(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6507587
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】塗工方法及び発泡壁紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 3/04 20060101AFI20190422BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20190422BHJP
B05C 9/14 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
B05D3/04 Z
B05D7/00 F
B05C9/14
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-233835(P2014-233835)
(22)【出願日】2014年11月18日
(65)【公開番号】特開2016-97323(P2016-97323A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】塩田 歩
【審査官】
伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2010/0021722(US,A1)
【文献】
国際公開第2009/063824(WO,A1)
【文献】
特開2010−137193(JP,A)
【文献】
特開2011−064406(JP,A)
【文献】
特開2002−320898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00− 7/26
B05C 7/00−21/00
F26B 1/00−25/22
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00− 1/10
D21D 1/00− 1/40
D21F 1/00− 1/82
D21G 1/00− 1/02
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00− 7/00
B41F 21/00−30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に対して塗工液を塗布する工程と、
前記塗工液が塗布された塗工液付き基材を乾燥炉内に配置し、前記塗工液付き基材に塗布された前記塗工液を乾燥固化する工程と、を備え、
前記塗工液には、発泡剤が含有されており、
前記乾燥固化する工程では、前記塗工液付き基材に対して過熱蒸気をノズルにより直接噴霧して前記塗工液を乾燥固化する、塗工方法であって、
前記乾燥固化する工程において、130℃以上で且つ500℃以下の前記過熱蒸気を前記ノズルから前記塗工液付き基材に対し、噴霧量又は蒸気温度を段階的に増減させて直接噴霧することを特徴とする、塗工方法。
【請求項2】
前記乾燥固化する工程では、前記過熱蒸気を15kg/時間以上で且つ90kg/時間以下となるように前記塗工液付き基材に噴霧することを特徴とする、請求項1に記載の塗工方法。
【請求項3】
前記乾燥固化する工程において、第1温度の前記過熱蒸気を用いて前記塗工液の乾燥を行った後に、前記第1温度よりも低温の第2温度の前記過熱蒸気で前記塗工液を更に乾燥することを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗工方法。
【請求項4】
前記塗工液付き基材と前記ノズルの噴霧先端との距離が5mm以上で且つ200mm以下であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の塗工方法。
【請求項5】
基材に対して塗工液を塗布する工程と、
前記塗工液が塗布された塗工液付き基材を乾燥炉内に配置し、前記塗工液付き基材に塗布された前記塗工液を乾燥固化する工程と、を備え、
前記塗工液には、発泡剤が含有されており、
前記乾燥固化する工程では、前記塗工液付き基材に対して過熱蒸気をノズルにより直接噴霧して前記塗工液を乾燥固化する、塗工方法であって、
