(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態1>
以下、本発明の第1の実施形態(実施形態1)について図を用いて説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係る整合器10の構成図である。
図1の構成のうち、背景技術の
図7と同一構成には、同一の符号を付しており、適宜説明を省略する。
【0022】
整合器10は、進行波と反射波とを検出する方向性結合器11と、高周波電源装置2とプラズマ処理装置3との間でインピーダンスを整合させる整合素子を有する整合回路30と、整合器10の整合素子の回路定数を制御するための制御部20と、記憶部25と、を含むように構成される。
【0023】
図2において前述したように、整合回路30は、入力端子30aと、出力端子30bと、一端が伝送線路35を介して入力端子30aに接続され他端が接地された第1の可変容量コンデンサ31と、一端が伝送線路36を介して出力端子30bに接続され他端が接地された第2の可変容量コンデンサ32と、一端が第1の可変容量コンデンサ31の前記一端に接続され他端が第2の可変容量コンデンサ32の前記一端に接続されたインダクタンス33と、を有する。
【0024】
制御部20は、反射係数演算部21と、容量演算部22と、容量設定部23とを含むように構成される。前述したように、制御部20は、方向性結合器11で検出した進行波と反射波とに基づき、反射係数を算出し、該反射係数を用いて、第1の可変容量コンデンサ31の容量値と第2の可変容量コンデンサ32の容量値とを制御する。記憶部25は、後述する整合円の情報等を記憶する。
整合器10が背景技術の整合器100と異なる点は、容量演算部22の処理内容、つまり、整合回路30の可変容量コンデンサ31の容量VC1および可変容量コンデンサ32の容量VC2の制御方法と、円の情報を記憶する記憶部25が追加された点である。他の構成は、背景技術の整合器100と同じである。
【0025】
ここで、整合円の情報とは、スミスチャート上で整合点(反射係数Γの実部と虚部がゼロの点)を通過する反射係数Γの軌跡が描く円である整合円の情報であって、円の位置や大きさに関する情報である。この整合円の情報は、伝送線路35の条件、つまり伝送線路35の特性インピーダンスZ
Lや線路長Lに基づき、決定されることが知られている。
【0026】
容量演算部22は、反射係数演算部21で算出された反射係数Γと、記憶部25に記憶している整合円の情報とに基づき、算出された反射係数Γに対応する整合回路30の可変容量コンデンサ31の容量VC1および変容量コンデンサ32の容量VC2を算出する。つまり、算出された反射係数Γを小さくするようなVC1とVC2を算出する。
【0027】
詳しくは、容量演算部22は、反射係数演算部21で算出される反射係数Γが、記憶部25に記憶している整合円に接近するように、整合回路30の可変容量コンデンサ32の容量VC2を算出する。そして、容量設定部23は、上記算出した容量になるよう、可変容量コンデンサ32の容量値VC2を変更する。これにより、容量設定部23は、反射係数Γを、前記整合円上に位置させる。
【0028】
その後、容量演算部22は、反射係数演算部21で算出される反射係数Γが小さくなるように、整合回路30の可変容量コンデンサ31の容量VC1を算出する。そして、容量設定部23は、上記算出した容量になるよう、可変容量コンデンサ31の容量値VC1を変更する。これにより、容量設定部23は、反射係数Γを、整合点(反射係数Γが0の点)に位置させる。
【0029】
記憶部25には、伝送線路35に応じた整合円の情報が、予め記憶されている。この円の情報(位置と大きさ)は、前述したように、伝送線路35の条件、つまり伝送線路35の特性インピーダンスZ
Lや線路長Lに基づき決定される。例えば、伝送線路35が、無視できるほどに短い場合は、整合円は、後述する
図3に示すR1となる。また、伝送線路35が、特性インピーダンスが50Ωで、線路長がλ/4である場合は、整合円は、後述する
図4に示すR2や、
図5に示すR3となる。
【0030】
ここで、本実施形態の整合アルゴリズムの考え方を説明する。
あるプラズマ負荷のときに、高周波電源装置2とプラズマ処理装置3との間のインピーダンスが整合する(つまり反射係数Γが0)ときのVC1とVC2の値を、VC1=X、VC2=Yとする。説明を解り易くするために、整合する条件であるVC1=X、VC2=Yの状態から、VC1の容量を変えたときの、整合回路30の入力インピーダンスの軌跡、つまり、反射係数Γの軌跡を
図3のスミスチャートに示す。この場合、伝送線路35は、進行波や反射波の波長λに比べ、無視できるほど短いものとする。
【0031】
図3において、VC1の容量を変えると、反射係数Γの軌跡は、整合がとれている状態であるF点と、G点とを結ぶ線分を直径とする整合円R1を描く。F点における反射係数Γは、その虚部(Γi)がゼロであり、その実部(Γr)がゼロである(整合器10の入力インピーダンスは50Ω)。G点における反射係数Γは、その虚部がゼロであり、その実部が−1である。
【0032】
詳しくは、
図3において、整合がとれている状態(F点)でVC1の容量を増やすと、反射係数Γは、整合円R1上をF点からA点の方向に動く。また、VC1の容量を減らすと、整合円R1上をF点からB点の方向に動く。このことは、可変容量コンデンサ31,32とインダクタンス33とを含む
図2のπ型整合回路30において、可変容量コンデンサ31、32がグランドに接続(接地)されているときのインピーダンス軌跡として、一般的に知られているため、詳細な説明は割愛する。
【0033】
図3では、伝送線路35が無視できる場合を示したが、現実には無視できないこともある。
図4のスミスチャートに、伝送線路35の特性インピーダンスが50Ωで線路長がλ/4の場合の、反射係数Γの軌跡を示す。
図4において、反射係数Γの軌跡は、整合がとれている状態であるF点と、H点とを結ぶ線分を直径とする整合円R2を描くことが知られている。H点における反射係数Γは、その虚部がゼロであり、その実部が1である(整合器10の入力インピーダンスは無限大)。
【0034】
図2の整合回路30において、伝送線路35の右端から見た入力インピーダンスをZ
1とし、伝送線路35の左端から見た入力インピーダンスをZ
2とすると、Z
2は、次の(数4)により決まる。(数4)において、Z
1は、伝送線路35が無視できる場合(
図3)の入力インピーダンスであり、Z
2は、伝送線路35が無視できない場合(
図4)の入力インピーダンスである。伝送線路35が無視できない場合(
図4)、
図3の円R1は、
図4の整合円R2になる。
【0036】
このように、
図4の軌跡は、特性インピーダンスが50Ωで線路長がλ/4の伝送線路35を挿入しているため、
図3の軌跡において、反射係数Γの実部と虚部がゼロの点(F点)を中心にして、180°回転した状態になる。よって、
図4において、整合がとれている状態(F点)でVC1の容量を増やすと、反射係数Γは、整合円R2上をA´点の方向(反射係数Γの虚部が正の方向)に動く。また、VC1の容量を減らすと、反射係数Γは、整合円R2上をB´点の方向(反射係数Γの虚部が負の方向)に動く。すなわち、
図4の整合円R2上において、反射係数Γの虚部が正の場合は、VC1が整合値Xよりも大きく、反射係数Γの虚部が負の場合は、VC1が整合値Xよりも小さい。
【0037】
このように、
図4では、整合点(F点)において、VC1を増加、又は減少させると、反射係数Γは、整合円R2を描くような軌跡をたどる。このことは、VC2が整合値にある状態で、VC1を変えると、反射係数Γは、
図4で示した整合円R2上を移動することを示している。従って、まず、反射係数Γが
図4の整合円R2上にのるようにVC2を制御し、その後、反射係数Γが0になるように、VC1を制御すればよいことが解る。
【0038】
図5は、
図4と同様の整合回路30の場合、つまり、伝送線路35の特性インピーダンスが50Ωで線路長がλ/4の場合において、本発明の実施形態に係るインピーダンス整合を行う際における、反射係数Γの軌跡を示すスミスチャートである。C点は、プラズマ負荷がある入力インピーダンス値にある場合において、VC1とVC2が初期値(例えば、可変容量コンデンサの最小値)のときの、反射係数Γである。
【0039】
まず、制御部20は、反射係数Γが、VC1とVC2の初期値のC点から、整合円R3に接するD点に達するまで、VC2のみを増やす。整合円R3は、
図4の整合円R2と同じである。整合円R3の情報は、記憶部25に記憶されている。反射係数Γが、整合円R3に接するD点に到達すると、VC2は、整合時の容量であるYとなる。この状態では、VC2は、整合値に制御されているが、VC1は初期値のままである。そこで、制御部20は、次にVC1を増やしていく。VC1を増やすと、前述したように、反射係数Γは、整合円R3上を移動する。したがって、VC1を増やしていき、反射係数Γが0になるところで、VC1の増加を止めればよい。そのときのVC1は、整合時の容量であるXとなる。
