特許第6507180号(P6507180)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6507180ボルドおよびセイヨウナツユキソウエキスを含む動物向けの局所組成物およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6507180
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】ボルドおよびセイヨウナツユキソウエキスを含む動物向けの局所組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/185 20060101AFI20190415BHJP
   A61K 36/73 20060101ALI20190415BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190415BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20190415BHJP
【FI】
   A61K36/185
   A61K36/73
   A61P43/00 171
   A61P31/00
【請求項の数】20
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-561085(P2016-561085)
(86)(22)【出願日】2014年11月20日
(65)【公表番号】特表2017-501231(P2017-501231A)
(43)【公表日】2017年1月12日
(86)【国際出願番号】FR2014000249
(87)【国際公開番号】WO2015101722
(87)【国際公開日】20150709
【審査請求日】2017年10月19日
(31)【優先権主張番号】13/03124
(32)【優先日】2013年12月31日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516191940
【氏名又は名称】ビルバック エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ガット,ユーグ
【審査官】 横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02322138(EP,A1)
【文献】 特開2000−336024(JP,A)
【文献】 FRANE BANOVIC,IN VITRO COMPARISON OF THE EFFECTIVENESS OF POLIHEXANIDE AND CHLORHEXIDINE AGAINST CANINE 以下備考,VETERINARY DERMATOLOGY,BLACKWELL SCIENCE,2013年 6月21日,VOL:24, NR:4,,PAGE(S):409-413,E88-E89,ISOLATES OF STAPHYLOCOCCUS PSEUDINTERMEDIUS , PSEUDOMONAS AERUGINOSA AND MALASSEZIA PACHYDERMATIS,URL,http://dx.doi.org/10.1111/vde.12048
【文献】 YILDIRIM A B,BIOLOGICAL ACTIVITIES OF MEADOWSWEET (FILIPENDULA ULMARIA (L.) MAXIM),PLANTA MEDICA,ドイツ,THIEME VERLAG,2009年 7月 1日,VOL:75, NR:9,,PAGE(S):1066,PJ145,URL,http://dx.doi.org/10.1055/s-0029-1234950
【文献】 World J Microbiol Biotechnol., 2002, Vol.18, p.889-903
【文献】 VILA R,COMPOSITION AND ANTIMICROBIAL ACTIVITY OF THE ESSENTIAL OIL OF PEUMUS BOLDUS LEAVES,PLANTA MEDICA,THIEME VERLAG,1999年 3月,VOL:65, NR:2,,PAGE(S):178 - 179,URL,http://dx.doi.org/10.1055/s-2006-960461
【文献】 Infect Immun., 2006, Vol.74 No.12, p.6847-6854
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理学的に許容される媒体中にボルド(学名:Peumus boldus)エキスおよびセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスを含むことを特徴とする動物のための局所組成物であって、前記動物は家畜である、局所組成物
【請求項2】
前記家畜の皮膚または毛皮に塗布されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記家畜はネコまたはイヌであることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記家畜はアトピー性のイヌであることを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
シャンプー、ローション、クリーム、軟膏、ゲルまたはスポットオン製剤として溶液もしくは懸濁液の形態で前記動物に塗布されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ボルドエキスは、前記組成物の総重量の0.00005重量%〜1重量%に相当し、かつ前記セイヨウナツユキソウエキスは、前記組成物の総重量の0.00001重量%〜0.2重量%に相当することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ボルドエキスは、前記組成物の総重量の0.005重量%〜0.01重量%に相当し、かつ前記セイヨウナツユキソウエキスは、前記組成物の総重量の0.001重量%〜0.01重量%に相当することを特徴とする、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ボルドエキスと前記セイヨウナツユキソウエキスとの重量比は、99:1〜1:99であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記動物における微生物感染の予防、治療またはその制御の支援に使用するための求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
スタフィロコッカス・シュードインターメディウスおよび/またはマラセチア・パチデルマティス感染の予防、治療またはその制御の支援に使用するための、請求項に記載の組成物。
【請求項11】
