【文献】
武田真一 「セラミック粉体雑考 −表面特性と濡れ−」 ニューセラミックスレター 2012年12月 No.47 3〜6頁(http://tri−osaka.jp/dantai/ncf/newsletter/newsletter2012.html)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題を鑑みて、研磨速度を比較的高く且つ長期間維持できる研磨用組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、比較的高い研磨速度で研磨することができ且つ長期間研磨速度を維持できる研磨方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定の比表面積を有するシリカを砥粒として用いることで、研磨用組成物の研磨速度を向上させ、且つ、長期間研磨速度を維持することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明に係る研磨用組成物は、
水と
コロイダルシリカとを含む研磨用組成物であって、
前記
コロイダルシリカのBET比表面積が30m
2/g以上であって且つNMR比表面積が10m
2/g以上である。
【0008】
本発明によれば、水とシリカとを含む研磨用組成物であって、前記シリカのBET比表面積が30m
2/g以上であって且つNMR比表面積が10m
2/g以上であることにより、研磨対象物に対する研磨速度を向上させることができ、且つ、長期間使用した場合でも研磨速度を維持することができる。
【0009】
本発明に係る研磨用組成物は、pH8.0以上pH11.5以下であってもよい。
【0010】
研磨用組成物のpHが前記範囲である場合には、研磨対象物に対する研磨速度をより向上させることができ、且つ、長期間使用した場合でも研磨速度をより維持することができる。
【0011】
本発明にかかる研磨方法は、前記研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する。
【0012】
本発明にかかる研磨方法は、前記研磨用組成物を一度以上使用した後に回収し、再び使用して研磨対象物を研磨してもよい。
【0013】
一度以上使用した後に回収した前記研磨用組成物を、再度使用して研磨した場合でも、研磨速度を維持したまま、比較的高い研磨速度で研磨することができる。
【0014】
本発明にかかる研磨方法は、硬脆材料を含む基板を研磨する。
【0015】
本発明の研磨方法によって、比較的高硬度の硬脆材料を研磨した場合でも、研磨速度を維持したまま、比較的高い研磨速度で研磨することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、研磨速度を比較的高く、且つ、長期間維持できる研磨用組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、比較的高い研磨速度で研磨することができ、且つ、長期間研磨速度を維持できる研磨方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明にかかる研磨用組成物及び研磨方法について説明する。
本実施形態の研磨用組成物は、
水とシリカとを含む研磨用組成物であって、
前記シリカのBET比表面積が30m
2/g以上であって且つNMR比表面積が10m
2/g以上である。
【0019】
(A)シリカ
本実施形態の研磨用組成物はシリカを砥粒として含む。
シリカは研磨用組成物において砥粒として用いられるものであれば、特に限定されることはなく、例えば、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ等が挙げられ、これらを単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
中でも、コロイダルシリカが好ましい。コロイダルシリカを砥粒として用いた場合には、研磨対象物に対するスクラッチ等の欠陥発生を抑制できるため好ましい。
【0020】
前記シリカは、BET比表面積が30m
2/g以上、好ましくは35m
2/g以上150m
2/g以下、より好ましくは35m
2/g以上140m
2/g以下であって、且つNMR比表面積が10m
2/g以上、好ましくは13m
2/g以上150m
2/g以下であるシリカである。
本実施形態の研磨用組成物には、前記範囲比表面積を有するシリカを適宜選択して採用することができる。
【0021】
BET比表面積は、N