【0040】
図5の軌跡は、プラズマ負荷の入力インピーダンスがある値にある場合の一例であるが、プラズマ負荷の入力インピーダンスが変われば、当然、C点やD点の位置は変化する。ただし、VC2が整合時の容量である場合に、反射係数Γが円R3上にあることは変わらない。
【0041】
また、
図5のC点の場合は、VC1とVC2の初期値として、可変容量コンデンサの最小値を選んでいるが、可変容量コンデンサの最大値でもよく、また、その他の値でもよい。その場合、当然、C点の位置は変わる。しかし、VC1とVC2の初期値が何れの値であっても、VC2が整合時の値になっていれば、VC1を変えたときに、反射係数Γが整合円R3上を移動するという現象は変わらない。
【0042】
よって、反射係数Γが整合円R3に接するまで、VC2のみを制御し、整合円R3に接した後は、VC1のみを制御するという、制御部20の動作は変わらない。VC2の制御において、VC2が整合値であるYよりも大きいときは、反射係数Γが整合円R3の外にあるので、VC2を減らすことにより、反射係数Γが整合円R3に接するように制御する。逆に、VC2が整合値であるYよりも小さいときは、反射係数Γが整合円R3の内にあるので、VC2を増やすことにより、反射係数Γが整合円R3に接するように制御する。
【0043】
そして、反射係数Γが整合円R3に接するようにVC2を制御した後、VC1を次のように制御する。すなわち、反射係数Γの虚数部が正の場合は、VC1が整合値であるXよりも大きい値の場合であるので、VC1を減らすことにより、反射係数Γが0になるよう制御する。逆に、反射係数Γの虚数部が負の場合は、VC1がXよりも小さい場合なので、VC1を増やすことにより、反射係数Γが0になるよう制御する。
【0044】
また、プラズマ負荷の入力インピーダンスが、VC1とVC2を制御している途中に変化した場合においても、上述したようにVC2とVC1を制御する。すなわち、反射係数Γが整合円R3に接するようにVC2を制御した後、VC1を制御する。
【0045】
なお、
図4や
図5の説明では、
図2の整合回路30において、伝送線路35の特性インピーダンスが50Ωで、線路長がλ/4の条件である場合を例として説明したが、本発明は、これらの条件である場合に限られない。伝送線路35の条件が上記の条件と異なれば、VC2が整合時の容量であるという条件下においてVC1を変えた場合の円の軌跡は、
図4や
図5で示した整合円R3の軌跡とは異なるので、前述した(数4)により、伝送線路35の条件に合わせた円の軌跡を設定すればよい。
【0046】
図6は、本発明の実施形態1に係るインピーダンス整合の処理フローチャートである。この処理は、制御部20において実行される。
先ず、初期設定として、
図4や
図5で示した整合円の情報(スミスチャート上の位置と大きさ)を、記憶部25に記憶し保存する(
図6のステップS1)。上述したように、この整合円の情報は、伝送線路35によって決まるため、整合回路30に応じた情報を与える必要がある。また、ステップS1では、VC1とVC2の初期値も設定する。
【0047】
次に、そのときの反射係数Γを、方向性結合器11から得られた進行波Pfと反射波Prから演算する(ステップS2)。次に、反射係数Γの絶対値と予め定めた所定値Lとを比較する(ステップS3)。反射係数Γの絶対値がL以下である場合は(ステップS3でYes)、ステップS2に戻り、方向性結合器11から進行波Pfと反射波Prを取得して、再度、そのときの反射係数Γを演算する。
【0048】
反射係数Γの絶対値がLよりも大きい場合は(ステップS3でNo)、ステップS4に進む。このLは、整合がとれたことを判断するための閾値であり、理想的には0であるが、現実的には、反射係数Γを0にするのは困難であるため、ある閾値Lを設けて判断する。このLは、高周波電源装置2の耐反射電力や、高周波電源装置2を使うプラズマ処理装置3の要求仕様によって決定される値である。
【0049】
ステップS4では、初期設定(ステップS1)で定義した整合円上に反射係数Γがあるか否かを判定するため、記憶部25から整合円の情報を取得し、反射係数Γと整合円との距離の最小値Pを演算する。この値Pが予め定めた所定の閾値Mよりも大きい場合は(ステップS5でYes)、VC2が整合値でないので、VC2を変更するように制御する。具体的には、反射係数Γが整合円上にないと判定し、ステップS6に進む。このMも、理想的には0であるが、現実には0にするのは困難であるため、所定の値に設定する。
このように、閾値Mを設定することにより、負荷がプラズマのようなゆらぎを持つ場合において、VC2の切り替え毎に整合円の円周上にのったり、はずれたりするハンチングを抑制できる。
【0050】
Pが所定の閾値M以下の場合は(ステップS5でNo)、VC2が整合値であるので、VC2を変更する必要はない。そこで、VC1(つまり可変容量コンデンサ31)の制御動作へ進む。すなわち、反射係数Γが整合円上にあると判定し、ステップS10に進む。
【0051】
ステップS6では、VC2(つまり可変容量コンデンサ32)を制御する方向を判断するため、反射係数Γが整合円よりも内側にあるか否かを判定する。反射係数Γが整合円の内側にある場合は(ステップS6でYes)、VC2がYよりも小さいので、VC2を増やす(ステップS7)。反射係数Γが整合円の外側にある場合は(ステップS6でNo)、VC2がYよりも大きいので、VC2を減らす(ステップS8)。このとき、減らす量、増やす量は予め設定しておけばよい。
【0052】
こうして、ステップS2からステップS7又はS8までの処理を繰り返すことにより、Pを所定の閾値M以下とすることができる、つまり、ほぼ整合円上に反射係数Γをのせることができる。こうして、ステップS5において、PがM以下であると判定されると、ステップS10に進み、VC1(つまり可変容量コンデンサ31)の制御動作を行う。
【0053】
ステップS10では、反射係数Γの虚部が負であるか否かを判定、つまり、VC1がXより小さいか否かを判定する。前述したように、反射係数Γの虚部が負の場合は、VC1がXよりも小さく、反射係数Γの虚部が正の場合は、VC1がXよりも大きい。したがって、反射係数Γの虚部が負である場合は(ステップS10でYes)、VC1を増やす。反射係数Γの虚部が正である場合は(ステップS10でNo)、VC1を減らす。こうして、VC1を変更することにより、反射係数Γをゼロに近づける。このときの増減の量も予め設定しておく。
【0054】
なお、VC2が所定値よりも小さい場合、例えば、
図2の整合回路30においてVC2が10pF未満の場合は、反射係数Γが整合円に乗ったときにVC1制御に切替えても、反射係数Γは整合点に到達しないことが、経験的に解っている。したがって、このような場合は、VC2を所定値以上となるまで徐々に大きくしていき、VC2が上記所定値以上となった後、
図6の整合処理を行う。なお、上記所定値は、整合回路30のインダクタンス33の値により変わるが、予め実験を行うことにより、取得することができる。
【0055】
図8は、実施形態1の整合回路30において、VC1を固定しVC2を変えたときの反射係数の軌跡を示す図である。つまり、VC1を固定した状態でVC2を変化させたグラフを、VC1の値を変えて、複数作成したものである。
図8の例では、まず、VC1を6pFに固定し、VC2を6pFから次第に増大させていく。このとき、反射係数Γは、
図8上の初期値Psから次第に移動し、H点(実部が1、虚部が0)付近で整合円R4に到達する軌跡を描く。こうして、VC1を次第に大きい値に固定しながら、VC2を6pFから増大させていく処理を繰り返すと、反射係数Γが整合円R4に到達する点は、整合円R4の円周上を、時計回り方向に移動する。
【0056】
例えば、VC1を十数pFに固定し、VC2を6pFから次第に増大させていくと、反射係数Γは、
図8上の初期値Psから次第に移動し、P82で整合円R4に到達する円弧状の軌跡を描く。このとき、反射係数Γの軌跡は、初期値Psから出発し、P81で整合円R4に到達した後、整合円R4を通過し、P82に到達する。P81におけるVC2は10pF未満であり、P82におけるVC2は10pF以上である。したがって、P81においてはVC1制御に移行せず、P82においてVC1制御に移行する。
【0057】
このように、整合処理開始時点のVC2が所定値よりも小さい場合(
図2の整合回路30の場合は10pF未満の場合)は、上記所定値以上となるまで、VC2を徐々に大きくしていき、VC2が上記所定値以上となった後、
図6の整合処理を行うことが必要である。なお、整合処理開始時点のVC2を一挙に上記所定値以上とせず、VC2を徐々に大きくしていく理由は、このようにしないと、負荷のプラズマ着火が上手くいかないためである。
