【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、生体細胞を破砕して、その中に含まれる核酸物質を遊離させ、前記核酸物質を増幅及び識別する閉管プロセスを提供する。このプロセスは、
i)前記生体細胞及び核酸増幅試薬を含んだ閉管容器を、熱電セルの作用面に対し熱伝導関係となるように配置する
ステップであって、前記熱電セルのベース面が、水の凍結温度と沸騰温度との間の一定温度に維持される、
前記ステップと、
ii)前記熱電セルに電流を適用することで、前記閉管容器内の前記生体細胞の凍結と、前記凍結された生体細胞の解凍とを、1回以上繰り返すことにより、前記閉管容器内の前記生体細胞を破砕して、前記生体細胞中に含まれる前記核酸物質を遊離させる
ステップと、
iii)前記核酸増幅試薬を前記閉管容器内に残したまま、前記閉管容器内の前記核酸物質を増幅させる
ステップと、
iv)前記閉管容器内での前記核酸物質の前記増幅を監視して、前記核酸物質を識別する
ステップと、を
含み、このプロセスにおける前記核酸物質を増幅させる前記ステップは、前記閉管容器内の前記核酸物質にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を起こさせることを含み、前記核酸物質を識別する前記ステップは、前記PCRを監視して、前記核酸物質を識別することを含む、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記閉管プロセスを実行するための装置を提供する。この装置は、作用面及びベース面を有する熱電セルを備え、前記作用面は、閉管反応容器を密着して受容するように適合された容器ホルダに取り付けられており、前記ベース面は、一定の温度に維持されるように配置された熱除去モジュールにフレキシブルに取り付けられており、前記熱電セルの極性を反転させることにより、前記熱電セルの前記作用面を、前記熱除去モジュールの温度よりも低い温度と高い温度へと交互に変化させる、ことを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の第一の態様に従い、細胞の破砕用のプロセスが提供される。本プロセスは、熱電セルの作用表面に近接させて細胞を含む材料を配置するステップであって、熱電セルのベース表面は、水の凍結温度と沸騰温度との間の実質的に一定した温度で熱源/ヒートシンクに近接している、ステップと、材料の温度を実質的に変化させるために熱電セルへと電流を適用するステップとを含む。
【0012】
熱電セルは、ペルチェセルであってもよい。
【0013】
一実施形態においては、熱電セル(TEC)はヒートシンクのみに結合され、また、それとは別個の抵抗性ヒータ素子が提供される。本実施形態においては、熱電セルは、したがって冷却するためだけに使用され、それによってTECへの熱的ストレスを減少させる。任意の温度設定点に達することができるように、これら二つの独立した加熱手段および冷却手段は、有利なことに、同一の電子回路によって制御される。望ましいヒータ素子は、容器自体と密接して接触する抵抗性ヒータワイヤ(配線)であってもよく、例えば、熱伝導性を有する容器ホルダの周囲を包囲する抵抗のコイル、または、金属カップなどの熱伝導性を有する中間ホルダを含む。
【0014】
英国特許明細書、整理番号GB110625.1で記述される加熱手段が、代わりに使用されてもよい。
【0015】
本発明のプロセスは、非常に迅速な細胞破砕をすることが可能であり、例えば、実施される熱サイクルのサイクル数、使用されるバッファリングシステム、もし存在する場合には、達成されるべき対象温度、ならびにランピングの生じる速度を変化させることによる操作が可能である。
【0016】
一実施形態においては、第一のステップは、その作用表面における温度を凍結へと低下させることであり、それによって、対象細胞内に氷結晶を形成し、その後、氷を解凍する。別の実施形態においては、温度は、まず沸騰へと上昇させ、サンプルは、その後、冷却される。この後者の実施形態は、細胞が比較的単純である場合に有用である。血液は、この一例である。さらに別の実施形態においては、熱電セルに対する電流を交互に反転させるステップを含みうる熱サイクルが使用され、それによって細胞は、多少周期的に凍結、煮沸される。細胞が沸騰するときに細胞破砕が生じる温度は、概して75℃超であることが理解されるであろう。
