(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を説明する。なお、本発明において数値範囲を示す「○○〜××」とは、特に明示しない限り「○○以上××以下」を意味する。また、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸とアクリル酸の双方を含む概念である。
【0015】
<表面物性改良剤組成物>
本実施形態に係る表面物性改良剤組成物は、(A)エチレン・α−オレフィン共重合体ゴム、又はエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体ゴムと、(B)エチレン・ビニル共重合体と、(C)脂肪酸アミドと、(D)グラフト共重合体と、を含有する(以下、それぞれ成分(A)〜(D)とも呼称する)。
【0016】
以下、成分(A)〜(D)について詳細に説明する。
【0017】
[成分(A)]
成分(A)は、エチレン・α−オレフィン共重合体ゴム、又はエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体ゴムである。
【0018】
成分(A)は、表面物性改良剤組成物中で成分(C)と相容し、成分(C)のブリードアウトを抑制する機能を有する。
【0019】
成分(A)において、エチレンと共重合されるα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、2−メチル−1−プロペン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘキセン等が挙げられる。これらのα−オレフィンは単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。また、非共役ジエンとしては、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ビニルノルボルネン等が挙げられる。
【0020】
エチレン・α−オレフィン共重合体ゴムの具体例としては、エチレン・プロピレン共重合体ゴム(EPR)、エチレン・1−ブテン共重合体ゴム、エチレン・1−ヘキセン共重合体ゴム、エチレン・1−オクテン共重合体ゴム(EOR)、プロピレン・1−ブテン共重合体ゴム、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体ゴム等が挙げられる。特に、エチレン・プロピレン共重合体ゴム(EPR)、又はエチレン・1−オクテン共重合体ゴム(EOR)が好ましい。また、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体ゴムの具体例としては、エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体ゴム(EPDM)、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合体ゴム等が挙げられる。これらのエチレン・α−オレフィン共重合体ゴム及びエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体ゴムは、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
エチレン・α−オレフィン共重合体ゴム及びエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体ゴムは、市販品を使用することができる。上記市販品としては、例えば、住友化学株式会社製の製品名:エスプレンSPO V0111、エスプレンSPO V0131、エスプレンSPO V0132、エスプレンSPO V0141、エスプレンEPDM 502、エスプレンEPDM 512F、エスプレンEPDM 552、エスプレンEPDM 553、ダウ・ケミカル日本株式会社製の製品名:エンゲージ7270、エンゲージ7447、エンゲージ7467、エンゲージ8003、エンゲージ8100、エンゲージ8200、エンゲージ8452、株式会社プライムポリマー製の製品名:プライムTPO M142E、プライムTPO R110E、プライムTPO R110MP、エーイーエス・ジャパン株式会社製の製品名:サントプレーン201−55、サントプレーン201−64、サントプレーン201−73、サントプレーン201−80、サントプレーン201−87、サントプレーン203−40、サントプレーン203−50、三井化学株式会社製の製品名:ミラストマー5030N、ミラストマー6030N、ミラストマー7030N、ミラストマー8030N、ミラストマー8032N、ミラストマー9020N、JSR株式会社製の製品名:JSR EP21、JSR EP22、JSR EP24、JSR EP25、JSR EP27、JSR EP33、JSR EP35、JSR EP43、JSR EP51、JSR EP57F、JSR EP57C、JSR EP65、JSR EP93、JSR EP96、JSR EP98、JSR EP103AF等が挙げられる。
【0022】
成分(A)〜(D)の含有量の合計を100重量%とすると、成分(A)の含有量は10〜40重量%である。成分(A)の含有量を10重量%以上とすることにより、アクリル樹脂組成物中に成分(C)を保持する能力が向上する。また、成分(A)の含有量を40重量%以下とすることにより、成分(C)保持能を適切な範囲に抑えることができ、アクリル樹脂成形体の耐擦傷性及び耐摩耗性が向上する。
【0023】
[成分(B)]
成分(B)は、エチレン・ビニル共重合体であり、エチレンと、酸素原子を含有する1種又は2種以上のビニル単量体とを含む。
【0024】
