特許第6507060号(P6507060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6507060
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】液面高さ調節装置
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/06 20060101AFI20190415BHJP
【FI】
   C25C7/06 301A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-151077(P2015-151077)
(22)【出願日】2015年7月30日
(65)【公開番号】特開2017-31455(P2017-31455A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮嗣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 司
(72)【発明者】
【氏名】松村 赳寛
(72)【発明者】
【氏名】中村 公司
(72)【発明者】
【氏名】恵茂田 大樹
【審査官】 北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭51−034515(JP,U)
【文献】 実開昭54−048004(JP,U)
【文献】 特開昭54−046104(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3016058(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0051996(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00−7/08
C25D 1/00−3/66
C25D 5/00−7/12
C25D 9/00−9/12
C25D 13/00−21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液の排出を行うための開口部を有する電解槽に設置される液面高さ調節装置であって、
前記開口部と前記開口部周辺の前記電解槽の側壁とを覆うように設置され、前記開口部から排出された電解液が流入する排出口と、
前記開口部の少なくとも一部を覆うことにより前記排出口内に流入する電解液の量を調節する板状の調節部材と、
前記調節部材を所定の位置で支持する支持部材と、を有し、
前記支持部材は、前記排出口の内部であって、かつ前記電解槽の側壁の外側に配置され、
前記支持部材の上部端面が、前記排出口側が前記電解槽側よりも高くなるように斜めに切断されていることを特徴とする液面高さ調節装置。
【請求項2】
前記支持部材が一対の柱状部材として構成されており、各柱状部材には、前記調節部材の端部を挿入するための溝が形成されており、前記溝が対向するように前記柱状部材が配置されることを特徴とする請求項1に記載の液面高さ調節装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液面高さ調節装置に関する。詳しくは、電解槽に貯留された電解液の液面高さを簡便に調節できる液面高さ調節装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱石から還元された金属の純度(品位)を高める操作として、電気化学反応を利用する電解精錬が用いられている。
【0003】
電解精錬では、電解液を貯留する電解槽に、アノードおよびカソードを装入し、これらを電解液を介して導通させ所定の条件で電流を印加することにより、アノードから溶解した金属イオンのうち、所望の金属イオンをカソードに析出させてより純度の高い金属を得る。たとえば、銅の電解精錬では、純度が99.5%程度の粗銅をアノードとし、純銅(99.99%)をカソードとして、電解液としての硫酸銅溶液にこれらを浸漬して電流を印加することにより、アノードが溶出した銅イオンがカソードに析出して純銅が得られる。
【0004】
このような電解精錬では、電解処理後に使用済み電解液を排出する、あるいは、均一な電解精錬を行うために、電解液の液面高さを変化させる必要がある。そこで、電解槽には電解液の液面を調節するための装置が設置されている。
【0005】
たとえば、特許文献1には、銀電解用の液面自動制御装置が開示されている。この液面自動制御装置は、高さの異なる2つの排液口を電解槽に設置し、低地側の排液口に通じる弁を自動で開閉することにより液面を自動的に調節する機構を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−144476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電解液の液面を調節するにあたり、液面の高さを常時変更する必要がなければ、特許文献1に開示されている装置は複雑であり、コスト、メンテナンス等に問題が生じることがある。そこで、液面の高さを常時変更する必要がない場合において、液面高さ調節装置を複雑化せずに、液面高さを任意の高さに保つには、たとえば、図2Aおよび図2Bに示す液面高さ調節装置100を用いることができる。
【0008】
図2Aおよび図2Bに示す液面高さ調節装置100では、電解液60を排出するための開口部51の周辺において、電解槽50の内部に、凹型に板3を設置して、当該板3と電解槽50の側壁との間に隙間が形成されるようにしている。そして、この隙間に、排出口1に流入する電解液60の量を調節するための板2を挿入して、電解液60の液面高さを調節している。液面の高さは、電解液の量を調節する板2の高さを変更する、あるいは、当該板2を所定の枚数用いることにより任意の値とすることができる。
