(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、種々の成形品を製造するためにダイカストマシンや射出成形機が用いられている。それらの装置においては、一般的に二分割構造の金型を型締めさせて、射出装置により成形用の材料(溶融状態の金属:溶湯や溶融状態の樹脂)を金型内の金型キャビティに充填させた後、冷却凝固させて鋳造品や樹脂成形品を製造する。この金型の型開閉動作や型締動作を行うために型締装置を使用する。
【0003】
型締装置には、大きく分けて直圧式型締装置とトグル式型締装置とがある。前者の直圧式型締装置は、装置長手方向の寸法をコンパクトにすることができるが、型開閉動作を行う型開閉装置が別途必要となる。
【0004】
後者のトグル式型締装置は、トグルリンク機構のクロスヘッドを、エンドプラテンの後面側に固定される油圧シリンダ等の直動アクチュエータにより装置長手方向(型開閉方向)に移動させて、トグルリンクを屈曲・伸張させることによって可動プラテンを移動させ、可動プラテンに固定された可動金型を、固定プラテンに固定された固定金型に対して離間・接近させる型開閉動作を行うものである。トグル式型締装置は、直圧式型締装置に対して装置長手方向の寸法が大きくなるが、金型の型締め動作も行うことができる。具体的には、トグルリンクの伸張状態において、固定金型と可動金型とが型合わせ状態となり、且つ、固定プラテンからエンドプラテンまでの距離を固定するタイバーを弾性変形域内で所定量伸張させた状態になるように、金型の型開閉方向の厚みに合わせてエンドプラテンの位置を調整することにより、トグルリンク機構を伸張状態にさせて、タイバーの伸張量に準じた型締力を金型に付与できる。また、トグル式型締装置は、直圧式型締装置に対して十分に低い直動アクチュエータの駆動力により、トグルリンク機構を伸張させることができると共に、トグルリンクを伸張状態にさせた後は、直動アクチュエータに何ら動力や駆動力を付与することなく金型への型締力の付与を継続させることができる。
【0005】
さらに、トグル式型締装置は、トグルリンク機構のクロスヘッドに入力する力よりも大きな出力が得られる倍力特性や、トグルリンクの伸張状態近傍において、クロスヘッドの移動量に対して、可動プラテンの移動量が約1/10になるため型開閉を高精度に制御できるといった、トグルリンクの寸法等の仕様に固有のトグル曲線に準じた特性を生かした型締力制御や型開閉制御が可能な点に特徴がある。尚、本願においては、型開閉方向において、構成要素の移動方向や端部を示すために、型閉じ方向(側)を前進(前方)、型開き方向(側)を後退(後方)とする。
【0006】
トグルリンク機構のクロスヘッドを油圧シリンダによって移動させる型締装置としては、例えば特許文献1には
図4に示すようなシリンダ29とシリンダロッド30とを有する装置が開示され、特許文献2には
図5に示すようなシリンダ31とシリンダロッド32とを有する装置が開示されている。なお、
図4と
図5とでは、可動盤に対するシリンダロッドの太さが異なって描かれているが、
図4では説明のためにロッドの太さをやや誇張して描いており、通常は
図5程度の太さである。
【0007】
特許文献3には、
図3に示すようなトグル式型締装置を用いたダイカストマシンが記載されており、トグルリンク機構18の屈曲・伸張は、型開閉用モータ23と、型開閉用モータ23の回転駆動力を型開閉方向の直線駆動力に変換するボールネジ機構22を用いて行われている。尚、以下では、特許文献3のダイカストマシンのトグル式型締装置の、型開閉用モータ23とボールネジ機構22とをベースとする構成を、特許文献3の電動シリンダと呼称する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3に記載のダイカストマシンのトグル式型締装置においては、型開閉用モータ23とボールネジ機構22のネジ軸22bとを駆動プーリ24、被動プーリ25とベルト26とで連結し、型開閉用モータ23の回転駆動力によってネジ軸22bを回転させ、それによりネジ軸22bに螺合したナット体22aに型開閉方向の駆動力を付与している。
【0010】
