特許第6507199号(P6507199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6507199
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】細胞破砕
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20190415BHJP
   C12M 1/33 20060101ALI20190415BHJP
   C12N 1/06 20060101ALI20190415BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20190415BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20190415BHJP
   G01N 1/44 20060101ALI20190415BHJP
【FI】
   C12N15/10 Z
   C12M1/33
   C12N1/06
   C12Q1/6844 Z
   G01N1/28 J
   G01N1/44
【請求項の数】19
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-125155(P2017-125155)
(22)【出願日】2017年6月27日
(62)【分割の表示】特願2015-133528(P2015-133528)の分割
【原出願日】2011年6月15日
(65)【公開番号】特開2017-200485(P2017-200485A)
(43)【公開日】2017年11月9日
【審査請求日】2017年6月27日
(31)【優先権主張番号】1009998.4
(32)【優先日】2010年6月15日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】511302220
【氏名又は名称】ビージー リサーチ エルティーディー
【氏名又は名称原語表記】BG RESEARCH LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】ナザレス,ネルソン
(72)【発明者】
【氏名】エッジ,デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ワード,デイヴィッド
【審査官】 高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0258012(US,A1)
【文献】 特表2003−505663(JP,A)
【文献】 特開2002−364980(JP,A)
【文献】 特開2007−260428(JP,A)
【文献】 特開平08−005608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
F25B 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体細胞を破砕して、その中に含まれる核酸物質を遊離させ、前記核酸物質を増幅及び識別する閉管プロセスであって、
i)前記生体細胞及び核酸増幅試薬を含んだ閉管容器を、熱電セルの作用面に対し熱伝導関係となるように配置するステップであって、前記熱電セルのベース面が、水の凍結温度と沸騰温度との間の一定温度に維持される、前記ステップと、
ii)前記熱電セルに電流を適用することで、前記閉管容器内の前記生体細胞の凍結と、前記凍結された生体細胞の解凍とを、1回以上繰り返すことにより、前記閉管容器内の前記生体細胞を破砕して、前記生体細胞中に含まれる前記核酸物質を遊離させるステップと、
iii)前記核酸増幅試薬を前記閉管容器内に残したまま、前記閉管容器内の前記核酸物質を増幅させるステップと、
iv)前記閉管容器内での前記核酸物質の前記増幅を監視して、前記核酸物質を識別するステップと、
を含み、
前記核酸物質を増幅させる前記ステップは、前記閉管容器内の前記核酸物質にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を起こさせることを含み、
前記核酸物質を識別する前記ステップは、前記PCRを監視して、前記核酸物質を識別することを含む、
ことを特徴とするプロセス。
【請求項2】
