特許第6507639号(P6507639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6507639
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】皮膚血流量の計測方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/026 20060101AFI20190422BHJP
【FI】
   A61B5/026 140
   A61B5/026ZDM
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-267049(P2014-267049)
(22)【出願日】2014年12月29日
(65)【公開番号】特開2016-123689(P2016-123689A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永嶋 義直
(72)【発明者】
【氏名】高橋 則善
【審査官】 湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/131550(WO,A1)
【文献】 特開平07−092184(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0319775(US,A1)
【文献】 特開2014−212851(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0278718(US,A1)
【文献】 米国特許第05598841(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0162438(US,A1)
【文献】 特表2005−515818(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0187477(US,A1)
【文献】 特開2008−068105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/026
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を皮膚の所定の部位に照射し、その反射光をデジタルビデオカメラで撮影し、得られた光強度画像の画素ごとに時間的空間的変動量(以下、MBR値という)を求め、複数心拍分のMBR値から求めた1心拍分のMBR値の平均である平均MBR値を求め、該平均MBR値より皮膚の所定の部位の血流量を計測する皮膚血流量の計測方法であって、
予め、皮膚の所定の部位について、複数の被験者の平均MBR値を取得すると共にストレンゲージ容積脈波法により該皮膚の所定の部位の血流量を測定し、該測定による前記皮膚の所定の部位の血流量と前記皮膚の所定の部位の平均MBR値の1次の回帰式を取得し、
該回帰式に基づいて、任意の被験者の前記皮膚の所定の部位の平均MBR値から前記皮膚の所定の部位の皮膚血流量を計測する皮膚血流量の計測方法。
【請求項2】
画素ごとに、複数心拍分の複数フレームのMBR値を1心拍分に平均化したMBR値を求め、1心拍分に平均化したMBR値から、該1心拍分を構成する全フレームのMBR値を平均化することにより平均MBR値を求める請求項1記載の皮膚血流量の計測方法。
【請求項3】
光強度画像の撮影領域をカラー画像用CCDで撮影して2次元カラー画像を形成し、平均MBR値を2次元にマッピングした平均MBR画像と2次元カラー画像とを重ね合わせて重ね合わせ画像を形成し、重ね合わせ画像で皮膚血流量の計測部位を特定する請求項1又は2に記載の皮膚血流量の計測方法。
【請求項4】
顔全体について重ね合わせ画像を形成する請求項3記載の皮膚血流量の計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザースペックル法により皮膚の血流量を計測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を眼底等の生体組織に照射すると、生体組織中の血球等によりレーザ光は散乱され、その散乱光を画像にとると、干渉により斑点模様(スペックル)が現れる。スペックルは血球の移動速度に応じてブレるので、このブレの変動量を計測することにより、血流速度を計測することができる。このような原理に基づく血流速度の測定方法は、レーザースペックル(Laser Speckle)法といわれている。
【0003】