また、ボールネジ機構22は保持筒体21によって保持されており、保持筒体21の前端は、ナット体22aの前端に連結された連結筒体28との間で気密状態が保たれており、保持筒体21の後端側は、保持筒体21の後端に連結されたプーリ収納ブラケット27によって気密状態が保たれている。このように、ボールネジ機構22を保持筒体21及び連結筒体28からなる密閉構造体内に収納しているため、ボールネジ機構21に、金属材料のバリや霧状液等が付着する虞もなく長寿命化を達成でき、ボールネジ機構22の発する音が低減できるので、低騒音化も達成できるとしている。さらに、ボールネジ機構22の潤滑油が周囲に飛散して周囲を汚損する虞もなくなるとしている。
【0011】
ここで、特許文献3のダイカストマシンのトグル式型締装置において、トグルリンク機構18のクロスヘッド19を型開閉方向に駆動させて、トグルリンク機構18を屈曲・伸張させるのは、クロスヘッド19にその前端が固定された連結筒体28の型開閉方向の直線運動である。この連結筒体28の後端にはナット体22aの前端が固定され、ネジ軸22bの回転運動によりナット体22aが後退する際、連結筒体28内にはボールネジ機構22のネジ軸22bが収納される。
【0012】
そのため、連結筒体28の内径はネジ軸22bの外径に準ずる径(ネジ軸22bの外径より大きい径)となる。また、連結筒体28は中空構造の直動軸となるため、その前端側に連結されるクロスヘッド19を型開閉方向に直線運動させてトグルリンク機構18を屈曲・伸張させることにより、図示しない可動プラテン及び可動金型を型開閉方向に直線運動させるのに必要な駆動力に抗することができる断面係数や断面強度が必要である。これら断面係数や断面強度と、ネジ軸22bの外径に準ずる径(連結筒体28の内径)に基づいて、中空構造体としての連結筒体28の外径が決定される。
【0013】
油圧シリンダでクロスヘッドを駆動するトグル式型締装置において、油圧シリンダは、可動プラテンに可動金型を取り付けた状態で型開閉動作が可能なように駆動力(出力)が決定されるため、この駆動力に基づいて選定された油圧シリンダのシリンダロッド(中実軸)は当然ながらその駆動力に十分抗することができる強度(断面係数、断面強度等)を有している。特許文献3の電動シリンダにおいて、少なくとも、それと同等な駆動力を直線方向に伝達可能なボールネジ機構22のネジ軸22b(中実軸)にも同等の強度が必要である。
【0014】
特許文献3の電動シリンダは、この駆動力を、ナット体22aを介して連結筒体28(中空軸)に伝達する点が油圧シリンダと相違するが、型開閉動作に必要な駆動力が同じであれば、特許文献3の電動シリンダのネジ軸22bを、特許文献1や2のような油圧シリンダのシリンダロッドの外径よりも大幅に小さくすることは困難である。また、同ネジ軸22bの外周面にナット体22aと螺合するねじ溝が加工され、ネジ軸22bの断面係数や断面強度がネジ溝21bのねじ溝の底部外径で規定されることを鑑みれば、特許文献3の電動シリンダのネジ軸22bの外径は、少なくとも、既設の油圧シリンダのシリンダロッドと同程度、もしくはそれよりも大きい径となる。
【0015】
さらに、連結筒体28の後端側は、連結するナット体22aの前端側の形状に合わせて、筒体同士の連結構造(フランジ構造等)をなす必要がある。先に説明したクロスヘッド19を型開閉方向に直線運動させる駆動力に抗する強度をこの連結部分に確保するためには、この連結部分の外径は連結筒体28の外径より大きい径となる。
【0016】
またさらに、ネジ軸22bの回転運動により、連結された連結筒体28とナット体22aとは一体で保持筒体21の内部を型開閉方向に移動する。型閉じ(型締め)状態において、連結された連結筒体28とナット体22aとの連結部分は保持筒体21内の前端側に位置することになるため、保持筒体21の少なくとも前端側の内径、すなわち、テールストック20(エンドプラテン)の後面側への保持筒体21の取付部分の内径は、
図3に示すように、先に説明した連結部分の外径よりも大きい径でなければならない。加えて、テールストック20の後面側への保持筒体21の取付部分の外径や形状は、同部分の内径を基準に、
図3に示すような型開閉用モータ23やプーリ収納ブラケット27や保持筒体21の重量を、片持ち支持可能な強度や剛性を確保可能な径や形状にせざるを得ない。
【0017】