【0058】
以上説明したように、制御部20は、方向性結合器11で検出した進行波と反射波とに基づき、反射係数を算出し、スミスチャート上で整合点を通過する反射係数の軌跡が描く整合円と、前記算出された反射係数との間の距離が第1の値より大きい場合は、第2の可変容量コンデンサ32の容量値を変更し、前記算出される反射係数を変更することにより、前記距離を第1の値以内とし、前記距離が第1の値以内になると、第1の可変容量コンデンサ31の容量値を変更し、前記距離を変えることなく、前記算出される反射係数を第2の値より小さくする。
【0059】
実施形態1によれば、少なくとも次の効果を奏する。
(A1)スミスチャート上で整合点を通過する反射係数の軌跡が描く整合円と、算出された反射係数との間の距離が予め定めた第1の値より大きい場合は、第2の可変容量コンデンサの容量値を変更し、算出される反射係数を変更することにより、前記距離を前記第1の値以内とし、前記距離が前記第1の値以内になると、第1の可変容量コンデンサの容量値を変更し、算出される反射係数を予め定めた第2の値より小さくするように構成したので、整合目標に収束することが容易となる。
【0060】
<円整合の特性>
実施形態1に係るインピーダンス整合では、整合点((U,V)=(0,0))を通るVC1の軌跡(VC1を制御するときの反射係数Γの軌跡)と、各負荷におけるVC2の制御(動作)にまったく同じ規則性がある。ここで、Uは反射係数Γの実数部で、Vは虚数部である。すなわち、負荷が異なっても、VC2のみ制御して、反射係数Γを整合円の円周上にのせた後、VC1の制御へ切り替えれば、反射係数Γは必ず(U,V)=(0,0)に向かう(この動作を円整合という。)。
【0061】
しかし、実施形態1の円整合の場合、次の(1)〜(2)のような動作が起こる可能性がある。
(1)VC2制御のみで整合円の円周上に乗せようとする場合、負荷インピーダンスによっては、整合点から遠ざかるところまで移動して円周上に乗り、再び整合点に向かって戻ってくるというような無駄な動作となることがある。この動作は、動作的、時間的に無駄であるだけでなく、インピーダンスが悪化するため、整合動作途中でプラズマ着火が起きた場合などは、この動作によりプラズマが失火する恐れがある。
(2)VC1制御により整合円の円周上を整合点に向かう動作において、負荷条件によっては、整合円R4が真円とならず、VC1制御のみの動作では円周上から外れてしまうことがある。
【0062】
<実施形態2>
本発明の第2の実施形態(実施形態2)に係る整合器は、上記(1)〜(2)の動作を抑制し、インピーダンスの悪化を抑制する。
実施形態2に係る整合器10Aは、実施形態1(
図1)の整合器10において、容量演算部22を容量演算部22Aとしたものである。つまり、整合器10Aは、容量演算部22の処理内容、つまり、整合回路30の可変容量コンデンサ31の容量VC1及び可変容量コンデンサ32の容量VC2の制御方法が、実施形態1と異なる。実施形態2の整合器10Aの他の構成は、実施形態1の整合器10と同じである。
【0063】
実施形態2の整合器10Aの容量演算部22Aは、実施形態1の容量演算部22の制御(反射係数が整合円の円周に近づくようにVC2を変更する円周接近制御と、反射係数がゼロに近づくようにVC1を変更する整合点接近制御)を含み、さらに、実施形態1の容量演算部22に、以下の(1)〜(2)の点を付加したものである。
【0064】
(1)VC2の制御時(反射係数Γが整合円の円周に向かって移動していく動作時)に、VC1を微調整することにより、VC1を微調整しないときよりも、反射係数Γが整合点から遠ざかることを抑制する。つまり、VC2制御を単純な方向決定による動作ではなく、整合円(円周)との交点を演算して予測し、該交点に反射係数Γを導く予測制御とする。
【0065】
具体的には、反射係数Γの予測軌跡と整合円の円周との交点である円周通過予測点の位置に基づき、VC1の微調整の方向を判定し、VC2とVC1を制御する。こうすることにより、負荷条件によらず、整合時の過渡状態において、インピーダンスの悪化をおさえ、かつ高速に整合できる。
【0066】
(2)VC1の制御時(反射係数Γが整合円の円周に沿って整合点に近づくよう移動していく動作時)、反射係数Γが円周エリアから外れたときは、VC2を微調整して、反射係数Γを円周エリア内に戻す。円周エリアとは、後述するように、整合円の内側と外側の同心円であって、それぞれ整合円から予め定めた所定の距離だけ離れている2つの同心円で囲まれるエリアである。VC2微調整の方向は、反射係数Γが円周エリアの外側に外れた場合は減少方向、内側に外れた場合は増加方向である。
【0067】
本発明の実施形態2に係るインピーダンス整合の処理について
図9及び
図10を用いて説明する。
図9は、本発明の実施形態2に係るインピーダンス整合の処理フローチャートである。
【0068】
図10は、スミスチャートであり、本発明の実施形態2に係る反射係数の軌跡を示す図である。Rは、整合円(スミスチャート上で整合点を通過する反射係数Γの軌跡が描く円)である。円周エリアは、整合円Rの円周から所定距離範囲内の領域であり、整合円Rの内側の円Rinの円周と外側の円Routの円周との間の領域である。つまり、円周エリアは、実施形態1で述べたように、整合円Rの円周と反射係数Γとの間の距離Pが閾値M以下の範囲である(
図6参照)。
【0069】
Psは、ある時点(例えば、インピーダンス整合の処理開始時点)の反射係数Γの位置である。F12は、実施形態2のVC2制御時における反射係数Γの軌跡である。F13は、実施形態2のVC1制御時における反射係数Γの軌跡である。P1は、整合円RとF12との交点である。TAは、後述の実施形態3で説明するターゲットエリアである。
【0070】
実施形態2の整合処理では、反射係数Γは、VC2制御によりF12に沿ってPsからP1に到達し、VC1制御によりF13に沿ってP1から整合目標点に到達する。整合目標点とは、反射係数Γが、実施形態1で述べた所定値L以下となる領域である(
図6参照)。なお、F11は、実施形態1のVC2制御時における反射係数Γの軌跡である。F12では、F11に比べて、反射係数Γが整合点から遠ざかることが抑制、つまり、インピーダンス悪化が抑制されることが解る。
【0071】
以下、
図9の各ステップについて説明する。
図9に示すインピーダンス整合の処理は、容量演算部22Aにおいて実行される。
【0072】
(1)円周エリア内であるか否かの判断(ステップS21)
ステップS21では、その時点の反射係数Γ(位置Psにおける反射係数Γ:第1の位置における反射係数)が、円周エリア内にあるか否かが判断される。反射係数Γが円周エリア内にある場合(S21でYes)は、ステップS26へ移行し、VC1制御を行う。反射係数Γが円周エリア内にない場合(S21でNo)は、ステップS22へ移行する。
【0073】
(2)VC2制御(ステップS22)
ステップS22では、実施形態1と同様に、VC2制御が行われる。すなわち、反射係数Γが位置Psから整合円Rの円周に近づくように、VC2を変更し、変更後の反射係数Γ(第2の位置における反射係数)を取得する。
図10の例では、位置Psが整合円Rの内側にあるので、VC2を増加させる(実施形態1の
図6参照)。
【0074】
(3)目標点が計算可能であるか否かの判断(ステップS23)
次に、上述したVC2予測制御が可能であるか否かを判断する。つまり、VC2予測制御における目標点が、計算可能であるか否かを判断する。目標点とは、反射係数Γの予測軌跡と整合円Rとの交点である円周通過予測点である。目標点が計算可能である場合は(S23でYes)、ステップS24へ移行し、円周通過予測点を取得した後、VC2予測制御を行う。目標点が計算可能でない場合は(S23でNo)、ステップS22へ戻る。
【0075】
目標点(円周通過予測点)を得るためには、UV座標上で反射係数Γを算出した点(反射係数算出点)が2つ以上必要である。反射係数算出点が2つの場合は、2つの反射係数算出点を結ぶ直線を、反射係数Γの予測軌跡とし、この予測軌跡と整合円Rとの交点が、円周通過予測点となる。上記ステップS22を1回実施(つまり、VC2を1回変更)すると、VC2変更前の反射係数算出点(第1の位置)とVC2変更後の反射係数算出点(第2の位置)とで、反射係数算出点が2つできる。VC2変更前の反射係数算出点とは、VC2が初期値のとき(つまり、反射係数Γが位置Psにあるとき)の反射係数算出点である。
【0076】
反射係数算出点が3つの場合は、3つの反射係数算出点から算出される円(整合動作軌跡予測円Cp)を、反射係数Γの予測軌跡とし、この予測軌跡と整合円Rとの交点を、円周通過予測点とすることができる。この場合は、上記ステップS22を少なくとも2回実施することが必要である。
【0077】
(4)VC2予測制御(ステップS24)
