(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6507044
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】内燃機関用点火コイル
(51)【国際特許分類】
H01F 38/12 20060101AFI20190415BHJP
F02P 15/00 20060101ALI20190415BHJP
【FI】
H01F38/12 G
H01F38/12 J
F02P15/00 303A
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-123898(P2015-123898)
(22)【出願日】2015年6月19日
(65)【公開番号】特開2017-11064(P2017-11064A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109093
【氏名又は名称】ダイヤモンド電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山根 伸也
(72)【発明者】
【氏名】稲村 卓思
(72)【発明者】
【氏名】山田 修司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山村 慎太郎
【審査官】
竹下 翔平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−353049(JP,A)
【文献】
特開2007−214198(JP,A)
【文献】
特開2011−035019(JP,A)
【文献】
特開2015−065422(JP,A)
【文献】
特開2005−354033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 1/00−3/12
7/00−17/12
H01F 30/00−38/12
38/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の組付構造体と、前記第1の組付構造体に組付けられて内部空間を形成する第2の組付構造体と、前記内部空間に収容されるコイル部品と、前記内部空間に充填される充填樹脂と、を備え、
前記第1の組付構造体及び前記第2の組付構造体が互いに嵌り合う嵌合部は、前記充填樹脂の充填スペースが設けられ、
前記第2の組付構造体は、前記嵌合部を形成する端部近傍にフランジ部が設けられることを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項2】
前記フランジ部は、自身と前記第1の組付構造体との間に凸部が設けられ、当該凸部の周囲に隙間部が設けられることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項3】
前記隙間部には、前記充填樹脂が充填されることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関用点火コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用点火コイルに関し、特に、内燃機関用点火コイルの絶縁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等に用いられる内燃機関では、プラグホールの各々に点火コイルを配備させた直接点火方式が採用されている。かかる点火コイルは、入力電圧を昇圧させるトランス回路部と、この回路から点火プラグへ高電圧を中継する高圧タワー部とから成り、全体としてスティック状の形態を呈している。この高圧タワー部はプラグホールへ挿入され、点火コイル全体がエンジンに装着される。
【0003】
例えば、特許文献1に係る技術では、二次コイル周辺を被覆する高圧部含浸体(高圧側絶縁構造)と、当該高圧部含浸体の周囲を被覆する非高圧部含浸体(外周絶縁構造)と、によってトランス回路周囲の絶縁構造体が形成されている。かかる絶縁構造体は、先ず、二次コイルを収容させた第1のケース体を形成し、其の空間へエポキシ樹脂を含浸・熱硬化させることで、高圧部含浸体が形成される。その後、この高圧部含浸体の周囲に残りのトランス回路を装着し、これを囲うように第2のケース体を形成し、其の空間へエポキシ樹脂を含浸・熱硬化させることで非高圧部含浸体が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−207289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、二次コイルの収容空間を形成する際、第1のケース体が分割構造とされこれらが組立てられる。このため、分割部品を用いて第1のケース体を組立てるには、双方の部品の縁を嵌合させる必要がある。しかし、このように製造される場合、双方の部品(第1のケース体の部品)の嵌合箇所は、空気を残留させた空間が残り、此処がクラックの原因となる。特に、第1のケースにあっては、二次コイルを収容させる構造体であるので、樹脂クラックの原因を極力排除させねばならない。
【0006】
