(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献2に記載されているように、ペロブスカイト結晶材料は、波長800nmよりも短波長側に分光感度特性を有しており、800nmよりも長波長側の赤外光をほとんど吸収しない。そのため、ペロブスカイト型太陽電池の実用化においては、長波長光を有効に利用することが重要である。例えば、ペロブスカイト型太陽電池と、ペロブスカイト型太陽電池よりもバンドギャップの狭い太陽電池とを組み合わせれば、バンドギャップの狭い太陽電池によって長波長光を利用できるため、より高効率の太陽電池が得られると考えられる。
【0007】
複数の光電変換ユニットを組み合わせた光電変換装置として、バンドギャップの異なる光電変換ユニット(太陽電池)を積層したタンデム型の光電変換装置が知られている。タンデム型の光電変換装置では、光入射側に相対的にバンドギャップの広い光電変換ユニット(前方セル)が配置され、その後方に相対的にバンドギャップの狭い光電変換ユニット(後方セル)が配置される。
【0008】
これまでのところ、ペロブスカイト型太陽電池(以下、ペロブスカイト型光電変換ユニットともいう)と、他の光電変換ユニットとを組み合わせたタンデム型の光電変換装置に関する報告はほとんどない。すなわち、現状では、ペロブスカイト型光電変換ユニットと、他の光電変換ユニットとを積層し、長波長光を有効に利用する方法についての有用な知見は存在していない。
【0009】
上記に鑑み、本発明は、ペロブスカイト型光電変換ユニットと他の光電変換ユニットとを組み合わせた、変換効率の高いタンデム型光電変換装置の提供を目的とする。また、本発明は、上記光電変換装置を備える光電変換モジュールの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
光吸収層のバンドギャップがペロブスカイト型太陽電池の光吸収層のバンドギャップよりも狭い太陽電池としては、例えば、光吸収層が結晶シリコンであるものが挙げられる。中でも、p型またはn型単結晶シリコン基板の両面に、シリコン系薄膜を設けたヘテロ接合太陽電池は、変換効率が高いことで知られている。
【0011】
そのため、光入射側にペロブスカイト型光電変換ユニットを配置し、その後方に、ヘテロ接合太陽電池(以下、ヘテロ接合光電変換ユニットともいう)を配置したタンデム型の光電変換装置を作製することで、高い変換効率が得られると考えられる。
【0012】
ヘテロ接合太陽電池を単体で用いる場合には、透明導電層の膜厚等を調整することにより、空気−透明導電層界面での反射光の位相と、透明導電層−シリコン系薄膜界面での反射光の位相とを打ち消し合い、ヘテロ接合太陽電池に取り込まれる光の量を増大できる。一方、ヘテロ接合光電変換ユニットの前方にペロブスカイト型光電変換ユニットを配置する場合には、ペロブスカイト型光電変換ユニット−透明導電層界面での反射が小さいため、ヘテロ接合太陽電池単体の場合に比べて透明導電層−シリコン系薄膜界面での反射が顕著となる。その結果、ペロブスカイト型光電変換ユニットへ光が反射されてしまい、ヘテロ接合光電変換ユニットに取り込まれる光の量が少なくなると考えられる。
【0013】
以上より、ペロブスカイト型光電変換ユニットの後方にヘテロ接合光電変換ユニット等を配置する光電変換装置においては、光電変換ユニットを単体で用いる場合と異なり、ペロブスカイト型光電変換ユニットへの光の反射を低減し、後方の光電変換ユニットに取り込まれる光の量を多くすることについて検討する必要がある。
【0014】
本発明は、光入射側から、第一光電変換ユニットおよび第二光電変換ユニットをこの順に備えるタンデム型の光電変換装置に関する。第一光電変換ユニットは、ペロブスカイト型光電変換ユニットであり、光吸収層に、一般式R
1NH
3M
1X
3またはHC(NH
2)
2M
1X
3で表されるペロブスカイト型結晶構造の感光性材料を含有する。
【0015】