2 ガスの吸着量に基づいて求めたBET法によって測定される比表面積であり、具体的には後述する実施例に記載の方法によって測定されうる。BET比表面積は、乾燥状態のシリカについて測定される値である。
【0022】
NMR比表面積は、パルスNMRによって粒子が分散している液の緩和時間を測定することで得られる比表面積であり、具体的には後述する実施例に記載の方法によって測定されうる。NMR比表面積は、分散液中のシリカについて測定される値である。
【0023】
BET比表面積を前記範囲にすることで、シリカの粒子が研磨対象物と接触することができる部分の面積を大きくできるため、一般的には、BET比表面積が大きくなると研磨速度を向上させる傾向にある。
一方、BET比表面積は、乾燥状態のシリカの比表面積を測定した値であるため、研磨用組成物中でのシリカ粒子の表面の状態による研磨速度の変化についてはBET比表面積では表されない。例えば、アルカリ性の液中においてシリカは表面の親水性が変化するが、かかる親水性の変化によってシリカ表面に研磨用組成物中の液体成分が付着する量が変化し、研磨速度等の研磨性能が変化する。しかし、かかるシリカ表面の変化による研磨性能の変化はBET比表面積とは相関がない。
よって、シリカのBET比表面積の値だけでは、研磨速度を示すパラメータとしては不十分である。
【0024】
NMR比表面積は、分散液中の粒子に接触または吸着している液と、粒子に接触または吸着していない液とのNMR緩和時間に基づいて得られる比表面積であって、具体的には後述する実施例に記載の方法によって測定されうる。
NMR法によって測定される比表面積は液体中のシリカを測定した値であり、シリカの表面の親水性が高くなるとNMR比表面積も高くなる。シリカ表面の親水性は長期間使用時の研磨速度維持に変化を及ぼす。すなわち、シリカ表面の親水性が向上するとシリカ表面が活性化されて研磨対象物への反応性が増大し、研磨による粒子表面の劣化が抑制される。
一方、BET比表面積が前記範囲からはずれるシリカについては、NMR比表面積の高さと長期間使用時の研磨速度維持との相関関係が得られない。
【0025】
本実施形態の研磨用組成物は、シリカとしてBET比表面積が前記範囲であることに加え、さらにNMR比表面積を特定の範囲のものを採用することで、高い研磨速度が得られ、且つ、長期間使用しても研磨速度を維持することができる。
【0026】
本実施形態の研磨用組成物中のシリカの濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、5.0質量%以上50質量%以下、好ましくは10質量%以上45質量%以下である。
シリカ濃度が前記範囲である場合には、研磨対象物に対する研磨速度をより向上させることができ。
【0027】
(B)pH
本実施形態の研磨用組成物は、pH8.0以上11.5以下、好ましくはpH8.5以上pH11.0以下である。
研磨用組成物のpHの範囲が前記範囲である場合には、研磨対象物に対する研磨速度を向上させることができ、且つ、シリカの分散性も向上させることができるため好ましい。
また、シリカはアルカリ性の液体中では、表面のシラノール基数が変化することが知られており、シリカ表面のシラノール基数は研磨速度に影響を及ぼす。よって、研磨用組成物のpHの範囲が前記範囲である場合には、シリカ表面に適切な量のシラノールが存在しやすくなり好ましい。
【0028】
本実施形態の研磨用組成物のpHを前記範囲に調整する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜リン酸、ホウ酸、炭酸等の無機酸、酢酸、蓚酸、酒石酸等のカルボン酸類、有機ホスホン酸、有機スルホン酸などの有機酸、NaOH、KOH等のアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アンモニア等の無機塩基、アミン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等の水酸化第4アンモニウムおよびその塩などの有機塩基性化合物等が挙げられる。
【0029】
本実施形態の研磨用組成物には、さらに他の成分が含まれていてもよい。
前記他の成分としては、界面活性剤、キレート剤等が挙げられる。
【0030】
本実施形態の研磨用組成物は、使用時の所望の濃度よりも高濃度である高濃度液として調整しておき、使用時に希釈してもよい。
かかる高濃度液として調整した場合には、研磨用組成物の貯蔵、輸送に便利である。
尚、高濃度液として調整する場合には、例えば、使用時の1倍(原液)超〜10倍、好ましくは1倍超〜5倍に希釈する程度の濃度に調整することが挙げられる。
【0031】
(C)研磨対象物