成分(A)と同様に、成分(B)は表面物性改良剤組成物中で成分(C)と相容し、成分(C)のブリードアウトを抑制する機能を有する。
【0025】
成分(B)において、エチレンと共重合される、酸素原子を含有するビニル単量体としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル、酢酸ビニル、無水マレイン酸等が挙げられる。これらのビニル単量体は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
エチレンと、酸素原子を含有する1種又は2種以上のビニル単量体とを含むエチレン・ビニル共重合体の具体例としては、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン・アクリル酸n−ブチル共重合体、エチレン・アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン・アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、エチレン・メタクリル酸グリシジル共重合体(EGMA)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・アクリル酸エチル・メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル・無水マレイン酸共重合体、エチレン・酢酸ビニル・メタクリル酸グリシジル共重合体等が挙げられる。特に、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸n−ブチル共重合体、エチレン・メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体が好ましい。なお、これらの化合物には酢酸ビニルの末端がケン化された化合物も含まれる。これらのエチレンと、酸素原子を含有する1種又は2種以上のビニル単量体とを含むエチレン・ビニル共重合体は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
上記エチレン系共重合体は、市販品を使用することができる。上記市販品としては、例えば、日本ユニカー株式会社製の製品名:DPDJ−6169、DPDJ−6182、DPDJ−9169、NUC−6070、NUC−6170、NUC−6220、NUC−6510、NUC−6520、NUC−6570、NUC−6940、DQDJ−1868、DQDJ−3269、NUC−3195、NUC−3461、NUC−3660、NUC−3810、NUC−3830、NUC−3888、日本ポリエチレン株式会社製の製品名:レクスパールEMA EB050S、レクスパールEMA EB140F、レクスパールEMA EB230X、レクスパールEMA EB240H、レクスパールEMA EB330H、レクスパールEMA EB440H、レクスパールEEA A1100、レクスパールEEA A1150、レクスパールEEA A3100、レクスパールEEA A4200、レクスパールEEA A4250、レクスパールEEA A6200、住友化学株式会社製の製品名:ボンドファスト2C、ボンドファストE、ボンドファスト2B、ボンドファスト7B、ボンドファスト7L、ボンドファスト7M、東ソー株式会社製の製品名:ウルトラセン633、ウルトラセン680、ウルトラセン681、ウルトラセン635、ウルトラセン640、ウルトラセン634、ウルトラセン751、ウルトラセン710、ウルトラセン720、ウルトラセン722、ウルトラセン726、ウルトラセン750等が挙げられる。
【0028】
成分(A)〜(D)の含有量の合計を100重量%とすると、成分(B)の含有量は35〜70重量%である。成分(B)の含有量を35重量%以上とすることにより、アクリル樹脂組成物中に成分(C)を保持する能力が向上する。また、成分(B)の含有量を70重量%以下とすることにより、成分(C)保持能を適切な範囲に抑えることができ、アクリル樹脂成形体の耐擦傷性及び耐摩耗性が向上する。
【0029】
[成分(C)]
成分(C)は、脂肪酸アミドであり、アクリル樹脂に耐擦傷性及び耐摩耗性を付与する機能を有する。成分(C)の脂肪酸部位の炭素原子数は特に限定されないが、当該部位の炭素原子数が12〜24であることが望ましい。脂肪酸部位の炭素原子数が12以上であることにより、良好な滑性が得られ、アクリル樹脂成形体に十分な耐擦傷性及び耐摩耗性を付与することができる。また、入手性の観点から、脂肪酸部位の炭素原子数が24以下の脂肪酸アミドが好ましい。
【0030】
成分(C)の具体例としては、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド等が挙げられる。特に、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミドが好ましい。これらの脂肪酸アミドは、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
成分(A)〜(D)の含有量の合計を100重量%とすると、成分(C)の含有量は10〜30重量%である。成分(C)の含有量を10重量%以上とすることにより十分な滑性が得られ、アクリル樹脂成形体の耐擦傷性及び耐摩耗性が向上する。また、成分(C)の含有量を30重量%以下とすることにより、余剰な成分(C)のアクリル樹脂成形体表面へのブリードを抑制することができる。さらに、成分(C)にはアクリル樹脂を可塑化する効果があるため、成分(C)の含有量を30重量%以下とすることにより、アクリル樹脂成形体の機械的強度の低下を防ぐことができる。
【0032】
[成分(D)]