抗微生物ペプチドの産生の刺激薬として使用するための求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記抗微生物ペプチドはカテリシジンおよび/またはβ−デフェンシンであることを特徴とする、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
炎症誘発性サイトカインの産生を刺激しないことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記動物は皮膚バリアの変化を有することを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
前記動物は、皮膚炎(Malassezia皮膚炎、アトピー性皮膚炎)、膿皮症、慢性耳感染症または真菌もしくは細菌感染症によって引き起こされる皮膚病変を患っていることを特徴とする、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1〜のいずれかに記載の組成物の皮膚消毒薬としての非治療的使用。
【請求項17】
請求項1〜のいずれかに記載の組成物の耳洗浄剤としての非治療的使用。
【請求項18】
請求項1〜のいずれかに記載の組成物が前記動物に塗布されることを特徴とする、抗微生物ペプチドを産生する動物細胞を刺激するための非治療的方法。
【請求項19】
前記抗微生物ペプチドはカテリシジンおよび/またはβ−デフェンシンである、請求項18に記載の非治療的方法。
【請求項20】
ボルド(学名:Peumus boldus)エキスを含有する組成物およびセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスを含有する組成物が同じ製剤内に組み合わせられていることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に微生物感染の予防、治療またはその制御の支援に使用される、抗微生物ペプチドの細胞合成を刺激する植物エキスを含む動物向けの局所投与用組成物に関する。より詳細には、本発明は、ボルド(学名:Peumus boldus)エキスおよびセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスを含む家畜向けの局所投与用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の主な機能は、地球上の敵対物と生物の内部との間に保護を与えることからなる。この防御機能は、以下の2つの主な機能によって可能となる。
(i)表皮バリア機能。これは皮膚の最浅層部(表皮)の外部(角質層)に位置している。角質層の構造はレンガの壁と比較することができ、ここでレンガは死細胞(角質細胞)を表し、モルタルは脂質層状構造に組織化された細胞間脂質を表す。このバリアは生物を化学的、微生物学的および物理的攻撃から保護し、かつ生物と環境との間での水の交換を調整する。
(ii)皮膚の免疫系(CIS)。CISは、外部の攻撃に対して炎症反応を誘導することができる。CISは2つの部分、すなわち自然部分と獲得部分に分けることができる。
・自然免疫系は、微生物の侵入に対する非特異的な一次機構に対応する。物理的バリアが破壊された場合、侵入者を排除するために自然免疫応答が活性化される。自然系は、多くの微生物で一般に認められる分子および/または分子パターンに結合することができる前から存在する受容体を使用する。但し、この自然免疫系は攻撃の記憶、ひいては再感染に対する効果的な保護を発達させることができないままである。
・獲得免疫系は、遅延および特異的免疫応答からなる。これは、より特異的に外部および抗原攻撃を認識し、それらを破壊し、かつ被った攻撃を記憶に保持することができる。
【0003】
角化細胞は、表皮および皮膚付属器、すなわち爪、毛髪、毛皮、羽毛および鱗の90%を構成する細胞である。角化細胞は局所免疫機能において重要な役割を担う。角化細胞は実際には、バリアの恒常性すなわちバランスを保つことを目的としてインターロイキンおよびサイトカインを産生する。
【0004】
皮膚によって産生されるカテリシジンまたはβ-デフェンシンなどの自然免疫系の抗微生物ペプチド(AMP)は層状体に貯蔵され、次いで角質層に運ばれる。
【0005】
これらの抗微生物ペプチドAMPは、約12〜50個のアミノ酸を有する小ペプチドである。AMPは、微生物感染の間に多細胞生物の防御のために働く自然免疫系の重要な要素のうちの1つとみなされている。AMPは、微生物病原体に対する直接阻害という特性を有する。AMPは微生物のリン脂質二重層に付着してその中に嵌まり込み、微生物膜の破裂、次いで溶菌を誘導する。
【0006】
多くのAMPが存在する。主要な公知のAMPは、β−デフェンシン(BD)およびカテリシジン(Cath)である。β−デフェンシンおよびカテリシジンは、多くの哺乳類、特にヒト、イヌ、ネコおよびウマの皮膚(表皮)において同定されている。これらのAMPは白血球および上皮粘膜組織によって合成される。但し、これらのAMPは主に角化細胞によって産生される。これらのAMPは、細菌成分(リポ多糖)または炎症誘発性メディエーター(例えば、IL−6(インターロイキン−6)、IL−8、インターフェロン−γ、TNF−α)によって発現または誘導される。
【0007】
β−デフェンシン(BD)は抗菌活性を有し、(走化活性による)免疫調節の役割を担う。動物および特にイヌにおけるβ−デフェンシンおよび特にcBD103の発現に関する既存のデータは矛盾している。そのようなものとして、Van Damme et al. Mol Immuno 2009によって発表されている研究によれば、アトピー性のイヌにおけるcBD103のmRNA発現は、健康なイヌにおけるcBD103のmRNA発現よりも低い。Leonard et al. J Innate Immunol 2012によって発表されている研究によれば、アトピー性のイヌと健康なイヌとの間でこのmRNA発現は同様である。最後に、Santoro et al. Vet Derm 2013の研究によれば、アトピー性のイヌにおけるcBD103のmRNA発現は健康なイヌに対して増加する。
【0008】
同様に、Santoro et al. Vet Derm 2013によれば、皮膚病変部(病変部位)におけるcBD103のmRNA発現は、非病変部位に対して増加する。他方、Leonard et al. J Innate Immunol 2012によって発表されている研究によれば、cBD103のmRNA発現は病変部位と非病変部位との間で実質的に同様である。
【0009】
カテリシジン(Cath)は強力な抗菌剤でもある。カテリシジンはグラム陰性およびグラム陽性の細菌、真菌およびウイルスを死滅させる内在的能力を有する。また、それらは免疫担当細胞の動員およびサイトカインの放出を引き起こすことにより宿主応答を促進する。
【0010】
皮膚バリアの変化(例えば、皮膚病変の間、イヌまたはネコのアトピー性皮膚炎、マラセチア皮膚炎などの皮膚炎の間、膿皮症、慢性耳感染症または真菌もしくは細菌感染症の間)を有する対象におけるAMPの発現の変化により、宿主が二次感染にかかりやすくなることが分かっている。アトピー性のイヌのβ−デフェンシンおよびカテリシジンの発現レベルは健康なイヌにおけるそれらの発現レベルに対して変化する。
