特許第6506987号(P6506987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6506987逆浸透膜の改質方法、およびホウ素含有水の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6506987
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】逆浸透膜の改質方法、およびホウ素含有水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/56 20060101AFI20190415BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20190415BHJP
   B01D 65/06 20060101ALI20190415BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20190415BHJP
【FI】
   B01D71/56
   B01D61/02 500
   B01D65/06
   C02F1/44 C
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-34048(P2015-34048)
(22)【出願日】2015年2月24日
(65)【公開番号】特開2016-155067(P2016-155067A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇規
(72)【発明者】
【氏名】吉川 浩
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−537920(JP,A)
【文献】 特開2014−101251(JP,A)
【文献】 特開2003−088730(JP,A)
【文献】 特開2014−188473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系の逆浸透膜に、臭素系酸化剤、もしくは臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物とをpH4〜6.5の範囲で接触させる、または、臭素系酸化剤、もしくは臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物との反応生成物をpH4〜6.5の範囲で接触させることを特徴とする逆浸透膜の改質方法。
【請求項2】
ポリアミド系の逆浸透膜に、臭素とスルファミン酸化合物とをpH4〜6.5の範囲で接触させる、または、臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物をpH4〜6.5の範囲で接触させることを特徴とする逆浸透膜の改質方法。
【請求項3】
請求項2に記載の逆浸透膜の改質方法であって、
前記臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物が、水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる工程を含む方法により得られたものであることを特徴とする逆浸透膜の改質方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の逆浸透膜の改質方法により改質された逆浸透膜を用いてホウ素含有水を逆浸透膜処理することを特徴とするホウ素含有水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド系の逆浸透膜の改質方法、その改質方法により改質された逆浸透膜、および、その逆浸透膜を用いるホウ素含有水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜(RO膜)の透過水質改善等のための改質方法は数多く存在する。その中でも、逆浸透膜に臭素を含む遊離塩素を所定の時間接触させて性能を改善する方法がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリアミドスキン層を有する逆浸透膜エレメントを搭載した膜分離装置において、逆浸透膜エレメントを膜分離装置内の圧力容器に充填した後、前記逆浸透膜エレメントに臭素を含む遊離塩素水溶液を接触させる逆浸透膜エレメントの処理方法が記載されている。
【0004】
しかし、特許文献1の方法では、一時的な水質改善はできるが、臭素を含む遊離塩素水溶液を長期的に通水すると、逆浸透膜が劣化し、水質が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−088730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、逆浸透膜の劣化を抑制しつつ、逆浸透膜の透過水質を改善するための逆浸透膜の改質方法、その改質方法により改質された逆浸透膜、および、その逆浸透膜を用いるホウ素含有水の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリアミド系の逆浸透膜に、臭素系酸化剤、もしくは臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物とをpH4〜6.5の範囲で接触させる、または、臭素系酸化剤、もしくは臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物との反応生成物をpH4〜6.5の範囲で接触させる逆浸透膜の改質方法である。
