特許第6506554号(P6506554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6506554
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】吸着体、及びそれを用いた精製方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/24 20060101AFI20190415BHJP
   B01J 20/285 20060101ALI20190415BHJP
   B01D 15/34 20060101ALI20190415BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20190415BHJP
【FI】
   B01J20/24 C
   B01J20/285 T
   B01D15/34
   C07K1/22ZNA
【請求項の数】13
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-534432(P2014-534432)
(86)(22)【出願日】2013年9月9日
(86)【国際出願番号】JP2013074184
(87)【国際公開番号】WO2014038686
(87)【国際公開日】20140313
【審査請求日】2016年7月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-198352(P2012-198352)
(32)【優先日】2012年9月10日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河井 義和
(72)【発明者】
【氏名】森尾 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】鴻池 史憲
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康之
(72)【発明者】
【氏名】平野 優
【審査官】 早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/033223(WO,A1)
【文献】 特開2011−231152(JP,A)
【文献】 特開2009−014377(JP,A)
【文献】 特開平11−158202(JP,A)
【文献】 特開平10−248927(JP,A)
【文献】 特開平04−227268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/24〜285
B01D 15/34
C08B 15/08〜10
C07K 1/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散セルロースの凝固物である多孔質セルロースビーズを含み、平均細孔径が418Å以下、最大細孔径が3400Å以下、又は排除限界分子量が3.8×109以下であり、イオン液体のカチオン成分と結合したセルロースを少なくとも含まないことを特徴とする吸着体。
【請求項2】
アフィニティーリガンドを含有することを特徴とする請求項1に記載の吸着体。
【請求項3】
アフィニティーリガンドの導入量が、吸着体1mL当り、1mg以上500mg以下である請求項1または2に記載の吸着体。
【請求項4】
前記アフィニティーリガンドがプロテインAであることを特徴とする請求項2または3に記載の吸着体。
【請求項5】
前記プロテインAがアルカリ耐性を持つことを特徴とする請求項4に記載の吸着体。
【請求項6】
前記プロテインAが配向制御型であることを特徴とする請求項5に記載の吸着体。
【請求項7】
RTが3分の時のIgGの5%DBCが60g/L以上であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の吸着体。
【請求項8】
RTが6分の時のIgGの5%DBCが70g/L以上であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の吸着体。
【請求項9】
デキストラン硫酸をリガンドとして含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の吸着体。
【請求項10】
LDLコレステロールの吸着量が7g/L以上であることを特徴とする、請求項1〜3および9のいずれか一項に記載の吸着体。
【請求項11】
分散セルロースの凝固物である多孔質セルロースビーズを含み、プロテインAのアフィニティーリガンドをさらに含有し、理論IgG飽和吸着量が70g/L以上200g/L以下であり、イオン液体のカチオン成分と結合したセルロースを少なくとも含まないことを特徴とする吸着体。
【請求項12】
分散セルロース液中のセルロース濃度が1〜10重量%である請求項1〜11のいずれか一項に記載の吸着体。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の吸着体を用いることを特徴とする精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸着体に関する。詳しくは、特定の製造方法により得られる多孔質セルロースビーズを用いた、吸着量に優れる吸着体に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質セルロースビーズを用いた吸着体は、他の合成系高分子を用いる場合に比べて安全性が高く、非特異的吸着が少なく、広いpH域で使用でき、また多糖類でありながら機械的強度が大きいという利点がある。用途の例として各種医療用吸着体やクロマトグラフィー用吸着体やアフィニティー吸着体が挙げられる。なかでも、アフィニティー吸着体は、効率よく目的物を精製、または不要物濃度を低減できることから、医療用吸着体や抗体医薬品精製用吸着体として利用されてきている。特に、リウマチ、血友病、拡張型心筋症の治療用(医療用)吸着体として、プロテインAをアフィニティーリガンドとして多孔質担体に固定化した吸着体が注目されている(例えば非特許文献1、非特許文献2)。一方、免疫グロブリン(IgG)を特異的に吸着、溶出できる吸着体として、プロテインAをアフィニティーリガンドとして多孔質担体に固定化した吸着体(抗体医薬品精製用吸着体)が注目されている。また、高コレステロール血漿治療用に硫酸デキストランを多孔質セルロースビーズに結合した吸着体が市販されている(例えば、カネカ社製リポソーバーなど)。吸着体に用いられる多孔質セルロースビーズの製造は、原料のセルロース粉末を溶解できる溶媒がほとんどないため、現在はチオシアン酸カルシウム水溶液などの腐食性、毒性が高く、設備化の難易度を高くしてしまう溶媒に溶解し、凝固することによって得られている(例えば特許文献1)。一方、セルロースの溶解性を上げるためにセルロースの水酸基に置換基を付与し、汎用の溶媒に溶解させて造粒を行い、造粒後に置換基を脱離させて多孔質セルロース系担体を得る方法が例示されている(例えば特許文献2)が、工程が煩雑であり、置換基を付与したり脱離させたりする過程で分子量の低下が起こり、近年求められている高速処理や大スケールで使用するのに適切な強度が得られ難い傾向がある。
【0003】
また、ごく最近になって、セルロースを容易に溶解できる溶媒としてイオン液体が注目されており、非特許文献3においては、イオン液体にセルロースを溶解してセルロースビーズを得る方法が開示されている。しかしながら、イオン液体はかなり高価であり、産業レベルで副原料として使用するには不適であるし、微量とはいえ残留するであろうイオン液体の安全性については、毒性データ等が少なく、医療用や医薬品精製用の吸着体製造用として使用する場合は、安全性確認の検討を相当要することが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US2009/0062118
【特許文献2】WO2006/025371
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Annals of the New York Academy of Sciences 2005. Vol.1051 P.635−646
【非特許文献2】American Heart Journal Vol.152, Number 4 2006
【非特許文献3】Journal of Chromatography A,1217(2010)1298−1304
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来の技術が有する上記課題を鑑みてなされたものであり、毒性、腐食性が高い副原料を使わず、簡便な方法により得られた、機械的強度が高い多孔質セルロースビーズを用いた、吸着量の大きい吸着体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、多孔質セルロースビーズを製造する工程において、原料のセルロース粉末が低温アルカリに完全に溶解していない状態で、凝固液に接触させて得られた多孔質セルロースビーズを用いた吸着体は、特異的に吸着量が多いことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の吸着体は、低温のアルカリ水溶液と原料セルロース粉末とを混合して作製したセルロース分散液を、凝固溶媒に接触させて得られた多孔質セルロースビーズを用いることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る吸着体は、アフィニティーリガンドを含有することが好ましい。アフィニティーリガンドの導入量は、吸着体1mLあたり、例えば、1mg以上500mg以下である。
【0009】
前記アフィニティーリガンドとしてはプロテインAであることが好ましい場合がある。
【0010】
また、前記プロテインAがアルカリ耐性を持つことが好ましい。
【0011】
さらに、前記プロテインAが配向制御型であることが好ましい。
【0012】
例えば、IgGを吸着する場合、RTが3分の時のIgGの5%DBCが60g/L以上であることが好ましい。
【0013】
また、RTが6分の時のIgGの5%DBCが70g/L以上であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、デキストラン硫酸をリガンドとして含有することを特徴とする吸着体に関する。
【0015】
例えば、LDLコレステロールを吸着する場合、吸着量が7g/L以上であることが好ましい。
【0016】
本発明で用いる多孔質セルロースビーズを得るにあたり、前記低温とは、好ましくは20℃以下である。前記セルロース分散液中のセルロース濃度は1〜10重量%であることが好ましく、前記アルカリ水溶液のアルカリ濃度は5〜15重量%であることが好ましい。
