施工位置における地盤改良が終了したら、次の施工位置に排泥槽200を移動させて、上述した手順を繰り返すことにより、改良対象地盤全体の地盤改良を行うことができる。
【符号の説明】
【0034】
10 削孔
20 本体部
30 上面閉塞部材
31 ロッド挿通開口
32 排泥ホース挿通開口
33 ヒンジ
40 下面閉塞部材
50 ロッド
60 第1貯留部
61 仕切り板
70 第2貯留部
80 把持部
90 開閉蓋
100 圧力調整管
110 遮蔽部材
120 圧力計
130 圧力調整弁
140 ガイドパイプ
150 パッキン
160 止着部材
200 排泥槽
図1
図2