成分(D)は、グラフト共重合体であり、(d1)エチレン・アクリル酸アルキルエステル共重合体を主鎖とし、(d2)ビニル共重合体を側鎖とする(以下、それぞれ単に(d1)、(d2)とも呼称する)。
【0033】
上述のように、成分(A)と成分(C)、又は成分(B)と成分(C)はそれぞれ相容性があるが、これだけでは十分なブリード抑制効果は期待できない。また、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)を同時に配合すると、成分(A)と成分(B)の相容性が低いため、十分なブリード抑制効果を得ることができない。
【0034】
そこで、表面物性改良剤組成物を構成する成分(D)は、(d1)と(d2)を有することから、成分(A)と成分(B)の相容化剤として機能する。これにより、成分(A)と成分(B)が良好に混合し、アクリル樹脂成形体表面への成分(C)のブリードを抑制することができる。
【0035】
成分(A)〜(D)の含有量の合計を100重量%とすると、成分(D)の含有量は1〜30重量%である。成分(D)の含有量を1重量%以上とすることにより、成分(A)と成分(B)の相容性を向上させ、成分(A)と成分(B)を良好に混合させることができる。これにより、成分(C)をアクリル樹脂組成物中に保持することができ、成分(C)のアクリル樹脂成形体表面へのブリードを抑制することができる。また、成分(D)の含有量を30重量%以下とすることにより、アクリル樹脂組成物中の成分(C)の過剰な保持を防ぐことができる。
【0036】
(1)主鎖(d1)
(d1)はグラフト共重合体の主鎖であり、成分(B)と相容性を示すセグメントである。(d1)は、成分(B)と相容可能なエチレン・アクリル酸アルキルエステル共重合体であれば、特定の種類に限られず、適宜決定可能である。
【0037】
(2)側鎖(d2)
(d2)はグラフト共重合体の側鎖であり、成分(A)及び成分(B)の両方と相容性を示すセグメントである。
【0038】
(d2)を構成するビニル単量体は、(d2−1)芳香族ビニル単量体と、(d2−2)(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と、(d2−3)(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体である(以下、それぞれビニル単量体(d2−1)〜(d2−3)とも呼称する)。
【0039】
ビニル単量体(d2−1)〜(d2−3)は、上記の化合物であれば特定の種類に限定されない。これらの極性が異なるビニル単量体を組み合わせることにより、成分(A)及び成分(B)の両方と相容性を示すことが可能となる。
【0040】
(d1)と(d2)の含有量の合計を100重量%とすると、(d1)の含有量は50〜80重量%であり、(d2)の含有量は20〜50重量%である。
【0041】
(d2)を合成する方法としては、特に制限はなく、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法、等の公知の重合法を使用することができる。特に、懸濁重合法が好ましい。
【0042】
(d2)を合成する際、(d2)のみを合成してからグラフト化の際に(d1)と混合してもよい。また、同一の反応槽内に(d1)と、(d2)を構成するビニル単量体(d2−1)〜(d2−3)を投入し、(d1)存在下で(d2)を合成してもよい。
【0043】
(d2)の合成において、使用することができる重合開始剤としては、特に制限はない。例えば、アゾ系重合開始剤、有機化酸化物、過硫酸塩、過酸化水素水、レドックス重合開始剤(酸化剤及び還元剤を組み合わせた重合開始剤)等の公知の重合開始剤を使用することができる。特に、懸濁重合法で使用する場合は、油溶性の有機化酸化物が好ましい。
【0044】
(d1)と(d2)をグラフト化する方法としては、特に制限はなく、連鎖移動法、電離性放射線照射法等の公知のグラフト化方法を採用することができる。特に、式(1)又は式(2)で表されるラジカル重合性有機過酸化物を使用する方法が好ましい。
【0046】
式(1)中、R
1は水素原子、メチル基、又はエチル基、R
2は水素原子、又はメチル基、R
3及びR
4はそれぞれ炭素原子数1〜4のアルキル基、R
5は炭素原子数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基、又は炭素原子数3〜12のシクロアルキル基を示す。mの値は、1又は2である。
【0048】
式中、R
6は水素原子、又は炭素原子数1〜4のアルキル基、R
7は水素原子、又はメチル基、R
8及びR
9はそれぞれ炭素原子数1〜4のアルキル基、R
10は炭素原子数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基、又は炭素原子数3〜12のシクロアルキル基を示す。nの値は、0、1、又は2である。
【0049】
上記ラジカル重合性有機過酸化物を使用してビニル単量体(d2−1)〜(d2−3)の重合を行うことにより、グラフト化前駆体(d2)が得られる。このグラフト化前駆体(d2)と(d1)とを混合し、単軸押出機等を使用して溶融混練することで、有機過酸化物部位が(d1)と結合し、グラフト共重合体を得ることができる。
【0050】
上記ラジカル重合性有機過酸化物の使用量としては、ビニル単量体(d2−1)〜(d2−3)の合計量に対して、通常0.5〜5重量%の割合で配合することができる。
【0051】
<アクリル樹脂組成物>
本実施形態に係るアクリル樹脂組成物は、アクリル樹脂100重量部に対して、表面物性改良剤組成物を1〜10重量部含有する。表面物性改良剤組成物の含有量を1重量部以上とすることにより、アクリル樹脂成形体の耐擦傷性及び耐摩耗性を向上させることができる。また、表面物性改良剤組成物の含有量を10重量部以下とすることにより、アクリル樹脂成形体表面への成分(C)のブリードアウトや、アクリル樹脂成形体の機械的強度の低下及び外観不良を防ぐことができる。