【0011】
皮膚バリアの変化は、一次的に病態によって、または二次的に掻痒によって誘導され得る。アトピー性皮膚炎は特に、数多くの生物種において現れる慢性の掻痒性皮膚疾患である。アトピー性皮膚炎を有する動物は、花粉またはカビなどの環境抗原に対してアレルギー反応を発症する遺伝的素因を有する。これにより、レアギン抗体(IgE)の過剰な産生が生じる。推定10%のイヌがアトピーに罹患している。この疾患により生じる皮膚病変部は、舐めること、引っ掻くことおよび細菌感染によって非常に悪化する。アトピー性のイヌはさらに、高い割合でスタフィロコッカス・シュードインターメディウス(Staphylococcus pseudintermedius)およびマラセチア・パチデルマティス(Malassezia pachydermatis)を示す。
【0012】
従って上記内容から、より好ましくはイヌまたはネコにおいてβ−デフェンシンおよび/またはカテリシジンの発現を増加させることにより皮膚の先天免疫を刺激することができる、動物向けの局所投与用組成物を開発することが求められている。
【0013】
300種の物質のうち、ボルドエキスがヒトのβ−デフェンシンhBD−3の発現を刺激するのに最も効果的な物質であることが分かった。hBD−3に対するその特異的作用に加えて、特にアルカロイドおよびボルジンからなるボルドエキスは、グラム陽性およびグラム陰性細菌に対して広範囲の作用を有する。ボルドエキスは、黄色ブドウ球菌に対して効果的であることも知られている。
【0014】
4%で配合されたボルドエキスにより、特に深刻な皮膚疾患を有する対象において皮膚欠陥を減少させることができる。
【0015】
仏国特許第2843125号は、ヒトのhBD−2および/またはhBD−3の発現を刺激することができる有効成分を含む医薬組成物を開示している。使用することができる有効成分としてはボルドエキスを挙げることができる。
【0016】
また、仏国特許第2863893号は、皮膚に殺菌および/または殺真菌活性を与えることを目的とした化粧品組成物の製造のためのヒトのhBD−2および/またはhBD−3の発現を刺激することができる有効成分の使用について記載している。使用することができる有効成分としてはここでもボルドエキスを挙げることができる。
【0017】
BASF社によって市販されているBetapur(商標)製品は、ボルド(学名:Peumus boldus)エキスを含み、ヒト角化細胞において炎症を引き起こすことなくβ−デフェンシンの産生を誘導する。
【0018】
ヒトにおいては、Silab社によって市販されているDermapur(登録商標)製品によりカテリシジン型の抗微生物ペプチドの細胞合成を刺激することで皮膚の生態系を保存できることも分かっている。Dermapur(登録商標)製品は、1.9%のセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスを含む溶液である。特にフェノール酸が豊富なこの植物エキスは、特に92%のプロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)の増殖を阻害し、かつ82%の黄色ブドウ球菌(特にヒトにおける皮膚感染を引き起こす最も一般的なグラム陽性細菌の1種)の増殖を阻害することができる。
【0019】
Dermapur(登録商標)製品は、油性肌予防(anti-fatty skin)および毛穴治療活性を有する皮膚微生物相の生体調節因子であることが知られている。仏国特許第2897778号は、油性肌および/または座瘡肌の状態を改善するためのセイヨウナツユキソウを含む組成物についてさらに記載している。
【0020】
同様に、フェノール植物化合物は、グラム陽性細菌、特に黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を有することが知られている。
【0021】
このようにセイヨウナツユキソウエキスは、自然の抗細菌防御を刺激することにより皮膚の恒常性に寄与する。
【0022】
動物に対する研究を用いてヒトでなされる研究を一般化することはできないが、本出願人は、動物の皮膚の表面での抗微生物ペプチド(イヌのカテリシジンcCathおよびイヌのβ−デフェンシンcBD103など)の発現に対するセイヨウナツユキソウおよびボルドの潜在力ならびに動物の皮膚の疾患(イヌのアトピー性皮膚炎など)を治療する際のそれらの潜在的利益を評価することに決めた。
【発明の概要】
【0023】
上記課題に対する解決法は、生理学的に許容される媒体中にボルド(学名:Peumus boldus)エキスおよびセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスを含むことを特徴とする、動物のための局所組成物を目的とする。
【0024】
従って、本発明は特に獣医用組成物、すなわち動物ケアを目的とした組成物に関し、このケアは治療的であっても非治療的であってもよい。
【0025】
驚くべきことに、特に以下の実施例1に示されているように、本出願人は、ボルド(学名:Peumus boldus)エキスとセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスとの組み合わせは、外観および微生物感染の進行を軽減することを目的とした戦略の開発において特に効果的であり、従って、これらの微生物感染を予防もしくは治療する、またはその発症の制御の支援もするということを実証することができた。
【0026】
さらに、単独またはその混合物の形態のこれらの植物エキスは、ケモカインIL−8またはサイトカインTNF−αの増加を引き起こさない。言い換えると、単独または組み合わせのこれら2種類のエキスはいずれも炎症誘発性反応を引き起こさない。
【0027】
炎症は、生体組織の微生物的、化学的および物理的原因の病変を伴うほとんどすべての疾患でよく生じる。このプロセスの好ましい結果は、有害物質の隔離および破壊、次いで正常組織を完全に回復させるような炎症病変部の修復である。急性炎症は、損傷後の微小循環系の応答として定義することができ、その主症状は、熱、発赤、疼痛、腫脹および機能喪失である。循環系の変化としては、血管拡張および白血球の病変部への移動が挙げられる。但し、有害物質の作用が持続した場合、炎症は慢性的になることがあり、この場合、急性炎症を特徴とする循環系の変化は、組織の破壊および線維組織形成を有する特定の慢性損傷と置き換わる。どちらの場合も炎症の有害作用は顕著であり、そのため、微生物感染を予防または治療する間にこの炎症状態を悪化させないことがなお重要である。
【0028】
Betapur(商標)とDermapur(登録商標)との組み合わせ製品は、特に効果的であると思われる。実施した研究から得られたデータから、特に組み合わせ製品として関連づけられたBetapur(商標)およびDermapur(登録商標)の2種類の製品により、カテリシジンcCathの発現を相乗的に刺激できることが分かる。実際には、アトピー性のイヌにおいて、当該製品の総重量の0.2重量%の濃度のDermapur(登録商標)製品(ヒトにおいてカテリシジンの細胞合成を刺激することが知られている)により、アトピー性のイヌにおけるカテリシジンcCathの発現が減少することが観察された。他方では驚くべきことに、当該製品の総重量の0.2重量%の濃度のBetapur(商標)製品により、カテリシジンcCathの発現が増加することが観察された。
