特許第6507466号(P6507466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6507466
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】呈味改善剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/20 20160101AFI20190422BHJP
   A23L 23/00 20160101ALN20190422BHJP
【FI】
   A23L27/20 H
   !A23L23/00
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-270111(P2013-270111)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2014-193146(P2014-193146A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2016年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-40024(P2013-40024)
(32)【優先日】2013年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100122688
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100117743
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 美由紀
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】若林 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 恵子
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 紀久枝
(72)【発明者】
【氏名】浅木 麻里子
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 昌希子
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−516073(JP,A)
【文献】 特公昭46−017957(JP,B1)
【文献】 特開平03−255198(JP,A)
【文献】 日本家政学会誌,2012年,Vol. 63, No. 11,p. 745-749
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00−35/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジヒドロアクチニジオライドを有効成分とする食品の呈味改善剤であって、前記呈味改善が、うま味、甘味、酸味及びあつみのうちの1種又は2種以上の増強であり、前記ジヒドロアクチニジオライドが、単離されたもの又は合成品である、呈味改善剤。
【請求項2】
ジヒドロアクチニジオライドの含有量が0.000001重量%〜99重量%である、請求項1記載の呈味改善剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の呈味改善剤を食品に添加する工程を含む、呈味の改善された食品の製造方法。
【請求項4】
最終食品中のジヒドロアクチニジオライドの濃度が100重量ppt〜100重量ppmとなるように、当該呈味改善剤を食品に添加する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
当該呈味改善剤を添加する食品が、食品素材、調味料及び加工食品のいずれかであることを特徴とする、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
最終食品中のジヒドロアクチニジオライドの濃度が100重量ppt〜100重量ppmとなるように、ジヒドロアクチニジオライドを食品に添加する工程を含む、食品の呈味改善方法であって、前記呈味改善が、うま味、甘味、酸味及びあつみのうちの1種又は2種以上の増強である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汎用的に使用できる、食品の呈味改善剤、それにより呈味が改善された食品の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の味覚は、甘味、酸味、塩味、苦味及びうま味を5基本味とし、それに辛味、渋味、金属味、コク味、ひろがり、あつみなどが複雑にからみあって感じられるものである。