前記乾燥固化する工程において、第1温度の前記過熱蒸気を用いて前記塗工液の乾燥を行った後に、前記第1温度よりも低温の第2温度の前記過熱蒸気で前記塗工液を更に乾燥することを特徴とする、塗工方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の塗工方向で乾燥固化された塗工液付き基材を得る工程であって、前記基材が紙基材である、当該工程と、
乾燥固化された前記塗工液付き基材における前記発泡剤を加熱発泡させて発泡積層シートを得る工程と、
を備える、発泡壁紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工方法及び塗工装置に関し、特に基材上に塗布された塗工液を乾燥固化する塗工方法及び塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、塗工技術を用いて基材上に塗工層を形成した複合材料シートが種々の用途に用いられている。例えば、PET、PEN、PES、ブチラール又はナイロン等の樹脂材料を基材としたものは、耐熱性フィルムや壁紙用原反フィルム等に広く利用されている。この種の基材シートの製造に際し、例えば特許文献1に示すように、長尺の基材をローラ等の搬送装置によって塗工位置まで搬送し、この塗工位置に搬送された基材上にダイコートやグラビアコート等の塗工方法を用いて塗工液を塗布する。そして、塗工液が塗布された基材を搬送装置によって乾燥炉内に搬送した上で、乾燥炉内において基材上の塗工液をヒータを用いて加熱することにより、塗工液を乾燥硬化し、これにより、塗工液を硬化してなる塗工層を基材上に形成した複合材料シートを得ていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006‐231149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した方法で塗工層を形成する場合、乾燥炉内において塗工液の表面側が先に乾燥固化してしまい、塗工液の内部側である基材との接触面側が乾燥固化しづらいという問題があった。しかも、塗工液の表面側が先に乾燥固化してしまうと、塗工液の内部側に含まれる気泡が加熱に伴ってその体積を増加させ、この気泡の膨張により、塗工層表面にクレータ状の痕跡を形成してしまったり、又は、塗工層表面にクラックを形成してしまったりするということもあった。
【0005】
このような痕跡やクラック等の発生を抑制するには、塗工液の乾燥固化を自然乾燥に近い雰囲気状態において行うことが好ましいが、この場合には、塗工層の形成を迅速に行うことができず、生産効率を低下させてしまう。
【0006】
そこで、本発明では、表面形状が良好な塗工層を効率的に形成することができる塗工方法及び塗工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る塗工方法は、基材に対して塗工液を塗布する工程と、塗工液が塗布された塗工液付き基材を乾燥炉内に配置し、塗工液付き基材に塗布された塗工液を乾燥固化する工程と、を備えている。そして、この塗工方法では、乾燥固化する工程において、塗工液付き基材に対して過熱蒸気をノズルにより直接噴霧して塗工液を乾燥固化することを特徴としている。
【0008】
この塗工方法では、過熱蒸気をノズルから塗工液付き基材に直接噴霧することにより、塗工液の乾燥固化を行っている。ここでいう「過熱蒸気」とは、飽和蒸気を更に加熱して飽和温度以上の蒸気温度を持たせた蒸気であり、このような高温の過熱蒸気を乾燥固化に用いることにより、水分等を含有する塗工液から水分等をより効率的に取り除く(飛散させる)ことができる。このように、本塗工方法によれば、従来のヒータによる塗工液の乾燥固化の場合と異なり、過熱蒸気の噴霧により塗工液の内部側も表面側と略同じタイミングで乾燥させることができる。よって、自然乾燥に近い遅い速度での乾燥を行わないにも関わらず、塗工層表面への痕跡やクレータ等の発生を抑制することができる。つまり、本塗工方法によれば、表面形状が良好な塗工層を効率的に形成することが可能となる。
【0009】
