(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の好ましい幾つかの実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態において、共通する構成には共通する符号を付し、共通する部分の説明は重複を避けるために極力省略する。
【0036】
図1は、本発明の第1実施形態における自己修復型配線1の基本構造を示している。自己修復型配線1は、シート状の柔軟基板2上に金属配線3を配置し、その金属配線3を覆うように、金属ナノ粒子4を含む液体5を配置した構造を基本とする。またここでは、柔軟基板2の上面に凹状の液体封止部11を形成した容器12が接合され、液体封止部11に収容された液体5が柔軟基板2と容器12との間に封止される。金属配線3の両端には、自己修復型配線1の外部に設けた電源15から金属配線3に電圧を印加するための端子部8が設けられる。
【0037】
自己修復型配線1の外郭部材となる柔軟基板2と容器12は、可撓性と伸縮性を有する絶縁材料で構成される。これに対して金属配線3は、自己修復型配線1の外郭部材よりも可撓性や伸縮性に乏しい導電性材料で構成され、自己修復型配線1を無理に曲げたり伸縮させたりすると破断して、
図1に示すようなクラック7が部分的に形成される。
【0038】
本実施形態では、金属配線3に生じたクラック7の修復部として、液体5と固体である金属配線3とのハイブリット構造を採用した点が注目される。このようなハイブリッド構造は、後述する各実施形態にも総て共通するものである。特に本実施形態におけるクラック7の修復部は、金属ナノ粒子4を分散させた液体5で金属配線3を覆うと共に、金属配線3への電圧印加を可能にして、クラック7にのみ電界を生じさせるような端子部8を、その金属配線3に設けている。
【0039】
図2は、上記自己修復型配線1において、金属ナノ粒子4の電界トラップによる修復の様子を模式的に示したものである。
【0040】
本実施形態では、金属ナノ粒子4の電界トラップ現象を利用することで、伸縮可能な柔軟基板2上の金属配線3に自己修復機能を持たせている。電界トラップ現象は、電界が不一様な領域で生じるため、クラック7が生じた部分のみを選択的に修復できる。トラップされた金属ナノ粒子4がクラック7を架橋することによって金属配線3が修復され、再び高い導電性の金属配線3となる。
【0041】
ここで、クラック7が生じた金属配線3に電圧を印加した際に、金属ナノ粒子4に働く力を考えると、その合力F
Totalは、次の数1で表せる。
【0043】
上記数1で、F
VDWはファンデルワールス力、F
ESは静電反発力、F
EPは電気泳動力、F
DEPは誘電泳動力である。この中で、ファンデルワールス力F
VDWと静電反発力F
ESは、粒子(金属ナノ粒子4)や溶媒(液体5)によって決まり、電源15の印加電圧に依存しない力である。また、電源15の印加電圧が直流もしくは低周波数のときには、電気泳動力F
EPと誘電泳動力F
DEPの両方が作用するが、高周波数のときには、誘電泳動力F
DEPのみが作用する。この誘電泳動力F
DEPは、金属ナノ粒子4に対して電界トラップ現象を生じさせる力であり、高周波数の交流電圧を金属配線3に印加することで、電界トラップ現象による金属配線3の修復が可能になる。
【0044】
誘電泳動力F
DEPの時間平均〈F
DEP〉は、次の数2で表せる。
【0046】
ここで、ε
1は溶液の誘電率、Rは粒子の半径、ωは印加電圧の角周波数、E
rmsは電界強度の実効値である。また、Re[K_(ω)](以下、数式以外では、記号の下に記されたアンダーライン「_」を、対応する記号の後に併記する)は、Clausius-Mosotti factor と呼ばれる粒子の分極度合を表す値であり、誘電泳動力F
DEPの向きは、Re[K_(ω)](K_(ω)の実部)の符号によって決まる。K_(ω)は、次の数3で表せる。
【0048】
ここで、ε
2は粒子の誘電率,σ
1は溶液の電気伝導率,σ
2は粒子の電気伝導率であり、jは虚数単位である。一例として、金属ナノ粒子4としての金ナノ粒子が水に分散している場合、10
16Hz以下の交流電圧では、Re[K_(ω)]>0となり、誘電泳動力F
DEPによって金ナノ粒子がクラック7へ引き寄せられる。したがって、金ナノ粒子を分散させた水を溶液5として用いる場合、金ナノ粒子による電界トラップを生じさせるには、金属配線3に印加する交流電圧の周波数を、10
16Hz以下とするのが好ましい。
【0049】
図3Aは、点Oから離れた金属ナノ粒子4が電界から受ける誘電泳動力F
DEPを模式的に示しており、
図3Bは、クラック7内の点Oから金属ナノ粒子4に至る距離と、誘電泳動力F
DEPとの関係を理論的に示している。
【0050】
上記数2や数3で示したように、誘電泳動力F
DEPは、金属ナノ粒子4の粒径や、電界の強度分布や、金属ナノ粒子4の誘電率及び電気伝導率や、液体5の誘電率及び電気伝導率から計算でき、材料のパラメータを代入し、寸法及び電界のパラメータを変更して理論的解析を行なうことで、
図3Bに示すグラフが得られる。ここでは、金属ナノ粒子4の入手容易性や、金属配線3の作成可能性などを加味して、各部の材料や寸法を決定した。具体的には、金属ナノ粒子4を含む液体5として、Sigma-Aldrich社製の平均直径40nmの金ナノ粒子を分散した水溶液を用いると共に、金属配線3として厚さ100nmの金配線を用いることとした。また、金配線への印加電圧として、100kHzの交流電圧を用いることとした。
【0051】
図4Aは、点Aに位置する金属ナノ粒子4が電界から受ける誘電泳動力F
DEPを模式的に示しており、
図4Bは、金属配線3への印加電圧に対する誘電泳動力F
DEPの計算結果を示している。
【0052】
この計算でも、金属ナノ粒子4を含む液体5として、半径R=20nmの金ナノ粒子を分散した水溶液を用い、電源15からの100kHzの交流電圧V(t)=V
ampsinωtを用いた。また、金配線の厚さh=100nm、クラック7の幅d=200nmとして、数式2により誘電泳動力F