前記生体細胞の前記凍結及び解凍を繰り返すことは、前記生体細胞の破壊が生じて前記核酸物質が前記生体細胞から遊離されるまで、前記凍結と前記解凍とを繰り返すことを含む、ことを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記生体細胞を破砕することは、前記生体細胞内の浸透圧を変化させることを更に含む、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記PCRを起こさせる前に、前記閉管容器の内容物に熱衝撃を与えることを含む、ことを特徴とする請求項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記凍結及び解凍の終了後に、前記閉管容器内で前記生体細胞を沸騰させることを含む、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
初期に、酵素処理、予め行われる音波処理、酸処理又は塩基処理、及び塩濃度の変更のうちの少なくとも1つを行うことを含む、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記熱電セルの作用面は、前記閉管容器を密着して受容するように適合された容器ホルダーに取り付けられている、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記熱電セルのベース面は、水の凍結温度と沸騰温度との間の一定温度の熱除去モジュールに取り付けられている、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記熱除去モジュールは、一定温度に維持された液体リザーバに結合された迷路状のダクトを有する金属プレートを含む、ことを特徴とする請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記熱電セルは、複数のピラーによって互いに分離された前記ベース面及び前記作用面を有し、前記ベース面は、一定温度に維持された前記熱除去モジュールにフレキシブルに取り付けられており、前記プロセスは、前記熱電セルの極性を反転させて、前記熱電セルの作用面を前記熱除去モジュールの温度よりも低い温度と高い温度に交互に変化させることを含む、ことを特徴とする請求項8又は9に記載のプロセス。
【請求項11】
追加の熱容量を提供するか又は熱源を構成するための抵抗性加熱素子が使用される、ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載のプロセスを実行するための装置であって、
作用面及びベース面を有する熱電セルを備え、前記作用面は、閉管反応容器を密着して受容するように適合された容器ホルダに取り付けられており、前記ベース面は、一定の温度に維持されるように配置された熱除去モジュールにフレキシブルに取り付けられており、前記熱電セルの極性を反転させることにより、前記熱電セルの前記作用面を、前記熱除去モジュールの温度よりも低い温度と高い温度へと交互に変化させる、ことを特徴とする装置。
【請求項13】
前記熱電セルは、複数のピラーによって互いに分離された前記ベース面及び前記作用面を有する、ことを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記複数のピラーはテルル化ビスマスから形成されている、ことを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記熱除去モジュールは、一定の温度に維持された液体リザーバに結合された迷路状の複数のダクトを有する、金属で形成されたプレートを含む、ことを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
前記熱電セルは、低温に維持されるよう前記熱除去モジュール内を通過する接続ワイヤを有する、ことを特徴とする請求項12乃至15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
前記熱電セルの前記ベース面は、熱伝導性を有するフレキシブルな接着剤で前記熱除去モジュールに取り付けられ、前記熱電セルの前記作用面は、熱伝導性を有するフレキシブルな接着剤で前記容器ホルダに取り付けられている、ことを特徴とする請求項12乃至16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
マイクロタイター反応容器ホルダのアレイを備え、その各々が、それ自身に結合されたペルチェセルを有し、かつ、個々に制御可能に配置されている、請求項12乃至17のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