上記の塗工方法では、乾燥固化する工程において、130℃以上で且つ500℃以下の過熱蒸気をノズルから塗工液付き基材に対し、噴霧量又は蒸気温度を段階的に増減させて直接噴霧することが好ましい。この場合、例えば、乾燥固化する工程において、最初に高温の蒸気を用いて高温での乾燥を行い、その後温度を下げることで、より早く乾燥を行いつつ、基材等の高熱による変化や劣化(例えば、含有される発泡剤の発泡等)を抑制することができる。また、上記の場合において、使用する過熱蒸気の温度は、170℃以上で且つ300℃以下であることが、乾燥固化を行う場合には、更に好適である。過熱蒸気の温度がこの範囲内にある場合、より効率的な乾燥を実現することが可能である。なお、ここでいう「過熱蒸気の温度」は、ノズルから噴霧された直後の温度を意味し、装置誤差がない場合、装置での設定温度に相当する。
【0010】
上記の塗工方法では、乾燥固化する工程において、過熱蒸気を15kg/時間以上で且つ90kg/時間以下となるように塗工液付き基材に噴霧することが好ましい。例えば、乾燥固化に用いる過熱蒸気炉の一般的な容積は30cm
3〜100cm
3であるが、過熱蒸気炉の容積が30cm
3の場合、噴霧する過熱蒸気が15kg/時間以上であれば、乾燥固化を確実に行うことができ、一方、過熱蒸気炉の容積が100cm
3の場合であっても、噴霧する過熱蒸気が90kg/時間程度であれば、十分な乾燥固化を行うことができる。このように過熱蒸気炉の容積に応じて所定の範囲で過熱蒸気の量を変化させることで、塗工液付き基材を効率よく乾燥固化させることが可能となる。
【0011】
上記の塗工方法では、乾燥固化する工程における塗工液付き基材のラインスピードが5m/分以上であることが好ましい。この場合、短時間により多くの塗工液付き基材の乾燥固化を行うことが可能となる。
【0012】
上記の塗工方法では、塗工液付き基材とノズルの噴霧先端との距離が5mm以上で且つ200mm以下であることが好ましく、その距離が50mm以上で且つ150mm以下であることがより好ましい。この場合、塗工液付き基材に噴霧する過熱蒸気の温度を設定値に保ちやすく、しかも、塗工液付き基材の幅方向全体にわたって隙間なく過熱蒸気を噴霧することが、より簡易に行うことができる。
【0013】
また、本発明は、別の側面として、塗工装置に関し、この塗工装置は、基材に対して塗工液を塗布する塗布装置と、塗布装置で塗工液が塗布された塗工液付き基材を内部に配置し、塗工液付き基材に塗布された塗工液を乾燥固化する乾燥炉とを備えている。この塗工装置では、乾燥炉は、塗工液付き基材に対して過熱蒸気をノズルにより直接噴霧して塗工液を乾燥固化することを特徴としている。この塗工装置では、上述した塗工方法と同様、表面形状が良好な塗工層を効率的に形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、表面形状が良好な塗工層を効率的に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る塗工方法の例を示す模式図である。
【
図2】
図1に示す塗工方法における乾燥固化方法の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る塗工方法及び塗工装置について詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いる場合があり、重複する説明は省略する。
【0017】
まず、
図1を参照して、本発明に係る塗工方法について説明する。
図1は、本発明に係る塗工方法を示す模式図である。
図1に示すように、本塗工方法は、塗工装置10により、紙基材3上に樹脂組成物5(塗工液)を塗布した塗工液付き基材7を乾燥固化して塗工処理を行うための方法であり、塗工液付き基材7の樹脂組成物5を乾燥固化させて塗工層としたシートを形成するために用いられる。かかるシートは、例えば樹脂組成物5に含有される発泡剤を加熱発泡等させた発泡壁紙として用いることができるが、他の用途に用いてもよい。
【0018】
この塗工方法で用いられる紙基材3は、例えば壁紙用裏打紙などの通常使用されている紙材を用いることができるが、特に限定されない。紙基材3としては、好ましくは、スルファミン酸グアニジンやリン酸グアニジンなどの水溶性難燃剤を含浸させたパルプ主体の難燃紙、又は、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの無機質剤を混抄した無機質紙等を用いることができ、その坪量としては50〜300g/m
2、好ましくは60〜160g/m