【0017】
本発明は、前記吸着体を用いる精製方法に関する。
【0018】
また、本発明は、前記吸着体を用いる治療方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、毒性、腐食性が高い副原料を使わず、工業的に不利である煩雑な工程を経ることなく得られた多孔質セルロースを用いた、高吸着量で高強度な吸着体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例1に係る多孔質セルロースビーズ表面のSEM像である。
図2】本発明の実施例2に係る多孔質セルロースビーズ表面のSEM像である。
図3】本発明の実施例3に係る多孔質セルロースビーズ表面のSEM像である。
図4】本発明の実施例4に係る多孔質セルロースビーズ表面のSEM像である。
図5】本発明の実施例5に係る多孔質セルロースビーズ表面のSEM像である。
図6】本発明の実施例6に係る多孔質セルロースビーズ表面のSEM像である。
図7】本発明の実施例7に係る多孔質セルロースビーズ表面のSEM像である。
図8】本発明の実施例8に係る多孔質セルロースビーズ表面のSEM像である。
図9】本発明の実施例9に係る多孔質セルロースビーズ表面のSEM像である。
図10】本発明の実施例10に係る多孔質セルロースビーズ表面のSEM像である。
図11】本発明の実施例11に係る多孔質セルロースビーズ表面のSEM像である。
図12】本発明の実施例12に係る多孔質セルロースビーズ表面のSEM像である。
図13】本発明の実施例13,15,16に係る多孔質セルロースビーズ表面のSEM像である。
図14】本発明の実施例14,17,18に係る多孔質セルロースビーズ表面のSEM像である。
図15】本発明の参考例1に係る吸着体表面のSEM像である。
図16】製造例1で使用した撹拌翼の概略斜視図である。
図17】製造例9で使用した撹拌翼の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る吸着体は、低温のアルカリ水溶液と原料セルロース粉末とを混合してセルロース分散液を調製する工程、および、当該セルロース分散液を凝固溶媒に接触させることにより得られた多孔質セルロースビーズを用いることを特徴とする。
【0022】
低温のアルカリ水溶液に通常の大きさの原料セルロース粉末を投入すると、よく知られているように透明の溶解状態とは言い難い分散液が得られるが、このようなセルロース分散液からでさえ、多孔質セルロースビーズがより簡便に安価に製造でき、また、得られる多孔質セルロースビーズは、強度に優れている。
【0023】
前記多孔質セルロースビーズにリガンドを結合させた本発明の吸着体は、従来技術により得られる多孔質セルロースビーズを用いた吸着体に比較して吸着量に優れている。セルロースがアルカリ水溶液に溶解しなくても、水とアルカリ成分が低温下で形成する特殊なクラスタにセルロースが配位されて膨潤し、かかるクラスタが凝固溶媒に吸収および置換され、セルロースが凝固しながら多孔質化し、吸着体として利用できる構造となるものと考えられる。しかも、形成される孔が従来法により製造される多孔質セルロースビーズと異なっているため、吸着性に優れている。
【0024】
本発明の吸着体は、標的となる分子(目的物)を吸着または溶出(解離)する機能を利用できる用途であれば、特に限定されないが、広範囲なpH域で使用できる特徴を存分に生かせる、アフィニティークロマトグラフィーに好ましく用いることが出来る。
【0025】
アフィニティークロマトグラフィー用の吸着体として用いるためには、多孔質セルロースビーズに吸着の目的物と特異的に結合するアフィニティーリガンドを導入することができる。
【0026】
本発明のアフィニティーリガンドの導入量は、吸着体1mL当り、1mg以上500mg以下であることが好ましい。アフィニティーリガンドの導入量が吸着体1mL当り1mg以上であれば、目的物に対する吸着量が大きくなるため好ましく、500mg以下であれば、製造コストを抑制できるため好ましい。より好ましいアフィニティーリガンドの導入量は、吸着体1mL当り2mg以上120mg以下であり、さらに好ましくは3mg以上60mg以下であり、特に好ましくは4mg以上30mg以下であり、最も好ましくは4mg以上15mg以下である。なおアフィニティーリガンドが無配向型である場合、吸着体1mL当たりのリガンド導入量が、例えば、10mg以上80mg以下、好ましくは20mg以上50mg以下であってもよい。
【0027】
または、本発明の吸着体のアフィニティーリガンドの導入量は、吸着体1mL当り、0.01μmol以上15μmol以下であることが好ましい。アフィニティーリガンドの導入量が吸着体1mL当り0.01μmol以上であれば、精製目的物に対する吸着量が大きくなるため好ましく、15μmol以下であれば、製造コストを抑制できるため好ましい。より好ましいアフィニティーリガンドの導入量は、吸着体1mL当り0.03μmol以上5μmol以下であり、さらに好ましくは0.05μmol以上2μmol以下であり、特に好ましくは0.1μmol以上0.75μmol以下であり、最も好ましくは0.1μmol以上0.5μmol以下である。
【0028】
アフィニティーリガンドの導入量は、固定化反応後の反応液上清中のアフィニティーリガンド由来の吸光度を測定する方法やBCA法(ANALYTICAL BIOCHEMISTRY 191, 343-346(1990))等の方法により求めることができる。例えば、アミノ基含有アフィニティーリガンドであれば、吸着体のN含量分析を行うことにより、アフィニティーリガンドの導入量を求めることができる。
【0029】
治療用(医療用)吸着体や抗体医薬品精製用吸着体などに用いられる場合のアフィニティーリガンドとしては、抗体に特異性の高い抗原や、プロテインA、プロテインG、L等のタンパク質やその変異体、抗体結合活性を有するペプチド等を挙げることができる。特に、免疫グロブリン(IgG)等を特異的に吸着、溶出できる吸着体として、プロテインAをアフィニティーリガンドとして担体に固定化した吸着体が注目されている。プロテインAを固定化した吸着体は、リウマチ、血友病、拡張型心筋症の治療用吸着体として注目されている。また、抗体医薬精製の分野においては、IgG等の抗体の精製を大スケール、高速、及び低コストで行える吸着体が望まれている。このような観点から、本発明の吸着体は、アフィニティーリガンドとしてプロテインAが導入された吸着体であることが好ましい。
【0030】
本発明に用いることができるプロテインAは、特に限定は無く、天然物、遺伝子組み換え物等を制限なく使用することができる。また、抗体結合ドメイン及びその変異体を含むものや融合蛋白質等であってもよい。また、菌体抽出物もしくは培養上清より、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー及び膜分離技術を用いた分子量分画、分画沈殿法等の手法から選択される精製法を組合せ、および/または繰り返すことにより製造された、プロテインAを用いることもできる。特に、国際公開特許公報WO2006/004067や米国特許公報US5151350に記載されている方法で得られたプロテインAを好ましく用いることが出来る。
【0031】
吸着体は吸着量が大きいだけでなく、用途に応じて様々な特性が求められる。例えば、精製用途においては、目的物を高濃度に回収する必要がある。一般的に回収工程や溶出工程と呼ばれるが、この工程において、リガンドに求められる特性は、目的物を解離しやすいという点である。プロテインAをリガンドとした場合、回収工程において、抗体を解離しやすい特性が好ましく、本発明にも好適に用いることができる。例えば、WO2011/118699に記載のプロテインAが挙げられる。また、吸着体は再利用される場合が多く、再利用するためには、洗浄処理または再生処理を行う必要がある。抗体精製においては、尿素やグアニジン等を含有する溶液が用いられるが、溶液の調製が煩雑であることから、水酸化ナトリウム水溶液にて洗浄・再生を行う方法が主流となりつつある。
【0032】
本発明においても、アルカリ耐性リガンドを好適に用いることができる。プロテインAにおいても同様にアルカリ耐性を持つものを好ましく用いることができる。例えば、WO2011/118699に記載のプロテインAが挙げられる。
【0033】
また前記プロテインAは、配向制御型であることが好ましい。配向制御型とは、セルロースビーズに固定化される際、プロテインAの末端部位とビーズとが結合しやすいような配列を有しているものを指す。
【0034】
一方、プロテインAをはじめとする、種々のアフィニティーリガンドを多孔質ビーズに固定化する方法としては、例えば臭化シアン法、トリクロロトリアジン法、エポキシ法、トレシルクロリド法等の、様々な固定化法の中から選択することができ、中でも、安全性の観点や、固定化反応の容易さ、比較的容易な方法で産生されたタンパク質やペプチドが使用できる等の理由から、多孔質ビーズのホルミル基と、アフィニティーリガンドのアミノ基との反応を固定化に用いることが、産業上好ましいとされている(例えばWO2010/064437)。このような観点から前記配向制御型プロテインAは、プロテインAのE,D,A,B,および、Cドメインのいずれかのドメインに由来したアミノ酸配列の全てのLys(リジン残基)にアミノ酸置換変異を導入したアミノ酸配列を有し、かつ、末端にLysを付与された配列を有するものであることが望ましい。
【0035】
また、このようなプロテインAはビーズへの導入量が少なくなる場合があることから、リガンドを固定化するためのビーズの活性基量は、ビーズ1mLあたり1μmol以上であることが好ましい。また、活性基量が多すぎると、リガンド固定化後の不活化処理が煩雑になることから、ビーズ1mLあたり500μmol以下であることが好ましい。より好ましい活性基量はビーズ1mLあたり5μmol以上250μmol以下、さらに好ましくは10μmol以上125μmol以下、特に好ましくは20μmol以上60μmol以下、最も好ましくは30μmol以上50μmol以下である。
【0036】
リガンドを結合させやすい、または、活性基を有する化合物を結合させて多くの活性基を簡便に付与できる点で、ビーズ上の活性基はホルミル基であることが好ましい。
【0037】
本発明の吸着体の、目的物の吸着量は、カラムに吸着体を充填された状態で5%ダイナミックバインディングキャパシティー(DBC)を測定する方法で求めることができる。
【0038】