各ペルチェセルの前記ベース面に結合された共通の熱除去モジュール(HRM)を備え、前記HRMは、一定の温度に維持された液体リザーバに結合された迷路状の複数のダクトを有するプレートを含む、ことを特徴とする請求項16に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞膜を破壊することを通して、細胞の成分を遊離するためのプロセスおよび装置に関する。このことは、例えば生物学的反応における考えられるさらなる処理用の一つ以上の細胞成分を収集するために行われる可能性がある。その後の診断解析用に必要とされるのは、しばしば、細胞の核酸(NA)成分である。以降、NAとは、RNAとDNA成分双方のことを称する。本プロセスは、必要に応じて、細胞マトリクスのタンパク質成分を優先的に遊離するように容易に適応させることができる。
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの生物学的反応を実施するために、対象のNA分子をまず精製することが、時折必要とされる。例えば、NAそれ自体は、最初は、細胞膜によって保護された細胞内に含まれる。したがって、NAにPCRを実施するためには、その細胞から、下流(downstream)での抽出および精製ステップ用に適したキャリア液へと、NAを遊離することが必要である。
【背景技術】
【0003】
細胞破砕用に、現在、多くの方法が使用可能である。これらは、酸/塩基分離、酵素分離、音波破砕(超音波による破砕)分離もしくは機械分離を含む。しかしながら、これらは、時間を消費し、そのうちの幾つかは、過度に損傷を与えNA自体に対して破壊的であり、コンタミネーション(汚染)のリスクがあり、最終的に生成される精製NAの質および量に再現性がない原因となる可能性がある。さらには、現存の技術の多くは、自動化には適していない。そのような従来の細胞破砕装置の一例を特許文献1として示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0258012号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DNA抽出は、その後の下流でのプロセスで妨げとなる可能性のある脂肪およびたんぱく質などの、望ましくない細胞成分を除去するために、フェノールおよびグアニジウム塩などの潜在的に危険な化学物質の存在下で頻繁に実施される。このような毒性添加物に依存しない迅速なアプローチが望まれる。
【0006】
温度操作によるDNA抽出は、文献に記述されてきた。NAを遊離する対象細胞の細胞膜を物理的に破砕するための煮沸の使用が記述されてきた。同様に、液体窒素の使用による凍結が、植物材料に関連して特に記述されてきたが、この方法では、ポリサッカライドを含む組織型の細胞膜を、氷結晶の形成により物理的に破砕することが可能である。
【0007】
この細胞溶解方法は、多数の診断アッセイに直接包含するのに適応している。人の血液などの単純な対象から直接核酸配列を増幅するプロセスは、以前から記述されてきた。これらの以前の研究における細胞型は、溶解されやすく、追加ステップは必要なく、細胞内容物による生物学的プロセスの阻害を最小限化するために、バッファリング(緩衝化)プロトコルを最適化する必要がないものである。バクテリア細胞などのより複雑な対象の直接の増幅は記述されておらず、プロテナーゼの添加、および、長く時間のかかる下流での処理を要するはずである。
【0008】
非常に短い期間にNAの遊離を獲得し、同時に、精製DNAの量および質を正確に制御することが大いに望まれる状況が存在する。単純な時間および温度動態に依存するプロセスの操作を介して、このことを可能にすることは価値のあることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、生体細胞を破砕して、その中に含まれる核酸物質を遊離させ、前記核酸物質を増幅及び識別する閉管プロセスを提供する。このプロセスは、i)前記生体細胞及び核酸増幅試薬を含んだ閉管容器を、熱電セルの作用面に対し熱伝導関係となるように配置するステップであって、前記熱電セルのベース面が、水の凍結温度と沸騰温度との間の一定温度に維持される、前記ステップと、ii)前記熱電セルに電流を適用することで、前記閉管容器内の前記生体細胞の凍結と、前記凍結された生体細胞の解凍とを、1回以上繰り返すことにより、前記閉管容器内の前記生体細胞を破砕して、前記生体細胞中に含まれる前記核酸物質を遊離させるステップと、iii)前記核酸増幅試薬を前記閉管容器内に残したまま、前記閉管容器内の前記核酸物質を増幅させるステップと、iv)前記閉管容器内での前記核酸物質の前記増幅を監視して、前記核酸物質を識別するステップと、を含み、このプロセスにおける前記核酸物質を増幅させる前記ステップは、前記閉管容器内の前記核酸物質にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を起こさせることを含み、前記核酸物質を識別する前記ステップは、前記PCRを監視して、前記核酸物質を識別することを含む、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記閉管プロセスを実行するための装置を提供する。