【0003】
食品の呈味を改善する場合、もっとも単純には、それぞれの味に寄与する味物質の使用量を増減させることで可能になる。しかし、近年、より満足感のある複雑な呈味を有する食品が望まれている。
【0004】
例えば、呈味については、コク味物質としてのグルタチオン(特許文献1)、コク味増強物質(非特許文献1)、うま味増強物質(非特許文献2)などが報告されている。
【0005】
また、他にも食品の呈味改善の手法として、香気成分を用いる方法も報告されている。例えば、セロリ香気に関するコクの増強効果(非特許文献3)やワニリルアルコール誘導体を含有する呈味増強剤(特許文献2)が知られている。
【0006】
ジヒドロアクチニクロライド(5,6,7,7a-テトラヒドロ-4,4,7a-トリメチルベンゾフラン-2(4H)-オン)は、紅茶、メロン、プーアール茶、緑茶、ルイボス茶、タバコ、トマト、もやし、ドライソーセージなどの香気成分中に検出されることが知られている、揮発性のノルカロテノイドである。特許文献3には、ジヒドロアクチニジオライドの合成とその利用について開示されている。また特許文献4には、ジヒドロアクチニジオライドを1-oxo-8-oxo-2,6,10,10-tetramethylspiro[4,5]deca-6-eneと一緒に使用すると、紅茶に素晴らしいアロマを与えることができることが開示されている。しかしながら、これらの文献には、ジヒドロアクチニジオライドを食品に添加した場合の呈味への影響については全く記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第1464928号公報
【特許文献2】特許第4611203号公報
【特許文献3】中国特許出願公開第1182084号明細書
【特許文献4】英国特許出願公開第1196897号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Agricultural and Food Chemistry 2010, 58, 12906-12915
【非特許文献2】Journal of Agricultural and Food Chemistry 2011, 59, 665-676
【非特許文献3】Journal of Agricultural and Food Chemistry 2008, 56(2), 512-516
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような従来知られている呈味改善手段は、汎用性の点で十分ではなかった。例えば、特許文献1に記載のグルタチオンの添加は、コク味だけでなく、特有の異風味をも食品に付与する。非特許文献3に記載のセロリ香気物質はそれ自体の有する風味・香味に特徴があり、食品の繊細な風味を損なうおそれがある。また特許文献2に記載のワニリルアルコール誘導体は、辛辣性香辛料との組み合わせが特に好ましいとされている点で、適用される食品が限定される。更に、非特許文献1に記載のコク味増強物質や非特許文献2に記載のうま味増強物質は、安価で利用できる物質ではない点で十分な汎用性があるとは言えない。
【0010】
そこで本発明は、より汎用的に使用できる、食品の呈味を改善(増強も含む)する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を行なったところ、ジヒドロアクチニジオライドが食品の呈味を改善する作用を有することを新たに見出した。また意外にも、ジヒドロアクチニジオライドには、一部の食品に留まらず、幅広く様々な食品(例えば、和風スープ、洋風(コンソメ)スープ、中華スープ、ポタージュスープなど)の呈味を改善する効果があることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて更に研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]ジヒドロアクチニジオライドを有効成分とする食品の呈味改善剤。
[2]ジヒドロアクチニジオライドの含有量が10重量ppb〜99重量%である、[1]記載の呈味改善剤。