眼底については、この方法で血流速度を計測する種々の手法が提案されており、例えば強度画像に現れたスペックルの変動量を血流マップとして2次元画像に表示することや、血流マップを別途撮影した2次元画像と重ね合わせて血流速度の解析に用いることが知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、スペックルの変動量から計測されるのは、血流速度であって血流量ではない。血流速度から血流量を求める方法としては、血管径を計測し、血管径と最大血流速度から、ポアズイユの流れを仮定して血流量を算出する方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2006/046627号公報
【特許文献2】特開平10-314118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、レーザースペックル法を利用して、より簡便に、皮膚血流量を計測できるようにする方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、皮膚にレーザ光を照射し、その散乱光の光強度画像を撮ることにより得られるスペックルの時間的空間的変動量を求め、それを特定の方法で平均化処理すると、そうして得られる数値は、意外にも、皮膚血流量と1次相関があることを見出し、この関係に基づいて本発明を想到した。
【0008】
即ち、本発明は、レーザ光を皮膚の所定の部位に照射し、その反射光をデジタルビデオカメラで撮影し、得られた光強度画像の画素ごとに時間的空間的変動量(以下、MBR値という)を求め、MBR値の一定時間の平均である平均MBR値を求め、該平均MBR値より皮膚血流量を計測する皮膚血流量の計測方法であって、
予め、皮膚の所定の部位について、複数の被験者の平均MBR値を取得すると共にストレンゲージ容積脈波法による該皮膚の所定の部位の血流量の測定を行い、該測定による前記皮膚の所定の部位の血流量と前記皮膚の所定の部位についての平均MBR値の1次の回帰式を取得し、
該回帰式に基づいて、任意の被験者の前記皮膚の所定の部位についての平均MBR値から皮膚血流量を計測する皮膚血流量の計測方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、皮膚血流量を平均MBR値に基づき求めるにあたり、予めストレンゲージ容積脈波法により求めた皮膚血流量と平均MBR値との関係を表す1次回帰式を用いるので、平均MBR値から皮膚血流量を正確に計測することができる。
【0010】
また、本発明において平均MBR値を2次元にマッピングした平均MBR画像と、皮膚血流量の計測領域の2次元カラー画像とを重ね合わせた画像で皮膚血流量の計測部位を特定すると、皮膚血流量を計測する部位を正確に特定することができ、またこの画像の重ね合わせにより、全顔などの広い領域の皮膚血流量の変化を、リアルタイムで容易に観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態において平均MBR画像を形成する方法の工程図である。
図2A図2Aは、MBR値の算出方法の説明図である。
図2B図2Bは、MBR値の算出方法の説明図である。
図3A図3Aは、平均MBR値の算出方法の説明図である。
図3B図3Bは、平均MBR値の算出方法の説明図である。
図4A図4Aは、実施例で光強度画像を撮影したときの撮影時間とインターバルの説明図である。
図4B図4Bは、ストレンゲージ容積脈波法で血流量を計測したときの計測時間とインターバルの説明図である。
図5】ストレンゲージ容積脈波法で計測した血流量と平均MBR値との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態において平均MBR画像を形成する方法の工程図である。この実施形態は、手のひら全体を皮膚血流量の計測対象としたもので、まず、手のひら全体にレーザ光を照射し、デジタルビデオカメラでその散乱光の光強度画像を撮影する。
【0013】
この場合、レーザ光としては、近赤外の、具体的には波長800〜950nmのレーザ光をJISC6802クラス1Mの強度で照射することが好ましい。
【0014】
また、デジタルビデオカメラとしては、市販のものを適宜用いることができる。デジタルビデオカメラとしては、インターレース方式が好ましい。
【0015】
こうして得た光強度画像には、手のひらの血流によりスペックルが現れる。そこで、光強度画像はスペックル画像とも言われる。本実施形態では、光強度画像の各フレームの画素ごとに、スペックルのブレの変動量を時間的空間的に算出したMBR値を求め、MBR画像を作成する。MBR画像は、血流速度の変化量を示す、所謂「血流マップ」となる。