【0052】
上記アクリル樹脂は、特定の種類に限定されない。例えば、メタクリル酸メチル単量体の単独重合体、又はメタクリル酸メチル単量体とメタクリル酸メチル以外の単量体の共重合体(PMMA)等が挙げられる。
【0053】
上記アクリル樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で公知の耐熱安定剤、老化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、滑剤、分散剤、発泡剤、可塑剤、耐衝撃改良剤等を配合してもよい。
【0054】
<アクリル樹脂組成物の製造方法>
アクリル樹脂組成物は、アクリル樹脂と、表面物性改良剤組成物とを100〜300℃で加熱溶融し、混練することで得られる。加熱温度を100℃以上とすることにより、各成分が良好に溶融し、溶融粘度が低下することで十分に混練することができる。これにより、相分離や層状剥離を防ぐことができる。また、加熱温度を300℃以下とすることにより、各成分の分解を防ぐことができる。
【0055】
溶融、混練の方法は特に限定されない。例えば、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等の公知の混練方法を用いることができる。
【0056】
<アクリル樹脂成形体>
本実施形態に係るアクリル樹脂成形体は、上記アクリル樹脂組成物を成形することにより得られる。アクリル樹脂成形体の形態としては、特に限定されない。例えば、シート、フィルム、中空体、ブロック体、板状体、筒体、複雑形状体、発泡体等が挙げられる。
【0057】
<アクリル樹脂成形体の成形方法>
アクリル樹脂成形体の成形方法としては、アクリル樹脂の成形方法であれば特に限定されない。例えば、カレンダー成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、発泡成形法、押出成形法、射出成形法、真空成形法、粉末スラッシュ成形法等が挙げられる。
【0058】
得られたアクリル樹脂成形体は、優れた耐擦傷性及び耐摩耗性によって、自動車部品、電化製品、建材、雑貨等の幅広い分野における多種の製品、半製品に利用することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。各例中の「部」及び「%」は特に断りがない限り、「重量部」及び「重量%」を示す。また、以下の実施例、比較例及び表中で用いられる物質の略記号と、物質名、その物質が含まれる成分、製品名、メーカーを表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
<(D)グラフト共重合体の製造>
[製造例1−1]
容量5Lの反応槽に水2000gを入れ、そこに懸濁剤としてポリビニルアルコール2.0gを溶解させ、さらに分散剤として第三リン酸カルシウム20gを分散させた。この中に(d1)としてEEA700gと、ビニル単量体(d2−1)としてSt100gと、ビニル単量体(d2−2)としてBA100gと、ビニル単量体(d2−3)としてHPMAを100gと、ラジカル重合性有機過酸化物としてt−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート3gとを加え、攪拌しながら70℃に昇温した。反応槽内の温度が70℃に到達してから、さらに1時間攪拌を継続した後、ラジカル重合開始剤としてジ−3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド4.5gを投入し、70℃で5時間重合反応を行った。その後、室温まで冷却し、水洗、濾過、乾燥工程を経てグラフト化前駆体(d2)を得た。得られたグラフト化前駆体(d2)を、ラボプラストミル単軸押出機(株式会社東洋精機製作所製)を使用し180℃にて押し出しを行い、(d1)とグラフト化反応させることにより、製造例1−1の(D)グラフト共重合体を得た。
【0062】
[製造例1−2〜1−6及び比較製造例1−1〜1−10]
使用した(d1)の樹脂及びビニル単量体(d2−1)〜(d2−3)を、表2に示す成分及び配合量に変更した以外は、製造例1−1と同様の操作を行うことにより、製造例1−2〜1−6及び比較製造例1−1〜1−10の(D)グラフト共重合体を得た。
【0063】
【表2】
【0064】
<表面物性改良剤組成物の製造>
[実施例1−1−1]
成分(A)としてEPR170gと、成分(B)としてEEA390gと、成分(C)としてOA200gと、成分(D)として製造例1−1のグラフト共重合体240gとをドライブレンドした。その後、シリンダ温度180℃に設定されたスクリュ径30mmの同軸方向二軸押出機(株式会社池貝製)にて溶融混練し、ペレタイズすることにより、実施例1−1−1に係る表面物性改良剤組成物を得た。
【0065】
[実施例1−1−2〜1−1−8、比較例1−1−1〜1−1−21及び1−2−1〜1−2−12]
使用した成分(A)〜(D)を表3に示す成分及び配合量に変更した以外は、実施例1−1−1と同様の操作を行うことにより、実施例1−1−2〜1−1−8、比較例1−1−1〜1−1−21及び1−2−1〜1−2−12に係る表面物性改良剤組成物を得た。
【0066】
【表3】
【0067】
<アクリル樹脂組成物の製造及びアクリル樹脂成形体の評価>
[実施例2−1−1]