この装置は、作用面及びベース面を有する熱電セルを備え、前記作用面は、閉管反応容器を密着して受容するように適合された容器ホルダに取り付けられており、前記ベース面は、一定の温度に維持されるように配置された熱除去モジュールにフレキシブルに取り付けられており、前記熱電セルの極性を反転させることにより、前記熱電セルの前記作用面を、前記熱除去モジュールの温度よりも低い温度と高い温度へと交互に変化させる、ことを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の第一の態様に従い、細胞の破砕用のプロセスが提供される。本プロセスは、熱電セルの作用表面に近接させて細胞を含む材料を配置するステップであって、熱電セルのベース表面は、水の凍結温度と沸騰温度との間の実質的に一定した温度で熱源/ヒートシンクに近接している、ステップと、材料の温度を実質的に変化させるために熱電セルへと電流を適用するステップとを含む。
【0012】
熱電セルは、ペルチェセルであってもよい。
【0013】
一実施形態においては、熱電セル(TEC)はヒートシンクのみに結合され、また、それとは別個の抵抗性ヒータ素子が提供される。本実施形態においては、熱電セルは、したがって冷却するためだけに使用され、それによってTECへの熱的ストレスを減少させる。任意の温度設定点に達することができるように、これら二つの独立した加熱手段および冷却手段は、有利なことに、同一の電子回路によって制御される。望ましいヒータ素子は、容器自体と密接して接触する抵抗性ヒータワイヤ(配線)であってもよく、例えば、熱伝導性を有する容器ホルダの周囲を包囲する抵抗のコイル、または、金属カップなどの熱伝導性を有する中間ホルダを含む。
【0014】
英国特許明細書、整理番号GB110625.1で記述される加熱手段が、代わりに使用されてもよい。
【0015】
本発明のプロセスは、非常に迅速な細胞破砕をすることが可能であり、例えば、実施される熱サイクルのサイクル数、使用されるバッファリングシステム、もし存在する場合には、達成されるべき対象温度、ならびにランピングの生じる速度を変化させることによる操作が可能である。
【0016】
一実施形態においては、第一のステップは、その作用表面における温度を凍結へと低下させることであり、それによって、対象細胞内に氷結晶を形成し、その後、氷を解凍する。別の実施形態においては、温度は、まず沸騰へと上昇させ、サンプルは、その後、冷却される。この後者の実施形態は、細胞が比較的単純である場合に有用である。血液は、この一例である。さらに別の実施形態においては、熱電セルに対する電流を交互に反転させるステップを含みうる熱サイクルが使用され、それによって細胞は、多少周期的に凍結、煮沸される。細胞が沸騰するときに細胞破砕が生じる温度は、概して75℃超であることが理解されるであろう。
【0017】
凍結するステップと煮沸するステップを含む熱サイクルは、複数回繰り返されてもよい。おそらくは熱衝撃にさえなる迅速な熱サイクルは、サンプルの浸透ポテンシャルに有用な変化も与え、それによって、細胞破砕を補助する。ある状況においては、本プロセスは、凍結することのない、もしくは、随時の凍結のみの、いくつかの加熱および冷却サイクルを含むか、または、随時の加熱のみの、もしくは加熱することのない、均等ないくつかの凍結および解凍サイクルを含んでもよい。
【0018】
熱サイクルのタイムスパンは、サンプルのサンプル体積および容器の特性に依存する。サイクル速度は、例えば、氷結晶形成に関連する可能性がある。なぜなら、異なる冷却速度は、異なる寸法の氷結晶を生成し、それが今度は細胞破砕に別様に影響するからである。本プロセスは、NAが遊離される具体的な対象生物、必要とされるNAの所望の収量、必要とされる個々のNAフラグメントの大きさ、その後に実施される下流の任意の診断アッセイの物理的要件などの多数の要因に依存して、個々に最適化されてもよい。この最適化は、温度、時間、サイクル数、ならびにNAがその中に遊離されるキャリア溶媒自体を変化させる形式をとってもよい。
【0019】
本プロセスは、しかしながら、必要に応じて、細胞マトリクスの他のタンパク質成分を遊離するために使用されてもよい。
【0020】