特許文献3の電動シリンダは、この特許文献3の電動シリンダの取り付けを前提としたトグル式型締装置を、新規に設計・製造する場合において、その取り付けに関して何ら問題はない。ここで、近年、省エネルギの観点から、既設のダイカストマシンや射出成形機のトグル式型締装置において、特許文献1や2のようなトグルリンク機構のクロスヘッドを駆動させる油圧シリンダを、電動モータとボールねじ機構とを組み合わせて回転運動を直線運動に変換する、特許文献3の電動シリンダのような電動アクチュエータ等に交換するという要求がある。
【0018】
直圧式型締装置に対して、型締め時に大きな駆動力を必要としないトグル式型締装置のクロスヘッド駆動用の油圧シリンダであっても、重量物である可動プラテン及び可動金型を所望の速度で型開閉動作させるためには、油圧シリンダの駆動に必要な量及び圧力の作動油を所定のタイミングで油圧ポンプから吐出させなければならない。この型開閉動作時に油圧ポンプを駆動させる電動モータの電力消費量は、金型キャビティ内へ所定量の溶湯や溶融樹脂を所定圧力で充填させる射出装置と共に、ダイカストマシンや射出成形機の運転サイクル中の消費電力量の上位を占めるものである。
【0019】
しかしながら、クロスヘッドの駆動手段が
図4や5で示すような油圧シリンダである、既設のダイカストマシンや射出成形機のトグル式型締装置において、クロスヘッド側は、油圧シリンダの、中実軸であるシリンダロッド端の外径や形状に合わせて、シリンダロッド端との連結構造が形成されている。また、エンドプラテン(テールストック)の後面側は、油圧シリンダのロッド側フランジの外径や形状に合わせて、ロッド側フランジとの連結構造が形成されている。
【0020】
そのため、クロスヘッドの駆動手段が
図4や5で示すような油圧シリンダであるトグル式型締装置において、油圧シリンダを、特許文献3の電動シリンダに交換する場合、まず、油圧シリンダの中実軸であるシリンダロッド端の外径よりも明らかに大きな径を有する特許文献3の連結筒体28をクロスヘッドに、直接連結させることが困難である。そして、例え、スペーサやアダプタ等を新規製作し、特許文献3の連結筒体28のクロスヘッドへの取り付け自体が可能になったとしても、エンドプラテン(テールストック)の後面側から前面側に加工されている、油圧シリンダのシリンダロッド用の貫通孔が、中実軸であるシリンダロッド端の外径や形状に合わせて加工されているため、それよりも大きな外径の特許文献3の連結筒体28を貫通させることができない。
【0021】
従って、エンドプラテンの貫通孔の内径を拡張する追加加工が必要となる。それだけでなく、クロスヘッド側にスペーサやアダプタ等を取り付けることによって、クロスヘッドの後退限位置(クロスヘッドのエンドプラテン側への移動/型開き動作時)が交換前より前方になるようなことになれば、交換前の最大型開き量を確保することが困難になるという問題がある。
【0022】
特許文献3の電動シリンダのエンドプラテン(テールストック)の後面側への取り付けも同様であり、油圧シリンダのロッド側フランジの外径や形状よりも明らかに大きな特許文献3の保持筒体21の前端側をエンドプラテンの後面側に直接取り付けることは困難である。上記のように、エンドプラテンの後面側へのスペーサやアダプタ等の取り付けにより、特許文献3の電動シリンダの取り付け自体が可能になったとしても、スペーサやアダプタ等の型開閉方向の厚み分、エンドプラテン後面側からの同電動シリンダの突出量が増加し、片持ち支持であるが故の同電動シリンダ全体の取付部分に作用する鉛直方向下方のモーメントも増大する。この状態の特許文献3の電動シリンダを、特許文献3の保持筒体21の、必要とされる取付部分の外径や形状よりも小さな、油圧シリンダのロッド側フランジの取り付けを前提として形成されている取付部分に、十分な強度や剛性を確保した状態で取り付けることは困難である
【0023】