【0008】
本発明は、ポリアミド系の逆浸透膜に、臭素とスルファミン酸化合物とをpH4〜6.5の範囲で接触させる、または、臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物をpH4〜6.5の範囲で接触させる逆浸透膜の改質方法である。
【0009】
前記逆浸透膜の改質方法において、前記臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物が、水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる工程を含む方法により得られたものであることが好ましい。
【0011】
本発明は、前記逆浸透膜の改質方法により改質された逆浸透膜である。
【0012】
本発明は、前記逆浸透膜の改質方法により改質された逆浸透膜を用いてホウ素含有水を逆浸透膜処理するホウ素含有水の処理方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、逆浸透膜の劣化を抑制しつつ、逆浸透膜の透過水質を改善するための逆浸透膜の改質方法、その改質方法により改質された逆浸透膜、および、その逆浸透膜を用いるホウ素含有水の処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0015】
<逆浸透膜の改質方法および逆浸透膜>
本発明の実施形態に係る逆浸透膜の改質方法は、ポリアミド系の逆浸透膜に、臭素系酸化剤、もしくは臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物とを接触させる、または、臭素系酸化剤、もしくは臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物との反応生成物を接触させる方法である。また、本発明の実施形態に係る逆浸透膜は、この逆浸透膜の改質方法により改質された逆浸透膜である。ここで、本明細書における逆浸透膜の「改質」とは、透過水質の改善、すなわち阻止率の向上を指す。
【0016】
本発明の実施形態に係る逆浸透膜の改質方法は、ポリアミド系の逆浸透膜への給水等の中に、改質剤として「臭素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」とを存在させてポリアミド系の逆浸透膜に接触させる方法、または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」と「スルファミン酸化合物」とを存在させてポリアミド系の逆浸透膜に接触させる方法である。これにより、給水等の中で、次亜臭素酸安定化組成物が生成すると考えられる。
【0017】
また、本発明の実施形態に係る逆浸透膜の改質方法は、ポリアミド系の逆浸透膜への給水等の中に、改質剤として「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」である次亜臭素酸安定化組成物を存在させてポリアミド系の逆浸透膜に接触させる方法、または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物と、の反応生成物」である次亜臭素酸安定化組成物を存在させてポリアミド系の逆浸透膜に接触させる方法である。
【0018】
具体的には本発明の実施形態に係る逆浸透膜の改質方法は、ポリアミド系の逆浸透膜への給水等の中に、例えば、「臭素」、「塩化臭素」または「臭化ナトリウムと次亜塩素酸との反応物」と、「スルファミン酸化合物」と、を存在させてポリアミド系の逆浸透膜に接触させる方法である。
【0019】
また、本発明の実施形態に係る逆浸透膜の改質方法は、ポリアミド系の逆浸透膜への給水等の中に、例えば、「臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物」、「塩化臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物」、または「臭化ナトリウムと次亜塩素酸との反応物と、スルファミン酸化合物と、の反応生成物」である次亜臭素酸安定化組成物を存在させてポリアミド系の逆浸透膜に接触させる方法である。
【0020】
これらの方法により、逆浸透膜の劣化を抑制しつつ、逆浸透膜の阻止率を向上させ、透過水質を改善することができる。次亜臭素酸安定化組成物がポリアミド系の逆浸透膜を劣化させることがほとんどないため、一時的な水質改善ではなく、上記改質剤を含む水を長期的にポリアミド系の逆浸透膜に通水して接触しても、逆浸透膜の劣化が抑制され、逆浸透膜の阻止率の低下、すなわち水質の低下が抑制される。
【0021】