【0029】
さらにより驚くべきことに、当該製品の総重量の0.1重量%の濃度(従って、単独で試験したBetapur(商標)製品の濃度よりも2倍低い濃度)のBetapur(商標)と当該製品の総重量の0.1重量%の濃度(これも単独で試験したDermapur(登録商標)製品の濃度よりも2倍低い濃度)のDermapur(登録商標)との組み合わせを含む組成物により、これらの製品を個々に摂取した際に期待される効果の合計よりも大きいカテリシジンcCathの刺激に対する効果を得ることができることが観察された。従って、Betapur(商標)およびDermapur(登録商標)製品の組み合わせ、よってボルド(学名:Peumus boldus)エキスおよびセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスの組み合わせにより、それらのそれぞれ1つが個々に作用する際には得ることができない効果を生じさることができる。
【0030】
本発明は、動物における微生物感染の予防、治療またはその制御の支援に使用される組成物も目的とする。
【0031】
本発明は、抗微生物ペプチドの産生の刺激薬として使用される組成物も目的とする。
【0032】
本発明は、皮膚消毒薬としてのそのような組成物の非治療的使用も目的とする。
【0033】
本発明は、耳洗浄剤としてのそのような組成物の非治療的使用を別の目的とする。
【0034】
本発明は、本発明に係る組成物を動物に塗布することを特徴とする、カテリシジンおよび/またはβ−デフェンシンなどの抗微生物ペプチドを産生する動物細胞における刺激のための非治療的方法をさらなる目的とする。
【0035】
本発明はさらに、本発明に係る組成物の局所塗布(局所塗布とは皮膚または粘膜への局所塗布を意味する)により微生物の増殖を減少させることができる方法に関する。
【0036】
最後に、本発明は、ボルド(学名:Peumus boldus)エキスを含有する組成物とセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスを含有する組成物とが同じ製剤内に組み合わせられていることを特徴とする、本発明に係る組成物の製造方法を最終目的とする。
【0037】
付属の図面を参照しながら記載されている以下の非限定的な説明を読めば、本発明の理解がより深まるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】β−デフェンシンcBD103のmRNA発現レベルに対するBetapur(商標)および/またはDermapur(登録商標)製品の効果に関する研究の結果を示す。より詳細には、試験した製品は、 ・0.2%の濃度のBetapur(商標)(これはボルド(学名:Peumus boldus)エキスが当該製品の総重量の0.01重量%〜0.02重量%であることを意味する)、 ・0.2%の濃度のDermapur(登録商標)(これはセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスとして当該製品の総重量の0.0038重量%に等しい)、および ・0.1%のBetapur(商標)/0.1%のDermapur(登録商標)の混合物(これはボルド(学名:Peumus boldus)エキスが当該製品の総重量の0.005重量%〜0.01重量%であり、セイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスが当該製品の総重量の0.0019重量%に等しいことを意味する)である。
図2図1の場合と同じ濃度におけるカテリシジンcCathのmRNA発現レベルに対する同じBetapur(商標)および/またはDermapur(登録商標)製品の効果に関する研究の結果を示す。
図3】インターロイキンIL−8の分泌に対する同じBetapur(商標)および/またはDermapur(登録商標)製品の効果に関する研究の結果を示す。
図4】TNF−αの分泌に対する同じBetapur(商標)および/またはDermapur(登録商標)製品の効果に関する研究の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明に係る組成物は、生理学的に許容される媒体中に、ボルド(学名:Peumus boldus)エキスおよびセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスを含む。
【0040】
「生理学的に許容される媒体」という用語は、本発明によれば、限定されるものではないが、水性すなわち含水アルコール溶液、油中水型エマルション、水中油型油エマルション、マイクロエマルション、水性ゲル、無水ゲル、血清、小胞分散液、粉末を意味する。「生理学的に許容される」とは、本組成物が哺乳類、より詳細にはイヌおよびネコの粘膜、皮膚付属器(爪、毛髪)、毛髪および皮膚と接触させる局所もしくは経皮使用に特に適し、かつ毒性、不適合性、不安定性、アレルギー反応およびその他のリスクなしに経口摂取または皮膚注入することができることを意味する。
【0041】
この生理学的に許容される媒体は、本組成物の従来から賦形剤と呼ばれるものをなす。
【0042】
本発明に係る使用のために、ボルド(学名:Peumus boldus)エキスおよび/またはセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスの有効量、すなわちそれらの投与量は、動物の年齢や皮膚の状態などの各種因子によって決まる。有効量とは、所望の効果を生じるのに十分な毒性のない量を意味する。
【0043】
ボルド(学名:Peumus boldus)は、チリの乾燥地帯に生息する低木である。これはフランス南部および地中海の国々にも順応している。そのざらざらした葉の表面は、精油で満たされた小さい小胞で覆われている。ボルドはモニミア科の樹種である。
【0044】
ボルドの葉は、アルカロイドおよびボルジンを含有する。それらは特定の利尿、強肝および鎮静特性を有することが知られている。
【0045】
セイヨウナツユキソウ(学名:Filipendula ulmaria)(Spiraea ulmariaとも呼ばれている)は、欧州原産のバラ科の多年生草本である。その葉および花は、特に利尿、解熱、鎮痙および抗リウマチ特性を有することが知られている。
【0046】
本発明によれば、本組成物のボルドエキスの濃度は、本組成物の総重量の0.00005%〜50%、優先的には0.00005%〜10%、優先的には0.00005%〜1%、優先的には0.0005%〜0.1%、さらにより優先的には0.005%〜0.01%である。
【0047】
本組成物のセイヨウナツユキソウエキスの濃度は、本組成物の総重量の0.00001重量%〜50重量%、優先的には0.00001重量%〜10重量%、優先的には0.00001重量%〜0.2重量%、優先的には0.0001重量%〜0.02重量%、さらにより優先的には0.001〜0.01重量%である。