【0017】
凍結するステップと煮沸するステップを含む熱サイクルは、複数回繰り返されてもよい。おそらくは熱衝撃にさえなる迅速な熱サイクルは、サンプルの浸透ポテンシャルに有用な変化も与え、それによって、細胞破砕を補助する。ある状況においては、本プロセスは、凍結することのない、もしくは、随時の凍結のみの、いくつかの加熱および冷却サイクルを含むか、または、随時の加熱のみの、もしくは加熱することのない、均等ないくつかの凍結および解凍サイクルを含んでもよい。
【0018】
熱サイクルのタイムスパンは、サンプルのサンプル体積および容器の特性に依存する。サイクル速度は、例えば、氷結晶形成に関連する可能性がある。なぜなら、異なる冷却速度は、異なる寸法の氷結晶を生成し、それが今度は細胞破砕に別様に影響するからである。本プロセスは、NAが遊離される具体的な対象生物、必要とされるNAの所望の収量、必要とされる個々のNAフラグメントの大きさ、その後に実施される下流の任意の診断アッセイの物理的要件などの多数の要因に依存して、個々に最適化されてもよい。この最適化は、温度、時間、サイクル数、ならびにNAがその中に遊離されるキャリア溶媒自体を変化させる形式をとってもよい。
【0019】
本プロセスは、しかしながら、必要に応じて、細胞マトリクスの他のタンパク質成分を遊離するために使用されてもよい。
【0020】
あるサイクルプロセスは、対象細胞内に多くの物理的影響を及ぼす。第一に、沸点まで細胞を加熱することによって、細胞膜の破砕を引き起こし、したがって、抽出マトリクス中への細胞成分の大規模な遊離が引き起こされる。冷却ではなく、加熱するステップが第一のステップであるプロセスは、NAが単純な脂質膜によって包囲されている血液での使用に適している可能性がある。実際に、この状況においては、溶解された材料を冷却する以外に、さらなる冷却ステップは、第一の加熱サイクル後に必要とされえない。しかしながら、加熱するステップだけでは、多数の生物から高品質のNAを得るために十分ではない。なぜならこの状況下では、NAは細胞たんぱく質と結合したままであるからである。その後の凍結するステップは、残存する細胞構造をさらに破砕し、凍結するステップを繰り返すことは、NAに結合したたんぱく質を変性させるのに十分であり、それによって、NAを精製ならびにその後の診断使用のために適したものにする。
【0021】
NAがその中に遊離される液体である抽出マトリクスは、例えば、抽出プロセスの結果を改善するためのものであってもよい。最も単純な形式において、TRIS EDTA(トリスアミノメタン エチレンジアミン四酢酸)などの本技術分野で既知の任意のバッファが、凍結/解凍
(凍結及び解凍)を実施するために使用されてもよい。この例では、抽出されるいかなるNAも、直後の下流の処理に適しており、よって、これは望ましい実施形態である。幾つかの対象細胞は、凍結/解凍抽出法に対して耐性がある可能性があり、これらの実施例においては、細胞内容物を溶解するためにさらなる手段を含む必要がありうる。これらは、特に、初期の酵素処理、予め行われる音波処理
、および酸/塩基処理
(酸処理又は塩基処理)を含みうる。しかしながら、任意のさらなる破砕は、例えば、塩濃度および抽出マトリクスの成分を変化させ、さらに、熱サイクルステップを操作することによる、細胞の浸透ポテンシャルの操作によってもたらされることが予想される。酵素処理、酸/塩基処理、塩濃度および抽出マトリクスの成分の変更を包含するようなステップは、本発明のプロセスの前に実施されてもよいし、または、本装置およびプロセスに組み込まれてもよい。
【0022】
このように破砕された細胞からの特定の成分の精製は、その後、単純なアルコールベースの沈殿法などの本技術分野で既知のプロセスを使用して行われてもよいし、または任意の市販の“カラム”ベースのシステムを通されてもよい。これにより、その後、上記NAが、PCRなどのその後の生物学的プロセス用に適切なものとなる。