円周通過予測点を取得する円周通過予測点取得制御を行った後、反射係数Γが円周通過予測点に近づくようにVC2を変更する、すなわち、円周接近制御を行う。このとき、スミスチャート上における、その時点(VC2変更前)の反射係数Γの位置と、円周通過予測点の位置とに基づき、VC2の変更量を調整する。例えば、その時点の反射係数Γの位置と円周通過予測点の間の距離Dvに基づき、VC2の変更量を調整する。具体的には、距離Dvが長い場合は、VC2の変更量を多くし、距離Dvが短い場合は、VC2の変更量を少なくする。距離Dvに応じたVC2の変更量は、予め、実験等により取得しておく。距離Dvは、その時点の反射係数Γの位置と円周通過予測点との間の直線距離でもよいし、後述する実施例22で示すように円弧の長さでもよい。
【0078】
また、ステップS24のVC2予測制御においては、円周通過予測点に基づいてVC1を微調整する。具体的には、予測した円周通過予測点のV座標(つまり虚数部)が負の場合は、VC1が増加するように微調整し、予測した円周通過予測点のV座標が正の場合は、VC1が減少するように微調整する。
図10の例では、円周通過予測点のV座標が正であるので、VC1を減少させる。
【0079】
(5)円周エリア内であるか否かの判断(ステップS25)
ステップS24でVC2を変更した後、変更後の反射係数Γが、円周エリア内にあるか否かが判断される。反射係数Γが円周エリア内にある場合(S25でYes)、つまり、反射係数Γと整合円Rとの間の距離が予め定めた所定値以内である場合は、ステップS26へ移行し、VC1制御を行う。反射係数Γが円周エリア内にない場合(S25でNo)は、ステップS24へ戻る。
【0080】
(6)VC1制御(ステップS26)
実施形態1と同様に、VC1変更による整合動作(整合円Rの円周に沿って整合目標点へ近づく動作)、すなわち、整合点接近制御を行う。
図10の例では、反射係数Γがゼロに近づくように、VC1を減少させる(
図4参照)。
【0081】
(7)整合完了の判断(ステップS27)
反射係数Γが整合目標点に到達したか否かを判断する。整合目標点に到達した場合は(S27でYes)、インピーダンス整合処理を終了する。整合目標点に到達していない場合は(S27でNo)、ステップS25に戻る。こうして、VC1を変更するとき、反射係数Γが円周エリアから外れることを抑制する。反射係数Γが円周エリアから外れた場合は(S25でNo)、VC2を制御して円周エリア内に戻す(S24)。詳しくは、反射係数Γが円周エリアの外側に外れた場合は、VC2を減少させ、内側に外れた場合は、VC2を増加させる。
【0082】
<実施例21>
実施形態2のVC2予測制御において、円周通過予測点を求める第1の実施例(実施例21)について、
図12を用いて説明する。
図12は、VC2予測制御において、円周通過予測点を求める動作を説明するための図である。
図12において、黒丸●は、VC2変更による反射係数Γの軌跡である。白丸○は、円周通過予測点である。
【0083】
図12の例では、黒丸●のPsは、インピーダンス整合の処理開始時点の反射係数Γの位置である。P121は、VC2変更(
図9のS22)を1回行ったときの反射係数Γの位置である。上述したように、円周通過予測点を得るためには、UV座標上で反射係数Γを算出した点(反射係数算出点)が2つ以上必要である。反射係数算出点が2つの場合は、2つの反射係数算出点を結ぶ直線と整合円Rとの交点が、円周通過予測点となる。
【0084】
しかし、PsとP121を結ぶ直線は、整合円Rと交差しないので、円周通過予測点を得ることができない。そこで、2回目のVC2変更(
図9のS22)を行い、そのときの反射係数Γの位置P122を得る。しかし、P121とP122を結ぶ直線は、整合円Rと交差しないので、円周通過予測点を得ることができない。こうして、順次、VC2変更(
図9のS22)を行い、円周通過予測点を探索する。
【0085】
例えば、
図12の破線楕円A内の2点(P123とP124)を結ぶ直線L1は、交点P128と交点CL1において、整合円Rと交差する。交点P128におけるVC2は、実施形態1で述べた所定値(例えば10pF)よりも小さいので、交点P128でVC1制御に切替えても、反射係数Γは整合目標点に到達しない。したがって、
図12の例では、交点CL1を円周通過予測点に設定し、VC2を変更する(
図9のS24)。このとき、交点CL1のV座標が負なので、VC2変更とともにVC1を増加するように微調整する。
【0086】
こうして、順次、VC2予測制御(
図9のS24)を行っていき、例えば、
図12の楕円B内のP125でVC2予測制御を行って、P126を得る。P125とP126を結ぶ直線L2は、交点P129と交点CL2において、整合円Rと交差する。この場合は、VC2変更時の反射係数Γの進行方向に近い交点CL2を、円周通過予測点に設定し、VC2を変更する(
図9のS24)。このとき、交点CL2のV座標が負なので、VC1を増加するように微調整する。
【0087】
このように、円周通過予測点を、VC2変更の度に更新するので、外部の負荷変動に対応しつつ整合動作を行うことが可能となる。
【0088】
<実施例22>
実施例21では、2点より求められる直線と整合円との交点を円周通過予測点とした。しかし、実際の反射係数Γの軌跡は弧を描くため、実施例21の円周通過予測点は、反射係数Γの軌跡と整合円とが実際に交わる点から離れた位置になる。実施形態2の第2の実施例(実施例22)では、VC2予測制御において、反射係数Γの3点から求められる円と整合円との交点を円周通過予測点とすることで、より精度の高い予測を行うことができるようにする。
【0089】
実施例22について、
図13と
図14を用いて説明する。
円の方程式は、以下の式(数5)で示される。
(X−a)
2+(Y−b)
2=r
2 ・・・(数5)
変数は、a、b、rの3つのため、3点があれば、それを上式(数5)に代入し、円の方程式を求めることが可能となる。
【0090】
整合動作中の反射係数Γの3点から予測される動作の軌跡円(整合動作軌跡予測円Cp)と整合円との交点は、以下の方法により算出できる。
図13に示すように、円C1(例えば整合動作軌跡予測円Cp)は、中心座標O1(xc1,yc1)とその半径(r1)で表現する。円C2(例えば整合円)は、中心座標O2(xc2,yc2)とその半径(r2)で表現する。
中心間の距離(D)と角度(θ)は、
D=√((xc2−xc1)
2+(yc2−yc1)
2) ・・・(数6)
θ=tan
−1((yc2−yc1)/(xc2−xc1)) ・・・(数7)
となる。上式(数6)により、Dが求められ、
図14に示す3角形の全辺(D,r1,r2)の長さが求められる。余弦定理(下式(数8)(数9)(数10))を用いると、3辺(D,r1,r2)の長さより角度(α)が求められる。
cos(α)=(D
2+r1
2−r2
2)/(2・D・r1)・・・(数8)
c=cos(α) ・・・(数9)
とすると、
α=cos
−1(c)=acos(c) ・・・(数10)
となる。
交点IP1(xp1,yp1)は中心O1(xc1,yc1)から角度(θ+α)方向に半径(r1)離れている。よって、交点IP1(xp1,yp1)は、
xp1=xc1+r1・cos(θ+α) ・・・(数11)
yp1=yc1+r1・sin(θ+α) ・・・(数12)
となる。
交点IP2(xp2,yp2)は中心C1(xc1,yc1)から角度(θ−α)方向に半径(r1)離れている。同様に、交点IP2(xp2,yp2)は、
xp2=xc1+r1・cos(θ−α) ・・・(数13)
yp2=yc1+r1・sin(θ−α) ・・・(数14)
となる。
上記式(数11)(数12)(数13)(数14)により求めた2つの交点IP1,IP2から、適切な1つを選択して円周通過予測点とする。円周通過予測点の選択の基準は、実施例21で述べたとおりである。
【0091】
次に、実施例22における距離の算出について、
図15を用いて説明する。
上述したように、VC2予測制御(
図9のステップS24)においては、反射係数Γの現在位置と円周通過予測点との距離に基づき、VC2の変更量を演算する。実施例22では、その際、反射係数Γの現在位置と円周通過予測点との間の円弧(整合動作軌跡予測円Cpの円弧)の長さを求め、該円弧の長さに基づきVC2の変更量を演算する。こうすることにより、実施例22では、実施例21の直線時に比べ、確度の高い予測を可能とする。
【0092】
図15に示すように、円の半径(r)と中心角(β)が与えられていれば、E点とF点との間の弦の長さ(e)及び弧の長さ(f)は、以下の式(数15)(数16)により求まる。
e=2・r・sin(β/2) ・・・(数15)
f=r・β ・・・(数16)
【0093】
反射係数Γの現在位置と円周通過予測点との間の直線距離が、上記弦の長さ(e)となる。弦の式(数15)からβを求め、弧を求める式(数16)に代入して円弧の長さ(f)を算出する。そして、円弧の長さ(f)に基づき、VC2の変更量を演算する。