[3][1]または[2]に記載の呈味改善剤を食品に添加する工程を含む、呈味の改善された食品の製造方法。
[4]最終食品中のジヒドロアクチニジオライドの濃度が100重量ppt〜100重量ppmとなるように、当該呈味改善剤を食品に添加する、[3]に記載の方法。
[5]当該呈味改善剤を添加する食品が、食品素材、調味料及び加工食品のいずれかであることを特徴とする、[3]または[4]に記載の方法。
[6]最終食品中のジヒドロアクチニジオライドの濃度が100重量ppt〜100重量ppmとなるように、ジヒドロアクチニジオライドを食品に添加する工程を含む、食品の呈味改善方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、食品が本来有する呈味・香味の特徴を損なうことなく、食品の呈味を改善(増強も含む)することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(呈味改善剤)
本発明は、ジヒドロアクチニジオライドを有効成分とする食品の呈味改善剤を提供する。
【0015】
ジヒドロアクチニジオライドは、下記式
【0016】
【化1】
【0017】
で表される、揮発性のノルカロテノイドである。本発明は、ジヒドロアクチニジオライドが、意外にも種々の食品の呈味を改善する効果を有することを見出したことに基づくものである。
【0018】
本発明に用いられるジヒドロアクチニジオライドは、天然物やその加工品から単離・精製したものであってもよいし、合成品であってもよい。ジヒドロアクチニジオライドは、溶媒抽出、各種クロマトグラフィーなどの公知の技術を用いて天然物やその加工品から単離・精製できる。またジヒドロアクチニジオライドは、例えば、Yao Sらの方法(J Org Chem. 1998 Jan 9;63(1):118-121.)などの公知の方法を使用して合成することができる。ジヒドロアクチニジオライドは、市販品であってもよく、例えばWaterstone Technology社などから入手可能である。
【0019】
ジヒドロアクチニジオライドは、それ自体の香りが少ないため、又はその香りの閾値以下で食品の呈味改善効果を示すため、本発明の呈味改善剤により、食品が本来有する呈味・香味を損なうことなく、食品の呈味を改善することができる。本明細書において「食品の呈味を改善する」とは、食品により提供される甘味、塩味、酸味及びうま味の基本味、並びに、コク味、ひろがり、あつみなどの基本味の周辺の感覚のうちの1種又は2種以上を改善することを意味し、特に、うま味、甘味、酸味、あつみのうちの1種又は2種以上を改善することを意味する。本明細書中、「改善する」には、食品の官能評価において好ましいと評価される限り、上記基本味及びその周辺の感覚のうちの1種又は2種以上を増強すること及び抑制することのいずれも含まれる。食品の官能評価は、専門パネラーにより、評価基準を、例えば、−:好ましくない効果有り、±:効果なし、+:好ましい効果有り、++:とても好ましい効果有り、などとして行なうことができる。尚、後述するように、本発明の呈味改善剤を適用する食品が、最終食品を調製するために喫食前に適宜希釈される調味料又は食品素材である場合、「食品の呈味を改善する」ことは、当該調味料又は食品素材を用いて調製される最終食品の呈味を改善することを意味する。ここで「最終食品」とは、そのまま喫食される食品を意味する。
【0020】
本発明の呈味改善剤は、食品の呈味を改善し得る量で食品に添加すればよく、食品の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、呈味改善の効果の観点から、ジヒドロアクチニジオライドとして100重量ppt〜100重量ppm、好ましくは10重量ppb〜240重量ppb、より好ましくは30重量ppb〜120重量ppbの濃度で、食品に添加すればよい。ここで「ジヒドロアクチニジオライドとして」とは、本発明の呈味改善剤に含有されるジヒドロアクチニジオライドが、本発明の呈味改善剤を添加した食品中で上記濃度となることを意味する。ジヒドロアクチニジオライドとしての濃度が100重量ppt未満であると、呈味改善効果が十分でない傾向がある。またジヒドロアクチニジオライドとしての濃度が100重量ppmを超えると、食品中にジヒドロアクチニジオライドが有する独特の苦味が発現する傾向がある。
【0021】