【0023】
望ましい実施形態においては、このような介在ステップは必要とされず、遊離されたNAは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの下流の生物学的プロセスにおいて使用される。PCRは、この上清用に最適化された酵素とバッファの混合物を用いて実施される。本実施例においては、PCRバッファは、複数の凍結解凍サイクルによって収量にロスがないように最適化され、さらに、細胞内容物による抑制が最小限である溶解媒質である。このような直接的な方法について、文書化された他の手法が存在するが、これらは、血液のような非常に容易に溶解されるサンプルに限定されるものである。記述された発明は、凍結解凍法を介してたんぱく質および複合ポリサッカライドオルガネラを破砕できることによって、非常に広範囲の複合生物からDNAを直接増幅することが可能である。これによって、複数のステップを必要とせず、したがって、未熟練者による操作に適した、単一の閉管容器内で実施されるPCRに基づく迅速な診断を提供することが可能であるという新規の利点をもたらす。
【0024】
本発明に従う破砕プロセスは、容易に自動化することができ、より具体的には、その後の精製およびPCRもしくは他の生物学的プロセスを含みうる閉プロセスとして容易に実施することができる。PCRなどの下流プロセスへと、上述されたように細胞溶解ステップを直接包含するためのプロセスおよび装置を提供することが、本発明の特徴であり、それによって、時間およびそのプロセスの複雑性をさらに軽減する。ほとんどの場合、本プロセスを管などの単一の容器内で実施することができ、中間での精製が行われることなく、PCRもしくは他の生物学的反応が直後に実施されることが、本発明の特に価値のある特徴である。
【0025】
本発明のこの態様に従う方法は、例えば、病原体バクテリアおよびウイルスなどの多様な生物由来のプラスミドならびにゲノムDNAを抽出するのに適した、迅速かつ効率的な溶解方法を提供する。本発明の破砕プロセスは、約1分間以内、確実に5分以内には完了することができ、所望のあらゆる細胞成分、DNA、RNAもしくはとりわけ望まれるたんぱく分画を遊離するために最適化することができる。
【0026】
電圧がTECに対して印加されると、TECを通って流れる電流によって、TECの第一の表面はより暖かくなり、第二の表面はより冷たくなる。電流の流れを反転すると、第一の表面が冷却され、第二の表面が加熱される。したがって、第二の表面もしくはベース表面が沸点と凝固点の間の一定温度を維持し、一方、第一の表面もしくは作用表面が、交互に沸点と凝固点の温度になるという条件で、本発明に従うプロセスにおいて破砕もしくは溶解される細胞を含有するサンプルの加熱と冷却の両方を実施するためにTECを使用することができる。サンプルが水の沸点(摂氏100度)まで加熱されるように電圧がTECに印加されることが好ましく、この沸点で、TECに対する電圧が反転し、サンプルは、摂氏0度もしくはそれ以下の温度に冷却される。
【0027】
しかしながら、このようにTECを使用することに伴う問題の1つは、現状技術のTECにおいては、TECの構造で使用される様々な材料(例えば、セラミック、金属)における熱膨張係数に起因して、すなわち、作用表面の温度変化の結果として作用表面が横方向に膨張、収縮し続ける一方で、ベース表面はその寸法を実質的に維持するといった熱疲労と呼ばれることのある事態に起因して、こうした温度の大規模反転が繰り返されるとデラミネーション(層間剥離)が生じることである。
【0028】
この問題は、本発明の第二の態様で扱われる。
【0029】
本発明の第二の態様に従い、本発明のプロセスを実行するための装置は、複数のピラーによって互いに分離されたベース表面(ベース面)と作用表面(作用面)とを有するTECと、一定の温度に維持されるように配置された熱源/ヒートシンクとを含み、ベース表面は、熱源/ヒートシンクに対してフレキシブルに取り付けられる。この方法においては、作用表面がその温度変化によって膨張ならびに収縮する間、ベース表面は、作用表面とはねじれて膨張ならびに縮小することがあるが、熱源/ヒートシンクからTECが脱離する傾向、もしくはTECが分解される傾向は軽減される。ピラーは、有利には、テルル化ビスマスで形成される。マイクロタイター機器のコンテキストにおいては、ピラーはできる限り短いことが重要である可能性があるが、この場合、こうした電気的接続は、ディレートされた(de-rated)ワイヤと、HRM(熱除去モジュール)と可能な限り近接して結合されたワイヤとで形成されることが最善であることがあり、HRMは、例えば、ワイヤを比較的冷たく維持するためにそこを通過するように配置される。