DEPを計算した。
図4Bは、
図4Aの点Aにおいて、金配線への印加電圧の振幅V
ampを0Vから3Vに変化させたときの誘電泳動力F
DEPの時間平均〈F
DEP〉の大きさを示している。ファンデルワールス力F
VDWに静電反発力F
ESを加えた力(F
VDW+F
ES)の大きさは、10
−12N程度であるため、これよりも誘電泳動力F
DEPの時間平均〈F
DEP〉が大きくなる電圧振幅V
amp=1.70V程度以上で、金ナノ粒子の電界トラップが起きると予測できる。
【0053】
次に、本実施形態の実験例について、
図5〜
図15を参照しながら説明する。ここでは、金ナノ粒子の電界トラップによって金配線が修復できることの検証を行なった。
【0054】
最初に、
図1で示した柔軟基板2を基材とした自己修復型配線1ではなく、ガラス基板102を基材とした実験用配線101を用い、このガラス基板102上で人工的に作製したクラック7の修復実験を行った。
図5は、ガラス基板102上に形成した金属配線3としての金配線に、幅200nmのクラック7を作成した実験用配線101を示している。実験では、金ナノ粒子の電界トラップによって理論の予測通りに配線が修復されること、及びどの程度の幅までクラック7の修復が可能かを確認した。
【0055】
実験では、ガラス基板102上に、幅10μm、厚さ100nm、長さ1mmの金配線をフォトリソグラフィにより作成し、その後でFocused Ion Beam(FIB:集束イオンビーム)加工によって、200nmから1600nmの幅で、金属配線3を横断する断線領域としてのクラック7を人工的に作製した。金ナノ粒子を分散した水溶液として、粒子濃度7.15×10
10個/ml、半径20nmのSigma-Aldrich社製741981を用いた。そして、電源15となるLCRメータによって100KHZの交流電圧を印加し、同時にインピーダンス(交流抵抗値)|Z|を四端子法で計測した。
【0056】
図6は、幅200nmのクラック7において、電圧振幅V
ampを0.50Vから3.00Vへ増加させたときに、金属配線3のインピーダンス|Z|がどのように変化するのかを測定したものである。
図6において、電圧振幅V
ampが1.65Vのときインピーダンス|Z|が、10
4Ωオーダから10
1Ωオーダまで大きく減少し、その後は金属配線3への印加電圧を上げても、インピーダンス|Z|が変化しない状態となっている。これは、電界トラップによって凝集した金ナノ粒子がクラック7を架橋し、金属配線3が修復したと考えられる。そのため、この電圧を「修復電圧V
heal」と呼ぶ。修復後の金属配線3のインピーダンスは、クラック7が入っていない金属配線3と同じオーダであり、非常に高い自己修復機能を有していると言える。また、
図7に示すように、実験後の金属配線をScanning Electron Microscope(SEM:走査型電子顕微鏡)で観察したところ、金ナノ粒子がクラック7を架橋していることが確認できた。
【0057】
図8は、
図6と同様の実験を異なる幅のクラック7で行なったときの修復電圧V
healを示している。ここでは、200nmから1600nmの幅を有するクラック7に対して5回ずつ実験を行った。図中、分数は試行回数に対する修復した回数を表している。
【0058】
図9は、クラック7の幅が200nm,600nm,1000nmの場合に、実験後の金属配線3をそれぞれ撮影したものである。同様に
図10は、クラック7の幅が400nmの場合に、実験後の金属配線3を撮影したものである。
【0059】
実験の結果、例えばクラック7の幅が200nmのときには、5回中4回修復に成功し、成功した場合の修復電圧V
healの平均は1.7Vであった。こうして、クラック7の幅が1000nm以下の場合は、5回中4回以上が修復に成功し、クラック7の幅が1200nm以下の場合でも、5回中3回以上が修復に成功した。また、クラック7の幅が拡がると共に修復電圧V
healが増加する傾向がみられ、クラック7の幅が200nmから1200nmの間は、修復電圧V
healの平均値が1.70Vから2.50Vまで変化した。その理由は、上記数2から分かるように、クラック7の幅が大きくなることにより、電界強度の実効値E
rmsが小さくなり、電界トラップに必要な電圧が大きくなったためである。
【0060】
一方、クラック7の幅が1400nmに拡がると、5回中1回しか修復せず、1600nmでは修復しなかった。修復しなかった金属配線3では、印加する交流電圧の振幅V
ampが3.00V前後になると、クラック7の周辺で気泡が生じ、さらに電圧を上げると金属配線3が融解した。印加電圧の振幅V
ampが3.0V以上を超えると、溶液および金属配線3の電気分解、もしくはジュール熱による溶液の沸騰および金属配線3の融解が始まると考えられるため、実験では3.0Vまでで修復するかどうかを調べた。
【0061】
修復電圧V
healの最大値と最小値の差は、最大で1.10V程度であった。これは、修復電圧V
healは電界トラップが始まる電圧ではなく、金ナノ粒子が凝集し、クラック7を架橋したときの電圧であることが原因であると考えられる。
図6での計測は、各点数十秒ほど待ってから電圧振幅V
ampを変化させているが、誘電泳動力F
DEPの有効な領域に含まれる金ナノ粒子の数は確立的であり、凝集する金ナノ粒子の数は毎回変化する。そのため、修復電圧V
healが変動すると考えられる。実際、
図8のエラーバーが示すように、同じ幅を有するクラック7でも修復電圧V
healのばらつきは大きく、クラック7の幅が小さければ必ず修復される訳でもないため、修復過程に確率的な過程が入っていると考えられる。しかし、幅が1000nm以下のクラック7であれば、3.0V以下の電圧印加によりほぼ修復が可能であるという結論が得られた。
【0062】