目的物の吸着量は、滞留時間(レジデンスタイム、以下、RTと略す。)3分で吸着処理を行う場合、吸着体1Lあたり1g以上であることが好ましい。目的物の吸着量が、吸着体1Lあたり1g以上であれば、効率よく精製が行えるため好ましい。また目的物の吸着量が、吸着体1Lあたり200g以下であれば、吸着した目的物が吸着体から溶出しやすいため好ましい。より好ましい吸着体での目的物の吸着量は、吸着体1Lあたり10g以上150g以下であり、さらに好ましくは30g以上100g以下であり、特に好ましくは50g以上90g以下であり、最も好ましくは60g以上80g以下である。
【0039】
RT6分で吸着処理を行う場合、目的物の吸着量は、吸着体1Lあたり20g以上200g以下が好ましく、さらに好ましくは40g以上150g以下であり、特に好ましくは60g以上100g以下であり、最も好ましくは70g以上90g以下である。
【0040】
本発明の吸着体のその他のリガンドとしてデキストラン硫酸を好ましく用いることができる。デキストラン硫酸を用いた場合、各種イオン交換クロマトグラフィーに好適な吸着体を得ることができる。また、LDLコレステロールを吸着する吸着体としても好適であり、さらにLDLコレステロールを吸着除去する医療用吸着体として用いることができる。
【0041】
LDLコレステロールの吸着量としては、吸着体1Lあたり1g以上50g以下が好ましい。1g以上であれば、治療用吸着体に用いた場合に好適な治療が行える。50g以下であれば、LDLコレステロールの急激な低下による副作用を抑制することができる。さらに好ましくは2g以上20g以下であり、特に好ましくは4g以上15g以下であり、最も好ましくは6g以上10g以下である。
【0042】
以下、本発明で用いる多孔質セルロースビーズの製法について、工程ごとに説明する。
【0043】
(1) セルロース分散液の調製工程
本発明で用いる多孔質セルロースビーズの製造工程では、低温のアルカリ水溶液と原料セルロース粉末とを混合する。原料セルロース粉末が低温アルカリ水溶液に溶媒和される反応は発熱反応であるので、高温のアルカリ水溶液にセルロースを加えても均一で着色の無い分散液は得られない。そこで、セルロースとアルカリ水溶液の混合時には、低温を維持する。
【0044】
ここで低温とは、常温より低い温度を指す。常温より低ければ大きな問題は無いが、−20℃以上であれば温調設備が簡便でランニングコストも低くなるため好ましい。また10℃以下であればセルロース分散液の着色が少なくなり、またセルロースの分散性・膨潤性が高くなるため好ましい。当該温度としては、−10℃以上、20℃以下が好ましい。−10℃以上であればアルカリ水溶液の凍結を抑制することができる。一方、20℃以下であれば、セルロース分散液を効率的に調製でき、また、セルロース分散液の着色を抑制することができる。当該温度としては、−5℃以上がより好ましく、−2℃以上がさらに好ましく、−1℃以上が特に好ましく、また、15℃以下がより好ましく、9℃以下がさらに好ましく、5℃以下がさらに好ましく、4℃以下がさらに好ましく、1℃以下がさらに好ましい。また、当該温度が9℃以下であれば、得られる多孔質セルロースビーズの真球度が高くなるため好ましい。
【0045】
アルカリは、水溶液となった際にアルカリ性を示すものであれば特に限定なく用いることができる。入手のしやすさから水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、製品安全性や価格の面から水酸化ナトリウムが最も好ましい。
【0046】
前記アルカリ水溶液のアルカリ濃度に特に限定は無いが、3〜20重量%であることが好ましい。アルカリの濃度がこの範囲であれば、セルロースのアルカリ水溶液への分散性・膨潤性が高くなるため好ましい。より好ましいアルカリの濃度は5〜15重量%であり、さらに好ましくは7〜10重量%、最も好ましくは8〜10重量%である。
【0047】
前記原料セルロース粉末の種類には特に限定は無い。例えば、本発明方法では、セルロースを溶解させなくてもよいので、溶解性を上げるための置換基を導入したセルロースなど、置換セルロースを用いる必要はなく、通常の無置換セルロースの粉末を原料として用いることができる。
【0048】
原料セルロースの分子量は特に制限されないが、重合度としては1000以下であることが好ましい。重合度が1000以下であれば、アルカリ水溶液への分散性・膨潤性が高くなり、好ましい。また重合度が10以上であれば、得られる多孔質セルロースビーズの機械的強度が大きくなるため好ましい。より好ましい重合度の範囲は50以上500以下、さらに好ましくは100以上400以下、特に好ましくは200以上350以下、最も好ましくは250以上350以下である。
【0049】
前記原料セルロース粉末としては、そのメジアン粒径が10μm以上、500μm以下のものを用いることが好ましい。本発明方法ではセルロースを溶解しなくてもよいため、溶解性向上のため原料セルロース粉末を特殊な方法で粉砕する必要が無い。また、原料セルロース粉末を過剰に粉砕すると、全体の製造効率が低下する。即ち、従来、セルロースを低温アルカリ水溶液に溶解するために爆砕処理や湿式粉砕などにより原料セルロース粉末を極端に微細化することが行われていたが、これらの処理は製造コストを上げる原因となる。よって、原料セルロース粉末のメジアン粒径は、10μm以上が好ましい。また、メジアン粒径が10μm以上であれば、セルロース分散液中にダマが発生し難くなるという効果もある。一方、当該メジアン粒径が過剰に大きな原料セルロース粉末を用いると、安定的な分散液が得られず、ひいては多孔質セルロースビーズを良好に製造できない場合があり得るので、当該メジアン粒径としては500μm以下が好ましい。当該メジアン粒径としては、15μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましく、45μm以上が特に好ましく、また、200μm以下がさらに好ましい。また原料セルロース粉末のメジアン粒径を、例えば、5μm以上、50μm以下、特に10μm以上、30μm以下にすることも好ましい態様である。
【0050】
その他、溶解性が向上された原料セルロースの例としては、溶解パルプを挙げることができる。溶解パルプは前記セルロース分散液を作製するのに適した原料であることを否めないが、従来から知られているように、溶解パルプを得るためには環境負荷が大きい製法を採る場合が多く、また現在では、セルロース関連産業の構造上の問題のせいか、多孔質セルロースビーズを製造するための原料としては非常に入手困難な原料であることを本発明者らは知るに至っている。本発明方法では、溶解パルプを使用しなくても、多孔質セルロースビーズを良好に製造することができる。即ち本発明に用いられる多孔質セルロースビーズを得るためには、全体的な製造コストや製造効率から、一般的に入手容易なセルロースを用いることが好ましい。
アルカリ水溶液と原料セルロース粉末との混合条件に特に限定は無い。例えば、アルカリ水溶液へ原料セルロース粉末を加えてもよいし、原料セルロース粉末へアルカリ水溶液を加えてもよい。予めアルカリ水溶液を低温に調節してから原料セルロース粉末を投入することが好ましい。
【0051】
原料セルロース粉末は、アルカリ水溶液と混合する前に、水へ懸濁しておいてもよい。それにより、セルロースのダマの発生を抑制でき、セルロース分散液の作製に要する時間を短縮でき、また、より均一なセルロース分散液が得られ易い。当該懸濁液におけるセルロースの割合は適宜調整すればよいが、例えば、1重量%以上、40重量%以下とすることができる。
【0052】
アルカリ水溶液と混合する前に、原料セルロース粉末または原料セルロース粉末の懸濁液の温度をアルカリ水溶液と同様に、低温に調節しておくことも好ましい。この際、アルカリ水溶液と、原料セルロース粉末または原料セルロース粉末の懸濁液の温度は、同温度でなくてもよい。
【0053】
原料セルロースまたは原料セルロース粉末の懸濁液を加えるべきアルカリ水溶液、および、アルカリ水溶液を加える原料セルロース粉末の懸濁液は、攪拌しておくことが好ましい。この際の攪拌動力Pv値としては、0.01kW/m3以上、100kW/m3以下が好ましい。当該攪拌動力が0.01kW/m3以上であれば、両者を効率的に混合することが可能になる。また、当該攪拌動力が過剰に高いと、かえって混合し難くなるおそれがあり得るので、当該攪拌動力としては100kW/m3以下が好ましい。
【0054】
また驚くべきことに、原料セルロース粉末を水に懸濁して低温に調節した後、攪拌しながらアルカリ水溶液を添加すると、均一なセルロース分散液が瞬時に調製できることを本発明者らは見出しており、特にこの方法を好ましく用いることができる。このとき、添加するアルカリ水溶液が低温であることがより好ましい。セルロース分散液の作製中および貯蔵中も低温に保持しておくことが好ましい。当該温度は、アルカリ水溶液で説明した温度と同様にすることができる。
【0055】
またセルロース分散液中のセルロースの濃度は1〜10重量%であることが好ましい。1重量%以上であれば、得られる多孔質ビーズの機械的強度が大きくなるため好ましく、10重量%以下であれば、セルロース分散液の粘度が低く、また分散・膨潤できない部分が少なくなるため、好ましい。より好ましくは3〜10重量%、さらに好ましくは4〜8重量%、特に好ましくは5〜7重量%、最も好ましくは5〜6重量%である。なお、このセルロース分散液中のセルロース濃度は、分散・膨潤しきれず均一にならなかった分を含めない。
【0056】
(2) エマルションの調製工程
セルロース分散液を分散媒に分散することによりエマルションを作製した後、当該エマルションを凝固溶媒に接触させてもよい。かかるエマルションの調製は任意であるが、当該工程を経ることによって、セルロース含量が比較的多いセルロース分散液から多孔質セルロースビーズを得られ易くなり、また、機械的強度の高い多孔質セルロースビーズが得られ易くなる。
【0057】
分散媒に特に限定は無く、セルロース分散液と相溶性が低いものであれば、好適に用いることができる。例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)等の食用油;パーム油、ヤシ油、スクワランなどの天然油;イソステアリルアルコールやオレイルアルコールなどの高級アルコール;2−オクチルドデカノールなどの高級エステル;ジクロロベンゼンなどの親油性有機溶媒などを用いることができる。また、分散媒には、ソルビタンラウレート、ソルビタンステアレート、ソルビタンオレエート、ソルビタントリオレエートなどのソルビタン脂肪酸エステルなどの界面活性剤を適量添加してもよい。
【0058】
分散媒の使用量は、セルロース分散液の液滴を十分に分散できる量とすればよい。例えば、セルロース分散液に対して1質量倍以上とすることができる。一方、分散媒の量が多過ぎると廃液量が過剰に増えるおそれがあり得るので、当該割合としては10質量倍以下が好ましい。当該割合としては、2質量倍以上がより好ましく、4質量倍以上がより好ましく、また、8質量倍以下がより好ましく、7質量倍以下がさらに好ましく、6質量倍以下が特に好ましい。