本発明では、ジヒドロアクチニジオライドをそのまま呈味改善剤として用いてもよく、或いはジヒドロアクチニジオライド以外の材料と合わせて呈味改善剤を構成してもよい。ジヒドロアクチニジオライド以外の材料が用いられる場合、呈味改善剤に含まれるジヒドロアクチニジオライドの濃度は、特に限定されないが、例えば10重量ppb〜99重量%、好ましくは100重量ppb〜10重量%、より好ましくは1重量ppm〜1重量%、さらに好ましくは5重量ppm〜0.5重量%である。ジヒドロアクチニジオライド以外の材料としては、例えば賦形剤、調味剤、固結防止剤、消泡剤、崩壊剤、潤沢剤、結合
剤、等張化剤、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、矯味剤、凝固剤、pH調整剤等の食品に使用可能な添加剤が挙げられる。尚、矯味剤は、本発明における呈味改善効果を妨げない限り、当分野で通常使用されるものであってよい。
【0022】
賦形剤としては、例えばでんぷん性食品添加剤等が、調味剤としては、例えばグルタミン酸ナトリウム等が、固結防止剤としては、例えば二酸化ケイ素等が、消泡剤としては、例えばポリジメチルシロキサン等が、崩壊剤としては、例えば繊維素グリコール酸カルシウム等が、潤沢剤としては、例えばステアリン酸カルシウム等が、結合剤としては、例えばセルロース等が、等張化剤としては、例えばソルビトール等が、緩衝剤としては、例えば酢酸ナトリウム等が、溶解補助剤としては、例えばシクロデキストリン等が、防腐剤としては、例えば亜硝酸ナトリウム等が、抗酸化剤としては、例えばL−アスコルビン酸等が、着色剤としては、例えばベニバナ色素等が、矯味剤としては、例えば甘味剤や有機酸等が、凝固剤としては、例えば塩化マグネシウム等が、pH調整剤としては、例えば乳酸ナトリウム等が挙げられる。
【0023】
食品に添加する本発明の呈味改善剤の形態は、特に限定されるものではなく、添加する食品の種類に応じてあらゆる形態とすることができる。例えば、粉末状であってもよく、顆粒状、液状、又はペースト状であってもよい。
【0024】
本発明の呈味改善剤が適用される食品は、特に制限されないが、例えば、そのまま喫食される最終食品、最終食品を調製するために喫食前に適宜希釈される調味料、食品素材等が挙げられる。具体的には、チキン、ポーク、ビーフ等の家畜家禽肉由来の食品素材(エキス、肉、骨等を含む)、鰹節、煮干し、干貝柱等の魚介類由来の食品素材、昆布、椎茸、玉葱、セロリ、人参等の海藻類、茸類、野菜類由来の食品素材、またはこれらの食品素材を2つ以上組み合わせたもの、或いはこれらの食品素材を原料として加工される食品または調味料(例えば、和風スープ、コンソメスープ、鶏がらスープ、ポタージュスープなどのスープ類、煮物などの加工食品、めんつゆなどの調味料、グラニュー糖、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウムなどの甘味料及び該甘味料を含む食品)などが挙げられる。本発明の呈味改善剤が適用される食品は、好ましくは食品素材、調味料及び加工食品のいずれかである。尚、「加工」とは、製造、調理等を含む概念である。また本明細書において「食品」とは、食品全般(飲料を含む)を意味する。
【0025】
(呈味の改善された食品の製造方法)
本発明は更に、本発明の呈味改善剤を食品に添加する工程を含む、呈味の改善された食品の製造方法を提供する。
【0026】
本発明の呈味改善剤は、上述したように、食品の呈味を改善し得る量で食品に添加すればよく、好ましくは、本発明の呈味改善剤は、食品素材、調味料または加工食品のいずれかに添加される。例えば、本発明の呈味改善剤を、そのまま喫食され得る最終食品(例えば、加工食品など)に直接添加する場合には、ジヒドロアクチニジオライドとして100重量ppt〜100重量ppm、好ましくは10重量ppb〜240重量ppb、より好ましくは30重量ppb〜120重量ppbの濃度で、食品に添加することで、呈味改善効果を効果的に得ることができる。最終食品中の濃度が100重量pptより低い濃度の場合は、充分な呈味改善効果が得られない傾向があり、100重量ppmより高い濃度の場合は、苦味などの好ましくない呈味が感じられる傾向がある。また本発明の呈味改善剤を、最終食品を調製するために喫食時に適宜希釈される調味料又は食品素材(例えば、家畜家禽肉由来の飲食品素材(エキス、肉、骨等)、濃縮タイプのめんつゆ等)に添加することにより間接的に最終食品に添加する場合には、当該調味料又は食品素材への添加量は、最終食品中のジヒドロアクチニジオライドの濃度が上記範囲になるように、その希釈率に応じて増やすことができる。例えば、喫食時に100倍希釈される調味料の場合には、当該調味料中のジヒドロアクチニジオライドの濃度が、10重量ppb〜1重量%、好ましくは1重量ppm〜24重量ppm、より好ましくは3重量ppm〜12重量ppmとなるように添加することで、最終食品の呈味改善効果を効率的に得ることができる。