【0048】
当業者は、所望の効果に従ってエキスの量を調整することができる。
【0049】
より好ましくは、ボルドエキスの濃度は、本組成物の総重量の0.005重量%〜0.01重量%であると有利であり、セイヨウナツユキソウエキスの濃度は、本組成物の総重量の0.001重量%〜0.01重量%であると有利である。
【0050】
但し、各植物エキス(または植物エキスを含む製品)の正確な量は、本発明に係る組成物の最終用途によって決定される。この選択は特に、これらのエキスが添加される成分の種類、最終製品のガレヌス製剤、生物種、年齢、体重、全身の健康状態、性別、治療される疾患または病気の種類、本発明に係る組成物の対象となる動物などの1つ以上のパラメータによって決まる。従って、成分または追加成分の量は大幅に変わることがある。
【0051】
本発明に係る組成物に含まれるボルド(学名:Peumus boldus)エキスは、
・本組成物の総重量の10重量%〜25重量%のブチレングリコール、
・本組成物の総重量の5重量%〜10重量%のボルドエキス、
・本組成物の総重量の5重量%〜10重量%のペンチレングリコール、
・本組成物の総重量の0.1重量%〜1重量%のキサンタンガム、および
・本組成物の総重量の50重量%超の水
を含むBetapur(登録商標)という名称で市販されている組成物に由来し、かつ
本発明に係る組成物に含まれるセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスは、
・本組成物の総重量の30重量%〜70重量%のブチレングリコール、
・本組成物の総重量の1重量%〜5重量%のセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキス、および
・本組成物の総重量の25重量%超の水
を含むDermapur(登録商標)という名称で販売されている組成物に由来すると有利である。
【0052】
BASF社によって市販されているBetapur(商標)製品は、ボルド(学名:Peumus boldus)エキスを含む。このBetapur(商標)製品の組成については以下の表1に詳細に記載されている。
【表1】
【0053】
Silab社によって市販されているDermapur(登録商標)製品は、セイヨウナツユキソウ、(学名:Spiraea ulmaria)エキスを含む。このDermapur(登録商標)製品の組成については以下の表2に詳細に記載されている。
【表2】
【0054】
本発明によれば、本発明に係る組成物は、99:1〜1:99、優先的には50:1〜1:50、さらにより優先的には10:1〜1:10、さらにより優先的には10:1〜2:1、さらにより好ましくは6:1〜3:1の重量比でボルドエキスおよびセイヨウナツユキソウエキスを含む。
【0055】
本発明の特定の実施形態によれば、本組成物は、抗微生物ペプチドの細胞合成を刺激する独特な植物エキス、すなわち
・ボルド、(学名:Peumus boldus)エキス、および
・セイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキス
を含む。
【0056】
本出願人によって実施された研究から得られるように、少なくともボルド(学名:Peumus boldus)エキスおよび/またはセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスを含む組成物は、微生物感染の予防または治療への使用に特に適している。同様にそのような組成物は、動物における微生物感染の制御の支援への使用に適している。
【0057】
有利なことに、本発明に係る組成物は、微生物感染、特にスタフィロコッカス・シュードインターメディウスおよび/またはマラセチア・パチデルマティス感染の予防、治療またはその制御の支援への使用に適している。
【0058】
本発明によれば、抗微生物ペプチド、特にカテリシジンおよび/またはβ−デフェンシンの産生の刺激薬として、本組成物を使用することができる。
【0059】
驚くべきことに、本発明に係る組成物は、炎症誘発性サイトカインの産生を刺激しない。
【0060】
好ましくは、本発明に係る組成物が投与される動物は皮膚バリアの変化を有する。
【0061】
皮膚病変部は、特に皮膚炎(Malassezia皮膚炎、アトピー性皮膚炎)、膿皮症、慢性耳感染症または真菌もしくは細菌感染症によって引き起こされ得る。
【0062】
本発明の別の態様によれば、本発明の目的とする組成物を、1〜3回/週の様々な投与頻度で少なくとも3、5、7、15または21日間の短期間あるいは少なくとも1、2、3、4、5または6ヶ月間のより長期間にわたって毎日投与する。
【0063】
本発明に係るボルドエキスおよびセイヨウナツユキソウエキスを含有することができる各種ガレヌス製剤は、あらゆる形態、すなわちクリーム、ローション、軟膏、乳液、ゲル、乳濁液、分散液、溶液、懸濁液、シャンプー、経皮パッチまたは粉末、噴霧剤、軟膏、リニメント剤、噴霧可能な製剤、ブラシ塗布可能な製剤(brushable)、石鹸の形態を有する。局所的に塗布しなければならない溶液または懸濁液は、スポットオン製剤として提供する、すなわちそれらを動物の皮膚上の1つまたは2つの局所点に堆積させて塗布すると有利である。組成物は、泡の形態または加圧噴射剤も含むエアロゾル用の組成物の形態で検討することもできる。また本発明に係る組成物は、経口および歯科衛生用途、例えば歯磨き粉のためのものであってもよい。この場合、本組成物は、経口組成物のための通常の補助剤および添加剤、特に、界面活性剤、増粘剤、湿潤剤、シリカなどの研磨剤、フッ化塩、特にフッ化ナトリウムなどの各種有効成分、および場合によりナトリウムサッカリンなどの甘味料を含有することができる。本発明に係る組成物は、アニオン性、カチオン性、両性もしくは非イオン性誘導体から選択される乳化剤および湿潤剤などの界面活性剤、抗酸化剤などの安定化剤および着色剤を含むと有利である。
【0064】
本発明に係る組成物は、ゲル、ローション、水中油型もしくは油中水型エマルション、分散液、乳液、クリーム、軟膏、泡、シャンプー、ミセル溶液または局所塗布に適したあらゆる他のガレヌス製剤の形態を有することができると有利である。これらの異なる形態は、化粧品および製薬産業で現在使用されている技術によって当業者が調製することができる。
【0065】
本発明に係る組成物は、瓶、水用ボトル、管、スプレー、エアロゾル、耳洗浄器、ピペット、ワイプ、袋または局所塗布に適したあらゆる他の包装材料に包装すると有利である。
【0066】
優先的には、本組成物を、シャンプー、ローション、クリーム、軟膏、ゲルまたはスポットオン製剤として懸濁液の形態で動物に塗布する。
【0067】