続いて、ガラス基板102に代わって伸縮可能な柔軟基板2上での実験を行った。この実験では、柔軟基板2としてpoly(dimethylsiloxane)(PDMS)を用いた。PDMS基板上に幅10μm、厚さ100nmの金配線を作製し、FIB加工によって幅270nmのクラック7を作製した。ガラス基板102上と同じ条件で修復した結果、修復電圧V
healは1.60Vであった。
図11には、電圧振幅V
ampを0.50Vから3.00Vへ増加させたときに、金属配線3のインピーダンス|Z|がどのように変化するのかを測定した結果を示している。
【0063】
ガラス基板102がPDMS基板になることで、ファンデルワールス力F
VDWと静電反発力F
ESの大きさや、クラック7の断面形状が変化する可能性が考えられる。しかし、実験での修復電圧V
healは、ガラス基板102と同等の値であった。これは、金配線の厚さが100nmであり、PDMS基板から受けるファンデルワールス力F
VDWと静電反発力F
ESの影響が小さいことなどが理由であると考えられる。
図12は、クラック7の幅が270nmである場合の、金属配線3を修復した後のクラック7の顕微鏡写真とSEM写真であり、ガラス基板101上の実験と同様に金ナノ粒子がクラック7を架橋していた。つまり、PDMSを用いた柔軟基板2上でも、金ナノ粒子の電界トラップ現象によって、金配線を自己修復できることが判明した。
【0064】
このように、ガラス基板102上に幅10μm、厚さ100nm、長さ1mmの金配線を製作し、その金配線に200nmから1600nmの幅のクラック7を生じさせた実験用配線101に、粒子濃度7.15×10
10個/ml、半径20nmの金ナノ粒子を分散した水溶液を用いて、金配線の修復実験を行った。その結果、クラック7の幅が200nmから1200nmの金配線は、100kHzの周波数で、振幅V
ampが1.70Vから2.50Vの範囲の交流電圧を電源15から金配線に印加すれば、金ナノ粒子に電界トラップ現象が生じて、金ナノ粒子がクラック7を架橋し、金配線を修復できることが判明した。また、修復された金配線のインピーダンス|Z|は、クラック7が生じる前と同じ10
1Ωオーダにまで減少し、高い電気伝導性を維持できることが判明した。
【0065】
さらに別な実験で、PDMS基板上に幅10μm、厚さ100nmの金配線を作製し、その金配線に270nmの幅のクラック7を生じさせたものでは、1.60Vの修復電圧V
healで金ナノ粒子に電界トラップ現象が生じて、金ナノ粒子がクラック7を架橋し、金配線を修復できた。これは、ガラス基板101上の実験結果と同等であった。
【0066】
次に、金ナノ粒子の粒径依存性について、
図5と同様にガラス基板102を基材とした実験用配線101を用い、このガラス基板102上で人工的に作製したクラック7の修復実験を行った。金属ナノ粒子に働く力は、前述したように数1で示した合力F
Totalで表される。数1の右辺に示す各力は、金属ナノ粒子の粒径の影響を受け、ファンデルワールス力F
VDWと静電反発力F
ESとの和であるF
VDW+F
ESはrに比例し、誘電泳動力F
DEPはr
3に比例する(rは金属ナノ粒子の粒子半径)。そのため、金ナノ粒子の粒径の違いによって、クラック7の修復の効果が異なることが予想される。
【0067】
実験では、ガラス基板102上に、幅10μm、厚さ500nm、長さ1mmの金配線をフォトリソグラフィにより作成し、その後でFocused Ion Beam(FIB:集束イオンビーム)加工によって、金属配線3を横断する断線領域としてのクラック7を人工的に作製した。また金ナノ粒子として、半径20nmと半径200nmの2種類を用いて実験を行なった。クラック幅に関しては、粒子半径20nmを用いる場合は幅250nmから1250nmとし、粒子半径200nmを用いる場合は幅500nmから3500nmとした。金ナノ粒子を分散した水溶液として、粒子半径以外の条件をできるだけ揃えるために、粒子濃度7.2×10
10個/ml、半径20nmのSigma-Aldrich社製741981と、粒子濃度1.9×10
8個/ml、半径200nmのSigma-Aldrich社製742090を用いた。そして、電源15となるLCRメータによって100KHZの交流電圧を印加し、同時にインピーダンス(交流抵抗値)|Z|を四端子法で計測した。
【0068】
図13は、幅500nmのクラック7において、電圧振幅V
ampを0.1Vから2.5Vへ増加させたときに、金属配線3のインピーダンス|Z|がどのように変化するのかを測定したものである。
図13において、粒子半径が20nmを用いた場合は、電圧振幅V
ampが2.2Vのときに、また粒子半径が200nmを用いた場合は、電圧振幅V
ampが1.8Vのときに、インピーダンス|Z|が10
4Ωオーダから10
1Ωオーダまで大きく減少し、その後は金属配線3への印加電圧を上げても、インピーダンス|Z|が変化しない状態となっている。電界トラップによって凝集した金ナノ粒子がクラック7を架橋し、金属配線3を修復したと考えられる修復電圧V
healは、金ナノ粒子の粒径を大きくすることにより、下げることができることが分かる。また、
図14に示すように、実験後の金属配線をScanning Electron Microscopeで観察したところ、金ナノ粒子がクラック7を架橋していることが確認できた。なお、
図14のAに示すように、粒子半径20nmにおいては、凝集した粒子が溶融し、大きさ数百nmの固まりが生じている様子が確認された。
【0069】
図15は、
図13と同様の実験を異なる幅のクラック7で行なったときの修復電圧V
healを示している。ここでは、粒子半径20nmを用いる場合には250nmから1600nmの幅を、また粒子半径200nmを用いる場合には500nmから3500nmの幅を有するクラック7に対して、5回ずつ(3500nmの幅のみ3回)実験を行った。図中、分数は試行回数に対する修復した回数を表している。
【0070】
実験の結果、同じ粒子半径では、クラック7の幅が大きくなると修復が生じる電圧も大きくなった。粒子半径が20nmの場合、幅が1000nmまでクラック7は印加電圧の振幅V