【0094】
<実施例23>
次に、実施形態2の第3の実施例(実施例23)として、ステップS26のVC1制御の実施例について説明する。
VC1制御における目標点は、整合点となる(U,V)=(0,0)のポイントであり、目標点が常に不変である。整合円の円周上の点と、(U,V)=(0,0)の点との距離は、U
2+V
2で表すことができる。VC1制御を行ったときの反射係数Γの動きは、基本的には整合円の円周上に沿って動くため、U
2+V
2は、VC1の増減に対して、単調増加又は単調減少となり、目標点が複数存在するということもない。そのため、U
2+V
2が0に近づくようなフィードバック制御、例えば、公知のPID(Proportional Integral Derivative)制御を行えばよい。
【0095】
制御部20Aでは、PID制御を行うときに、CPUでデジタル制御を行うため、連続的な制御が行えず、サンプリング方式の離散処理となる。そのため、計算を簡易化する上でも、以下の式(数17)にて操作設定する量(操作量)を算出する。
操作量=Kp×偏差(比例)
+Ki×偏差の累積(積分)
+Kd×前回偏差との差(微分)
MVn=MVn−1+ΔMVn
ΔMVn(操作量)=Kp×(e
n−e
n−1)
+Ki×e
n
+Kd×((e
n−e
n−1)−(e
n−1−e
n−2))
・・・・・・(数17)
ここで、
MVn,MVn−1:今回操作設定量、前回操作設定量
ΔMVn:今回操作設定量差分
e
n,e
n−1,e
n−2:今回、前回、前々回の偏差
Kp,Ki,Kd:各操作におけるゲイン
である。
目標点との偏差は、U
2+V
2の差分だが、実際の制御はVC1に何pFを設定するかである。U
2+V
2で上記式(数17)の計算を行い、計算後にその設定偏差(ΔMVn)をVC1の偏差(ΔVC1)に変換する方式で演算する。
【0096】
実施形態2によれば、実施形態1の効果に加え、少なくとも次の効果を奏する。
(B1)スミスチャート上の複数の位置における反射係数を算出する反射係数取得処理を行い、反射係数の複数の位置を用いて予測軌跡を取得し、予測軌跡と整合円との交点である円周通過予測点を取得し、反射係数が円周通過予測点に近づくようにVC2を変更する円周接近制御を行うとともに、円周通過予測点の虚数部が負のときはVC1を増加させ、円周通過予測点の虚数部が正のときはVC1を減少させ、反射係数と整合円との間の距離が予め定めた第1の値以内になると、反射係数がゼロに近づくようにVC1を変更する整合点接近制御を行うように構成したので、インピーダンス悪化を抑えてプラズマの失火を抑制でき、また、整合時間を高速化できる。
(B2)整合点接近制御の結果、反射係数と整合円との距離が第1の値より大きくなった場合において、反射係数が整合円より外側にある場合はVC2を減少させ、反射係数が整合円より内側にある場合はVC2を増加させるように構成したので、整合点接近制御において、円周エリアから外れた場合も、円周エリア内に戻すことができる。
(B3)円周通過予測点を、前記複数の位置の2点を結ぶ直線と、整合円との交点であるように構成したので、円周通過予測点を容易に求めることができる。
(B4)円周通過予測点を、前記複数の位置の3点を通る整合動作軌跡予測円と、整合円との交点であるように構成したので、より確度の高い円周通過予測点を求めることができる。
(B5)整合動作軌跡予測円において、そのときの反射係数の位置と円周通過予測点とを結ぶ円弧(整合動作軌跡予測円の円弧)の長さに応じて、円周接近制御を行うように構成したので、より精度の高い円周接近制御を行うことができる。
【0097】
<実施形態3>
本発明の第3の実施形態(実施形態3)では、実施形態2に係るインピーダンス整合を更に改善し、プラズマ着火等により大きな負荷変動が生じた場合や、反射係数Γが整合点に近づいた場合に、より適切な整合動作を行う。
【0098】
実施形態3に係る整合器10Bは、実施形態1(
図1)の整合器10において、容量演算部22を容量演算部22Bとしたものである。つまり、整合器10Bは、容量演算部22の処理内容、つまり、整合回路30の可変容量コンデンサ31の容量VC1及び可変容量コンデンサ32の容量VC2の制御方法が、実施形態1や実施形態2と異なる。実施形態3の整合器10Bの他の構成は、実施形態1の整合器10と同じである。
【0099】
実施形態3の整合器10Bの容量演算部22Bは、実施形態2の容量演算部22Aの制御を含み、さらに、実施形態2の容量演算部22Aに、以下の(1)〜(2)点を付加したものである。
(1)反射係数Γが円周エリア外にあるときにVC2予測制御を行った後、反射係数Γが円周エリアを通過した場合であって、その通過が負荷変動による場合は、円周通過予測点を再設定し、その通過が負荷変動によるものでない場合は、VC2を微調整して円周エリア内に戻す。こうすることにより、大きな負荷変動があった場合に、迅速に円周通過予測点を再設定できるので、適切なインピーダンス整合を行うことができる。
【0100】
(2)VC2予測制御を行った後、反射係数Γが円周エリア内にないがターゲットエリア内にある場合は、反射係数Γが整合目標点に近づくよう、VC2を微調整しつつ、VC1制御を行う。こうすることにより、反射係数Γが円周エリア内にないがターゲットエリア内にある場合、より速くインピーダンス整合を行うことができる。
【0101】
実施形態3に係るインピーダンス整合の処理について
図11と
図10を用いて説明する。
図11は、本発明の実施形態3に係るインピーダンス整合の処理フローチャートである。
【0102】
実施形態3に係る反射係数の軌跡は、実施形態2の
図10におけるF12及びF13と略同様である。実施形態3では、反射係数Γは、大まかな動作としては、VC2制御によりF12に沿ってPsからP1に到達し、VC1制御によりF13に沿ってP1から整合目標点に到達する。ただし、上述した(1)〜(2)が実施形態2と異なる。
【0103】
以下、
図11の各ステップについて説明する。
図11に示すインピーダンス整合の処理は、容量演算部22Bにおいて実行される。
【0104】
(1)円周エリア内であるか否かの判断(ステップS31)
ステップS31では、実施形態2のステップS21と同様に、その時点の反射係数Γ(位置Psにおける反射係数Γ)が、円周エリア内にあるか否かが判断される。反射係数Γが円周エリア内にある場合(S31でYes)は、ステップS36へ移行し、VC1制御を行う。反射係数Γが円周エリア内にない場合(S31でNo)は、ステップS32へ移行する。
【0105】
(2)VC2制御(ステップS32)
ステップS32では、実施形態2のステップS22と同様に、VC2制御が行われる。すなわち、反射係数Γが位置Psから整合円Rの円周に向かうように、VC2を変更する。
【0106】
(3)目標点が計算可能であるか否かの判断(ステップS33)
次に、実施形態2のステップS23と同様に、VC2予測制御における目標点(円周通過予測点)が、計算可能であるか否かを判断する。目標点が計算可能である場合は(S33でYes)、ステップS34へ移行し、VC2予測制御を行う。目標点が計算可能でない場合は(S33でNo)、ステップS32へ戻る。
【0107】
(4)VC2予測制御(ステップS34)
実施形態2のステップS24と同様に、VC2予測制御を行う。すなわち、円周通過予測点を取得する円周通過予測点取得制御を行った後、反射係数Γが円周通過予測点に近づくようにVC2を変更する円周接近制御を行う。
【0108】
(5)円周エリア通過の判断(ステップS41)
円周エリア外にあった反射係数Γが円周エリアを通過したか否かを判断する。円周エリアを通過していない場合は(S41でNo)、ステップS35へ進む。円周エリアを通過した場合(S41でYes)は、ステップS42に進む。
【0109】
(6)負荷変動による円周エリア通過の判断(ステップS42)
プラズマ着火等による大きな負荷変動によって反射係数Γが大きく変化することがある。反射係数Γが、VC2予測制御で予測される予測軌跡と大きくずれる場合(つまり、円周エリアを通過した反射係数の位置(UV値)が、予め定めた所定値以上予測軌跡から離れた場合)は、負荷変動による円周エリア通過と判断する(S42でYes)。この場合は、ステップS31に戻り、円周通過予測点を再取得する。負荷変動による円周エリア通過でないと判断した場合(S42でNo)、つまり、円周エリアを通過した反射係数の位置が、予測軌跡から上記所定値未満の場合は、ステップS43に進む。
【0110】
(7)VC2戻し制御(ステップS43)
VC2を一つ前のVC2の方向に戻す。このとき、VC2の変更量は、円周エリア内に戻るような値とする。このVC2の変更量は、一つ前のVC2及び反射係数Γの値と、円周エリア通過した後のVC2及び反射係数Γの値に基づき、計算することができる。
【0111】