【0030】
有利には、ベース表面はヒートシンクに取り付けられるが、これ以降は、このヒートシンクをHRMと称することの方が多く、作用表面は反応容器に取り付けられるが、より行われる可能性が高いのは、作用表面を、例えば本発明の細胞破砕がその中で生じる反応容器ホルダに取り付けることである。取付けは、望ましくは、熱伝導性を有する柔軟な接着剤によってなされる。接着剤は、1W/mKよりも大きな熱伝導性、望ましくは10W/mKを超える熱伝導性を有しうる。したがって、TECが金属化された表面を有する場合には、特に、ヒートシンク自体が金属で構成されるときには、ベース表面をヒートシンクに取り付けるために、はんだを使用することが可能である。
【0031】
望ましくは、インジウムベースのものなどの軟質はんだを使用し、その厚さも、自体に加わる熱的ストレスを十分に軽減するようにし、数十ミクロン〜数ミリメートルの任意の厚さにすることができる。はんだの厚さの一貫性を保証するために、はんだ中に、スペーサが設置されてもよい。このようなスペーサは、はんだ接着剤がその液相を形成するときに、ヒートシンクとTECとの間の間隙をこのスペーサによって制御することを保証する。
【0032】
一代替的プロセスおよび装置は、TECを単に加熱もしくは冷却(こちらが行われる可能性の方が高い)のいずれかのために使用し、場合によっては別のヒータもしくはクーラを組み込む。このことで、TECにおける許容できないストレスを回避することができる。加熱の場合においては、適切な構造は、容器を支持するために、自体を通る穴を有するTECを含み、この容器もヒータに包囲されるTECを有することがある。通常、このような構造は、TEC用とヒータ用に異なる給電を必要とする。
【0033】
本特許明細書においては、容器という語は、処理されるべき物質もしくはサンプルを保持することが可能な任意の装置のことを称し、したがって、反応容器は、大抵はシリコンチップもしくはトレーの形状で、ウェル、管(開管もしくは閉管)、スライドを含むこともある。容器の形状にTEC作用表面を作製することが特に好都合であることもあるが、本発明は、ウェル形状のマイクロタイター容器に特に関連する。
【0034】
本発明においては、溶解される細胞を保持するために使用される反応容器は、個々に提供されてもよいし、または線形、長方形、円形アレイもしくは他のアレイ状に提供されてもよい。典型的には、こうしたアレイは、当業者に既知のフォーマットである、標準的なマイクロタイタープレートのフットプリント内に適合するようなものとなる。このフォーマットは、以下のアレイを含むがそのいずれにも限定されるものではない。
3×2反応容器(6反応容器)
6×4反応容器(24反応容器)
12×8反応容器(96反応容器)
24×16反応容器(384反応容器)
48×32反応容器(1536反応容器)
【0035】
本発明の重要な特性に従い、反応容器ごとに少なくとも一つのペルチェ素子を提供してもよく、反応容器は、典型的には3×2アレイもしくはその整数倍のこうした容器のアレイ内の一つである可能性のあるマイクロタイター容器であってもよい。
【0036】
ヒートシンクもしくはHRMは、PCT特許明細書PCT/GB2007/003564に記述されたような装置を含んでもよい。それは、典型的には、適切なファン手段によって一定の温度に維持された液体リザーバに結合された迷路状のダクトを自体の中に有する銅などの金属で形成されたプレートを含みうる。HRMは、従って、容器のアレイに対するベースを形成してもよい。その場合、HRMに位置決めピンもしくはクレネレーション(crenellation)を設けることが好都合であろう。