本実施形態の研磨用組成物の研磨対象物は特に限定されるものではないが、サファイア、窒化珪素、炭化珪素、酸化ケイ素、ガラス、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヒ化インジウム、リン化インジウム等の硬脆材料を含む基板(硬脆材料基板)等が挙げられる。かかる硬脆材料は、シリコンウェーハ等と比べて硬度が高く且つもろいため、研磨速度を向上させにくいが、本実施形態の研磨用組成物はこれらの硬脆材料基板を比較的高い研磨速度で研磨することができる。
本実施形態の研磨用組成物の研磨対象物としては、特に、サファイア基板が好適な研磨対象物として挙げられる。サファイア基板は、シリカと固相反応を起こすため、シリカの比表面積及びシリカの粒子表面の状態によって研磨性能に影響を受けやすい。そのため、本実施形態の研磨用組成物によって研磨性能を向上させうる。
【0032】
本実施形態の研磨用組成物は、前記硬脆材料基板等の比較的硬度が高い研磨対象物に対する研磨速度が比較的高いため、従来研磨に長時間がかかっていた研磨対象物でも短時間で研磨することができる。
従って、製造効率の向上及び製造コストの低減も図れる。
【0033】
次に本実施形態の研磨方法について説明する。
本実施形態の研磨方法は、上述のような研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する方法である。
【0034】
(D)研磨方法
上述のような本実施形態の研磨用組成物を用いて、研磨対象物を研磨する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下のような方法が挙げられる。
本実施形態の研磨用組成物を用いた研磨は、通常の基板等の研磨に用いられる装置及び研磨条件を用いることができる。研磨装置としては、例えば、片面研磨装置や両面研磨装置を用いることができる。
研磨パッドとしては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等のいずれのタイプのものを使用してもよい。
【0035】
研磨条件については、研磨対象物に合わせて適宜設定することができる、硬脆材料基板を研磨対象物として研磨する場合には、例えば、以下のような研磨条件であることが好ましい。
研磨加重は、例えば、研磨対象物の面積1cm
2当たり50g以上1000g以下、好ましくは100g以上800g以下であることが挙げられる。
研磨線速度は、例えば、10m/分以上300m/分以下、好ましくは30m/分以上200m/分以下であることが挙げられる。
【0036】
研磨加重及び研磨線速度が前記範囲である場合には、研磨対象物に対する摩擦を適度な範囲に調整する事ができる。
本実施形態の研磨用組成物は、研磨加重及び研磨線速度を前記範囲にして研磨した場合でも、研磨速度を十分に向上させることができる。従って、本実施形態の研磨用組成物を用いて前記研磨加重及び研磨線速で研磨した場合には、研磨速度を比較的高くしつつ、研磨対象物に対するダメージを抑制することができる。
【0037】
さらに、本実施形態の研磨方法は、上述のような研磨用組成物を、一度以上使用した後に回収し、再び使用して研磨対象物を研磨してもよい。
本実施形態の研磨用組成物は、上述のように比較的高い研磨速度で研磨対象物を研磨することができ、且つ、長時間研磨速度を維持することができる。従って、例えば、一度以上研磨対象物の研磨に使用された後に、回収され、再び研磨対象物の研磨に使用された場合でも、研磨速度を維維持することができる。
このように一度以上研磨に使用した研磨用組成物を再使用する場合には、例えば、使用後の研磨用組成物を回収し、一度タンク等に収容し、さらに、研磨装置等に供給することが挙げられる。
あるいは、研磨装置に研磨用組成物を一定量ずつ供給しながら研磨すると同時に、ドレイン等の回収装置で研磨用組成物を回収しタンク等に収容し、必要に応じてろ過工程などを経た後、該収容された研磨用組成物をポンプ等で再度研磨装置に供給するような循環使用する方法も挙げられる。
【0038】
本実施形態の研磨用組成物を再使用する場合に、シリカを補充してもよい。シリカを補充する場合には、BET比表面積及びNMR比表面積が前記範囲であるシリカを補充してもよく、それ以外のシリカを補充してもよい。
【0039】
本実施形態の研磨用組成物を再使用する場合に、シリカ以外の研磨用組成物の成分を補充してもよい。
【0040】
以上のように、本実施形態の研磨用組成物は、水とシリカとを含む研磨用組成物であって、前記シリカのBET比表面積が30m
2/g以上であって且つNMR比表面積が10m