ampが3.2V以下で修復が生じ、粒子半径が200nmの場合、幅が3500nmまでクラック7は印加電圧の振幅V
ampが4.0V以下で修復が生じた。また、粒子半径が20nmよりも200nmの金ナノ粒子を用いた方が、各クラック7の幅に対する修復が生じる電圧が小さくなり、同じ印加電圧でより大きいクラックを修復することができた。
【0071】
次に、
図1に示す自己修復型配線1の作用効果を説明する。本実施形態の自己修復型配線1は、例えばPDMSからなる柔軟基板2や容器12が可撓性と伸縮性を有するため、外力により任意に曲げたり伸縮させたりすることができる。この点、従来はフレキシブルディスプレイやフレキシブルセンサシートなどの開発が盛んに行なわれているものの、そうしたフレキシブルデバイスの多くは、或る曲率半径まで曲げられる可撓性を有するが、伸縮性は有していない。
【0072】
また、自己修復型配線1を無理に曲げたり伸縮させたりすると、金属配線3が部分的に破断してクラック7が生じるが、電源15の両端を端子部8に接続して、電源15から金属配線3に上述のような交流電圧を印加すれば、クラック7の部分に電界が生じて、液体5中の金属ナノ粒子4に誘電泳動力F
DEPのみが作用する電界トラップ現象が生じ、その金属ナノ粒子4がクラック7を架橋して、金属配線3はクラック7の部分にのみ選択的に修復される。この自己修復型配線1の自己修復機能により、電気配線として高い電気伝導率でかつ高い伸縮耐性を持つことが可能になる。
【0073】
以上のように、本実施形態の自己修復型配線1は、第1基材である柔軟基板2に電気配線としての金属配線3を配設し、金属配線3に生じるクラック7の修復部として、導電性粒子としての金属ナノ粒子4を分散させた液体5で金属配線3を覆う独自のハイブリッド構造を実現している。
【0074】
この場合、金属配線3にクラック7が生じても、クラック7の部分にのみ選択的に働く力を利用して、液体5中の金属ナノ粒子4がクラック7を架橋すれば、金属配線3がクラック7の部分でのみ選択的に修復される。そのため従来とは異なり、金属ナノ粒子4を含む液体5と、固体である金属配線3とのハイブリット構造を利用して、高導電性と高伸縮性とを兼ね備えた自己修復型配線1を提供できる。
【0075】
また、本実施形態の自己修復型配線1は、金属配線3への電圧印加を可能にし、クラック7の部分にのみ電界を生じさせる端子部8を、金属配線3に設けている。
【0076】
この場合、柔軟基板2の伸縮に伴い金属配線3にクラック7が生じても、端子部8を利用してその金属配線3に所望の電圧を印加すれば、クラック7の部分にのみ選択的に働く力として、誘電泳動力F
DEPによる電界トラップ現象を液体5中の金属ナノ粒子4に生じさせることができる。これにより、凝集した金属ナノ粒子4がクラック7を架橋して、外部から熱を加えたりせずに、物理的な力のみで金属配線3を修復することが可能となる。
【0077】
また、本実施形態の自己修復型配線1は、導電性粒子が金属粒子となる金属ナノ粒子4であることを特徴とし、導電性粒子として特に金属ナノ粒子4を用いたものにおいて、高導電性と高伸縮性とを兼ね備えた自己修復型配線1を提供できる。
【0078】
また、本実施形態の自己修復型配線1は、第1基材としての柔軟基板2が伸縮可能であることを特徴とし、柔軟基板2の伸縮に伴い金属配線3にクラック7が生じても、その金属配線3をクラックの部分で選択的に修復することが可能になる。
【0079】
また、本実施形態の自己修復型配線1は、電気配線が金属配線3であることを特徴とし、電気配線として特に金属配線3を用いたものにおいて、高導電性と高伸縮性とを兼ね備えた自己修復型配線1を提供できる。
【0080】
図16は、本発明の第2実施形態における自己修復型配線21の基本構造を示している。本実施形態では、第1実施形態のような電界を用いる方法ではなく、表面の違いを用いる方法として、特に表面修飾によって金属配線3に生じたクラック7を自己修復する方法を提示する。ここでの伸縮配線21は、第1実施形態における端子部8や電源15を設けず、その代わりに金属ナノ粒子4の表面と、液体5に接する金属配線3の表面を負電荷22に帯電させ、クラック7の部分で液体5に接する柔軟基板2の表面を、正電荷23で帯電させた構成を有している。
【0081】
そして本実施形態では、金属配線3に対して電圧を加えなかったとしても、金属ナノ粒子4には前述のファンデルワールス力F
VDWと静電力が働く。ファンデルワールス力(引力)F
VDWとは制御が難しいが、静電力は表面が正に帯電しているか、負に帯電しているかで、引力として働くか斥力として働くかが決まり、これは表面の分子修飾によって容易に変えることが可能である。そのため
図16に示すように、金属ナノ粒子4と金属配線3の各表面が液体5中で負に帯電し、柔軟基板(シリコーンゴム)2の表面が液体5中で正に帯電するような静電力付与手段(図示せず)を伸縮配線21に付加すれば、柔軟基板2がむき出しになったクラック7の部分を金属ナノ粒子4が架橋して、この部分にのみ選択的に金属配線3を修復することが可能になる。これは修復に電圧を必要とせず、リーク電流や絶縁破壊の問題がないという点で、第1実施形態のような電界を用いる方法よりも優れている。
【0082】
以上のように、本実施形態の自己修復型配線1は、さらに金属配線3の表面を、金属粒子である金属ナノ粒子4の表面と同極の負電荷22に帯電させ、クラック7の部分で液体5に接する第1基材としての柔軟基板2の表面を、金属ナノ粒子4の表面と異極の正電荷23に帯電させる構成を備えている。
【0083】
この場合、柔軟基板2の伸縮に伴い金属配線3にクラック7が生じても、クラック7の部分にのみ選択的に働く力として、特に表面の分子修飾の違いを利用して、液体5中の金属ナノ粒子4に静電力を作用させることができる。これにより、柔軟基板2が露出したクラック7の部分を金属ナノ粒子4が架橋して、外部から熱を加えたりせずに、物理的な力のみで金属配線3を修復することが可能となる。また、修復の際に電圧を印加する必要がなく、リーク電流や絶縁破壊の問題も回避できる。
【0084】