【0016】
MBR画像の具体的な算出方法としては、例えば下記式が使用される。
【0017】
【数1】
【0018】
式中、MBRn,m,tは時間tにおけるn,m番目の画素でのMBR値を示し、In,m,tは算出するMBR画素におけるスペックル画像の出力画素を表す。また、<In,m,t>は、算出するMBR画素を含む時間方向及び空間方向での周辺の画素のMBR値の平均であり、その範囲は、撮像系のノイズそのほかの要因に応じ、時間方向及び空間方向において適宜調整する。
【0019】
このような計算を全ての画素に対して行なうことでMBR画像を得ることが出来る。例えば、図2Aに示すように3フレームから図2Bに示すように各画素のMBRn,m,tを計算することができるが、MBR画像の計算に用いる空間的範囲及び時間的範囲は一つとは限らず、空間的範囲及び時間的範囲は対象部位に応じて適宜定めるのが好ましい。
【0020】
また、MBR画像では、個々の画素値に応じて、所定の色の濃度を変えてもよく、色相を変えても良い。例えば、画素値ゼロを青色とし、画素値255を赤とし、その間の色相を連続的に変化させる。
【0021】
次に、MBR画像の各画素について、1心拍分のMBR値を平均した平均MBR値を求める。この場合、図3Aに示すように、まず、複数心拍分、好ましくは2〜20心拍分の、更に好ましくは4〜20心拍分の複数フレームのMBR値を1心拍分のフレーム数に平均化した平均1心拍のMBR値を求め、平均1心拍の画像を形成する。この複数心拍分の計測時間としては、より具体的には、3秒以上10秒以下とすることが、好ましい心拍数を満たしかつ演算処理時間が増大しないので好ましい。
平均1心拍のMBR値の画像は、MBR画像を心拍で規格化した画像といえる。そこで、本発明では、この画像を心拍マップともいう。
【0022】
次に、図3Bに示すように、平均1心拍を構成する全フレームのMBR値を平均することにより、1心拍分のMBR値の平均である平均MBR値を求める。この平均MBR値を2次元にマッピングして形成される平均MBR画像は、1心拍ごとの血流量の状態を示す。
【0023】
後述するように、本発明の方法で得られる平均MBR値は、皮膚血流量の一般的な計測方法であるストレンゲージ容積脈波法による皮膚血流量の計測値と非常に高い相関があり、ストレンゲージ容積脈波法による皮膚血流量の計測値は、本発明の方法で得られる平均MBR値の1次回帰式で表される。この1次式の係数は、対象となる身体の領域により異なり、同一測定領域では係数が実質的に等しくなる。ここで、係数が実質的に等しくなる領域の広さとしては、例えば、手のひら、手指、顔面、腕、脚等をあげることができ、なかでも手のひら、顔面が好ましい領域の広さとして挙げられる。したがって、身体の領域ごとにMBR値を測定し、ストレンゲージ容積脈波法の値との相関式を求めることで、一般に、血流速度に対応するとされるMBR値から血流量(単位時間に組織100gの単位重量を流れる血流の容積)を求めることが可能となる。すなわち、特定の測定領域について、予め、複数の被験者から血流量と平均MBR値との1次の回帰式を取得しておくことにより、任意の被験者について、同じ測定領域の平均MBR値の計測から、その領域の皮膚血流量を正確に計測することが可能となる。
【0024】
もっとも、顔面については、ストレンゲージ容積法を用いることは中枢からの静脈血流を止めることとなり、実際には不可能なので、平均MBRの計測値を単位のない相対量とすることとなるが、参考値として、指での血流量と平均MBR値との一次の回帰式を用いて計算した値を血流量の絶対値としてもよい。
【0025】
また、血流量と平均MBR値との1次の回帰式、すなわち当該1次回帰式の各係数は、年代ごとに、また、男女別に求めるのが好ましい。
【0026】
例えば、後述する手の中指の付け根では、実験により、以下の一次回帰式が得られている。
血流量mL/(min・100g)=41.7×MBR値―15.1
【0027】
よって、任意の被験者の指の中指の付け根の平均MBRを計測することで、中指の付け根の血流量の増加あるいは減少を非侵襲で検出することができ、その部位における血流量の経時的な変化を検知することが可能となる。
【0028】
本発明においては、光強度画像を撮った領域について、カラー画像用のCCD等を用い2次元カラー画像を形成し、2次元カラー画像と平均MBR画像とを重ね合わせたマッピング画像を形成することが好ましい。これによりマッピング画像で、皮膚血流量を計測する部位を正確に特定することができる。
【0029】