本実施形態に係る逆浸透膜の改質方法では、例えば、ポリアミド系の逆浸透膜を備える逆浸透膜装置の運転の際に、逆浸透膜への給水中に、「臭素系酸化剤」または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」と、「スルファミン酸化合物」とを薬注ポンプ等により注入すればよい。「臭素系酸化剤」または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」と、「スルファミン酸化合物」とは別々に給水中に添加してもよく、または、原液同士で混合させてから給水中に添加してもよい。また、例えば、「臭素系酸化剤」または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」と、「スルファミン酸化合物」とを添加した水中に、ポリアミド系の逆浸透膜を所定の時間、浸漬して接触させてもよい。
【0022】
また、例えば、ポリアミド系の逆浸透膜への給水中に、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」、または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物と、の反応生成物」を薬注ポンプ等により注入してもよい。また、例えば、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」、または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物と、の反応生成物」を添加した水中に、ポリアミド系の逆浸透膜を所定の時間、浸漬して接触させてもよい。
【0023】
改質剤による改質は、例えば、ポリアミド系の逆浸透膜を備える逆浸透膜装置の運転の際に逆浸透膜への給水中に、上記改質剤を連続的または間欠的に添加してもよいし、逆浸透膜の阻止率が低下した場合に、逆浸透膜への給水中に上記改質剤を連続的または間欠的に添加したり、改質剤を含む水中に逆浸透膜を浸漬してもよい。
【0024】
逆浸透膜への改質剤の接触は、常圧条件下、加圧条件下または減圧条件下で行えばよいが、逆浸透膜装置を停止しなくても改質を行うことができる、逆浸透膜の改質を確実に行うことができる等の点から、加圧条件下で行うことが好ましい。逆浸透膜への改質剤の接触は、例えば、0.1MPa〜8.0MPaの範囲の加圧条件下で行うことが好ましい。
【0025】
逆浸透膜への改質剤の接触は、例えば、5℃〜35℃の範囲の温度条件下で行えばよい。
【0026】
「臭素系酸化剤」または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」の当量に対する「スルファミン酸化合物」の当量の比は、1以上であることが好ましく、1以上2以下の範囲であることがより好ましい。「臭素系酸化剤」または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」の当量に対する「スルファミン酸化合物」の当量の比が1未満であると、逆浸透膜を劣化させる可能性があり、2を超えると、製造コストが増加する場合がある。
【0027】
逆浸透膜に接触する有効ハロゲン濃度は有効塩素濃度換算で、0.01〜100mg/Lであることが好ましい。0.01mg/L未満であると、十分な改質効果を得ることができない場合があり、100mg/Lより多いと、逆浸透膜の劣化、配管等の腐食を引き起こす可能性がある。
【0028】
臭素系酸化剤としては、臭素(液体臭素)、塩化臭素、臭素酸、臭素酸塩、次亜臭素酸等が挙げられる。
【0029】
これらのうち、臭素を用いた「臭素とスルファミン酸化合物」または「臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物」の製剤は、「次亜塩素酸と臭素化合物とスルファミン酸」の製剤および「塩化臭素とスルファミン酸」の製剤等に比べて、塩化物イオンが少なく、ポリアミド系の逆浸透膜をより劣化させず、配管等の金属材料の腐食を引き起こす可能性が低いため、より好ましい。
【0030】
すなわち、本発明の実施形態に係る逆浸透膜の改質方法は、ポリアミド系の逆浸透膜に、臭素とスルファミン酸化合物とを接触させる、または、臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物を接触させることが好ましい。
【0031】
臭素化合物としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、臭化アンモニウムおよび臭化水素酸等が挙げられる。これらのうち、製剤コスト等の点から、臭化ナトリウムが好ましい。
【0032】
塩素系酸化剤としては、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸またはその塩、亜塩素酸またはその塩、塩素酸またはその塩、過塩素酸またはその塩、塩素化イソシアヌル酸またはその塩等が挙げられる。これらのうち、塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸バリウム等の亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ニッケル等の他の亜塩素酸金属塩、塩素酸アンモニウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム等の塩素酸アルカリ金属塩、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム等の塩素酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。塩素系酸化剤としては、取り扱い性等の点から、次亜塩素酸ナトリウムを用いるのが好ましい。