【0059】
分散時の温度はセルロース分散液と同等に調節しておくことが好ましい。即ち、分散媒の温度や、分散媒とセルロース分散液との混合時における温度、分散媒中へセルロース分散液を分散させる際の温度は、アルカリ水溶液と同様に低温にすることが好ましい。
【0060】
エマルションを調製する際は、通常、攪拌した分散媒へセルロース分散媒を加えることが好ましい。この際の攪拌動力Pv値としては、0.1kW/m3以上、12kW/m3以下が好ましい。当該攪拌動力が0.1kW/m3以上であれば、良好な真球性と細孔特性を得られ易い。また、当該攪拌動力が過剰に高いとエマルションの流動状態が安定し難くなるおそれがあり得るので、当該攪拌動力としては12kW/m3以下が好ましい。当該攪拌動力としては、1.1kW/m3以上がより好ましく、3.1kW/m3以上がさらに好ましく、5.5kW/m3以上が特に好ましい。
【0061】
(3) 凝固工程
次に、セルロース分散液を凝固溶媒に接触させることにより、セルロースを多孔質化する。
【0062】
本工程に用いられる凝固溶媒には特に限定は無く、セルロース分散液と接触してセルロースビーズが得られるものであれば、好適に用いることができる。中でも水とアルコールはセルロース分散液の良溶媒であるアルカリ水溶液との親和性が高く、好適に用いることができる。特にアルコールを用いると、水を用いた場合に比べてセルロースビーズの孔を小さくできるため好ましい。またアルコールを用いると真球性が向上するため好ましい。また水とアルコールの混合溶媒を用いると、混合比によってセルロースビーズの孔の大きさを任意に調整できるため、より好ましい。
【0063】
本発明に用いることができるアルコールには特に限定は無いが、炭素数6以下のアルコールがアルカリ水溶液との親和性が高いため好ましく、炭素数4以下がより好ましく、最も好ましいのはメタノールである。また、凝固溶媒は、アルコール水溶液であってもよい。
【0064】
また前記の凝固溶媒は酸性であることも好ましい。凝固溶媒が酸性であれば、アルカリ水溶液を中和できるため好ましい。この中和が早く行なえると、得られるセルロースビーズへの化学的ダメージが軽減されるため好ましい。また、驚くべきことに、本発明者らは凝固溶媒を酸性とすることによって、得られる多孔質ビーズの細孔径分布が狭くなることを見出しており、こういった細孔径特性が所望される場合、凝固溶媒を酸性にしておくことが特に好ましい。酸性にするための薬剤には特に限定は無く、硫酸、塩酸などの無機酸や、酢酸、クエン酸、酒石酸などの有機酸や、リン酸、炭酸などの緩衝効果を持つものなど、幅広く用いることができる。なお、凝固溶媒が酸性であるとは、凝固溶媒のpHが7.0未満であることをいう。当該pHとしては、5.0以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましく、2.0以下が特に好ましい。なお、当該pHの下限は特に制限されないが、0.0以上であることが好ましい。
【0065】
凝固溶媒の使用量は特に制限されず、適宜調整すればよい。例えば、セルロース分散液に対して0.001倍体積以上、100倍体積以下程度とすることができる。また、エマルションに対しては、0.01倍体積以上、10倍体積以下程度とすることができる。これら範囲内であれば、多孔質セルロースビーズを得られやすい。また、良好な細孔や表面孔が得られやすい。凝固溶媒の使用量としては、エマルションに対して0.025倍体積以上がより好ましく、0.05倍体積以上がさらに好ましく、0.07倍体積以上が特に好ましく、また、0.4倍体積以下がより好ましく、0.2倍体積以下がさらに好ましく、0.15倍体積以下が特に好ましい。上記使用量は、通常考えられる凝固溶媒量に比べてかなり少ないが、本方法では、凝固溶媒の使用量を低減しても多孔質セルロースビーズを良好に得ることができる。
【0066】
前記凝固溶媒の温度については特に限定は無いが、凝固溶媒中でセルロース分散液が凍結し、その後融解すると、セルロースビーズが変形したり、セルロースが破砕しやすくなるため、前記セルロース分散液が凍結しない温度であることが好ましい。また、凝固溶媒の温度は前記セルロース分散液の温度以上であることが好ましい。通常、凝固溶媒は、凝固速度を速める等の効果から、セルロース分散液より低温であるが、本発明者らは驚くべきことに、凝固溶媒の温度をセルロース分散液の温度以上にした方が、凝固が速く進行することを見出した。具体的な温度については特に限定は無いが、凝固溶媒の温度は0℃以上、150℃以下であることが好ましく、より好ましくは25℃以上、100℃以下、さらに好ましくは45℃以上、80℃以下であるが、凝固溶媒の沸点等を鑑みて、適切に調整することが好ましい。なお、セルロース分散液の温度は、エマルションを使用する場合ではエマルションの温度をいうものとする。
また凝固溶媒の温度を、例えば、0℃以上、10℃以下、特に2℃以上6℃以下にすることも好ましい態様である。
【0067】
(4) 架橋工程
上記方法により得られる多孔質セルロースビーズの強度をさらに高めるため、架橋剤を用いて強度をさらに向上させることが可能である。架橋されている多孔質セルロースビーズは特に強度に優れているため、高線速下や高圧力下の使用にも耐えることができる。なお、本工程は任意である。
【0068】
架橋方法としては特に限定は無く、従来公知の方法を用いることができる。架橋剤や架橋反応条件に特に限定は無く、公知の技術を用いて行うことができる。例えば、架橋剤としては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、ジクロロヒドリンなどのハロヒドリン;2官能性ビスエポキシド(ビスオキシラン);多官能性ポリエポキシド(ポリオキシラン)を挙げることができる。なかでも、特開2008―279366に示される方法を特に好適に用いることができる。本発明者らは特開2008―279366に示される方法をさらに発展させ、架橋反応を促進するアルカリ水溶液を分割添加することにより、さらに強度が向上することを見出しており、本発明における最も好適な架橋方法として用いることができる。これら公報は、本願に参考文献として援用される。
【0069】
上記セルロース分散液の調製工程、エマルションの調製工程および凝固工程においては、攪拌操作を用いることが好ましい。攪拌翼としては特に限定は無いが、パドル翼、タービン翼を挙げることができる。なかでも傾斜パドル翼、傾斜パドル翼、ディスクタービン(rushton turbine)翼等を好適に用いることができる。
【0070】
上記のようにして得られる多孔質セルロースビーズは、プロテインAなどのアフィニティーリガンドを固定化した時にIgGの結合性に優れたものとなる様な細孔構造を有していることが好ましい。IgG結合性を高めた多孔質セルロースビーズでは、IgGアクセシブル比表面積は、例えば、1×107〜30×1072/m3程度、好ましくは3×107〜20×1072/m3、より好ましくは5×107〜15×1072/m3である。またIgG結合性を高めた多孔質セルロースビーズでは、理論IgG飽和吸着量が、例えば、50〜200g/L、好ましくは60〜150g/L、より好ましくは70〜120g/Lである。
【0071】
本発明の吸着体を用いることにより、効率的な精製や治療を行うことができる。
本願は、2012年9月10日に出願された日本国特許出願第2012−198352号に基づく優先権の利益を主張するものである。2012年9月10日に出願された日本国特許出願第2012−198352号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。先ず、製造された多孔質セルロースビーズまたは吸着体の物性の試験方法につき説明する。
なお実施例の欄では、1重量部に相当する具体的量を1kgとした時、1体積部に相当する具体的量は1Lになるものとする。
【0073】
試験例1 ビーズ表面のSEM観察
各製造例、参考例で得られた多孔質セルロースビーズ、または吸着体を5倍体積量の30%エタノールで洗浄し、多孔質セルロースビーズに含まれる液体部分を30%エタノールで置換した。次いで、50%エタノール、70%エタノール、90%エタノール、特級エタノール、特級エタノール、特級エタノールを順に用いて多孔質セルロースビーズを同様に処理し、液体部分をエタノールで置換した。さらにt−ブチルアルコール/エタノールが3/7の混合液を用いて多孔質セルロースビーズを同様に処理した。次いで、t−ブチルアルコール/エタノール=5/5、7/7、9/1、10/0、10/0、10/0の混合液を順に用いて多孔質セルロースビーズを処理し、液体部分をt−ブチルアルコールで置換した後、凍結乾燥した。凍結乾燥を行なった多孔質セルロースビーズに蒸着処理を行い、SEM像を撮影した。
【0074】
試験例2 排除限界分子量と最大細孔径の測定
(1)カラム充填
多孔質セルロースビーズまたは吸着体をRO水に分散させ、1時間脱気した。脱気した多孔質セルロースビーズまたは吸着体を、線速105cm/hでカラム(GEヘルスケア・ジャパン社製Tricorn 10/300)に充填した。その後、pH7.5の溶出液(129mL)を線速26cm/hでカラムに通液した。
【0075】
(2)マーカー添加
マーカーとして以下のものを用いた。
・Blue Dextran 2000(Pharmacia FIne Chemicals社製)
・Low Density Lipoprotein(SIGMA社製),MW3,000,000
・Thyroglobulin(SIGMA社製),MW660,000
・フェリチン(SIGMA社製),MW440,000
・Aldolase(SIGMA社製),MW158,000
・IgG ヒト由来(SIGMA社製),MW115,000(参考例1には不使用)
・Bovine Serum Albumin(Wako社製),MW67,000
・Cytochrome C(Wako社製),MW12,400
・Bacitracin (Wako社製),MW1,400
前記溶出液を線速26cm/hでカラムに通液しながら、上記マーカーをpH7.5のバッファーにて5mg/mLに薄めたものを、各々12μLずつ注入した。なお、マーカーの濃度は都度微調整した。
【0076】
(3)測定
測定器として、DGU−20A3、SCL−10A、SPD−10A、LC−10AD、SIL−20AC、CTO−10AC(それぞれSHIMADZU社製)を用い、測定ソフトウェアとして、LCSolutionを用いた。液量測定には50mLメスシリンダーを用いた。
マーカー注入と同時にUVモニターおよび液量の測定を開始し、
1)ブルーデキストランの最初のピークに対応する液量をV0(mL)とした。