2である。なお、紙基材3に代えて、例えば樹脂等からなる基材を用いてもよい。
【0019】
樹脂組成物5は、例えば発泡樹脂層を形成するための水性エマルジョン系樹脂組成物であり、無機充填剤と発泡剤と樹脂とを含む樹脂組成物を用いて形成することができる。樹脂としては、無極性の非ハロゲン系熱可塑性樹脂が好ましい。非ハロゲン系熱可塑性樹脂としては、エチレン単独重合体、又は、エチレンと他のオレフィンモノマーとの共重合体を挙げることができる。非ハロゲン系熱可塑性樹脂を用いることで、エチレン−メタクリル酸メチル共重合樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合樹脂、エチレン−アクリル酸共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、及びアイオノマー樹脂などの極性樹脂を使用した場合と比較して、フィラーを増量した場合の粘度上昇が抑えられる為、高品質の壁紙を安定して生産することができる。なお、樹脂組成物5は、更に、シラン架橋性樹脂を含有していてもよい。
【0020】
このようなシートの形成では、まず、
図1に示すように、裏打紙ロール13から裏打紙である紙基材3を引き出し、リップコーター15(塗布装置)へと導く。そして、リップコーター15で、この紙基材3上に樹脂層である樹脂組成物5からなる塗工液を塗布し、ダイコーター17(塗布装置)へ導く。ダイコーター17では、樹脂組成物5の上に所定の材料をコーティングする。このような材料としては、例えば、熱膨張性マイクロカプセル発泡剤や、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化第一鉄、塩基性炭酸亜鉛、塩基性炭酸鉛、珪砂、クレー、タルク、シリカ類、二酸化チタン、珪酸マグネシウム等が挙げられる。中でも、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの無機フィラーからなる水性エマルジョンが特によく用いられる。塗工装置10は、上述した裏打紙ロール13、リップコーター15、及びダイコーター17を備えており、更に、後述する乾燥炉20を備えて構成されている。
【0021】
続いて、塗工液が塗布された塗工液付き基材7を塗工装置10の乾燥炉20内に挿入し、炉内の所定の位置に配置する。そして、
図2に示す乾燥炉20を用いて、塗工液付き基材7の樹脂組成物5を乾燥固化して、紙基材3上に塗工層を形成する。
【0022】
図2に示す乾燥炉20は、塗工液付き基材7を構成する樹脂組成物5(塗工液)に対して過熱蒸気Vを噴霧することができる噴霧ノズル22を複数備えている。各噴霧ノズル22は、図示下方に向かって放射状に過熱蒸気Vを噴霧するように構成されており、各噴霧ノズル22からの過熱蒸気Vが塗工液付き基材7の幅方向全体にかかるように各噴霧ノズル22間の位置及び高さが設定されている。各噴霧ノズル22は、その噴霧先端と塗工液付き基材7との距離が5mm以上200mm以下、より好ましくは、50mm以上150mm以下となるように、塗工液付き基材7に近接してその上方に配置されている。この場合、塗工液付き基材7に噴霧する過熱蒸気Vの温度を設定値に保ちやすく、しかも、塗工液付き基材7の幅方向全体にわたって隙間なく過熱蒸気Vを噴霧することが、より簡易に行うことができる。また、各噴霧ノズル22としては、塗工液付き基材7の幅方向と同一又はそれよりも長いスリットを有するスリットノズルを用いて、過熱蒸気Vを噴霧するようにしてもよい。スリットノズルの場合、噴霧ノズル22を塗工液付き基材7に近づけたとしても塗工液付き基材7全体に過熱蒸気を確実に噴霧することができるため、噴霧ノズル22を塗工液付き基材7により簡単に近づけることができる。
【0023】
また、乾燥炉20は、熱効率を向上させるため、各噴霧ノズル22と過熱蒸気Vが塗工液付き基材7上に噴霧される噴霧領域とを覆うボックス24を備えている。ボックス24は、その容積が例えば30cm
3〜100cm
3となっている。塗工液付き基材7は、このボックス24の一方に設けられた開口の入り口24aからボックス24内に挿入され、他方に設けられた開口の出口24bから出るようになっている。また、塗工液付き基材7は、噴霧ノズル22側に塗工液付き基材7が位置するように配置されることが好ましいが、紙基材3の場合には蒸気が透過するため、紙基材3を噴霧ノズル22側に配置してもよい。