本発明は、上述の問題点を鑑みてなされたものであり、油圧シリンダでクロスヘッドを駆動するトグル式型締装置を容易に改造して、電動モータを回転駆動源としてボールねじ機構によりクロスヘッドを駆動させるトグル式型締装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の課題を解決するために、本発明に係るトグル式型締装置は、エンドプラテンと、前記エンドプラテンに支持された型開閉用のトグルリンク機構と、前端が前記エンドプラテンを貫通して前記トグルリンク機構のクロスヘッドに固定されたねじ軸、及び該ねじ軸に螺合するナット体からなり、付与される回転駆動力を直線方向の駆動力に変換するボールねじ機構と、電動モータと、前記電動モータの回転軸に連結され、前記電動モータの回転運動を伝達する回転運動伝達手段と、を備え、前記ボールねじ機構により前記トグルリンク機構のクロスヘッドを型開閉方向に駆動させて、型開閉動作及び型締動作を行わせるトグル式型締装置において、前記ボールねじ機構を内部に収納すると共に前端が前記エンドプラテンの後面側に固定される筒状の保持部材と、前記ボールねじ機構のナット体の後端に固定され、前記ボールねじ機構のねじ軸の少なくとも一部を収納すると共に前記保持部材の後端側に回転可能に支持される中空状の中空部材と、をさらに備え、前記中空部材が、前記回転運動伝達手段を介して前記電動モータにより回転駆動され、前記中空部材の回転駆動により前記ナット体が回転駆動され、前記ナット体の回転駆動により前記ねじ軸が型開閉方向に駆動され、前記ねじ軸の前端に固定された前記クロスヘッドを型開閉方向に駆動させることを特徴とする。
【0025】
また、上記のトグル式型締装置において、前記ねじ軸は、最大型開き状態でナット体の前端から突出した部分にねじ加工が施されておらず、前記ねじ軸の前記エンドプラテンの貫通部を、前記ねじ軸のねじ加工が施されていない部分が摺動すると共に、前記ねじ軸の前記エンドプラテンの貫通部を封止する第1シール部材をさらに含むことが好ましい。
【0026】
一方、上記のトグル式型締装置において、中空部材の後端が閉塞すると共に保持部材の後端から突出し、中空部材の保持部材の後端からの突出部と保持部材の後端側開口部との間を閉塞する閉塞部材と、閉塞部材と中空部材の突出部との間を封止する第2シール部材と、をさらに含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、油圧シリンダでクロスヘッドを駆動するトグル式型締装置を容易に改造して、電動モータを回転駆動源としてボールねじ機構によりクロスヘッドを駆動させるトグル式型締装置を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るトグル式型締装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の一実施形態に係るトグル式型締装置は、
図1に示すように、エンドプラテン4と、エンドプラテン4に支持された型開閉用のトグルリンク機構2と、前端がエンドプラテン4を貫通してトグルリンク機構2のクロスヘッド3に固定されたねじ軸6b、及びねじ軸6bに螺合するナット体6aからなり、付与される回転駆動力を直線方向の駆動力に変換するボールねじ機構6と、電動モータ7と、電動モータ7の回転軸に連結され、電動モータ7の回転運動を伝達する回転運動伝達手段(8〜10)と、を備え、ボールねじ機構6によりトグルリンク機構2のクロスヘッド3を型開閉方向に駆動させて、型開閉動作及び型締動作を行わせるトグル式型締装置1において、ボールねじ機構6を内部に収納すると共に前端がエンドプラテン4の後面側に固定される筒状の保持部材5と、ボールねじ機構6のナット体6aの後端に固定され、ボールねじ機構6のねじ軸6bの少なくとも一部を収納すると共に保持部材5の後端側に回転可能に支持される中空状の中空部材11と、をさらに備え、中空部材11が、回転運動伝達手段(8〜10)を介して電動モータ7により回転駆動され、中空部材11の回転駆動によりナット体6aが回転駆動され、ナット体6aの回転駆動によりねじ軸6bが型開閉方向に駆動され、ねじ軸6bの前端に固定されたクロスヘッド3を型開閉方向に駆動させることを特徴とする。尚、特許文献3の電動シリンダに対して、本願発明のトグル式型締装置の、電動モータ7とボールねじ機構6とをベースとする構成を、以後、本願発明の電動シリンダと呼称する。
【0030】
本実施例のトグル式型締装置1においては、回転駆動源である電動モータ7の回転駆動力が、まず回転運動伝達手段(8〜10)を介して中空部材11に伝達され、次いで中空部材11を介してボールねじ機構6のナット体6aに伝達され、ナット体6aの回転運動によりねじ軸6bが型開閉方向に移動する。そして、ねじ軸6bの型開閉方向の移動に伴い、ねじ軸6bの前端に連結されたクロスヘッド3が型開閉方向に駆動され、トグルリンク機構2が屈曲・伸張し、金型の型開閉動作が行われる。