アクリル樹脂としてPMMA1000gと、実施例1−1−1に係る表面物性改良剤組成物100gとをドライブレンドした。その後、シリンダ温度250℃に設定されたスクリュ径30mmの同軸方向二軸押出機(株式会社池貝製)にて溶融混練し、ペレタイズすることにより、実施例2−1−1に係るアクリル樹脂組成物を得た。得られたアクリル樹脂組成物を、シリンダ温度250℃に設定された射出成形機を用い、金型温度50℃にて各試験片を成形し、ブリードの有無、耐擦傷性、及び耐摩耗性について評価した。
【0068】
[実施例2−1−2〜2−1−8及び比較例2−1−1〜2−1−40]
使用した表面物性改良剤組成物を表4に示す成分及び配合量に変更した以外は、実施例2−1−1と同様の操作を行うことにより、実施例2−1−2〜2−1−8及び比較例2−1−1〜2−1−40に係るアクリル樹脂組成物を得た。得られたアクリル樹脂組成物を、実施例2−1−1と同様の操作を行うことにより成形し、ブリードの有無、耐擦傷性、及び耐摩耗性について評価した。
【0069】
【表4】
【0070】
<評価方法>
[ブリード評価]
射出成形機(日精樹脂工業株式会社製)を用い、ペレットから80mm×55mm、厚さ2mmのプレート試験片を成形した。このプレート試験片を70℃のオーブン中に120時間放置し、プレート試験片表面にブリードする脂肪酸アミドの量を目視にて観察し、外観を次の基準で評価した。
○:ブリードがない
×:ブリードがある
【0071】
[耐擦傷性試験]
スクラッチテスター(カトーテック株式会社製、KK−01)を用い、ISO19252に準拠した方法により、荷重1〜30N、スクラッチ速度100mm/s、スクラッチ距離100mm、チップφ=1mm(ステンレス)の条件にてスクラッチ試験を行い、白化傷が見え始める荷重を測定し、同種の異なる試験片にて3回測定した平均値を評価点とした。試験片は射出成形機(日精樹脂工業株式会社製)を用い、ペレットからISO3167(多目的試験片Aタイプ、厚さ4mm)の試験片を成形して使用した。
【0072】
[耐摩耗性試験]
学振式堅牢度摩擦摩耗試験機(株式会社安田精機製作所製)を用い、ブリード評価で用いた試験片と同じプレート試験片に荷重6.9N(700g・f)の荷重をかけ、かなきん3号(綿布)により100回往復摩耗させた後の試験片表面を目視にて観察し、次の評価基準で評価した。
4:傷跡が認められない
3:試験面の25%未満に傷跡が認められる
2:試験面の25%以上50%未満に傷跡が認められる
1:試験面の50%以上に傷跡が認められる
【0073】
<評価基準>
ブリード評価が○、耐擦傷性評価が5N以上、耐摩耗性評価が4〜3、の全てを満たすものが良好である。
【0074】
<評価結果>
実施例2−1−1〜2−1−8、及び比較例2−1−1〜2−1−40に係るアクリル樹脂成形体についての評価結果を表4に示す。表4から、実施例2−1−1〜2−1−8は、いずれもブリードが発生せず、耐擦傷性及び耐摩耗性が高い良好な結果となっていることがわかる。
【0075】
一方、表面物性改良剤組成物を含有しない比較例2−1−1、表面物性改良剤組成物の代わりにEPRを含有する比較例2−1−2、及び表面物性改良剤組成物の代わりにEAを含有する比較例2−1−3は、いずれも耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。表面物性改良剤組成物の代わりにOAを混練した比較例2−1−4は、アクリル樹脂組成物中にOAを保持できずブリードが発生した。表面物性改良剤組成物の代わりに成分(D)を混練した比較例2−1−5は、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。
【0076】
10重量部を超える表面物性改良剤組成物を含有する比較例2−1−6は、ブリードが発生した。1重量部未満の表面物性改良剤組成物を含有する比較例2−1−7は、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。
【0077】
成分(C)を含有しない表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−8は、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。成分(B)を含有しない表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−9は、ブリードが発生し、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。成分(A)の含有量が10重量%未満である表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−10は、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。成分(C)の含有量が30重量%を超える表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−11は、ブリードが発生した。
【0078】
(d1)がPEである成分(D)を含有する表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−12は、ブリードが発生し、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。(d1)がPPである成分(D)を含有する表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−13は、ブリードが発生し、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。
【0079】
(d2)が単独のビニル単量体のみからなる成分(D)を含有する表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−14、2−1−15、及び2−1−16は、いずれもブリードが発生し、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。