また本発明の呈味改善剤の食品への添加は、食品の製造前の原料中、食品の製造中、食品の完成後、食品の喫食直前、食品の喫食中等、いかなる時点で行ってもよい。
【0027】
本発明により製造される呈味の改善された食品(本発明の食品ともいう)としては、特に制限されないが、例えば、前掲の本発明の呈味改善剤が適用される食品のうち、そのまま喫食される最終食品(例えば、加工食品など)が挙げられる。本発明の食品は、本発明の呈味改善剤を添加する工程を含む以外は、公知の食品と同様の原料を用い、公知の製造方法によって製造することができる。
【0028】
(食品の呈味改善方法)
本発明は更に、ジヒドロアクチニジオライドを食品に添加する工程を含む、食品の呈味改善方法(以下、本発明の呈味改善方法とも称する)を提供する。
【0029】
ジヒドロアクチニジオライドは、上述したように、食品の呈味を改善し得る量で食品に添加すればよく、最終食品中のジヒドロアクチニジオライドの濃度が、通常100重量ppt〜100重量ppm、好ましくは10重量ppb〜240重量ppb、より好ましくは30重量ppb〜120重量ppbとなるように、食品に添加すればよい。
例えば、そのまま喫食され得る最終食品にジヒドロアクチニジオライドを直接添加する場合には、最終食品中のジヒドロアクチニジオライドの濃度が100重量ppt〜100重量ppm、好ましくは10重量ppb〜240重量ppb、より好ましくは30重量ppb〜120重量ppbとなるように当該最終食品に添加することで、呈味改善効果を効果的に得ることができる。最終食品中の濃度が100重量pptより低い濃度の場合は、充分な呈味改善効果が得られない傾向があり、100重量ppmより高い濃度の場合は、苦味などの好ましくない呈味が感じられる傾向がある。
また、喫食時に適宜希釈される調味料又は食品素材(例えば、家畜家禽肉由来の飲食品素材(エキス、肉、骨等)、濃縮タイプのめんつゆ等)にジヒドロアクチニジオライドを添加しておき、これを適宜希釈して最終食品を調製することにより、最終食品の呈味を改善することもできる。当該調味料又は食品素材へのジヒドロアクチニジオライドの添加量は、最終食品中のジヒドロアクチニジオライドの濃度が上記範囲になるように、その希釈率に応じて増やすことができる。例えば、喫食時に100倍希釈される調味料の場合には、当該調味料中のジヒドロアクチニジオライドの濃度が、10重量ppb〜1重量%、好
ましくは1重量ppm〜24重量ppm、より好ましくは3重量ppm〜12重量ppmとなるように添加することで、最終食品の呈味改善効果を効率的に得ることができる。
また、ジヒドロアクチニジオライドの食品への添加は、食品の製造前の原料中、食品の製造中、食品の完成後、食品の喫食直前、食品の喫食中等、いかなる時点で行ってもよい。
【0030】
ジヒドロアクチニジオライドの食品への添加は、上述の本発明の呈味改善剤を食品に添加することにより行ってもよい。即ち、一態様において、本発明は、本発明の呈味改善剤を食品に添加する工程を含む、食品の呈味改善方法である。
この場合、本発明の呈味改善剤を、そのまま喫食され得る最終食品に直接添加することにより、当該最終食品の呈味を改善することができる。また、喫食時に適宜希釈される調味料又は食品素材に添加しておき、これを適宜希釈して最終食品を調製することにより、最終食品の呈味を改善することもできる。本発明の呈味改善剤は、上述したように、食品の呈味を改善し得る量で食品に添加すればよく、最終食品中のジヒドロアクチニジオライドの濃度が、通常100重量ppt〜100重量ppm、好ましくは10重量ppb〜240重量ppb、より好ましくは30重量ppb〜120重量ppbとなるように、食品に添加すればよい。
【0031】
ジヒドロアクチニジオライドが添加される食品は、特に限定されないが、例えば、上述の本発明の呈味改善剤が適用される食品が挙げられる。本発明の呈味改善方法により、最終食品の呈味を効果的に改善することができる。
【0032】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
実施例1.スープへの添加効果