2)各マーカーのピークに対応する液量をVR(mL)とした。
3)カラム内の多孔質セルロースビーズまたは吸着体のトータルボリュームをVt(mL)とした。
【0077】
(4)算出
各マーカーのゲル相分配係数(Kav)を次式で算出した。
av=(VR−V0)/(Vt−V0
【0078】
(5)排除限界分子量と最大細孔径の算出
各マーカーのKavと分子量の対数をプロットし、直線性を示す部分から下記式の傾きと切片を求めた。
av=k×Ln(分子量)+b
次いで、求めた傾きと切片からKavが0の時の分子量、つまり排除限界分子量を求めた。次に、中性緩衝液中の球状タンパク質の直径と分子量の下記相関式に排除限界分子量を代入し、求まった値を試料粒子の細孔の最大径とした。
球状タンパク質の中性緩衝液中の直径(Å)=2.523×分子量0.3267
【0079】
試験例3 平均細孔径の算出
上記試験例2(5)において、直線性を示す部分の最大Kav/2に相当する分子量を前記中性緩衝液中の球状タンパク質の直径と分子量の相関式に代入し、求まった値を多孔質セルロースビーズまたは吸着体の細孔の平均径とした。
なお、試験例2および試験例3において、吸着体の目的吸着物質に対するKavを測定する場合、目的吸着物質が吸着されてしまい、正確な測定ができなくなるおそれがある。よって、吸着体の目的吸着物質に対するKavは、目的吸着物質と近い分子量を有する2種以上のタンパク質のKavを測定し、それらのデータから計算で求めた。例えば、目的吸着物質がIgGの場合、フェリチンとアルブミンのデータからKavを求めた。
試験例4 IgGアクセシブルな比表面積(以下、単に比表面積ともいう)の算出
多孔質セルロースビーズの細孔構造を、各マーカー分子の直径に相当する円筒型の孔と仮定し、IgGアクセシブルな比表面積を算出した。具体的には、上記試験例2(5)で求めた直線の式と、前記中性緩衝液中の球状タンパク質の直径と分子量の相関式を利用し、排除限界分子量からIgGの分子量(本試験例では14万6千とした)までの間におけるKavと細孔径をプロットして得られる直線を得た。この直線を任意に区割りし、各区間Kav(各区間の円筒型細孔容量とみなす)から各区間の円筒型細孔の壁面積を求め、これをIgG相当点まで累積し、IgGアクセシブルな比表面積とした。
試験例5 理論IgG飽和吸着量の算出
試験例4で算出したIgGアクセシブルな比表面積から理論IgG飽和吸着量を算出した。具体的には、下記式で多孔質セルロースビーズ中の単位体積当たりのIgG個数を求めた。
単位体積当たりのIgG個数=IgGアクセシブルな比表面積÷IgG占有面積
算出されたIgG個数から単位体積(ビーズの沈降体積)あたりのIgG重量を算出し、理論IgG飽和吸着量とした(沈降時のビーズの充填率を60%と仮定)。
尚、IgG占有面積は前記中性緩衝液中の球状タンパク質の直径と分子量の相関式から求めた。
【0080】
試験例6 メジアン粒径の測定
レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場社製LA−950)を用いて、多孔質セルロースビーズの体積基準の粒度分布を測定し、メジアン粒径を求めた。
【0081】
試験例7 強度評価
AKTAexplorer 10S(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用い、直径0.5cm、高さ15cmのカラムに22μmのメッシュを取り付け、多孔質セルロースビーズまたは吸着体をそれぞれ3mL入れ、線速450cm/hで20%エタノール水溶液(和光純薬工業社製エタノールと蒸留水で調製)を1時間通液して充填した。次いでpH7.4リン酸バッファー(シグマ製)を任意の線速で通液し、圧密化がおきる線速を求めて強度評価とした。
【0082】
試験例8 RT3分での動的吸着量(DBC)測定
(1)溶液作成
以下の溶液を調製した。
A液:pH7.4リン酸バッファー(シグマ製)
B液:pH3.5Mの35mM酢酸ナトリウム(ナカライテスク社製の酢酸、酢酸ナトリウム、RO水で調製)
C液:1M酢酸(ナカライテスク社製の酢酸とRO水で調製)
D液:1mg/mLのヒトポリクローナルIgG溶液(ニチヤク社製ガンマグロブリンニチヤク1500mg/10mLとA液で調製)
E液:6M尿素(関東化学社製の尿素とRO水で調製)
各溶液は、使用前に脱泡した。
【0083】
(2)充填、準備
カラムクロマトグラフィー用装置として、AKTAexplorer 100(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用い、直径0.5cm、高さ15cmのカラムに22μmのメッシュを取り付け、本発明の吸着体をそれぞれ3mL入れ、線速450cm/hで20%エタノール水溶液(和光純薬工業社製エタノールとRO水で調整)を1時間通液して充填した。フラクションコレクターに15mlの採取用チューブをセットした。この溶出液の採取用チューブには、あらかじめ中和液を入れておいた。
【0084】
(3)IgG精製
A液を線速300cm/hで9mL通液し、次いでD液を、UVをモニターしながら、IgGが10%破過するまで線速300cm/hで通液した。ここで、5%破過した時のIgG負荷量をRT3分での5%DBCとした。次いで、A液を線速300cm/hで30mL通液し、B液を線速300cm/hで30mL通液してIgGを溶出させた。次にC液を線速300cm/hで9mL,E液を線速300cm/hで9mL通液し、再生処理を行った。
【0085】
試験例9 RT6分での動的吸着量測定
試験例8の(3)における線速を150cm/hとして求めた。
【0086】
試験例10 RT9分での動的吸着量測定
試験例8の(3)における線速を100cm/hとして求めた。
【0087】
試験例11 エポキシ基定量
エポキシ化多孔質セルロースビーズを、グラスフィルター(TOP社製3G−2)上で15分間吸引ろ過(サクションドライ)し、サクションドライ後の多孔質担体1.5gをスクリュー菅(マルエム社製)に秤量し、1.3Mチオ硫酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業社製チオ硫酸ナトリウムとRO水で調整)4.5mLを加えた。45℃で30分間加温した後、RO水を加えて液量を50mLとし、100mLのガラス製ビーカーに移し、1%フェノールフタレイン溶液(和光純薬工業社製フェノールフタレインとエタノールで調整)を数滴添加した。0.01N塩酸(和光純薬工業社製、容量分析用)で滴定し、エポキシ基含量を求めた。
【0088】
試験例12 デキストラン硫酸導入量の定量
デキストラン硫酸とトルイジンブルーが親和性を有することを利用して測定した。すなわち1mLの吸着体に対し、約90mg/Lに調整したベーシック・ブルー17(東京化成社製)水溶液を120mL加え、10分間攪拌、60分間静置後、上清のベーシック・ブルーを630nmにおける吸光度により定量し、その減少量から求めた。
【0089】
製造例1
(1)アルカリ水溶液Aの作製
和光純薬社製の水酸化ナトリウムと蒸留水を用いて、33重量%の水酸化ナトリウム水溶液を作製し、4℃に調整した。
(2)セルロース分散液Aの作製
旭化成ケミカルズ社製局方セルロースPH−F20JP(メジアン粒径:21μm)9.2重量部と蒸留水104重量部を混合し、攪拌しながら4℃に調整した。次いで設定温度と攪拌を維持しながら4℃に調整したアルカリ水溶液Aを40重量部投入し、30分間攪拌した。
(3)多孔質セルロースビーズの作製
4℃に調整されたセルロース分散液A154重量部と、4℃に調整されたオルトジクロロベンゼン776重量部と、4℃に調整されたソルビタンモノオレエート(span80相当品)7.8重量部を混合し、ディスクタービン(rushton turbine)翼2枚(図16参照。以下、同様)を取り付けたセパラブルフラスコ内にて、300rpm(Pv値:0.2kW/m3)で4℃、30分間攪拌し、エマルションを作製した。設定温度と攪拌を維持しながら4℃に調整されたメタノール57重量部を凝固溶媒として加えた。また凝固溶媒の添加所要時間は2秒であった。その後、攪拌数と設定温度を維持しながら20分間攪拌した。吸引濾過を行なった後、エタノール240重量部を用いて洗浄を行い、次いで500重量部の水で洗浄を行い、多孔質セルロースビーズを得た。図1に示す通り、表面に良好な孔が空いていることが確認できた。得られた多孔質セルロースビーズを、38μmと90μmの篩を用いて湿式分級した。
(4)架橋 − 方法A(特開2008−279366参考法)
上記多孔質セルロースビーズ11体積部に蒸留水を加えて16.5体積部として、反応容器に移した。ここに4N NaOH水溶液(ナカライテスク社製のNaOHと蒸留水で調製)を3.86体積部加え、40℃に調整した。ここに架橋剤としてグリセロールポリグリシジルエーテルを含有するデナコールEX−314(ナガセケムテックス社製)を1.77重量部投入し、40℃で4時間攪拌した。反応終了後、吸引濾過をしながら、ビーズの20倍体積量以上の蒸留水で洗浄し、架橋1回ビーズを得た。
得られた架橋1回ビーズを容器に移し、蒸留水を加えて、全量を架橋多孔質ビーズの10倍体積量とし、オートクレーブを用いて、120℃で1時間加温した。室温まで放冷した後、ビーズの5倍体積量以上のRO水で洗浄し、エポキシ基がグリセリル基に変化したオートクレーブ済みの架橋1回ビーズを得た。
次いで、このオートクレーブ済みの架橋1回ビーズ11体積部に蒸留水を加えて16.5体積部とし、反応容器に移した。これに4N NaOH水溶液(ナカライテスク社製のNaOHと蒸留水で調製)を3.86体積部加え、40℃に調整した。ここにデナコールEX−314(ナガセケムテックス社製)を1.77重量部投入し40℃で4時間攪拌した。反応終了後、吸引濾過しながら、ビーズの20倍体積量以上の蒸留水で洗浄し、架橋2回ビーズを得た。
得られた架橋2回ビーズを容器に移し、蒸留水を加えて、全量を架橋多孔質ビーズの10倍体積量とし、オートクレーブを用いて120℃で60分間加温した。室温まで放冷した後、ビーズの5倍体積量以上の蒸留水で洗浄し、オートクレーブ済みの架橋2回ビーズを得た。
(5)架橋多孔質セルロースビーズの物性試験
上記架橋多孔質セルロースビーズのメジアン粒径は75μmであった。また、平均細孔径は215Å、最大細孔径は1756Åで、排除限界分子量は5.0×108であった。また、比表面積は7.17×10/m、理論IgG飽和吸着量は79g/Lであった。
【0090】
製造例2 無配向型プロテインAの調製