【0080】
(d1)の含有量が80重量%を超える成分(D)を含有する表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−17、及び(d1)の含有量が50重量%未満である成分(D)を含有する表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−18は、ブリードが発生し、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。
【0081】
成分(C)及び成分(D)を含有しない表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−19は、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。成分(A)及び成分(D)を含有しない表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−20は、ブリードが発生した。成分(D)を含有しない表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−21〜2−1−30は、いずれもブリードが発生し、さらに比較例2−1−21〜2−1−24及び2−1−26〜2−1−29では、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。成分(A)を含有しない表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−31は、ブリードが発生し、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。
【0082】
成分(A)の含有量が40重量%を超える表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−32は、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。成分(B)の含有量が70重量%を超える表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−33は、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。成分(B)の含有量が35重量%未満である表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−34は、ブリードが発生し、耐摩耗性が低下した。成分(C)の含有量が10重量%未満である表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−35は、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。成分(D)の含有量が30重量%を超える表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−36は、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。成分(A)及び成分(C)を含有しない表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−37は、ブリードが発生し、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。
【0083】
ビニル単量体(d2−3)を含まない成分(D)を含有する表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−38、ビニル単量体(d2−2)を含まない成分(D)を含有する表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−39、及びビニル単量体(d2−1)を含まない成分(D)を含有する表面物性改良剤組成物を用いた比較例2−1−40は、いずれもブリードが発生し、耐擦傷性及び耐摩耗性が低下した。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0085】
例えば、上記実施形態では、表面物性改良剤組成物をアクリル樹脂に適用する例について説明したが、表面物性改良剤組成物はアクリル樹脂以外の熱可塑性樹脂に適用することによりアクリル樹脂と同様の効果が得られる。
【0086】
具体的に、表面物性改良剤組成物を適用可能な樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、エチレン・プロピレン共重合体ゴム、エチレン・プロピレン・共役ジエン共重合体ゴム等のオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン・ブタジエン共重合体ゴム、スチレン・イソプレン共重合体ゴム、水添スチレン・ブタジエン共重合体ゴム、水添スチレン・イソプレン共重合体ゴム等のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、スチレン・ブタジエン・アクリロニトリル共重合体(ABS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,12−ナイロン等のポリアミド(PA)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリ乳酸(PLA)、PC/ABSアロイ、PC/PLAアロイ等が挙げられる。