特許第6507445号(P6507445)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6507445
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】蛋白質の検出定量方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/52 20060101AFI20190422BHJP
【FI】
   G01N33/52 Z
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-66795(P2015-66795)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-186458(P2016-186458A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2018年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 光正
(72)【発明者】
【氏名】末吉 政智
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−021837(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0166367(US,A1)
【文献】 国際公開第2006/070699(WO,A1)
【文献】 特開2013−188387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物に付着した蛋白質を検出定量する方法であって
界面活性剤を含む抽出液に前記検査対象物を浸漬させた状態で前記検査対象物に超音波照射を施して蛋白質抽出液を得る蛋白質抽出工程と、
前記蛋白質抽出液をビシンコニン酸及び銅(II)を含む蛋白質検出液に接触させ、得られた接触液の吸光度を測定する蛋白質検出定量工程と、
を有する、蛋白質の検出定量方法。
【請求項2】
前記検査対象物が使用後に洗浄を行った器具である、請求項に記載の蛋白質の検出定量方法。
【請求項3】
前記界面活性剤がアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の蛋白質の検出定量方法。
【請求項4】
前記界面活性剤の濃度が前記抽出液100質量%中、0.01〜10質量%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の蛋白質の検出定量方法。
【請求項5】
前記蛋白質抽出工程において、物理的刺激操作を施す際の抽出液の温度が20〜70℃である、請求項1〜のいずれか一項に記載の蛋白質の検出定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質の検出定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、院内感染の問題が大きくなってきており、感染リスクを低減させることが医療機関においての必須課題となっている。
一般的に医療器具は高価であるため、可能な限り洗浄リサイクルが行われる。感染因子となる細菌やウイルスが存在している可能性のある血液、体液、組織片等の蛋白質汚れが付着した医療器具は、通常、感染リスクを低減させるため、洗浄(第1工程)と消毒(第2工程)の2工程を経て洗浄リサイクルが行われる。
【0003】
洗浄(第1工程)の方法には、浸漬洗浄、用手洗浄、及び超音波洗浄機やウォッシャーディスインフェクター等による機械洗浄などがある。また、内視鏡スコープのような医療器具の構造に応じた内視鏡専用洗浄機等も使用されている。
しかし、上記のような洗浄を行っても、医療器具に血液や体液、あるいは組織片等の蛋白質汚れが残存している場合がある。その場合、消毒(第2工程)の効果が十分に発揮されず感染の可能性が高くなる。このため洗浄後の医療器具の清浄度を確認する必要がある。
【0004】
洗浄後の医療器具の清浄度を確認する方法として、例えば特許文献1には、アルカリ性溶液に医療器具を浸漬して、蛋白質を抽出する工程と、この蛋白質抽出工程で得られた抽出液と、蛋白質染色剤とを接触させる工程とを有する蛋白質の検出方法が開示されている。この検出方法では、アルカリ性溶液として水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムの溶液を用い、アルカリ性水溶液の濃度が0.05〜2Nであり、蛋白質抽出工程が25〜90℃において行われ、蛋白質染色剤としてクーマシーブリリアントブルーG−250を用いている。
【0005】