【0031】
トグルリンク機構2の後部はエンドプラテン4の前面側に屈曲・伸張可能に連結されている。また、
図1には示されていないが、トグルリンク機構2の前方は、可動金型が取り付けられた可動プラテンの後面側に屈曲・伸張可能に連結されている。さらにその可動プラテンに対向するように、固定金型が取り付けられた固定プラテンが配置されている。なお、本実施例において、型開閉方向とは、クロスヘッド3が図中下方向又は上方向に移動し、可動プラテンが固定プラテンに対して離間又は接近する方向である。また、先に説明したように、型開閉方向において、構成要素の移動方向や端部を示すために、型閉じ方向(側)を前進(前方)、型開き方向(側)を後退(後方)とする。具体的には、図中下方から上方への動作が型閉じ方向(前進/図中上方を前方)、上方から下方への動作が型開き方向(後退/図中下方を後方)とし、一例を挙げれば、ナット体6aの端部について、図面上方側を前端、図面下方側を後端とする。
【0032】
図1は、図示しない可動プラテンが固定プラテンから最大距離離間した最大型開き状態を表している。この状態において、クロスヘッド3及びねじ軸6bは後退限位置にあり、トグルリンク機構2は最大屈曲状態である。
【0033】
上記の型開閉動作について、本実施例では、電動モータ7を回転駆動源として用いてトグルリンク機構2を屈曲・伸張させ、型開閉動作を行う。この電動モータ7に例えばサーボモータを採用することにより、油圧シリンダの場合と比べて駆動力や型開き位置を高い精度で制御することができ、特に、射出成形機における拡張発泡成形方法や射出プレス(圧縮)成形方法等、射出装置の作動前後に、可動金型を型締め状態から微少距離型開きさせ、その位置を保持する工程を含む射出成形方法等に好適である。
【0034】
この電動モータ7の回転駆動力は、後述する回転運動伝達手段を介してボールねじ機構6に伝達される。ボールねじ機構6は、後述するように、エンドプラテン4の貫通部を含む前端側がねじ加工されていないねじ軸6bと、ねじ軸6bに螺合するナット体6aとからなる。そして、このボールねじ機構6は、その前端がエンドプラテン4の後面側に固定される筒状の保持部材5に収容されている。
【0035】
本実施例の回転運動伝達手段は、電動モータ7の出力軸に取り付けられた駆動プーリ8と、保持部材5の後端から突出する中空部材11の突出部分に取り付けられた被動プーリ9と、駆動プーリの回転8を被動プーリ9に伝達するベルト10と、を含むように構成されている。尚、本願発明の回転運動伝達手段の構成は本実施例に限定されることはなく、ギア及びチェーン、あるいは、ギアのみの構成であっても良い。
【0036】
そして、中空部材11は保持部材5の後端側にベアリング等により回転可能に支持されている。従って、電動モータ7が駆動すると、その回転駆動力は、駆動/被動プーリ及びベルトを介して中空部材11に伝達される。そして、中空部材11と、中空部材11の前端に固定されたナット体6aとが一体で回転運動する。このナット体6aの回転運動により、ねじ軸6bが型開閉方向に移動し、ねじ軸6bの前端に固定されたクロスヘッド3が型開閉方向に駆動され、金型の型開閉動作が行われる。
【0037】
ここで、本実施例では、ねじ軸6bの前端部が二分割構造のカップリング3aによりクロスヘッド3に固定されている。ねじ軸6bは、ねじ軸6bの直径方向の2箇所にボルト3cで固定されたキー3bと、カップリング3aの内周面に加工される図示しないキー溝により、カップリング3aに対して回転しないように固定されている。
【0038】
キー3bとキー溝の隙間について、カップリング3aに対するねじ軸6b前端部の摺動を許容するような適切なすべり隙間を設けることが好ましい。例えば、型開閉方向が水平なトグル式型締装置においては、クロスヘッド3が前進限位置にある型閉じ(型締め)状態では、伸張状態のトグルリンク機構のリンク類の荷重が鉛直方向に作用するため、クロスヘッド3の鉛直方向の位置が後退限位置にある状態よりわずかに下降する。ねじ軸6bの前端とクロスヘッド3とが完全に固定されていると、クロスヘッドの前進限位置において、ねじ軸6bの前端もわずかに下降するため、ブッシュ12aやナット体6aの下方に偏芯荷重が作用する。この際、カップリング3aに対するねじ軸6bの前端部の上下方向の摺動が所定範囲で許容されていれば、このような偏芯荷重の発生を抑制できる。また、ねじ軸6bの前端のクロスヘッド3への固定方法はカップリング3aに限定されるものではないが、いずれの形態であっても、上記のような、クロスヘッド3に対するねじ軸6bの前端部の摺動を許容するような構成が採用されることが好ましい。