第二光電変換ユニットは、光吸収層のバンドギャップが第一光電変換ユニットの光吸収層のバンドギャップよりも狭い。すなわち、第二光電変換ユニットは、ペロブスカイト型光電変換ユニットよりも、長波長の光を利用可能な太陽電池である。第二光電変換ユニットの光吸収層としては、結晶シリコン(単結晶、多結晶および微結晶)や、CuInSe
2(CIS)等のカルコパイライト系化合物等が挙げられる。
【0016】
本発明の光電変換装置では、第一光電変換ユニットと第二光電変換ユニットとの間に、光入射側から、反射防止層および透明導電層がこの順に設けられている。反射防止層と透明導電層とは接しており、反射防止層の屈折率が、透明導電層の屈折率より低い。
【0017】
反射防止層の屈折率は、1.2〜1.7が好ましい。反射防止層の膜厚は、1〜250nmが好ましい。
【0018】
一実施形態において、第二光電変換ユニットは、光吸収層に結晶シリコン基板が用いられており、結晶シリコン基板は、表面に凹凸を有する。凹凸の高さは、0.5〜3μmが好ましい。
【0019】
一実施形態では、第一光電変換ユニットの面積W1と第二光電変換ユニットの面積W2が、W1<W2を満たす。この場合、透明導電層の面積Wtは、W1<Wt≦W2を満たすことが好ましい。また、反射防止層の面積Waは、W1<Wa≦Wtを満たすことが好ましい。
【0020】
上記の実施形態においては、第一光電変換ユニットが、第二光電変換ユニットの光入射側表面の周縁以外の領域に形成されていることが好ましい。
【0021】
本発明はまた、上記光電変換装置を備える光電変換モジュールに関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、ペロブスカイト型光電変換ユニットと他の光電変換ユニットとを積層することで、長波長光の利用効率に優れ、広波長領域の光を光電変換可能なタンデム型の光電変換装置とすることができる。さらに、ペロブスカイト型光電変換ユニットと透明導電層との間に特定の反射防止層を設けることにより、ペロブスカイト型光電変換ユニットへの光の反射が低減され、後方の光電変換ユニットに取り込まれる光の量を増大できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明の光電変換装置は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0025】
各図において、厚みや長さ等の寸法関係は、図面の明瞭化および簡略化のため適宜変更されており、実際の寸法関係を表していない。また、各図において、同一の参照符号は同一の技術事項を意味する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係る光電変換装置の模式的断面図である。
図1に示す光電変換装置100は、光入射側から、第一光電変換ユニット1および第二光電変換ユニット2がこの順に積層されたタンデム型の光電変換装置である。
【0027】
第一光電変換ユニット1は、ペロブスカイト型光電変換ユニットであり、光吸収層に、ペロブスカイト型結晶構造の感光性材料(ペロブスカイト結晶材料)を含有する。ペロブスカイト結晶材料を構成する化合物は、一般式R
1NH
3M
1X
3またはHC(NH
2)
2M
1X
3で表される。式中、R
1はアルキル基であり、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。M
1は2価の金属イオンであり、PbやSnが好ましい。Xはハロゲンであり、F,Cl,Br,Iが挙げられる。なお、3個のXは、全て同一のハロゲン元素であってもよく、複数のハロゲンが混在していてもよい。ハロゲンの種類や比率を変更することにより、分光感度特性を変化させることができる。
【0028】
光電変換ユニット間の電流マッチングを取る観点から、第一光電変換ユニット1の光吸収層11のバンドギャップは、1.55〜1.75eVが好ましく、1.6〜1.65eVがより好ましい。例えば、上記ペロブスカイト結晶材料が式CH
3NH
3PbI
3−xBr
xで表される場合、バンドギャップを1.55〜1.75eVにするためにはx=0〜0.85程度が好ましく、バンドギャップを1.60〜1.65eVにするためにはx=0.15〜0.55程度が好ましい。