なお、上記第1実施形態や第2実施形態において、導電性粒子は金属粒子の他に、金属を含む化合物の粒子、はんだなどの合金粒子、半導体粒子、導電性高分子、カーボンナノチューブやフラーレンなどの炭素粒子もしくはこれらの組み合わせでもよい。半導体粒子や導電性高分子でも、上記のファンデルワールス力F
VDWや、静電反発力F
ESや、誘電泳動力F
DEPが働き、また表面修飾により表面の電荷を変えることが可能である。また、第1実施形態や第2実施形態では、導電性粒子を分散する流動体として、液体5に代わって、気体(空気やガス、真空など)を用いてもよい。これは特に、宇宙用途で重要なものとなる。
【0085】
図17は、本発明の第3実施形態における自己修復型配線31の基本構造を示している。本実施形態では、第1実施形態のような電界を用いる方法として、特にクラック7が生じた一方の金属配線3を陽極3Aとし、他方の金属配線3を陰極3Bとして、その間に電源15からの直流電圧を印加する電解メッキによる方法を提示する。ここでの伸縮配線31は、クラック7の部分にのみ生じた電界によって、電解メッキを行なうために、金属ナノ粒子4ではなく、例えば銅イオンCu
2+などの金属イオンが溶解した水溶液としての液体5が、金属配線3を覆って配設される。
【0086】
そして本実施形態では、伸縮配線31を無理に曲げたり伸縮させたりすると、金属配線3が部分的に破断してクラック7が生じるが、電源15の両端を端子部8に接続して、電源15から金属配線3に直流電圧を印加すれば、クラック7の部分にのみ電界が生じ、液体5に溶けている金属イオンが電気化学反応によって、金属配線3の陽極3A側に固体金属として析出される。そして、その固体金属がクラック7を架橋することで、金属配線3はクラック7の部分にのみ選択的に修復される。
【0087】
なお、上記電気化学反応では、金属配線3の陰極3B側で、金属が金属イオンとして液体5に溶け出してしまう反応が起きるが、電解メッキでは尖った角に電界が集中して、他の部位よりもメッキが速く行われるため、このメッキ速度の違いを利用すれば、金属配線3全体は修復しなくても、金属配線3の一部が再度繋がるようになる。
【0088】
以上のように、本実施形態の自己修復型配線31は、伸縮可能な第1基材である柔軟基板2に金属配線3を配設し、柔軟基板2の伸縮に伴い金属配線3に生じるクラック7の修復部として、金属イオンとを溶解した液体5で金属配線3を覆う独自のハイブリッド構造を実現している。
【0089】
この場合、柔軟基板2の伸縮に伴い金属配線3にクラック7が生じても、クラック7の部分にのみ選択的に働く力を利用して、液体5中の金属イオンから析出される固体金属がクラック7を架橋すれば、金属配線3がクラック7の部分で選択的に修復される。そのため従来とは異なり、金属イオンを含む液体5と、固体である金属配線3とのハイブリット構造を利用して、高導電性と高伸縮性とを兼ね備えた自己修復型配線31を提供できる。
【0090】
また、本実施形態の自己修復型配線31は、金属配線3への電圧印加を可能にし、クラック7の部分にのみ電界を生じさせる端子部8を、金属配線3に設けている。
【0091】
この場合、柔軟基板2の伸縮に伴い金属配線3にクラック7が生じても、端子部8を利用してその金属配線3に所望の電圧を印加すれば、クラック7の部分にのみ選択的に働く力として、電界を利用した電解メッキにより、液体5中の金属イオンから固体金属を析出させることができる。これにより、析出した固体金属がクラック7を架橋して、外部から熱を加えたりせずに、電気化学的な力のみで金属配線3を修復することが可能となる。
【0092】
図18は、本発明の第4実施形態における自己修復型配線41の基本構造を示している。本実施形態では、第2実施形態のような表面の違いを用いる方法として、特に無電解メッキによる電気化学的な方法を提示する。ここでの伸縮配線41は、第3実施形態と同様に金属イオンが溶解した水溶液を液体5として用いるが、第3実施形態のような端子部8や電源15は設けず、その代わりに樹脂である柔軟基板2の表面にのみ無電解メッキを行なうために、この柔軟基板2に前処理を施している。
【0093】
そして本実施形態では、伸縮配線41を無理に曲げたり伸縮させたりすると、金属配線3が部分的に破断してクラック7が生じるが、そのクラック7の部分で前処理が施された柔軟基板2がむき出しになって液体5に触れると、液体5に溶けている金属イオンが電気化学反応によって、柔軟基板2の表面に固体金属のメッキ層42として析出される。そして、メッキ層42がクラック7を架橋することで、金属配線3はクラック7の部分にのみ選択的に修復される。
【0094】
以上のように、本実施形態の自己修復型配線41は、さらにクラック7の部分で液体5に接する柔軟基板2の表面にのみ、無電解メッキにより金属イオンから固体金属をメッキ層42として析出させる構成を有している。
【0095】
この場合、柔軟基板2の伸縮に伴い金属配線3にクラック7が生じても、クラック7の部分にのみ選択的に働く力として、表面修飾の違いを利用した無電解メッキにより、クラック7の部分で液体5に接する柔軟基板2の表面にのみ、液体5中の金属イオンから固体金属をメッキ層42として析出させることができる。これにより、析出したメッキ層42がクラック7を架橋して、外部から熱を加えたりせずに、電気化学的な力のみで金属配線3を修復することが可能となる。また、修復の際に電圧を印加する必要がなく、リーク電流や絶縁破壊の問題も回避できる。
【0096】
なお、上記第3実施形態や第4実施形態において、金属イオンを溶解した液体5は、金属を含む化合物や化合物イオン、もしくはこれらの組み合わせを含有もしくは溶解した流動体でも良い。
【0097】
図19〜
図22を基に、本発明の第5実施形態について説明する。本実施の形態では、クラック7の間を金属ナノ粒子4が架橋した後に融解することで、修復後の抵抗を下げるものである。具体的には、金属ナノ粒子4を電界トラップもしくは表面修飾で自己修復を行った後、