【0033】
スルファミン酸化合物は、以下の一般式(1)で示される化合物である。
NSOH (1)
(式中、Rは独立して水素原子または炭素数1〜8のアルキル基である。)
【0034】
スルファミン酸化合物としては、例えば、2個のR基の両方が水素原子であるスルファミン酸(アミド硫酸)の他に、N−メチルスルファミン酸、N−エチルスルファミン酸、N−プロピルスルファミン酸、N−イソプロピルスルファミン酸、N−ブチルスルファミン酸等の2個のR基の一方が水素原子であり、他方が炭素数1〜8のアルキル基であるスルファミン酸化合物、N,N−ジメチルスルファミン酸、N,N−ジエチルスルファミン酸、N,N−ジプロピルスルファミン酸、N,N−ジブチルスルファミン酸、N−メチル−N−エチルスルファミン酸、N−メチル−N−プロピルスルファミン酸等の2個のR基の両方が炭素数1〜8のアルキル基であるスルファミン酸化合物、N−フェニルスルファミン酸等の2個のR基の一方が水素原子であり、他方が炭素数6〜10のアリール基であるスルファミン酸化合物、またはこれらの塩等が挙げられる。スルファミン酸塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩、マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩等の他の金属塩、アンモニウム塩およびグアニジン塩等が挙げられる。スルファミン酸化合物およびこれらの塩は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。スルファミン酸化合物としては、環境負荷等の点から、スルファミン酸(アミド硫酸)を用いるのが好ましい。
【0035】
本実施形態に係る逆浸透膜の改質方法において、さらにアルカリを存在させてもよい。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ等が挙げられる。低温時の製品安定性等の点から、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとを併用してもよい。また、アルカリは、固形でなく、水溶液として用いてもよい。
【0036】
本実施形態に係る逆浸透膜の改質方法は、逆浸透膜として昨今主流であるポリアミド系高分子膜に適用することができる。ポリアミド系高分子膜は、酸化剤に対する耐性が比較的低く、遊離塩素等をポリアミド系高分子膜に連続的に接触させると、膜性能の著しい低下が起こる。しかしながら、本実施形態に係る逆浸透膜の改質方法ではポリアミド高分子膜においても、このような著しい膜性能の低下はほとんど起こらない。
【0037】
本実施形態に係る逆浸透膜の改質方法において、ポリアミド系の逆浸透膜への上記改質剤の接触が、pH3超、8未満の範囲で行われることが好ましく、pH4〜6.5の範囲で行われることがより好ましい。ポリアミド系の逆浸透膜への上記改質剤の接触がpH3以下で行われると、ポリアミド系の逆浸透膜への上記改質剤の接触が長期的に行われた場合に逆浸透膜の劣化が起こり、阻止率が低下する場合があり、8以上で行われると、改質効果が不十分な場合がある。特に、pH4〜6.5の範囲で接触が行われると、逆浸透膜の劣化を抑制しつつ、逆浸透膜の透過水質を十分に改善することができる。改質剤の接触を上記pH範囲で行うために、例えば、逆浸透膜への給水のpHを上記範囲に維持すればよく、または、逆浸透膜の浸漬液のpHを上記範囲に維持すればよい。
【0038】
ポリアミド系の逆浸透膜を備える逆浸透膜装置において、逆浸透膜への給水のpH5.5以上でスケールが発生する場合には、スケール抑制のために分散剤を臭素系酸化剤または次亜臭素酸安定化組成物と併用してもよい。分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ホスホン酸等が挙げられる。分散剤の給水への添加量は、例えば、RO濃縮水中の濃度として0.1〜1,000mg/Lの範囲である。
【0039】
また、分散剤を使用せずにスケールの発生を抑制するためには、例えば、RO濃縮水中のシリカ濃度を溶解度以下に、カルシウムスケールの指標であるランゲリア指数を0以下になるように、逆浸透膜装置の回収率等の運転条件を調整することが挙げられる。
【0040】
本実施形態に係る逆浸透膜の改質方法により改質されたポリアミド系の逆浸透膜を備える逆浸透膜装置の用途としては、例えば、海水淡水化、排水回収等が挙げられる。特に、本実施形態に係る逆浸透膜の改質方法により改質されたポリアミド系の逆浸透膜を用いてホウ素含有水を逆浸透膜処理することが好ましい。本実施形態に係る逆浸透膜の改質方法によりポリアミド系の逆浸透膜を改質することにより、ホウ素の阻止率が著しく向上する。
【0041】
<ポリアミド系逆浸透膜用改質剤組成物>
本実施形態に係るポリアミド系逆浸透膜用改質剤組成物は、「臭素系酸化剤」または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」と、「スルファミン酸化合物」とを含有するものであり、さらにアルカリを含有してもよい。
【0042】
また、本実施形態に係るポリアミド系逆浸透膜用改質剤組成物は、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」、または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物と、の反応生成物」を含有するものであり、さらにアルカリを含有してもよい。