【0029】
第一光電変換ユニット(ペロブスカイト型光電変換ユニット)の構成は、特に限定されず、例えば、電子輸送層、光吸収層および正孔輸送層をこの順に有する構成等が挙げられる。
【0030】
第二光電変換ユニット2は、第一光電変換ユニット1よりも狭バンドギャップの光電変換ユニットである。第二光電変換ユニット2は、光吸収層のバンドギャップが第一光電変換ユニット1の光吸収層のバンドギャップよりも狭いものであれば、その構成は特に限定されない。このような特性を満たす光吸収層の材料としては、結晶シリコン、ガリウムヒ素(GaAs)、CuInSe
2(CIS)等が挙げられる。中でも、長波長光(特に波長1000nm以上の赤外光)の利用効率が高いことから、結晶シリコンおよびCISが好ましく用いられる。結晶シリコンは、単結晶、多結晶、微結晶のいずれでもよい。特に、長波長光の利用効率が高く、かつキャリア回収効率に優れることから、光吸収層に単結晶シリコン基板を用いた光電変換ユニットが好ましく用いられる。
【0031】
単結晶シリコン基板を用いた太陽電池としては、p型単結晶シリコン基板の受光面側にn型層を設け、裏面側に高ドープ領域(p
+領域)を設けたものや、p型またはn型単結晶シリコン基板の両面にシリコン系薄膜を設けたもの(いわゆるヘテロ接合シリコン太陽電池)等が挙げられる。中でも、変換効率の高さから、第二光電変換ユニットを構成する太陽電池は、ヘテロ接合太陽電池であることが好ましい。第二光電変換ユニットに優先的に入射する長波長光を有効に利用できる限りにおいて、第二光電変換ユニットの構成や材料等は、上記例示のものに限定されない。
【0032】
第一光電変換ユニット1と第二光電変換ユニット2との間には、光入射側から、反射防止層3および透明導電層4がこの順に設けられている。反射防止層3と透明導電層4とは接している。
【0033】
第一光電変換ユニット1と第二光電変換ユニット2との間に設けられる透明導電層4は、2つの光電変換ユニット1,2で発生した正孔および電子の両方を取り込み、再結合させる中間層としての機能を有している。したがって、透明導電層4は、十分な導電性を有することが好ましい。さらに、透明導電層4は、光を透過させて第二光電変換ユニットに到達させるため、透明性を有することが好ましい。
【0034】
以上より、透明導電層4は、導電性酸化物を主成分とすることが好ましい。導電性酸化物としては、例えば、酸化亜鉛や酸化インジウム、酸化錫等を単独で、あるいは複合酸化物として用いることができる。導電性、光学特性、および長期信頼性の観点から、インジウム系酸化物が好ましく、中でも酸化インジウム錫(ITO)を主成分とするものがより好ましく用いられる。本明細書において、「主成分とする」とは、含有量が50重量%よりも多いことを意味し、70重量%以上が好ましく、85重量%以上がより好ましい。
【0035】
透明導電層4には、ドーピング剤が添加されていてもよい。例えば、透明導電層として酸化亜鉛が用いられる場合、ドーピング剤としては、アルミニウムやガリウム、ホウ素、ケイ素、炭素等が挙げられる。透明導電層として酸化インジウムが用いられる場合、ドーピング剤としては、亜鉛や錫、チタン、タングステン、モリブデン、ケイ素等が挙げられる。透明導電層として酸化錫が用いられる場合、ドーピング剤としては、フッ素等が挙げられる。
【0036】
透明導電層4の膜厚は、透明性、導電性、および光反射低減の観点から、10nm〜140nmが好ましい。透明導電層4は、単層でもよく、複数の層からなる積層構造でもよい。
【0037】
光吸収層にペロブスカイト型CH
3NH
3PbI
3等を含有する第一光電変換ユニットの裏面側の界面の屈折率は2.5程度(酸化チタンの屈折率)であり、透明導電層の屈折率は1.9程度(ITOの屈折率)である。第二光電変換ユニットがヘテロ接合光電変換ユニットである場合、第二光電変換ユニットの光入射側界面の屈折率は4.5程度(非晶質シリコンの屈折率)である。第一光電変換ユニットと第二光電変換ユニットとの間に反射防止層が設けられておらず、第一光電変換ユニットと透明導電層とが接していると、第一光電変換ユニット−透明導電層界面での反射が小さいため、透明導電層−第二光電変換ユニット界面での反射光を打ち消すことが困難となる。その結果、第一光電変換ユニットへ光が反射されてしまい、後方に配置された第二光電変換ユニットに取り込まれる光の量が少なくなる。