また、第1のケースの端縁にあっては、上記嵌合箇所へ空気が残留すると、此処に電解集中が生じ、電気的なリーク現象を招来してしまう。かかる点火コイルは、第1のケースの直近内周へ二次コイルが配置されるところ、リーク現象が生じると、十分な出力電圧を点火プラグへ与えることが困難となる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み、樹脂嵌合部における残留空気を排除させ、クラックの発生又はリーク電流の発生を防止させ得る内燃機関用点火コイルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では次のような内燃機関用点火コイルの構成とする。即ち、第1の組付構造体と、前記第1の組付構造体に組付けられて内部空間を形成する第2の組付構造体と、前記内部空間に収容されるコイル部品と、前記内部空間に充填される充填樹脂とを備え
、前記第1の組付構造体及び前記第2の組付構造体が互いに嵌り合う嵌合部は、前記充填樹脂の充填スペースが設けられ、
前記第2の組付構造体は、前記嵌合部を形成する端部近傍にフランジ部が設けられることとする。
【0010】
好ましくは、前記フランジ部は、自身と前記第1の組付構造体との間に凸部が設けられ、当該凸部の周囲に隙間部が設けられることとする。
【0011】
好ましくは、前記隙間部には、前記充填樹脂が充填されることとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る内燃機関用点火コイルによると、樹脂嵌合部の隙間に樹脂が充填されるので、樹脂嵌合部周辺の構造が均質化され、此処を原因として生じるクラックの発生が抑えられる。また、上記樹脂嵌合部では、残留空気が排除されるので、此処を流れるリーク電流の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態に係る内燃機関用点火コイルの構成を示す図。
【
図2】実施の形態に係る第1のケースの構成を示す図。
【
図3】実施の形態に係る第1のケースの嵌合部を示す図(其の1)。
【
図4】実施の形態に係る第1のケースの嵌合部を示す図(其の2)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施の形態につき図面を参照して具体的に説明する。
図1では、本実施の形態に係る内燃機関用点火コイルの構成が示されている。
図1(a)に示す如く、内燃機関用点火コイル100(以下、点火コイル100と呼ぶ)は、外部ケース110と高圧側ケース120とが組付けられて、コイル部品を収容する空間が形成される。本実施の形態では、其の組付け部が外縁部に設けられ、これが外側から観察できる部位に現れる。
【0015】
外部ケース110は、円筒状の側面部位111,側方部位の一端を閉ざす頂面部位112,金属ブッシュが内設されたフランジ部113,内部に端子群114aを配備させたコネクタ部114等が一体的に形成されている。外部ケース110の構造体は、PBT又はPPSといった熱可塑性樹脂が成形されたものであって、上述した形状的構成が適宜に形作られる。
【0016】
図1(b)に示す如く、点火コイル100の内部には、高圧側樹脂構造が配備されている。高圧側樹脂構造のケース構造体は、
図2に示す如く、内部ケース130(第1の組付け構造体)と高圧側ケース120(第2の組付け構造体)とが組付けられたものから成る。かかるケース構造体は、ケース開口部132に二次スプール103の端部が嵌着され、二次スプール103の外面とケース構造体の内面(即ち、内部ケース130の内面及び鍔部123の内面)との間に内部空間Dが略角筒状に形成される。即ち、コイル部品のうち二次コイルに関しては、「内部空間に収容されるコイル部品」に属すものである。
【0017】
かかるケース構造体は、内部空間Dの開口端が紙面左側に設けられており(
図1(b)参照)、此処からエポキシ樹脂(充填樹脂)が投入され熱硬化されることで、絶縁性の高圧側樹脂構造体が形成される。尚、二次スプール103は、二次コイル102が適宜に巻回されており、この二次巻線102がエポキシ樹脂によって絶縁状態を保ちつつ固化される。
【0018】
図1(b)に示す如く、高圧側ケース130の周囲には、一次コイル160,鉄芯180(I字鉄芯と外装鉄芯の組合体),といったコイル部品が配置される。また、鉄芯180の一端には、コネクタ端子114a及びコイル巻線等に接続されたイグナイタ130が配備される。そして、外部ケース110は、これら部品群を内部へ収容するように、高圧側ケース120に組付けられ、其の内部の隙間がエポキシ樹脂等にて硬化され其処での絶縁構造が形成される(樹脂充填は、開口Yを介して行われる)。
【0019】
高圧側ケース120は、プラグブーツに嵌着される筒状体121と、筒状体121の外周面から径方向に広がる円錐状の鍔部123と、その端部に平坦な形状を呈した部品搭載部位124,126とが一体的に形成される。このケース構造は、上述した外部ケース110と同様の機能を奏するものであれば、その材質を特段問うものでは無い。
【0020】
高圧側ケース120は、図示の如く、二次コイル122の出力端へ電気的に接続された中継ターミナル141と、これに電気的に接続された高圧端子142が配備されている。また、当該高圧端子142は、その一端が筒状体121の連通孔へ臨むように配置され、中継導体(図示なし)を介して点火プラグへ電気的に接続される。
【0021】
かかる構成とされた点火コイル100は、コネクタ端子114aに駆動信号が入力されると、イグナイタ130に内蔵されたパワートランジスタが駆動して、一次コイルの通電/遮断状態が燃焼タイミングに応じて制御される。そして、一次電流の遮断動作時には、鉄芯の磁束が急激に変化して、二次コイル122にて励起電圧が生成される。従って、エンジン内の点火プラグでは、プラグギャップに励起電圧が印加され、スパークを発生させることとなる。
【0022】
以下、
図2〜