本発明で使用した無配向型プロテインAは、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する。これは、Staphylococcus aureus由来プロテインAからシグナルシーケンス(Sドメイン)及び細胞壁結合ドメイン(Xドメイン)を除いた部分にあたり、WO2006/004067においてSPA’として記載されているものである。当該無配向型プロテインAを、WO2006/004067の実施例に記載の方法に準じて調製した。なおこのWO2006/004067の全内容が、本願に参考のため援用される。
【0091】
実施例1
下記手順に従って、無配向型プロテインAを固定化した吸着体を作製した。製造例1で得られた架橋多孔質セルロースビーズ11.0mLに、RO水を加えて全量を17.0mLとし、50mLの遠沈管に入れ、これを25℃にてミックスローター(アズワン社製 ミックスローターMR−3)上に取り付けた後、攪拌した。次に、過ヨウ素酸ナトリウム(和光純薬工業社製)をRO水に溶解させて、8.64mg/mLの過ヨウ素酸ナトリウム水溶液を6.0mL作成し、先程の架橋多孔質セルロースビーズを入れた遠沈管に加え、25℃で1時間攪拌した。反応後、グラスフィルター(シバタ社製 11GP100)上で、濾液の電気伝導度が1μS/cm以下となるまでRO水で洗浄し、ホルミル基含有架橋多孔質セルロースビーズを得た。洗浄濾液の電気伝導度は、導電率計(EUTECH
INSTRUMENTS社製、ECTester10 Pure+)で測定した。
得られたホルミル基含有架橋多孔質セルロースビーズ9.0mLをグラスフィルター(シバタ社製 11GP100)上でpH8のバッファー(0.5Mクエン酸三ナトリウム二水和物(関東化学社製)、0.15M塩化ナトリウム(関東化学社製))30mLで置換した。pH8のバッファー(0.5Mクエン酸三ナトリウム二水和物、0.15M塩化ナトリウム)を用いて、置換後のホルミル基含有架橋多孔質セルロースビーズを、遠沈管に移し入れ、総体積量14.0mLとなるように液量を調整した。ここに、上記製造例2で調製した、無配向型プロテインAの濃度が67.58mg/mLの溶液を5.327g加えた後、6℃にて、0.08NNaOH(ナカライテスク社製のNaOHとRO水で調製)を用いて、pHを12に調整した後、6℃にて23時間、ミックスローター(アズワン社製 ミックスローターMR−3)を用い、攪拌させながら反応させた。
23時間反応後、2.4Nクエン酸(関東化学社製クエン酸とRO水で調製)を用いて反応液のpHを5.0に調整した後、6℃で4時間、ミックスローター(アズワン社製 ミックスローターMR−3)を用いて、攪拌させた。引き続き、5.5%ジメチルアミンボラン(DMAB)水溶液(キシダ化学社製ジメチルアミンボランとRO水で調整)を0.39mL加えて、6℃で1時間攪拌した後、反応温度を25℃に上昇させ、25℃で18時間、ミックスローター(アズワン社製 ミックスローターMR−3)を用いて攪拌しながら反応させた。反応後、反応液の278nm付近の吸収極大のUV吸光度を測定しプロテインAの導入量を求めた。
反応後のビーズをグラスフィルター(シバタ製 11GP100)上で、ビーズの3倍体積量のRO水で洗浄した。次いで、3倍体積量の0.1Nクエン酸水溶液(関東化学社製クエン酸一水和物とRO水で調製)を加え、当該ビーズに0.1Nクエン酸一水和物を加えて全量を30mL以上とし、遠沈管に入れ、25℃で30分間攪拌しながら、酸洗浄を行った。
酸洗浄後、ビーズをグラスフィルター(シバタ製11GP100)上で、ビーズの3倍体積量のRO水で洗浄し、次いで、ビーズの3倍体積量の水溶液(0.05M水酸化ナトリウム、1M硫酸ナトリウム(ナカライテスク製水酸化ナトリウム、関東化学社製硫酸ナトリウム及びRO水で調製))を加えた。次に、当該ビーズに水溶液(0.05M水酸化ナトリウム、1M硫酸ナトリウム)を加えて全量を30mL以上とし、遠沈管に入れ、室温で30分間攪拌しながら、アルカリ洗浄を行った。
アルカリ洗浄後、ビーズをグラスフィルター(シバタ製 11GP100)上で、ビーズの20倍体積量のRO水で洗浄した。次に、ビーズの3倍体積量の0.5Nクエン酸三ナトリウム水溶液(関東化学社製クエン酸三ナトリウム二水和物とRO水で調製)を加え、濾液が中性になっていることを確認した後、RO水を用いて、洗浄濾液の電導度が1μS/cm以下になるまで洗浄し、目的とするプロテインAを固定化した吸着体を得た。洗浄濾液の電導度は導電率計(EUTECH INSTRUMENTS社製、ECTester10 Pure+)で測定した。
得られたプロテインAを固定化した吸着体について、試験例8〜10に従って物性評価を行った。結果を以下に示す。
プロテインA導入量:35g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:43g/L(吸着体充填体積)
RT6分での5%DBC:49g/L(吸着体充填体積)
RT9分での5%DBC:51g/L(吸着体充填体積)
【0092】
製造例3
凝固溶媒を15重量%クエン酸一水和物メタノール溶液とした以外は製造例1と同様に多孔質セルロースビーズを得た。図2に示す通り、表面に良好な孔が空いていることが確認できた。また、製造例1と同様に、分級を行い、次いで架橋された多孔質セルロースビーズを得た。メジアン粒径は75μm、平均細孔径は190Å、最大細孔径は718Åで、排除限界分子量は3.2×107であった。また、比表面積は1.04×1082/m3、理論IgG飽和吸着量は114g/Lであった。
【0093】
実施例2
製造例3で作製した架橋多孔質セルロースビーズを用いて、実施例1と同様にプロテインAを固定化した吸着体を得て、物性評価を行った。結果を以下に示す。
プロテインA導入量:33g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:43g/L(吸着体充填体積)
【0094】
製造例4
(1)多孔質セルロースビーズの作製
攪拌速度を500rpm(Pv値:1.1kW/m3)とした以外は、製造例1と同様に、多孔質セルロースビーズを作製した。図3に示す通り、表面に良好な孔が空いていることが確認できた。また90μmの篩を63μmの篩に変更した以外は、製造例1と同様に分級を行った。
(2)架橋 − 方法B
上記多孔質セルロースビーズ20体積部に蒸留水を加えて30体積部とし、反応容器に移した。ここに架橋剤としてグリセロールポリグリシジルエーテルを含有するデナコールEX−314(ナガセケムテックス社製)を2.3重量部投入し、40℃に調整しながら攪拌を続けた。40℃に調整後、30分間攪拌した。次いで、2N NaOH水溶液(ナカライテスク社製と蒸留水で調製)7.1体積部を用意し、1時間に1/4ずつ加えた。この間、温度を40℃に維持し、攪拌も継続した。最後の1/4量を添加後、同温度で1時間攪拌した。反応終了後、吸引濾過をしながら、ビーズの20倍体積量以上の蒸留水で洗浄し、架橋1回ビーズを得た。
得られた架橋1回ビーズを容器に移し、蒸留水を加えて、全量を架橋多孔質セルロースビーズの10倍体積量とし、オートクレーブを用いて、120℃で1時間加温した。室温まで放冷した後、ビーズの5倍体積量以上のRO水で洗浄し、エポキシ基がグリセリル基に変化したオートクレーブ済みの架橋1回ビーズを得た。
次いで、このオートクレーブ済みの架橋1回ビーズ20体積部に蒸留水を加えて30体積部とし、反応容器に移した。ここに架橋剤としてグリセロールポリグリシジルエーテルを含有するデナコールEX−314(ナガセケムテックス社製)を2.3重量部投入し、40℃に調整しながら攪拌を続けた。40℃に調整後、30分間攪拌した。次いで、2NNaOH水溶液(ナカライテスク社製と蒸留水で調製)7.1体積部を用意し、1時間に1/4ずつ加えた。この間、温度を40℃に維持し、攪拌も継続した。最後の1/4量を添加後、同温度で1時間攪拌した。反応終了後、吸引濾過をしながら、ビーズの20倍体積量以上の蒸留水で洗浄し、架橋2回ビーズを得た。
得られた架橋2回ビーズを容器に移し、蒸留水を加えて、全量を架橋多孔質セルロースビーズの10倍体積量とし、オートクレーブを用いて120℃で60分間加温した。室温まで放冷した後、ビーズの5倍体積量以上の蒸留水で洗浄し、オートクレーブ済みの架橋2回ビーズを得た。
(3)架橋多孔質セルロースビーズの物性試験
上記架橋ビーズのメジアン粒径は56μmであった。また、平均細孔径は336Å、最大細孔径は3400Åで、排除限界分子量は3.8×109であった。また、比表面積は6.88×1072/m3、理論IgG飽和吸着量は75g/Lであった。
このビーズは線速3057cm/hでも圧密化しなか・BR>チた。
【0095】
実施例3
製造例4で作製した架橋多孔質セルロースビーズを用いて、実施例1と同様にプロテインAを固定化した吸着体を得て、物性評価を行った。結果を以下に示す。
プロテインA導入量:36g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:70g/L(吸着体充填体積)
【0096】
製造例5
凝固溶媒を15重量%クエン酸一水和物エタノール溶液とした以外は製造例1と同様に、多孔質セルロースビーズを得た。図4に示す通り、表面に良好な孔が空いていることが確認できた。また、製造例1と同様に、分級を行い、次いで架橋された多孔質セルロースビーズを得た。メジアン粒径は75μm、平均細孔径は163Å、最大細孔径は1040Åで、排除限界分子量は1.0×108であった。また、比表面積は7.85×1072/m3、理論IgG飽和吸着量は86g/Lであった。
【0097】
実施例4
製造例5で作製した架橋多孔質セルロースビーズを用いて、実施例1と同様にプロテインAを固定化した吸着体を得て、物性評価を行った。結果を以下に示す。
プロテインA導入量:36g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:8g/L(吸着体充填体積)
【0098】
製造例6
63μmの篩を90μmの篩に変更した以外は、製造例4と同様に、多孔質セルロースビーズを得た。図5に示す通り、表面に良好な孔が空いていることが確認できた。また、製造例4と同様に、分級を行い、次いで架橋された多孔質セルロースビーズを得た。メジアン粒径は75μmであった。このビーズは装置で通液可能な最大線速である3057cm/hでも圧密化しなかった。
【0099】
実施例5
製造例6で作製した架橋多孔質セルロースビーズを用いて、実施例1と同様にプロテインAを固定化した吸着体を得て、物性評価を行った。結果を以下に示す。
プロテインA導入量:36g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:42g/L(吸着体充填体積)
【0100】
製造例7
攪拌速度を700rpm(Pv値:3.1kW/m3)とした以外は、製造例6と同様に、多孔質セルロースビーズを得た。図6に示す通り、表面に良好な孔が空いていることが確認できた。また、製造例6と同様に、分級を行い、次いで架橋された多孔質セルロースビーズを得た。メジアン粒径は75μmであった。このビーズは線速3057cm/hでも圧密化しなかった。