特許文献2には、医療器具を純水、あるいは濃度が20mM以下のアルカリ性溶液である抽出液に浸漬させるとともに、超音波を照射して蛋白質を抽出する工程と、超音波照射によって得た蛋白質抽出液と蛍光試薬とを反応させる反応工程と、反応させた溶液に励起光を照射して蛍光量を測定する蛍光測定工程と、前記蛍光測定工程にて測定された蛍光量に基づいて、前記蛋白質抽出液の濃度を算出する定量工程とを有する蛋白質の検出方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−145271号公報
【特許文献2】特開2012−63298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法の場合、アルカリ性溶液は蛋白質汚れの抽出力が弱く、またアルカリ性溶液は残留蛋白質の変性を引き起こし医療器具への強固な付着を促進するため、蛋白質汚れを更に抽出しにくくしたり、医療器具を腐食したりするなどの問題があった。また物理的刺激を与えない浸漬方法では抽出力が弱いという問題があった。更に蛋白質染色剤のクーマシーブリリアントブルーG−250は蛋白質の種類によって着色に差が生じるため、蛋白質汚れ中の蛋白質の種類や割合が異なると着色程度が異なり、蛋白質量を正確に測定できないという問題があった。またクーマシーブリリアントブルーG−250の着色は界面活性剤の影響を受けやすく、抽出液中に界面活性剤が含まれると正確な検出量が測定できない。そのため、蛋白質の抽出に有効な界面活性剤を抽出液に配合しにくいという問題があった。
【0008】
特許文献2に記載の方法の場合、純水あるいはアルカリ性溶液は浸透作用性や分散作用性が弱く、またアルカリ性溶液は残留蛋白質の変性を引き起こし医療器具への強固な付着を促進するため、蛋白質汚れを更に抽出しにくいという問題があった。またアルカリ性溶液は器具を腐食するという問題もあった。更に特許文献2に記載された蛍光試薬を使った検出方法は、定量範囲が極端に狭いことから抽出液の蛋白質量を定量範囲内に入るよう希釈等の煩雑な操作が必要になるという問題があった。更にアルカリ性物質を含め蛋白質以外の物質が前記蛍光試薬と反応することがあり、正確に蛋白質量を測定できないという問題があった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、検査対象物に付着している蛋白質を十分に抽出し、抽出した蛋白質を簡便に、かつ正確に検出定量する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 検査対象物に付着した蛋白質を検出定量する方法であって、前記検査対象物に界面活性剤を含む抽出液を接触させるとともに、物理的刺激操作を施して蛋白質抽出液を得る蛋白質抽出工程と、前記蛋白質抽出液をビシンコニン酸及び銅(II)を含む蛋白質検出液に接触させ、得られた接触液の吸光度を測定する蛋白質検出定量工程と、を有する、蛋白質の検出定量方法。
[2] 前記物理的刺激操作が超音波照射である、[1]に記載の蛋白質の検出定量方法。
[3] 前記検査対象物が使用後に洗浄を行った器具である、[1]又は[2]に記載の蛋白質の検出定量方法。
[4] 前記界面活性剤がアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種である、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の蛋白質の検出定量方法。
[5] 前記界面活性剤の濃度が前記抽出液100質量%中、0.01〜10質量%である、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の蛋白質の検出定量方法。
[6] 前記蛋白質抽出工程において、物理的刺激操作を施す際の抽出液の温度が20〜70℃である、[1]〜[5]のいずれか1つに記載の蛋白質の検出定量方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の蛋白質の検出定量方法によれば、検査対象物に付着している蛋白質を十分に抽出し、抽出した蛋白質を簡便に、かつ正確に検出定量できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】スライドグラス表面に擬似蛋白質汚染液を塗布した状態を示す平面図である。
図2】実施例で用いた評価用器具を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の蛋白質の検出定量方法は、検査対象物に付着した蛋白質を検出定量する方法であって、以下に示す蛋白質抽出工程と、蛋白質検出定量工程とを有する。
【0014】
<検査対象物>
検査対象物としては、蛋白質が付着している可能性があるものであれば特に限定されないが、器具、ベッド、机、壁、扉、ドアノブ、窓、床などが挙げられる。
器具としては、例えば、手術、検査、治療等に使用される医療用器具、食品の製造や加工に使用される食品用器具、及び使用後に洗浄を行った前記の器具、あるいは洗浄と消毒を行った前記の器具が挙げられる。これらの中でも、使用後に洗浄を行った器具が再利用可能か否か確認する、あるいは器具の洗浄方法の適正さを確認する、という観点から、使用後に洗浄、あるいは洗浄と消毒を行った器具が好適である。