【0009】
ところが、電解槽には、電解処理時にアノード、カソード、あるいはこれらを収納するバスケット等が装入および引揚される。そのため、電解槽の側壁との間に隙間を形成するために、電解槽の内側に板状の部材を設置すると、装入および引揚の際に、アノード、カソード、バスケット等が、電解槽の内部に設置された板状の部材に接触することがある。
【0010】
このような接触の衝撃が大きいと、板状の部材が破損することがあり、液面高さ調節装置に異常をきたし、電解液の液面高さの適切な管理ができなくなるという問題があった。
【0011】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされ、簡便な装置でありながら、液面の高さを任意の高さで保持でき、しかも、電解槽内部に装入あるいは引揚される装置との接触を防止できる液面高さ調節装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の第1の態様は、
電解液の排出を行うための開口部を有する電解槽に設置される液面高さ調節装置であって、
前記開口部と前記開口部周辺の前記電解槽の側壁とを覆うように設置され、前記開口部から排出された電解液が流入する排出口と、
前記開口部の少なくとも一部を覆うことにより前記排出口内に流入する電解液の量を調節する板状の調節部材と、
前記調節部材を所定の位置で支持する支持部材と、を有し、
前記支持部材は、前記排出口の内部であって、かつ前記電解槽の側壁の外側に配置され、
前記支持部材の上部端面が、前記排出口側が前記電解槽側よりも高くなるように斜めに切断されていることを特徴とする液面高さ調節装置である。
【0013】
上記の第1の態様において、前記支持部材が一対の柱状部材として構成されており、各柱状部材には、前記調節部材の端部を挿入するための溝が形成されており、前記溝が対向するように前記柱状部材が配置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡便な装置でありながら、液面の高さを任意の高さで保持でき、しかも、電解槽内部に装入あるいは引揚される装置との接触を防止できる液面高さ調節装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A図1Aは、本発明の一実施形態に係る液面高さ調節装置を、電解槽に貯留された電解液側から見た概略正面図である。
図1B図1Bは、本発明の一実施形態に係る液面高さ調節装置を、図1AのIB側から見た概略平面図である。
図1C図1Cは、本発明の一実施形態に係る液面高さ調節装置において、溝が形成された柱状部材の上部端面が斜めに切断されていることを示す断面図である。
図2A図2Aは、従来技術に係る液面高さ調節装置を、電解槽に貯留された電解液側から見た概略正面図である。
図2B図2Bは、従来技術に係る液面高さ調節装置を、図2AのIIB側から見た概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.液面高さ調節装置の構成等
2.液面高さ調節装置の使用方法
3.本実施形態の効果
4.変形例
【0018】
(1.液面高さ調節装置の構成等)
本実施形態に係る液面高さ調節装置10は、図1A図1Cに示すように、電解槽50に貯留された電解液60を外部に排出するための排出口1と、電解液60の液面高さを調節するための板状の調節部材2と、調節部材2を支持する支持部材としての一対の柱状部材3と、を有している。この液面高さ調節装置10は、電解槽50の開口部51とその周辺部とを覆うように設置されており、開口部51から当該装置の排出口1に流入する電解液60の量を調節部材2が調節することにより、電解槽50内部の電解液60の液面高さを任意の高さに設定することができる。以下、各構成要素について説明する。
【0019】
(排出口)
排出口1は、開口部51およびその周辺部を覆うように設けられており、本実施形態では、略直方体形状を有する箱状の筐体からなる。後述する調節部材2の着脱を容易とするために、排出口1の上部は、蓋が設置されていてもよいし、図1A図1Cに示すように、開放されていてもよい。排出口1は、電解槽50の側壁に対して一辺が略垂直に接合された底面部1aと、当該底面部1aの残りの三辺から立ち上がった側板部1bと、から構成されている。そして、電解槽50の開口部51から排出された電解液60を排出口1の内部に一旦貯留し、底面部1aに形成されている排液パイプ4を通じて、電解液60を外部に排出する。
【0020】
(調節部材)
調節部材2は、本実施形態では、板状の部材として構成されている。図1A図1Cに示すように、この調節部材は、柱状部材3の溝3aに対して、挿入されることにより、開口部51を覆うことができ、電解液60が開口部51からオーバーフローする量を調節することができる。したがって、調節部材2の高さを所定の値とすることにより、電解液60の液面の高さを任意の高さに保持することができる。また、所定の高さの調節部材2を複数枚用いても、電解液60の液面の高さを任意の高さに保持することができる。
【0021】
調節部材2の材質は、電解液60に対して耐性を有し、かつ電解液60から受ける圧力に耐えられる材質であれば特に制限されない。本実施形態では、調節部材2はポリ塩化ビニルから構成される。
【0022】
(支持部材)