2/g以上であることにより、硬脆材料基板等の比較的硬度が高い研磨対象物に対する研磨速度が比較的高く、且つ、長期間研磨速度を維持できる。
【0041】
また、以上のように、本実施形態の研磨方法は、上述の研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する方法であるため、硬脆材料基板等の比較的硬度が高い研磨対象物に対する研磨速度が比較的高く、且つ、長期間研磨速度を維持できる。
【0042】
尚、本実施形態にかかる研磨用組成物及び研磨方法は以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
《比表面積の測定》
6種類のコロイダルシリカを準備し、それぞれのBET比表面積及びNMR比表面積を測定した。
(BET比表面積)
BET比表面積は以下の方法で測定した。
各スラリーを185℃のオーブンで30分乾燥させた後、残ったシリカを乳鉢で粉砕し粉状に処理したサンプルを0.3g用いて、BET比表面積測定装置(商品名:SA−3100、Beckman coulter社製)を用いて比表面積を測定した結果を表1に示した。
【0045】
(NMR比表面積)
NMR比表面積は以下の方法で測定した。
各シリカを表1に記載の濃度になるように水に分散させたスラリーをサンプルとして作製した。測定装置は、パルスNMR粒子界面特性評価装置(Acorn area、日本ルフト社販売)を用いて以下の測定条件で比表面積を測定した結果を表1に示した。
測定条件
Bulk relaxation time:2699ms
Specific surface relaxivity:0.00026
Volume ratio of particle to liquid:各スラリーのシリカ濃度、シリカ粒子密度(2.2g/cm
3で固定)及びブランク溶液密度(1.0g/cm
3で固定)より算出
【0046】
【表1】
【0047】
《研磨用組成物》
表1に記載のシリカを用いて実施例、比較例の各研磨用組成物を作製した。
シリカ、水、及びpH調整用のNaOHを混合して、シリカ濃度及びpHは表1及び表2に記載の各値になるように調整した。
【0048】
《研磨速度の測定》
各研磨用組成物を用いて研磨速度を測定した。
1バッチの研磨条件は以下のとおりで、同様の条件で研磨を3バッチ行った。
研磨条件
研磨機:SpeedFAM製36GPAW
荷重:350g/cm
2
定盤回転数:40rpm
研磨ヘッド:4軸
研磨対象物:サファイアウェーハ、4inch C−plane
ウェーハ枚数:24枚(6枚/plate×4)
研磨時間:150min/batch
スラリー流量:3.6L/min
リサイクルスラリー量:18kg
【0049】
研磨速度の測定は以下の方法で行った。
KEYENCE社製 GT2-A12Kを用いて、サファイアウェーハ上の5点(中央1点、外周部4点)の研磨前後でのウェーハ厚み変化量を測定し、5点の変化量の平均値を研磨時間で割る事により単位時間当たりの研磨量の算出を行った。
【0050】
《研磨速度の変化率》
各研磨用組成物の1バッチ目の研磨速度に対する3バッチ目の研磨速度変化率(%)を表2に示す。
また、実施例2及び3の研磨用組成物を用いて上記と同様に5バッチまで研磨を行い、1バッチ目の研磨速度に対する5バッチ目の研磨速度変化率(%)を表3に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
表2から明らかなように、BET比表面積30m
2/g以上であって且つNMR比表面積が10m
2/g以上であるシリカを用いた各実施例は、研磨速度は比較的高く、且つ、3バッチ目の研磨速度の1バッチ目の研磨速度に対する変化率も小さかった。
一方、NMR比表面積が小さいシリカを用いた比較例1では1バッチ目の研磨速度は比較的高いものの、3バッチ目の研磨速度の変化率が大きく、すなわち、研磨速度が維持できていなかった。
BET比表面積の小さいシリカを用いた比較例2では1バッチ目から研磨速度が実施例に比べて低くかった。
【0054】
また、表3から明らかなように、BET比表面積が同等であっても、NMR比表面積が大きい実施例3の研磨用組成物は、実施例2の研磨用組成物に比べて研磨速度の変化率が小さく、すなわち、研磨速度をより長期間維持できていた。
【0055】
《BET比表面積と研磨速度との関係》
上記結果から、横軸にBET比表面積、縦軸に研磨速度(1バッチ目)との関係を示す曲線を
図1のグラフに示した。
図1のグラフから、研磨速度が2.0μm以上になるBET比表面積は35m
2/g以上140m
2/g以下の範囲であることがわかった。