【0024】
このような構成を備えた乾燥炉20内に塗工液付き基材7を挿入して、図示矢印方向に搬送すると、この塗工液付き基材7の樹脂組成物5に対して、噴霧ノズル22から過熱蒸気Vが噴霧される。近接配置された噴霧ノズル22を用いて過熱蒸気Vを塗工液付き基材7に直接噴霧することにより、樹脂組成物5に含まれる水分等が飛散し、塗工液である樹脂組成物5が乾燥固化する。なお、噴霧ノズル22から噴霧される過熱蒸気Vの噴霧量や蒸気温度を段階的に増減させて、乾燥固化処理を最適化するようにしてもよい。例えば、乾燥固化する工程において、最初に高温の蒸気を用いて高温での乾燥を行い、その後温度を下げることで、より早く乾燥を行いつつ、基材等の高熱による変化や劣化(例えば、含有される発泡剤の発泡等)を抑制することができる。
【0025】
また、噴霧ノズル22から噴霧される過熱蒸気Vは、飽和蒸気を更に加熱して飽和温度以上の蒸気温度を持たせた蒸気であり、熱効率の良さやシート内部への浸透性の良さから、塗工液付き基材7の乾燥固化、特に塗工液である樹脂組成物5の内部側及び表面側をほぼ同じタイミングで乾燥固化させることができる。本実施形態では、特に近接配置された噴霧ノズル22から樹脂組成物5に直接、過熱蒸気Vを噴霧するようになっているため、熱がより効率的に塗工液付き基材7に伝達され、乾燥固化に供される。また、過熱蒸気Vは、加熱して温度を上げても、ほぼ無酸素状態な蒸気でもあるため、紙基材3の酸化等を防止することもできる。なお、樹脂組成物5を紙基材3上に積層した状態でかかる過熱蒸気Vを噴霧するため、塗工液の乾燥固化に加えて、樹脂組成物5中の架橋性樹脂による架橋や樹脂組成物5と紙基材3との熱ラミネート処理が同時に行われるようにしてもよい。
【0026】
ここで、乾燥炉20の噴霧ノズル22から供給される過熱蒸気Vは、大気圧下における温度(実測値)が例えば130℃以上500℃以下であることが好ましく、より好ましくは170℃以上300℃以下である。ここでいう温度は大気圧下での温度であり、飽和蒸気の温度である100℃よりも高温となるため、過熱蒸気は、より多くの熱量を有していることになる。このため、樹脂組成物5の乾燥固化を確実に行いつつ、ラインスピードを上げることができる。なお、ここでいう「過熱蒸気Vの温度」は、噴霧ノズル22から噴霧された直後の温度を意味し、装置誤差がない場合、装置での設定温度に相当する。
る。
【0027】
なお、樹脂組成物が発泡剤を含む場合、単に過熱蒸気下に塗工液付き基材7を配置し、過熱蒸気の温度を上げるだけだと、乾燥固化に時間がかかり、発泡剤が分解(発泡)してしまうことがある。しかし、上記塗工方法のように噴霧ノズル22を用いて過熱蒸気Vの熱を積極的且つ効率的に樹脂組成物5に伝達することにより、発泡剤の温度が上がり分解する前に乾燥固化を完了させることができる。
【0028】
また、乾燥炉20の噴霧ノズル22から供給される過熱蒸気Vの量としては、10kg/時間以上90kg/時間以下であることが好ましく、15kg/時間以上であることがより好ましい。上述したように、乾燥固化に用いるボックス24の一般的な容積は30cm
3〜100cm
3であるが、ボックス24の容積が30cm
3の場合、噴霧する過熱蒸気の量が15kg/時間以上であれば、乾燥固化を確実に行うことができ、一方、ボックス24の容積が100cm
3の場合、噴霧する過熱蒸気の量が90kg/時間程度であれば、十分な乾燥固化を行うことができる。このように乾燥固化に用いるボックス24の容積に応じて所定の範囲で過熱蒸気の量を変化させることで、塗工液付き基材を効率よく且つ確実に乾燥固化させることが可能となる。また、このような量の過熱蒸気Vを樹脂組成物5に継続的に噴霧することにより、塗工液の乾燥固化を確実に行いつつ、樹脂組成物5を含む塗工液付き基材7のラインスピードをより一層早めることができる。本実施形態に示す塗工方法では、噴霧ノズル22を用いて過熱蒸気Vを効率的に樹脂組成物5に噴霧しているため、樹脂組成物5を含む塗工液付き基材7のラインスピードを5m/分以上、好ましくは、10m/分とすることが容易に行える。つまり、短時間により多くの塗工液付き基材7の乾燥固化処理を行うことができる。
【0029】