和風スープは、味の素株式会社製「ほんだし(登録商標)」を水溶液濃度で0.67重量%になるように調製した。洋風スープは、味の素株式会社製「KKコンソメ」を水溶液濃度で1.77重量%になるように調製した。中華スープは、味の素株式会社製「丸鶏がらスープ」を水溶液濃度で1.67重量%になるように調製した。ポタージュスープは、味の素株式会社製「クノール カップスープポタージュ」を9.8重量%になるように調製した。
ジヒドロアクチニジオライド(Waterstone Technology社製)10mgを1mlのエタノールに溶解し、超純水にて希釈を行い、1000ppm溶液を調製した。
更に、上記1000ppm溶液を超純水で100倍希釈し10ppm溶液を調製した。10ppm溶液0.1μlをスープ100gに添加して良く撹拌し、10重量ppt試料を調製した。10ppm溶液1μlを用いて、同様な操作を行い、100重量ppt試料を調製した。
1000ppm溶液0.1μlをスープ100gに添加して良く撹拌し、1重量ppb試料を調製した。同様な操作を行い、順次、10、30、60、120、240重量ppb試料を調製した。
100重量ppm試料と1000重量ppm試料は、ジヒドロアクチニジオライド10mg、または100mgを計量し、それぞれスープ100gに添加して良く撹拌して調製した。
上記溶液0.1μlをスープ100gに添加して良く撹拌し、1重量ppb試料を調製した。同様にして、10、30、60、120及び240重量ppb試料を調製した。
【0034】
官能評価は、専門のパネラー3名で行い、評価基準は、
− :好ましくない効果有り
± :効果なし
+ :好ましい効果有り
++:とても好ましい効果有り
とした。
【0035】
結果を下記表1、2、3及び4に示す。いずれのスープにおいても100重量ppt〜100重量ppmの濃度で呈味を改善(特に増強)する効果が認められた。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
実施例2.鰹だしへの添加効果
鰹だしは、味の素株式会社製「極味(きわみ)本造り一番だし かつおだし」を16倍希釈したものを用いた。この鰹だしに、上述したジヒドロアクチニジオライド溶液を添加して、表5に記載の濃度でジヒドロアクチニジオライドを含む試料を調製した。
【0041】
官能評価は、専門のパネラー3名で行い、評価基準は、
− :好ましくない効果有り
± :効果なし
+ :好ましい効果有り
++:とても好ましい効果有り
とした。
【0042】
結果を下記表5に示す。ジヒドロアクチニジオライドを添加した場合、10重量ppb〜240重量ppbのいずれの濃度においても鰹だしの呈味を改善する効果が認められた。
【0043】
【表5】
【0044】
実施例3.調理評価系への添加効果
調理評価系として、めんつゆと煮物を試作した。配合表を下記表6及び7に示す。みりんはキッコーマン株式会社製「マンジョウ芳醇本みりん」、しょうゆはキッコーマン株式会社製「しょうゆ」を使用した。酒はキング醸造株式会社製純米料理酒、薄口しょうゆはキッコーマン株式会社製「うすくちしょうゆ」、砂糖は三井製糖株式会社製「上白糖」を使用した。
【0045】
めんつゆは、以下の方法により調製した:鍋に水と「ほんだし(登録商標)」を入れて煮立て、みりんとしょうゆを加え、水分蒸発量を補正する。
めんつゆに、上述したジヒドロアクチニジオライド溶液を添加して、表8に記載の濃度でジヒドロアクチニジオライドを含む試料を調製した。
【0046】
煮物は、以下の方法により調製した:鍋に高野豆腐以外の材料(即ち、つゆの区分の材料)を入れて煮立て、高野豆腐を入れて中火で1〜2分煮る。蓋をして弱火で20分ほど煮た後、火を消して、蒸発量を補正する。
煮物のつゆの区分に対して、上述したジヒドロアクチニジオライド溶液を添加して、表9に記載の濃度でジヒドロアクチニジオライドを含む試料を調製した。
【0047】
官能評価は、専門のパネラー3名で行い、評価基準は、
− :好ましくない効果有り
± :効果なし
+ :好ましい効果有り
++:とても好ましい効果有り
とした。
【0048】
結果を下記表8及び9に示す。ジヒドロアクチニジオライドを添加した場合、いずれの濃度においてもめんつゆ及び煮物の呈味を改善する効果が認められた。
【0049】
【表6】
【0050】
【表7】
【0051】
【表8】
【0052】
【表9】
【0053】
実施例4.鰹だしを用いた調理評価系への添加効果