【0039】
本発明の特徴は、上記のように、ボールねじ機構のねじ軸ではなく、中空部材11を介してナット体6aを回転させるため、ナット体6aが保持部材5の内部で、型開閉方向に不動であり、且つ、エンドプラテン4を貫通するねじ軸6bが型開閉方向に移動して、その前端に直接固定されたクロスヘッドを駆動させることである。
【0040】
すなわち、上記特徴を有するこの形態において、可動プラテン及び可動金型を型開閉方向に直線運動させるのに必要な駆動力が同じ場合、ボールねじ機構6のねじ軸6bの外径は、油圧シリンダのシリンダロッド端の外径と同程度になり、少なくとも、ボールねじ機構のねじ軸の外径が、クロスヘッドへの取り付けが困難になる程大きくなる虞はない。
【0041】
また、油圧シリンダのシリンダロッド端の外径と、ボールねじ機構6のねじ軸6bの外径とが略同じであれば、エンドプラテン4の既設の貫通孔にねじ軸6bを貫通させることができ、同貫通孔の追加加工は不要である。さらに、クロスヘッド3側に、クロスヘッド3の後退距離が交換前と同様に確保できなくなる程、型開閉方向の厚みが大きなスペーサやアダプタ等を配置させる必要もなく、ねじ軸6bの前端部に油圧シリンダのシリンダロッド端と同じ外径、形状になるアダプタ等を配置させることにより、ねじ軸6b前端部をクロスヘッド3側に容易に連結することができる。
【0042】
さらに、ねじ軸6bがエンドプラテン4を貫通して型開閉方向に移動するため、保持部材5の少なくとも前端側の内径、すなわち、エンドプラテン4の後面側への保持部材5の取付部分の内部において型開閉方向に移動するのは、ボールねじ機構6のねじ軸6bのみである。そのため、保持部材5の前端側の外径や形状を、油圧シリンダのロッド側フランジの外径や形状に準じたものにすることができ、エンドプラテン4の後面側の、油圧シリンダの取付部分に保持部材5の前端側を容易に取り付けることができる。
【0043】
このように、本願発明の電動シリンダによれば、油圧シリンダでクロスヘッドを駆動するトグル式型締装置を電動モータを回転駆動源としてボールねじ機構によりクロスヘッドを駆動させるトグル式型締装置に容易に改造できる。
【0044】
次に、本実施例に係るトグル式型締装置について、他の特徴を説明する。
本実施例のボールねじ機構6のねじ軸6bには、
図1に示すように、ナット体6aから前方に突出した部分にねじ加工が施されていない。これは、
図1に示す最大型開き状態が、図示しない可動プラテンが固定プラテンから最大距離離間した状態であり、この状態において、クロスヘッド3は後退限位置にあり、トグルリンク機構2は最大屈曲状態、すなわちねじ軸6bが最も後方に移動している状態(後退限位置)なので、この状態でナット体6aより前方に突出した範囲に、ナット体6aを螺合させるためのねじ加工を施す必要がないからである。
【0045】
尚、ねじ軸6bの、ねじ加工が施されている部分の前端、あるいはねじ加工が施されていない部分の後端には、最大型開き状態及び型締め状態におけるねじ軸6bとナット体6aとの位置関係を超えて、ねじ軸6bが前進・後退することを防止するためのストッパリング14が取り付けられることが望ましい。このようなストッパリングは、電動モータ7や制御に必要なセンサ等の不具合や制御プログラムのミス等に起因する制御異常等が生じた場合に、ボールねじ機構6を含む摺動部分の破損を最小限にするためだけでなく、組立時のボールねじ機構6のねじ軸6bからのナット体6aの脱落防止や、電動モータ7の制御用の図示しないエンコーダの原点設定の機械的位置基準を規定する場合にも有効である。
【0046】
本実施例のように、ねじ軸6bのエンドプラテン4の貫通部を、ねじ軸6bのねじ加工が施されていない部分(ねじ未加工部)が摺動することにより、エンドプラテン4の貫通部には、一般的な直動軸の貫通部と同様に、直動軸(ねじ軸6bのねじ未加工部)の直線運動を支持するブッシュ(軸受金)やダストシールやオイルシール等のシール部材を配置させることができる。