【0038】
これに対し、光電変換装置100では、第一光電変換ユニット1と透明導電層4との間に、透明導電層4の屈折率よりも低い屈折率を有する反射防止層3が設けられている。このような反射防止層3を第一光電変換ユニット1と透明導電層4との間に設けることで、第一光電変換ユニット1−反射防止層3界面での反射と、反射防止層3−透明導電層4界面での反射と、透明導電層4−第二光電変換ユニット2界面での反射とを組み合わせて、透明導電層4−第二光電変換ユニット2界面での反射光を打ち消すことができる。その結果、第一光電変換ユニット1への光の反射を低減し、第二光電変換ユニット2に取り込まれる光の量を増大できる。
【0039】
反射防止層3の屈折率は、1.2〜1.7が好ましく、1.2〜1.6がより好ましく、1.2〜1.5がさらに好ましい。
【0040】
反射防止層3の膜厚は、1nm〜250nmが好ましく、10nm〜250nmがより好ましく、80nm〜220nmがさらに好ましく、100nm〜200nmが特に好ましい。
【0041】
本明細書において、反射防止層の屈折率は、分光エリプソメトリーにより測定される波長600nmの光に対する屈折率である。また、反射防止層の膜厚は、断面の透過型電子顕微鏡(TEM)観察により求められる。その他の層の屈折率および膜厚の測定方法も同様である。なお、テクスチャ等の凹凸を有するシリコン基板等の表面に層が形成されている場合、凹凸の斜面と垂直な方向を膜厚方向とする。
【0042】
反射防止層3は、2つの光電変換ユニット1,2の間に設けられる中間層としての役割もあるため、透明導電層4と同様、透明性および導電性を有することが好ましい。
【0043】
そのため、反射防止層3は、導電性ポリマーを主成分とすることが好ましい。導電性ポリマーとしては、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)等のポリチオフェン誘導体、ポリエチレンイミン(PEI)等のポリアルキレンイミン、エトキシ化ポリエチレンイミン(PEIE)等の変性ポリアルキレンイミン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリピロール、ポリアニリン等を1種または2種以上を用いることができる。PEDOT/PSSは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)にポリエチレンスルホン酸(PSS)をドープしたポリチオフェン誘導体である。中でも、反射防止層3は、PEDOT/PSSを主成分とすることが好ましい。特に、第二光電変換ユニット2がヘテロ接合光電変換ユニットであり、光入射側の導電型シリコン系薄膜24がn型である場合、PEDOT/PSSを主成分とする反射防止層3は、第二光電変換ユニット2で発生した正孔と第一光電変換ユニット1で発生した電子を再結合させる中間層として好適に機能する。なお、本発明の効果を損なわない限り、反射防止層3に他の成分が含有されていてもよい。
【0044】
反射防止層3は、絶縁性ポリマーまたは絶縁性無機材料を主成分とすることもできる。この場合、例えば、透明導電層4上に、反射防止層3を形成する領域とグリッド電極を形成する領域を設けることにより、グリッド電極を介して第一光電変換ユニット1と第二光電変換ユニット2とを接続すればよい。反射防止層3に銀等からなる導電性ナノ粒子等を含有させることによっても、第一光電変換ユニット1と第二光電変換ユニット2とを接続できる。絶縁性ポリマーとしては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル樹脂等を用いることができる。絶縁性無機材料としては、例えば、MgF
2、LiF、NaF等の無機ハロゲン化物等を用いることができる。
【0045】