【0043】
臭素系酸化剤、臭素化合物、塩素系酸化剤およびスルファミン酸化合物については、上述した通りである。
【0044】
本実施形態に係るポリアミド系逆浸透膜用改質剤組成物としては、ポリアミド系逆浸透膜をより劣化させず、RO透過水への有効ハロゲンのリーク量がより少ないため、臭素と、スルファミン酸化合物とを含有するもの、または、臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物を含有するものが好ましい。
【0045】
本実施形態に係るポリアミド系逆浸透膜用改質剤組成物は、次亜塩素酸や、臭素を含む遊離塩素等の改質剤と比較すると、ポリアミド系の逆浸透膜の改質効果を有しながらも、次亜塩素酸や、臭素を含む遊離塩素のような著しい膜劣化をほとんど引き起こすことがない。通常の使用濃度では、膜劣化への影響は実質的に無視することができる。このため、ポリアミド系の逆浸透膜の改質剤としては最適である。
【0046】
本実施形態に係るポリアミド系逆浸透膜用改質剤組成物は、次亜塩素酸や、臭素を含む遊離塩素等とは異なり、逆浸透膜をほとんど透過しないため、処理水水質への影響がほとんどない。また、次亜塩素酸等と同様に現場で濃度を測定することができるため、より正確な濃度管理が可能である。
【0047】
組成物のpHは、例えば、13.0超であり、13.2超であることがより好ましい。組成物のpHが13.0以下であると組成物中の有効ハロゲンが不安定になる場合がある。
【0048】
ポリアミド系逆浸透膜用改質剤組成物中の臭素酸濃度は、5mg/kg未満であることが好ましい。ポリアミド系逆浸透膜用改質剤組成物中の臭素酸濃度が5mg/kg以上であると、RO透過水の臭素酸イオンの濃度が高くなる場合がある。
【0049】
<ポリアミド系逆浸透膜用改質剤組成物の製造方法>
本実施形態に係るポリアミド系逆浸透膜用改質剤組成物は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを混合する、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物とを混合することにより得られ、さらにアルカリを混合してもよい。
【0050】
臭素と、スルファミン酸化合物とを含有する逆浸透膜用改質剤組成物、または、臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物を含有する逆浸透膜用改質剤組成物の製造方法としては、水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる工程を含むことが好ましい。不活性ガス雰囲気下で添加して反応させることにより、組成物中の臭素酸イオン濃度が低くなり、RO透過水中の臭素酸イオン濃度が低くなる。
【0051】
用いる不活性ガスとしては限定されないが、製造等の面から素およびアルゴンのうち少なくとも1つが好ましく、特に製造コスト等の面から窒素が好ましい。
【0052】
臭素の添加の際の反応器内の酸素濃度は6%以下が好ましいが、4%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。臭素の反応の際の反応器内の酸素濃度が6%を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合がある。
【0053】
臭素の添加率は、組成物全体の量に対して25重量%以下であることが好ましく、1重量%以上20重量%以下であることがより好ましい。臭素の添加率が組成物全体の量に対して25重量%を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合がある。1重量%未満であると、改質効果が劣る場合がある。
【0054】
臭素添加の際の反応温度は、0℃以上25℃以下の範囲に制御することが好ましいが、製造コスト等の面から、0℃以上15℃以下の範囲に制御することがより好ましい。臭素添加の際の反応温度が25℃を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合があり、0℃未満であると、凍結する場合がある。
【実施例】
【0055】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[安定化次亜臭素酸組成物の調製]
窒素雰囲気下で、液体臭素:16.9重量%(wt%)、スルファミン酸:10.7重量%、水酸化ナトリウム:12.9重量%、水酸化カリウム:3.94重量%、水:残分を混合して、組成物を調製した。組成物のpHは14、有効ハロゲン濃度(有効塩素換算濃度)は7.5重量%であった。安定化次亜臭素酸組成物の詳細な調製方法は以下の通りである。
【0057】