2次元カラー画像と平均MBR画像とを重ね合わせる際には、双方に基準点を設定し、基準点同士の位置を合わせることが好ましい。この場合の基準点としては、例えば、指先、隣り合う指の間の指の付け根、内眼角点、外眼角点、鼻下点、口角等とすることができる。こうして、例えば、手のひら全体、顔全体、歯茎などについてマッピング画像を得ることができる。
【実施例】
【0030】
(1)平均MBR値計測
レーザースペックル法(LS)による平均MBR値を次のようにして取得した。
皮膚にレーザー光を照射する照射装置と、光強度画像を撮るデジタルビデオカメラと、2次元カラー画像を撮るカラーデジタルカメラと、デジタルビデオカメラとデジタルカメラの映像信号を解析処理するパーソナルコンピュータを用いて、本発明の方法により皮膚血流量を計測するシステムを構築した。この場合、照射装置としては830nmの半導体レーザを使用し、照射条件はクラス1Mとした。ビデオカメラとしては近赤外に感度を有するCCDカメラを使用した。カラーデジタルカメラとしては一般的なビデオカメラを使用した。
【0031】
温度25℃、湿度50.0%RHの室内で、上述のシステムにより、20代の健常成人50名(男性25名、女性25名)の手のひらの光強度画像を撮影した。この場合、図4Aに示すように、個々の被験者に対して、10秒間のインターバルを挟んで5秒間の撮影を3回行い、さらに3分間の安静後に、5秒間の撮影を10秒間のインターバルを挟んで3回行い、合計6回の撮影を行った(インターバル法)。
【0032】
各撮影で得られた光強度画像の時間的空間的変動量を前述した方法で求めることによりMBR画像を形成し、そのMBR画像から平均1心拍の画像を形成し、平均1心拍の画像から平均MBR画像値を算出し、平均MBR画像を形成した。
【0033】
一方、光強度画像の撮影時に、カラーデジタルカメラで光強度画像の撮影領域の2次元カラー画像を撮り、平均MBR画像と2次元カラー画像とを重ね合わせることによりマッピング画像を形成した。この画像の重ね合わせでは、手指先端を基準点とし、また、重ね合わせる双方の画像の濃度調整は、2次元カラー画像に対して平均MBR画像の濃度が0.3乃至0.7となるように行った。
【0034】
上記の計測と一連の処理を6回行い、マッピング画像から、中指の付け根部分の6回の計測の平均MBR値を取得した。取得した6回のMBR値を表1に示す。
【0035】
(2)ストレンゲージ法による計測
上記の(1)の平均MBR値の取得に引き続き、対照実験としてストレンゲージ容積脈波法(Strain-Gauge Plethysmography:SPG)により手の中指の付け根部分の血流量を次のように測定した。
【0036】
手の中指について、図4Bに示すように、指尖部から環流する静脈血を、静脈閉塞用カフを用いて30秒間圧迫し、動脈血の流入に伴って指尖部の容積が増加する変化をストレンゲージによって検出した。さらに、同様の測定を、3分間の安静を挟んで2回繰り返した。
【0037】
このストレンゲージは、指尖部の周長の変化を電気抵抗の変化として検出するものであり、周長の変化から容積の変化がわかるので、皮膚組織の血流量の変化を検出することが可能となる。静脈閉塞直後から動脈血の流入が阻害されるまでの時間の容積増加分によって、動脈から流入する血流量を正しく測定することができることが知られている。
そこで、静脈閉塞開始から30秒間のストレンゲージの値の変化を検出し、その検出値に基づいて周長計算により皮膚血流量を計測し、3回の計測の平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
(3)測定値の解析
(1)で得られた平均MBR値と、(2)で得たストレンゲージ容積脈波法による血流量の測定値との相関性を解析した。その結果、図5に示すように、両者には、極めて高い正の相関があり(決定係数:R2=0.98)、皮膚血流量は平均MBR値の1次回帰式で表されることがわかった。したがって、予め、複数の被験者からストレンゲージ容積脈波法による血流量と平均MBR値との1次の回帰式を求めておくと、その回帰式を用いて、任意の被験者の平均MBR値から、その被験者の皮膚血流量の絶対値を得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、顔面や手足などの広範囲についても、皮膚血流量を非侵襲で簡便に計測することができる。したがって、本発明は、例えば、化粧料等が皮膚血流量に及ぼす影響を評価したり、自律神経や副交感神経の活動状態と皮膚血流量との関係を研究したりする上で有用である。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5