反射防止層3は、単層でもよく、複数の層からなる積層構造でもよい。例えば、反射防止層3を屈折率差のある複数の薄膜で構成することで、光の干渉を発生させ、反射防止層3に到達した光の一部を第一光電変換ユニット1に反射させ、残りの光を第二光電変換ユニット2に透過させてもよい。反射防止層3が複数の層からなる場合、透明導電層4と接する層の屈折率は1.2〜1.7が好ましく、合計膜厚は1〜250nmが好ましい
。
【0046】
以下、第二光電変換ユニットを構成する太陽電池としてヘテロ接合太陽電池を用いた場合の好ましい実施形態について説明する。
【0047】
[実施形態1]
図2は、実施形態1に係る光電変換装置の模式的断面図である。
図2に示す光電変換装置110では、光入射側から、集電極5、第一光電変換ユニット1、反射防止層3、透明導電層4、第二光電変換ユニット2および裏面電極6がこの順に配置されている。実施形態1に係る光電変換装置110では、第一光電変換ユニット1の面積と第二光電変換ユニット2の面積とが同一である。
【0048】
本明細書において、光電変換ユニットの面積とは、太陽電池を正面視した際の平面投影面積である。光電変換ユニットが平面投影面積の異なる層を有する場合、光吸収層の平面投影面積を光電変換ユニットの面積とする。
【0049】
後述するように、第一光電変換ユニット1は、溶液等を用いたプロセスによって作製される。そのため、
図2に示す光電変換装置110は、まず、第二光電変換ユニット2を作製し、第二光電変換ユニット2上に、透明導電層4、反射防止層3および第一光電変換ユニット1を積層することにより作製されることが好ましい。以下、第二光電変換ユニット2、透明導電層4、反射防止層3および第一光電変換ユニット1の順に具体的な構成を説明する。
【0050】
(第二光電変換ユニット)
第二光電変換ユニット2は、ヘテロ接合光電変換ユニットであり、導電型単結晶シリコン基板21の表面に、単結晶シリコンとはバンドギャップの異なる導電型シリコン系薄膜24,25を有する。導電型シリコン系薄膜24,25は、いずれか一方がp型であり、他方がn型である。
【0051】
単結晶シリコン基板21の導電型は、n型でもp型でもよい。正孔と電子とを比較した場合、電子の方が移動度が大きいため、シリコン基板21がn型単結晶シリコン基板である場合は、特に変換特性が高い。
【0052】
シリコン基板21は、少なくとも光入射側の表面、好ましくは両表面にテクスチャ等の凹凸を有することが好ましい。シリコン基板の表面にテクスチャ等の凹凸を形成することにより、第一光電変換ユニット1への光の反射を低減できる。テクスチャは、例えば、異方性エッチング技術を用いて形成される。異方性エッチングにより形成されたテクスチャは、四角錘状の凹凸構造を有する。
【0053】
シリコン基板21の表面に形成される凹凸の高さは、0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。また、上記凹凸の高さは、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。凹凸の高さを上記の範囲とすることにより、基板表面の反射率が低減し、短絡電流を増加させることができる。シリコン基板21の表面に形成される凹凸の高さは、凸部の頂点と凹部の谷の高低差により求められる。
【0054】
p型またはn型の導電型シリコン系薄膜24,25としては、非晶質シリコン、微結晶シリコン(非晶質シリコンと結晶質シリコンを含む材料)や、非晶質シリコン合金、微結晶シリコン合金等が用いられる。シリコン合金としては、シリコンオキサイド、シリコンカーバイド、シリコンナイトライド、シリコンゲルマニウム等が挙げられる。これらの中でも、導電型シリコン系薄膜は、非晶質シリコン薄膜であることが好ましい。
【0055】
第二光電変換ユニット2がヘテロ接合光電変換ユニットである場合、単結晶シリコン基板21と導電型シリコン系薄膜24,25との間に、真性シリコン系薄膜22,23を有することが好ましい。単結晶シリコン基板の表面に真性シリコン系薄膜が設けられることにより、単結晶シリコン基板への不純物の拡散を抑えつつ表面パッシベーションを有効に行うことができる。単結晶シリコン基板21の表面パッシベーションを有効に行うために、真性シリコン系薄膜22,23は、真性非晶質シリコン薄膜が好ましい。