医療用器具としては、具体的には、鑷子、鉗子、剪刀、吸引管、内視鏡、カテーテル、注射針等が挙げられる。
【0015】
<蛋白質抽出工程>
蛋白質抽出工程は、検査対象物に界面活性剤を含む抽出液を接触させるとともに、物理的刺激操作を施して蛋白質抽出液を得る工程である。
検査対象物が器具の場合、蛋白質抽出工程は、例えば、器具を抽出用の容器に設置した後、器具の全体、あるいは器具の蛋白質付着部分に対し漏れなく接触できる量の抽出液を加え、それに物理的刺激を与えることで行うことができる。
【0016】
蛋白質抽出工程で使用する抽出用の容器としては特に限定されず、検出対象となる器具の形状、大きさ等に応じて成型された専用の容器を用いてもよいし、器具の形状、大きさ等に関係なく器具の全体、あるいは器具の蛋白質付着部が収納できる、箱状、管状、袋状等の容器を用いてもよい。抽出液の使用量を少なくすることが可能となり、その結果抽出される蛋白質の濃度を濃くすることができ、微量な蛋白質量も検出可能となる観点から、抽出用の容器としては、器具の形状、大きさ等に応じて成型された専用の容器を用いることが好ましい。
抽出用の容器の材質としては特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ガラス、金属類等が挙げられる。
【0017】
検査対象物がベッドや壁など、抽出用の容器に設置することが困難である場合、蛋白質抽出工程は、例えば抽出液を含んだ綿棒あるいは市販のスワブ製品等の拭き取り器具で、物理的刺激として検査対象物表面の拭き取り操作を行い、拭き取りを終えた拭き取り器具を該拭き取り器具全体が接触できる量の抽出液が入った抽出用の容器に設置し、抽出用の容器を揉むなどして行うことができる。
【0018】
蛋白質抽出工程で使用する抽出液は、界面活性剤を含む。
従来、抽出液としては水やアルカリ性溶液を用いていた。しかし、水やアルカリ性溶液は浸透作用性や分散作用性等が弱く、またアルカリ性溶液は蛋白質の変性を引き起こすため、水やアルカリ性溶液は機械洗浄等を行った後に残留する強固な蛋白質汚れを抽出するには不十分であった。
一方、界面活性剤は、高い湿潤力、分散力、浸透力等を有し、機械洗浄等を行った後に残留する強固な蛋白質汚れを抽出するにも有効である。
【0019】
界面活性剤としては、特に蛋白質汚れに対して強い洗浄性を有し、検査対象物に対して腐食の影響を与えにくいものであれば特に限定されず、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。これらの中でも、蛋白質の抽出効率が高く、検査対象物を腐食しにくい観点から、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤が好ましく、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤がより好ましい。
【0020】
アニオン界面活性剤としては特に限定はなく、例えば、炭素数10〜22の石鹸、炭素数14〜24のアルキルベンゼンスルホン酸塩、炭素数10〜22の高級アルコール硫酸エステル塩、アルキル基の炭素数10〜22でありポリオキシエチレン基のオキシエチレン単位の繰り返し数が1〜10のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、炭素数10〜22のα−スルホ脂肪酸エステル、炭素数8〜18のα−オレフィンスルホン酸塩、炭素数10〜22のアルカンスルホン酸塩、炭素数10〜22のモノアルキルリン酸エステル塩等が挙げられる。これらの中でも、蛋白質の抽出効率が高く、検査対象物を腐食しにくい観点から、炭素数10〜22の石鹸、炭素数14〜24のアルキルベンゼンスルホン酸塩、炭素数10〜22の高級アルコール硫酸エステル塩、アルキル基の炭素数10〜22でありポリオキシエチレン基のオキシエチレン単位の繰り返し数が1〜10のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、炭素数8〜18のα−オレフィンスルホン酸塩、炭素数10〜22のアルカンスルホン酸塩が好ましく、炭素数10〜22の高級アルコール硫酸エステル塩、炭素数8〜18のα−オレフィンスルホン酸塩、炭素数10〜22のアルカンスルホン酸塩がより好ましく、炭素数10〜22の高級アルコール硫酸エステル塩が特に好ましい。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0021】
両性界面活性剤としては特に限定はなく、例えば、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0022】