図19に示すように、電源15を利用して配線部となる金属配線3に電圧を印加する(電界トラップの場合には修復でも電圧をかけているので、そのまま電圧を印加し続けることも可能である)ものである。修復部は配線部よりも高抵抗であるため、ジュール熱(抵抗加熱)により修復部が選択的に加熱される。さらに、金属ナノ粒子4は、ある程度の大きさを持った塊であるバルクの金属よりも融点が低いことが知られており、ジュール熱で配線部が溶けるよりも先に金属ナノ粒子4が溶けるものと考えられる。このため、第1の実施の形態でも説明したように、修復部の金属ナノ粒子4の融解が生じ、クラック7の間に融解部18が形成される。ある程度の量の金属ナノ粒子4で架橋しておけば、修復部の金属ナノ粒子4が融解し、クラック7の隙間を融解部18で埋めていくために、単に金属ナノ粒子4を架橋させた場合に比べて低抵抗とすることができる。
【0098】
また、修復部を選択的に加熱するための熱源として、前述のジュール熱に代わって、自己修復型配線1の全体を加熱したり、レーザー加熱を行なったりしても構わない。この場合も金属ナノ粒子4は、ある程度の大きさを持った塊であるバルクの金属よりも融点が低いことが知られているので、自己修復型配線1の全体を加熱しても金属ナノ粒子4だけを融解させることができる。
【0099】
実際に、クラック部を架橋した金ナノ粒子が溶ける様子を、
図20〜
図22に示す。
図20は金ナノ粒子がクラック部にトラップされている様子を示し、
図21はジュール熱(抵抗加熱)により金ナノ粒子が融解して、その一部が融解して大きな固まりとなっている様子を示し、
図22は金ナノ粒子が大きく融解して固まりとなっている様子を示している。
【0100】
本実施の形態で述べたジュール熱を用いた金属ナノ粒子4の融解は、第1実施形態で述べた金属ナノ粒子4を用いた電界トラップや、第2実施形態で述べた表面修飾で有効であるが、第3実施形態の電解めっきや、第4実施形態の無電解めっきと併用しても良い。つまり第3実施形態や第4実施形態では、クラック7の部分に析出した固体金属を、金属配線3への電圧印加により金属配線3よりも先にジュール熱で融解させる。ここでもジュール熱に代わって、自己修復型配線31,41の全体を加熱したり、レーザー加熱を行なったりしても構わない。なお、第2実施形態や第4実施形態では、何れも端子部8や電源15を設けない構成として説明したが、本実施形態を併用する場合は端子部8や電源15を必要とする。
【0101】
以上のように本実施形態では、上述の第1実施形態や第2実施形態と併用して、導電性粒子としての金属ナノ粒子4が、クラック7の部分において電気配線としての金属配線3よりも先に熱で融解するもので構成される。
【0102】
この場合、金属配線3に生じたクラック7を修復した後に、そのクラックの部分にトラップされた導電性粒子だけを加熱融解させることができ、単に導電性粒子を架橋させた場合に比べて低抵抗とすることができる。
【0103】
また本実施形態では、上述の第3実施形態や第4実施形態と併用して、クラック7を架橋するのに金属イオンから析出される固体金属が、クラック7の部分において金属配線3よりも先に熱で融解するもので構成される。
【0104】
この場合、金属配線3に生じたクラック7を修復した後に、そのクラック7の部分に析出した固体金属だけを加熱融解させることができ、単に固体金属を架橋させた場合に比べて低抵抗とすることができる。
【0105】
図23は、本発明の第6実施形態における自己修復型配線1のクラック7周辺の構造を示している。同図において、「タイプ1」は第1実施形態で説明した単独の金属配線3を示し、「タイプ2」は本実施形態で説明する多股に分割した金属配線3を示している。本実施形態では、金属配線3の形状が異なる以外は、第1実施形態の自己修復型配線1と同一の構成を有する。
【0106】
「タイプ1」の金属配線3は、一端(例えば、一方の端子部8)と他端(例えば、他方の端子部8)との間に一つの電流経路だけが形成されるため、金属配線3にクラック7が生じたときの修復ポイントも一つだけとなり、最終的には修復されるものの、一時的には「断線」した状態になる。
【0107】
これに対して、「タイプ2」の金属配線3は、一端と他端との間に多股に分割した複数の電流経路が形成されるため、金属配線3にクラック7が生じたときに複数の修復ポイントができ、複数の電流経路の中でどれか数か所の電流経路は繋がっている、ということが実現できる。これにより、繋がっている箇所の数に応じて、金属配線3としての抵抗値の変動はあるものの、「断線」となる瞬間をなくすことが可能になる。
【0108】
以上のように、本実施形態の自己修復型配線1は、さらに金属配線3を多股に分割して形成することで、クラック7の修復中でも断線となる状態を回避することができる。
【0109】
なお、本実施形態で提案する金属配線3の形状は、上述した他の自己修復型配線21,31,41にもそのまま適用できる。
【0110】
図24A〜
図24Eは、本発明の第7実施形態における伸縮デバイス51の製造方法の一例を示している。なお、ここで説明する伸縮デバイス51の製造方法は具体的ではあるものの限定的なもので、この製造方法に限るという訳ではなく、他の方法を適用してもよい。
【0111】
以下、伸縮デバイス51の製造方法を順に説明すると、先ず
図24Aにおいて、ここでは例えば、剛性の分布のある基板54を作成するために、伸ばしたり曲げたりしても破断しないシリコーンゴム(PDMS)基板などの高伸縮材料55と、高伸縮材料55よりも剛性が高く、力を加えてもさほど変形しないSi基板などの高剛性材料56などの、ヤング率の大きく異なる2種類の基材を用いる。これは、図中左右方向に基板54を引っ張った時に歪みの分布を作るためのもので、同じ材質を用いて、それぞれの基材の厚みを変えたり、一方の基材にのみ穴をあけたりすることでも同様の効果を発揮できる。本例では第1基材となる高伸縮材料55をSi基板とし、第2基材となる高剛性材料56をシリコーンゴム基板としているが、シリコーンゴムでもヤング率が10倍異なる種類も知られており(それを2種類の基材として用いれば、左右に引っ張ったときに歪は1/10倍違うということになる)ので、基板54のすべてをゴム材料としても実現可能である。つまり、ここでの基板54は、それぞれの材質や形状に限定されず、第1基材(例えば、高伸縮材料55)と、この第1基材よりも剛性の高い第2基材(例えば、高剛性材料56)で作製されていればよい。高剛性材料56は、第1実施形態〜第6実施形態で説明した柔軟基板2に相当する。