支持部材は、排出口1の内部に設けられており、本実施形態では、支持部材としての一対の柱状部材3が電解槽50の側壁部と、排出口1の底面部1aと、に固定されている。一対の柱状部材3には、図1Bに示すように、長手方向(鉛直方向)に沿って溝3aが形成されており、この溝同士が対向するように一対の柱状部材3が配置されている。溝3aの幅(図1Bのw1)は、調節部材2の厚みtよりも若干大きく形成されている。また、一方の柱状部材3に形成された溝3aの底部と、他方の柱状部材3に形成された溝3aの底部と、の間隔(図1Bのw2)は、調節部材2を両方の溝3aに挿入した際に、調節部材2が溝3aから逸脱しないように、調節部材2の幅wよりも若干広くなっている。したがって、調節部材2を、柱状部材3の溝3aの両方に挿入することにより、調節部材2が柱状部材3および排出口1の底面部1aに接して、開口部51の全部あるいは一部を覆うことができ、調節部材2の上部からオーバーフローして排出され排出口1に流入する電解液60の量を調節することができる。
【0023】
この一対の柱状部材3は、排出口1の内部に設置されている。すなわち、一対の柱状部材3は、図2Bに示すような電解槽50の内部側(電解液側)ではなく、電解槽50の外部側に設けられている。したがって、電解槽50内部にアノード、カソード、バスケット等が装入および引揚された場合であっても、これらは柱状部材3に接触しないため、液面高さ調節装置10の破損を防止することができる。
【0024】
また、本実施形態では、図1Cに示すように、一対の柱状部材3は、排出口1側の辺が電解槽50側の辺よりも高くなるように、上部が斜めに切断された端面を有している。このようにすることにより、調節部材2を、柱状部材3の溝3aに容易に挿入することができる。
【0025】
(電解槽)
本実施形態では、電解槽50は、電気化学反応による金属の析出を生じさせる電解液60を貯留している。電解液60は、精錬を行う金属の種類に応じて決定すればよい。たとえば、銅の電解精錬を行う場合には、硫酸銅溶液が例示される。
【0026】
(2.液面高さ調節装置の使用方法)
本実施形態に係る液面高さ調節装置10を使用する方法について、詳細に説明する。
【0027】
上述したように、電解槽50の外側の側壁には、開口部51を覆うように液面高さ調節装置10の排出口1が設置されており、排出口1の内部に一対の柱状部材3が設けられている。この柱状部材3には溝3a(スリット)が形成されており、この溝3aの底部と底部との間隔w2が、調節部材2の幅wよりも若干大きい程度の間隔となるように柱状部材3が配置されている。したがって、調節部材2を溝3aに挿入することにより、調節部材2の両端の動きが、溝3aにより規制されるため、調節部材2が溝3aから逸脱せず、かつ当該部材2と、柱状部材3および排出口1の底面部1aと、の隙間をなくすことができる。したがって、電解液60は、調節部材2の上部からオーバーフローした量しか排出されない。その結果、電解液60の液面高さを所定の位置とすることができる。
【0028】
柱状部材3は、排出口1の内側に設置されているため、電解槽50内部にバスケットが装入・引揚されても、柱状部材3に接触する可能性はない。したがって、柱状部材の破損、ひいては液面高さ調節装置10の破損を効果的に防止することができる。
【0029】
電解液60の液面高さを変更する場合には、所望の液面高さに対応する高さを有する調節部材2を、溝に挿入すればよい。また、複数枚の調節部材2を用いて所望の液面高さを実現してもよい。
【0030】
(3.本実施形態の効果)
上記の実施形態では、電解液の液面高さを調節するための調節部材を挿入するための隙間は、排出口の内側に設置された柱状部材により形成されている。すなわち、調節部材を含め、液面高さを調節するために必要な部材は全て、排出口の内側、すなわち、電解槽の外側に存在している。
【0031】
したがって、電解槽の内部に、アノード、カソード、バスケット等が装入あるいは引揚された場合であっても、隙間を形成するための部材と接触することはない。よって、これらの部材が接触により破損することはないので、液面高さ調節装置を長期間安定して稼働させることができる。
【0032】
しかも、この液面高さ調節装置は、上述したように、簡便な構成を有しているため、コスト、メンテナンスの手間等を削減することができる。さらに、調節部材の高さを適宜設定する、あるいは、所定の高さを有する調節部材を複数枚用いることにより、電解液の液面高さを任意の高さに設定することができる。
【0033】
また、一対の柱状部材は、その上部端面が、排出口側が電解槽側よりも高くなるように斜めに切断されている。このようにすることにより、液面高さ調節部材を、一対の柱状部材に形成された溝に容易に挿入することができる。
【0034】
(4.変形例)
上記の実施形態では、液面高さ調節部材を支持する部材として、一対の柱状部材を用いているが、液面高さ調節部材および当該液面高さ調節部材を挿入する隙間を形成するための部材が、電解槽の側壁の外側に設置されている構成であれば特に制限されない。
【0035】
たとえば、一対の柱状部材ではなく、板状部材を断面形状がL字形となるように組み合わされた部材を一対作製し、当該部材の長手方向の一方の辺を電解槽の側壁に固定することにより、液面高さ調節部材を挿入するための隙間を形成してもよい。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【符号の説明】
【0037】
10…液面高さ調節装置
1…排出口
2…調節部材
3…柱状部材
3a…溝
50…電解槽
51…開口部
60…電解液
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B