このように、実施形態3では、円周接近制御を行ったときに、反射係数が円周エリアを通過した場合、円周エリアを通過した反射係数の位置が、予測軌跡から所定値以上離れた場合は、円周通過予測点取得制御を再度行い、円周エリアを通過した反射係数の位置が、予測軌跡から所定値未満の場合は、反射係数が円周エリア内に移動するようVC2を変更する。したがって、大きな負荷変動があった場合に、迅速に円周通過予測点を再設定できるので、適切なインピーダンス整合を行うことができる。
【0112】
(8)円周エリア内であるか否かの判断(ステップS35)
実施形態2のステップS25と同様に、その時点の反射係数Γが、円周エリア内にあるか否かが判断される。反射係数Γが円周エリア内にある場合(S35でYes)は、ステップS36へ移行し、VC1制御を行う。反射係数Γが円周エリア内にない場合(S35でNo)は、ステップS44へ移行する。
【0113】
(9)VC1制御(ステップS36)
実施形態2のステップS26と同様に、VC1変更による整合動作(反射係数Γを整合円Rの円周に沿って整合目標点に近づける動作)を行う、つまり、整合点接近制御を行う。
【0114】
(10)整合完了の判断(ステップS37)
実施形態2のステップS27と同様に、反射係数Γが整合目標点に到達したか否かを判断する。整合目標点に到達した場合は(S37でYes)、インピーダンス整合処理を終了する。整合目標点に到達していない場合は(S37でNo)、ステップS35に戻る。こうして、実施形態2と同様に、VC1を変更するとき、反射係数Γが円周エリアから外れることを抑制する。
【0115】
(11)ターゲットエリア内の判断(ステップS44)
図10に示すように、ターゲットエリア(TA)は、整合点付近の領域であって、U方向が円周エリアよりも広い領域である。つまり、ターゲットエリアは、反射係数Γの実数部が円周エリアの実数部よりも大きく、整合点を含むエリアである。例えば、ターゲットエリアの半径は、0.21とすることができる。ステップS44では、反射係数Γがターゲットエリア内に入っているか否かを判断する。ターゲットエリア内に入っている場合(S44でYes)は、ステップS45へ進む。ターゲットエリア内に入っていない場合(S44でNo)は、ステップS34に戻る。
【0116】
(12)VC2微調整(ステップS45)
VC2を予め定めた所定値だけ変更して微調整する。この微調整により、反射係数Γを円周エリアに近づける。そして、ステップS45の後、VC1制御(S36)を行う。
【0117】
このように、実施形態3では、円周接近制御(S34)を行った後、円周エリアの外に反射係数Γがある場合において、反射係数Γがターゲットエリア内にある場合は、VC2を変更(S45)し、その後、整合点接近制御(S36)を行い、反射係数Γがターゲットエリア内にない場合は、円周接近制御(S34)を行う。こうすることにより、反射係数Γが円周エリア内にないがターゲットエリア内にある場合(S44でYes)、より速くインピーダンス整合を行うことができる。
【0118】
実施形態3によれば、実施形態1と実施形態2の効果に加え、少なくとも次の効果を奏する。
(C1)円周エリアの外に反射係数がある状態で円周接近制御を行ったときに、反射係数が円周エリアを通過した場合、円周エリアを通過した反射係数の位置が、予測軌跡から予め定めた第2の値以上離れた場合は、反射係数算出処理へ移行し、円周エリアを通過した反射係数の位置が、予測軌跡から第2の値未満の場合は、反射係数が円周エリア内に移動するようVC2を変更し、整合点接近制御へ移行するように構成したので、大きな負荷変動が生じた場合にも、迅速に円周通過予測点を再設定でき、適切なインピーダンス整合を行うことができる。
(C2)円周接近制御を行った後、円周エリアの外に反射係数がある場合において、ターゲットエリア内に反射係数がある場合は、VC2を変更した後、整合点接近制御を行い、ターゲットエリア内に反射係数がない場合は、円周接近制御を行うように構成したので、ターゲットエリア内に反射係数がある場合、より速くインピーダンス整合を行うことができる。
【0119】
<実施形態4>
実施形態2や実施形態3では、VC2予測制御において、VC2の変更とVC1の微調整とを行うことで、整合器の入力インピーダンスの悪化をおさえつつ、反射係数Γを整合円の円周上へ移動させるようにした。
【0120】
しかし、VC2の変化量に対する整合器の入力インピーダンスの感度が高い場合(つまり、VC2の変化量に対する反射係数Γの感度が高い場合)、整合器の入力インピーダンスの悪化が、VC1の微調整では改善しきれないことがある。このインピーダンスの悪化が、プラズマ着火時における整合途中で起きた場合などは、プラズマが失火する恐れがある。
【0121】
本発明の実施形態4に係る整合器は、上記の課題を解決し、実施形態2や実施形態3の整合動作では対応が難しい場合にも、整合器の入力インピーダンスの悪化を抑制できる技術を提供するものである。
【0122】
実施形態4に係る整合器10Cは、実施形態2の整合器10Aの容量演算部22Aの処理内容、つまり、整合回路30の可変容量コンデンサ31の容量VC1及び可変容量コンデンサ32の容量VC2の制御方法が異なる。実施形態4の整合器10Cの他の構成は、実施形態2の整合器10Aと同じである。すなわち、実施形態4の整合器10Cの容量演算部22Cは、実施形態2の容量演算部22Aの制御を含み、さらに、実施形態2の容量演算部22Aに、主に、以下の(1)〜(3)の点を付加したものである。以下の(1)〜(3)は、実施形態4の概要である。詳細は、
図16を用いて後述する。
【0123】
(1)実施形態4の容量演算部22Cは、スミスチャート上における反射係数Γの予測軌跡(VC2を変更するときの予測軌跡)と、整合円の円周との交点である円周通過予測点を計算により取得し、さらに、反射係数Γの予測軌跡とV=0の直線との交点(Vゼロ直線通過予測点)を、計算により取得する。そして、容量演算部22Cは、これら交点の計算結果により、VC2予測制御において、円周通過予測点をめざす円周接近制御を行うのか、Vゼロ直線通過予測点をめざすVゼロ直線接近制御を行うのかの選択を行う。すなわち、上記計算結果から、整合器10Cの入力インピーダンスの悪化の小さい経路を選択する。
【0124】
(2)スミスチャート上において、円周通過予測点が、現在の反射係数Γの位置に比べ、整合点(スミスチャートの中心)から遠い場合、つまり、円周通過予測点のU値が、現在の反射係数ΓのU値よりも大きい場合(例えばU>0.4である場合)、Vゼロ直線通過予測点を到達目標に選択して、円周接近制御、つまり、実施形態2で述べたVC2予測制御(
図9のS24)を行う。
【0125】
(3)Vゼロ直線通過予測点を到達目標としてVC2予測制御を行い、到達目標に到達すると、VC1を変更することにより反射係数ΓをV=0直線から離反させるVゼロ直線離反制御を行う。このとき、反射係数Γが整合点に近づく方向にVC1を変更する。そして、Vゼロ直線離反制御により、反射係数Γの位置を所定値、例えば、反射係数ΓのV値がV<−0.3程度になるまで、Vゼロ直線から離反させた後、再度、VC2予測制御に移行する。
【0126】
このように、制御部20Cが円周接近制御(VC2の制御)とVゼロ直線離反制御(VC1の制御)を交互に行うことにより、整合器10Cの入力インピーダンスの変動がクリティカルな場合においても、整合器10Cの入力インピーダンスの悪化を抑え、プラズマの失火を抑制することができる。
【0127】
実施形態4に係るインピーダンス整合の処理について
図16と
図17を用いて説明する。
図16は、実施形態4に係るインピーダンス整合の処理フローチャートである。
図16に示すインピーダンス整合の処理は、容量演算部22Cにおいて実行される。
【0128】
図17は、スミスチャートであり、VC2予測制御における到達目標の選択を説明するための図である。Rは、整合円である。Cpは、整合動作軌跡予測円であり、スミスチャート上において、3つの反射係数算出点から算出される円である。つまり、Cpは、VC2の予測制御を行うときに、スミスチャート上の反射係数Γの軌跡として予測される円である。
【0129】
P1とP2は、それぞれ、整合円Rと整合動作軌跡予測円Cpとの交点(円周通過予測点)である。P3とP4は、それぞれ、V=0の直線と整合動作軌跡予測円Cpとの交点(Vゼロ直線通過予測点)である。Psは、ある時点(例えば、インピーダンス整合の処理開始時点)の反射係数Γの位置である。円周エリアは、整合円Rの円周から所定距離範囲内の領域であり、整合円Rの内側の円Rinの円周と外側の円Routの円周との間の領域である。
【0130】
以下、
図16の各ステップについて説明する。
(1)円周エリア内であるか否かの判断(ステップS51)