【0112】
次の
図24Bでは、基板54の表面に金属配線層57がパターニング形成される。金属配線層57は、第1実施形態〜第6実施形態で説明した金や銅などの金属配線3に相当するもので、真空蒸着や薄膜を接着するなど、従来用いられている手法を用いることができる。ここでは、高伸縮材料55と高剛性材料56に跨って金属配線層57が形成され、特に高剛性材料56の表面上の金属配線層57に、それぞれ対をなす第1電極58A,58Bと、第2電極59A,59Bと、第3電極60A,60Bが配設される。図中、金属配線層57は基板54の片面にのみ設けられているが、基板54の両面に設けてもよい。
【0113】
次の
図24Cでは、基板54の高剛性材料56の部分に、例えばICなどの電気素子63を実装する。電気素子63は、金属配線層57の第3電極60A,60Bに半田付け接続されるが、従来用いられている伸縮耐性のないものを利用していても、高伸縮材料55とその表面に形成された金属配線層57とによる配線部が、第1実施形態〜第6実施形態で説明したような伸縮耐性及び修復機能を有していれば、最終的に伸縮デバイス51全体として伸縮耐性を有することが実現可能になる。
【0114】
次の
図24Dでは、前述した液体5の封止部となるパターン化された流路部71と、電気素子63の収容部72が窪んだシリコーンゴム(PDMS)の封止体73を別途作成し、これを
図24Cの状態の基板54と接合する。ここでの接合は、PDMS-PDMS bonding と呼ばれるマイクロ流路などを作る際に一般的に使われている手法で、接合力は強く、封止した液体5が漏れるということもない。またシリコーンゴムは、空気圧をかけて風船のように膨らますなどの用途も行われており、引っ張って接合部が破れるというようなこともない。シリコーンゴムであっても当然破断する限界はあるが、元の寸法に対して200%伸びるというシリコーンゴムも存在する。封止体73は第1実施形態〜第6実施形態で説明した容器12に相当し、流路部71は第1実施形態〜第6実施形態で説明した液体封止部11に相当する。
【0115】
こうして、封止体73と基板54とを接合すると、
図24Eに示すような完成状態の伸縮デバイス51が得られる。伸縮デバイス51の完成状態では、流路部71に収容された液体5が、高伸縮材料55上の金属配線層57と接した状態で、封止体73と基板54との間に封止される。また、伸縮デバイス51と他の電気機器との電気的接続を可能にするために、第1電極58A,58B及び第2電極59A,59Bは、封止体73に覆われることなく高剛性材料56上に露出している。
【0116】
なお、液体5は封止体73と基板54とを接合封止する際に予め流路部71に入れても良いし、封止した後に外から注入し、流路部71に連通する注入口を塞ぐものでも構わない。また、リーク電流などを考慮して、例えば
図24Eのように電気素子63に液体5が触れないように、封止体73の流路部71を区画形成すれば、そうしたリーク電流などの問題は生じない。
【0117】
図25は、
図24Aで「剛性の分布のある基板54」を用いた理由を説明するための図で、伸縮デバイス51を伸縮変形させたときの歪の分布を模式的に示している。同図において、完成した伸縮デバイス51に対し、左右に一様な力をかけて伸縮変形をさせたときに、高剛性材料56に電気素子63を実装した無変形領域は変形せず、上下ともシリコーンゴムの高伸縮材料55と封止体73でできた高変形領域の部分のみが伸縮する。この高変形領域は、第1実施形態〜第6実施形態で説明した自己修復型配線1,21,31,41に相当するため、伸縮デバイス51を伸縮するのに伴い金属配線3にクラック7が生じれば、これを第1実施形態〜第6実施形態の方法によって修復することが可能になる。
【0118】
なお、上述した伸縮デバイス51の製造方法自体は、一つの例としてさほど特殊なものではないが、剛性の分布のある基板54を用いることにより、伸縮デバイス51として歪の分布を任意に制御できる。また本実施形態では、修復機能を電子素子63に求めず、配線すなわち金属配線層57のみに求めていることも特徴である。例えば、有機EL素子や有機半導体素子のような機能素子に、曲げ耐性や伸縮耐性を求める研究は盛んに行なわれているが、
図24Eに示すような伸縮デバイス51の構造にすると、機能素子を含む電気素子63そのものが伸縮性を有していなくても、デバイス全体として伸縮性と修復機能を持たせることが可能になる。現状では、有機材料を用いた電気素子63よりも無機材料を用いた電気素子63の方が性能面で優れているが、こうした従来から蓄積のある機能素子を残したまま、伸縮性と修復機能を有するフレキシブルな伸縮デバイス51が実現できる。これは、有機材料などの材料開発から行なうよりも、無機材料を使ってフレキシブルな伸縮デバイス51を製造する方が、産業上早いし現実的であることを意味し、本実施形態における伸縮デバイス51を、実現性の高いアプローチとして捉えることができる。
【0119】
次に、伸縮デバイス51の利用方法について、一例を説明すると、
図24Eにおいて、通常の使用時には、一方の第1電極58Aと一方の第2電極59Aとの間に電気素子63の駆動電圧を印加して、伸縮デバイス51を利用する一方、例えば第1電極58A側に繋がる金属配線層57が破断した場合には、一方の第1電極58Aと他方の第1電極58Bに修復電圧を印加して、伸縮デバイス51を修復する。これは、電気素子63の駆動電圧を印加する電源と、金属配線層57の修復電圧を印加する電源(上述した電源15に相当する)を分けている例になる。但し別な例として、駆動電圧に重畳して修復電圧を印加するなどが、実際の伸縮デバイス51として好ましいと考えられる。また本実施形態では、クラック7の生じた箇所に応じて、第1電極58A,58B及び第2電極59A,59Bの何れもが、金属配線層57への修復電圧の印加を可能にする端子部となり得る。