【0101】
実施例6
製造例7で作製した架橋多孔質セルロースビーズを用いて、実施例1と同様にプロテインAを固定化した吸着体を得て、物性評価を行った。結果を以下に示す。
プロテインA導入量:38g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:49g/L(吸着体充填体積)
【0102】
製造例8
攪拌速度を250rpm(Pv値:0.1kW/m3)とした以外は、製造例6と同様に、多孔質セルロースビーズを得た。図7に示す通り、表面に良好な孔が空いていることが確認できた。また、製造例6と同様に、分級を行い、次いで架橋された多孔質セルロースビーズを得た。メジアン粒径は75μm、平均細孔径は130Å、最大細孔径は562Åで、排除限界分子量は1.5×107であった。また、比表面積は8.72×1072/m3、理論IgG飽和吸着量は96g/Lであった。
【0103】
実施例7
製造例8で作製した架橋多孔質セルロースビーズを用いて、実施例1と同様にプロテインAを固定化した吸着体を得て、物性評価を行った。結果を以下に示す。
プロテインA導入量:37g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:36g/L(吸着体充填体積)
【0104】
製造例9
攪拌翼を図16に示すH字形状部を2つ有する大型翼(本明細書ではWH型大型翼という)1枚とし攪拌速度を350rpm(Pv値:1.1kW/m3)とした以外は、製造例6と同様に、多孔質セルロースビーズを得た。図8に示す通り、表面に良好な孔が空いていることが確認できた。また、製造例6と同様に、分級を行い、次いで架橋された多孔質セルロースビーズを得た。造粒直後の粒度分布は、実施例5と比べて広かった。メジアン粒径は75μmであった。平均細孔径は418Å、最大細孔径は1137Åで、排除限界分子量は1.3×108であった。また、比表面積は8.38×1072/m3、理論IgG飽和吸着量は92g/Lであった。
【0105】
実施例8
製造例9で作製した架橋多孔質セルロースビーズを用いて、実施例1と同様にプロテインAを固定化した吸着体を得て、物性評価を行った。結果を以下に示す。
プロテインA導入量:35g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:29g/L(吸着体充填体積)
【0106】
製造例10
凝固溶媒の添加所要時間を60秒とした以外は、製造例6と同様に、多孔質セルロースビーズを得た。図9に示す通り、表面に良好な孔が空いていることが確認できた。また、製造例6と同様に、分級を行い、次いで架橋された多孔質セルロースビーズを得た。メジアン粒径は75μmであった。平均細孔径は194Å、最大細孔径は747Åで、排除限界分子量は3.7×107であった。また、比表面積は1.02×1082/m3、理論IgG飽和吸着量は112g/Lであった。
【0107】
実施例9
製造例10で作製した架橋多孔質セルロースビーズを用いて、実施例1と同様にプロテインAを固定化した吸着体を得て、物性評価を行った。結果を以下に示す。
プロテインA導入量:31g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:55g/L(吸着体充填体積)
【0108】
製造例11
攪拌翼を傾斜パドル翼2枚とした以外は、製造例7と同様に、多孔質セルロースビーズを得た。図10に示す通り、表面に良好な孔が空いていることが確認できた。また、製造例7と同様に、分級を行い、次いで架橋された多孔質セルロースビーズを得た。メジアン径は75μmであった。平均細孔径は221Å、最大細孔径は2407Åで、排除限界分子量は1.3×109であった。また、比表面積は6.42×1072/m3、理論IgG飽和吸着量は70g/Lであった。
【0109】
実施例10
製造例11で作製した架橋多孔質セルロースビーズを用いて、実施例1と同様にプロテインAを固定化した吸着体を得て、物性評価を行った。結果を以下に示す。
プロテインA導入量:34g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:36g/L(吸着体充填体積)
【0110】
製造例12
調整温度を9℃とした以外は、製造例11と同様に、多孔質セルロースビーズを得た。図11に示す通り、表面に良好な孔が空いていることが確認できた。また、製造例11と同様に、分級を行い、次いで架橋された多孔質セルロースビーズを得た。
【0111】
実施例11
製造例12で作製した架橋多孔質セルロースビーズを用いて、実施例1と同様にプロテインAを固定化した吸着体を得て、物性評価を行った。結果を以下に示す。
プロテインA導入量:34g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:22g/L(吸着体充填体積)
【0112】
製造例13
調整温度を0℃とした以外は、製造例11と同様に、多孔質セルロースビーズを得た。図12に示す通り、表面に良好な孔が空いていることが確認できた。また、製造例11と同様に、分級を行い、次いで架橋された多孔質セルロースビーズを得た。
【0113】
実施例12
製造例13で作製した架橋多孔質セルロースビーズを用いて、実施例1と同様にプロテインAを固定化した吸着体を得た結果、物性は以下の通りとなった。
プロテインA導入量:35g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:14g/L(吸着体充填体積)
【0114】
製造例14
(1) セルロース分散液Bの作製
旭化成ケミカルズ社製局方セルロースPH−F20JP(メジアン粒径:21μm)76gと蒸留水800gを混合し、攪拌しながら4℃に調整した。次いで設定温度と攪拌を維持しながら4℃に調整したアルカリ水溶液Aを400g投入し、30分間攪拌した。
(2) 多孔質セルロースビーズの作製
4℃に調整されたセルロース分散液B1276gと、4℃に調整したオルトジクロロベンゼン7801gと、4℃に調整したソルビタンモノオレエート(span80相当品)78gを混合し、ディスクタービン(rushton turbine)翼2枚を取り付けたステンレス容器内にて460rpm(Pv値:5.0kW/m3)で4℃、15分間攪拌し、エマルションを作製した。設定温度と攪拌を維持しながら4℃に調整されたメタノール592gを凝固溶媒として加えた。また凝固溶媒の添加所要時間は5秒であった。その後、攪拌数と設定温度を維持しながら30分間攪拌した。加圧濾過を行なった後、洗浄液としてメタノール3000gを用いて洗浄を行い、次いで3000gの水で洗浄を行い、多孔質セルロースビーズを得た。図13に示す通り、表面に良好な孔が空いていることが確認できた。また、製造例1と同様に、得られた多孔質セルロースビーズを、38μmと90μmの篩を用いて湿式分級した。
その後、製造例4と同様に、架橋された多孔質セルロースビーズを得た。メジアン粒径は75μmであった。
【0115】
実施例13
製造例14で作製した架橋多孔質セルロースビーズを用いて、実施例1と同様にプロテインAを固定化した吸着体を得て、物性評価を行った。結果を以下に示す。
プロテインA導入量:35g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:57g/L(吸着体充填体積)
【0116】
製造例15
セルロース分散液Bを1212g、オルトジクロロベンゼンを8238g、ソルビタンモノオレエート(span80相当品)を85g、凝固溶媒としてのメタノールを740gとした以外は、製造例14と同様にして、多孔質セルロースビーズを得た。図14に示す通り、表面に良好な孔が空いていることが確認できた。製造例14と同様に分級と架橋を行った。
【0117】
実施例14
製造例15で作製した架橋多孔質セルロースビーズを用いて、その後、実施例1と同様にプロテインAを固定化した吸着体を得て、物性評価を行った。結果を以下に示す。
プロテインA導入量:30g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:60g/L(吸着体充填体積)
【0118】
製造例16 配向型プロテインAの調製
本発明で用いた配向型プロテインAは、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する。これは、Cドメインの4、7、35、42、49、50、58番目のLysをArgに、29番目のGlyをAlaに置換したCドメイン変異体を、4つ連結させた(ただし、C末端のLysだけは無置換である)構造に相当する。当該配向型プロテインAを、WO2011/118699に記載されたCドメイン変異体、およびその連結体の調製方法に準じて調製した。なおこのWO2011/118699の全内容が、本願に参考のため援用される。
【0119】
実施例15
製造例14で得られた架橋多孔質セルロースビーズ3.5mLを遠沈管に入れ、RO水を加えて、全量を6mLとした。これを25℃にてミックスローター(アズワン社製 ミックスローターMR−3)上に取り付けた後、撹拌した。次に過ヨウ素酸ナトリウム(和光純薬工業社製)をRO水に溶解した、11.16mg/mLの過ヨウ素酸ナトリウム水溶液を2.0mL加え、25℃で1時間撹拌した。反応後、グラスフィルター(シバタ社製 11GP100)上で、濾液の電気伝導度が1μS/cm以下となるまでRO水で洗浄し、ホルミル基含有架橋多孔質セルロースビーズを得た。洗浄濾液の電気伝導度は、導電率計(EUTECH INSTRUMENTS社製、ECTester10 Pure+)で測定した。
得られたホルミル基含有架橋多孔質セルロースビーズ3.5mLをグラスフィルター(シバタ社製 11GP100)上で、pH12の0.6Mクエン酸 バッファー(和光純薬工業社製クエン酸三ナトリウム二水和物、水酸化ナトリウム、RO水を用いて調整)で置換した。pH12の0.6Mクエン酸バッファーを用い、置換後のホルミル基含有架橋多孔質セルロースビーズを、遠沈管に入れ、総体積量7.5mLとなるように液量を調整した。ここに、製造例16で調製した配向型プロテインAが入った水溶液(プロテインAの濃度が63.7mg/mL)を0.82g加えた後、6℃にて23時間、ミックスローター(アズワン社製 ミックスローターMR−3)を用い、攪拌させながら反応した。