ノニオン界面活性剤としては特に限定はなく、例えば、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アルキレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドアルキレンオキサイド付加物、ポリオキシプロピレンのアルキレンオキサイド付加物のポリアルキレングリコール型;グリセロール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルの多価アルコール型等が挙げられる。ここで述べた高級アルコールは通常炭素数8〜22の直鎖又は分岐の不飽和又は飽和の高級アルコールである。また、アルキルフェノールは通常炭素数6〜22の直鎖又は分岐の不飽和又は飽和のアルキルフェノールである。また、脂肪酸は通常炭素数10〜22の不飽和又は飽和の脂肪酸である。また、多価アルコールは通常炭素数3〜12の多価アルコールである。また、高級アルキルアミンは通常炭素数8〜22の直鎖又は分岐の不飽和又は飽和の高級アルキルアミンである。アルキレンオキサイドは、具体的には、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−、2,3−、1,3−および1,4−ブチレンオキサイドなどが挙げられ、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが好ましい。また、アルキレンオキサイドは同一であっても異なっていてもよく、異なっている場合は、ブロック付加でもランダム付加でも交互付加でも構わない。アルキレンオキサイドの付加モル数は1〜80が好ましく、2〜60がより好ましく、5〜40が特に好ましい。これらの中でも、蛋白質の抽出効率が高く、検査対象物を腐食しにくい観点から、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アルキレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドアルキレンオキサイド付加物、ポリオキシプロピレンのアルキレンオキサイド付加物のポリアルキレングリコール型;グリセロール脂肪酸エステルが好ましく、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アルキレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドアルキレンオキサイド付加物がより好ましい。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0023】
界面活性剤の濃度は、蛋白質の抽出効率が高まり、経済的でもある観点から、抽出液100質量%中、0.01〜10質量%が好ましく、0.05〜5質量%がより好ましい。
【0024】
界面活性剤を希釈する溶媒としては、水が好ましく、具体的には、水道水、イオン交換水、蒸留水、RO水等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0025】
抽出液の使用量は、検出対象となる検査対象物の大きさ、表面積、使用状況等に応じて調節すればよく、特に限定されるものではない。
【0026】
蛋白質抽出工程での物理的刺激操作としては特に限定されないが、超音波照射、手あるいは機械による振とう、ブラッシング、拭き取り等が挙げられる。これらの中でも、弾性振動波による物理的刺激効果による抽出効率向上の観点から、超音波照射が好ましい。
超音波照射する際の作動周波数は特に限定されるものではないが、蛋白質の抽出効率が高まる観点から、20〜1000kHzが好ましく、20〜100kHzがより好ましい。
超音波照射装置としては特に限定されるものではないが、ホーン型、定在波型等が挙げられる。
【0027】
物理的刺激操作を施す際の抽出液の温度は、蛋白質の抽出効率が高まる観点から、20〜70℃が好ましく、30〜60℃がより好ましい。
また、物理的刺激操作の時間は特に限定されるものではないが、蛋白質の抽出効率が高まり、経済的でもある観点から、1〜120分間が好ましく、5〜60分間がより好ましい。
【0028】
<蛋白質検出定量工程>
蛋白質検出定量工程は、蛋白質抽出工程で得られた蛋白質抽出液をビシンコニン酸及び銅(II)を含む蛋白質検出液に接触させ、得られた接触液の吸光度を測定する工程である。
以下、ビシンコニン酸及び銅(II)を含む蛋白質検出液を用いた蛋白質検出定量法を、「BCA法」という。
【0029】
BCA法は、アルカリ環境下で蛋白質が銅(II)を銅(I)に還元し、その銅(I)とビシンコニン酸が最大吸収波長562nmの青紫色に発色する錯体を形成することを利用している。この一連の反応は、蛋白質抽出液と蛋白質検出液とを、例えば30〜70℃で10〜60分間接触することで完結するため非常に簡便である。
また、BCA法は、界面活性剤の種類や濃度、アルカリの種類や濃度、及び蛋白質の種類の影響を受けにくく、正確に蛋白質量を測定できるという利点を有する。
【0030】
接触液の吸光度の測定には分光光度計を用い、銅(I)とビシンコニン酸が錯体を形成して発色する青紫色の最大吸収波長562nmにて測定する。そして、吸光度の測定結果に基づき、蛋白質量を定量する。