【0120】
前述のように、第1電極58A側に繋がる金属配線層57が破断した場合には、一方の第1電極58Aと他方の第1電極58Bに修復電圧を印加するが、例えば第1実施形態において、金属配線層57の修復のために必要な交流電圧の振幅V
ampは3V以下であるので、例えば動作電圧が5Vの電気素子63であれば、修復で印加する電圧によって電気素子63を破壊する虞はない。また、液体5の種類(誘電率)を変えることで、修復電圧を下げることも可能である。
【0121】
図26は、平面的に作製した伸縮デバイス51を曲面に貼り付けて使用する一例を示したものである。
【0122】
伸縮デバイス51を曲げて使う場合だけでなく、伸ばして使う場合の用途として、使っている最中に伸縮が必要な第1の用途と、使っている最中には伸縮の必要がないものの、被対象物への貼り付けに伸縮が必要な第2の用途がある。第1の用途では、伸縮デバイス51を可動部(ロボットの肘など)に装着して使う場合が想定され、また生体である人に貼り付けて、体温や健康情報を取得するセンサシートとして、伸縮デバイス51を実現する場合にも、生体の伸縮に伴う伸縮性が伸縮デバイス51に求められる。
【0123】
第2の用途では、被対象物として、例えば円柱に伸縮デバイス51を貼り付けて使うのであれば、平面シート状の伸縮デバイス51を曲げるだけで、円柱の全体を伸縮デバイス51で覆うことができるが、被対象物が球面である場合は、平面シート状の伸縮デバイス51を伸縮させなければ、球面全体を伸縮デバイス51で覆うことができない。これは、貼り付けの対象物となる曲面のガウス曲率を考えれば、曲げ変形だけで済むか、伸縮変形が必要になるかがわかる。すなわち、ガウス曲率がゼロでない対象物の曲面に貼り付けて利用することを考えると、伸縮デバイス51を伸縮変形可能とする必要がある。
【0124】
例えば、
図26のように半径rの円板シート状に作った伸縮デバイス51(面積はπr
2)を、球形の対象物Sの半球面(面積2πr
2)に貼り付けるとすると、面積が2倍になるので、相似比では√2倍、伸び(歪)としては伸ばす前の形状に対して41%(=(√2−1)×100)増加となる。ここでは極端な例として、平板状の伸縮デバイス51を半球面の取付ける場合を考えたが、実際には伸びが10%程度の伸縮デバイス51でも利用範囲は非常に広いと考えられる。
【0125】
以上のように、本実施形態の伸縮デバイス51は、第1基材である高伸縮材料55と、この高伸縮材料55よりも剛性の高い高剛性材料56とにより基板54を構成し、高剛性材料56にのみ各種の電気素子63を実装している。
【0126】
この場合、伸縮デバイス51が変形したときに、高剛性材料56に実装した電気素子63は変形せず、高伸縮材料55の部分のみが伸縮して、そこに実装された金属配線層57にクラック7が生じた場合でも、そのクラック7を修復部である自己修復型配線1,21,31,41のハイブリッド構造で自己修復することができる。そのため、従来からの伸縮特性のない電気素子63をそのまま利用しても、自己修復型配線1,21,31,41の部分が伸縮耐性及び修復機能を有しているので、伸縮デバイス51全体として伸縮耐性を有することが可能となる。
【0127】
第7の実施形態では、剛性分布のある基板54を用いた例を説明した。この場合、クラック7となる断線部分は高変形領域に発生する。本実施形態では、このような現象を用いて、あるいは他の手法を用いて、断線部分の発生領域を制御する。このように断線する領域を制御することにより、断線部分を一箇所に限ったり複数箇所作成したりすることが可能となる。断線領域を一箇所に限ることで修復電圧を低くできる。一方で、断線領域を複数に分散することで、断線間隔が大きくなり過ぎることを防ぐことができ、修復に時間がかかることや、修復が困難になることを防ぐことができる。
【0128】
具体的には、配線(金属配線3や金属配線層57)の一部の領域の厚さや幅を、他の領域よりも小さく形成することで、断線を生じさせることができる。また、下地となる柔軟基板2や高伸縮材料55などに凹凸を設け、引っ張り時に応力が集中しやすい形状とし、他の領域に比べて断線が生じやすくしてもよい。また、第7の実施形態で示した高変形領域と低変形領域とを交互に複数形成することで、複数の特定の領域に断線が発生するようにしてもよい。
【0129】
以上のように本実施形態では、電気配線となる金属配線3や金属配線層57の所定の場所でクラック7が発生するように、金属配線3や金属配線層57または第1基材となる柔軟基板2や高伸縮材料55の少なくとも一方が構成される。これにより、クラック7となる断線部分の発生領域を制御することが可能になる。
【0130】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、当該実施形態はあくまでも例として提示したに過ぎず、発明の範囲を限定することを意図していない。ここに提示したれ実施形態は、その他の様々な形態で実施可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更が可能である。
【0131】
例えば、金属(ナノ)粒子は、金以外でも、銀、銅、アルミニウムも採用可能である。また、非特許文献4に記載されるような、金属配線をジグザグ形状にすることで伸縮性を得ている既存の電気配線に対し、本発明の自己修復機能を併せて使用することで、高導電性と高伸縮性とを兼ね備えた自己修復型配線および伸縮デバイスの一つの望ましい実施形態を得ることができる。
【0132】
その他、液体5はフロリナート(登録商標:住友スリーエム株式会社製)などの絶縁性液体や、イオン液体などの不揮発性液体を用いてもよい。また、自己修復型配線1,21,31,41が刃物で切断されたときなどでも液体5が漏れないように、液体を含むゲル材料で液体5を構成してもよい。