ステップS51では、実施形態2のステップS21と同様に、その時点の反射係数Γ(位置Psにおける反射係数Γ)が、円周エリア内にあるか否かが判断される。反射係数Γが円周エリア内にある場合(S51でYes)は、ステップS58へ移行し、VC1制御を行う。反射係数Γが円周エリア内にない場合(S51でNo)は、ステップS52へ移行する。
【0131】
(2)VC2制御(ステップS52)
ステップS52では、実施形態2のステップS22と同様に、VC2制御が行われる。すなわち、反射係数Γが位置Psから整合円Rの円周に近づくように、VC2を変更する。
図17の例では、位置Psが整合円Rの内側にあるので、VC2を増加させる。
【0132】
(3)目標点が計算可能であるか否かの判断(ステップS53)
次に、実施形態2のステップS23と同様に、VC2予測制御が可能であるか否かを判断する。つまり、VC2予測制御における目標点(円周通過予測点)が、計算可能であるか否かを判断する。円周通過予測点が計算可能である場合は(S53でYes)、ステップS54へ移行し、円周通過予測点におけるU値(Ue)を判断する。円周通過予測点が計算可能でない場合は(S53でNo)、ステップS52へ戻る。
【0133】
実施形態2で述べたように、円周通過予測点を得るためには、UV座標上で反射係数Γを算出した点(反射係数算出点)が2つ以上必要である。反射係数算出点が2つの場合は、実施形態2の実施例21で述べたように、2つの反射係数算出点を結ぶ直線と整合円Rとの交点が、円周通過予測点となる。上記ステップS52を1回実施(つまり、VC2を1回変更)すると、VC2変更前の反射係数算出点とVC2変更後の反射係数算出点とで、反射係数算出点が2つできる。
【0134】
反射係数算出点が3つの場合は、実施形態2の実施例22で述べたように、3つの反射係数算出点から算出される円(整合動作軌跡予測円Cp)と整合円Rとの交点を、円周通過予測点とすることができる。この場合は、上記ステップS52を2回実施することになる。
図16の処理では、整合動作軌跡予測円Cpと整合円Rとの交点を、円周通過予測点とする例を説明する。
【0135】
(4)円周通過予測点におけるU値の判断(ステップS54)
ステップS54では、円周通過予測点P1におけるU値であるUe(つまり、円周通過予測点P1の実数部である円周実数部)が所定の第1の値(例えばU=0.4)よりも小さいか否かを判断する。Ueが第1の値よりも小さい場合は(S54でYes)、ステップS56へ移行し、円周通過予測点P1を到達目標とするVC2予測制御(円周接近制御)を行う。Ueが第1の値以上である場合は(S54でNo)、ステップS55へ移行し、UeとUvを比較する。Uvは、V=0の直線と整合動作軌跡予測円Cpとの交点(Vゼロ直線通過予測点)P3におけるU値(つまり、Vゼロ直線通過予測点P3の実数部であるVゼロ実数部)である。
【0136】
ここで、円周通過予測点P1を到達目標とするVC2予測制御とは、円周通過予測点P1付近に至るまでVC2を変更するとともに、実施形態2で説明したように、VC2を変更するときに、円周通過予測点P1のV座標に応じて、VC1を増加又は減少させることである。
図17の例では、円周通過予測点P1のV座標が正であるので、VC1を減少させる(実施形態2のステップS24の説明参照)。
【0137】
(5)UeとUvの比較(ステップS55)
ステップS55では、UeがUvよりも大きいか否かを判断する。UeがUvよりも大きい場合は(S55でYes)、ステップS61へ移行し、Vゼロ直線通過予測点P3を到達目標とするVC2予測制御を行う。UeがUv以下である場合は(S55でNo)、ステップS56へ移行し、円周通過予測点P1を到達目標とするVC2予測制御を行う。
【0138】
ここで、Vゼロ直線通過予測点P3を到達目標とするVC2予測制御とは、Vゼロ直線通過予測点P3付近に至るまでVC2を変更するとともに、VC2を変更するときに、円周通過予測点P1のV座標に応じて、VC1を増加又は減少させることである。
図17の例では、円周通過予測点P1のV座標が正であるので、VC1を減少させる。
【0139】
このように、Ueが第1の値よりも小さい場合(S54でYes)は、VC2の変更を繰り返しても反射係数Γが整合点から遠ざかる可能性が小さいので、実施形態2と同様に、円周通過予測点P1を到達目標とするVC2予測制御(S56)を行う。
【0140】
また、Ueが第1の値以上であるがUv以下である場合(S55でNo)は、やはり、VC2の変更を繰り返しても反射係数Γが整合点から遠ざかる可能性が小さいので、実施形態2と同様に、円周通過予測点P1を到達目標とするVC2予測制御(S56)を行う。
【0141】
また、Ueが第1値以上であってUvよりも大きい場合(S55でYes)は、VC2の変更を繰り返すと反射係数Γが整合点から遠ざかる可能性が大きいので、Vゼロ直線通過予測点P3を到達目標とするVC2予測制御(S61)を行う。
【0142】
なお、円周通過予測点(P1,P2)とVゼロ直線通過予測点(P3,P4)は、それぞれ2つ算出されるが、どちらを到達目標に設定するかの選択については、その時点におけるスミスチャート上の反射係数Γの位置に基づき、整合器10Cの入力インピーダンスの悪化を抑制できる方が選択される。すなわち、その時点における反射係数Γと、円周通過予測点(P1,P2)と、Vゼロ直線通過予測点(P3,P4)の、それぞれのU値及びV値に基づき、一方の円周通過予測点又はVゼロ直線通過予測点が、到達目標に設定される。
【0143】
具体的には、スミスチャートにおいて、その時点における反射係数Γの位置から見て、整合動作時に反射係数Γの軌跡の進む方向の交点が、到達目標として選択される。つまり、その時点における反射係数ΓのV値と逆の極性をもつ円周通過予測点、又は、その円周通過予測点に至る整合動作軌跡予測円Cp上のVゼロ直線通過予測点が、到達目標として選択される。
【0144】
例えば、
図17の場合は、その時点における反射係数Γの位置PsのU値及びV値と、円周通過予測点(P1,P2)のU値及びV値と、Vゼロ直線通過予測点(P3,P4)のU値及びV値とに基づき、円周通過予測点P1又はVゼロ直線通過予測点P3が、到達目標に設定される。
【0145】
具体的には、
図17の場合は、反射係数Γの位置PsのV値が負なので、V値が正である円周通過予測点P1が、到達目標として決定される。又は、円周通過予測点P1に至る整合動作軌跡予測円Cp上のVゼロ直線通過予測点P3が、到達目標として決定される。
【0146】
(6)円周通過予測点を到達目標とするVC2予測制御(ステップS56)
実施形態2のステップS24と同様に、反射係数Γが円周通過予測点に近づくようにVC2を変更する円周接近制御を行う。このとき、実施形態2で述べたように、円周通過予測点を取得し、該円周通過予測点に基づいてVC1を微調整する。具体的には、円周通過予測点のV座標が負の場合は、VC1が増加するように微調整し、円周通過予測点のV座標が正の場合は、VC1が減少するように微調整する。
図17の例では、円周通過予測点P1のV座標が正であるので、VC1を減少させる。
【0147】
(7)円周エリア内であるか否かの判断(ステップS57)
ステップS56でVC2を変更した後、変更後の反射係数Γが、円周エリア内にあるか否かが判断される。反射係数Γが円周エリア内にある場合(S57でYes)は、ステップS58へ移行し、VC1制御を行う。反射係数Γが円周エリア内にない場合(S57でNo)は、ステップS56へ戻る。
【0148】
(8)VC1制御(ステップS58)
実施形態2のステップS26と同様に、VC1変更による整合動作(反射係数Γが整合円Rの円周に沿って整合目標点に近づく動作)、つまり、整合点接近制御を行う。
図17の例では、VC1を減少させる。
【0149】
(9)整合完了の判断(ステップS59)
反射係数Γが整合目標点に到達したか否かを判断する。整合目標点に到達した場合は(S59でYes)、インピーダンス整合処理を終了する。整合目標点に到達していない場合は(S59でNo)、ステップS57に戻る。こうして、VC1を変更するとき、反射係数Γが円周エリアから外れることを抑制する。実施形態2と同様に、反射係数Γが円周エリアの外側に外れた場合は、VC2を減少させ、内側に外れた場合は、VC2を増加させる。
【0150】
(10)Vゼロ直線通過予測点を到達目標とするVC2予測制御(ステップS61)
反射係数ΓがVゼロ直線通過予測点に近づくようにVC2を変更するVゼロ直線接近制御を行う。このとき、VC1を微調整する。
図17の例では、円周通過予測点P1のV座標が正であるので、VC1を減少させる。
【0151】
(11)|V|が所定値以下か否かの判断(ステップS62)
ステップS61を行った後、その時点の反射係数Γの|V|(Vの絶対値)が、所定の第2の値以下であるか否か、つまり、V=0の直線から所定範囲内(例えば、反射係数ΓのV値がV=0±0.05以内)であるか否かを判断する。反射係数Γの|V|が第2の値以下である場合(S62でYes)は、ステップS63へ移行し、VC1制御を行う。反射係数Γの|V|が第2の値より小さい場合(S62でNo)は、ステップS61へ戻る。