その後、反応液を回収(反応液1)し、pH8の0.1Mクエン酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業社製クエン酸三ナトリウム二水和物、RO水を用いて調整)で置換して、6℃で4時間ミックスローター(アズワン社製 ミックスローターMR−3)を用いて、攪拌した。引き続き、5.5重量%濃度のジメチルアミンボラン水溶液(和光純薬工業社製ジメチルアミンボランとRO水で調製)を1.93mL加えて、6℃で1時間攪拌した後、反応温度を25℃に上昇し、25℃で18時間、ミックスローター(アズワン社製 ミックスローターMR−3)を用いて攪拌しながら反応した。反応後、反応液を回収した(反応液2)。反応液1及び2の278nm付近の吸収極大のUV吸光度を測定し、仕込んだリガンド量から差し引くことで、プロテインA固定化量を算出した。
反応後のビーズをグラスフィルター(シバタ製 11GP100)上で、ビーズの3倍体積量のRO水で洗浄した。次いで、3倍体積量の0.1Nクエン酸一水和物(関東化学社製クエン酸一水和物とRO水で調製)を加え、当該ビーズに0.1Nクエン酸一水和物を加えて全量を30mL以上とし、遠沈管に入れ、25℃で30分間攪拌しながら、酸洗浄を行った。
酸洗浄後、ビーズをグラスフィルター(シバタ製11GP100)上で、ビーズの3倍体積量のRO水で洗浄し、次いで、3倍体積量の0.05M水酸化ナトリウム+1M硫酸ナトリウム水溶液(ナカライテスク製水酸化ナトリウム、関東化学社製硫酸ナトリウム及びRO水で調製)を加えた。次に、当該ビーズに、0.05M水酸化ナトリウム+1M硫酸ナトリウム水溶液を加えて全量を30mL以上とし、遠沈管に入れ、室温で30分間攪拌しながら、アルカリ洗浄を行った。
アルカリ洗浄後、ビーズをグラスフィルター(シバタ製 11GP100)上で、ビーズの20倍体積量のRO水で洗浄した。次に、ビーズの3倍量の0.1Nクエン酸ナトリウム水溶液(関東化学社製クエン酸三ナトリウム二水和物+RO水で調製)を加え、濾液が中性になっていることを確認した後、RO水を用いて、洗浄濾液の電導度が1μS/cm以下になるまで洗浄し、目的とするプロテインAを固定化した吸着体を得た。洗浄濾液の電導度は導電率計(EUTECH INSTRUMENTS社製、ECTester10 Pure+)で測定した。
得られたプロテインAを固定化した吸着体について、試験例8〜9に従って物性評価を行った。結果を以下に示す。
プロテインA固定化量:9g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:56g/L(吸着体充填体積)
RT6分での5%DBC:64g/L(吸着体充填体積)
【0120】
実施例16
加えるリガンドの量を1.64mLとした以外は、実施例15と同様の方法で目的とする吸着体を作製した。物性は以下の通りとなった。
プロテインA導入量:17g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:61g/L(吸着体充填体積)
RT6分での5%DBC:79g/L(吸着体充填体積)
【0121】
比較製造例1
(1) セルロース溶液の作製
100gのチオシアン酸カルシウム60重量%水溶液に6.4gの結晶性セルロース(旭化成ケミカルズ社製セオラスPH101,メジアン粒径:73μm)を加え、120℃に加熱して溶解した。この温度で貯蔵することが困難なため、用時調整とした。
(2) 架橋多孔質セルロースビーズの作製
チオシアン酸カルシウムを用いて作製される多孔質セルロースビーズを、WO2010/095573の実施例を参考に、以下のように作製した。具体的には、上記セルロース溶液に界面活性剤としてソルビタンモノオレエート6gを添加し、140℃に予め加熱したオルトジクロロベンゼン480mL中に滴下し、300rpmにて攪拌した。次いで上記分散液を40℃まで冷却し、メタノール190mL中に注ぎ、凝固させた。吸引濾過を行なった後、メタノール190mLにて洗浄した。このメタノール洗浄を数回行なった。さらに大量の蒸留水で洗浄した後、吸引濾過を行い、多孔質セルロースビーズを得た。濾過後の多孔質セルロースビーズ100gを121gの蒸留水に60gの硫酸ナトリウムを溶解した液に加え、50℃で2時間攪拌した。次いで、45重量%の水酸化ナトリウム水溶液3.3gと水素化ホウ素ナトリウム0.5gを加えて攪拌した。50℃で攪拌を継続しながら、45重量%の水酸化ナトリウム水溶液48gとエピクロロヒドリン50gとをそれぞれ25等分した量を、15分置きに添加した。添加終了後、50℃で16時間反応させた。反応後、40℃に冷却し、酢酸2.6gを加えて中和し、吸引濾過を行い、蒸留水で洗浄した。53μmと90μmの篩を用いて湿式分級を行ない、平均粒子径78μmの架橋された多孔質セルロースビーズを得た。
(3) 物性試験
上記架橋多孔質セルロースビーズの表面孔径は1649Åで、平均細孔径は793Å、最大細孔径は14100Åで、排除限界分子量は2.9×1011であった。このビーズは線速3057cm/hでも圧密化しなかった。
このように、比較製造例1で得られた架橋多孔質セルロースは、かなり大き過ぎる細孔を有するものであった。また、毒性の高いチオシアン酸カルシウムを含む溶液が廃液として残ってしまった。
【0122】
比較例1
比較製造例1で作製した架橋多孔質セルロースビーズを用いて、実施例1と同様にプロテインAを固定化した吸着体を得た結果、物性は以下の通りとなった。
プロテインA導入量:32g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:41g/L(吸着体充填体積)
【0123】
比較例2
比較製造例1で作製した架橋多孔質セルロースビーズを用いた点と、配向型プロテインAが入った水溶液の量を0.51mLとした点以外は、実施例15と同様に配向型プロテインAを固定化した吸着体を作製した。物性は以下の通りとなった。
プロテインA導入量:8g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:35g/L(吸着体充填体積)
RT6分での5%DBC:41g/L(吸着体充填体積)
【0124】
比較例3
配向型プロテインAが入った水溶液の量を0.76mLとした点以外は、比較例2と同様に配向型プロテインAを固定化した吸着体を作製した。物性は以下の通りとなった。
プロテインA導入量:10g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:41g/L(吸着体充填体積)
RT6分での5%DBC:48g/L(吸着体充填体積)
【0125】
比較例4
配向型プロテインAが入った水溶液の量を1.01mLとした点以外は、比較例2と同様に配向型プロテインAを固定化した吸着体を作製した。物性は以下の通りとなった。
プロテインA導入量:15g/L(吸着体体積)
RT3分での5%DBC:44g/L(吸着体充填体積)
RT6分での5%DBC:52g/L(吸着体充填体積)
【0126】
参考例1
比較的、モノクローナル抗体の吸着量が大きいタイプとして販売されている、プロテインAが導入された架橋多孔質アガロースビーズ、MabSelect SuRe LX(ジーイーヘルスケア社製)の平均細孔径は425Å、最大細孔径は2970Åで、排除限界分子量は2.5×109であった。ビーズ表面のSEM像を図15に示す。吸着性能は以下の通りであった。
RT3分での5%DBC:46g/L(吸着体充填体積)
RT6分での5%DBC:61g/L(吸着体充填体積)
【0127】
実施例17
(1)エポキシ化
実施例14で作製した多孔質セルロースビーズを38μmと150μmの篩を用いて湿式分級を行った。この分級後のビーズ1体積部にRO水1体積部を加え、さらに2N水酸化ナトリウム水溶液を0.53体積部加えて45℃で30分間加温した。次にエピクロロヒドリンを0.18体積部加えて45℃2時間攪拌した。グラスフィルター上で濾過を行い、大量のRO水でビーズを洗浄し、エポキシ基含有多孔質セルロースビーズを得た。エポキシ含有量は湿潤重量1gあたり17μmolであった。
(2)デキストラン硫酸の固定化
エポキシ基含有多孔質セルロースビーズ0.7体積部に26wt/vol%のデキストラン硫酸(硫黄含量約18%、分子量約4000)水溶液を添加して、液量を1.0体積部とした。次いで2N水酸化ナトリウム水溶液を添加し、PHを9.5に調整した。その後、40℃16時間攪拌した。グラスフィルター上で濾過を行い、大量のRO水でビーズを洗浄し、デキストラン硫酸が固定化されえたビーズを得た。デキストラン硫酸導入量はビーズ1mLあたり14mgであった。
(3)残存エポキシ基の封止
デキストラン硫酸固定化ビーズ1体積部にRO水1体積部とモノエタノールアミン0.25体積部を添加し、45℃2時間攪拌し、残存エポキシ基の封止反応を行った。グラスフィルター上で濾過を行い、大量のRO水でビーズを洗浄し、目的とする吸着体を得た。
(4)LDLコレステロール吸着試験
ヒト血液を3000rpmで15分間遠心処理を行い、LDLコレステロール濃度が93mg/dLの血漿を得た。この血漿3mLを生理食塩水で洗浄した吸着体0.5mLに加えて、37℃で2時間振盪した。振盪後の上清のLDLコレステロール量をLDLコレステロールキット(積水メディカル社製コレステストLDL)を用いて測定し、吸着体に吸着されたLDLコレステロール量を求めた。ただし、ビーズの替わりに生理食塩水を用いた場合の上清のLDL濃度が81mg/dLであったので、これを計算に用いた。89%のLDLコレステロールが吸着体に吸着されたことが分かった。すなわち、吸着体へのLDLコレステロール吸着量は吸着体1Lあたり、5.0gであった。
実施例18
実施例17で加えた血漿量を6mLとした以外は、実施例17と同様にLDLコレステロール吸着試験を行った。ただし、ビーズの替わりに生理食塩水を用いた場合の上清のLDL濃度が87mg/dLであったので、これを計算に用いた。その結果、63%のLDLコレステロールが吸着体に吸着されたことが分かった。すなわち、吸着体へのLDLコレステロール吸着量は吸着体1Lあたり、7.0gであった。
【0128】
参考例2
吸着型血漿浄化器リポソーバー LA−15(カネカ社製)に充填されている吸着体を用いた以外は、実施例17と同様にLDLコレステロール吸着試験を行った。その結果、80%のLDLコレステロールが吸着体に吸着されたことが分かった。すなわち、吸着体へのLDLコレステロール吸着量は吸着体1Lあたり、3.9gであった。
【0129】
参考例3
吸着型血漿浄化器リポソーバー LA−15(カネカ社製)に充填されている吸着体を用いた以外は、実施例18と同様にLDLコレステロール吸着試験を行った。その結果、53%のLDLコレステロールが吸着体に吸着されたことが分かった。すなわち、吸着体へのLDLコレステロール吸着量は吸着体1Lあたり、5.5gであった。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の吸着体は、精製や治療に利用できる。
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]