あるサイクルプロセスは、対象細胞内に多くの物理的影響を及ぼす。第一に、沸点まで細胞を加熱することによって、細胞膜の破砕を引き起こし、したがって、抽出マトリクス中への細胞成分の大規模な遊離が引き起こされる。冷却ではなく、加熱するステップが第一のステップであるプロセスは、NAが単純な脂質膜によって包囲されている血液での使用に適している可能性がある。実際に、この状況においては、溶解された材料を冷却する以外に、さらなる冷却ステップは、第一の加熱サイクル後に必要とされえない。しかしながら、加熱するステップだけでは、多数の生物から高品質のNAを得るために十分ではない。なぜならこの状況下では、NAは細胞たんぱく質と結合したままであるからである。その後の凍結するステップは、残存する細胞構造をさらに破砕し、凍結するステップを繰り返すことは、NAに結合したたんぱく質を変性させるのに十分であり、それによって、NAを精製ならびにその後の診断使用のために適したものにする。
【0021】
NAがその中に遊離される液体である抽出マトリクスは、例えば、抽出プロセスの結果を改善するためのものであってもよい。最も単純な形式において、TRIS EDTA(トリスアミノメタン エチレンジアミン四酢酸)などの本技術分野で既知の任意のバッファが、凍結/解凍(凍結及び解凍)を実施するために使用されてもよい。この例では、抽出されるいかなるNAも、直後の下流の処理に適しており、よって、これは望ましい実施形態である。幾つかの対象細胞は、凍結/解凍抽出法に対して耐性がある可能性があり、これらの実施例においては、細胞内容物を溶解するためにさらなる手段を含む必要がありうる。これらは、特に、初期の酵素処理、予め行われる音波処理および酸/塩基処理(酸処理又は塩基処理)を含みうる。しかしながら、任意のさらなる破砕は、例えば、塩濃度および抽出マトリクスの成分を変化させ、さらに、熱サイクルステップを操作することによる、細胞の浸透ポテンシャルの操作によってもたらされることが予想される。酵素処理、酸/塩基処理、塩濃度および抽出マトリクスの成分の変更を包含するようなステップは、本発明のプロセスの前に実施されてもよいし、または、本装置およびプロセスに組み込まれてもよい。
【0022】
このように破砕された細胞からの特定の成分の精製は、その後、単純なアルコールベースの沈殿法などの本技術分野で既知のプロセスを使用して行われてもよいし、または任意の市販の“カラム”ベースのシステムを通されてもよい。これにより、その後、上記NAが、PCRなどのその後の生物学的プロセス用に適切なものとなる。
【0023】
望ましい実施形態においては、このような介在ステップは必要とされず、遊離されたNAは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの下流の生物学的プロセスにおいて使用される。PCRは、この上清用に最適化された酵素とバッファの混合物を用いて実施される。本実施例においては、PCRバッファは、複数の凍結解凍サイクルによって収量にロスがないように最適化され、さらに、細胞内容物による抑制が最小限である溶解媒質である。このような直接的な方法について、文書化された他の手法が存在するが、これらは、血液のような非常に容易に溶解されるサンプルに限定されるものである。記述された発明は、凍結解凍法を介してたんぱく質および複合ポリサッカライドオルガネラを破砕できることによって、非常に広範囲の複合生物からDNAを直接増幅することが可能である。これによって、複数のステップを必要とせず、したがって、未熟練者による操作に適した、単一の閉管容器内で実施されるPCRに基づく迅速な診断を提供することが可能であるという新規の利点をもたらす。
【0024】
本発明に従う破砕プロセスは、容易に自動化することができ、より具体的には、その後の精製およびPCRもしくは他の生物学的プロセスを含みうる閉プロセスとして容易に実施することができる。PCRなどの下流プロセスへと、上述されたように細胞溶解ステップを直接包含するためのプロセスおよび装置を提供することが、本発明の特徴であり、それによって、時間およびそのプロセスの複雑性をさらに軽減する。ほとんどの場合、本プロセスを管などの単一の容器内で実施することができ、中間での精製が行われることなく、PCRもしくは他の生物学的反応が直後に実施されることが、本発明の特に価値のある特徴である。
【0025】
本発明のこの態様に従う方法は、例えば、病原体バクテリアおよびウイルスなどの多様な生物由来のプラスミドならびにゲノムDNAを抽出するのに適した、迅速かつ効率的な溶解方法を提供する。本発明の破砕プロセスは、約1分間以内、確実に5分以内には完了することができ、所望のあらゆる細胞成分、DNA、RNAもしくはとりわけ望まれるたんぱく分画を遊離するために最適化することができる。
【0026】