吸光度測定による蛋白質量の定量は、既知の濃度の蛋白質溶液に対する吸光度を用いて予め作成した検量線あるいは相関数式等を用いることにより、蛋白質量を定量するものである。蛋白質抽出液と蛋白質検出液との接触液の吸光度の値を、前記検量線あるいは相関数式に代入して蛋白質量を算出することができる。
前記検量線あるいは相関数式は、洗浄後の検査対象物に残った微量の蛋白質を検出定量することが可能であるように作成することが好ましく、蛋白質濃度が0〜200μg/mLの蛋白質溶液を使用して検量線あるいは相関数式を作成することが好ましい。こうして、検査対象物に付着している蛋白質を簡便に検出定量することができる。
【0031】
なお、蛋白質抽出工程で得られた蛋白質抽出液は、使用する検量線あるいは相関数式の範囲に入るように、予め希釈や濃縮を行って蛋白質濃度を適宜調整してもよい。
【0032】
また、ビシンコニン酸及び銅(II)を含む蛋白質検出液としては、安定性に優れる観点から、ビシンコニン酸を含むアルカリ性溶液と、銅(II)を含む溶液の2液型の蛋白質検出液を用いることが好ましい。2液型の蛋白質検出液の具体例としては、表1に示すビシンコニン酸を含む試薬A溶液と、表2に示す銅(II)を含む試薬B溶液の2液型が挙げられる。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
なお、ビシンコニン酸及び銅(II)を含む蛋白質検出液としては、市販のBCA法用蛋白質検出試薬を用いることができる。例えば、試薬A溶液としてはサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のPierceプロテオミクス関連製品「BCA Protein Assay Reagent A」等が挙げられ、試薬B溶液としてはサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のPierceプロテオミクス関連製品「BCA Protein Assay Reagent B」等が挙げられる。
【0036】
<作用効果>
以上説明した本発明の蛋白質の検出定量方法は、界面活性剤を含む抽出液を用い、物理的刺激操作により検査対象物に付着した蛋白質を抽出し、これをBCA法により検出定量するので、検査対象物に付着している蛋白質を十分に抽出し、抽出した蛋白質を簡便に、かつ正確に検出定量できる。
【0037】
なお、本発明においては、検査対象物に付着した蛋白質を検出定量する場合において、前記抽出液と前記蛋白質検出液とを備えた検出定量キットとして供給することもできる。また、この検出定量キットには、蛋白質の抽出で用いる特定の容器、比色管、吸光度測定用の簡易分光光度計等の検出定量器具が備えられていてもよい。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0039】
<評価用器具の作製>
ヘパリン添加羊血液(株式会社日本バイオテスト研究所製)と、イオン交換水にて濃度1質量%に調整した硫酸プロタミン(ナカライテスク株式会社製)溶液とを、ヘパリン添加羊血液:硫酸プロタミン溶液=10:1(体積比)となるように混合し、模擬蛋白質汚染液を調製した。
【0040】
図1に示すように、スライドグラス(縦76mm×横25mm×厚さ1.3mm)11の表面に、一方の端部から5mmの隙間をあけて模擬蛋白質汚染液X50μLを25mm×25mmになるようにして塗布し、室温で24時間乾燥して擬似蛋白質汚染物が固着したスライドグラスを得た。
ついで、図2に示すように、スライドグラス11の模擬蛋白質汚染液Xが塗布された側の表面かつ他方の端部側にステンレス板(縦5mm×横25mm×厚さ1mm)12を置き、その上から擬似蛋白質汚染液を塗布していないスライドグラス13を載せた後、スライドグラス11、13の両端をクリップ14で挟んで固定し、評価用器具10を得た。
なお、BCA法にて測定したところ、擬似蛋白質汚染液50μL中には8350μgの蛋白質が含まれていた。
【0041】
<BCA法用の検量線の作成>
牛血清アルブミン溶液(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)をイオン交換水で適宜希釈し各蛋白質濃度(0、0.25、0.5、1、5、50、100、150、200μg/mL)の希釈液を得た。
表1に示す試薬A溶液50mLと、表2に示す試薬B溶液1mLとを混合した蛋白質検出液2mLに、先に調製した各希釈液1mLを添加して攪拌した後、60℃で30分間反応させ、15℃で5分間放置して各接触液を得た。得られた各接触液の562nmにおける吸光度を分光光度計(株式会社パーキンエルマージャパン製、「Lambda650S」)にて測定し、各希釈液中の蛋白質濃度に対する各吸光度をプロットし、BCA法用の検量線を作成した。なお、蛋白質濃度0.25、0.5、1、5、50、100、150、200μg/mLの吸光度は直線状に得られた。
【0042】
<CBB法用の検量線の作成>