反応容器内の酸素濃度が1%に維持されるように、窒素ガスの流量をマスフローコントローラでコントロールしながら連続注入で封入した2Lの4つ口フラスコに1436gの水、361gの水酸化ナトリウムを加え混合し、次いで300gのスルファミン酸を加え混合した後、反応液の温度が0〜15℃になるように冷却を維持しながら、473gの液体臭素を加え、さらに48%水酸化カリウム溶液230gを加え、組成物全体の量に対する重量比でスルファミン酸10.7%、臭素16.9%、臭素の当量に対するスルファミン酸の当量比が1.04である、目的の組成物を得た。生じた溶液のpHは、ガラス電極法にて測定したところ、14であった。生じた溶液の臭素含有率は、臭素をヨウ化カリウムによりヨウ素に転換後、チオ硫酸ナトリウムを用いて酸化還元滴定する方法により測定したところ16.9%であり、理論含有率(16.9%)の100.0%であった。また、臭素反応の際の反応容器内の酸素濃度は、株式会社ジコー製の「酸素モニタJKO−02 LJDII」を用いて測定した。なお、臭素酸濃度は5mg/kg未満であった。
【0058】
<実施例1、比較例1,2>
上記で調製した安定化次亜臭素酸組成物(実施例1)、次亜塩素酸(比較例1)、次亜臭素酸(臭化ナトリウムと次亜塩素酸の混合物)(比較例2)を改質剤としてそれぞれ用いて、ポリアミド系高分子逆浸透膜(日東電工(株)製「ES20」、φ75mmの平膜、NaCl阻止率=95%に低下させたもの)の改質を行った。改質は、この逆浸透膜を備える逆浸透膜装置に、操作圧0.75MPaで、上記改質剤を1ppm添加した水をpH=5、25±1℃で24時間通水して実施した。その後、操作圧0.75MPaで、500ppmの塩化ナトリウム(NaCl)と、1ppmの上記改質剤とを添加した水を、pH=7、25±1℃でCT(Concentration Time)値=1000[ppm・h]となるまで連続通水した。原水および透過水の導電率を測定し、下記のNaCl阻止率を算出した。CT値は下記の通り算出した。結果を表1に示す。なお、比較例2では、改質剤として、臭化ナトリウム:15重量%、12%次亜塩素酸ナトリウム水溶液:42.4重量%を水中に別々に添加した。
NaCl阻止率[%]=(100−[透過水導電率/給水導電率]×100)
CT値[ppm・h]=(遊離塩素濃度)×(接触時間)
【0059】
【表1】
【0060】
このように、実施例1の安定化次亜臭素酸組成物を改質剤として用いることにより、逆浸透膜の劣化を抑制しつつ、逆浸透膜の透過水質を改善することができた。比較例1の次亜塩素酸、比較例2の臭素を含む遊離塩素を用いた場合は、一時的な水質改善はできるが、長期的に通水すると、逆浸透膜が劣化し、NaCl阻止率が低下した。
【0061】
<実施例2>
上記で調製した安定化次亜臭素酸組成物を改質剤として用いて実施例1と同様の条件で改質および連続通水を行い、逆浸透膜への給水のpHの影響を調べた。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
このように、pH=3では、改質によりNaCl阻止率が向上したが、改質後CT値=1000[ppm・h]となるまで連続通水すると、NaCl阻止率がわずかに低下した。pH=8.0では、改質によるNaCl阻止率の向上は小さかったが、連続通水によるNaCl阻止率の低下は起こらなかった。pH4〜6.5の範囲では、改質によりNaCl阻止率が向上し、改質後CT値=1000[ppm・h]となるまで連続通水してもNaCl阻止率の低下は起こらなかった。これより、ポリアミド系の逆浸透膜への改質剤の接触が、pH3超、8未満の範囲で行われることが好ましく、pH4〜6.5の範囲で行われることがより好ましいことがわかった。
【0064】
<実施例3>
下記の条件でホウ素含有水の逆浸透膜処理を行った後、実施例1と同様の方法で逆浸透膜処理を行い、引き続きホウ素含有水の逆浸透膜処理を行った。結果を表3に示す。
【0065】
(実験条件)
上記で調製した安定化次亜臭素酸組成物を改質剤として用いて、ポリアミド系高分子逆浸透膜(日東電工(株)製「SWC5」8インチエレメント、ホウ素阻止率=78%に低下させたもの)の改質を行った。改質は、この逆浸透膜を備える逆浸透膜装置に、操作圧6.0MPaで、上記改質剤を4ppm添加した水をpH=6.5、24±1℃で300時間通水して実施した。その後、操作圧6.0MPaで、4ppmのホウ素と、4ppmの上記改質剤とを添加した水を、pH=7、24±1℃で通水した。原水、濃縮水および透過水のホウ素濃度を、ICP発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3100)によって、ICP発光分光分析法で測定し、下記のホウ素阻止率を算出した。結果を表3に示す。
ホウ素阻止率[%]=100−[透過水ホウ素濃度÷{(給水ホウ素濃度+濃縮水ホウ素濃度)÷2}×100]
【0066】
【表3】
【0067】
このように、安定化次亜臭素酸組成物を用いて逆浸透膜を改質したところ、ホウ素の阻止率が向上した。
【0068】
<実施例4>
上記で調製した安定化次亜臭素酸組成物を改質剤として用いて、ポリアミド系高分子逆浸透膜(日東電工(株)製「ES15」、NaCl阻止率=98.5%に低下させたもの)の改質を行った。超純水に上記改質剤を1ppm添加し、pHを7に調整した水に逆浸透膜を、25±1℃で72時間浸漬して実施した。その後、操作圧0.75MPaで、500ppmの塩化ナトリウム(NaCl)溶液を、pH=7、25±1℃で通水した。原水および透過水の導電率を測定し、下記のNaCl阻止率を算出した。結果を表4に示す。
NaCl阻止率[%]=(100−[透過水導電率/給水導電率]×100)
【0069】
【表4】
【0070】
このように、浸漬条件下においても、安定化次亜臭素酸組成物により、逆浸透膜の改質が起こることを確認した。