電圧がTECに対して印加されると、TECを通って流れる電流によって、TECの第一の表面はより暖かくなり、第二の表面はより冷たくなる。電流の流れを反転すると、第一の表面が冷却され、第二の表面が加熱される。したがって、第二の表面もしくはベース表面が沸点と凝固点の間の一定温度を維持し、一方、第一の表面もしくは作用表面が、交互に沸点と凝固点の温度になるという条件で、本発明に従うプロセスにおいて破砕もしくは溶解される細胞を含有するサンプルの加熱と冷却の両方を実施するためにTECを使用することができる。サンプルが水の沸点(摂氏100度)まで加熱されるように電圧がTECに印加されることが好ましく、この沸点で、TECに対する電圧が反転し、サンプルは、摂氏0度もしくはそれ以下の温度に冷却される。
【0027】
しかしながら、このようにTECを使用することに伴う問題の1つは、現状技術のTECにおいては、TECの構造で使用される様々な材料(例えば、セラミック、金属)における熱膨張係数に起因して、すなわち、作用表面の温度変化の結果として作用表面が横方向に膨張、収縮し続ける一方で、ベース表面はその寸法を実質的に維持するといった熱疲労と呼ばれることのある事態に起因して、こうした温度の大規模反転が繰り返されるとデラミネーション(層間剥離)が生じることである。
【0028】
この問題は、本発明の第二の態様で扱われる。
【0029】
本発明の第二の態様に従い、本発明のプロセスを実行するための装置は、複数のピラーによって互いに分離されたベース表面(ベース面)と作用表面(作用面)とを有するTECと、一定の温度に維持されるように配置された熱源/ヒートシンクとを含み、ベース表面は、熱源/ヒートシンクに対してフレキシブルに取り付けられる。この方法においては、作用表面がその温度変化によって膨張ならびに収縮する間、ベース表面は、作用表面とはねじれて膨張ならびに縮小することがあるが、熱源/ヒートシンクからTECが脱離する傾向、もしくはTECが分解される傾向は軽減される。ピラーは、有利には、テルル化ビスマスで形成される。マイクロタイター機器のコンテキストにおいては、ピラーはできる限り短いことが重要である可能性があるが、この場合、こうした電気的接続は、ディレートされた(de-rated)ワイヤと、HRM(熱除去モジュール)と可能な限り近接して結合されたワイヤとで形成されることが最善であることがあり、HRMは、例えば、ワイヤを比較的冷たく維持するためにそこを通過するように配置される。
【0030】
有利には、ベース表面はヒートシンクに取り付けられるが、これ以降は、このヒートシンクをHRMと称することの方が多く、作用表面は反応容器に取り付けられるが、より行われる可能性が高いのは、作用表面を、例えば本発明の細胞破砕がその中で生じる反応容器ホルダに取り付けることである。取付けは、望ましくは、熱伝導性を有する柔軟な接着剤によってなされる。接着剤は、1W/mKよりも大きな熱伝導性、望ましくは10W/mKを超える熱伝導性を有しうる。したがって、TECが金属化された表面を有する場合には、特に、ヒートシンク自体が金属で構成されるときには、ベース表面をヒートシンクに取り付けるために、はんだを使用することが可能である。
【0031】
望ましくは、インジウムベースのものなどの軟質はんだを使用し、その厚さも、自体に加わる熱的ストレスを十分に軽減するようにし、数十ミクロン〜数ミリメートルの任意の厚さにすることができる。はんだの厚さの一貫性を保証するために、はんだ中に、スペーサが設置されてもよい。このようなスペーサは、はんだ接着剤がその液相を形成するときに、ヒートシンクとTECとの間の間隙をこのスペーサによって制御することを保証する。
【0032】
一代替的プロセスおよび装置は、TECを単に加熱もしくは冷却(こちらが行われる可能性の方が高い)のいずれかのために使用し、場合によっては別のヒータもしくはクーラを組み込む。このことで、TECにおける許容できないストレスを回避することができる。加熱の場合においては、適切な構造は、容器を支持するために、自体を通る穴を有するTECを含み、この容器もヒータに包囲されるTECを有することがある。通常、このような構造は、TEC用とヒータ用に異なる給電を必要とする。
【0033】
本特許明細書においては、容器という語は、処理されるべき物質もしくはサンプルを保持することが可能な任意の装置のことを称し、したがって、反応容器は、大抵はシリコンチップもしくはトレーの形状で、ウェル、管(開管もしくは閉管)、スライドを含むこともある。容器の形状にTEC作用表面を作製することが特に好都合であることもあるが、本発明は、ウェル形状のマイクロタイター容器に特に関連する。
【0034】