【0056】
上記真性シリコン系薄膜22,23および導電型シリコン系薄膜24,25は、プラズマCVD法により製膜されることが好ましい。
【0057】
(透明導電層)
裏面側の導電型シリコン系薄膜25上には、導電性酸化物を主成分とする透明導電層26が形成される。以上により、第二光電変換ユニット2が作製される。
【0058】
同様に、光入射側の導電型シリコン系薄膜24上には、導電性酸化物を主成分とする透明導電層4が形成される。透明導電層4は、上述した第一光電変換ユニット1と第二光電変換ユニット2との間の中間層としても機能するものである。
【0059】
これらの透明導電層は、ドライプロセス(CVD法や、スパッタ法、イオンプレーティング法等のPVD法)により製膜される。インジウム系酸化物を主成分とする透明導電層の製膜には、スパッタ法やイオンプレーティング法等のPVD法が好ましい。
【0060】
(反射防止層)
透明導電層4上には、反射防止層3が形成される。反射防止層3は、例えば、上述したPEDOT/PSS等の導電性ポリマーや絶縁性ポリマーを含有する溶液を用いて、スピンコート法等により製膜される。また、MgF
2等からなる反射防止層3は、スパッタリング法、真空蒸着法等により製膜される。
【0061】
(第一光電変換ユニット)
第一光電変換ユニット1は、光入射側から、透明導電層14、第一電荷輸送層12、光吸収層11および第二電荷輸送層13をこの順に有する。第一電荷輸送層12および第二電荷輸送層13は、いずれか一方が正孔輸送層であり、他方が電子輸送層である。
【0062】
例えば、第二光電変換ユニット2において、シリコン基板21がn型単結晶シリコン基板である場合、導電型シリコン系薄膜24,25の導電型は、光入射側がp型であり、裏面側がn型であることが好ましい。この場合、第一光電変換ユニット1において、光入射側の第一電荷輸送層12は正孔輸送層であり、裏面側の第二電荷輸送層13は電子輸送層である。
【0063】
以下、反射防止層3上に、電子輸送層13、光吸収層11、正孔輸送層12および透明導電層14をこの順に形成して第一光電変換ユニット1を作製する方法について説明する。
【0064】
まず、反射防止層3上に、電子輸送層13が形成される。上記のとおり、反射防止層3上に形成される電子輸送層13の屈折率を調整することにより、第一光電変換ユニット1への光の反射を低減してもよい。電子輸送層の材料としては、従来公知の材料を適宜選択すればよく、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0065】
電子輸送層には、ドナーが添加されていてもよい。例えば、電子輸送層として酸化チタンが用いられる場合、ドナーとしては、イットリウム、ユウロピウム、テルビウム等が挙げられる。
【0066】
電子輸送層は、平滑構造を有する緻密質層でもよく、多孔質構造を有する多孔質層でもよい。電子輸送層が多孔質構造を有する場合、細孔サイズはナノスケールであることが好ましい。光吸収層の活性表面積を増大し、電子輸送層による電子収集性を高める観点から、電子輸送層は多孔質構造を有することが好ましい。
【0067】
電子輸送層は、単層でもよく、複数の層からなる積層構造でもよい。例えば、電子輸送層は、第二光電変換ユニット2側に緻密質層を有し、第一光電変換ユニット1の光吸収層11側に多孔質層を有する2層構造であってもよい。電子輸送層の膜厚は、1nm〜200nmが好ましい。
【0068】
電子輸送層13は、例えば、上述した酸化チタン等の電子輸送材料を含有する溶液を用いて、スプレー法等により製膜される。
【0069】
電子輸送層13上には、光吸収層11が形成される。光吸収層11は、例えば、上述した一般式R
1NH
3M
1X
3またはHC(NH
2)
2M
1X
3で表されるペロブスカイト結晶材料を含有する溶液を用いて、スピンコート法等により製膜される。
【0070】