【0047】
本実施例のように、ねじ軸6bのエンドプラテン4の貫通部に配置されるブッシュ12aに、コンタミ等の侵入防止を目的とする第1シール部材12bが配置されれば、型閉じ(型締め)状態で、エンドプラテン4の前面側凹部、及び伸張状態のトグルリンク機構2中に突出する、ねじ軸6bのねじ未加工部に、トグルリンク機構2のグリースやダスト等のコンタミが落下して付着したとしても、保持部材5内へのそれらコンタミ等の侵入が抑制できる。
【0048】
また、
図1に示すように、ボールねじ軸6bは、その前進限位置(型閉じ(型締め)状態)においても、後退限界位置(最大型開き状態)においても、前進限位置及び後退限位置間の移動中のいずれの位置においても、前方はエンドプラテン4の貫通部のブッシュ12aにおいて、後方はナット体6aにおいて、距離が変化しない2点で直線運動が常時支持される。そのため、特許文献3の電動シリンダに対して、ボールねじ軸6bの直線運動の精度が高く、安定した高精度の型開閉動作が可能となり、ボールねじ機構6のナット体6a内のボールや摺動部の偏磨耗等を抑制することができる。
【0049】
さらに、本実施例では、型開き状態でねじ軸6bの後端側を収容する中空部材11の後端は、被動プーリ9の中空部材11の後端側への固定部品を兼ねるエンドキャップ13で閉塞されているが、中空部材11の後端の開口部の気密性を保持できるのであればこれに限定されず、有底の中空部材を用いる等してもよい。ただしその場合は、中空部材11の後端にリングねじ等で被動プーリ9を固定できるように構成されることが好ましい。また、本実施例では、中空部材11の保持部材5の後端からの突出部と保持部材5の後端側開口部との間を閉塞する閉塞部材12cと、閉塞部材12cと中空部材11の突出部との間を封止する第2シール部材12dが配置される。
【0050】
ここで、先に説明した、第1シール部材12bと、上記のようなエンドキャップ13と閉塞部材12cと第2シール部材12dと、により、保持部材5内の気密性を保持することが可能になる。
【0051】
本発明は、ナット体6aが回転運動するため、ナット体6aの外周面にグリース配管を施工してグリース潤滑を行うことが困難である。しかしながら、トグルリンク機構2には、各リンクのリンク軸にグリース配管が施工済みであるため、クロスヘッド3近傍のグリース配管から1系統配管を分岐させ、ねじ軸6bの前端部から軸方向に孔加工し、ねじ加工が施されている外周面に連通させることによりボールねじ機構6のグリース潤滑が可能になる。
【0052】
一方、本実施例においては、保持部材5内の気密性を保持することが可能なので、比較的コストが高く、既設のトグルリンク機構のグリース配管の改造が必要となるグリース潤滑を採用しなくても、ボールねじ機構6の潤滑に、保持部材5内をオイルバス化しての潤滑が可能である。ボールねじ機構6の潤滑に好適な粘度や性状の潤滑油(潤滑剤)を選択し、保持部材5内をねじ軸6bのねじ未加工部の外周面下方がわずかに浸漬する程度の油量(レベル)で満たす。ナット体6aは、型開閉方向には移動せず回転運動するため、ナット体6aの潤滑油に浸漬された部分がその状態で直線運動して、潤滑油を激しく攪拌させて、酸化等による潤滑油の劣化を早めることはない。
【0053】
また、ねじ軸6bは直線運動するが、ねじ未加工部の外周面下方がわずかに浸漬しているだけなので、ねじ未加工部が潤滑油を激しく攪拌させることはない。一方、ねじ加工部外周面にはねじ加工が施されているため、若干の潤滑油の攪拌が生じる。しかしながら、型開閉動作においては、金型合わせ面の保護及び型合わせ時の衝撃抑制(型閉じ時)や、型開き時の金型内の鋳造品や樹脂性径品の破損防止のために、型合わせ位置より所定距離後方から前方の型合わせ位置までの間の型開閉速度は十分に減速されたものである。よって、ねじ加工部による潤滑油の攪拌が懸念される、運転サイクルにおけるねじ軸6bの高速移動時間はわずかであり、酸化等による潤滑油の劣化を早めることはない。
【0054】
さらに、保持部材内をオイルバス化する場合、保持部材5内でナット体6aを回転可能に支持するベアリング類や、保持部材5の前後を封止する第1シール部材12bや第2シール部材12dの下方が、潤滑油に常時浸漬する状態となるので、ベアリング類の良好な潤滑状態が長く維持されると共に、シール部材類の乾燥劣化を抑制できる効果が期待できる。