「局所塗布」という用語は、塗布される位置すなわち皮膚、粘膜、皮膚付属器に作用させることを目的とした塗布を意味する。本発明に係る局所的使用または局所塗布は、疲れた(例えばその柔軟性が失われた)皮膚、損傷および/または炎症した(冷気や太陽などの要素による攻撃後の)皮膚、あるいは引っ掻き、創傷、感染(例えば、細菌または真菌感染)によって損傷した皮膚を標的にすることができると有利である。従って、本発明に係る組成物の局所塗布は、懸念される動物の症例および状態に従って、例えば皮膚の消毒および特に耳の洗浄のために維持管理として健康な動物に対して、あるいは特にスタフィロコッカス・シュードインターメディウスおよび/またはマラセチア・パチデルマティス感染の治療および予防として損傷および/または病気を有する動物に対して実施することができる。
【0068】
皮膚、粘膜および皮膚付属器の外観および一般的症状の改善は、毎日などの定期的な局所塗布によって得ることができる。当該実施者は、ボルド(学名:Peumus boldus)エキスおよび/またはセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスを含有する組成物を含む美容のための局所的治療を理解しており、そのような組成物を塗布するために通常使用される技術に従い、例えば本発明に記載されている組成物を局所的に塗布することで、この治療を達成することができる。
【0069】
局所塗布は、美容および/または皮膚医薬および/または医薬のためのものであってもよい。
【0070】
好ましくは、本発明に係る組成物を、好ましくはネコまたはイヌである動物の皮膚または毛皮に塗布する。
【0071】
本発明に係る組成物は、特に、安定化剤、希釈剤、芳香剤、充填剤、塩、界面活性剤および/または乳化剤であってもよい洗浄剤、ポリマー(モノマー種の重合によって得られるか2種のモノマー(コポリマー)または何種かのモノマーから得られる材料を含む)、抗菌剤、発泡剤、泡相乗剤、抗発泡剤、増量剤、皮膚保護剤、品質改良剤、膜形成剤、ゲル化剤、ヘアコンディショナー、乳化安定剤、皮膚軟化剤、緩衝剤、帯電防止剤、角質溶解剤、安定化剤、キレート剤、抗酸化剤、抗脂漏剤(antiseborrhoeic agent)、還元剤、研磨剤、吸収剤、固化防止剤、腐食防止剤、フケ防止剤、制汗剤、デオドラント剤、収斂剤、可塑剤、噴射剤、結合剤、変性剤、脂質回復剤(lipid restoring agent)、マスキング剤、着色剤、真珠光沢剤(pearlescent agent)、乳白剤、無痛化剤、保湿剤、平滑剤、冷却剤、酸化剤、溶媒、調色剤(toner)、紫外線吸収剤、UVフィルタ、粘度調整剤などの当業者によく知られている1種または数種の追加成分も含むことができると有利である。
【0072】
抗酸化剤は、トコフェロールおよび酢酸トコフェロールなどのそのエステルならびにBHTおよびBHAから選択することができると有利である。
【0073】
本発明に係る組成物に使用することができる抗菌剤は、好ましくは、2,4,4’トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル(すなわちトリクロサン)、3,4,4’−トリクロロバニリド、フェノキシエタノール、フェノキシプロパノール、フェノキシイソプロパノール、イセチオン酸ヘキサミジン、メトロニダゾールおよびそれらの塩、ミコナゾールおよびそれらの塩、イトラコナゾール、テルコナゾール、エコナゾール、ケトコナゾール、サペルコナゾール、フルコナゾール、クロトリマゾール、ブトコナゾール、オキシコナゾール、スルファコナゾール(sulfaconazole)、スルコナゾール、テルビナフィン、シクロピロクス、シクロピロクスオラミン、ウンデシレン酸およびそれらの塩、過酸化ベンゾイル、3−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、フィチン酸、N−アセチルL−システイン酸、リポ酸、アゼライン酸およびそれらの塩、アラキドン酸、レゾルシノール、2,4,4’トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル、3,4,4’−トリクロロカルバニリド、オクトピロックス、オクトキシグリセリン、オクタノイルグリシン、カプリリルグリコール、10−ヒドロキシ−2−デカン酸、ピドロ酸銅(copper pidolate)、サリチル酸、サリチル酸亜鉛、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニル、ファメソール(famesol)、フィトスフィンゴシンおよびそれらの混合物から選択される。
【0074】
界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、双性イオン性界面活性剤(例えば、スルホン酸、硫酸、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸誘導体)、両性および非荷電界面活性剤(すなわちマクロゴール)および後者の混合物が挙げられる。
【0075】
安定化剤としては、防腐剤、乳化剤、増粘剤、充填ガス、ゲル化剤、ヒドロトロープ、湿潤剤、金属イオン封鎖剤、相乗剤または安定化剤などの本組成物の貯蔵寿命を引き延ばす傾向を有する物質が挙げられる。
【0076】
希釈剤としては、不溶性または僅かに水溶性の無機塩、例えば、マグネシウムもしくは亜鉛のアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のチタン酸塩、二酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化スズなどの金属酸化物、硫酸カルシウムまたは硫酸バリウムなどなどのアルカリ土類金属の硫酸塩、リン酸水素カルシウム、リン酸三カルシウムまたはリン酸マグネシウムなどなどの一塩基、二塩基もしくは三塩基性リン酸塩が挙げられる。
【0077】
本発明に係る組成物は、動物、優先的には家畜、すなわち家畜化および繁殖のために育てられている動物向けである。家畜としては、食用の家畜、農場構内動物、水生動物またはペットが挙げられる。好ましくは、家畜は、哺乳類(イヌ科、ネコ科、ウマ科、ウサギ目、齧歯類)から選択されるペットである。本発明に係る組成物はイヌおよびネコ向けであると有利であるが、「ペット」という用語は、例えば、フェレット、齧歯類(例えばハムスター)、ウサギ目(例えば飼いウサギなど)、ミニブタなどの外来ペットも含む。
【0078】
本発明の一態様では、本発明に係る組成物はイヌ向けである。本発明に係る組成物および方法は、より詳細には皮膚バリアにおける変化を有するイヌ向けである。これは特にアトピー性皮膚炎の場合である。これは品種的素因を有する疾患である。これらのイヌの品種としては、限定されるものではないが、ボストンテリア、ケアンテリア、ダルメシアン、イングリッシュブルドッグ、イングリッシュセッター、ゴールデンレトリバー、ゴールデンレトリバーアイリッシュセッター、シャーペイ、ラブラドールレトリバー、ラサアプソー、ミニチュアシュナウツァー、パグ、スコティッシュテリア、ウェストハイランドホワイトテリア、ワイヤーフォックステリア、ボクサー、ジャーマンシェパード、プードル、フォックステリア、アメリカンコッカースパニエル、テリア、チャウチャウ、ピレニアンシェパード、ベルジアンシェパードドッグ、シーズー、チワワ、ヨークシャーテリア、ゴードンセッターが挙げられる。
【0079】