本発明においては、溶解される細胞を保持するために使用される反応容器は、個々に提供されてもよいし、または線形、長方形、円形アレイもしくは他のアレイ状に提供されてもよい。典型的には、こうしたアレイは、当業者に既知のフォーマットである、標準的なマイクロタイタープレートのフットプリント内に適合するようなものとなる。このフォーマットは、以下のアレイを含むがそのいずれにも限定されるものではない。
3×2反応容器(6反応容器)
6×4反応容器(24反応容器)
12×8反応容器(96反応容器)
24×16反応容器(384反応容器)
48×32反応容器(1536反応容器)
【0035】
本発明の重要な特性に従い、反応容器ごとに少なくとも一つのペルチェ素子を提供してもよく、反応容器は、典型的には3×2アレイもしくはその整数倍のこうした容器のアレイ内の一つである可能性のあるマイクロタイター容器であってもよい。
【0036】
ヒートシンクもしくはHRMは、PCT特許明細書PCT/GB2007/003564に記述されたような装置を含んでもよい。それは、典型的には、適切なファン手段によって一定の温度に維持された液体リザーバに結合された迷路状のダクトを自体の中に有する銅などの金属で形成されたプレートを含みうる。HRMは、従って、容器のアレイに対するベースを形成してもよい。その場合、HRMに位置決めピンもしくはクレネレーション(crenellation)を設けることが好都合であろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本発明の一実施形態は、添付の図面に関連して、例示の目的で、ここに記述される。
図1】TECを介してHRMに取り付けられた容器の概要図である。
図2】HRMへのTECのアレイの取り付けの平面図である。
図3】HRMの概要図である。
図4】本発明を組み込む閉回路デバイスの概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、HRM12に対してペルチェ素子11を介して取り付けられる反応容器10を示す。ペルチェ素子11は、ベースプレート11a、第二のプレート11b、複数のピラー11cならびにフィードワイヤ11dを含む。ペルチェ素子11は、容器10とHRMとの双方に接着剤13で取り付けられ、その厚さはスペーサ14によって管理される。フィードワイヤ11dは、HRM12を通りぬけるが、熱伝導性を有するプラスチック材料15によってHRM12から電気的に絶縁される。
【0039】
図2に示されるように、HRMは、ペルチェ素子11の取付け用のガイドを形成する複数のクレネレーション16を支持する。あるいは、HRMは一連の窪みを有することもあるが、この窪みの中に、反応容器を密接させて取付けることが可能である。
【0040】
上述された装置の使用においては、ある対象生物(生体)材料を容器内に入れ、ヒートシンクを50℃のオーダの温度で維持した場合、ある方向に向けてTECに印加される電流により、容器内の温度が凍結点(凍結温度)よりも下に低減される。このことは、ある場合においては、対象材料の細胞を破砕するのに十分である可能性がある。電流は、その後、反転されて、容器内の温度が沸点(沸騰温度)より上に上昇する。このサイクルは、周期的に繰り返されて、生物学的(生体)材料の細胞の破砕を完了する。その後、PCRが使用され、識別用に特定の細胞成分が増幅される。精製プロセスが、破砕と開始との中間に、必要とされる細胞成分、通常はNA、を分離するために実施されてもよい。
【0041】
図示される特定の実施例においては、ペルチェ素子11は、9mm四方の正方形であって、テルル化ビスマスピラー11cを有する。フィードワイヤ11dはディレートされる。インジウムベースはんだ13は、ペルチェ素子11を容器10およびHRM12に取り付けるために使用される。
【0042】
別の実施形態においては、容器10は、それ自体は反応容器ではなくホルダであって、したがって、マイクロタイター反応容器を密着して支持するように配置される。この手段によって、使い捨て容器のコストを低く抑えることができ、このような標準容器を使用することができる。この状況における理想的なマイクロタイター反応容器の1つは、高い表面積対体積比を有し、ベースが7mm×7mmオーダであり、高さが3から5mmであり、熱伝導性を有するプラスチック材料で形成されるものである。
【0043】
図3は、HRMブロック原理を示しており、この原理では、TECもしくはヒータおよびクーラ素子が、例えば、柔軟でフレキシブルなインジウムはんだによって、ブロックへと取り付けられる。水である可能性もあるが、望ましくは“Fluid XP”(登録商標)などの非導電性媒体である流体が、入口孔を介してブロックを通って流れ、ブロック中の温度を均等にし、それによって、各素子をお互いに対して独立させ、過度の熱を除去し、HRMを対象温度で維持することを可能にする。その後、この予め決められた温度近辺で、ヒータクーラ素子の熱的サイクルを実行し、凍結解凍プロセスの発生のために必要な時間を短縮し、必要なエネルギーを低減する。