光吸収層11上には、正孔輸送層12が形成される。正孔輸送層の材料としては、従来公知の材料を適宜選択すればよく、例えば、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体、2,2’,7,7’−テトラキス−(N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(Spiro−OMeTAD)等のフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ジフェニルアミン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアニリン誘導体等が挙げられる。また、正孔輸送層の材料としては、MoO
3、WO
3、NiO等の金属酸化物等も挙げられる。
【0071】
正孔輸送層は、単層でもよく、複数の層からなる積層構造でもよい。正孔輸送層の膜厚は、1nm〜100nmが好ましい。
【0072】
正孔輸送層12は、例えば、上述したSpiro−OMeTAD等の正孔輸送材料を含有する溶液を用いて、スプレー法等により製膜される。
【0073】
正孔輸送層12上には、導電性酸化物を主成分とする透明導電層14が形成されることが好ましい。透明導電層14の構成や製膜方法は上述の透明導電層4と同様であるため、詳細な説明は省略する。以上により、第一光電変換ユニット1が作製される。
【0074】
(金属集電極)
図2に示す光電変換装置110は、光生成キャリアを有効に取り出すために、透明導電層14,26上に、金属集電極5,6を有することが好ましい。光入射側の集電極は、所定のパターン状に形成される。裏面側の集電極は、パターン状でもよく、透明導電層上の略全面に形成されていてもよい。
図2に示す形態では、光入射側の透明導電層14上にパターン状の集電極5が形成されており、裏面側の透明導電層26上の全面に裏面電極6が形成されている。
【0075】
透明導電層上の全面に裏面電極を形成する方法としては、各種PVD法やCVD法等のドライプロセス、ペーストの塗布、めっき法等が挙げられる。裏面電極としては、近赤外から赤外域の波長領域の光の反射率が高く、かつ導電性や化学的安定性が高い材料を用いることが望ましい。このような特性を満たす材料としては、銀、銅、アルミニウム等が挙げられる。
【0076】
パターン状の集電極は、導電性ペーストを印刷する方法や、めっき法等により形成される。導電性ペーストが用いられる場合、インクジェット、スクリーン印刷、スプレー等により集電極が形成される。生産性の観点からはスクリーン印刷が好ましい。スクリーン印刷においては、金属粒子と樹脂バインダーからなる導電ペーストをスクリーン印刷によって印刷する方法が好ましく用いられる。
【0077】
めっき法によりパターン状の集電極を形成する場合、透明導電層上に、パターン状の金属シード層を形成した後、金属シード層を起点として、めっき法により金属層が形成されることが好ましい。この際、透明導電層上への金属の析出を抑制するために、透明導電層上には、絶縁層が形成されることが好ましい。
【0078】
以上の工程により、光電変換装置110を作製できる。
【0079】
[実施形態2]
図3は、実施形態2に係る光電変換装置の模式的断面図である。実施形態2に係る光電変換装置120では、第一光電変換ユニット1の面積が第二光電変換ユニット2の面積よりも小さい。その他の構成は、実施形態1と同じである。
【0080】
図4は、
図3の光電変換装置を模式的に示す分解平面図である。
図4では、第一光電変換ユニット1の面積W1と第二光電変換ユニット2の面積W2とが、W1<W2を満たしている。さらに、反射防止層3の面積Waと、透明導電層4の面積Wtとが、W1<Wa=Wt<W2を満たしている。
【0081】
実施形態1で説明したように、第一光電変換ユニット1は、第二光電変換ユニット2上に、溶液等を用いたプロセスによって作製される。そのため、第一光電変換ユニット1の面積W1を第二光電変換ユニット2の面積W2よりも小さくすることで、第二光電変換ユニット2と第一光電変換ユニット1との物理的接触を防止でき、短絡による特性低下を防止できる。