牛血清アルブミン溶液(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)をイオン交換水で適宜希釈し各蛋白質濃度(0、0.25、0.5、1、2.5、5、25μg/mL)の希釈液を得た。
Coomassie Protein Assay Reagent(CBB試薬(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製))3mLに、先に調製した各希釈液1mLを添加して攪拌した後、25℃で20分間放置して各接触液を得た。得られた各接触液の595nmにおける吸光度を分光光度計(株式会社パーキンエルマージャパン製、「Lambda650S」)にて測定し、各希釈液中の蛋白質濃度に対する各吸光度をプロットし、CBB法用の検量線を作成した。なお、蛋白質濃度0、0.25、0.5、1、2.5、5、25μg/mLの吸光度は直線状に得られた。
【0043】
「実施例1」
イオン交換水にドデシル硫酸ナトリウムを濃度が0.1質量%になるように溶解させ、抽出液を調製した。
別途、表1に示す試薬A溶液50mLと、表2に示す試薬B溶液1mLとを混合し、蛋白質検出液を調製した。
【0044】
200mLビーカーに抽出液を100mL入れ、そこに評価用器具を浸漬させ、超音波洗浄機(アズワン株式会社製、「ASU−10」)にて温度50℃で10分間超音波照射を行い、評価用器具に固着した擬似蛋白質汚染物を抽出して蛋白質抽出液を得た。
得られた蛋白質抽出液1mL(蛋白質抽出液に含まれる蛋白質量が200μg/mL以上の場合はイオン交換水で200μg/mL以下となるよう希釈した。)に蛋白質検出液2mLを加えて攪拌した後、60℃で30分間反応させ、更に15℃で5分間放置して接触液を得た。
得られた接触液の562nmにおける吸光度を分光光度計(株式会社パーキンエルマージャパン製、「Lambda650S」)にて測定し、BCA法用の検量線の数式に代入して抽出蛋白質量を算出した。また、下記式より抽出率を求めた。これらの結果を表3に示す。
抽出率(%)=100−[8350(μg)−抽出蛋白質量(μg)]×100/8350(μg)
【0045】
「実施例2〜12、比較例1〜3」
表3〜5に示す組成の抽出液を用いた以外は、実施例1と同様の処理を行った。結果を表3〜5に示す。
【0046】
「比較例4〜8」
表6に示す組成の抽出液を用い、該抽出液100mLが入った200mLビーカーに評価用器具を浸漬し、温度50℃で10分間放置し、評価用器具に固着した擬似蛋白質汚染物を抽出して蛋白質抽出液を得た。
得られた蛋白質抽出液の蛋白質検出は実施例1と同様の処理を行った。結果を表6に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
表3〜6中におけるイオン交換水の「残部」とは、抽出液の総量を100質量%とするのに必要とした量のことである。
また、表3〜6中の略号は以下の通りである。
・活性剤1:ポリオキシエチレン(6モル)ポリオキシプロピレン(2.5モル)モノアルキル(C12−13)エーテル
・活性剤2:ポリオキシエチレン(8.5モル)ポリオキシプロピレン(2.5モル)モノアルキル(C12−13)エーテル
・活性剤3:ポリオキシエチレン(14モル)ポリオキシプロピレン(2.5モル)モノアルキル(C12−13)エーテル
・活性剤4:ポリオキシアルキレン(9モル)アルキル(C10−16モル)エーテル
・活性剤5:ポリオキシエチレン(11モル)牛脂硬化アルキルアミン
・活性剤6:ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタンモノラウレート
・活性剤7:ポリオキシエチレン(10モル)オクチルフェニルエーテル
・活性剤8:3―[(3―コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]―1―プロパンスルホナート
・活性剤9:ドデシルジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒロドキシド分子内塩
【0052】
表3〜6から明らかなように、界面活性剤を含む抽出液を用い、超音波照射して蛋白質を抽出した各実施例の場合、抽出効率が高く抽出率はすべて98%以上であった。
一方、抽出液としてイオン交換水又は水酸化ナトリウム水溶液を用い、超音波照射して蛋白質を抽出した比較例1〜3の場合、各実施例に比べて蛋白質の抽出率が低く、95%以下であった。
界面活性剤を含む抽出液を用いたものの、超音波照射せずに浸漬だけで蛋白質を抽出した比較例4〜8の場合は、極端に抽出効率が低下し、抽出率は80%未満であった。
これらの結果より、界面活性剤を用いて超音波照射することが蛋白質の抽出に極めて効果的であることが確認できた。
【0053】
「実施例13〜19」
イオン交換水にドデシル硫酸ナトリウムを濃度が1質量%になるように溶解させ、抽出液を調製した。