【0044】
図4は、加熱/冷却法によるNA抽出の想定される一実施形態を示し、この実施形態は、NA抽出、精製およびその後の増幅を可能にし、また、自己完結型カートリッジもしくは“バイオチップ”で実施することを可能にする。本実施形態の利点は、プロセス全体が閉管環境で実施可能である点であり、これにより、コンタミネーションの可能性を最小限化し、全ステップが単一の器具上で実施することができて消耗できるために、時間と費用とを応分に節約可能である。以下が含まれるプロセスである。
【0045】
1.オペレータは、サンプル(例えば、特定の疾病を患っていることが疑われる患者から採取されたスワブ)を開口6(いったんスワブが挿入されると液体が漏れない)を通して、理想的には、密閉フィルムを適用して、挿入する。システムは、多くの異なる開始材料の使用(例えば、ルアーロック取付けを介したシリンジの使用、もしくはシステム圧力に対する適切な密閉を伴った漏斗型開口を介した‘固体’材料の使用)に対して適合されてもよい。
【0046】
2.サンプルを含む密閉されたコンパートメントは、その後、反応ステーション5への容積式移動によるチャンバー1からのバッファであふれる。そのようにすると、この病原体であると推測される細胞を含むサンプルは、反応チャンバーへと液体として移動する。
【0047】
3.病原体細胞の溶解およびその後のNAの遊離は、本出願で前述されたように、溶解プロセスを支援するために、反応チャンバー5の繰り返しの熱サイクルによって仲介され、チャンバー1内に含まれる流体の成分は、対象病原体および実施されるべき特定のアッセイに依存して変化してもよい。
【0048】
4.特定の一実施形態においては、チャンバー1に含まれるバッファ液は、対象病原体に対して特異的な磁気ビーズを含み、本技術分野で既知の、抗体媒介による手段もしくは直接的なオリゴヌクレオチドハイブリッド形成法のいずれかによって結合する。本ステップについての必要条件は、全体のNAよりも優先して対象NAを優先的に捕捉する必要性か、その後の解析の感度を増加させるための手段として、全ての可能性のある病原体NA分子が単離されることを保証する必要性のいずれかに依存する。
【0049】
5.捕捉用に磁気ビーズを使用する例では、結合した対象NAを有するビーズを結合させる場合に、磁界が、反応チャンバー5に対して印加されてもよい。凍結/解凍から生じる細胞廃棄物は、その後、チャンバー2に含まれる流体によって繰り返し洗浄される。本プロセス由来の廃棄物は、チャンバー4中へと洗い流され、全プロセスは自己完結する。
【0050】
6.最終ステップは、緩やかな加温、チャンバー3に含まれる増幅バッファ中での再懸濁によって、磁気ビーズから結合した核酸を遊離することである。磁気分離が必要とされない場合には、液相における全ての細胞内NA部分は、廃棄へと処分され、チャンバー3によって供給される増幅コンポーネントと結合するために必要とされる量だけが残される。初期の少数の対象分子を検出するために、チャンバー3の内容物が、多数の生物学的増幅プロトコル用に必要な試薬を構成してもよい。望ましい実施形態においては、これは、関心対象である病原体に特異的な蛍光標識されたプライマ分子配列の添加を含む、リアルタイムPCRである。
【0051】
流体チャンバーは、多数の手段によって活性化されてもよい。
【0052】
・容積式移動では、流体チャンバーを圧縮して、反応チャンバーへと流体を押し込む。本方法は、流体を、洗浄ステップもしくは混合ステップのために、必要に応じて、双方向に移動させることができ、廃液を格納するために必要とされる容積がより少ないという利点を含む。
・陽圧。この方法においては、空気が、密封材を通って流体チャンバーへと流入される。この密封材は、カートリッジ挿入によって、針によって穴を開けられ、必要に応じて、空気は、チャンバーから流体を押し出す。密封材は、カートリッジが器具から除去されるときに、セルフシール(自己密閉)するように設計されるべきである。
・陰圧が使用されてもよい。
【0053】
この設計の特性は、望ましい実施形態において、PCRプロセスなどの任意の熱サイクルプロセスを実施するために、凍結/解凍プロセスを制御するTECが引き続き使用されるという利点を提供する。
【符号の説明】
【0054】
1、2、3、4 チャンバー
5 反応チャンバー
6 開口
10 反応容器
11 ペルチェ素子
11a ベースプレート
11b 第二のプレート
11c ピラー
11d フィードワイヤ
12 HRM
13 接着剤
14 スペーサ
15 プラスチック材料
16 クレネーション
図1
図2
図3
図4