図4を参照し、高圧側のケース構造について詳述する。
図2(a)に示す如く、内部ケース130は、絶縁材にて成形された略殻状体131から成る。この殻状体には、底面及びケース開口部132の対面の各々に大きな開口が形成され、これらが隣接する部位で連通した状態とされる。殻状体131には、先に説明したように、略四角のケース開口部132が形成されている。また、内部ケース130の底面では、殻状体131の縁を辿るようにフランジ133と突状壁134とが一体形成されている。突状壁134は、所定溝に対し適宜の深さまで差込むことが可能なように、その高さ寸法が設定されている。一方、フランジ133は、突状壁134が所定溝へ嵌り過ぎないように、差込方向への動作を阻止する形状(例えば、略直角方向となる形状)に加工されている。
【0023】
高圧側ケース120は、先に説明したように、筒状体121,鍔部123,平坦部位124及び126が一体形成され、当該平坦部位124の中心箇所に大きな凹状体122が形成される。この凹状体122は、其の周囲に廻堀127が設けられ、二次コイルの一部が収容されると同時に、突状壁134と廻堀127とが周に沿って嵌合する。即ち、突状壁134及び廻堀127が互いに嵌合している箇所A(以下、嵌合部Aと呼ぶ)は、特許請求の範囲における嵌合部の一形態を指すものであって、嵌合部なる用語の意義をこれに限定するものではない。
【0024】
図3は、上述した嵌合部のバリエーションを説明するものであって、図の上段には嵌合部をプラグホールの軸線方向に向かって観察した状態が示され、図の下段には此処に示されるA−A断面を矢線方向に向かって観察した状態が示されている。高圧側ケース120の廻溝127の近傍には、
図3(a)に示す如く、内部空間Dに内部堤壁124aが設けられ、これに対向する空間(外部空間)に外部堤壁124bが設けられ、これにより、廻溝127の輪郭が形成される。また、本実施の形態では、外部堤壁124bの内側には、フランジ部133との当接面が設けられ、これにより、突状壁134の挿入深さが制限されて廻溝127に樹脂の充填スペースXが形成される。
【0025】
尚、本実施の形態では、内部ケースの端部近傍に設けられたフランジ部133を当接させて充填スペースXを形成させているが、これに限らず、嵌合部Aの接触摩擦や組付治具等を用いても、同様の充填スペースXを形成することが可能である。尚、このフランジ部133は、充填スペースXを容易に形成できるよう、内部ケース130の端部近傍に設けられている。充填スペースXには、図示されない連通経路が形成されており、内部空間Dに液状のエポキシ樹脂が投入されると、其の連通経路を介して充填スペースXにもエポキシ樹脂が満たされる。その後、かかる構造体が熱硬化工程へ供されると、充填スペースXは、隙間なくエポキシ樹脂が満たされた状態で硬化されることとなる。
【0026】
上述の如く、本実施の形態に係る点火コイル100によると、樹脂嵌合部の隙間Xにエポキシ樹脂が充填されるので、樹脂嵌合部周辺の構造が空気層を伴わない状態に均質化される。このため、嵌合部Aでは、応力集中を起こす原因が排され、此処を原因として生じるクラックの発生が抑えられる。また、上記樹脂嵌合部では、残留空気が排除されるので、此処を流れるリーク電流の発生を防止できる。
【0027】
図3(b)には、上述した樹脂連通経路の一例が示されている。同図によれば、内部堤壁124aには、内部ケース130の内壁と接する部位に、適宜のスリット124cが形成されている。従って、ケース内の内部空間Dは、スリット124cを介して充填スペースXに連通されることとなる。このため、スリット124cは、液状のエポキシ樹脂に対して摩擦抵抗を大きくさせないよう、適宜の工夫が施される。例えば、スリット124cの向きについては、流下する勾配を十分確保できるよう、廻溝への差込方向へ一致させると良い。また、そのスリット124cの幅・径・施工箇所についても、摩擦抵抗を緩和できるよう、十分大きな寸法を取り且つ適宜の個数を設けておくと良い。また、
図3(c)に示す如く、内部堤壁124aの頂部に堰124dを設けて、充填スペースXへの樹脂流量を制限させても良い。これによれば、充填スペースXの液面上昇速度が低下するので、かかる構造は、此処に於ける残存気泡が残り難くなり、より一層、クラックの発生を抑制できる。
【0028】
また、
図4に記載の実施例では、フランジ部133の当接面に適宜の凸部135が形成されている。かかる凸部135は、フランジ部133の当接面近傍に形成される空間に収容され得るよう、幅寸法及び高さ寸法が十分小さなものとされている。従って、高圧側ケース120と内部ケース130とが組合わさると、その嵌合部近傍では、フランジ部133の当接方向に凸部135が配置され、其の周囲に隙間が形成される。そして、此処にエポキシ樹脂等が充填されることで、嵌合部近傍の結合力が更に高められる。尚、かかる凸部135は、
図2(a)に示す如く、所定ピッチにて複数個所設けると更に良い。
【0029】
図4の図面上には描かれていないが、凸部135が収容された第2スペースZ(隙間部)にも、適宜の連通路が設けられることで、此処へ充填樹脂が導引される。この連通路は、例えば、充填スペースXに連通する溝であってもよいし、追ってエポキシ樹脂が充填される外部空間側に連通するものであっても良い。
【符号の説明】
【0030】
100 内燃機関用点火コイル, 110 外部ケース, 120 高圧側ケース(第2の組付構造体), 130 内部ケース(第1の組付構造体), 170 内部空間に収容されるコイル部品, A 嵌合部, D 内部空間, X 充填スペース。