【0055】
図2は、
図1のA−A‘線断面図である。保持部材5の側部には、潤滑油(潤滑剤)のレベルを確認するためのねじ込み式のオイルゲージ15が配置されており、また上部には、保持部材5内の圧力変化に伴い、特に、圧力が下がった場合に保持部材5内に吸入される空気をろ過するためのエアブリーザ16が配置されている。エアブリーザ16は、潤滑油の給油口として使用することも可能である。また、
図1に示すように、保持部材5の最下方にドレンプラグ17が穿設されている。図示はしていないが、オイルゲージ15とは別にレベルセンサを配置させれば、潤滑油のレベル管理が容易である。これらの部材の配置位置については
図1で示したものに限定されることはなく、例えば、エアブリーザ16とは別に、プラグでの封止箇所を保持部材5の上部に設け、それを給油口とすることもできる。尚、
図2には、保持部材5内に注入する潤滑油のレベルも一例として示している。
【0056】
本実施例のように、保持部材5内のボールねじ機構6の潤滑に、保持部材5内をオイルバス化する形態を採用する場合、ボールねじ機構6の潤滑が容易にできるだけでなく、中空部材11を回転可能に支持するベアリング類の良好な潤滑状態が長く維持されると共に、シール部材類の乾燥劣化を抑制できる効果が期待できる。また、油圧シリンダでクロスヘッドを駆動するトグル式型締装置を、電動モータを回転駆動源としてボールねじ機構によりクロスヘッドを駆動させるトグル式型締装置に改造する場合に、本願発明の電動シリンダ単体で、ボールねじ機構他内部の潤滑を完結させることができる。よって、既設のトグル式型締装置や、このトグル式型締装置により型開閉動作及び型締め動作を行うダイカストマシンや射出成形機の他の部位の潤滑装置を改造する必要がない。
【0057】
一方、特許文献3の電動シリンダにおいては、保持筒体21内のナット体22aは回転運動せず、型開閉方向に直線運動する。このボールネジ機構22の潤滑にグリース潤滑を採用する場合、型開閉方向に直線運動するナット体22aの外周面にグリース潤滑用の配管を接続すればよい。そのためにはナット体22aに接続する配管を柔軟性のあるチューブ配管にして、ナット体22aの直線運動に伴い、接続させたチューブ配管を追従させる必要がある。しかしながら、
図3に示すような保持筒体21の空間内で、ナット体22aに接続させたチューブ配管をナット体22aの直線運動に追従させるのは非常に困難である。そのため、保持筒体21の長手方向に開口部を設け、チューブ配管の追従スペースを確保する必要がある。しかしながら、特許文献3に記載されているように、ボールネジ機構22が保持筒体21内に収納されるには、この開口部を閉塞すると共に、チューブ配管の追従スペースを確保可能なカバー等が必要になる。
【0058】
ここで、特許文献3の電動シリンダにおいても、保持筒体20が密閉構造であるためオイルバスによる潤滑が可能である。しかしながら、ネジ軸22bの外周面下方がわずかに浸漬する程度の油量(レベル)で満たした場合、ネジ軸22bより外径の大きいナット体22aや、ナット体22aと連結筒体28との連結部分の下方が、深く潤滑油に浸漬され、その状態で直線運動するため、潤滑油を激しく攪拌させて油面を波立たせ、酸化等による潤滑油の劣化を早める。そのため、本願発明の電動シリンダにオイルバスによる潤滑を採用した場合に対して、運転サイクル中の潤滑油のレベル確認が困難であり、且つ、潤滑油の交換頻度が高くなるという問題がある。
【0059】
以上、図面を参照しながら本発明の一実施例を説明したが、本発明は本実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはいうまでもない。例えば、本実施例においては、ボールねじ軸6のナット体6aを、ナット体6aの後端側に連結させた中空部材11を介して回転させる形態を説明したが、中空部材11を使わず、ボールねじ機構6のナット体6aの後端を、保持部材5の後端から、被動プーリが取り付け可能な程突出するように延長し、その外周面に被動プーリが取り付けられるようにしてもよい。なお、その場合でもナット体6bの後端を閉塞させることが好ましい。