【0082】
なお、第一光電変換ユニット1での発電量は第二光電変換ユニット2での発電量よりも大きいため、第一光電変換ユニット1の面積W1を第二光電変換ユニット2の面積W2よりも小さくしても、発電量の低下は小さい。一方、第一光電変換ユニット1の面積W1を第二光電変換ユニット2の面積W2よりも小さくすることで、第二光電変換ユニット2に到達する光の量を増大できる。そのため、第一光電変換ユニット1の面積W1を小さくしても、光電変換装置全体の発電量を実施形態1と同程度にすることができる。
【0083】
実施形態2では、W1<Wt≦W2またはW1≦Wt<W2を満たすことが好ましく、W1<Wt<W2を満たすことがより好ましい。また、W1<Wa≦Wt≦W2またはW1≦Wa≦Wt<W2を満たすことが好ましく、W1<Wa≦Wt<W2を満たすことがより好ましく、W1<Wa<Wt<W2を満たすことがさらに好ましい。特に、反射防止層3および透明導電層4がともに導電性を有する場合、W1<Wa<Wt<W2を満たすように、裏面側から光入射側に向かって各構成要素の面積を小さくすることで、短絡による特性低下を防止できる。
【0084】
短絡を防止する観点からは、第一光電変換ユニット1は、第二光電変換ユニット2の光入射側表面の周縁以外の領域に形成されることが好ましい。反射防止層3および透明導電層4についても、第二光電変換ユニット2の光入射側表面の周縁以外の領域に形成されることが好ましい。さらに、反射防止層3が、透明導電層4の光入射側表面の周縁以外の領域に形成されることが好ましく、第一光電変換ユニット1が、反射防止層3の光入射側表面の周縁以外の領域に形成されることがより好ましい。本明細書において、「周縁」とは、周端および周端から所定距離(例えば、数十μm〜数mm程度)の領域を指し、「周端」とは、主面の端縁を指す。
【0085】
[その他の実施形態]
第一光電変換ユニットの面積W1、第二光電変換ユニットの面積W2、反射防止層の面積Wa、および透明導電層の面積Wtの大小関係は特に限定されないが、実施形態1および2で説明したように、W1≦W2を満たすことが好ましく、W1≦Wt≦W2を満たすことがより好ましく、W1≦Wa≦Wt≦W2を満たすことがさらに好ましい。特に、反射防止層および透明導電層がともに導電性を有する場合には、W1≦Wa≦Wt≦W2とすることにより、短絡による特性低下を防止できる。
【0086】
実施形態1および2では、第二光電変換ユニット2がヘテロ接合光電変換ユニットであって、光入射側の導電型シリコン系薄膜24がp型、裏面側の導電型シリコン系薄膜25がn型であ
る。
【0087】
上述のとおり、第二光電変換ユニットを構成する太陽電池は、第一光電変換ユニットを構成する太陽電池よりも狭バンドギャップの太陽電池であればよく、ヘテロ接合太陽電池に限定されるものではない。
【0088】
実施形態1および2で説明した各光電変換ユニットの構成は例示であり、本発明の効果を損なわない限り、各光電変換ユニットは他の層を有していてもよい。例えば、透明導電層4上には、MgF
2等からなる反射防止膜が形成されることが好ましい。
【0089】
実施形態1および2では、第一光電変換ユニットおよび第二光電変換ユニットがこの順に積層された二接合の光電変換装置を例として説明したが、これ以外の積層構成を採用することもできる。例えば、本発明の光電変換装置は、第二光電変換ユニットの後方に他の光電変換ユニットを備える三接合のものであってもよく、四接合以上のものであってもよい。この場合、後方に配置される光電変換ユニットは、光吸収層のバンドギャップが前方に配置される光電変換ユニットの光吸収層のバンドギャップよりも狭いことが好ましい。
【0090】
本発明の光電変換装置は、実用に際して、封止材により封止して、モジュール化されることが好ましい。光電変換装置のモジュール化は、適宜の方法により行われる。例えば、タブ等のインターコネクタを介して集電極のバスバーが接続されることによって、複数の光電変換装置が直列または並列に接続され、封止材およびガラス板により封止されることにより光電変換モジュールが得られる。