本発明に係る組成物を用いて、純血種ではないが前記品種と同様の特性を有するイヌも治療することができる。
【0080】
本発明の一実施形態では、本発明に係る組成物は、微生物感染症または皮膚バリアの変化を有する動物に一般に処方される薬物、または例えば動物の引っ掻き行動を引き起こす皮膚の変化を生じさせ得るノミ、マダニ、シラミなどの外部寄生虫を退治することを目的としたあらゆる他の医薬品と組み合わせて投与することができる。特に、フィプロニル、イミダクロプリド、アミトラズ、ペルメトリン、メトプレン、ピリプロキシフェンおよび外部寄生虫による感染を予防または治療することができるあらゆる他の有効成分などの殺虫剤が挙げられる。
【0081】
本組成物は、特に全身および局所抗生物質、例えば、ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、アミカシン、ネオマイシン、トブラマイシン、カナマイシンなどのアミノグリコシド系、ペニシリン(例えば、クラブラン酸を含む/含まないアモキシシリン)、ペニシリンG、アンピシリンなどのβ−ラクタム系、ならびに、セファレキシン、セフォベシン、セファドロキシル、セフキノム、セフポドキシムまたはセフチオフルなどのセファロスポリン系も含むことができる。全身および局所抗生物質としては、テトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、ドキシサイクリンなどのサイクリン系、エリスロマイシン、アジスロマイシン、スピロマイシンなどのマクロライド系、クリンダマイシン、リンコマイシンなどのリンコサミド系、ならびに、エンロフロキサシン、マルボフロキサシン、プラドフロキサシン、ジフロキサシン、オルビフロキサシンなどのフルオロキノロン系も挙げられる。また、スルファメトキシピリダジン、(トリメトプリムを含む/含まない)スルファメトキサゾール、スルファジアジンなどのスルファ薬、ならびに、リファンピンなどのリファマイシン系、特にコリスチンなどのポリペプチド、またはメトロニダゾールまたはフシジン酸などの他の抗生物質も検討される。
【0082】
本組成物を、全身および局所抗真菌薬、特にアムホテリシンB、ナイスタチンおよびグリセオフルビンなどのポリエン系、ならびに、フルコナゾール、イトラコナゾール、ポサコナゾール、ミコナゾール、エニルコナゾール、ケトコナゾール、フルコナゾール、クリンバゾールなどのアゾール系または特にテルビナフィンなどのアリルアミン系と組み合わせて投与することもできる。
【0083】
本発明に係る組成物は、消毒薬、例えば、次亜塩素酸ナトリウム(およびデーキン液)などの塩素化製品、ヨウ素製品(ヨウ素およびヨウ素のアルコールすなわちヨードチンキなどのその誘導体を含む)、ヨードフォア(例えばポビドンヨード)などのハロゲン化製品、ならびに、ビグアナイド系(例えばクロルヘキシジン)、アルコール類、塩化ベンザルコニウム、臭化セトリモニウムなどの第四級アンモニウム化合物、または過酸化水素(すなわち酸素飽和水)などの酸化剤も含有していてもよい。消毒薬としては、トリクロカルバンなどのカルボアニリドおよびトリクロサン、ならびに、過酸化ベンゾイル、乳酸エチル、ピロクトンオラミン、安息香酸、酢酸、ホウ酸、ヘキセテジン(hexetedine)、分類対象または分類対象外のEDTA、PCMXなどの他の分子も挙げられる。
【0084】
同じように、本組成物は、免疫調節薬、特にコルチコステロイド(プレドニソロン、プレドニゾン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾンアセポン酸エステル、モメタゾン、トリアムシノロン、プレドニカルベート、クロベタゾール、フルチカゾン)、カルシニューリン阻害剤(シクロスポリン、タクロリムス)、インターフェロン、必須脂肪酸、抗ヒスタミン薬も含んでいてもよい。本組成物を、セラミド、脂肪酸、コレステロールまたは尿素などの再構成剤(restructurizer)および再水和剤ならびにビタミンB6または亜鉛などの皮脂調整剤(sebomodulator)と組み合わせることもできる。
【0085】
微生物感染症または皮膚バリアの変化を有する動物に通常処方される異なる薬物のこの非網羅的なリストは当業者によく知られている。
【0086】
本発明に係る組成物は、上に詳細が記載されているボルド(学名:Peumus boldus)およびセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)の植物エキス以外の物質、特に、他の植物エキス、食物の原料(植物、動物、鉱物)、アミノ酸、タンパク質、精油、脂肪(特に脂肪酸)、鉱物、ビタミン類または薬用活性物質も含むことができる。
【0087】
以下に示されている試験において詳細に記載されているように、本発明によれば、本組成物を微生物感染の治療、予防またはその制御の支援のために使用すると有利である。本発明の枠組みでは、「微生物感染の制御の支援」という用語は、表皮バリアおよび/または動物における微生物感染の間の自然の微生物免疫防御に対して支援を提供する手段を意味する。
【0088】
代替形態によれば、本発明は、生理学的に許容される媒体中にボルド(学名:Peumus boldus)エキスを含む組成物および/または生理学的に許容される媒体中にセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスを含む組成物からなる。前記組成物を動物における細菌感染の予防、治療またはその制御の支援に使用するために互いに組み合わせるか別々に使用することができる。本発明に係るこれらの組成物を、動物、優先的にはネコまたはイヌの皮膚または毛皮に局所的に塗布することができる。ボルドエキスの濃度は0.00005%〜50%である。セイヨウナツユキソウエキスの濃度は0.00001%〜50%である。本発明のこの代替形態は、これらの組成物のそれぞれ1つをカテリシジンおよび/またはβ−デフェンシンなどの抗微生物ペプチドの産生の刺激薬として、組み合わせるか別々に(但し、炎症誘発性サイトカインの産生を刺激せずに)使用することを目的とする。
【0089】
本発明の代替形態では、本組成物を動物の一生を通して毎日投与することができる。別の代替形態では、本組成物を1日1、2、3回もしくは2、3、4日ごと、1週間に1、2、3回または1ヶ月間に1、2、3、4回、定期的に投与することもできる。
【0090】
また別の代替形態では、本組成物を治癒もしくは治療周期の形態で投与してもよい。すなわち、本組成物の投与は、毎日であるか否かに関わらず、1週間〜1年間の規定の期間、より詳細には1、2、3、4、5または6ヶ月間にわたって行う。本発明の代替形態では、本発明に係る組成物を少なくとも2、3、4、5、6回またそれ以上の回数で動物に投与する。一実施形態では、本組成物を、1、2、3、4、5、6ヶ月間または数ヶ月間の治癒の形態で1年に1、2、3回投与する。本発明の特定の代替形態では、本組成物を1年に1回または2回更新することができる治癒の形態で、1〜6ヶ月間の期間にわたって毎日投与する。
【0091】
別の特定の代替形態では、本組成物を少なくとも1、2、3、4、5または6ヶ月間の期間にわたって毎日投与する。