得られた抽出液を用い、表7に示す温度で10分間超音波照射を行った以外は、実施例1と同様の処理を行った。結果を表7に示す。また、実施例2の結果も表7に示す。
【0054】
【表7】
【0055】
表7から明らかなように、各実施例では、評価用器具に付着している蛋白質を十分に抽出でき、抽出した蛋白質を簡便かつ正確に検出定量できた。特に、物理的刺激操作を施す際の抽出液の温度が20〜70℃である場合、蛋白質の抽出率が95%以上であり、抽出温度としてより効果的であることが確認できた。
【0056】
「実施例20」
表8に示す組成に従い、疑似蛋白質抽出液(1)〜(9)を調製した。
別途、表1に示す試薬A溶液50mLと、表2に示す試薬B溶液1mLとを混合し、蛋白質検出液を調製した。
各疑似蛋白質抽出液1mLに蛋白質検出液2mLを加えて攪拌した後、60℃で30分間反応させ、更に15℃で5分間放置して接触液を得た。
得られた接触液の562nmにおける吸光度を分光光度計(株式会社パーキンエルマージャパン製、「Lambda650S」)にて測定し、BCA法用の検量線の数式に代入して蛋白質量を算出した。結果を表11に示す。
【0057】
「実施例21」
表9に示す組成の疑似蛋白質抽出液(10)〜(18)を用いた以外は、実施例20と同様の処理を行った。結果を表11に示す。
【0058】
「実施例22」
表10に示す組成の疑似蛋白質抽出液(19)〜(27)を用いた以外は、実施例20と同様の処理を行った。結果を表11に示す。
【0059】
「比較例9」
表8に示す組成に従い、疑似蛋白質抽出液(1)〜(9)を調製した。
各疑似蛋白質抽出液1mLに、蛋白質検出液としてCoomassie Protein Assay Reagent〔CBB試薬(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)〕3mLを加えて攪拌した後、25℃で20分間放置して接触液を得た。
得られた接触液の595nmにおける吸光度を分光光度計(株式会社パーキンエルマージャパン製、「Lambda650S」)にて測定し、CBB法用の検量線の数式に代入して蛋白質量を算出した。結果を表12に示す。
なお、疑似蛋白質抽出液中に含まれるアルカリ化合物、又は界面活性剤の影響を受けて測定値が高く出た場合は、疑似蛋白質抽出液をイオン交換水にて希釈したものを用いて接触液を得て、吸光度を測定した。
【0060】
「比較例10」
表9に示す組成の疑似蛋白質抽出液(10)〜(18)を用いた以外は、比較例9と同様の処理を行った。結果を表12に示す。
【0061】
「比較例11」
表10に示す組成の疑似蛋白質抽出液(19)〜(27)を用いた以外は、比較例9と同様の処理を行った。結果を表12に示す。
【0062】
【表8】
【0063】
【表9】
【0064】
【表10】
【0065】
【表11】
【0066】
【表12】
【0067】
表8〜10中におけるイオン交換水の「残部」とは、疑似蛋白質抽出液の総量を100質量%とするのに必要とした量のことである。
また、 表8〜12中の略号は以下の通りである。
・活性剤2:ポリオキシエチレン(8.5モル)ポリオキシプロピレン(2.5モル)モノアルキル(C12−13)エーテル
・活性剤5:ポリオキシエチレン(11モル)牛脂硬化アルキルアミン
【0068】
表11、12から明らかなように、BCA法による蛋白質の定量はアルカリ、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤の影響を受けにくく、蛋白質仕込み量とほぼ同等の蛋白質量が検出されることが確認できた(実施例20〜22)。
一方、CBB法による蛋白質の定量はアルカリ、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤の影響を受け、蛋白質仕込み量と異なる蛋白質量が検出された(比較例9〜11)。
これらの結果より、検査対象物の洗浄剤に界面活性剤を使用した場合、すすぎ不足等で界面活性剤が被抽出物に付着している懸念があっても、BCA法を使用すれば、正確な測定が可能であり、また抽出剤として抽出効率が高い界面活性剤を用いることも可能であることが確認できた。対して、CBB法を用いた場合は、すすぎ不足等で界面活性剤が被抽出物に付着している懸念がある場合、正確な測定が困難であり、また抽出剤として抽出効率が高い界面活性剤を用いることも困難である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の蛋白質の検出定量方法によれば、検査対象物に付着している蛋白質を十分に抽出し、抽出した蛋白質を簡便に、かつ正確に検出定量できる。よって、本発明の蛋白質の検出定量方法は、医療機関等で再利用されている器具等の検査対象物の清浄度評価や、医療用洗浄機等の性能評価に特に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0070】
10 評価用器具
11 スライドグラス
12 ステンレス板
13 スライドグラス
14 クリップ
X 模擬蛋白質汚染液
図1
図2