鰹だしを用いた調理評価系として、めんつゆと煮物を調製した。配合表を下記表10、11及び12に示す。鰹だしには、味の素株式会社製「極味(きわみ)本造り一番だし かつおだし」を用いた。三温糖は三井製糖株式会社製「三温糖」を用いた。かえしは、鍋にみりんを入れて煮立て、静まるまで加熱し、三温糖及び醤油を加え、80℃まで加熱した後、冷ますことにより調製した。
【0054】
めんつゆは、配合表の材料をすべて混合し、つけ汁として供した。
めんつゆに、上述したジヒドロアクチニジオライド溶液を、表13に記載の濃度となるように添加した。
【0055】
煮物は、以下の方法により調製した:たけのことオクラは下ゆでしたものを用いた。鍋に水及び調味料区分(即ち、つゆの区分の材料)をすべて混合し、厚揚げ、たけのこ、オクラを加え、一煮立ちした後、水分蒸発量を補正した。
煮物のつゆの区分に対して、上述したジヒドロアクチニジオライド溶液を、表14に記載の濃度となるように添加した。
【0056】
官能評価は、専門のパネラー3名で行い、評価基準は、
− :好ましくない効果有り
± :効果なし
+ :好ましい効果有り
++:とても好ましい効果有り
とした。
【0057】
結果を下記表13及び14に示す。ジヒドロアクチニジオライドを添加した場合、いずれの濃度においてもめんつゆ及び煮物の呈味を改善する効果が認められた。
【0058】
【表10】
【0059】
【表11】
【0060】
【表12】
【0061】
【表13】
【0062】
【表14】
【0063】
実施例5.グラニュー糖水溶液への添加効果
5%グラニュー糖水溶液に対して、上述したジヒドロアクチニジオライド溶液を、表15に記載の濃度となるように添加した。
【0064】
官能評価は、専門のパネラー2名で行い、評価基準は、
− :好ましくない効果有り
± :効果なし(無添加と同等)
+ :好ましい効果有り
++:とても好ましい効果有り
とした。
【0065】
結果を下記表15に示す。ジヒドロアクチニジオライドを添加した場合、100重量ppt〜100重量ppmのいずれの濃度においてもグラニュー糖水溶液の甘味およびあつみを改善(特に増強)する効果が認められた。
【0066】
【表15】
【0067】
実施例6.アスパルテーム水溶液への添加効果
0.036%アスパルテーム水溶液に対して、上述したジヒドロアクチニジオライド溶液を、表16に記載の濃度となるように添加した。
【0068】
官能評価は、専門のパネラー2名で行い、評価基準は、
− :好ましくない効果有り
± :効果なし(無添加と同等)
+ :好ましい効果有り
++:とても好ましい効果有り
とした。
【0069】
結果を下記表16に示す。ジヒドロアクチニジオライドを添加した場合、100重量ppt〜100重量ppmのいずれの濃度においてもアスパルテーム水溶液の甘味およびあつみを改善(特に増強)する効果が認められた。
【0070】
【表16】
【0071】
実施例7.スクラロース水溶液への添加効果
0.0108%スクラロース水溶液に対して、上述したジヒドロアクチニジオライド溶液を、表17に記載の濃度となるように添加した。
【0072】
官能評価は、専門のパネラー4名で行い、評価基準は、
− :好ましくない効果有り
± :効果なし(無添加と同等)
+ :好ましい効果有り
++:とても好ましい効果有り
とした。
【0073】
結果を下記表17に示す。ジヒドロアクチニジオライドを添加した場合、100重量ppt〜100重量ppmのいずれの濃度においてもスクラロース水溶液の甘味およびあつみを改善(特に増強)する効果が認められた。
【0074】
【表17】
【0075】
実施例8.アセスルファムカリウム水溶液への添加効果
0.045%アセスルファムカリウム水溶液に対して、上述したジヒドロアクチニジオライド溶液を、表18に記載の濃度となるように添加した。
【0076】
官能評価は、専門のパネラー4名で行い、評価基準は、
− :好ましくない効果有り
± :効果なし(無添加と同等)
+ :好ましい効果有り
++:とても好ましい効果有り
とした。
【0077】
結果を下記表18に示す。ジヒドロアクチニジオライドを添加した場合、100重量ppt〜100重量ppmのいずれの濃度においてもアセスルファムカリウム水溶液の甘味およびあつみを改善(特に増強)する効果が認められた。
【0078】
【表18】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、食品が本来有する呈味・香味の特徴を損なうことなく、且つ汎用的に使用可能な、食品の呈味を改善する手段を提供することができるため、本発明は食品分野において有用である。