【0152】
(12)VC1制御(ステップS63)
反射係数Γの|V|が、所定の第3の値より大きくなるように(例えば、反射係数ΓのV値がV=−0.3よりも小さくなるように)、かつ、反射係数Γが整合点に近づくように、VC1を変更する。すなわち、反射係数ΓがVゼロ直線から所定値より大きく離反し、かつ、整合点に近づくようにVC1を変更するVゼロ直線離反制御を行う。
図17の例では、VC1を減少させる(
図4参照)。
【0153】
(13)|V|が第3の値より大きいか否かの判断(ステップS64)
ステップS63を行った後、その時点の反射係数Γの|V|(Vの絶対値)が第3の値より大きいか否か、すなわち、反射係数ΓがV=0の直線から所定範囲外(例えば、反射係数ΓのV値がV=−0.3よりも小さい)であるか否か、又は、その時点のVC1が変更の限界値(例えば、VC1が最小値)であるか否かを判断する。反射係数Γの|V|が第3の値より大きいか、又は、VC1が変更の限界値である場合(S64でYes)は、ステップS51へ戻る。反射係数Γの|V|が第3の値以下で、かつ、VC1が変更の限界値でない場合(S64でNo)は、ステップS63へ戻り、VC1制御を行う。
【0154】
こうして、実施形態4では、Ueが第1の値以上であってUvよりも大きい場合(S55でYes)は、Vゼロ直線通過予測点を到達目標とするVゼロ直線接近制(S61)とVゼロ直線離反制御(S63)とを行うので、実施形態2のようにVC2の変更を繰り返した場合に、反射係数Γが整合点から遠ざかり、整合機の入力インピーダンスを悪化させることを抑制できる。
【0155】
また、実施形態4では、Ueが第1の値よりも小さい場合(S54でYes)や、Ueが第1の値以上であるがUv以下である場合(S55でNo)は、実施形態2と同様に、円周通過予測点を到達目標とする円周接近制御を行うので、実施形態2と同様の効果を奏する。すなわち、インピーダンスの悪化が抑えられることによるプラズマの失火を抑制でき、整合時間も高速化できる。
【0156】
なお、
図16の例では、ステップS54でUeが第1の値よりも小さいか否かを判断し、ステップS55でUeがUvよりも大きい否かを判断したが、ステップS54とステップS55のいずれか一方を省略する構成とすることもできる。このように構成しても、ある程度、実施形態4の効果を得ることができる。
【0157】
ステップS54を省略する場合は、ステップS53の次にステップS55を実施する。そして、ステップS55において、UeがUvよりも大きい場合は、ステップS61へ移行し、UeがUv以下である場合は、ステップS56へ移行する。
【0158】
ステップS55を省略する場合は、ステップS54において、Ueが第1の値よりも小さい場合は、ステップS56へ移行し、Ueが第1の値以上である場合は、ステップS61へ移行する。
【0159】
なお、上述のステップS56とステップS61では、VC2変更時にVC1を微調整したが、VC1を微調整しない構成としてもよい。このように構成しても、実施形態4の効果を奏することができる。
【0160】
<実施例41>
実施形態4におけるインピーダンス整合処理の第1の実施例(実施例41)について、
図18を用いて説明する。
図18は、スミスチャートであり、実施例41に係るインピーダンス整合処理を説明するための図である。
【0161】
図18に示すように、まず、位置Psにおいて、
図16のステップS51〜ステップS55が実施される。
図18の例では、ステップS54において、位置PsにおけるUe(円周通過予測点のU値)が、所定値(例えばU=0.4)以上と判断されるので(
図16のステップS54でNo)、ステップS55へ移行する。そして、ステップS55において、位置PsにおけるUe(円周通過予測点のU値)が、位置PsにおけるUv(Vゼロ直線通過予測点P3におけるU値)よりも大きいと判断されるので、ステップS61へ移行し、Vゼロ直線通過予測点P3を到達目標とするVゼロ直線接近制御(
図18のF1)を行い、VC2を変更する。
図18の例では、VC2を増加させる。
【0162】
Vゼロ直線接近制御F1実施中に、反射係数Γが交点P3の近傍に到達したと判断されると(
図16のステップS62でYes)、
図16のステップS63へ移行し、Vゼロ直線離反制御(
図18のF2)を行い、VC1を変更する。このとき、
図18の例では、反射係数Γが整合点に近づくように、VC1を減少させる。
図18の例でVC1を増加させると、反射係数Γは、F2と略逆方向に移動する、つまり、V=0直線から離れるが、整合点からも遠ざかる。
【0163】
Vゼロ直線離反制御F2実施中に、反射係数Γの|V|が所定値より大きいと判断されると(
図16のステップS64でYes)、
図16のステップS51へ移行し、ステップS51〜ステップS54が実施される。ステップS54において、位置P5におけるUe(円周通過予測点のU値)が、所定値(例えばU=0.4)よりも小さいと判断されるので(
図16のステップS54でYes)、ステップS56へ移行し、位置P5における円周通過予測点を到達目標とする円周接近制御(
図18のF3)を行い、VC2を変更する。
図18の例では、VC2を増加させる。
【0164】
円周接近制御F3実施中に、反射係数Γが円周エリア内にあると判断されると(
図16のステップS57でYes)、
図16のステップS58へ移行し、整合点接近制御(
図18のF4)を行い、VC1を変更する。
図18の例では、VC1を減少させる。そして、整合点接近制御F4実施中に、反射係数Γが整合目標点に到達し、整合処理が完了する(
図16のステップS59でYes)。
【0165】
上述した実施例41では、整合処理の開始位置Psが、スミスチャート上でV=0の直線よりも下側にある場合、つまり、位置PsのV値が負である場合について説明したが、位置PsのV値が正である場合も、実施例41と同様に整合処理をすることができる。この場合、
図19に示す整合経路(F1〜F4)となる。この場合も、F2のVC1制御においては、反射係数Γが整合点に近づくように、VC1を減少させる。
【0166】
実施形態4によれば、実施形態1〜3の効果に加え、少なくとも次の効果を奏する。
(D1)反射係数の複数の位置を用いて予測軌跡を取得し、予測軌跡と整合円との交点である円周通過予測点を取得し、Vゼロ直線と予測軌跡との交点であるVゼロ直線通過予測点を取得し、円周通過予測点の実数部(円周実数部)の値に基づき、Vゼロ直線接近制御を行うか、又は、円周接近制御を行うかの選択を行い、Vゼロ直線接近制御を行う場合は、反射係数がVゼロ直線通過予測点に近づくようにVC2を変更し、その後、反射係数がVゼロ直線から第1の値より大きく離反するように、VC1を変更するVゼロ直線離反制御を行い、円周接近制御を行う場合は、反射係数が円周通過予測点に近づくようにVC2を変更し、反射係数と整合円との間の距離が第2の値以内になると、反射係数がゼロに近づくようにVC1を変更する整合点接近制御を行うよう構成したので、整合器の入力インピーダンスの感度が高い場合においても、整合器の入力インピーダンスの悪化を抑制できる。
(D2)Vゼロ直線接近制御を行うか、又は、円周接近制御を行うかの選択を行うときに、前記円周実数部が第3の値以上の場合は、Vゼロ直線接近制御を行い、前記円周実数部が第3の値より小さい場合は、円周接近制御を行うよう構成したので、前記選択を適切に行うことができる。
(D3)前記選択を行うときに、前記円周実数部が、Vゼロ直線通過予測点の実数部(Vゼロ実数部)より大きい場合は、Vゼロ直線接近制御を行い、前記円周実数部がVゼロ実数部以下である場合は、円周接近制御を行うよう構成したので、前記選択を適切に行うことができる。
(D4)前記選択を行うときに、前記円周実数部が、第3の値以上であって、かつ前記Vゼロ実数部より大きい場合は、Vゼロ直線接近制御を行い、前記円周実数部が第3の値より小さいか、又は、前記円周実数部が第3の値以上であって、かつ前記Vゼロ実数部以下である場合は、円周接近制御を行うよう構成したので、前記選択を適切に行うことができる。
【0167】
なお、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々に変更が可能であることはいうまでもない。
【0168】
上記各実施形態の構成は、適宜、他の実施形態に適用することが可能である。例えば、実施形態3における負荷変動による円周エリア通過の判断と処理(S41〜S43)や、ターゲットエリア内の判断と処理(S44〜S45)は、実施形態4にも適用することができる。
【0169】
また、上記各実施形態では、伝送線路35に対応する円の情報を記憶部25に予め記憶するように構成したが、記憶部25に予め記憶するのではなく、円の情報が必要になる毎に、制御部が(数4)を用いて円の情報を演算するように構成してもよい。