【0092】
本発明に係る組成物を、当業者が選択および調整することができる用量および頻度で投与する。
【0093】
本発明の一態様では、本組成物を非治療的目的のため、例えば動物の全身状態を改善するために使用する。実際には、本発明に係る組成物は、元気づける効果、細胞老化の低下に対する効果を有し、従って疾患の発生率を低下させ、かつ病気または事故後の動物の回復を高めたり、あるいは活力を高めたりすることもできる。これらの利点は、動物の行動(その雇い主との交流、睡眠、食欲、遊んでいる間の満足度)を改善することによる、動物の審美的外観の改善(光沢のある外被、より良好な姿勢)すなわちその調子が目に見えることであり、全身状態の改善により日和見疾患が入り込むのも防止される。
(実施例)
【0094】
実施例1:抗微生物ペプチドの産生およびイヌの角化細胞における炎症マーカーに対する植物エキスの生体外での効果の評価
【0095】
上に示したように、抗微生物ペプチド(AMP)は、上皮および免疫細胞によって産生される小ペプチドである。それらは自然の微生物免疫防御において重要な役割を担う。β−デフェンシン(BD)およびカテリシジン(Cath)は最も研究されているAMPである。
【0096】
本研究の目的は2つの部分からなる。すなわち、
・当該植物エキスが一次培養物においてイヌの角化細胞でのイヌのBD103および/またはイヌのCathの産生を刺激することができるか否かの試験、および
・細胞培養物の上澄み中でのそれらの炎症誘発性反応(サイトカインの産生)の評価
である。
【0097】
本研究を2つのフェーズで行った。5匹の正常なイヌと5匹のアトピー性のイヌからなる10匹のビーグル種のイヌに対してフェーズIを行った。14匹のアトピー性のビーグル種のイヌに対してフェーズIIを行った。
【0098】
5匹の正常なイヌと5匹のアトピー性のイヌからなる10匹のビーグル種のイヌに対して本研究を行った。各イヌに対して8mmの生検を3回行った。標準的な試料採取および培養技術を用いてその角化細胞を回収した。それらを48培養ウェルの24プレート内にそのまま分注した。
【0099】
イヌの一次角化細胞の培養に適した培地(Cellntech社によって市販されているCn−T09(商標)培地)を使用した。この培地にコレラ毒素を添加した。この培地を70%の集密になるまで3日ごとに交換した。次いで、これらの細胞を細胞増殖因子が枯渇した培地中で24時間培養し、次いで各種濃度のボルドおよびセイヨウナツユキソウエキスを24時間添加した。
【0100】
ボルドエキスを異なる濃度(2%、1.5%、1%、0.4%〜0.2%)で試験した。このボルドエキスは、ボルド(学名:Peumus boldus)エキスを含むBASF社によって市販されているBetapur(商標)製品に対応している。このBetapur(商標)製品の組成については以下の表1に詳細に記載されている。
【0101】
セイヨウナツユキソウエキスを異なる濃度(1%、0.4%〜0.2%)で試験した。エキスBは、セイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスを含むSilab社によって市販されているDermapur(登録商標)製品に対応している。このDermapur(登録商標)製品の組成については以下の表2に詳細に記載されている。
【0102】
全ての濃度を2回ずつ試験した。その上澄みを回収した後、細胞を溶解し、分子分析のためにmRNAを抽出した。コルモゴロフ・スミルノフ正規性検定を使用した(α=0.05)。全ての結果に対して平均値および95%信頼区間を計算した。対応のあるt検定を用いて各エキスとその対照との差を比較した。p≦0.05の値を有意とみなした。
【0103】
フェーズIに関する結果
【0104】
本研究により以下の点が明らかとなった。
(i)正常なイヌ(健康)からの角化細胞では、単独または組み合わせのBetapur(商標)またはDermapur(登録商標)製品はいずれも、β−デフェンシンcBD103およびカテリシジンcCathの発現を有意に増加させなかった。
(ii)正常なイヌ(健康)からの角化細胞では、Betapur(商標)またはDermapur(登録商標)製品はいずれも、炎症に関与するTNF−α、サイトカインの産生および特に皮膚に対して有意な効果を有していない。
(iii)正常なイヌ(健康)からの角化細胞では、Betapur(商標)製品は、特に好中球を動員するケモカインであるインターロイキン−8(IL−8)の産生に対してどんな有意な効果も有していない。他方、Dermapur(登録商標)製品は1%の濃度において、インターロイキン−8(IL−8)の産生を増加させる。
(iv)図1に示すように、アトピー性のイヌからの角化細胞では、
・0.2%の濃度のDermapur(登録商標)製品、および
・0.1%のBetapur(商標)と組み合わせた0.1%のDermapur(登録商標)の組み合わせを含む組成物
の両方がβ−デフェンシンcBD103の発現を有意に増加させる(それぞれp=0.025およびp=0.028)ことが観察された。他方では特に驚くべきことに、ヒトにおいてヒトβ−デフェンシンhBD−3の発現を刺激することが知られている0.2%の濃度のBetapur(商標)製品は、アトピー性のイヌにおいてβ−デフェンシンcBD103の発現を増加させない。
(v)図2に示すように、アトピー性のイヌから得られた角化細胞では、特に驚くべきことに、ヒトにおいてカテリシジンの細胞合成を刺激することが知られているDermapur(登録商標)製品は、アトピー性のイヌにおいてカテリシジンcCathの発現を減少させる(p=0.0615)ことが観察された。他方、Betapur(登録商標)製品および0.1%のBetapur(商標)と組み合わせた0.1%のDermapur(登録商標)の組み合わせを含む組成物の両方がカテリシジンcCathの発現を増加させることが観察された。
【0105】
フェーズIIに関する結果
【0106】
(vi)最後に、図3および図4に示すように、0.2%のDermapur(登録商標)もしくは0.2%のBetapur(商標)製品または0.1%のBetapur(商標)と組み合わせた0.1%のDermapur(登録商標)を含む組み合わせはいずれも、ケモカインIL−8またはサイトカインTNF−αの増加を引き起こさない。言い換えると、その2種類の製品またはその2種類の製品の組み合わせを含む組成物はいずれも炎症誘発性反応を引き起こさない。
【0107】
実施例2:本発明に係るシャンプー
【0108】
マラセチア・パチデルマティスによる感染を制御するのに特に適した例では、本発明に係る組成物は、生理学的に許容される媒体中にボルド(学名:Peumus boldus)エキスおよびセイヨウナツユキソウ(学名:Spiraea ulmaria)エキスを含むシャンプーである。
【0109】
このシャンプーの使用のために、本出願人は、懸念されている動物の体重に応じて変わる投与される製品の量を決定した。この量は動物の大きさおよび被毛の長さの両方に適合させなければならない。以下の表に記載されている判断基準に従って、本製品を塗布することができる。
【表3】
図1
図2
図3
図4