なお、上述した乾燥固化が行われた塗工液付き基材7に対して、所定の発泡処理を施すことで、発泡積層シート(発泡壁紙)を得てもよい。また、この発泡積層シートの表面には、凹凸模様等を更に付与する処理を行うようにしてもよい。
【0030】
以上、本実施形態に係る塗工方法では、過熱蒸気Vを噴霧ノズル22から噴霧することにより、塗工液である樹脂組成物5の乾燥固化を行っている。このような高温の過熱蒸気を乾燥固化に用いることにより、水分等を含有する塗工液から水分等をより効率的に取り除くことができる。このように、本塗工方法によれば、従来のヒータによる塗工液の乾燥固化の場合と異なり、過熱蒸気Vにより塗工液の内部側も表面側と略同じタイミングで乾燥させることができる。よって、自然乾燥に近い遅い速度での乾燥を行わないにも関わらず、塗工層表面への痕跡やクレータ等の発生を抑制することができる。つまり、本塗工方法によれば、表面形状が良好な塗工層を効率的に形成することが可能となる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
まず、実施例として、エチレン−酢酸ビニル共重合体100重量部に対して、熱膨張性マイクロカプセル発泡剤(松本油脂製薬株式会社製;商品名「F−55」)10重量部、炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製;商品名「スーパーSSS」)80重量部、酸化チタン(中央理化工業株式会社製;商品名「T−76」)15重量部を混合分散させ、水性エマルジョン系樹脂組成物を作製した。そして、この水性エマルジョン系樹脂組成物を紙基材(紙幅970mm)上に厚みが150μmとなるように塗工した。なお、紙基材としては、株式会社興人製、商品名「WK−665IHT」を使用した。以上により、実施例に係る塗工液付き基材を取得した。
【0033】
次に、この塗工液付き基材を、
図2に示す構成を有する乾燥炉内に配置した。なお、乾燥炉20のボックス24の容積は0.33m
3であった。そして、塗工液付き基材に対して170℃(設定温度)の過熱蒸気Vを複数(16個)のノズルから直接噴霧して、塗工液の乾燥固化を行った。過熱蒸気Vの設定温度は、ノズルから噴霧された直後の蒸気温度と略同じであり、実際の樹脂組成物5付近の蒸気温度は、例えば、設定温度−10〜−50℃℃である。噴霧された過熱蒸気Vの全量は60kg/時間であり、各ノズルからは3.75kg/時間となるように過熱蒸気Vを噴霧した。また、ノズル先端と塗工液付き基材との距離は、100mmであり、塗工液付き基材のラインスピードは、60m/分であった。
【0034】
その後、塗工液の乾燥固化が完了した基材に対し、加熱発泡等を行い、発泡積層シートを得た。
【0035】
また、比較例として、上述した実施例と同様の方法で水性エマルジョン系樹脂組成物を紙基材上に塗工し、ヒータ(富士機械工業株式会社製ペーストコーター)を用いて、170℃の熱風で塗工液の乾燥固化を行った。
【0036】
その後、実施例と同様に、塗工液の乾燥固化が完了した基材に対し、加熱発泡等を行い、発泡積層シートを得た。
【0037】
実施例にかかる塗工液付き基材は、乾燥固化時間が20秒であった。一方、比較例にかかる塗工液付き基材は、乾燥固化時間が50秒であった。つまり、過熱蒸気を用いた塗工方法によれば、乾燥時間を大きく短縮することができた。なお、塗工液の表面側及び内部側の乾燥が完了しているか否かについては、基材の含水率が15%以下となったか否かにより判断した。
【0038】
また、実施例にかかる塗工液付き基材は、その乾燥固化により、シート表面に痕跡やクラックが発生することはなく、表面形状は良好であった。一方、比較例にかかる塗工液付き基材は、ピンホールのような穴が100個/1000m発生してしまい、クラックが継続して起こってしまった。
【0039】
以上、過熱蒸気Vを用いた塗工方法によれば、樹脂組成物5に近接配置された噴霧ノズル22を用いて過熱蒸気Vを塗工液である樹脂組成物5に直接噴霧した場合、表面形状の良好な塗工層を効率的に、即ちより早く形成できることが示された。
【符号の説明】
【0040】
3…紙基材、5…樹脂組成物(塗工液)、7…塗工液付き基材、10…塗工装置、15…リップコーター(塗布装置)、17…ダイコーター(塗布装置),20…乾燥炉、22…噴霧ノズル、V…過熱蒸気。